サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題) 作:エキバン
「ピカチュウ『10まんボルト』!」
全身に力を込めたピカチュウから電撃が放出される。相手のポケモンは電撃のスピードに対応しきれずに直撃した。
「やったぜピカチュウ!」
「ピカピカチュウ!」
次に目指す街、ヤマブキシティの前で俺はポケモンバトルをし、勝った。
「くそー、無敵のエスパーポケモンさえいたら勝てたのにな」
負けた少年は悔しそうに言った。
「なんだそれ?」
「知らないのか? エスパータイプは最強のタイプなんだ。超能力を使われたらどんなポケモンも手も足もでなんだぜ」
最強のタイプねえ。
「それにヤマブキジムのジムリーダーのナツメさんはエスパータイプのエキスパートなんだ。負けなしの最強のジムリーダーだよ」
ヤマブキジムか、ここから近いし、そんなに強いなら挑戦してみよう。いいこと聞いたぜ。
「それにすっごい美人のお姉さんだって有名なんだぜ」
それは是非挑戦するべきだよな。
あ、そうだ。
「なあ、バトルで負けたことをポケモンのタイプのせいにするのはよくないと思うぜ」
「は?」
少年は呆気にとられた表情になる。
俺は構わず続ける。
「さっきのバトルで、君のポケモンは君のために頑張ったんだ。そんな言い方したら可哀想だぜ」
少年は手に持ったモンスターボールを見つめてしばらく考えこんだ。
納得したのかどうかわからないが、そのまま走り去っていった。
それを見送ると、俺はカスミとリカに宣言した。
「よし決めた、次はヤマブキジムに挑戦だ」
すると、空気が何やら静かになった。
「……ふーん、いいんじゃない、次のジムが美人のジムリーダーがいるとこでも」
「……じゃあ、いこっか、美人のジムリーダーのお姉さんでもぜーんぜん気にしないけど」
カスミとリカの冷たい視線と声。2人はそのまま先に進んでしまった。
いやほんと違うんだってば。
***
ヤマブキシティはカントーの中央に位置する都市で、地理としてだけではなく、多くの大企業本社が存在し、カントーの経済においても中心となっている大都会だ。
最も注目すべき企業が知る人ぞ知る「シルフカンパニー」だ。
モンスターボールやキズぐすりを初めとしたポケモンに関係する商品をいくつも開発している。その性能と質は世界でもトップクラスとされていて、シルフカンパニーがあるからこそ、ポケモンと人の関係はより良くなり、ポケモンとトレーナーは充実した旅を可能としていると言っても過言ではない。
同様に大都市であるタマムシシティは明るく華やかなイメージに対して、ヤマブキシティは静かで清廉なイメージがある。
田舎に住む人間たちにとっての憧れの都市というだけでなく、他の地方からも注目され訪れる人は多い。
交通手段の充実を図り、大きな空港のほかにも陸上で他の地方と行き来できるリニア鉄道の開発も進められている。
ヤマブキジムに挑戦する前に俺たちはポケモンセンターで一休みしていた。
3人でロビーでお茶をしながら、俺はポケモン図鑑を眺めていた。
そこにはエスパータイプの1体、ケーシィの説明があった。
1日に18時間眠り、その間も超能力が使えるという説明に、改めて俺はエスパータイプの規格外さをしることになった。果たして俺たちはジム戦でどれだけ対抗できるのやら。
それからヤマブキジムとジムリーダーのナツメについて街の人たちに話を聞いてみた。
良い評判よりも、悪い評判というより怖いという評判の方が多かった。
ナツメ自身が超能力者で、彼女に憧れて超能力者を目指している人たちがジム内で怪しげな訓練をしている。そしてナツメは超能力で人を意のままに操る、気に入らない人間を超能力で消している、彼女自身が超能力でポケモンを害している、等、どこまで本当かわからないが怖い噂はほとんど超能力絡みだ。
しかし、ジムリーダーとしての実力も確かであるという話も聞く。
「ずいぶん熱心に研究してるじゃない」
とカスミの声がした。
「ん、まあな、エスパータイプをまともに相手にするのは初めてだしな」
「美人のジムリーダーさんにかっこいいとこ見せたくて頑張ってるのかな」
棘のあるリカの声。ふと顔を上げるとカスミもリカもどこか膨れた顔でジト目で俺を見ていた。
ぐぬぬ、俺の信用度が下降しているようだ。
「否定はできないけど、勝ちたいし、何より……」
俺は言葉を区切る。
「「?」」
「2人の前でかっこ悪いバトルしたくないんだよな。いいとこ見せたい」
そう言うと2人はポカンとした。
次の瞬間、2人は笑い出した。
「くっ、あはは、何よそれ!」
「うふふ、そうだね、かっこ悪いバトルはダメだよね。うん、それなら私も頑張るよ」
「まあ、今回はこれで誤魔化されてあげるわ。その代わり、しっかりするのよ」
「おう、任せとけ」
さて、エスパー対策はどうするか。
あ、そうだ。
「そういえば、カスミのスターミーはエスパータイプでもあったよな」
俺の言葉にリカは同意するように頷いた。
「それにエスパータイプの技も使えるし、何か対抗策みたいなのないかな?」
「うーん……どうだろ、私はスターミーを水タイプ寄りに育ててるし、エスパータイプのことはあんまり詳しくないかな」
「よっしゃ、とりあえずエスパータイプ対策に特訓でもするか」
「具体的に何をするの?」
「まあ、特訓してるうちに何か思いつくだろ、多分」
「さっそく行き当たりばったりじゃない。まあそうね、私もスターミーと一緒に手伝うわ」
「私のバタフリーもエスパー技が使えるからね。きっと何かできるよ」
2人とも気合十分な笑顔を見せてくれた。
今回は予想できない強敵だがリカとカスミが一緒なら怖いものなんて無い、そんな気がした。
***
対策を練ったり戦法を考えたりで、特訓は夜遅くまで続き、挑戦は次の日となった。
そして、今日がその次の日だ。
俺たちはヤマブキジムを目指して歩いている。
「いろいろ特訓したし大丈夫だよね」
「そうだな、これでいけるはずだ」
「やれるだけのことはやったんだからあとは本番にぶつけるだけよ」
「ああもちろんだ。絶対に勝つ。それよりも……」
俺たちは予想外の問題に直面していた。
「……ヤマブキジムはどっちだ?」
「……迷っちゃったね」
「……この街複雑すぎるのよ」
流石大都会、慣れない街という理由もあるが、建物だらけで道も入り組んでいてまるで迷路だ。
案内図を見ても実際の道がうまく一致せずに同じ道をぐるぐる回ってしまうのだ。
このままだとジム戦どころじゃないぞ、どうしたら。と悩んでいたその時、
不意に肩を叩かれた。
「ん、どした?」
「え、何が?」
「何って、肩叩いただろ? どっちかわからないけど」
「え? 知らないよ?」
「私も違うわ」
そんなはずない、確かに俺は肩を叩かれたぞ。
「きゃ!」
リカの悲鳴。
「どうした?」
「な、なんか太もも撫でられた気が……」
なにぃ! どこの痴漢野郎だ。ぶちのめす!
「ひゃあ!」
カスミの悲鳴。
「どうした?」
「お、お尻、誰か触ったの!」
よっしゃその変態野郎死刑じゃあ!
いやそうじゃない、気配も何もないのに俺たちの体に触れる何者かが確実にいる。
「2人とも、俺から離れるなよ」
「「う、うん」」
3人でくっついて来襲者を待ち構える。
するとそれは訪れた。
「ばあっ!」
「「「わあっ!?」」」
不意に現れた声と人影に俺たちは悲鳴を上げてしまった。
「きゃはは、おどろいたおどろいた! きゃはは!」
そこには帽子を深くかぶった、フリルのついたドレスを着ている小さな女の子がいた。
「さっきから俺たちに悪戯しているのは君か?」
「うんそうだよ、お兄さんとお姉さんたち面白い反応するもん」
「もうっ悪戯もほどほどにしなさいよ」
「はーいごめんなさーい」
カスミの注意に女の子は反省、してるかどうかわかんねえよな。
女の子が口を開いた。
「もしかしてヤマブキジムを探してるの?」
「そうだよ」
「へーそうなんだ、ジムならあっちだよ。悪戯のお詫びに案内してあげる」
女の子が歩いていく。
3人で顔を見合わせる。
また悪戯されるのではと思ったが、とりあえずついていくことにした。
そこにあるのは紛れもないポケモンジムだ。
看板にも『ヤマブキジム』と書いてあった。
ヤマブキジムは捻じれた傘のような飾りがある建物だ。
なにを表現しているのかわからない建物は不気味さがある。
「ここがヤマブキジムか。ありがとう助かったよ」
案内してくれた女の子にお礼を言おうと振り返ると、そこには誰もいなかった。
「あれ?」
「どこいったんだろ?」
カスミとリカが女の子を探してキョロキョロしていたその時だ。
「っ!」
頭にズキリとした痛みが走った。
「どうしたの?」
「いや、なんか頭痛が……」
「大丈夫? 具合が悪いなら、日を改める?」
「いや、もう治まったし平気だよ」
ちょっとした体調不良なんか気にしてられない。必ず勝つと気を引き締めて臨むだけだ。
「よし行くぞ」
「「うん」」
そんなヤマブキジム挑戦への一歩を踏み出そうとしたときだ。
「……君たちは今からヤマブキジムに挑戦するのかね?」
急に後ろから声がした。
驚いて振り返ると、そこには見知らぬジョギングのおじさんがいた。
「はい、そうですけど」
怪訝に思いながら俺は答える。
「やめておきたまえ」
「は?」
「ジムリーダーのナツメはそのあたりのトレーナーとは文字通りレベルが違う。あの娘のエスパータイプのポケモンは強すぎる。それに彼女自身も強力な超能力を身に着けている。ただのトレーナーの君たちでは一瞬で敗北してしまうだろう」
このおじさんは俺たちを心配してくれているのだろう。だけど、ポケモントレーナーとして引き下がるわけにはいかないんだよな。
「ご忠告どうもありがとうございます。だけど、どれだけ強い相手でも一度挑戦するって決めたんで逃げるわけにはいかないんです」
「……そうか」
どこか残念そうな声のおじさんはどこかへと走り去っていった。
「なんだったんだろ」
「気にしなくていいさリカ、俺たちは目の前のジムを攻略するだけだ」
「うん、そうだね」
***
俺たちはジムの扉を開いた。
「頼もう!」
叫ぶとしばらくして人が現れた。
「誰だお前たちは?」
マスクをした20代と思われるお兄さんだ。
「俺たちヤマブキジムに挑戦しに来たんです」
するとお兄さんは俺たちをジロジロと見て呆れた顔をした。
「お前たちのような子供がナツメ様に挑戦とは、あまりにも無謀だとは思わないか? やめておくんだな」
何をこの、不審者みたいな顔しやがって。
思わず言い返そうとしたその時、リカが前にでた。
「そんなことありません。ジムリーダーのナツメさんが強いってことはたくさんの人から聞きました。だけど、勝てないから逃げるなんてしたくないんです!」
リカの強い言葉に押し切られたのか、マスク男は嘆息する。
「ふん、まあいいだろう。ついてこい」
「ナイス啖呵よリカ」
「かっこよかったぜ」
「そ、そう? えへへ……」
リカを労いながら俺たちは歩みだした。
ここには多くの部屋があり、そこではなにやら怪しい儀式か実験が行われているようだった。
マスク男曰く、ここではジムリーダーのナツメの元で超能力を学ぶ者たちが集まっているらしい。
ナツメさんが超能力者なのは聞いていたが、ポケモンバトルではなく超能力を学びにくるとは驚いた。
マスク男に案内された俺たちは階段を登り、建物の2階へとたどり着いた。
大きな扉が開かれる。
目の前にはバトルフィールドが広がっていた。
空間の奥には御簾に隠れた
まるで挑戦者を見下ろす玉座だ。
「ナツメ様、チャレンジャーを連れて参りました。もっとも、このような子どもではナツメ様の相手にはふさわしくないと思われ――」
マスク男の言葉が途切れると、
「ぐっ、がっ、うぐううう!」
急にマスク男が苦しみだした。
瞬間、凄まじい頭痛が起こった。
「っ! な、なん、ぐっ!」
「サ、サトシ!」
「大丈夫!?」
リカとカスミが心配そうに声をかけてくる。
すると頭に響いていた頭痛が嘘のように消えてしまった。痛みの残滓さえ残ってない。
「ああ大丈夫だ。心配ない」
リカとカスミはまだ心配そうだったが、俺は元気をアピールする。
「……そのチャレンジャーとバトルするかどうか決めるのは、私だ」
冷たい声が響く、ジムリーダーのナツメの声だ。
「っ! で、出過ぎたこと、を、申し上げました……ぐぅ、お、お許しを……!」
これがジムリーダーナツメさんの超能力、とてつもない威圧感だ。
次の瞬間には、案内人は解放されたのか膝から崩れ落ちて洗い呼吸を繰り返した。
「……下がりなさい」
「はっ、失礼します」
マスクの男が退出する。
俺たちの視線は玉座に固定されていた。
玉座の御簾がひとりでに開かれるとそこにいたのは2人。
一人は大人の女性、長く艶やかな黒髪、整った顔立ちは美人に分類するだろうが、その無機質な眼光からは何も読み取れない。
もう一人は女性の膝の上にいる幼い少女、先ほど俺たちに道案内のしてくれた少女だ。
俺は驚きつつも警戒を強める。
「……お前たちがチャレンジャーね」
「きゃははは! さっきぶりだねお兄さんとお姉さんたち」
ナツメさんの発言に続いたのは膝の上にいる帽子を被った人形のような少女だ。
「初めまして、ジム戦を受けてくれてありがとうございます。俺はサトシ、2人は仲間のリカとカスミ。挑戦するのは俺とリカで、最初は俺です。よろしくお願いします。それから、ジムを案内してくれてありがとう」
「どういたしましてー」
少女は間延びした声で答える。
するとナツメさんは表情を変えずに行った。
「一人一人を相手にするのは面倒、2人まとめてかかってきなさい」
どういうことかと疑問に思っていると、膝の上の少女が口を開いた。
「私とナツメ、あなたたち2人のダブルバトルよ」
そういうことか。
どんなバトルでも受けて立つ。
俺はリカと顔を見合わせると頷き合う。
「2人とも油断しないで」
「うん」
「もちろんだ」
カスミの激励を受けて俺とリカは進んだ。
***
フィールドに立った俺とリカはナツメと少女と向かい合う。
「スピアー、君に決めた!」
「お願いピッピ!」
「スピッ」
「ピー」
「……出でよフーディン」
「行っちゃえバリヤード!」
「フウ!」
「バリバリ!」
ナツメと少女が繰り出したのは、
スリムな黄色い体に鋭い目、長い髭が目立ち、両手にはスプーンを握っている、ねんりきポケモンのフーディン。
細長い手足、パントマイマーを思わせる手の動きをするバリヤーポケモンのバリヤードだ。
「エスパーポケモンの恐ろしさ、思い知るがいい。フーディン『サイコキネシス』」
「フウ、ディン!」
フーディンが両手のスプーンを構えると、念動波が生まれる。
猛烈な破壊力が地面を抉りながらスピアーとピッピに襲い掛かる。
「ピッピ『ひかりのかべ』」
ピッピが両手を前に突き出すと、一瞬光輝く壁が出現する。
『サイコキネシス』が迫る瞬間、壁は光り、その攻撃を防いだ。
「……なに?」
「エスパー技への対策はバッチリですよ」
特殊攻撃が強いエスパータイプには特殊攻撃を半減させる『ひかりのかべ』は有効だ。
「……少しはやるようね」
ナツメさんは表情を変えない。だが、次はこっちが攻める番だ。
「スピアー『ミサイルばり』!」
「……フーディン、『サイコキネシス』で受け止めろ」
膨大な数の針はフーディンに到達する前に停止した。
フーディンは片腕のみの超能力ですべての『ミサイルばり』を止めて見せた。
「エスパー技はこのように使うこともできる」
強力なエスパー技に改めて戦慄する。
カスミのスターミーやリカのバタフリーのそれとは技の威力は段違いだ。
だが、ここで諦めるつもりはない。
「ピッピ『ムーンフォース』!」
「バリヤードよけなさ~い」
「ピッ、ピィ!」
「バリバリィ~♫」
ピッピから神秘の光が放たれる。
しかしそれを躱し、軽快にフィールドを走り回るバリヤード。
そこからフーディンとバリヤードは回避に徹していた。
目的はすぐにわかった。
「……お前たちの『ひかりのかべ』の効果が切れる」
時間が経過すれば、『ひかりのかべ』は消滅する。それが相手の狙いだ。
「先にその虫から始末しよう。フーディン『サイコキネシス』でスピアーの動きを封じろ」
「バリヤードはピッピを『サイコキネシス』で遊んじゃってー!」
フーディンとバリヤードの眼が怪しく光る。
スピアーとピッピが目に見えない念動力に囚われ動きを止められる。
「スピッ!?」
「ピッ!?」
すると同時に先ほどと同様にすさまじい頭痛が襲った。
「がっ、ぐう!」
頭の中にガンガンとすさまじい音が響くようだ。
エスパータイプの影響がここまで来てるのか!
「「サトシ!!?」」
カスミとリカの心配そうな声、目の前には『サイコキネシス』に動きを封じられてもがき苦しむスピアーとピッピ。
絶体絶命の状況。
だが、ここまでは予想通りだ。
「リカ! こっからだ!」
「うん、特訓の成果見せてあげるよ!」
「スピアー……」
「ピッピ……」
「「弾き飛ばせ(して)!!」」
スピアーとピッピが全身に力を込め、振り払う。
すると次の瞬間、2体を包む念動力が消え去った。
「……なんだと!」
「ありえない、エスパー技から逃れるなんて!」
表情が変わっていないがナツメさんと人形は驚いているようだ。
これが俺たちの特訓の成果だ。
「確かにエスパーポケモン、エスパー技は強力な技です。念じるだけで相手の動きを封じて、好きに攻撃できる。けれど、無敵じゃない」
「ポケモンには特殊な攻撃への耐性がある。その防御を意識し、鍛えればエスパー技を弾くことができる」
「エスパーポケモンが最強のポケモンならポケモンリーグの上位者やチャンピオン、四天王は全員エスパー使いになるはずだ。だが実際はそうじゃない。みんなそれぞれの好きなタイプのポケモン、あらゆるタイプのポケモンを使いこなしている。それは決してエスパーポケモンが無敵ではない証拠だ」
「正しい『知識』、迷わない『心』、強い『精神』。それがどんなポケモンにも存在するエスパーポケモンへの対抗策だ」
特殊防御について調べた俺たちは早速、重点的に始めた。
互いに強力し合い、特殊攻撃を打ち合ってポケモンたちに特殊防御を意識させるようにした。
カスミのスターミーとリカのバタフリーの強力で『サイコキネシス』をかけてもらい、エスパー技の防御の仕方も徹底的に鍛えた。
鍛えた成果をジム戦でぶつけるなんてかなり危険な賭けだったがうまくいったようだ。
「……いいだろう。お前たちのその思い上がり、完膚なきまで叩き潰してやろう」
ナツメさんは表情こそ変わってないが、声はさきほどよりも重く、怒気が含まれているように思えた。
***
「こっちこそ負けない、行けスピアー『ミサイルばり』!」
「……同じことを、『サイコキネシス』で受け止めろ」
さきほどのようにスピアーの『ミサイルばり』がフーディンの『サイコキネシス』に阻まれる。
予想通りに。
「『ダブルニードル』!」
瞬時にスピアーは切り替えて二本の針を構えて突貫する。
『サイコキネシス』の最中のフーディンは動けない。
「……む」
ナツメの眉がピクリと動く。
一瞬にしてスピアーはフーディンとの距離を詰めた。このまま針がフーディンに突き刺さると思われた。
「避けろフーディン」
フーディンの姿が掻き消える。
エスパータイプの『テレポート』、それはもはや技としてではなく、一つの動きとして昇華されていた。一瞬にしてスピアーの後ろを取る。
「フゥ」
「私のフーディンはスピードも一級だ。その虫では相手にならない。これで終わりだ『サイコショック』」
フーディンから空間を捻じ曲げんばかりに強大な念動力が発生、目標であるスピアーに到達する瞬間、その標的の姿が掻き消える。
「俺のスピアーのスピードは超一級だ。『ミサイルばり』!」
「スピア!」
元来のスピードならフーディンのテレポートの方が上だろう。しかし、攻撃のために超能力を使うその一瞬、そこさえ見極めることができればスピアーならば対応、回避、さらには反撃も可能だ。
膨大な針が発射されフーディンに飛来、反応が遅れたフーディンは防御も回避も間に合わずにすべての針を全身に受け、大ダメージのせいか膝をつく。
「生意気だよ! バリヤード『シャドーボール』!」
「行かせない! ピッピ『ムーンフォース』!」
バリヤードから放たれた黒い球体が、ピッピの神秘の光で打ち消される。
「邪魔しないでよ!」
「あなたこそサトシの邪魔だよ。ピッピ、そのまま『コメットパンチ』!」
「ピピッ!」
「バリィ!?」
走り出したピッピがバリヤードに猛烈なアッパーカットを決める。バリヤードは大きく吹き飛ばされる。
「も~むかつく~」
少女が目に見えて苛立っていた。
流れは今サトシたちが掴んでいる。このまま一気に攻めようとサトシは動く。
「リカ、バリヤードが動けない間にフーディンを先に叩くぞ!」
「うん!」
「スピアー『ダブルニードル』!」
「ピッピ『ムーンフォース』!」
同時攻撃がフーディンに迫る。これで決まりだとサトシたちは確信していた。
「なめるなあああ!!」
「フウディンッ!!」
ナツメの咆哮と同時にフーディンが鋭い眼光を開く。
目に見えない強大な念動力がフーディンを中心に円状に広がっていく。
スピアーとピッピが技を決める前に吹き飛ばされてしまう。
「く、なんて威力だ」
「これが私とエスパーポケモンの真の力だ。ダメージを与えられた程度でいい気になるな」
「俺たちだって本気はこれからだ! スピアー『ダブルニードル』!」
両腕の針を構えたスピアーが凄まじい羽音と共に一直線にフーディンへ攻撃を仕掛ける。
ガンッという激突音が響いた、しかしそれはスピアーとフーディンの衝突には似合わない音。
スピアーの体は空中で停止していた。針はフーディンに届いていない。
スピアーはふらつきながらも一旦距離を取ると針を伸ばして空中を刺す。するとスピアーが針を動かすたびにカンカンという音がこだまする。
「な、これは……?」
「見えない、壁?」
「きゃはは、今更気づいた? 私のバリヤードは空気を固めて壁を作り出すことができるのよ。ずぅーとあなたたちの周りを動きながら閉じ込めるための壁を作っていたのよ」
「……その空間内でお前たちの動きは制限される、そしてその壁は並みの攻撃では破壊は不可能だ」
これがジムリーダーの狙い、これでチャレンジャーの動きが大きく制限されることになる。
するとピッピが壁に触れる。
「ピッ、ピィー、ピッピー!」
見えない壁を押すようにしていたピッピがすり抜けるようにその空間から抜け出した。
「ピッピが出られたわ!」
「……そういうことか。そのピッピは『ひかりのかべ』を使うことができる。同じエスパー技、しかも防御の壁を張ることができる技、バリヤードの壁にも干渉できたというわけか」
「でもスピアーは出られないみたいだね」
エスパータイプの技が使えないスピアーは壁の中に閉じ込められたままだ。
「その中でも私たちのエスパーポケモンなら干渉できる。フーディン『サイコキネシス』」
「ピッピ、スピアーを助けて。『ムーンフォース』!」
壁の中のスピアーに『サイコキネシス』を仕掛けたフーディンにピッピが『ムーンフォース』で攻撃する。
フーディンは『サイコキネシス』による狙いをピッピの攻撃へと切り替えた。
相殺される2体の技がはじけ飛ぶ。
「もう、また邪魔してー」
「……ピッピを先に潰すわ。スピアーはあとでいくらでもどうにもできる」
「フーディン『サイコショック』」
「バリヤード『シャドーボール』」
「避けてピッピ!」
念動力と黒い球体の追撃をピッピはかわし続ける。
止まない追撃。小さな体を懸命に走らせエスパーポケモンの猛攻を回避し続けるピッピ。
その動きが急停止する。
ピッピは何かにぶつかったように痛みで顔をしかめながら、何が起こったかわからないといった様子だ。
「また見えない壁!?」
「せいか~い。また引っかかっちゃった? きゃはは! バリヤード『シャドーボール』!」
黒い球体がピッピに直撃する。
「負けないでピッピ『コメットパンチ』!」
吹き飛ばされたピッピは耐え抜きながら走り出す。
小さな右腕に鋼の力を込めて流星のごとく拳を振るう。
右ストレートはバリヤードに直撃。
効果抜群の一撃に耐え切れないバリヤードは吹き飛び。自身の設置した壁の檻に直撃した。
「ああもう生意気生意気むかつくむかつく!」
その場で立ち上がったバリヤードはふくれっ面でピッピを睨む。
「だが、ここまでだ。フーディン『サイコキネシス』」
「バリヤードも『サイコキネシス』よ!」
フーディンとバリヤードから強力な念動力が放たれる。ピッピは一瞬にして捕縛されてしまった。
「2体の『サイコキネシス』だ。これは抗うことはできまい」
「今からたっぷり痛めつけてあげる」
抵抗できないピッピは絶体絶命の状況、リカの顔にも焦燥が浮かぶ。
チラリと横を見るとサトシは焦りではなく何かを観察しているような視線だ。
それを見たリカは何か考えがあるのだと、サトシを信じて冷静になるように努めた。
***
フーディンとバリヤードの位置関係、ピッピを挟むような一直線の配置となっている。
2体はピッピを『サイコキネシス』で攻撃することに集中していて、閉じ込められているスピアーには意識を向けていない様子だ。
今こそ好機だ。
サトシは口を開く。
「スピアー『かわらわり』!」
針が手刀のように振り下ろされる。
ビキッという音が鳴ったと同時に見えない壁に罅が入り、それは瞬く間にスピアーを取り囲む直方体すべてに走った。
快音と共に壁が無数の欠片へと変わり辺りに飛び散り、フィールド全体の衝撃波が発生する。
砕かれた壁の欠片は数秒間だけ実体が残る。すなわち、一番近くにいたバリヤードに大量の欠片が降り注ぐこととなる。
壁の欠片による予想外の痛みにバリヤードは両腕で顔をガードする。
バリヤードの『サイコキネシス』が途切れる。また、フーディンも驚愕で集中力が切れたせいか『サイコキネシス』が消える。結果、ピッピは解放される。
ピッピはダメージを負ってはいるが、華麗に着地して見せた。
「ピッピ『コメットパンチ』!」
走り出すピッピ、怯むバリヤードに向かって星の拳を打ち込む。
「バリィ……」
眼を回したバリヤードは頭に星を浮かべながら倒れこんだ。
バリヤード戦闘不能。
「そんな!?」
少女の驚愕の叫び、しかしバトルは終わらない。
倒れたバリヤードの上を疾風の羽音が通過する。
「飛べスピアー『ダブルニードル』! そのままフーディンに突っ込め!」
針の切っ先を向けスピアーはフーディンへと突貫する。
「迎え撃て『サイコキネシス』!」
「『こうそくいどう』!」
放たれた念動力がスピアーに襲い掛かる。しかし、スピアーは加速することで瞬時に回避する。
「くっ避けろフーディン!」
スピアーの猛撃にフーディンはテレポートでスピアーから離れ回避する。
「逃がすな!」
フーディンの回避した先にスピアーは瞬時に移動し追い付く、フーディンは追い付かれた瞬間にテレポートをすることで回避、そしてスピアーはまた追い付く。
ナツメとしては『サイコキネシス』でスピアーを打ち払いたいが、先ほどのように技を放つ隙を突かれては致命的だと理解していた。
回避、追跡、回避、追跡。
何度もこの行動を繰り返した。
強大な超能力を有するポケモンが、矮小な虫ポケモンに追い詰められている。
前代未聞で予測不能の展開に、ナツメは確かに動揺していた。
なぜここまで喰らいついてくるのか、圧倒的な力を見せていたはずの最強のエスパー使いである自分がなぜこうも追い詰められているのか。こんな子供がなぜ自分に臆することなく立ち向かってくるのか、ナツメは理解できなかった。
その焦りは少しずつ増していき、ナツメ自身の冷静さを著しく削っていた。
窮地を自覚する最中、ナツメは目線をチャレンジャーの一人である少年へと向けた。
その強い眼光を見た瞬間、全身を貫くような感覚を覚えた。
少年の意志を感じたナツメは紛れもない恐怖を感じた。
その感覚は手持ちであるフーディンにも伝播する。
トレーナーの恐怖を感じ取ったフーディンは集中力を欠いてしまい、テレポートのタイミングを逃してしまった。
その一瞬をサトシはスピアーは逃さない。
スピアーがフーディンとの距離を詰める。逃れようのない射程圏へと。
「これで決まりだ。『ダブルニードル』!」
「スピアアア!!」
サトシの指示に応えるべくスピアーは、背中の羽の動きを目視できないほど速め。まるで瞬間移動したかのように一瞬のうちにフーディンに2本の針を突き刺す。反応が遅れたフーディンは驚愕と痛みに目を見開いていた。
加速し続けたことで威力が増大した『ダブルニードル』はタイプ相性も相まって、フーディンに大きなダメージとなった。
カツン――と音が鳴った。地面に金属がぶつかった音――フーディンの手から零れ落ちた2本のスプーンの音だ。
力尽きたフーディンは背中から地面に倒れこんだ。
勝敗は決した。
「俺たちの勝ちですよナツメさん」
俺がそう言うが、ナツメさんからは何も反応が無い。
「……るな」
深く静かにナツメ声を上げた。
「ふざけるなああああああ!!!」
暴風が吹き荒れる。
全身を貫くほどの破壊的な圧力が襲い掛かってきた。
隣のリカと後ろのカスミが悲鳴を上げる。
「私が負けるなんてあり得ない」
「そうだよ、私が負けるなんてあっちゃいけないんだよ!」
「……消えろ」
「消えてよ」
「「私の邪魔をするものは全部消えろおおおおおおおお!!!」」
壁に数多くのへこみが生まれ、地面が抉れて削れていく。
体にかかる圧力も時間と共に増加している気がした。
「きゃあ!」
「な、なんなのこれ!」
まずい、これは本格的にまずい。このままだと命にかかわる。
せめてカスミとリカだけでも逃がさないと。
そう思っていた時、俺たちの前に出現する存在があった。
目の前にいたのは見覚えのある男性だ。
「無事か君たち」
「あんたはあの時のおじさん!?」
「ナツメの超能力が暴走を始めた、早く逃げるんだ!」
「テレポーテーション!」
瞬間、景色が大きく変化した。
***
気が付くと俺たちはジムの外にいた。
あまりの衝撃に俺は息も絶え絶えだ。
リカとカスミも同様で、肩で息をしていた。
「まさかナツメに勝つとは、驚いたよ」
おじさんが声をかけてくる。
「あの、あなたはいったい……」
「私は……ナツメの父親だ」
「「「えっ!」」」
驚きの正体だった。
「そもそもあの娘が超能力を扱えるのは親である私と妻が超能力者だからだ」
さっきのテレポーテーションがなによりの証拠だな。
そこからおじさんは語りだす。
「ナツメも昔は優しくて少し悪戯好きの女の子だった。だがある日あの娘は私たち譲りの超能力を使いこなし始めた。しかもその力は親である私たちを遥かに凌ぐもので、あの娘はすっかりその虜になってしまった。力を抑えることもなく自分の好きなように超能力を使ってしまったのだ。周りの人間やポケモンにもその力を振るい、大惨事になりかけたこともあった。成長してポケモントレーナーを目指し、ついにはジムリーダーになれるほどにもなったが、自分の超能力を強くしていき、もう誰にも止められないほどの力を身に着けた」
悲しそうな目で、なにかを思い返すようにおじさんは空をを見上げる。
「超能力を抑えようとしないあの娘を私と妻はなんとか諫めようととした。だがあの娘はそれに怒り私たちを超能力でを向けて攻撃してきた。私はかろうじて無事だったが、妻は昏睡状態になってしまったのだ。妻は今も目を覚まさない」
おじさんは言葉を区切る。
「私は自分のことで精一杯で妻も娘も救えなかった。情けない話だ」
自嘲するように後悔するようにおじさんは呟く。
「君たちが戦ったのは変わり果てた冷酷なナツメ、そしてあの少女は無邪気なナツメだ。あの娘は超能力で自分の人格をああして分けていたのだ」
なんでもありだな超能力って。
「自分の敗北を認められないナツメは暴走してしまった。ナツメがああなってしまっては、ジム内だけじゃなく、この街そのものに大きな被害を出してしまうだろう。君たちは早くこの街を出るんだ」
「……ナツメさんはどうなるんですか?」
リカが問いかける。
「……正直わからない。だがあのまま強力な超能力を暴走させているのはあの娘自身にも危険だ。私がなんとかする」
「おじさんにできるんですか?」
カスミが問いかける。
「それもわからない、だがなんとかしなくてはならない。たとえ命を落とすとしてもだ」
これはきっと家族の問題、部外者が立ち入るわけにはいかないのだろう。
だけど――
俺は立ち上がり、ヤマブキジムを見上げた。
「サトシ?」
カスミが疑問の声を上げる。
「あのさ、リカ、カスミ、俺、あの人をあのままにはしておけないんだ」
ここで逃げたら絶対に後悔する。
「はー、まったく、あんたならそう言うと思ったわ」
「このまま知らんぷりなんてできないよね」
カスミとリカも俺の気持ちを理解してくれたのか、俺の隣に立ってくれた。
「な、なにをする気だ」
おじさんが焦った声を出す。
「ジムに戻ってナツメさんを正気にします」
「無茶だ君たち、あの念力の嵐の中を進むなど自殺行為だ! 大怪我だけではすまんぞ!」
「かもしれない。だけど、目の前で泣き叫んでいる人を見捨てて逃げるのもなんか後味悪いんですよ」
「な、泣いてる……だと?」
「俺たちには超能力は無いですけど、それでもできることはあります」
「……本気なのか?」
「はい」
「わかった。力を貸してくれ。ナツメを元に戻そう」
納得してくれたおじさんと共に俺たちはヤマブキジムへ向かう。
***
おじさんを説得したサトシたちはヤマブキジムに戻っていた。
バトルフィールドの扉の前にはジムの人間が集まっていた。
そのうちの一人、マスク男が俺たちに気づくと道をふさいだ。
「なにをしに来た。今この先は危険だ。ナツメ様がお怒りでとても入れない」
「それをどうにかしに来た。中に入れてくれ」
「なにを言ってる。中は地獄でとても人が入れる状況にはない。ナツメ様の怒りが鎮まるのを待つしかない!」
「その怒りの原因は俺たちだからな。責任を取ってどうにかしたい」
「だが……」
「どうにか彼らに任せてくれないか?」
おじさん、ナツメの父親も頼んでくれた。
「貴方は!? わかりました。貴方がそう仰るのなら、どうぞ。ナツメ様をお願いします」
マスクの男は引き下がり、ジムの人間たちも道を開けてくれた。
「ここの人はおじさんのこと知ってるの?」
「そもそも私はヤマブキジムのジムリーダーだったからな」
「マジっすか」
意外な秘密……でもないのか? ジムリーダーの親だし。
そんなこと思考を中断して、俺たちは扉を開けた。
***
サトシは吹き荒れる念力の嵐の中心にいるナツメを見た。憎悪に満ちたその目はサトシたちを害さんという意志が強く籠っていた。
サトシはその目を射抜き返すと一歩踏み出した。
「……私もなんとか超能力で相殺するようにしてみるが、長くは持たないぞ」
「ええ、それで十分です。それじゃあ行ってきます」
サトシはフィールド、その向こうにいるナツメに向かって歩き出した。
吹き荒れる念力の嵐がサトシに襲い掛かろうとした。
「むん!」
男が念じるとサトシを守るように念動力が発生する。
サトシは後ろを見て男と頷き合うとそのまま歩みだす。男の念動力がナツメの念動力と拮抗する。
「ぐぅ……」
しかし、男の念動力は数秒耐えただけで破られ、再びナツメの念動力の嵐が吹き荒れる。
念動力の衝撃波がサトシに襲い掛かる。しかし、サトシは僅かに後退しただけで歩みを止めない
「な、まさか、ナツメの超能力を耐え抜いているのか? 彼は超能力者ではないはずなのに、いったいどうやって」
「サトシが言っていました。エスパーには、『知識』と『心』と『精神』で対抗できるって、さっきのバトルもその考えがあったから勝てたんです」
「それを今度は自分で実践してるんです。それはきっと、ナツメさんを助けるためなんだと思います」
「どうしてそこまで……」
「あいつはそういう性格なんです。それにさっきサトシが、ナツメさんが泣いてるって言ってたでしょ。きっとサトシは何かに気づいたんです」
まだ少年であるはずなのに、ここまでの覚悟を持っていることに男は戦慄した。同時に、自分の娘を、ナツメを元に戻す最後の希望なのだと確信した。
***
「ぐ……!」
体にかかる圧力が強まり、一歩で進む距離が次第に短くなっていく。そして進むことさえ困難になった。
まずい、このままだと押し返される!
そう考えた瞬間には、俺の両足は地面を離れていた。
吹き飛ばされそのまま背中から壁に激突する自分を想像したが、そうはならなかった。
背中から俺を何かが押さえる、いや支えた。
「っ……しっかり、しなさい!」
「くぅ……ナツメさん、助けるんでしょ!」
「カスミ、リカ……!」
俺を支えているのはカスミとリカだった。
2人はナツメの超能力の圧力に押されながらも俺が前に進むことを手伝ってくれた。
女の子にここまでされては投げ出すなんて男が廃るよな!」
俺は足腰に力を込めて一歩、また一歩進んでいく。
ナツメの念動力が強まるのを感じる。だが、今度は絶対に押し返されることが無いという確信があった。
俺の後ろには心強い仲間がいる。
彼女たちが一緒なら乗り越えられないものはない。背中から感じる温もりは俺に勇気を与えてくれた。
ナツメの玉座は目前だった。
「来るな、消えろ、消えろ消えろ消えろ!!」
悲鳴にも近いナツメの叫び。
それでも俺は、俺たちは止まらない。
俺は最後の一歩を進む。
「「いっけえサトシ!!」」
仲間たちの声を背に俺はナツメの元までたどり着いた。
ナツメの殺意の籠った眼光を見つめ返し俺は口を開く。
「ナツメさん……」
「そろそろ起きたらどうですか?」
***
「ナツメが眠っている? どういうことだ?」
「おじさん言いましたよね。ナツメが変わり果ててしまったって。それで思ったんです。ナツメさんは変わったのではなく、違う人格になったんじゃないかって、本来のナツメさんは眠っていているんじゃないかって。それに調べてわかったんです。超能力者は眠っていても超能力を使うことができる。一見ナツメさんは当たり前のように起きているように見えて、実は眠ったままだと思うんです」
これらは根拠も何もない希望的観測に過ぎなず確証はない。だけど、ほんのわずかにでも可能性があるのならこれを信じてみたい。
「君の予想が正しいとして、いったいどうするんだ?」
きっとこのおじさんも同じだ。ナツメさんを元に戻せる可能性に賭けたいはずだ。
「そりゃもちろん、寝ている人は起こすんですよ」
***
「何を、言ってる!」
「言葉通りだ。あんたは眠ったままだ。夢の世界に逃げて、違う自分で他人とかかわっている。だけど、もう終わりにするんだ」
「黙れ、これが私だ! 貴様などにわかるものか!!」
「ああそうかよ、だったら、無理やりにでも起こしてやる!」
「このぉ……! 私に触れるなああああああ!!!」
俺は手を伸ばしてナツメさんの肩に触れた。
瞬間、視界が暗転した。
そこには灰色の世界が広がっていた。
空も地面もあたりにある建物も全部が灰色。
行き交う人たちもポケモンたちも灰色。その表情からはなんの感情も伺えない。
俺は意を決して歩き出す。
歩いているうちに一軒の家にたどり着いた。
俺はドアノブに手をかけ回す。鍵はかかっておらず、ドアはあっさり開いた。
玄関から挨拶もなしに入ると俺は目の前にある階段を登る。完全な不法侵入だが、そんなこと気にしてられない。夢の世界で気にする必要もないと思うが。
2階にたどり着くと、そこには扉があった。
ドアノブを握り、回す。
扉が開くとそこには人形やぬいぐるみがあり、ファンシーな装飾のいかにも女の子が好むような部屋だった。
そして窓際にあるベッドには少女が、いや女性が膝を抱えて座っていた。
「行きますよ」
「……いや」
「ずっとこのままでいる気ですか?」
「私の力は危険なの、もう嫌……誰も傷つけたくない」
そこにいたのは紛れもないジムリーダーのナツメ。だが、ジムバトルをした女性とは別人に思えるほど弱々しく見えた。
「勝手に諦めてるだけじゃないんですか?」
「……どうにもできない。私はずっとここにいたい」
「そんなことないです。あなたも心から現状を変えたいと願えば――」
「わかったようなこと言わないで! 私だって、なんとかしたいと思った! だけどダメだった。力を使うと、私が私でなくなっていくの、コントロールできない! そうして、みんな私から離れていった。私はもう自分の超能力を鍛えるしか道がなかった。強くなって自分を守るしかなかった」
顔を上げたナツメさんが叫んだ。
恐れているような彼女の顔を見て、絶対に救わなければいけないと思った。
「……あんたの父親から話を聞いた」
「……そう」
「昔のあんたは普通の女の子で無邪気で少し悪戯好きなところもあったって、けど変わり果ててしまったって。それで考えたんだ。ジムで俺が出会った冷たい雰囲気のナツメは、強くなりたいあんたの理想形、小さな女の子は無邪気なあんたそのものなんだって、違うか?」
「よく、わかったわね」
他者を傷つける恐怖、他者から恐れられ疎まれる恐怖、その恐怖にナツメさん自身が耐えられなかった。その恐怖に打ち勝つための生み出されたのが、冷酷なナツメ。
「恐怖と孤独が強いあんたを求めたんだな」
「……その通りよ」
俯きながら認めるナツメさん。
「今の冷酷なナツメさんに全部押し付けたら、これから先より多くの人を傷つけるかもしれない。それはあんた自身が止めないといけない」
「私がいたってどうにもならない……」
ナツメさんは諦めかけている。希望などないと思っている。
絶望しきった人間にはどんな言葉が届くのだろう。
それは正真正銘の俺自身の本音だ。
「そうやって逃げてばかりじゃなにも解決しない!」
「逃げて悪いの!? どうにもならないことから、自分ではどうしようもないことから、逃げちゃいけないの!?」
「逃げるのが悪いんじゃない、逃げてなにもしないのがいけないんだ!」
「!?」
「どうしようもないなら逃げてしまうのは仕方ない、だけど大事なのはその後なんだ。そこから自分がどう進むかなんだ。あんたは逃げ続けている。これ以上逃げると、状況は悪化するだけだ。どうにかするには今しかないんだ」
諦めるしかないと、自分はもうダメだと思い込んでるだけなんだ。
「それにあんたは孤独じゃない、あんたの父親は今でもあんたを心配して力を尽くしている。それにこのジムにはあんたを慕う人たちもいる。それはあんたの強い超能力に魅了されたのかもしれないけど、その人たちとは自分自身で向き合わないといけないんだ」
「……」
「本当はあんただって、このままは嫌なんだろ。あの無邪気な少女は、あんたが自分でワザと残した存在だ。自分がそこにいたってことを誰かに知ってもらいたかったんだ」
ナツメさんにはまだ外の世界に未練がある、やりたいことがあるんだ。
「それに、あんたはいつも誰かに呼び掛けてた」
「何を――」
「時々頭痛を感じてた。あれは、あんたが俺に送ったテレパシーだ」
「っ!」
「最初はよく聞こえなかった。だけど、何度も聞いているうちに声が聞こえた。『助けて』って」
それをたまたま俺が聞いたんだ。
「……そうね、私は助けてほしかった。でも、それは図々しいお願いだった。私にはそんな資格はない」
「そんなことない。さっきも言ったがあんたが心から願うんだ。あんたが自分の意志でここを出る決心をするんだ」
ナツメさんは俯いて沈黙している。
「ずっと怖がってた外に出るのは簡単じゃないよな」
頷くナツメさん。
「だったら、俺も手伝うよ」
顔を上げるナツメさん、その顔には疑問符が浮かんでいた。
「俺があんたを外に出すために協力する。それに友達がいないのが苦しいなら、俺がナツメさんの友達になりたい」
ナツメさんは戸惑いを隠せないという表情だ。
「……どうして? どうして私に優しく、友達になろうとしてれるの?」
「あんたとバトルして思ったんだ。エスパーポケモンたちはよう鍛えられていたし、あんたを信頼していた。そうやってポケモンたちから信頼されるトレーナーはきっと良い人なんだって。俺、そんなすごいトレーナーとは仲良くなりたいんだ」
俺は言葉を区切る。
「それにこのまま無理やり引っ張り出したとして、そのままサヨナラなんて無責任かなってさ。だから、できる限りのことはしたい。あんたには前に進んでほしいから」
目を見開いたナツメさん。だけどすぐに俯いた。
迷うということは、ほんの少しの希望が生まれたということだ。
「……でも私は取り返しのつかないことをした。お父さんとお母さんを傷つけてしまった。きっと許してくれない」
だがそれでも踏み出せないナツメさん、どうすればいいのかと思っていたその時、
「もう自分を責めないでナツメ」
不意に聞きなれない声。
振り返ると、そこには見知らぬ女性がいた。長い黒髪に整った顔立ちは穏やかな表情を浮かべている。
その顔はどこかで見たことあるものだ。
「……お母さん?」
ナツメさんがそう言うと女性はニコリと優しく微笑む。
この人がナツメの母親。だが今は昏睡状態にいるはずだが、どうしてここに、ナツメさんの心の世界にいるんだ?
「お、お母さん……どうして?」
「ずっとあなたに呼び掛けてたの。だけど、あなたの強く閉ざされた心には私のテレパシーが届かなかった」
眠っていても超能力で呼び掛けていたってことか。ほんとにすごいな超能力者。
「でも、今はこうしてナツメに私の声を届かせることができてる。あなたの心が開こうとしているのよ」
「ナツメさん、やっぱりあなたはここから出てまたやり直したいと思ってるんだ。その気持ちに従うべきだ」
「でも……」
それでもなおナツメは躊躇う。
「ナツメ!」
聞き覚えのある男の声が聞こえた。
「お父さん!?」
超能力おじさんことナツメのお父さんだ。
どうしてこの人もここに?
「母さんの声が聞こえて、ナツメにテレパシーを送ると、ここにたどり着いたのだが……そうか、ここはナツメの心の世界なのか」
「ようやく家族3人が揃ったわ」
ナツメのお母さんは心から嬉しそうにほほ笑んだ。
「ナツメ……」
ナツメのお父さんは安心した表情で語り掛けた。
だが、ナツメは益々辛そうな顔になり俯いてしまった。
すると、ナツメの体が父親と母親の両腕によって優しく包まれる。
「すまなかったナツメ、私たちはお前と向き合うべきだった。お前の力を抑えつけることばかり考えていたが、それは大きな間違いだったんだ。それでもまたお前の親であるチャンスがほしい」
「あなたが超能力を誤ったことに使うことになってしまったのは親である私たちがそれを教えようとしなかったから。あなたを苦しめてしまったのは私たちの責任。あなたがまだ苦しいというのなら、私たちがそばにいるわ。あなたが乗り越えられるまでずっと」
ナツメの眼から雫が落ち、頬を伝う。
「どう、して……お母さん、お父さん……わた、私、ひどいこと、いっぱいしたのに……」
「それは私たちがあなたを愛してるからよ、私たちの可愛いナツメ」
「どんな時もお前は私たちが守りたいたった一つの宝物なんだ」
「うっ……うわああああああああっ!」
ナツメの何かが決壊したように見えた。ナツメは両親の腕に抱かれて泣き叫んだ。
「お、父さん……お母、さん……ごめ、ごめんなさいっ……」
そこにはようやく向き合えた親子のとても暖かい姿があった。
「サトシ君、ナツメをここから連れ出すのを任せたい」
「え、お二人と一緒に出ればいいんじゃ?」
「私たちは遠くからナツメに語り掛けてるからこれ以上の干渉はできないの。ナツメと一番近くにいるあなたならこの娘を連れだせる」
「なに、これでお別れではないんだ。また向こうで会える」
「ナツメ、また家族3人で過ごしましょ」
そう言うと2人の姿は消えた。
残されたのは俺とナツメの2人だけだ。
変な沈黙が流れるが任された以上は責任を果たさなくちゃな。
「行こうぜ!」
「……うん」
俺が手を伸ばすとナツメはおずおずと手を伸ばす。
その白く細長い五指を掴むとナツメはビクリと反応し視線を泳がせた。
「どうした?」
「だ、だって……」
よく見るとナツメの顔はほんのり赤く染まっていた。
「お、男の子の手を握るなんて、初めて、だから……」
なんじゃそりゃあ! こんな状況でなにを照れとるんだあんたは!
年上のくせに可愛いじゃねえか!
なんて考えてる場合じゃないよな。
照れるナツメに構わず、手を引き一回まで駆け降りる。そして玄関の扉の前で立ち止まった。
同じく立ち止まったナツメを見ると、その目にはかすかな希望で輝いているように見えた。
俺は扉を開けた。
気が付くと俺は建物内にいた。
玉座にはナツメさんが座ったままだ。すると糸が切れたようにフラりと倒れた。
俺は慌てて、倒れるナツメさんの背中に手を回し体を支える。
カツン、とナツメさんの膝の上から落ちた人形が地面にぶつかった。
「ん……」
長い睫毛の綺麗な眼がうっすらと開かれる。
俺とナツメさんの目と目が合う。
そこにいたのは紛れもなく心の中で見たナツメさんだ。
「おはようございます。ナツメさん」
「……おはよう……サトシ君」
俺が言うと、ナツメさんは薄っすらと笑った。
とても綺麗な笑みだった。
***
激動のジム戦から丸一日が経った。
あれからナツメさんとおじさんは目を覚ました奥さんと再会したようだ。
今はヤマブキジムの前でナツメ一家と向かい合っている。
「本当にありがとう。君たちのおかげでまたこうして家族3人が一緒になることができた。なんと感謝していいのか」
「私はここをしっかりしたポケモンジムにするために一から訓練し直すわ。それに自分のことだけじゃなくてジムトレーナーたちのことも考えて話し合っていくつもりよ」
「私と夫はこれからナツメのサポートをしていきます。ジムのことや超能力のことも今度は正しく教えていくつもりです」
「本当に元に戻って良かったです」
バラバラだった家族がまた一つになってよかった。わずかでも力になれたことが俺には嬉しい。
「サトシ君……」
するとナツメさんが口を開く。顔もどこか赤い。
「あの時、言ってくれたこと……その、友達になるって、とっても嬉しかったの。だから、どうしても私からも言いたかったくて……」
ナツメさんは一度大きく深呼吸をした。そして、
「サトシ君、私と友達になってください」
精一杯という顔で告げた。
俺の答えは決まってる。
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
ナツメは嬉しそうに笑った。
するとナツメは俺の両隣にいるリカとカスミを交互に見る。
「リカさん、カスミさん、ジムでは本当にひどいことをして本当に申し訳ございません」
ナツメさんは頭を下げる。
「気にしないでください」
「そうです、あなたも苦しんでいたんですから」
カスミもリカもなんてことないと笑っている。
2人も初めからナツメさんを怒ってなんかいないんだ。
「ありがとう。それでね、その……こんな私ですが、あなたたちとも友達になりたいの。お願いします」
「「はい、こちらこそお願いします」」
女の子たちもこれで友達になった。
笑い合う美少女たちと美人、うむ素晴らしい。
「そうだ、サトシ君とリカさんにはこれを渡さないと」
そう言ってナツメさんは懐に手を入れてそれを取り出した。
「これがヤマブキジムを制した証のゴールドバッジよ」
円形の金色に輝くジムバッジが2つ、彼女の手にあった。
俺とリカは手を伸ばしてそれを掴む。
「「ゴールドバッジゲットだぜ(だよ)!!」」
俺とリカはバッジを空に突き上げて叫んだ。
「よしこれで5個目だ」
「あと3つでポケモンリーグだよ。もう少しだね!」
「そうね、ここが折り返しだけど、きっとここからが大変になってくるわ。油断しないでね二人とも」
カスミの言う通りだ。いかんいかん引き締めなければ。
「それじゃあ私があなたたちのこれからの旅のことを未来予知してあげる」
ナツメさんの思わぬ提案に俺たちは目を見開く。
「未来予知ですか?」
「うん、まあ簡単な占いみたいなものね」
「占いですか、お願いします!」
カスミとリカが目を輝かせて飛びついた。
女の子の占い好きはホントなんだなと思いつつ、ナツメさんを見る。
精神を集中させているのか、ナツメさんは目を閉じる。
すると淡い光がナツメさんの全身から出てくる。
数秒後、ナツメさんが口を開いた。
「あなたたちにはこれから先大きな困難が待ち受けている。だけど、自分と仲間を信じれば乗り越えていける。決して希望を捨てないで」
仲間を信じ、希望を捨てるな、か。
最初からしているつもりだったが、改めて言われると本当にそれが大事になってくるんだってことがわかった。
「わかりました。ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
「あと、サトシ君は女難の相もあるからね」
「はい?」
不意打ちに俺は呆気にとられる。
「行く先行く先で女の子にかかわって苦労するらしいわ。女の子にだらしないのはダメよ?」
「あ、はい……」
いやいやそんなぁ、人を女たらしみたいに言わんといてくださいよ。
すると両腕がガッチリ掴まれる。
右にカスミさん、左にリカさんだった。
細い腕と柔らかな胸の感触が伝わってきて嬉しい、と思えなかった。
なぜなら2人の目のハイライトが消えていたからだ。
「……しばらく離さないから」
「……フラフラしたらダメだからね」
「いやいや2人ともそんな大げさな――」
「「は?」」
「――あ、すいません」
2人の目はまさに漆黒の闇そのものだった。これ以上見ていたら闇に飲まれてしまいそうだった。
なので俺の選択は沈黙だった。
「それじゃあ私たちは行きますね」
「お世話になりました」
「し、失礼します。またどこかで」
半ば強引に挨拶を済ませて俺たちは次の町を目指した。
今なお俺はリカとカスミにホールドされて歩いている。
ナツメ一家は暖かい目で見ていたが、現在の通行人からの視線が痛い、痛すぎる。
いつまでこのままなのかな……
***
自分がサトシを一人の男性として意識しているのは紛れもない本心だ。だけど、旅をする彼に対してジムリーダーとしてこの街にいなくてはいけない自分ではもうこの先会う機会もほとんどないのでは、と不安に思っていた。
しかし、先ほどの未来予知ではサトシとリカとカスミと一緒にいる自分が見えた。おそらくそう遠くない先の話だろう。
「私にもチャンスはあるんだね」
サトシたちが去った方向を見つめるナツメ。
「負けないわ」
彼との未来を夢想すると思わず笑みが零れる。
「きゃはは」
特防にかんしては勝手な理論を作りました。エスパータイプのチートさに対抗するにはこれかなと我ながらめちゃくちゃですが。
また今後も待たせてしまうこともあるかもしれませんが、これからもお付き合いいただければ幸いです。
また活動報告にて、ご相談したいことがありますので、そちらもよろしくお願いします。