サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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またこんなに時間がかかってしまいました。
申し訳ないです。

今回の話は不快になる表現があります。


ポケモンたちの森

木々は風に揺れ、葉と葉が擦れる音が耳をくすぐる。

日光が多くの葉を通し、細く小さな光となり、地面を点々と照らし新しい模様を描いているように見える。

深呼吸すると樹木から発せられる優しい香りが全身を駆け巡り、都会の喧騒や汚れた空気で満たされた体を洗い流してくれるようだ。

母なる自然が与える癒しに感謝しつつ俺は目を閉じる。

 

「はあ、森林浴はいいよなー」

 

「こらそこ現実逃避しない!」

 

カスミが俺にビシッと指差し一喝、安らぐ気持ちが霧散する。

 

「しかしですねカスミさん。こんな状況なんだぜ、現実逃避の一つや二つしたくなるだろ」

 

「あはは……すっかり迷っちゃったね」

 

そう、我々は絶賛迷子なのである。

ヤマブキシティを出て数日、旅を続けると次の町の間にある森に来た俺たち、入っておよそ1時間で迷子になってしまった。

なんというかお約束にでもなってるかのように迷ってしまう俺たちであった。

 

「とりあえずタウンマップを見直してみようっと……あれ、えーとどこだっけな……」

 

さっき取り出したはずのタウンマップが見つからないため、俺はバッグの中を地面にあらかたぶちまけて目的のものを探す。

 

「まったくあんたは、バッグの中もうちょっと整理しときなさいよ。肝心な時に見つからないんじゃ意味ないわ」

 

またもカスミからお叱りを受ける。

うんまあ、ほしいものがあったらホイホイ買ってバッグに突っ込むのは俺の悪いくせだと思うよ。

だけどほら、長いこと使っているとどこに何があるかなんとなくわかって、一見ぐちゃぐちゃに見えて俺の中ではかなり整理されているもんなんだぜ。

まあ、タウンマップ一つ見つけるのにも苦労しているわけだけど。

 

とにもかくにも見つけるべきは人のいる場所。

町でなくても、ポケモントレーナーの通り道に存在するポケモンセンターでも見つかればそこでゆっくり休むことができる。

 

ガサリッ、と草が揺れる音が聞こえた。

 

「あれってイーブイか」

 

「わあ可愛い!」

 

3体もいるなんてな。このあたりはイーブイの生息地なのか?

 

「あ、行っちゃうよ」

 

「追いかけましょう」

 

イーブイは野生の個体を見ることはほとんど少ない珍しいポケモンだ。

是非ゲットしようと追いかける。

 

木々をかき分け森を進んでいくと生き物の気配、そして鳴き声が近づいてくるのがわかった。

 

広い原っぱにまで近づくと、そこにあるのは予想通りで予想外の光景が広がっていた。

 

ポケモンたちが群れを作り、共に過ごしているということが予想通りで、そこにいるポケモンは種族もタイプもバラバラのポケモンたちだった。

先ほどの3体のイーブイに加えて、ガーディ、ロコン、プリン、カラカラ、ヤドン、ニョロモ、パウワウ。ピカチュウ、フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメまでもいた。

 

ちなみにピカチュウ、フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメは俺の持つ同種よりもずいぶん小さい。

 

野生のポケモンは自分たちと同族、同系統のポケモンで群れを形成することが多く、違う種族であれば喧嘩や縄張り争いになることも多い。それにもかかわらず、ポケモンたちは争うことなく仲良しといった雰囲気で一緒にいる。

 

「水ポケモンもこんな森の中で暮らしてるの?」

 

「川なら近くにあったよね。あの辺りにいるのならおかしいことはないんだけど」

 

カスミの疑問にリカも意見を出す。

水辺に住むはずにヤドン、ニョロモ、パウワウ、ゼニガメ。それが陸に上がって他のポケモンたちと遊んでいる。

 

「ということはわざわざここまで来てほかのポケモンたちと遊んでるのか?」

 

まるで友人の家に遊びに行くようなポケモンの行動に驚く。

リカもカスミも俺の言葉にハッとした顔になる。

 

「おや、君たちは?」

 

不意に声を掛けられ振り返ると、初老で眼鏡をかけ白衣を着た男性が立っていた。

 

「こんにちは、勝手に入ってすいません。俺たちはポケモンリーグを目指して旅をしている者です」

 

「おお、旅のトレーナーかね。こんな森深くまで来るとは冒険心に溢れている。うむ、若さとはいいものだ」

 

おじさんは自分の髭を撫で感心したように頷いた。怒られなくて良かったとホッとする。

 

「俺、マサラタウンのサトシです」

 

「同じくマサラタウンのリカです」

 

「ハナダシティのカスミです」

 

「私はここのポケモンたちの管理をしているスギヤマという。タマムシ大学で教授をしている」

 

大学教授とはそれはすごい。

なんとなく姿勢を正しながら俺はスギヤマさんに質問する。

 

「ここはポケモンの保護区なんですか?」

 

「うーむ、少し違う。公的に認められたものではなく、私たちの団体がポケモンたちをこの森で生活させているんだよ。保護というよりも、ポケモンたちの様子を観察し記録しているだけなんだ。病気や怪我をした場合に治療を施すことはしているがね」

 

つまり、これも一つのポケモンの研究なのだろうか。

 

「皆、ここで自由に遊んで暮らしている。中には森を出て違う場所へ行くポケモンもいるようだよ」

 

「全部を管理しているんじゃなくて、ポケモンたちのやりたいことをさせてるんですね」

 

「うむ、それがポケモンたちにとって一番だと思っているからね」

 

そう言いポケモンたちを見る教授、つられて俺たちも顔をポケモンたちに向ける。

種族もタイプも違うポケモンたちは争う様子など皆無で楽しそうに遊んでいる。

 

「種族の違うポケモンなのにこうも仲良くできるものなんですね。私たちびっくりしました」

 

「そのことには私たちも驚いている。種族の違うポケモンが同じ場所に生息している場合、争うことは少ないとしても、互いに協力し合って暮らすということは非常に珍しいことだ。ポケモンとは本来こうして種族に関係なく一緒に暮らせる生き物ということなのかもしれない」

 

考えてみればポケモントレーナーに連れられているポケモンは種族が違うことが多いよな。

俺たちだってそうだ。

 

微笑ましく思いながら眺めている――ーその時だ。

 

「「「なーはっはっはっはっは!!!」」」

 

不意に森の中に高笑いが木霊した。

しかも聞いたことのある声だ。

 

「「「ロケット団!!?」」」

 

「む? 彼らは知り合いかね」

 

スギヤマさんは怪訝な顔でロケット団を見る。

 

「なんだかんだと聞かれなくとも」

 

「答えてあげるが世の――」

 

コジロウのセリフは途切れてしまった。それは―――

 

「―――わ、ちょ、こらやめろ!」

 

「バウ!」

 

「コーン!」

 

コジロウにガーディとロコンが飛びついたからだ。

 

「まだ名乗りの途中でしょ、な、わぶっ」

 

「カラ!」

 

「ゼニィ!」

 

ムサシにはカラカラとゼニガメが飛びついた。

 

「ポケモンたちがロケット団を追い払おうとしているのか?」

 

森で暮らすポケモンたちが敵を追い払おうとしている姿に瞠目した。

が、しかし、ロケット団に飛びついたポケモンたちの様子を見て、すぐに違和感を覚えた。

 

「ねえ、あの子たち、笑ってない?」

 

「うん、なんだか楽しそうだね」

 

カスミとリカの指摘はまさにそうだ。

ガーディとロコンとカラカラとゼニガメは、皆ロケット団に飛びついて、楽しそうに笑っていたのだ。

まるでじゃれているように、遊んでいるように。

 

 

 

「お、おいニャースこいつらどうにかなんないのか!?」

 

「あんたから説得しなさいよ!」

 

「お、おミャーらやめるのニャ。ニャーたちは泣く子も黙るロケット、ニャニャ~」

 

「ヤ~」

 

「カゲ!」

 

「ダネ!」

 

ニャースはポケモンたちに物申してやろうとしたのだろうが、不意現れたヤドンとヒトカゲとフシギダネにじゃれつかれて動けなくなった。

 

「『珍しいお客さん、遊んで遊んで~』と言ってるニャ……」

 

それでも通訳をする姿勢はプロ根性というものだろうか。

というよりお客さんて、

 

「くっ、誰が遊ぶものか、俺たちはお前たちを――ちょ、お、重い……!」

 

「こっのぉ……いいかげんに離しなさい――」

 

「ははは、今日は千客万来でこの子たちも喜んでいるのだな」

 

スギヤマさんは顎の髭を撫でながら微笑ましそうにポケモンたちとロケット団のじゃれ合い――というか一方的なものだが――を眺めている。

こいつら一応悪党なんだけどな。

 

「こうなったらまとめて捕まえてやるわ。こっの、離れなさい! 行きなさいアーボ!」

 

「お前もだドガース!」

 

「シャー!」

 

「ドガ~ス」

 

するとムサシとコジロウは我慢の限界なのか、ポケモンたちを振り払うと、自分たちのポケモンであるアーボとドガースを出した。

 

アーボとドガースは主人の危機を助けるべく、ムサシとコジロウにじゃれつくポケモンたちに後ろから襲い掛かろうとする。

 

さて、俺も行くか。

 

「ピカチュウ『10まんボルト』」

 

「ピィカチュウウウウウウ!!」

 

俺の指示に瞬時に反応し、得意の電撃をロケット団とそのポケモンにお見舞いする。

 

「「「あばばばばばば」」」

 

ロケット団たちは電撃をまともにくらい痺れ黒焦げになる。

 

「ちょっとなにすん――」

 

「おいこら」

 

俺の声は自分でも驚くくらい低くドスが効いていた。

 

「ここのポケモンたちに変な真似したら……わかってんだろうな?」

 

「ピカァ……?」

 

ピカチュウの『こわいかお』(覚えないけど)

 

「「「あ、はい、すいません」」」

 

よし、わかってくれたみたいだな。

お話完了。

 

 

 

***

 

 

 

「それにしても、ロケット団と遊びたがるなんて」

 

俺たちはスギヤマさんにロケット団のことを簡単に説明した。

 

「なるほど、ロケット団か。しかし、ここのポケモンたちがあれほど気に入ったようだからね。私はそんなに悪い人間とは思えないな」

 

ポケモンに好かれる人間に悪者はいない、ということか?

しかし、あいつらは悪の組織に所属してるし、人のポケモンを捕るような連中だし、うーむ……

 

「それにここは、めったに人が来ない場所だからな、私以外の人間やトレーナーのポケモンが彼らには珍しいんだよ」

 

「どうだろう、君たちさえよければここのポケモンたちの遊び相手になってくれないだろうか」

 

「はい、俺たちでよければ協力させてください」

 

 

 

「じゃ、じゃあ俺たちはこの辺でお暇させて――」

 

「そんじゃさいなら――」

 

「お前らも手伝え」

 

ロケット団はそそくさと帰ろうとするがそうはいかんぞ。

 

「は、なんで――」

 

「て・つ・だ・え。いいな?」

 

罰も兼ねて俺たちの手伝いをしてもらう。

 

「「「は、はい……」」」

 

あれこれ迷惑かけてくれたんだから、少しくらいは奉仕活動をしてもらうぞ。

お話完了パート2.

 

 

 

***

 

 

 

「みんな出てこい!」

 

俺たちは自分のポケモン全員をモンスターボールから出す。

モンスターボールから出てきた俺たちのポケモンたちに、森のポケモンたちは興味津々といった感じで近づいてきた。

 

ピカチュウは同族のピカチュウと一緒に走り回っている。

 

「ピカ」

 

「チャー」

 

フシギダネはフシギソウと一緒に蔓を使って小さなフシギダネを持ち上げ高い高いをしてあげ、ヒトカゲとゼニガメとピッピはおもちゃのモンスターボール柄のボールで小さなヒトカゲとゼニガメと遊んでいる。

 

「ダネ」

 

「ソウ」

 

「ダネダネー」

 

「カゲカゲ」

 

「ゼニ」

 

「ピッ」

 

「カゲ」

 

「ゼニゼニー」

 

ニドリーノはニドリーナと一緒にガーディとロコンと追いかけっこをしている。

 

「リノ」

 

「リナ」

 

「バウ」

 

「コン」

 

スピアーとバタフリーは低空飛行しながらカラカラとプリンとじゃれ合っている。

 

「スピ」

 

「フリ」

 

「カラ」

 

「プリ」

 

カスミの水ポケモン――ヒトデマン、スターミー、トサキント――は近くの川で水ポケモンたちと泳ぎながら遊んでいる。

 

「ヘア」

 

「フウ」

 

「トサキ~ン」

 

「ヤ~」

 

「パウー」

 

「ニョロ」

 

「ったく、なんであたしたちがこんなことしなくちゃならないのよ」

 

「仕方ないだろ、下手なことしたらジャリボーイに物理的に抹殺される」

 

「今は大人しくするのが賢明ニャ」

 

ロケット団のポケモン――アーボとドガース――も森のポケモンたちと楽しそうに遊んでいる。

ニャースも渋々といった感じだが、小さなポケモンたちの相手をしている。

 

ムサシとコジロウも納得いかないようだが、今は大人しくしてくれている。

 

 

こうして楽しそうに遊ぶポケモンたちの姿は見ていて胸が暖かくなってくる。リカもカスミも優しく微笑んで見ている。

 

誘ってくれた教授も嬉しそうにこの光景を見て笑っている。

 

「「「イブイ!!!」」」

 

するとリカとカスミの足元に3体のイーブイが集まった。

 

「あなたたちどうしたの?」

 

「向こうでみんなと遊ばないの?」

 

「イーブイたちはカスミとリカと遊びたいんじゃないか?」

 

「そうなの?」

 

「「「ブイブイ!!!」」」

 

「そっか、そういうことならこっちにいらっしゃい」

 

「おいで甘えん坊さん」

 

言われたイーブイたちは嬉しそうにリカとカスミに飛び掛かる。

 

1体のイーブイはカスミの膝の上で頭や顎の撫でられ、2体のイーブイは歩くリカに着いていき、追いかけっこのようになる、リカがクルクルと回るとイーブイたちも右に左に駆ける。

 

「はは、モテモテで羨ましいな」

 

「ふふーん、いいでしょう」

 

「えへへ、ホントに可愛いよ」

 

小さくて可愛らしいポケモンたちと戯れる美少女2人、うむ眼福眼福。

 

チラリと隣を見ると、教授も暖かい目でポケモンたちを見ていた。

ふと気になり俺は教授に尋ねる。

 

「教授、それにしてもこれだけ種族がバラバラのポケモンをよく一か所に集められましたね。生息地も違う彼らをここに連れてくるのは容易ではなかったでしょう?」

 

「……いや、彼らは」

 

そこで教授は言葉を区切る。口を閉ざす教授の顔はとても苦しそうだった。やがて教授は口を開く。

 

「……君たちになら話してもいいだろう。いや、君たちには聞いてほしい」

 

教授がそう言うとリカとカスミ、ロケット団の2人と1体は教授の周りに集まる。

 

「ここのポケモンたちは同じ場所で生まれたのだ」

 

その言葉の意味を理解できなかった。

 

「あの、それはどういう――」

 

「君たちはポケモンミルという言葉を知っているかね?」

 

その言葉を聞いた瞬間、胸の中に嫌な気持ちが満ちていく。

 

ポケモンミル――「ポケモン工場」を意味する単語だ。

 

営利目的にポケモンに大量のタマゴを繁殖させ、生まれたポケモンを販売するという悪質なビジネスを行う人間たちのことを指す。

多くのポケモンたちを小さな建物の中に隔離し、カゴの中に閉じ込めて、必要最低限の食糧しか与えない。また、排泄物の処理や掃除など一切しないため、その場所は必然的に劣悪な環境となる。しかし、連中はそのままほったらかしでタマゴが生まれない限りポケモンたちに関心はない。

そして、ポケモンの健康状態や疾病も気にしない。

母体がタマゴを生むことは体に負担がかかるため、次のタマゴを産むためには本来なら時間を置く必要がある。しかし、ポケモンミルはポケモンの負担を気にしない。体力が落ち衰弱したとしても、別の個体を使えばいいという感覚しか持ち合わせない。

連中にとって生まれるポケモンは「商品」、タマゴを生むポケモンは「設備」でしかなく、愛情なんか欠片もないのだから。

 

 

 

「ここにいるポケモンたちは、全員ポケモンミルによって生まれた子たちなのだ」

 

「っ!?」

 

なんとなく察したが直接その言葉を聞くと胸に響く衝撃は大きかった。

見るとカスミとリカは息を飲み、悲痛な顔をとなっていた。

 

ポケモンミルは深刻な社会問題。今までに多くの実行犯が逮捕され厳罰を受けた。

だがポケモンミルは未だにあらゆる地方に存在にいるのが現状、今もどこかで自分の利益のためにポケモンたちを苦しめてる人間がいる。

 

「劣悪な環境から解放されたあの子たちには新しい居場所が必要だった。私たちはあの子たちを引き取ってくれる家庭やトレーナーたちを探した。引き取り先は思ったよりもすぐに見つかった。ポケモンたちは新しい場所で幸せに生きていけると私たちは思っていた。だが、そこから別の問題が出てきたのだ」

 

「別の問題?」

 

俺の疑問に教授は悲しそうな顔で答えた。

 

「引き取ったポケモンを家で面倒が見切れなくなった、育てても強くならない、という理由で引き取ったポケモンたちを逃がす人たちが現れたのだ」

 

「な――」

 

あまりに理不尽な話に俺は絶句する。カスミもリカも同じ気持ちなのか、驚愕に目を見開く。

ロケット団は眉を顰め、黙って教授の話を聞いていた。

 

「逃がされ自然の中で生きることを余儀なくされたポケモンたちだが、人の手の中で生まれ、人の手で育てられてきた彼らは自然の中で生きる術など知るわけがない。食料の見つけ方も、他のポケモンとの戦い方も知らないポケモンたちはすぐに自然の厳しさで傷ついていった」

 

「だから私たちは、身勝手な人間の被害者であるポケモンたちが自然の中で生きられるように、こうして他のポケモンたちと共に自然での生き方を学ばせているんだ」

 

深刻な問題はポケモンミルだけじゃない。人間の身勝手で逃がされたポケモンたちが苦しんでいる。

そう簡単に失くせない大きな問題に俺の胸には悔しさが沸き上がる。

 

「身勝手といえば、私もあまり人のことを言えないがね」

 

教授の足元にフシギダネが近寄る。その子は教授の足に顔を擦り付け気持ちよさそうな顔をしている。

その様子を教授は悲しげに笑みを浮かべて見ている。

 

「私は本来、自然とポケモンの研究をしている。ここにいる子たちを育てていると共にその生態を研究しているのだ。彼らを研究対象にしてしまうとは、我ながら自分勝手に思えるよ」

 

「そんなことないですよ。あなたのしていることは身勝手な連中とは全然違います。あなたはポケモンのために研究をしている。これもポケモンたちのためなんですから立派なことだと思います」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

少しだけ嬉しそうに笑ったスギヤマ教授は「よっこいしょ」と立ち上がりどこかへと歩き出す。

 

「どこに行くんですか?」

 

「車に荷物があるのでなそれを小屋に運びこむんだ」

 

木造の小屋の近くに中型の車が止めてあった。

 

 

 

「こんなにたくさんの荷物を一人で運んでるんですか?」

 

「ははは、いつもは若い学生や団体の人間に手伝ってもらっているのだが、今日ここに来られたのは私一人なのでな」

 

「それじゃあ俺たちも手伝います」

 

「いやいや、そこまでしてもらうわけには」

 

「ここまで来たら、なんだってお手伝いしますよ」

 

「ありがとう。なにからなにまですまないね」

 

早速俺たちは教授の車の荷物を運び出した。

荷物はパソコン等の機械類、紙の資料の束、ポケモン用の治療道具等だ。

 

俺が一番重い機械類を運び、リカとカスミが資料と治療道具を運ぶことになった。

 

「ふー、重いなあ」

 

リカも張り切っているものの、重さに苦戦中のようだ。

すると、

 

「ほら、貸しなさい……あらよっと」

 

ムサシがリカの持つ荷物を持ち上げる。大人であるためか余裕で持っている。

 

「あ、ありがとう……」

 

「ん」

 

荷物を運ぶムサシの背中を、リカは不思議そうに見ている。

 

「教授さん、これはここでいいのか?」

 

残った荷物をコジロウが全部運んでいた。

 

「ああそこに置いていてくれ、ありがとう」

 

教授の言葉でコジロウは荷物を降ろし、額の汗を拭う。

 

その姿をどこか不思議に思いながら視線を別の方向へ向けると、ニャースがまだ小さいポケモンたちの遊び相手になっていた。モンスターボール柄のボールを一緒に転がしている。小さなポケモンたちは楽しそうだ。

 

予想外にロケット団が手伝ってくれて俺は驚き、カスミもリカも同様のようだ。

 

「積極的に手伝ってくれて嬉しいけど、どうしてだ?」

 

ムサシとコジロウは互いに目を合わせると、そのまま荷物運びの作業を続けながら答えた。

 

「あたしたちは確かに悪党よ。だけど悪党にもプライドがあんのよ」

 

「悪党として踏み外しちゃいけない人としての一線ってもんがあるのさ、それぐらい弁えてるつもりだ」

 

するとニャースも遊びながら答える。

 

「ニャーはロケット団のためにポケモンを捕まえ奪うニャ。ただし悪党でもポケモンニャ、ロケット団と無関係のポケモンが必要のない苦しみを味わうのは我慢できないニャ」

 

それきりムサシとコジロウとニャースは俺を見ることなく作業を続けた。

敵であるはずのロケット団の意外な一面を見てしまった。

 

彼らは単なる悪党ではなく自分のルールで生きている。

その一本筋を通した生き方を俺はかっこいいと思ってしまった。

 

 

 

***

 

 

 

荷物を運び終えてポケモンたちが集まる場所に戻る。

 

するとそこは先ほどよりも騒がしくなっていた。

見るとガーディとロコンが体をぶつけあっていた。

 

「もしかして喧嘩してるの?」

 

互いに体をぶつけあったと思ったら、技を放つ。

これは喧嘩というよりも、

 

「バトルしてるのか?」

 

相手を打倒さんと全身をぶつけあう姿は楽しそうにも見えた。

 

「よおしみんな、俺たちもポケモンバトルを見せてやるよ」

 

「じゃあ私が相手になるわ」

 

「よし手加減なしだぜカスミ」

 

「当然よ」

 

俺とカスミは距離を取って対峙した。

 

周りには森のポケモンたちが観客として俺たちを見ていた。

 

「ゼニガメ、君に決めた!」

 

「ゼニィ!」

 

亀ポケモンのゼニガメが勢いよく飛び出してきた。

 

「水タイプ使いの私に水ポケモンで挑むなんて度胸あるじゃない」

 

「水タイプ使いのカスミだから俺のバトルを見てほしいんだよ」

 

「ふーん、そういうことなら任せなさい。行くのよスターミー!」

 

「フゥ!」

 

カスミの切り札とも言えるポケモン、スターミーが現れる。

 

「ゼニガメ『みずでっぽう』!」

 

「スターミー『みずのはどう』!」

 

水流と水の塊が発射され激突する。

水しぶきが両者に降りかかる。しかし、構うことなく2人のトレーナーは指示を飛ばす。

 

「『こうそくスピン』!」

 

「『てっぺき』だ!」

 

スターミーは横に高速で回転し攻撃を仕掛ける。対するゼニガメは全身に力を込めて鋼の力で全身を固める。

 

ガキン――という音が両者の衝突の瞬間に起こる。スターミーの超スピードの一撃をゼニガメは耐え切る。

 

「防御を上げたのね、じゃあこれはどうかしら。スターミー『サイコキネシス』!」

 

強力な念力がゼニガメに襲い掛かる。『てっぺき』は防御は上げるが特防は上げられない。スターミーの高い特攻と相まって大きなダメージとなる。

しかし、ゼニガメは耐え切り倒れない。

 

「流石にスターミーは特殊攻撃は強力だな。だったら『ロケットずつき』!」

 

「ゼニガ!」

 

ゼニガメは小さな体躯を勢いよく飛ばす。

固い頭はスターミーの体にヒットする。

猛烈な勢いの頭突きにスターミーは後退する。

 

「ゼニガメは物理攻撃も得意だぜ」

 

「やるわねサトシ」

 

「ああ当然だ、一気にいくぜ!」

 

カスミと俺は互いのバトルを楽しみ、笑う。

ポケモンたちを観客に俺たちはバトルを続ける。

 

 

 

***

 

 

 

月が上り森を照らす夜。

スギヤマさんは自分の家に戻り、俺たちは森で野宿をしている。

家に泊まっていかないかとスギヤマさんに誘われたが、俺たちはここのポケモンの傍にいたいと思い、今夜はここに残ることを決めた。

 

昼間のバトルで、ポケモンたちは満足したのかみんな嬉しそうにはしゃいでいた。

そんな様子に胸が暖かくなって、やった甲斐があったと心から思えた。

 

思い返すと心が暖かくなってくるが、同時に寂しく冷たい風が吹いている。

夜空を見上げて考えてしまう、ここのポケモンたちのこと、今なお起こっている悲劇、そして――

 

「あ、いたいた」

 

「探したよー」

 

聞きなれた仲間たちの声。

 

「こんなとこで何してんのよ」

 

「うん、まあ、ちょっとな」

 

「なにか考え事?」

 

「ああ、ここのポケモンたちのことを……な」

 

リカもカスミも俺の言いたいことを察したのか、少し暗い顔になる。

そのまま2人は俺を挟むように座った。

 

「そうね、ポケモンをモノ扱いする最低な人間はどこにでもいる」

 

「酷いことをされるポケモンたちを少しでも減らしたい、なにか私たちにできることがあればいいよね」

 

そうだよな、だけど――。

 

「それだけじゃないいんだ。俺自身がしっかりまともなトレーナーやれてるのかなって思ってるんだ。仮に今できててもどこかで間違えて、ポケモンたちに酷いことをしてしまう人間になってしまうんじゃないかって……それが、怖くて仕方ないんだ」

 

今日の出来事で俺が一番感じていること、自分が醜くて汚い人間なんじゃないかって恐怖。前の世界においてポケモンは空想の存在、ゲーム内ではデータでしかない。まだ俺はそんな意識でポケモンを見ているのではないか。今いる仲間のポケモンたちを俺は心から愛しているのか、そんな気持ちが沸き上がり、ピカチュウたちのトレーナーとして自信を持てるのかと疑問が沸き上がる。

 

「サトシって、いっつも何かに悩んでいるよね」

 

隣に座るリカがポツリとつぶやく。

図星を突かれたような気持ちでドキリとしてしまう。

なんとも情けない気持ちになり、渇いた笑いが漏れる。

 

「あはは……そう、だな。ウジウジしてて男らしくないよな」

 

「違う、そうじゃないよ。サトシがそうやって悩むのは、誰かのことをしっかりと考えてるからだと思う」

 

リカの否定の言葉に、俺は思わず顔を向ける。彼女は構わず続けた。

 

「サトシは、記憶のこととか、クチバジムでのこととか、ピカチュウのこととか、ここのポケモンたちのこととか、サトシは誰かのことで悩んでる。それってサトシの優しさなんだよ。誰かのことを真剣に想えるって、すごく素敵なことだと思うよ」

 

するとリカはニコリと笑って俺を見た。その優しい笑みに、俺は見惚れてしまい、胸が落ち着かなくなってしまう。

 

「サトシの持ってる、心の底から誰かを真剣に考えられる気持ち、ポケモンのことで真剣に悩める気持ち、それがあなたの魅力だと思う。そんなあなたと一緒に学校で学んで、一緒に旅ができて、私すごく嬉しくって誇らしいよ」

 

「だから、私、あなたがその悩んで苦しんでる時、少しでも慰めて癒せるようになりたい。あなたの力になりたい」

 

地についてる俺の手に暖かいものが触れる。

リカの手だった。俺の手よりも細く小さなそれは、重なるだけなのに包み込むような温かさがあった。

 

「サトシ、私を頼って、私はあなたのためだったらなんでもできる。絶対に」

 

それがリカの心からの言葉であると理解できた時、手だけでなく、俺の心さえ温かく包まれているように感じた。

ほんのり上気しているリカの頬、その艶やかな表情に思わず息を飲む。

ジッとこちらを見せる、宝石のように輝く2つの瞳、その綺麗な色に俺の目は吸い寄せられるように逸らすことができない。

時間が止まるような錯覚さえ覚え――

 

「ちょっとぉ、どーして2人だけの世界に浸ってるのかしら?」

 

「「わっ!?」」

 

ジト目のカスミに不満げな声でハッとなって俺とリカは近づけた顔を離す。

 

「はい、交代よリカ」

 

「う、うん」

 

なんの交代なのでしょうか?

等と思っているとカスミが俺の後ろに回ったと思うと、次の瞬間、両サイドから手が伸びた。明らかにカスミの腕であるがいきなりのことで俺は動けない。

すると細い腕が俺の肩に乗ったと思うと、背中に大きく柔らかいモノが触れた。

それは明らかにカスミの――

 

「あ、あの、カスミ……さん? そんなに密着されると……」

 

「……うっさい黙って大人しくしなさい」

 

耳元でカスミの声が聞こえた。甘い吐息も耳に触れ、顔に熱が集まるのがわかった。

胸が高鳴り嬉しくも恥ずかしい気持ちになっていると、

 

「リカの言う通り、あんたがそうやって悩めるのはトレーナーとして、人として大事なことよ。だけど、あんたはもっと周りを信頼してもいいと思うわ」

 

カスミの声は柔らかくて優しくて、高まる緊張が落ち着いてきた。

 

「あんたのポケモン、ピカチュウもスピアーもニドリーノもヒトカゲもフシギダネもゼニガメも、ゲットされたのはあんたをトレーナーとして信頼してるからよ。一緒にいるのを見ててそれは間違いないわ。だからあんたも自分のポケモンを信じなさい。あんたのポケモンが信頼しているあんた自身を信じなさい」

 

今、胸に沸き上がるのは女性が近くにいることによる緊張でも羞恥でもない。

陳腐な言い方をすれば、それはきっと、自信と勇気。

 

「私もそうだから」

 

顔は見えない、けれど、カスミが笑っているのは何となく感じた。

 

「私はサトシのことを一番信じられる男の子だと思ってる。あんたが進もうとしているトレーナーの道は正しいものよ。ポケモンたちを大事にして一緒に強くなろうと気持ちを合わせられるあんたなら、誰よりもすごいトレーナーになれる」

 

カスミは言葉を区切る。

 

「だからサトシにも私のことも信じてほしい。私はこれからもあんたの行く旅にこれからも私は一緒にいたい。あんたの成長を見守っていたい」

 

大人ぶることが多いカスミだが、今は本当に頼りになる年上のような安心感がある。

ずっと彼女が触れていることを望んでいる俺がいる。この安らぎに身を任せたいと――

 

「ちょっと、カスミずるいよ!」

 

リカが抗議の声を上げた。

 

「ずるくないわよ。リカだってさっきこんな風にイチャイチャしてたんだから私もいいでしょ!」

 

カスミが反論する。

 

「うー、えい!」

 

可愛らしい声と共に俺の胸に柔らかい感触と甘い香り、リカが俺の胸に飛び込んできたのだ。

 

「だいたいあんたもあんたよ、あちこちで女の子に優しくして思わせぶりなこと言ってときめかせて、この節操なし!」

 

「サトシと一番近くにいるのは私たちなんだからね! 忘れたりほったらかしにしたら許さないんだからね!」

 

怒りの矛先がなぜか俺に向かってきた。

カスミに頬を引っ張られ、リカに胸をポカポカと殴られる。

いい匂いや柔らかい感触にドキドキする暇もない。

 

「ちょ、マジ、キツ、やめ……」

 

加えてカスミが俺の体を後方に引っ張ったと思ったら、リカが俺にしがみついて前に引っ張る。という動きを繰り返し、結果俺は前後に揺さぶられることになる。

変に抵抗したら2人に怪我を負わせる可能性もあるため、振り払うことも難しい。

酔ってしまうのではないかと不安になりながらも俺は言葉で抗議するのみだ。弱々しいが。

 

しばらくするとリカもカスミも疲れたのか、動きが緩慢になり最後には止まる。

 

耳元でカスミが酸素を求めて呼吸をすると、吐息が耳にかかるに加え、荒い息遣いがまるで喘いでいるように聞こえてくる。

体を動かして火照ってしまったリカが頬を染めて、荒く呼吸をする。さらに上目遣いになり潤んだ瞳で俺をジッ見つめてくる。

 

美少女2人からのこの攻撃は俺に効果抜群だ。

 

「サトシ、心臓のドキドキが速い……」

 

「ふーん、私たちを女の子だって意識はしてるんだ……」

 

うあーバレバレだ。今まで緊張してたことがバレてしまった。

 

「……そういえば、サトシが私たちのことどう思ってるか聞いたことなかったな」

 

「……私たちが言ったんだから、あんたも言いなさい」

 

「なんだよいきなり……」

 

リカとカスミからの思わぬ要求に文句が口から出てしまう。

しかしまあ、自分の本音を伝えるいい機会かもしれないな。

俺は熟考し、言葉を選び、口を開く。

自分の素直な気持ちを伝えた。

 

「リカはいつも一生懸命で自分にできることを頑張ってる。前を向いて自分やポケモンのために全力を注いでる姿は、魅力的だと思う」

 

「えへへ、そっか」

 

「カスミは厳しいこと言うけど、それは俺のことを考えてくれてるからで、俺たちのことや、ポケモンたちを大事にする気持ちは心から尊敬する」

 

「ふーん、よーくわかった」

 

照れるリカと嬉しそうなカスミ。

反応が違うが、とっても可愛い表情だってことは共通しているよな。

 

「ぐええ!」

 

次の瞬間、俺の首が思いっきり締まる。

 

「内面褒めてくれるのもいいけどさ! もっとこう、無いの? 『美少女でスタイル抜群なカスミちゃんとに胸がときめきます!』っとかさ!」

 

カスミが意味不明な抗議をしながら細くしなやかな腕で俺の首を強く締めた。

ちょ、マジきついって、ギブだって!

 

「サトシ」

 

リカが助け船を出してくれる、そう信じていた。が

 

「……サトシから見て、私って可愛い、かな?」

 

「はい?」

 

助けかと思ったらよくわからない質問をされた。

サトシは混乱した。

 

「私これでも……身だしなみには気を付けてるよ。サトシに『可愛い』って言ってもらえたら嬉しいなって思うから」

 

後門のカスミハグ、前門のリカのしかかり、どっちもご褒美だがこのままでは俺の理性が持たない。

なんとか解決しようと脳をフル回転させる。

 

ガサリ――と後ろの草むらから音がした。

 

「「「っ!!!」」」

 

驚いたカスミとリカが俺から離れた。

 

俺も驚いている。

まさかロケット団たち覗いていたのか?

俺たちの恥ずかしい場面を笑う気なのか?

 

ガサリガサリ――と音が強くなると、それは顔を出した。

 

「「「ブイッ?」」」

 

「なんだイーブイたちか、びっくりした」

 

この森に住む3体イーブイたちだった。

俺たちが騒がしいから起きてしまったのだろうか。だとしたら申し訳ないが。

 

するとこちらをジッと見ていたイーブイたちは草むらの奥へと消えてしまった。

 

なんというか、先ほどの高揚する気分はすっかり消えてしまった。

その代わりなのか、眠けが起こり瞼が重くなってきた。

 

「そろそろ戻りましょう」

 

「もう寝ないとね」

 

「そうだな」

 

俺はカスミとリカの言葉に同意した。

ピカチュウたちも心配しているだろうしな。

 

皆が集まっている場所に戻るとムサシとコジロウとがグースカピーと寝息を立てていた。

 

今回は信用してもよさそうだと思いながら通り過ぎると、起きているポケモンたち――俺たちのポケモンたち――がいた。

 

視線を向けると俺とリカとカスミのポケモンたちとニャースが山のように盛られたきのみを食べていた。

それらのきのみはバンジの実やチーゴの実など、苦い味のきのみばかりだ。

 

 

フシギダネとフシギソウは並んで、2本の蔓を使ってでそれぞれきのみを持って頬張り

ゼニガメとピッピが並んで食べ続け、

ヒトカゲは火できのみを軽くあぶって一口で飲み込んだ

 

ニドリーノはニドリーナと向かい合ってきのみをひたすら食べている

木の上ではスピアーが両の針にきのみを突き刺して齧り、バタフリーが小さな手できのみを持って食べている。

ピカチュウは両手できのみを持ってカリカリと前歯で噛み続け、隣のニャースは一気に2、3個をまとめて頬張っていた。

 

「なんでそんなに苦いのばかり食べてんだ?」

 

「口の中がおかしくなるわよ。ほらモモンの実も食べて」

 

まるで甘いものは懲り懲りといった苦い顔でみんな拒否した。

 

「あれ、食べないのか?」

 

「まあ、たまには苦いものを食べたい気分にもなるわよね」

 

「でも食べすぎには注意だよ」

 

ポケモンたちは苦いきのみを食べることを再開した。

本人たちがそうしたいならまあいいや。

 

俺たちは眠るべくテントに向かった。

 

「……ポケモンを胸焼けさせるとは悪いトレーナーニャ」

 

呆れたようなニャースの言葉の意味がわからなかった。

 

 

 

***

 

 

 

朝になると俺たちよりも早く森のポケモンたちは起きていた。

皆元気にはしゃいで遊んでいる。

 

「やあおはよう」

 

俺たちより早起きしていたスギヤマ教授が挨拶をしてきた。

 

「「「おはようございます」」」

 

ふと気づいた。

 

「あれ、ロケット団は?」

 

寝ていたはずのムサシとコジロウとニャースがどこにもいなかった。

俺たちが寝ている間にいなくなるなんてよっぽど俺たちに付き合うのが嫌だったようだな。

まあ協力してくれたことには感謝してるけどな。

 

ふと、周りを見て俺は気づいた。

 

「あいつら、木の実を持って行きやがった!」

 

周りの木になっていたきのみが根こそぎなくなっていた。

油断も隙のなかった。俺たちに付き合わされたが転んでもタダでは起きないってことかあいつらめ。

 

すると、スギヤマ教授が笑っていた。

 

「この辺りは木の実が豊富であるからな、人間がいくつか持って行っても問題はない」

 

まあ確かにきのみの生命力は尋常じゃないけど。

結構取られたがここのポケモンたちが食べるには困らないだろうな。

 

「それじゃあスギヤマ教授、俺たちはそろそろ行きます」

 

「そうか、引き留めてすまなかったな」

 

「いえ、ここのポケモンたちと短い間でも過ごせてよかったです。貴重な体験をありがとうございました」

 

「こちらこそ、ここのポケモンたちのために居てくれてありがとう。みんな喜んでいるよ」

 

周りのポケモンたちはみんな嬉しそうな顔で俺たちを見ていた。

その顔はとても生き生きしていて、心から笑っているようだ。

 

ここにいるポケモンたちは、酷い環境にいた。けど、生まれたこと、ここで生きていることは決して不幸なんかじゃない。

彼らは一生懸命に今をこうして生きている。

種族なんか関係ない、ここで生きている彼らは紛れもない仲間。

こうして出会い、一緒に協力し合って生きていることが不幸のはずがない。

 

リカとカスミも同じ気持ちなのか、慈愛の籠った目でポケモンたちを見ていた。

ここのポケモンたちの幸せを願い、この森を出ようとしたその時、

 

「「「ブイブイ!!!」」」

 

3体のイーブイたちが俺たちの前に躍り出た。

 

「どうしたの?」

 

「さよならの挨拶したいの?」

 

カスミとリカが言うと、イーブイたちは首を振る。

その目はとてもキラキラ輝いている気がした。

 

「……そうか、お前たちはサトシ君たちについていきたいんだな」

 

スギヤマ教授がしゃがみ込み、イーブイたちを優しく見ていた。

 

「「「ブイッ!!!」」」

 

頷くイーブイたちは嬉しそうに尻尾を振っていた。

俺たちとしては新しい仲間を迎えられて嬉しいが、

 

「教授、ここのポケモンたちは自然なまま生きていたほうがいいんじゃないですか?」

 

「トレーナーのポケモンになる。これも彼らの選択だ。私としてはその意思を尊重したい、連れていってはくれないかな?」

 

俺はリカとカスミと顔を見合わせる。

2人は軽く笑って頷いた。

そうだな、気持ちは同じだよな。

 

「一緒に行きましょう」

 

「これからよろしくね」

 

カスミとリカが嬉しそうにイーブイたちに語り掛ける。

 

こうなったら善は急げだ。モンスターボールに入れて仲間にしよう。

俺はバッグの中を探すが――

 

「あれ、モンスターボールはっと……」

 

見つかりません。

 

「だからあれほど整理しなさいって言ったでしょ!」

 

オカンなカスミにまた怒られてしまった。

俺はバッグをひっくり返して荷物を全部ぶちまける。

目的のモンスターボールを探しているその時、コロコロと転がる3つのものがあった。

 

それは俺たちの前方に向かって勢いよく行っていく。驚いて視線を向けた時にはイーブイたちの目の前で止まってしまった。

 

自分たちの前に転がってきたモノを不思議そうに眺めたイーブイたちは、それを口に咥えた。

咥えたままイーブイたちは俺の元に届けようとしたのか進もうと踏み出す。

俺が落とした――

 

―――みずのいし、かみなりのいし、ほのおのいしを

咥えている3体。

 

変化は一瞬のうちに起こった。

 

イーブイたちの体が光り、その輪郭が変化を始める。

すなわちこれはポケモンの進化だ。

 

光が収まるとイーブイたちはそれぞれ異なる変化をしていた。

 

1体は青い体色、スラリとした体格で尻尾は長くなり魚の尾ヒレのような形状、背ビレもあり、首回りには円状にヒレが形成され、耳もヒレのようになり頭のてっぺんから額にかけてトサカのようなヒレが生えている。愛らしい顔つきはイーブイと変わらない、あわはきポケモンのシャワーズ。

 

1体は黄の体色、首回りと腰の体毛が鋭く尖っていて、耳も長く伸び鋭い形状をし、全身が攻撃的な印象を与える。顔つきも鋭い目つきだが、イーブイの時の愛らしさを残している、かみなりポケモンのサンダース。

 

1体は橙の体色、頭部、首周り、尻尾からフサフサの体毛が生えている。色と体毛から暖かそうな印象を与え、顔つきも力強さもあるがイーブイの愛嬌も感じさせる、ほのおポケモンのブースター。

 

「シャワ」

 

「ダース」

 

「ブスタ」

 

「「「えええええええええっ!!!」」」

 

これから旅をして一緒に成長していくイーブイたちが一気に成長してしまった。

予想外の事態に俺たちは悲鳴にも似た叫びをあげる。

 

「はっはっはっ、これはこれはまた」

 

スギヤマ教授はおかしそうに笑っていた。

 

「本当にすいません、勝手に進化させて!」

 

「ははは、謝ることではないよ。それに、イーブイたちが望んでいることだと思うよ」

 

「どういうことですか?」

 

「うむ、ポケモンの進化は本人の意思も関係しているのではないかと最近の研究でわかってきたんだ。本人に現状の変化を、自分を変えたいという気持ちがあればこそ進化が成立する。だから、ポケモン本人が進化を望まなければ、石を使っても進化は起こらないのだよ」

 

なるほど、ポケモンたちが望んでいるならそれでいいんだな。

 

「イーブイたちを……いや、シャワーズとサンダースとブースターのことをよろしく頼む、大事にしてくれ」

 

「「「はい!」」」

 

俺たちはシャワーズ、サンダース、ブースターと向かい合う。

 

「よし、これからみんなは俺たちの仲間だ。一緒に旅をしようぜ」

 

こちらに歩いてくる3体、トコトコと歩む姿は凛々しくも愛らしい。

 

飛び込んできたところを思い切り抱きしめてやろう。

 

シャワーズはカスミの胸に飛び込み、サンダースとブースターがリカの胸に飛び込んだ。

 

カスミは抱きとめるがリカは2体分の勢いに背中から倒れてしまった。

 

……あれ、俺は?

 

「シャワシャワ~」

 

「うふふ、これからよろしくね」

 

「ダ~ス」

 

「ブスタ~」

 

「きゃん、もうくすぐったいよぉ」

 

3体はものすごく嬉しそうな顔で美少女2人にじゃれていた。

 

 

するとリカとカスミと視線が合った。

 

「あ、あの、誰かサトシのポケモンになるって子は?」

 

「シャワ」

 

「ダス」

 

「ブゥ」

 

カスミの困った顔とか細い声。

シャワーズとサンダースとブースターの首を振る。

サトシはフラれてしまった。

 

「……いいんじゃないか? カスミは水タイプのシャワーズで、リカも電気タイプと炎タイプ持ってないだろ?」

 

「あの、えと、ごめんね」

 

はい? なんでリカが謝るの? なにに対する謝罪? サトシわかんない。

 

「べっつにいいよ~俺、水タイプも電気タイプも炎タイプも持ってるし、全然寂しくないし」

 

すると足元に何かが触れる。

 

「ピカ」

 

ピカチュウが暖かい目で俺を見て、手で触れていた。

ありがとうピカチュウ、でも俺悔しくないし、ホントだし……

 

「よく考えればイーブイだったときによく遊んであげたのはカスミとリカだからな。それも当然だと思うぜ。2人のポケモンになりたいってのが本音なら、その気持ちを尊重しよう」

 

これは負け惜しみではなく本音だ。シャワーズとサンダースとブースターが幸せならそれが一番。

それにきっとリカとカスミなら、大切にできる。俺は2人を信頼している。

 

「わかったわ」

 

「うん、それじゃあカスミ」

 

「ええそうね。シャワーズ……」

 

「サンダースとブースター……」

 

「「ゲットよ(だよ)!!」」

 

2人はそれぞれの新しい仲間を抱きしめ高らかに宣言する。

 

おめでとう、そしてよろしくな。

新しい仲間たち。

 

すると森のポケモンたち、そして俺たちのポケモンたちが嬉しそうに声を上げる。

前者は仲間の旅立ちの祝福、後者は新しい仲間の歓迎の声のように聞こえた。

 

ポケモンたちが繋がり、人間とも繋がっていく。

その姿が俺には何よりも美しい様子に見えた。

 

シャワーズを撫でるカスミと周りに集まるスターミーとヒトデマンとトサキント、サンダースとブースターを撫でるリカと周りに集まるフシギソウとピッピとニドリーナとバタフリー。

 

心地よく暖かい気持ちを胸に抱き、俺はみんなを見続けた。




雑なブイズゲット回でした。
リカとカスミのブイズゲットは構想段階から考えていました。
ヒロインにブイズは似合うと思うのでどうしてもゲットしてほしかったです。

今回出てきた「ポケモンミル」という単語は現実で起こってる残酷な問題を元にした造語です。
大きな社会問題をこんなネタにしてしまい、ご不快に思われた方もいらっしゃるでしょう。
私の中で、こういった深刻な問題がポケモン世界にも存在するのではと思い、今回の話を書きました。
以前、「明るい物語を目指す」と言いましたが、暗い話もちょくちょく入れると思うので予めご了承ください。

これからもよろしくお願いします。
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