サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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遅れて申し訳ないです。


ポケモン返りの謎

次の街の近くの草原にいるサトシたちはポケモンバトルの特訓をしていた。

対戦カードはサトシのピカチュウとリカの新しい仲間のサンダースだ。

審判はカスミが務めている。

 

「ピカチュウ『でんこうせっか』!」

 

「サンダースかわして!」

 

「ピッカ!」

 

「ダース!」

 

サンダースが一瞬にして距離を取り、ピカチュウの高速の攻撃は空振りとなる。

サンダースは止まることなくピカチュウの周りを走り回る。

ピカチュウは動くサンダースを目で追いかけ、そのとてつもないスピードに驚きを見せる。

 

「サンダース『かみなり』!」

 

「ダアアアス!!」

 

「かわせ!」

 

ピカチュウは四足で走り回って回避する。

 

「ピカチュウ『アイアンテール』!」

 

「チューピッカ!」

 

「『かみなりのキバ』で受け止めて!」

 

「ダァス!」

 

走りながら尻尾に鋼のエネルギーを込めるピカチュウに対し、サンダースは電気でできた牙の形のエネルギーを口の前に出現させる。

 

『アイアンテール』を『かみなりのキバ』で挟むことで受け止める。

 

「サンダース『ミサイルばり』!」

 

「サン、ダアアアス!」

 

「ピカチュウ『でんこうせっか』!」

 

サンダースの全身が逆立ち、針が勢いよく発射される。しかしピカチュウは素早いフットワークで迫りくる大量の『ミサイルばり』を次々と避けていく。

 

「『アイアンテール』!」

 

ピカチュウはサンダースの懐に入り込み、体を回転させて鋼の尻尾を横薙ぎに叩きつける。

サンダースは吹き飛ばされるが、体勢を戻す。

 

「よし、そのまま走って攪乱して!」

 

駆け出すサンダース。ピカチュウの周りを縦横無尽に走り回り、その動きを捉えさせない。

ピカチュウはサンダースを目で追い、その場でジッと動かない。

 

「ピカ……」

 

目で追いながらも、サンダースはどんどん加速していく。

次第にピカチュウの目線と顔の動きに焦りが出てくる。そして、ピカチュウの視線の先とサンダースの位置が外れる。

そのタイミングを見計らってリカはサンダースに大技の指示を出す。

 

「サンダース『かみなり』!」

 

走りながら充電、そして莫大な雷撃が生まれピカチュウに襲い掛かる。

しかし、サトシに焦りはない。

 

「ピカチュウ、後ろに『でんこうせっか』!」

 

「ピッカ!」

 

「ダァス!?」

 

サトシの指示にピカチュウはい一瞬で反転、猛スピードで駆け出す。

大技を発射した直前のサンダースは一瞬動きが遅れる。

 

トップスピードに乗ったピカチュウの突進がサンダースに叩きつけられる。

ピカチュウは再びサンダースに向かって走る。

 

「サンダース『ミサイルばり』!」

 

リカは焦りながらも指示を出す。

サンダースが全身の針に力を込める、しかし、苦痛の表情を一瞬浮かべ、技が発動しない。

その一瞬でピカチュウはサンダースに直撃した。

 

「ダアス!!」

 

吹き飛んだサンダースは地面にたたきつけられる。

 

「サンダース戦闘不能、ピカチュウの勝ち!」

 

審判カスミの宣言で決着がついた。

 

「大丈夫サンダース?」

 

「……ダァス」

 

倒れるサンダースにリカは心配そうに話しかけると、サンダースは笑顔を見せる。

 

「ありがとうサンダース、ゆっくり休んでね」

 

リカはサンダースをボールに戻した。

 

「スピードタイプは初めてだから、上手く指示が出せなかったよ」

 

バトルの反省点を述べるリカに、サトシとカスミは優しく笑って頷く。

 

「よし次だよ。サトシ!」

 

「いいぜ。ヒトカゲ、君に決めた!」

 

「それならこっちはヒトカゲ!お願いブースター!」

 

2人のボールからヒトカゲ、新しい仲間のブースターが現れる。

 

「ヒトカゲ『きりさく』!」

 

「ブースター『アイアンテール』!」

 

「ブースターは『もらいび』だからな……どうしたものか」

 

炎を完全に無効化し自身を強化する特性。

ヒトカゲの持ち味を封じられたことになる。

だからと言って戦い方が無いということはない。

 

「ブースター『かえんほうしゃ』!」

 

ブースターが強力な火炎を口から発射する。

 

「ヒトカゲ、ブースターに向かって走れ!」

 

ヒトカゲはサトシの指示に、火炎を受けながらも突進する。強力な炎だが同じ炎タイプのヒトカゲには、まったく効かないとまではいかないが効果は薄い。

そしてヒトカゲはブースターを持ち上げる。

 

「投げ飛ばせえ!」

 

ヒトカゲは両腕に力を込めブースターを思いっきり投げる。

ブースターは驚きながらも空中で反転すると体勢を立て直して着地する。

 

「いいよブースター、そのまま『かえんぐるま』!」

 

全身に炎を纏ったブースターは一気に駆け出した。

炎はどんどん燃え上がっていき強大になっていく。

 

ブースターの猛烈な突進、ヒトカゲに直撃した。

炎が空気を焦がさんと沸き上がり、煙と衝撃が発生する。

そしてそれらが晴れた時見えたのは、押し切ろうとするブースターをヒトカゲが全身で受け止めそれ以上の進行を止めているところだった。

 

「嘘! 受け止めた!?」

 

リカが驚愕する。

ヒトカゲは両脚で踏ん張りブースターの動きを停止させた。

ブースターは4つの脚で体を押し込もうとするが、その顔には疲労が浮かび進むことができない。

サトシはそれを見逃さずに指示を出した。

 

「そこだ『りゅうのはどう』!」

 

龍の形をしたエネルギーを発射、超至近距離からブースターに直撃する。

吹き飛んだブースターはそのまま目を回して倒れる。

 

「ブースター戦闘不能、ヒトカゲの勝ち!」

 

カスミが高らかに宣言する。

 

「ブースターありがとう、頑張ってくれたね」

 

リカはブースターを労い、ボールに戻す。

 

「どっちのバトルも初めから飛ばし過ぎたな」

 

「飛ばしすぎた?」

 

「ああ、サンダースは常に走り回っていたよな、スピードタイプの持ち味を生かすのはいいけど、常に走ってばかりだと、サンダースの体力がすぐ無くなるぜ」

 

サトシのピカチュウは攻める時は速く動き、様子見の時は動かずにいると緩急をつけてバトルしていた。

 

「ブースターもパワーを発揮しようとしたみたいだけど、いつも全力の大技で攻めてたらすぐに疲れるぜ」

 

最初の攻撃は威力が高かったが、次第に威力は下がっていってた。後半のブースターが技を放つにも苦労していたのだ。

 

「そっか、サンダースとブースターのことよく見てなかったんだね」

 

リカは2つのボールを見つめて落ち込む。

 

「そんなに暗い顔しないの、反省点がわかったならそこを治せばいいじゃない」

 

「そうだな、リカならすぐにサンダースとブースターを強く育てて息ピッタリにバトルできるはずだ」

 

「ピカピカチュウ!」

 

「カゲカゲ!」

 

「うん、サトシ、カスミありがとう、ピカチュウとヒトカゲも応援してくれてありがとうね。私頑張る!」

 

 

 

***

 

 

 

街に着いた俺たちはポケモンセンターで休んでいた。

 

カスミはセンターに設置してあるパソコンを操作していた。

すると画面にカスミの家族が映る。

 

「あらカスミ久しぶりね」

 

「うん久しぶりー!」

 

サクラさんの言葉にカスミは返事をする。

テレビ電話をしているカスミの顔はいつも以上にニコニコ……いやニヤニヤしていた。

 

「急に連絡なんて珍しいわね、なにかあったの?」

 

「うーん、なにかってこともないこともないけどー」

 

アヤメさんが言うとカスミはニヤニヤした顔を隠そうともせずにしていた。

 

「なによ勿体つけて、早く言いなさいよ」

 

ボタンさんがジトッとした目でカスミに聞く。

 

「だから特別なんにもないって、お姉ちゃんたちの顔見たかっただけで――」

 

その時俺は見逃さなかった。

カスミがこっそりモンスターボールの開閉スイッチを押したことを。

 

「シャワ?」

 

カスミのボールからシャワーズが現れる。

 

「きゃ、シャワーズいきなり出てきてびっくりするでしょー(棒)」

 

「「「シャワーズ!!?」」」

 

美人三姉妹が驚きの表情で画面に顔を近づける。

 

「カ、カスミ、その子どうしたの?」

 

「えへへーまあいろいろあって、私がゲットしたのよねー」

 

「も、もっとよく見せて!」

 

「はーいどうぞー」

 

カスミがシャワーズを膝に乗せて画面へと近づける。

 

「シャワ!」

 

「「「綺麗、可愛い……」」」

 

三姉妹がうっとりした顔でシャワーズに熱い視線を送っていた。

 

「ねえカスミ、その子連れて帰って来なさいよ」

 

「生のシャワーズ見たいし触りたいわ」

 

「えーでも私たち旅で忙しいしー帰るのは当分先かもー」

 

アヤメさんとボタンさんのお願いにカスミはニヤけながらシャワーズを撫でてやんわり断った。

優越感を隠そうともしてない。

 

「思いっきり自慢してるな」

 

「ピカ……」

 

「あはは……でも気持ちは分かるな」

 

ピカチュウもリカも苦笑いだ。

 

 

 

***

 

 

 

ポケモンセンターを出た俺たちは街を歩く。ちなみに俺の肩にはピカチュウが乗っている。

 

「ヨヨヨタウンだっけ、なかなか都会だな」

 

「ピカッピカチュウ」

 

「こんな大きな街ならブティックに行きたいわね」

 

「うん、新作のお洋服見てみたいよ」

 

女子2人が楽しそうにおしゃべりしているのを後ろから微笑ましく重い名が見ていると、ふと視界に気になるものが映った。

 

張り紙をしている女性がいた。

カスミもリカもその女性に気づいたようで一緒に近づいてみた。

 

「あの、どうしたんですか?」

 

気になって声をかけると、その女性は振り返った。

妙齢な美人だがその顔は酷くやつれていた。

 

「私の息子が3日前から帰ってきてないの」

 

か細い声で女性は答えた。

 

「行方不明ってことですか?」

 

リカが尋ねる。

 

「ええそうなの、全然連絡もなくて……」

 

「警察には言ったんですか?」

 

カスミが質問すると女性の顔はさらに暗くなった。

 

「言ったわ、だけど息子はもう10歳で成人扱いだから、本格的な捜査はまだしてくれないみたいなの」

 

10歳で旅に出るこの世界、その年齢の子供が行方不明でも優先順位は下がってしまうのか、世知辛い。

 

「あの子、もうすぐポケモントレーナーになるんだって毎日楽しそうにしていたのに、こんなことになるなんて……」

 

「見つかるといいですね」

 

「ええ……」

 

気休めの言葉にしかならないのはわかっている。だけど、落ち込んでいる人に何か言わないといけない気がした。

肩に乗るピカチュウの表情も悲しげで俺は優しく撫でてあげた。

 

 

 

 

 

女性と別れた俺たちはポケモンセンターに戻ろうと歩いていると、センターの隣にある人間の病院の前で人垣が見え何やら騒がしい様子だった。

 

人垣をかき分けるとそこには自分たちと同い年か年下の子供たちが何人もいた。

 

しかし、その様子は異様だった。

 

子供たちはは奇妙な動きを見せていた。

 

「コココココイ」

 

ある子供はコイキングのようで、

 

「クサークサー」

 

ある子供はクサイハナのようで、

 

「フリーフリー」

 

ある子供はバタフリーのようで、

その動きはまるでポケモンそのものだった。

 

「これっていったい?」

 

「これはポケモン返りです」

 

「ポケモン返り?」

 

答えたのは病院の看護師と思しき女性だった。女性から発せられた聞いたことのない単語に思わず聞き返す。

 

「はい、人がポケモンのような行動を取ってしまう症状のことです」

 

看護師の女性は続ける。

 

「3日前くらいだったかしら、あるお宅の子供がポケモン返りで運ばれたのをきっかけに、次から次へとポケモン返りする子供たちが出てきたの。それからずっと病院は治療してるけど、回復してないわ」

 

看護師の女の人は説明を終えると子供たちと保護者を誘導していった。

多くの子供たちとその親たちが病院の入り口に吸い込まれるように次々と入っていく様子は異様であった。

 

「どうなってるのかな?」

 

リカが口を開く。

 

「同時期に多くの子供がそんな奇病……と言っていいのかわからないけどさ、それにかかるなんて、偶然とは思えない」

 

「そうね、なんだか悪い予感がするわ」

 

カスミの言う通り、事件の前触れかもしれない。

とにかくあの子たちが無事に治ることを祈るしか俺たちにできることはない。

 

ふと横に視線を送るとそこには見慣れた警察官がいた。

その人は何やら小さな機械を片手で掲げていた。

 

「ジュンサーさん?」

 

俺が声をかけると、ジュンサーさんは怪訝な顔でこちらを振り返った。

 

「あら、あなたたちは?」

 

「俺たちは旅のトレーナーです。あの怪しい者じゃなくて、ジュンサーさんが何してるのかって思って」

 

「ああ、これはね。特殊なエネルギーの波を調べてるの」

 

「「「エネルギーの波?」」」

 

「ええ、ここ最近、妙な波が検出されててその出所を調べてるの」

 

「妙な波ってどんなのですか?」

 

「色々調べてわかったんだけど、これはポケモンの使う催眠術に近い波よ」

 

「あの、その催眠術の波が出たのってもしかして3日前からですか?」

 

「えっ、どうしてわかったの?」

 

「最近のポケモン返りは3日前から起こってます。それに3日前に俺たちと同い年の男の子が行方不明になってます。これが偶然とは思えなくて」

 

「……そうね、実は私もポケモン返りがなにか関係があるかもって思っていたの、それに行方不明か……そっちも関係あるかもしれない。私はもう少し調べてみるわ」

 

そう言ってジュンサーさんは機械を掲げながら歩いて行った。

 

あとは警察に任せるべきかと考えていると、視界の端に小さく黄色い存在が映った。

 

「あれはコダック?」

 

俺の言葉にリカもカスミも視線を向ける。

小さなアヒルポケモンは俺たちをジッと見ながら両手で自分の頭に触れて小首を傾げた。

 

「くわ?」

 

「「可愛い……」」

 

カスミとリカが呟く。確かに小柄でまん丸な体躯にぼんやりした目元はとても愛らしくて癒されるな。

 

「ピカ!」

 

耳元でピカチュウの鋭い声を聴いてその顔を見ると、膨れていた。

なんだなんだ焼きもちか? 可愛いやつめ。

膨れた頬袋をツンツンとつつくとピカチュウはくすぐったそうに身をくねらせる。

 

「わかってる、ピカチュウだって可愛いよ」

 

頭を撫でてあげるとピカチュウ「チャー」と鳴きながら気持ちよさそうな顔をしていた。

膨れっ面の気持ちよさげな顔、たまらんコンボですな。

 

ふと視線を戻すと俺たちをジッと見ていたコダックはこちらに背を向けると茂みの奥へと消えた。

すると、

 

「っ!」

 

「あっ!」

 

短い悲鳴を上げたリカとカスミ、反応して振り返った俺が見たのは、立ったまま項垂れている2人だ。

 

「カスミ、リカ、どうしたんだ!?」

 

呼び掛けると顔を上げる2人、その時、

 

「ピッピ~」

 

「シャワ~」

 

リカは両手の人差とし指を立てて体をゆっくり揺らして「ピッピ~」と言い、カスミは両手を地面について四足歩行の体勢になって「シャワ~」言った。

 

「へ?」

 

突然のことに理解が追い付かずに呆然と2人の行動を見つめてしまった。

すると、2人が近づいてくる。

リカは俺の顔をその綺麗な眼でジーッと見つめ、カスミは俺の脚に鼻を近づけ「スンスン」と嗅いでいた。

その時、2人が嬉しそうな顔を見せたと思ったら――

 

「シャワー!」

 

「ピッピー!」

 

飛び掛かられた。

 

「ちょ待って抱き着かないで、ど、どうしたんだ2人とも!?」

 

まさかこれはポケモン返りか、カスミとリカがかかってしまうなんて。

俺はリカとカスミにされるがままに抱き着かれている。

本来なら喜ぶべきところだろうが、2人のいい匂いとか柔らかい感触とか楽しんでる暇がないほど、俺自身が戸惑っている。

 

「シャワワ~ペロペロ」

 

「ピ~チュッ」

 

「ふわっ!? な、なにしてんのー!!」

 

シャワーズカスミが俺の頬を舐めはじめ、ピッピリカが俺の頬に口づけした。

それだけでなく動きはもっと大胆になった。

 

「ペロ、ペロペロ」

 

何度も何度も舐めまくるカスミ。

 

「ちゅちゅ、ちゅー」

 

カスミに負けじと頬へのキスを繰り返すリカ。

 

「や、やめてー!」

 

思わず悲鳴が出るが、ポケモン返りした2人はまったく気にせず、俺の胃の痛みが沸き上がる。

 

 

 

 

 

2人の『じゃれつく』攻撃にHP1になったところでなんとか宥めた俺。

 

「と、とにかく、催眠波の原因を探そう」

 

「シャワー!」

 

「ピー!」

 

カスミとリカは「おー!」と言っているのか元気に笑顔で片手(カスミは未だに四足で片足?だが)を突き上げた。

 

歩き出したその時、

 

「ぐえっ!」

 

何者かに襟を引っ張られ、首が少し締まった。

犯人はわかっているが、

 

「ど、どうしたんだリカ」

 

俺は首を抑えてリカに尋ねた。

 

「ピッピピ」

 

「シャワワ」

 

「え、なに?」

 

リカとカスミは俺の腰を指さして自分のことも指さした。

えーとつまり、

 

「あ、自分たちをモンスターボールに入れろってこと?」

 

「シャワシャワ」

 

「ピッピ」

 

コウコクと頷く2人

 

「いやいや、2人ともポケモンじゃなくて人間だから、モンスターボールに入らないから」

 

そう言うとリカとカスミは膨れっ面になり猛烈な勢いで詰め寄り抗議の声を上げた

 

「シャワシャワシャワシャワ!!」

 

「ピッピッピッピピッピー!!」

 

なに言ってるかわからん。

 

すると2人はなにやら動きを見せた。

これはジェスチャーか? 何か伝えようとしているみたいだが……

 

「えーと、外で歩かせたままだと不審者に誘拐されるからボールの中にいたほうがいいって言いたいのか?」

 

「シャワ」

 

「ピッ」

 

コクリと頷く2人。

 

「理由はどうあれ無理だって、リカもカスミもモンスターボールに入らないってば」

 

俺が言うと2人はショックを受けたように固まる。頭上に「ガーン」て文字が浮かんでいる。

 

「ピー」

 

「シャワー」

 

潤んだ上目遣いで俺を見つめる2人。

可愛い……

 

「くっ……できないものはできないってば」

 

しかし俺は断固として拒否する。だって人間はモンスターボールに入らないもの、物理的に不可能だもの。

すると、

 

「ちょ、2人ともどこ行くの!」

 

何かしらコソコソと話し合った2人は近くのフレンドリィショップに駆けこんだ。

呆然とその様子を見ていると、しばらくして2人が笑顔で俺の元まで走ってきた。

 

カスミとリカはそれぞれ買い物袋を持っている。

ポケモン返りしてるのに買い物できたのか?等と疑問に思っていると

 

「シャワ」

 

「ピッピ」

 

2人から買い物袋を手渡された。

俺は中身を見て言葉を失った。

 

 

 

***

 

 

 

歩いている俺たち3人は街の人たちから見られていた。

その視線は好奇、驚愕、侮蔑、不快感とマイナスな感情が様々だ。

 

それもそのはず……

 

リカとカスミの首には首輪が付いていて、そこから伸びる2本のリードを俺が引いているのだから。

モンスターボールに入らない代わりにこれを渡され、リードで引っ張らないと動かないと言われた(言葉はわからないのでジェスチャーをされたわけだが)ので仕方なくこうして歩くことになってしまった。

俺に引っ張られている(引っ張らせている)カスミとリカは何故か笑顔で嬉しそうだった。

 

「シャワワ~」

 

「ピッピ~」

 

なんでそんなに嬉しそうなんだよ。

ため息をつき、2人から視線を逸らすように前を向く。

すると俺と目が合った男性が先制攻撃並みの速度で顔を逸らした。

次に目が合った女性が「ひっ」と小さな悲鳴を上げて自身の両肩を抱いた。

違うんです皆さん、こんなの断じて俺の趣味じゃないんです。

不審者とか異常者に遭遇した目で俺を見ないでください。

 

「あの少年、女の子2人に首輪をつけるなんて将来が心配だ」

 

「あんな子供が調教に目覚めてんのか、レベルたけぇ」

 

「ちっリア充が」

 

「私もあんな可愛い男の子に飼われてみたいわぁ」

 

 

聞こえない、何にも聞こえない。だから俺泣いてないよ……グスン。

 

「ピカ……」

 

俺の肩に乗ってるピカチュウが心配そうに鳴くと。俺の頭を小さな手で撫でてくれた。

うう、ありがとうピカチュウ。その慰めでだいぶ回復したよ。

 

「フリィ……」

 

「フゥ……」

 

リカとカスミの近くにはバタフリーとスターミーに付いてもらってる。

2人の護衛と変な行動を起こさないための監視をするためだ。

 

2体をボールから出すためにリカとカスミの腰からボールを取り出さねばならないため、そこでもひと悶着あったが割愛。

 

「シャワシャワ」

 

「なんですかカスミさん」

 

カスミが指さした先にはコダックがいた。

先ほどと同様にコダックは俺たちを首を傾げながらジッと見つめていた。そして、草むらの奥へと消えた。

さっき見たときと同じ行動。この時、俺はなんとなくこのコダックが気になっていた。

 

「追いかけよう」

 

あのコダックにはなにかある。そう思い俺はカスミとリカに声をかけて草むらへと駆けていった。

 

 

 

***

 

 

 

「随分と森の深くまで来たな、どこまで行く気だ?」

 

コダックはよちよちと歩きながら森の奥へ奥へと進んで行った。

しばらく歩くとコダックは立ち止まった。

そこには小屋があった。

 

「なんだこの小屋?」

 

「ピカ」

 

ピカチュウは俺の肩から降りて、何かを感じた様子で小屋の中へと入って行った。

 

「おいピカチュウ?」

 

勝手に上がり込んでいいのか?

なんとなく悪いことをしている気になりながら俺はリードを引いてカスミとリカと共に小屋の中へと入って行った。

 

小屋の中は電気も点いておらず暗い、しかし、床に散乱している弁当箱や雑誌を見つけ、誰かがいたということが察せられた。

この小屋はいったい……そう思っていると、

 

「ピカピ、ピッピカチュウ!」

 

ピカチュウが慌てたような声を出して俺も視線を向けると、そこには鉄格子に閉じ込められた子供がいた。

その顔には見覚えがあった。

 

「まさか、行方不明の男の子か!?」

 

俺は慌てて鉄格子に近寄る。

 

「君、大丈夫か?」

 

声をかけると男の子は反応して俺を見る。

 

「カラ、カラカラ?」

 

片手で何かを振り回すような動作をした少年は、カラカラのような鳴き声を上げた。

この子もポケモン返りをしているようだった。

 

なんにしても、この子をあの女性の元へ送り届けないとな。

 

今こそマサラ人の力を解き放つ!

思いっきり両手に力を込めると、頑丈な鉄格子がメキメキと形を変えていく。開くように動かし、鉄格子を曲げ、人が通れるほどの隙間を作ることができた。

 

俺はカラカラの真似をする男の子を抱き上げる。

 

その時、大きな音が鳴った。その音はまるで警報のようだった。

人が走ってくる気配。

 

「なんだてめえら、どこから入ってきやがった!」

 

いかにも悪人面の大人の男が俺たちを睨みつけて立っていた。

こいつが誘拐犯か!?

 

「あんたこそ何者だ! ここに閉じ込められている男の子は3日前から行方不明になっている子だ。それがどうしてこんな森深くの小屋にいるんだ!」

 

「ちっ、嗅ぎつけてきやがったってことか。だがまあお前らみたいな子供が来てくれて助かったぜ、これでようやく売りモンが揃いそうだ」

 

下劣な顔で俺たちを値踏みするようにジロジロと見ている男、その言葉からこの男が何をしようとしているのか理解してしまい、胸の中に苦いものが沸き上がるのを感じ、男を睨みつける。

 

「あんた、人身売買してんのか!?」

 

「へへへ、そうさ。ポケモンの売り買いも儲かるが、人間の子供を攫うのも良いビジネスなんだぜ」

 

途轍もない下衆だった。

 

リカもカスミもこの男の悪辣さを理解したのか、威嚇する声を上げながら男を睨んでいた。

 

男は2つのモンスターボールを投げる。

 

「行けスリープ、スリーパー!」

 

「スリィ」

 

「リィパァ」

 

スリープとスリーパー、どちらも催眠術を得意とするポケモンだ。

 

「まさか、その2体の催眠術で誘拐を!?」

 

「そうさ、こいつらの力を使えば楽に誘拐できると思ったわけよ。へへへ、お前たちは催眠にかける前に痛めつけてやる」

 

ポケモンを犯罪に利用するなんて、こんなやつを野放しにしておけない。ここで倒してジュンサーさんに突き出してやる!

 

「シャワシャワ!」

 

「ピッピー!」

 

起こったリカとカスミがカンフーのポーズや荒ぶる鷹のポーズで誘拐犯を威嚇する。

 

「2人は出なくていいから! バタフリーとスターミーはリカとカスミを守ってくれ」

 

バタフリーとスターミーが俺の言葉に頷き、2人を守るように前に出る。

この悪人は俺が倒す。

 

「ピカチュウ頼んだ、行けヒトカゲ!」

 

「スリーパー『サイコキネシス』、スリープ『サイコショック』!」

 

念導の波動と塊が猛烈な勢いでピカチュウとヒトカゲに迫る。

 

「ピカチュウ『ひかりのかべ』! ヒトカゲ『かえんほうしゃ』、スリーパーを狙え!」

 

「ピッカ!」

 

「カッゲエエエ!!」

 

ピカチュウが立てた尻尾が淡い光を放つ。

スリープの『サイコショック』はピカチュウの周りに出現した壁に遮られ威力は半減しピカチュウへは大したダメージにならず、スリーパーの『サイコキネシス』はヒトカゲの『かえんほうしゃ』に撃ち負け、炎がスリーパーに襲い掛かる。

 

「リパァ……」

 

炎に焼かれたスリーパーは目を回してしまう。それを隣のスリープが心配そうに見ていた。

 

「おいお前らしっかりしやがれ! バトルでも使いモンにならねぇなんて冗談じゃねえぞ!」

 

やはりこの男はトレーナーとしては三流もいいところ、一気に攻めて決める。

 

「ピカチュウ『10まんボルト』!」

 

「ピィカチュウウウウウウ!!」

 

莫大な電撃がスリープとスリーパーに容赦なく襲い掛かる。

痺れてダメージを受けた2体はあっという間に目を回して戦闘不能となった。

 

「ち、ちくしょう! ほんとに使えねえこの雑魚ども!!」

 

顔を醜く歪ませて倒れるスリープとスリーパーを罵る男。

こんなやつに負ける気なんてまったくなかった。

 

すると、俺の後ろから声がした。

 

「う、うーん……」

 

「あ、れ……ここは?」

 

リカとカスミだ。ポケモンの声ではなくちゃんとした人間の言葉を発しているということは、催眠によるポケモン返りが治ったということだ。

元に戻った2人に俺は安心して振り返った。

 

「な、なんなのこの首輪!?」

 

「サ、サトシ!? その……こういうのまだ私たちには早いと思うよ! べ、別に嫌ってわけじゃないけど、もう少し段階が――」

 

驚き赤面のカスミと頬を染めてもじもじしているリカ。

さっきまでの記憶が無いようだな。

 

「いろいろ反論したいけど今はそれどころじゃないから説明は後にするぜ」

 

俺がそう言うと、リカとカスミが周りを見渡す。

催眠が得意のスリープとスリーパーが倒れ、悪人面の男がいて、誘拐された男の子。

ここまで揃えばもうわかるだろう。

 

「あんまり記憶ないけど、あれが悪者ってことかしら?」

 

「男の子の誘拐犯ってことなんだね」

 

状況を理解してくれたカスミとリカは誘拐犯の男を睨む。

 

「くわ?」

 

緊迫した雰囲気の中、抜けたような声がした。

 

そこには先ほどのコダックがいた。

 

コダックは俺たちを見て首をかしげるとあちこち歩き回り、カスミとリカをに近づいたり、倒れているスリープとスリーパーに近づいてジッと見つめたりしていた。

なんなんだろうなあのコダック。

 

「クソが、こうなったら」

 

誘拐犯は悪態をつくと走り出し、何かの機械を操作していた。

駆動音と地響きが聞こえしばらくすると、どこからか大きなアンテナが出現した。

 

「な、なんだあれ?」

 

「へへへ、こいつは催眠波の拡張装置だ。これがあればここにいても街に向かってスリープどもの催眠波を飛ばせるって寸法さ」

 

男の表情はまるで勝利を確信したかのようだった。

 

「それにな、これは催眠波の拡張だけじゃねえんだぜ。実験を重ねたおかげで面白い機能もあるんだぜ」

 

その時、猛烈な悪寒がした。

 

俺はピカチュウとヒトカゲに合図を送るとリカとカスミの手を引いてその場から飛びのいた。バタフリーとスターミーも俺に合わせてその場から離れる。

 

それを感じた次の瞬間、強大な衝撃波が床と天井を削りながら迫ってきた。

轟音と共に俺たちが元居た場所が粉々にくだけていた。

 

「はははははは! この衝撃波を喰らえばお前もお前のポケモンどもも一気にお陀仏だ。おら死にやがれええええ!!」

 

アンテナの向きはピカチュウとヒトカゲに向かっていた。

 

「ピカチュウ、ヒトカゲ逃げろおおおおお!!」

 

咄嗟に俺はピカチュウとヒトカゲの小さな体を突き飛ばした。

全身に走る衝撃、呼吸が一瞬止まる。浮遊感を感じたと思ったら、背中に更なる衝撃、壁に激突したと理解したのは猛烈な激痛を感じた後だ。

 

「ぐうう……」

 

「「サトシ!!」」

 

悲鳴にも似たカスミとリカの叫び声。

駆けよる2人の姿がぼやけている。全身に残る痛みを感じながら必死の思いでなんとか意識を保つ。

 

 

どうにかしてあの装置を破壊しないと、次まとも攻撃を受けたらただじゃ済まない。

だが自分の体が思うように動かないことを理解してしまった。

 

その時、俺たちの前に現れる影。

 

「くわ?」

 

「なっ!」

 

なんでここにいるんだ。

 

「コダック今すぐそこを離れろぉ!」

 

俺が叫んだ瞬間、アンテナがエネルギーを貯め始める。

 

「やめてえ!」

 

俺が動けずにいると、カスミがコダックの前に飛び出した。

 

「カスミ!」

 

「ダメぇ!!」

 

轟音が空気を突き破る。その先にはカスミとコダックがいる。リカが飛び出そうとする。

動け、動いてくれ、このままじゃみんなが――

祈るが、俺の体は立ち上がるのが精一杯でそれ以上動けない。

何もできないことを呪いながら、リカとカスミの背中に手を伸ばす。

その時――

 

「くわわわわ、くわあ!!」

 

コダックが悲鳴を上げる。

ようやく状況を理解したのか慌てている。

 

「え……?」

 

俺は目を疑った。

コダックの周辺がねじ曲がっているように見えたからだ。

 

「くわああああああああああ!!!」

 

耳をつんざくようなコダックの叫び声を聞いた瞬間、その場の空気が変化するのを感じた。

カスミが身を挺して守っているコダックからとてつもないエネルギーが発せられていた。そのエネルギーはアンテナの衝撃波にぶつかると瞬く間に飲み込み、アンテナそのものに衝突、破壊してしまった。

 

「ぎ、ぎゃああああああああ!!!」

 

誘拐犯はコダックのエネルギーに巻き込まれ、聞き苦しい悲鳴を上げて吹き飛んだ。そのまま壁に衝突した誘拐犯は床に倒れ、気を失ってしまった。

 

予想外で一瞬の出来事で事態が終結したため、俺は呆然としているしかなかった。

リカとカスミも同じ心境なのか、ポカーンとした顔で何も言えずにいた。

 

「くわ?」

 

途轍もない力を振るって事件を解決させた張本人は、自分でも理解してないのか、先ほどと同様に頭に両手を触れさせ首を傾げていた。

 

 

 

***

 

 

 

俺たちの通報でジュンサーさんたち警察が駆けつけた。そしてそこには誘拐された子供の母親もいた。

母親は自分の子供の姿を確認するとすぐに駆け寄って子供を思い切り抱きしめた。

男の子は何も覚えていないようで、不思議そうな顔をしていた。

 

「事件解決に協力してくれてありがとう。心から感謝するわ」

 

ジュンサーさんは俺たちに礼を述べた。

 

事件の発端である誘拐犯の男は手錠をかけられ俯いていた。

俺は男に近づいた。どうしても聞きたいことがあったからだ。

 

「一つ聞きたい。どうして子供たちをポケモン返りさせたんだ?」

 

今回の誘拐事件の一番の謎だった。

スリープとスリーパーによる催眠で子供たちを誘拐するのはわかった。だが街で起こったポケモン返り、これもまた催眠による影響なのだろう。しかし、その意図がわからない。だからこそ男に聞いた。

 

「ああ? そんなの俺が聞きてえよ」

 

「……どういうことだ?」

 

悪態をついて吐き捨てるように言った男。その答えは「自分も知らない」というもの。

予想外の答えに俺も困惑してしまう。

男は続ける。

 

「けっ、あのスリープとスリーパーがまったく使いモンにならねえカスだってことだよ。あいつら、ガキどもを誘拐するための催眠をかけさせたのに、あんな訳の分からねえこと引き起こしやがって。クソせっかく捕まえたのによぉ!」

 

その言葉で俺は気づいた、気づいてしまった。この事件の真相。裏でいったい何が起きていたのかを。

俺はスリープとスリーパーに問いかけた。

 

「スリープ、スリーパー。お前たちはわざとポケモン返りさせてたのか?」

 

「どういうこと?」

 

カスミが問いかけるが俺はそれに答えるよりも自分の導き出した結論をスリープとスリーパーに確かめずにはいられなかった。

 

「お前たちは自分たちをゲットしたあの男がしようとしていることが悪いことだと気づいた。だから、催眠の失敗に見せかけてわざとポケモン返りをさせた」

 

「で、でも最初に誘拐された子供は?」

 

リカが俺に問う。その答えは簡単だ。

 

「きっと、子供を催眠で連れてきた目的が誘拐だって思わなかったんだ。1度目に男の子を連れてきたときに気づいたんだろう」

 

それだけじゃない。

 

「それに誘拐された男の子に対するポケモン返りには別の意図があったんだ」

 

「別の意図?」

 

カスミが疑問の声をあげる。

 

「誘拐された恐怖を紛らわせるためだ。ポケモン返りしている間は記憶が無い。おかげで誘拐された記憶もないってことになる」

 

そこまで考慮したスリープとスリーパーに俺は驚きを隠せない。

カスミちリカだけでなく、ジュンサーさんも男の子の母親も驚いているようだ。

 

「そして、スリープとスリーパーが男の子を助けるための行動は他にもあった」

 

俺は視線を下げてもう一人の登場人物を見る。

 

「このコダックだ」

 

俺の言葉にこの場にいる全員がコダックへと目を向ける。

当のコダックはよく理解できていないのか首をかしげている。

 

「コダックはスリープとスリーパーに選ばれたこの小屋への案内人だったんだ。コダックはエスパー技を使える。だからおそらくスリープとスリーパーのエスパー技の影響を受けるんだ。スリープとスリーパーはコダックに男の子を助けてくれる人間をここまで連れてきてくれるようにしたんだろう」

 

子供を超能力で檻から出して、催眠で家まで送るという方法があったのではと思ったが、先ほどの檻はセンサーで勝手に開けば警報音が鳴るようになっていた、さらに森から街までポケモンを持たない子供一人では危険だと判断したのだろう。

俺はしゃがみ込んでコダックに視線を合わせる。

そして、未だに疑問符を浮かべているであろうその丸い頭に軽く手を置いて撫でる。

 

「コダック自身は気づいてないかもしれないけどな」

 

「くわ?」

 

これが俺が導き出した真相だ。

 

「なんだよクソが! そんなクソポケモンだったのか、ご主人様に逆らいやがってこの無能ポケモンがぁ!」

 

誘拐犯の男は手錠をかけられながらも、態度を改めた様子はなく大声で悪態をついた。

俺は立ち上がって男に近づき睨む。

 

「なにが無能だ、なんにもわかってねえな」

 

「あんだと?」

 

「わからないのか? あんたが捕まえたスリープとスリーパーは自分の意思で正しいことをしようとした。トレーナーであるあんたを出し抜いてだ。それに気づかないあんたの方がよっぽど無能だ。だからあんたはこうして捕まってるんだよ。この間抜け!」

 

男は顔を真っ赤にして歪め、大声で何事かをまくし立てたが聞く気はない、聞く価値もない。俺は振り返って男から離れる。途中、リカとカスミが誘拐犯に対して侮蔑の視線を送っているのが見えた。

そして俺は座り込んでるスリープとスリーパーを見た。

 

「本当のヒーローはスリープとスリーパーだ」

 

「それとコダックもな」

 

すると男の子が近づいてくる。

 

「僕、誘拐されたことはよく覚えてないけど、スリープとスリーパーが近くにいたことはなんとなく覚えてる。夢だと思ってたけど、僕のこと、守ろうとしてくれたの?」

 

男の子の言葉にスリープとスリーパーはただ笑うだけだった。とても優しい笑みだ。

 

「ありがとう」

 

すると後ろから男の子の母親も歩み寄ってくる。

 

「この子を守ってくれて本当にありがとう」

 

スリープとスリーパーは照れ臭そうに頬をかいていた。

 

「ジュンサーさん、スリープとスリーパーは――」

 

「ええ、わかってるわ。ちゃんと保護して、大事にしてくれるトレーナーの元に必ず届けるわ」

 

ジュンサーさんの言葉で心配事は解決した。

振り返ってカスミとリカを見ると、2人も安堵の表情を浮かべていた。

 

 

 

***

 

 

 

パトカーは犯人を乗せて警察署へと向かった。

街に戻ると、男の子とその母親は俺たちに礼を述べて家へと帰った。

これで一件落着。

 

 

「……本当に私たちが自分で付けたの?」

 

「だからそうだって」

 

「……この首輪付けて、リードで引っ張られながら、街を……」

 

俺は首輪の件を追求されていた。

経緯を話すと2人は顔を真っ赤にして地面をゴロゴロ転がるのではないかというくらい悶えていた。

 

「ポケモン返りの影響だと思うから、誰も悪く……いやあの犯人が全部悪いんだよ。俺も今回のことは忘れるからさ、気にしないで」

 

「……わかった」

 

「私たちも忘れることにする」

 

渋々といった様子だが納得してくれた。

 

「その首輪どうする? 捨てる?」

 

「……一応持っとく」

 

カスミとリカは首輪とリードを自分のリュックの中に入れた。

 

「へ?」

 

「ち、ちがうよサトシ、もったいないとかじゃなくて、その……」

 

「そ、そう戒めよ! 今回みたいなことにならないように反省しないといけないって言うか!」

 

「う、うん、そうそうそうだよ!」

 

顔を赤くして早口でそう言うリカとカスミ。

さっき「忘れる」って言ってなかった?

 

が、俺としてはこれ以上触れるのは恐ろしいため「お、おう」と言うだけでこの話を切り上げた。

 

次の町へ行くために俺たちはポケモンセンターを出た。

よくよく考えれば、首輪の件を多くの街の人たちに見られている俺たちは一刻も早くここを出たほうがいいのでは?

 

見た人に遭遇しませんようにと祈りながら歩いていると、

 

「くわ?」

 

「「「コダック?」」」

 

先ほど別れたはずのコダックがそこにいた。

 

「どうしたのよ、もしかして迷子?」

 

カスミがコダックに近づいてしゃがみ込む。

コダックはジッとカスミを見ている。

 

「もしかしてカスミに付いていきたいのか?」

 

俺が言うとカスミが振り返って驚いていた。

リカが続く。

 

「きっとそうだよ。カスミに守ってもらったのが嬉しかったんだよ」

 

カスミが再びコダックを見る。

 

「そうなの?」

 

「くわ?」

 

コダックは首を傾げている。

うーむ、自分で言っといてなんだが、違うような気もしてきた。

ここはカスミがどうしたいか聞こう。

 

「カスミはどうだ? そのコダック」

 

「え? うーん、可愛いとは思うけど……」

 

「ゲットしてみようよ、さっきのコダック凄かったでしょ! きっと強く育つと思うよ!」

 

リカはゲットに乗り気のようだ。確かにあの『サイコキネシス』は途轍もないパワーだった。未知数の潜在能力があるんだな。

 

「ねえ、私たちと来る?」

 

「くわ!」

 

今の返事は明確な肯定の意思を感じた。首も傾げていない。

これはもう決まりだな。

 

カスミは頷くとモンスターボールを取り出し、コダックへと差し出す。

コダックは嘴で開閉スイッチを押す。するとボールの中へと入った。

 

モンスターボールはそのまま動くことなくカチリという音を鳴らした。

 

「よっし、コダックゲットよ!」

 

カスミはモンスターボールを高く突き上げた。

俺とリカは顔を見合わせて笑いあった。

 

新しい仲間を迎えて俺たちの旅は更に賑やかになりそうだ。




今回もかなり凶悪な犯罪が出てしまいました。
真相解明までのロジックがガバガバではないか心配です。

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