サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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後編です。


海だ水着だ アオプルコ 後編

広大な海のリゾート地アオプルコに訪れた俺たちはジムリーダーのエリカとナツメと再会した。

腹を割ってより深い友人となった俺たちは砂浜で親睦を深めるために遊んでいた。

 

「あらこの子」

 

「くわっ?」

声に振り向くとナツメがカスミの足元にいるコダックを見ていた。

 

「コダックがどうかしたの?」

 

「うん、少し気になって……この子、もしかしてエスパー技が使えるの?」

 

「ええ、そうよ。ポケモン図鑑で調べてもらったら『ねんりき』を覚えてたわ」

 

「コダックと出会った時なんだけどさ――」

 

俺たちは先日のポケモン返り事件とコダックの活躍を話した。

 

「やっぱり……この子にはとてつもないエスパーの潜在能力があるみたいね」

 

「そうなの?」

 

「ええ、コダックと進化形のゴルダックは水タイプだけのポケモンだけどエスパー技が使える珍しいポケモンなのは前から知られているわ。けどこの子はとっても素養が強く思えるの」

 

確かにあの悪人をぶっ飛ばしたのはすごいと思っていたけど。

エスパータイプのエキスパートからお墨付きを貰うなんて、やっぱりコダックすげえじゃん。

 

「試しに技を出してみて」

 

「オーケー、コダック『ねんりき』よ!」

 

ナツメに促されてカスミは指示を出す。

 

「くわ?」

 

「もうコダック、『ねんりき』よ! ね・ん・り・き!」

 

「くわっ?」

 

カスミが何度も技を命じるがコダックは首をかしげるばかり。可愛い仕草ではあるが、うまくいかないみたいだな。

 

「うーどうしてよー」

 

うめくカスミがコダックのほっぺをフニフニといじる。

 

「本人はあまり自覚がないみたいね……そうだ、これはどうかしら」

 

「おいでヤドラン」

 

「ヤド……」

 

ナツメに呼ばれたヤドランはのそりのそりとこちらに歩いてきた。

 

「わあ可愛い!」

 

カスミは新しい水タイプに大興奮だ。

 

「ピンクのボディ、このぼんやりした顔、おっきなお腹、尻尾のシェルダーも可愛いわ!」

 

「この子は水とエスパータイプだから、コダックと遊ばせてみればなにか掴めるかも」

 

「ほんと! ありがとうナツメ!」

 

「いいのよ、カスミのコダックがどこまで成長するのか私も知りたいもの」

 

ナツメの指示を受け、ヤドランはコダックと向かい合う。小さいコダックはヤドランを見上げ、大きなヤドランはコダックを見下ろす形になる。

 

「くわ……」

 

「ヤド……」

 

「くぉふぁ……」

 

「ヤァドラ……」

 

「くわぁ……」

 

「ヤァドラァン……」

 

見つめ合い、何かしら短い鳴き声を発する2体。

2人の間でそれだけの時間が過ぎていく。

 

「……ねえナツメ、これってうまくいってるの?」

 

カスミが困り果てたような顔でナツメに尋ねる。

 

「……うーんどうかしら、ヤドランって私でもわからないことが時々……ほとんどだから」

 

「テレパシーで読めないのか?」

 

「ええと、実は私テレパシーはそんなに得意じゃないの」

 

「そうなのか」

 

「ええ、でも心を読むってよくないことだと思うの。だから上手く使えなくてもそれでいいと思ってるわ」

 

やっぱりナツメは他人のことを考えられる素敵な女性だ。

 

「そっか、それならあの時ナツメのテレパシーが俺に届いたのはかなりの確率だったってことだな」

 

「もしかしたら運命の人を見つけるためにあの時は力を発揮できたのかもね」

 

「へ?」

 

「あなたと出会えたことは私にとって最大の幸運よ、サトシ」

 

ほんのり頬を染めたナツメが微笑む。その表情に胸がトクンと高鳴る。

 

「むー」

 

「あ、カスミ」

 

「『あ』ってなによ、私のこと忘れてたの!?」

 

「い、いやそういうわけじゃ」

 

「むーナツメ!」

 

「なにかしら?」

 

「ビーチバレーで勝負よ!」

 

カスミはビシッと指をさして宣言する。

 

「あらいいわね。かかってきなさい」

 

ナツメは髪をかき上げて答える。

 

火花を散らした2人は揃って歩いてリカとエリカのいる場所に向かった。

話し合い、リカ・カスミ、エリカ・ナツメでそれぞれペアを組むことになった。

 

 

 

 

「リカ、そっち行ったわよ!」

 

「そーれっ!」

 

「ナツメさん、お願いしますわ!」

 

「任せて!」

 

太陽に照らされた砂浜、備え付けられたネットを挟んでビーチバレーに興じるのは4人の美少女。

マサラタウンのリカ、ハナダシティジムリーダーのカスミ、タマムシシティジムリーダーのエリカ、ヤマブキシティジムリーダーのナツメ。

そんな誰もが認める美少女たちが、互いのコートで走って、飛んで跳ねてボールを追っている。

 

俺はその光景を瞬きするのも惜しいとばかりに見入っていた。

だって揺れてるもの、4人が飛んだり跳ねたり走り回ると、その胸にある素晴らしいボールが、タプンタプンとブルンブルンと、激しく揺れます。

カスミとリカが歳の割りに素晴らしい発育で胸の成長が著しいのは知っていたが、エリカには驚いた。

着物では全然目立たなくて気付かなかったが、双丘はとても大きい。

そして、ナツメだ。普段のボディラインが目立つ服装かから、抜群のスタイルは知っていた。

それがこうしてビキニの水着になると眩しい素肌や曲線美に見惚れてしまう。豊満な胸も素晴らしいが、注目すべきは彼女の臀部だ。みっちりと大きいお尻はバランスを損なうことなく美しい形だ。

 

ここまで彼女たちの『メロメロボディ』な水着姿を批評してきて、その結論は何かというと――

 

こんな美人たちと遊べる俺って最高に幸せじゃん、ということだ。

そんなことを思っていると、カスミのスパイク。おお見事な動きです。

 

そう感慨深く思っているとナツメがこっちに振り返った。

 

「もうサトシ、そんなに見ないでよ」

 

頬を赤く染めてナツメは言った。

あ、見てるのバレてた。あ、俺〇されんじゃね?

とビクビクしているがナツメはプイッと顔をそらしただけで何もなかった。

1回目は許してくれたのだろうか?

 

「……お尻大きいの気にしてるのに」

 

そんな呟きが聞こえた。

いえ、大きいお尻もいいですよ。

 

ナツメがこっちを振り返って赤い顔で膨れていた。

もしかして本当は心読めるの?

 

そんなことを考えていると視界の端でピカチュウがスターミーに乗って波に乗っていた。

可愛い。

 

 

 

***

 

 

 

美女美少女たちのビーチバレーは続いている。みんな順番に交代しながら行っている。

俺も混ぜてもらった。サービスエースをバシバシ決めて、スパイクをバンバン打ち込むって楽しいな!

そうしたら女性陣全員に「パワーバランス崩れるからしばらく外れて」と涙目で懇願された。

女の涙にゃ勝てません。

俺は空を見上げていた。

そんな俺に話しかけてきた人がいる。

 

「ごめんなさいねサトシさん、嫌な気分になりましたか?」

 

エリカが恐る恐る尋ねてきた。

 

「エリカ、ああ、ううん全然思ってないよ。むしろ俺の方こそ好き放題暴れてごめんな」

 

「いいえ、サトシさんも楽しんでほしいのに思慮が足りずに本当に申し訳ないです」

 

「うーん、それなら今度は俺一人対女子全員で試合しようぜ。面白そうだろ?」

 

俺が言うとエリカは一瞬ポカンとなると笑い出した。

 

「うふふふ、それはいいですわね。あとで皆さんにも話しましょう」

 

エリカは花のように笑顔が開く。美麗なスタイルと相まって胸がときめいてしまう。

 

「時にサトシさん、日焼け止めかサンオイルは塗っていますか?」

 

「いや塗っていないよ」

 

「まあ! 今日はとっても日差しが強いのですから、塗らないといけませんわ」

 

「平気だよ、俺男だし、肌が焼けるくらいどうってこと「いけませんわ!」ええ?」

 

「誰であってもお肌の手入れは必須、怠ればお肌が取り返しのつかないことになりますわ」

 

「何もしなくても焼けば肌が小麦色になるとお思いでしょう。ですが、それは大きな間違い、何もせずに紫外線に当たりっぱなしになると、皮膚が赤く炎症を起こすのです。そこで皮膚を守ろうとするメラニンが増えるのですが、それは肌のシミになってしまうのですわ」

 

「赤くなった肌でお風呂にでも入ったら痛い痛いになりますわ」

 

真剣な顔で迫るエリカに圧倒される。その上、目の前にはドアップのエリカの顔、あまりの剣幕に恐怖に近いドキドキを感じる。

 

「わ、わかったわかったから」

 

「はいよろしい。というわけで、サトシさんには(わたくし)が日焼け止めを塗って差し上げます」

 

「え、いやそれくらい自分で「ノーですわ」ええ……」

 

「自分で塗るよりも人に塗ってもらう方が細かいところまで行き届くのです。普段見えない背中もしっかり塗らないといけませんし。それに、(わたくし)、塗るのは得意ですのよ」

 

「そ、それならお願いしようかな」

 

「はい喜んで」

 

まさかエリカに日焼け止めを塗ってもらうことになるとはな。ニヤニヤしてないよ、ほんとだよ。

後ろからエリカの楽しそうな鼻歌が聞こえる。

 

「それでは始めさせていただきますわ」

 

すぐ後ろ、耳元からエリカの声。いくらなんでも近すぎないかと思い振り返るとエリカが俺に覆いかぶさっていた、胸元の水着を外して。

 

「ちょおおおおおお!!」

 

「きゃん」

 

俺は思わず上半身を上げて悲鳴をあげてしまった。

可愛く鳴いて尻餅をつくエリカ、その恰好に目を疑ってしまった。彼女はトップスを外していた。その肌は何故かテラテラしていた。

豊満な乳房が丸見えになっていたので、俺はマッハパンチも置いてけぼりなスピードで顔を逸らし目をつぶった。ギリギリ見てない、うん、見てない。

 

「な、なにやってんだ!!」

 

「なにって、サトシさんに日焼け止めを塗るのですわ」

 

エリカはさも当たり前のことをしているような声で言った。

 

「それでなんで上脱いでんだよ」

 

(わたくし)の身体で塗るためですわ」

 

「手でいいでしょ! 身体はおかしいでしょ!?」

 

「そうですか? 今日(わたくし)が日焼け止めを塗ったときは、女の子たちと全身を使った塗り合いっこを――」

 

「はいわかりましたそれ以上は言わなくていい! やめて!」

 

「うふふ、先ほどからのサトシさんの視線、気づいてましたわ」

 

え、バレてたの恥ずかしい!

 

「サトシさんがそんなに乳房がお好きならここを使って塗って差し上げたいのですわ。ご安心ください。柔らかさやハリには自信があります。サトシさんの全身を隈なく塗って御覧に入れますわ」

 

エリカの目は俺の全身を嘗め回すように見つけてギラつき、ハァハァと息も荒い。あまりに圧力のある顔に体が動かない

ヤバイ逃げられない! 『にげあし』が発動しない。ピッピにんぎょうは、けむりだまはどこだ!

サトシは混乱している、わけもわからず現実逃避を――

 

「きゃう!」

 

不意にエリカの動きが止まり、可愛い悲鳴を上げた。

なんだこれ、まるで見えない壁があるような

 

「まったく、何をしてるの」

 

「ナツメ?」

 

ナツメの隣には困り顔のバリアードが立っていた。

この壁はこいつのリフレクターか。

 

「うー……ひどいですわぁ…… (わたくし)サトシさんに喜んで頂きたいだけですのに」

 

赤くなった鼻をさすってエリカは呻く。

 

「エリカ、そんなに日焼け止めが好きなら私たちが塗ってあげるわ」

 

「全身隈なく擦り切れるまでたっぷり塗ってあげるから、向こう行くよ」

 

いつの間にか現れたカスミとリカがエリカの前に立ちふさがっていた。

 

「まあ、それはそれでご褒美! ぜひサトシさんもいっしょに――」

 

「「はい黙って」」

 

「あーんサトシさーん」

 

リカとカスミに両脇をつかまれてエリカは向こうへ連行された。

 

「助かったよナツメ、ありがとう」

 

「いいのよこれくらい」

 

微笑むナツメに少しドキリとする。うーん美人のお姉さんに見つめられるのはやっぱり照れるな。

 

「けど、エリカの言う通り日焼け止め塗ってないのはあとあと大変よよかったら私が塗るけど、どう?」

 

「じゃあお願いしようかな」

 

お言葉に甘えてうつ伏せになる。

 

「それじゃお願いします」

 

背中に冷たい液体と暖かい手の感触、一瞬ビクリとしてしまうがすぐに慣れてされるがまま身を任せる。

 

「こうしてると、男の人って、女の子と全然違うのね」

 

塗りながらナツメが呟く。彼女の両手が俺の肩に触れる。

 

「すごい、こんなにおっきい……」

 

聞こえる言葉に熱が艶があり、耳がゾクゾクとしてしまう。

ナツメの手が俺の腕に来た。

 

「わ……ここすごく固い……」

 

い、いや、そんなに固くないはずだよ。

ナツメさん、発言がなにやら不穏になってますよ。その気はないかもしれないけど危ないですから!

 

「男の人のって……すごいのね」

 

これはまずい、今ナツメの顔を見ることができない。というか立ち上がることができるのかすら怪しいぞ。塗られる側になっても変な気持ちになってしまうなんて恐るべし日焼け止めとサンオイル。

熱のこもったナツメの『チャームボイス』に悶々としてしまい、なにかが沸き上がって爆発しないように心頭滅却し、煩悩を打ち消す時間が続いた。

 

 

 

***

 

 

 

煩悩の大試練を終えた俺は気分を変えるために、何か売店で買おうかなと店に入ろうとした。

 

「ねえ僕、ちょっといいかしら?」

 

声をかけられて振り返ると、そこには綺麗な顔立ちの大人のお姉さんが2人いた。

ビキニを着た肢体はスタイル抜群で思わず豊かな双丘に目を奪われてしまった。

 

「ねえ僕、一人?」

 

「お姉さんたちと遊ばない?」

 

まさかの逆ナン? 人生で初めての逆ナン?

こんな綺麗なお姉さんたちにお誘いいただけるなんて普通は舞い上がってしまう。しかし、

 

「すいません、俺今一緒に来てる女の子たちがいるんで行けません」

 

「そんな女の子のことなんていいじゃない」

 

「お姉さんたちの方が楽しいわよ、いらっしゃい」

 

胸の谷間を強調してくるお姉さんと、俺の腕を優しく撫でてくるお姉さん。

その色気と『ゆうわく』にたじろいでいると、

 

「何してるんですか!?」

 

「サトシ大丈夫!?」

 

リカとカスミがこっちに走って来た。2人は俺とお姉さんの間に割って入った。

 

「なによあなたたち」

 

「この子の言ってた女の子?」

 

怪訝な顔になったお姉さんたちは値踏みするようにカスミとリカのことを見ていた。

 

「ふーんまあ、それなりに可愛いしスタイルも悪くないみたいね」

 

「けど私たちみたいなお姉さんと一緒にいる方がこの子も嬉しいはずよ」

 

「彼は私たちの仲間なんです勝手に連れていかれては困ります」

 

勝ち誇るお姉さんたちに対しリカとカスミは一歩も引かない。

 

「それならポケモンバトルで決めましょう。私たちが勝ったらその子は連れていく。あんたたちが勝ったら諦めるわ」

 

お姉さん2人はモンスターボールを取り出す。

 

「いいですよその勝負受けます」

 

「そうこなくっちゃ」

 

あれ、なんだかこれ色々逆じゃね?

 

リカとカスミ、2人のお姉さんはポケモンが動きやすいように間をあけて対峙する。

 

「ちょうどいいわ。いい男逆ナンしたくて海に来たのに、全然捕まらなくてイライラしてたのよ」

 

「イライラを発散させてもらうわ。さっきから声かけようとしても良さそうな男たちみんなビーチバレーしててこっちのこと見やしないのよ」

 

あ、すいません。それこちらに身内が原因です。

 

「だからって私たちのサトシに手は出させないわ!」

 

「絶対に負けません。サトシは渡さない!」

 

やっぱり、色々逆な気がする。

 

 

 

 

「シャワーズ『ハイドロポンプ』!」

 

「フシギソウ『リーフストーム』!」

 

大技を受けたお姉さんたちのポケモン――プリンとマリルが大技を受けて戦闘不能になる。

あっという間に決着がつき、お姉さんたちが放心したように立ち尽くす。

 

「私たちの勝ちよ!」

 

「サトシのことは諦めてもらいます!」

 

カスミとリカが勝ち誇った顔でビシリと指差す。

 

「うえええええん!」

 

「覚えてなさいよおおお!」

 

泣き出したお姉さんたちはポケモンたちをボールに戻すと走って逃げてしまった。

フシギソウとシャワーズがリカとカスミの足元に来る。2人はそれぞれのポケモンを撫でて褒めてあげている。

 

「2人ともナイスバトルだったな、シャワーズとフシギソウもな」

 

声をかけると2人は瞬く間に俺との距離を詰めてきて、俺の左右の手をそれぞれの両手でギュッと握った。

 

「サトシ、変な女の人がいるから気を付けないとダメだよ」

 

「私たちから離れちゃダメよ、いいわね」

 

「あ、はい」

 

やだ2人ともイケメン。うん、やっぱり何かが逆だ。

その時、視界の端が1人の女性が2人組の男性に話しかけられているのを捉えた。

すぐに俺は走り出した。なぜならその女性は俺の、サトシの母さんだからだ。

 

「ねえねえお姉さん俺たちと遊ぼうよ」

 

「あらあらごめんなさい、私こう見えても1児の母親なのよ」

 

「またまたそんなこと言って~」

 

「お姉さんまだ10代でしょ? そんな綺麗な人が子供いるわけないじゃん」

 

「あらあらお上手ね」

 

自分よりも背の高い、いかにも素行の悪そうな男2人に迫られているというのに母さんはのんびりとした顔でニコニコと笑っている。

 

「母さん!」

 

「あらサトシじゃない」

 

こちらに気づいた母さんはオレンジのワンピース型の身につけている。胸元は豊かに膨らんで、腰から臀部にかけて見事な曲線美を描いている。本当に子供がいるのが信じられないスタイルの良さだ。

 

「サトシもここに来てたなんてびっくりよー」

 

俺を見た母さんは満面の笑みを浮かべてタタタッと走ってきて、思いっきり抱きしめてきた。顔全体に大きくて柔らかい質量が包み込む。

すげえ大きいです。母親とはいえなかなかこれはまずい状況なのでは?

 

「え、ほんとに子供いたのか」

 

「でもこれだけ美人なら子供いても問題なくね?」

 

「そうだな、むしろイイじゃん」

 

「なあ僕~お兄さんたち君のママと大事なお話あるから向こう行っててくれないかな~」

 

親子水入らずな空気読めない連中はまだいました。

こいつら、人の母親になんちゅうことしてくれんだ。あときったねえ笑顔向けんじゃねえ。

ピカチュウの『10まんボルト』……いや、スーパーマサラパンチ喰らわせてやろうか。

……あ、待てよ。

ふと思い出し、俺はあるものを取り出す。

 

「ん、なにこれ?」

 

俺の手にあるのはエリカの例のお香だ。渡されたまま返してなかった。俺は試しにこのお香を嗅がせてみることにした。

 

「えーと、あんたたちはビーチバレーをしたくなーるしたくなーる……」

 

ほんとに効くのかこれ?

 

「……」

 

「……」

 

無表情のままジッと黙るチャラ男たち。失敗か?

 

「……ビーチバレー、○○先生、ビーチバレーがしたいです」

 

「……お、俺にはねぇ……ビーチバレーしかないんですよ!」

 

成功したようだ。方や膝から崩れ落ちて呻き、方や涙目で語りだす。

 

「あの、向こうでビーチバレーしてますけど……」

 

「ビーチバレー……行くぞ、俺は諦めねえ! 限界なんて言葉はねえんだ!」

 

「うおおおおやってやるぜ! 俺に勝てるのは俺だけだ!」

 

ものすごい勢いで走り出したチャラ男2人は、ビーチバレーの熱戦が続いているコートへと一直線。

 

「どうしたのかしら?」

 

「さ、さあ、急にビーチバレーやりたくなったんじゃない?」

 

「それにしても母さんがここにいるとは思わなかったよ」

 

「あらサトシ、今まで『ママ』って呼んでくれたのにどうしたの?」

 

「俺ももういい歳なんだし、いい加減『ママ』はやめようと思ってさ」

 

「そうなの、サトシが成長してくれて嬉しいような悲しいような」

 

久々の親子の会話をしていると後ろから複数の足音。振り返ると予想通りにリカ、カスミ、ナツメ、エリカが歩いてきていた。

 

「ハナコさん、お久しぶりです」

 

「リカちゃん久しぶりね、旅が順調そうで良かったわ」

 

「こんにちはハナコさん、こうして直接お会いするのは初めてですね」

 

「まあまあ、カスミちゃん。直接見ると画面で見るよりもずっと美人さんね。こうして会えて嬉しいわ」

 

リカとカスミが挨拶すると母さんは嬉しそうに笑う。

 

「初めまして、私はヤマブキジムのジムリーダーナツメです。サトシ君には大変お世話になりました」

 

「初めましてお義母様、(わたくし)はタマムシジムのジムリーダーを務めさせていただいております。エリカと申します。サトシさんとはそれはもう、深くふかーくお付き合いさせていただいてますわ」

 

「まあジムリーダーのナツメさんにエリカさん! お二人のことはテレビや雑誌で拝見しています!」

 

流石にカントーでも有名なジムリーダーであるナツメとエリカの登場に母さんは目を見開いて驚いていた。

 

「お二人とも生で見ると本当にお綺麗ね」

 

「まあ、ありがとうございます。サトシさんのお義母様がこんなにお若くてお綺麗だなんて、驚きましたわ」

 

「まあまあありがとうございます。うふふふ……」

 

「サトシ君……御子息は本当にトレーナーとしても人としてもご立派です。彼のお陰で私は救われました」

 

「あの子がそんなにすごいことをしたのですか? 詳しく聞きたいです」

 

母さんはエリカとナツメとも仲良くなれたようだ。

 

「うむ、みんな元気そうだな」

 

高齢男性の声、しかも聞き覚え型合った。もしかして、

 

「「「オーキド博士!?」」」

 

「やあサトシ君、リカ君、カスミ君、久しぶりだな」

 

我らがオーキド博士がトランクス型の海パンに白衣を纏い立っていた。意外と筋肉質なのには驚いた。

ぐぬぬ、俺もいつかあんな肉体に。

 

「オーキド博士ですね。御高名はかねがね伺っておりますわ。タマムシシティジムリーダーのエリカです」

 

「お会いできて幸栄ですオーキド博士、ヤマブキシティジムリーダーのナツメです」

 

「おお、ジムリーダーのエリカさんとナツメさんか、こちらこそ会えて嬉しい」

 

エリカとナツメが交互にオーキド博士と握手を交わす。ほう、エリカが博士と握手するとは、男嫌い改善されたようでなによりだ。

 

「オーキド博士も来てたんですか」

 

「そうよサトシ、母さんと一緒にね」

 

「え?」

 

「近くの町で用があっての、海が近くにあると話したらハナコさんもついて行きたいと言って連れてきたのじゃ。ハナコさんには普段からお世話になっておるからの」

 

「あの博士、ちょっとこっちに来てもらえますか?」

 

「ぬ、なんじゃ?」

 

俺は博士をみんなから離れた建物の近くまで連れてきた。オーキド博士を壁に追い込んだ俺は片手をドンッと壁に叩きつける。

博士は驚愕の表情になる。

 

「な、なんじゃ!」

 

「……博士、まさかとは思いますけど、母さんに手を出そうとしてるんじゃないでしょうね?」

 

「な、何を言うとるかサトシ君! そんな気はない!」

 

「どうでしょうね。こんな海まで2人きりの男女で来るなんてただの知り合いですることでしょうか?」

 

「疑う気持ちもわからんではない。じゃがワシはもうジジイじゃぞ。この歳になってずっと歳の離れた女性に邪なことはせん!」

 

「あははは、博士はお若く見えますし、まだまだお元気そうですからそんな気があってもおかしくないですよ」

 

「褒めてくれるのは嬉しいが、本当にそんな気はない。ハナコさんには普段お世話になっているだけじゃ。研究に没頭していると、食事も掃除といった家事の一切が疎かになるのじゃ。ハナコさんはそんなワシの不摂生な生活を見かねて、家事を引き受けてもらっておる。海に連れてきたのも普段の感謝の気持ちがあってのことじゃ!」

 

「本当ですか?」

 

「もちろんじゃ。我が孫であるシゲルに、この世のすべてのポケモンたちに誓って本当じゃ!」

 

俺はジッとオーキド博士の顔を見る。

 

「わかりました。信じます」

 

「そうかよかった」

 

オーキド博士はホッとした顔になる。

 

「ねえねえ見て見て、可愛い男の子がダンディなおじ様を壁ドンしてるわ」

 

「あんなに歳の離れたおじショタなんてレベルが高いわ!」

 

「しかも男の子の方が攻め? グハッ、滾る滾るわ!」

 

「いいえ、あれはおじ様の誘い受けよ。丁寧にじっとりと男の子にいろいろ教えてあげてるのよ」

 

俺と博士の空気が『ぜったいれいど』のごとく凍り付く。周りには水着で眼鏡をかけた大人しそうな美人さんたちが『くろいまなざし』から『あやしいひかり』を放っている。あまりにドロドロとした『プレッシャー』に耐え切れなくなり、

 

「ここを離れましょう博士」

 

「うむ、このままでは大変なことになる、すぐに行こう」

 

俺たちの名誉が大変なことになりますね。

頷き合った俺と博士はそそくさとその場を離れた。

 

 

 

***

 

 

 

やらなくてはいけないことがある。

旅立ちの日以来に直接顔を合わせる。俺の――サトシの母親であるハナコさん。

ずっと言いたかったこと、伝えたいことがある。

まだ先になると思っていたけど、ここで再会したなら、今しなければいけない。

そう思った。

 

「あのさ母さん、話したいことがあるんだ」

 

「うん? なあに?」

 

「実は俺――」

 

俺は話した。俺に違う人間の記憶があること。サトシとしての記憶はあるが、人格が前の人間のものであること。

 

「サトシ……」

 

「馬鹿ね、そんなことずっと気にしてたの」

 

「お母さんに言わせれば、あなたは何にも変わってないわ。生まれてから今日まで、いつでも私の知るサトシよ。たとえあなたにどんな記憶があっても、何も変わらないあなたは私の大事な息子。いつでもどこでも、どんなに離れてもね」

 

「母さん……」

 

「ほら、母さんのことはいいから、向こうで可愛い女の子たちと遊んできなさい」

 

母さんに促され、俺はカスミとリカのところまで歩いていく。

 

「ハナコさんとお話はもういいの?」

 

「あ、ああ、うん。もう、終わった」

 

みんなと話しながら歩いていると、砂浜の一箇所に人だかりができていることに気づいた。

 

「なんだろう?」

 

答えはすぐにわかった。大きな看板がデカデカと看板が掲げてあったからだ。

 

「『女性トレーナーの水着コンテスト】だって」

 

「面白そうね、リカ一緒に出ましょ」

 

「ええ、こんな大勢の人たちの前で、水着でパフォーマンスなんて、恥ずかしいよ」

 

「大丈夫よ、せっかくのナイスバディなんだから見せつけてやりなさい」

 

「で、でも……」

 

「サトシもきっと、私たちが頑張るところ見たいはずよ」

 

「! じゃ、じゃあ出てみようかな」

 

「うんうん、そうこなくっちゃ。ナツメとエリカはどう?」

 

「こういう騒がしいイベントはどうも苦手なの」

 

(わたくし)も、不特定多数の方に体を晒すのはあまりしたくありませんわ」

 

「そっか、じゃあ私たちだけでいくね」

 

「行ってきます」

 

「おう、いってらっしゃい」

 

そう言って2人はエントリーのために受付に向かった。

 

砂浜に建てられた水着コンテストのステージ、出場者のための舞台とその横には審査員と思しき人たちが3人ほど席に座っている。

そして、司会者と思しき派手な衣装の男性とそのアシスタントと思しき水着姿の女性が話し合っていた。

 

カメラを持った男どももチラホラ。

カスミとリカの番になったら叩き壊してやろうかな。

 

『お待たせいたしました。女性トレーナー水着コンテストを開催します』

 

司会の男性の開会宣言に会場が大きく沸いた。

 

水着姿の女性トレーナーが手持ちのポケモンと共にパフォーマンスをするのがコンセプトのようだ。

みんなポケモンの技で思い思いのパフォーマンスを見せてくれる。

美しかったり、驚かせてくれたりで観客は拍手を声援を送る。

 

順番が回ってきた。リカの番だ。

 

サンダースの雷とブースターの炎が強く激しく動く。

フシギソウの葉っぱが華麗に踊る。

バタフリーが流れるのような蝶の舞を披露する。

ピッピの放つ“ムーンフォース”が神秘的な光を生み出す。

 

入れ替わるように出てきたのはカスミだ。

 

シャワーズが“アクアリング”を纏い、ゆったりとしながら流れるようにステージを動き回る。

ヒトデマンが輝く“パワージェム”を操り宙に浮かし、それをスターミーが水流を周りを飾るような流麗な動きを見せる。

 

「2人ともすごいな」

 

「カスミさんもリカさんもポケモンたちとの息がピッタリですわね」

 

「みんな楽しそうね、こっちまで楽しくなるわ」

 

エリカとナツメ、ジムリーダーからの評価も上々、リカとカスミはまた腕を上げたんだな。

 

「うむ、見事なものじゃ」

 

「ポケモントレーナーってこんなこともできてすごいわね」

 

オーキド博士と母さんが感心している。見る人たちを魅了する2人に俺もなんだか嬉しくなった。

 

 

 

***

 

 

 

コンテストの舞台裏、といっても表の観客たちからは見えないステージの裏でしかないのだが。ここでは出場者である女性トレーナーたちが、自分の順番を待ち、あるいは順番を終え、結果発表を待っている。

ポケモンのコンディションを確かめているトレーナーもいるため、あちこちにポケモンが歩いたり走ったり飛んだりしている。

 

1体のゴルバットが退屈そうに飛んでいる。少し低めに飛んでいると、不意に現れたウツドンにぶつかってしまった。

ぶつかってきたゴルバットにウツドンは抗議の声を上げる。しかしゴルバットは「わざとじゃないんだから怒るなよ」という視線を送り飛び去ろうとする。

怒ったウツドンが“はっぱカッター”をゴルバットめがけて発射、ゴルバットはすんでのところで回避。すると外れた“はっぱカッター”はゆったり飛んでいたキャモメに当たる。

不意の攻撃に怒ったキャモメが“エアカッター”をめちゃめちゃに放ちまくる。

 

ゴルバットは度重なるポケモンからの攻撃に驚き、得意の『ちょうおんぱ』をあたり構わず発射した。急に快音波が鳴り響き、トレーナーもポケモンも苦痛の表情を浮かべる。

特にポケモンたちは『ちょうおんぱ』の効果により、その場にいたポケモンたちが混乱状態に陥る。

 

「ちょっと、暴れないで!」

 

「落ち着いてったら!」

 

トレーナーの水着少女たちの言葉はポケモンたちには届かず、混乱したポケモンたちが暴れながら控室を飛び出した。

会場に出てきたポケモンたち、ゴルバットやキャモメといった飛行ポケモンたちが翼から刃を飛ばし、ウツドンやコノハナなどの草ポケモンたちが鋭い葉を乱射する。

『エアカッター』が『はっぱカッター』が会場の人間たちに襲い掛かる。

 

 

 

***

 

 

 

急にステージに現れたたくさんのポケモンたちが暴れ始めた。

 

「「「「「きゃあああああああ!!!」」」」」

 

「「「「「うわあああああああ!!!」」」」」

 

暴れるポケモンたちの攻撃に会場にいる人たちの悲鳴が木霊する。

それらの攻撃は俺たちにも襲い掛かった。俺は咄嗟に両手でガードしながらナツメとエリカの様子を見る。2人はなんとか攻撃を回避していた。

ステージを見るとリカとカスミも他の出場者といっしょに飛び出してきた。

 

「リカ、カスミ大丈夫か!」

 

「ええ、なんとか!」

 

「でもこのままじゃ怪我人がでちゃうよ!」

 

「母さん、俺たちから離れないで、博士も!」

 

「え、ええ……」

 

「しかし、あのポケモンたちを大人しくさせんことには被害が拡大するばかりじゃ」

 

するとナツメとリカが動き出す。

 

「いくわよエリカ」

 

「ええ、ここは(わたくし)たちが」

 

2人はモンスターボールを取り出し投げる。

 

草タイプのラフレシア、エスパータイプのスリーパーが現れる。

 

「ラフレシア、『ねむりごな』」

 

「スリーパー、『さいみんじゅつ』」

 

ラフレシアの頭にある花の中心から青い粉がまき散らされ、スリーパーは手に持った振り子をゆっくり動かし念波を放つ。

 

青い粉と念波が会場全体に広がる。すると暴れていたポケモンたちの動きが少しずつ緩慢になり、最後には動きを止めてしまった。

空にいたポケモンたちが落下する。

 

「スリーパー、サイコキネシス」

 

スリーパーの目が怪しく光ると落下するポケモンたちが念動力によってゆっくりと地面に降り立つ。

暴れていたポケモンたちはすべて眠ってしまい、事態は収束した。

周りの人たちも安堵の表情を浮かべる。

 

 

俺はエリカとナツメを見て戦慄していた。

あの状況で人には当てずに暴れているポケモンだけを狙って技を当てたのか。

こんなの、トレーナーの観察力だけじゃできない。それをポケモンに的確に伝える必要がある。

それをここまで簡単にやってのけるなんて、これがジムリーダーの実力。

 

コンテストは中止となり、集まった人たちは散り散りになってしまった。

俺たちは荷物の置いてある場所まで歩いて戻るところだ。ちなみに母さんとオーキド博士は買い物があるらしくて遅れてくる。

 

「ほんとにすごかったよエリカ、ナツメ」

 

先ほどのエリカとナツメのポケモンとのコンビネーションのすごさにまだまだ気分が高揚していた。

 

「あら、あれくらい当然よ。ポケモンの問題を解決するのもジムリーダーの務めだもの。けど、そう言ってくれてうれしいわ」

 

「うふふ、サトシさんに褒めていただけるんなんて頑張った甲斐がありましたわ」

 

まるでそんなに難しいことはしてないというような態度、これこそ真のジムリーダーということか。俺もいつかあんなふうにポケモンたちと、

 

ビリッ、バツッ

 

ん? なんの音?

そう思っていると、俺の周りにいるリカ、カスミ、エリカ、ナツメのぞれぞれのトップスが一人でに外れてハラリと砂浜へと落ちた。

 

「「「「えっ?」」」」

 

重なる4人の美女美少女の呆けた声。

一瞬の出来事に思考がフリーズ、目の前には4人の大きな双丘、それぞれの違った丸みが日の光にさらされて輝いている。

 

一拍してリカ、カスミ、エリカ、ナツメが顔を真っ赤にして両腕で胸を隠した。

口を開いてそこから悲鳴が出ようとする。

 

事態を認識すると同時に、俺から何かが流れ出る感覚。

鼻だ。

それは真っ赤でポタポタと足元に落ちて砂をマトマの実くらいに赤く染めた。

 

目の前の美少女、美女もそれに気づいて悲鳴が引っ込んだようで、目を見開いていた。

グラリと視界が揺らぐ、あ、これは気を失う。

 

(あ、わかったぞ。さっきの『エアカッター』か『はっぱカッター』が4人の水着に当たってたんだ。本人たちも気づかないくらいの切れ目だけど動いているうちに少しずつ大きくなって今になって千切れて――)

 

暗転。

 

 

 

***

 

 

 

(―――シ、――トシ)

 

「サトシ、起きてサトシ」

 

「……あ」

 

意識が覚醒する。カスミの顔が目の前にある。反対側にリカが、それぞれの後ろにエリカとナツメがいる。次第になにがあったのか一瞬で思い出した。

4人のトップスが千切れて俺は――

今の彼女たちを見ると全員キチンとトップスを付けていた。替えがあったのだろう。

 

「まったく鼻血だして気絶するなんて」

 

「大丈夫? 貧血とかなってない?」

 

「私たちも油断してたわね」

 

「ええ、お恥ずかしいですわ」

 

「えー俺もお見苦しいところを見せて申し訳ない」

 

俺も恥ずかしい、あんなふうに鼻血を出すなんてまるで漫画じゃんか。

あんな……あれを見て……

 

「サトシ、その……見た?」

 

顔を赤くしてリカが聞いてくる。

 

「う……一瞬だけ……」

 

先ほどの衝撃的な光景が脳裏に残っていて、4人のことをうまく直視できない。

 

「見たんだ」

 

「……えっち」

 

「それではサトシさんには責任を取って頂かないといけませんわ」

 

「そうね、女の身体は安くないもの」

 

全員が顔を赤くしていた、申し訳ないことをしたが、嫌われずに済んだことが幸いかもしれない。

 

「ははは、ご迷惑をおかけしました」

 

起きたばかりの頭では、そう言うのが精一杯だ。

 

 

 

***

 

 

 

夕日が海の向こう、地平線の彼方に見える。オレンジに染まる海が数時間前とは違う顔を見せているようだ。あたりの砂浜からは人がもう少なくなっている。かくいう俺たちももうすぐここを離れようとしている。俺たちは水着からいつもの旅用の服に着替えて砂浜に立っている。

 

「それじゃあ、お母さんはマサラタウンに帰るわね」

 

「そっか」

 

微笑む母さん、優しげなその瞳を見ていると本当に安心する。

 

俺が違う人間になってしまっても、間違いなく親子だと疑うことなく受け入れてくれた。

この人は間違いなく俺の、サトシの母親だ。

俺の記憶は間違いなくこの人を覚えている。

女手一つでサトシを育ててくれたこの人が、どれほど偉大なのか俺は知ってる。旅立つ自分の無事を心から願ってくれるこの人が、どれほど愛情に溢れているのか俺は知ってる。

 

この人の偉大さに、愛情に、恥じない自分になりたい。

 

「俺は旅を続けるよ」

 

「うん。サトシ、いつでも帰って来なさいね。母さんはいつでもあなたが帰ってきてもいいように、家を綺麗にして、あなたの大好きなものを作って待ってるからね」

 

「ハナコさんはわしが責任を持ってマサラタウンまで安全に連れていく安心せい」

 

オーキド博士が進み出る。

 

「……なんだか心配になってきました」

 

「こりゃ何を言うか信用しなさい!」

 

「ははは、冗談ですよ博士、母さんのことよろしくお願いします」

 

「うむ、サトシ君も道中気を付けるのじゃぞ、リカ君も共に立派なトレーナーになるように精進しなさい」

 

「はい、頑張ります」

 

「カスミ君、2人のことをよろしく頼む」

 

「はい、任せてください」

 

「エリカ君とナツメ君もなにかあったら助けてあげてほしい。そして、これからも子供たちの目標となるジムリーダーとして頑張りなさい」

 

「承りました、オーキド博士」

 

「お約束します」

 

全員との挨拶を終える。それはお別れの時間。

 

「それじゃあね」

 

「うん、またね母さん」

 

いつでも声が聞けるし、会おうと思えば会える。だけどこうして離れる時間はどうしても寂しい。まだなにか話せないか、一緒にいる時間を伸ばせる方法がまだあるんじゃないか。そう頭の隅で考えてしまう。だけど、このまま別れていい、離れていい。俺はこれから旅を続けていかなくてはいけないのだから。それを母さんも望んでいるのだから。

もう迷いはない。

 

「もっと甘えても良かったんじゃない?」

 

「ハナコさん、甘えてほしかったと思うよ」

 

カスミとリカのからかい混じりの言葉に思わず苦笑する。

 

「いい歳して甘えられないよ」

 

俺たちのやり取りを見ていたナツメが笑クスリと笑う。

 

「元気な姿を見せたら、それだけで安心したと思うわ」

 

「そうかな……そうだと、いいな……」

 

ナツメの言葉をありがたく思っていると、エリカが俺の腕を掴む。

 

「もし甘えたくなったら(わたくし)の胸にどーんと飛び込んでくださいね!」

 

「えマジで?」

 

「はい!」

 

「「「こらっ!!!」」」

 

怒られました。ごめんなさい。

 

家族から離れた寂しさを埋めてくれるのは、きっと仲間なんだと思う。同じ人間の仲間もそうだが、ポケモンもそうだ。仲間との旅があるから心強い気持ちでいられる。

さあ、これからも仲間たちと歩き出そう。まだまだ旅は始まったばかりなのだから。




今、世界はコロナで大変で、あらゆる分野に影響が出ていますね。
こんな大変な時に「執筆なんかしてる場合か」と思われる方もいるかもしれませんが、自分にできることをしていきたいです。
これからも応援していただければ幸いです。

皆様もどうか、毎日の健康に気をつけて、コロナウイルスにかからないようにお気をつけください。

ありがとうございました。
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