サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題) 作:エキバン
アオプルコの近くにある港町、ハトバポート。
連絡船に乗って本土に戻るために乗ろうとした俺たちなのだが。
「あははは、あと3時間待ちだってさ」
はいそうです。乗り遅れてしまったのです。
「もうっ、サトシが朝ごはんあんなにおかわりするからよ」
ジト目で睨んで責めてくるのはカスミ。はい、原因は私にあります。
しかしですね。
「だってご飯美味しかったんだもん」
「『だもん』て可愛くないわよ」
はいそうですねカスミさん、俺も自分で言ってて気持ち悪くなりました。
「あら
「ふふっギャップ萌えというのかしら、少しキュンときたわ」
「ちっちゃい子供みたいで可愛いかも」
エリカとナツメとリカが俺を暖かい目で見つめていた。なんというかお姉ちゃんみたいな優しい目でした。照れます。ただ可愛いと言われるのはいささか恥ずかしい。
「えっ、ちょ、ま、まあ悪くないかもね。うん、可愛いわ!」
なにやら焦ったカスミさんにも言われてしまった。やっぱり恥ずかしい。
うーん、しかし、乗り遅れてしまったのは本当に申し訳ない。
「サトシ、私たちそんなに怒ってないから気にしないで」
「そうよ、世界の美少女カスミちゃんはそんなことで怒ったりしないわ」
「もう少しここでゆっくりするつもりでしたのでお気になさらず」
「帰れないわけではないから、待ちましょう」
励ましてくれてるんだな。
「ありがとう」
となんだかほっこりしたところで今後の予定を決めよう。
「私とエリカはポケモンセンターに戻るけど、サトシたちはどうするの?」
考えていたところでナツメが言う。
「うーん、しばらく海を見てるよ」
「それではまたあとで」
***
俺とカスミとリカはナツメとエリカと別れ、海沿いを歩いていた。
海は昨日さんざん遊んだが、こうして波止場から眺める海はまた違う趣がある。あちこちにある大小様々な船が自然と合わさり不思議なコントラストを見せてくれる。まるで人と自然が生み出したような情景に少し酔いしれる。
「え?」
不意にカスミの驚いた声、つられて彼女の視線の方向、海を見るとそこには小さなポケモンがいた。
「あれって、タッツー?」
小さな青い体、縦笛のような口、巻いてある尻尾、2枚の背びれを持つ、ドラゴンポケモンのタッツーだ。だが、様子がおかしい。
『タツ……』
タッツーはフラフラと浮いていて今にも倒れてしまいそうだ。しかもその体は傷だらけだった。
「大変ケガしてる!」
カスミはしゃがんで手を差し伸べ、水辺にいるタッツーを抱き上げる。
「大丈夫? 痛いところはない?」
すると、
『タッツタツタツタツタッツー!」
タッツーは焦っているかのように鳴きだした。
「なにか伝えたいことがあるのか?」
しばらく鳴くと、疲れたのか目を閉じぐったりと眠り始めた。
こんなひどい怪我はただ事ではない。
「早くポケモンセンターに連れて行こう」
カスミとリカが頷き、すぐに行こうとしたその時、
「た、助けてくれー!!」
海の向こうから悲鳴が聞こえた。慌てて声のした方へ振り返ると、海で男の人が必死の形相で両腕を激しくバタつかせていた。これは間違いなく、
「人が溺れてる!」
「大変、助けないと!」
リカが叫ぶと同時に俺は動く。
「俺が行く! 2人は先にポケモンセンターに行っててくれ!」
「「サトシ!?」」
2人の叫びを背に、俺は海に飛び込む。
泳ぎはそこそこ得意だ。俺はクロールで溺れている人の元まで向かう。
すると、何かが下から現れ俺を押し上げた。
「うお、シャワーズ?」
『シャワ』
俺はシャワーズの背にまたがる体勢になる。こいつは間違いなくカスミのシャワーズだ。
「もうサトシ、一人で無茶しないで。水辺のことならこのカスミちゃんに任せなさい!」
後ろからスターミーに乗ったカスミが水面を滑りながらやって来た。
「それに、泳げるゼニガメか飛べるスピアーに任せればよかったでしょ!」
……あ、そうでした。
「ごめん、つい体が動いちゃった」
てへぺろ
「もう、そ、そんな可愛く言ってもダメだから……」
あれ、カスミさん顔赤い?
いやそれよりも助けないと。
溺れているお兄さんを連れて岸まで来ることができた。
「大丈夫ですか?」
救出したお兄さんは顔色が悪く息も絶え絶えといった様子だった。
「……あ、ありが、とう……しゃ、社長の、ところまで連れてって……」
その言葉を最後にお兄さんは気を失った。
「「「社長?」」」
服が濡れたままだといけないからとりあえず俺は着替えることにした。
***
溺れていていた男性たちを、彼らが教えてくれた場所まで連れていくと、そこにはやたら大きな建物だ。
俺とリカは先に向かい、カスミはタッツーをポケモンセンターまで連れていき、あとで合流した。
中に入るとやたらたくさんのイケメンがいて、すぐに案内された。
そこは社長室。いきなりのことで緊張していると、中へと案内された。
「ワシが社長ババ、ウチの人間を助けてもらったようで、なかなか見る目のあるガキどもババ!」
やたら偉そうでやたら派手な衣装を着たババ……おばあさんだ。
「ワシはこの波止場ポート一帯を超豪華なリゾート地にするつもりババ! そのための超豪華海上ホテルを建設中ババ。完成すれば観光客もどんどん呼び込んで、金もガッポガッポ、この町もワシの財布も潤うババ!」
ガハハハと大声で笑うババ……ばあさん。無駄に元気だなこの人、というかかなりがめついな。
「しかし、それを邪魔する厄介なクラゲがいるんだババ! どうにかそいつらを駆除してリゾート計画を遂行させるのババ!」
憎々し気に吐き捨てるババ……ばあさん。
ばあさんが見せてくれた映像にはメノクラゲが映っていた。クラゲはメノクラゲのことか。
「あのクラゲどもを駆除してくれたら、報酬として100万円払ってやるババ!」
「お断りよ! あんなに可愛いメノクラゲたちを駆除なんてしていいはずがないわ!」
真っ先に断ったのはカスミだった。その顔はババ……ばあさんへの非難の感情でいっぱいだった。
水ポケモンを愛してるカスミにとっては気持ちいい話ではないと分かっていたが。
「こんな話聞きたくありません。さようなら」
カスミはここにはもう用はないとばかりに早足で出て行ってしまい、俺とリカはそのまま残った。言ってやりたいことがあるからだ。
「そもそもこの辺りはメノクラゲたちの住処なんだろ。だったら邪魔するのはあんたのやり方に問題あるんじゃないのか?」
「この海一帯はワシが買い取ったババ! ワシは正当な権利を主張しているババ!」
聞く耳持たずか。
するとリカも非難するように言った。
「でもポケモンのことを考えないといけないですよ?」
「知らんわ! 誰がなんと言おうと超豪華海上ホテル建設は決定事項ババ! あのクラゲ共のことなどどうでもいいババ! それで、お前たちは協力するのか? せんのか?」
「するかよ」
「しません」
「くぉのぉ、欲の無いガキども、それならもうあっちへ行くババ! シッシッ!」
「言われなくても出ていくよ」
「べーっ、罰が当たっても知らないから」
俺が捨て台詞を吐き、リカはあかんべーをし、そのまま建物を後にした。
***
「カスミ!」
「待ってカスミ!」
「サトシ、リカ……」
振り返ったカスミは悲しさと悔しさを混ぜたような顔だった。
「ごめんね、勝手に飛び出して」
「いやいいんだ。あのババ……ばあさんにあんなこと言われたら怒るのは仕方ないよ」
カスミが右手をギュッと握る。
「うん、そうね。悔しいわ、メノクラゲが悪者扱いされるなんて」
「……人間とポケモンは、まだまだわだかまりっていうのかな、そういうのがあるのかもな。折り合いをつけるのは難しいだろうな」
「……それでも仲良くできるって信じたいよね」
俺の言葉にリカが続けると、カスミがとても寂しそうに笑った。
「サトシ、リカ、ありがとう」
こんな笑顔、させたくないのにな。
俺も悔しいよ。
ポケモンセンターに戻るとエリカとナツメがテーブルを挟んで談笑しているのが見えた。テーブルの上には複数の紙が積んであった。おそらくポケモンについての資料で意見交換でもしていたのだろう。
「ようエリカ、ナツメ」
「まあ、皆さん戻ったのですか」
「おかえりなさい」
2人は慌てたように資料をバッグの中に入れると俺たちの方を向いた。俺たちの様子を不思議そうに見ていたエリカが口を開く。
「元気がないみたいですが、どうかしたのですか?」
「実は――」
俺たちは先ほど起こったことの顛末をエリカとナツメに話した。
「そんなことがあったのか」
「悲しいですわね。ポケモンのことを考えないなんて」
ナツメとエリカは俺たちの気持ちに共感してくれた。
少し暗い雰囲気になってしまったな。話題を変えよう。
「そういえばカスミ、タッツーは元気になったんじゃないか?」
「あっそうだった。ジョーイさんに聞かないと」
みんなで受付に行くとジョーイさんはタッツーを連れてきてくれた。
「はい、タッツーは元気になりましたよ」
「ジョーイさん、ありがとうございます。よかったわねタッツー」
『タッツー!』
俺たちはポケモンセンターを出ると、船着き場まで行った。そこはタッツーを保護した水辺、カスミは抱いていたタッツーを海へと降ろした。
「それじゃあね。酷い怪我しないように気を付けるのよ」
『タツタツタッツー! タツタツッ!』
最初に出会った時のように騒ぎ出すタッツー。その様子から必死さが伝わった。
「どうしたの? 何か伝えたいの?」
何かを訴えようとするタッツーだが、その意図がわからない。どうしたらこの小さなポケモンの気持ちを理解できるのかと悩んでいると、周りが騒がしいことに気付いた。
「なんだ?」
気になりみんなで波止場の広い区画まで行くと、先ほどのばあさんがお供と一緒にメガホンを持って立っていた。
『害悪なメノクラゲ共を駆除してくれた人には100万円を報酬としてあげるババ! 活躍によっては報酬に色をつけるババ~!』
あんのクソババア大々的に宣伝しやがった。
「ふんっこんなことしても話を受ける人なんているわけ――」
カスミの言葉を遮るような激しいドドドという音がこちらに向かって近づいてくるのが聞こえた。
思わず音の方向を見ると、ものすごい数の人たちが押し寄せてきて、あっという間に波止場が老若男女大量の人間で埋め尽くされた。集まった人たちは皆一様に目をギラギラと輝かせ欲望に塗れているのが見て取れた。
「み、みんなお金に目が眩んでるの……?」
「まったく嘆かわしい」
「メノクラゲが住処を守ろうとするのは正当な権利ですのに」
カスミが悲壮な顔を浮かべ、ナツメが嫌悪感を露わにし、エリカが悲しそうに嘆息する。
その様子に俺も虚しさを感じていると、
「「「なーっはっはっはー!!」」」
聞き覚えのある三重奏の笑い声。恐る恐る振り返ると、予想通りの顔ぶれ。
「「「ロケット団!?」」」
ムサシ、コジロウ、ニャースの三人組だ。
「お前らまた何かしようとしてるのか!」
「俺たち今回は、悪いことじゃなくて、頼まれたことをやってるだけだ!」
「悪いクラゲを退治して、謝礼の100万円ゲットよ!」
「ネコにこばん、ニャーたちに100万なのニャ!」
こいつらも報酬に目が眩んだか。こいつららしいけどさ。
「お知り合いですの?」
「うん、私たちにつっかかってくるロケット団たち」
エリカの疑問にリカが答える。
「ロケット団だと? あのポケモンマフィア……にしてはせこくて間抜けそうに見えるのだけど?」
ナツメは驚いた顔をしたと思ったら、ロケット団を胡乱な目つきで見た。
「うんまあ、あいつらは変な連中なんだよ」
あいつらの普段の行動を思い返すと苦笑いが浮かぶ。
そうこう考えているとロケット団は小型のボートで海に浮かぶメノクラゲたに近づいていった。
「おほほほほほ! 私たちが一番乗り~」
「さあくらえメノクラゲ共! 特製三倍酢だ! これでお前たちはふにゃふにゃでダウンだ!」
ロケット団たちの哄笑が響く中、その異変は起こった。
「ニャ? 進まないニャ?」
ロケット団の乗ったボートが突如停止した。その原因はすぐに判明した。
大量のメノクラゲが海を覆いつくさんばかりに出現し、ボートの侵攻を阻んでいた。
「ど、どうすんだこれ!」
「わ、私に言われても!」
「なんとかするニャ!」
騒ぎ出すロケット団、それに構わず1体のメノクラゲが額からビームを発射する(なんの技なんだ?)。
ビームはボートに炸裂し、爆発した。
「「「わあああああああ!!!」」」
爆風で吹き飛ばされるロケット団、乗せていた三倍酢も吹き飛んだ。しかし、それはロケット団の飛んだ方向とは逆、メノクラゲたちの上に落ちていた。
三倍酢は開いた口を下に落下し、1体のメノクラゲに降り注いだ。次の瞬間、メノクラゲの体が光る。その光は何度も見たもの、進化の光だ。形を変え、メノクラゲはドククラゲとなる。
しかし、異変はそれでとどまらなかった。
ドククラゲがさらに異常な成長を見せた。その全身がみるみる大きくなり、その姿を誰もが見上げる。
そして、ドククラゲの大きさがついに高層ビルほどに巨大化してしまった。
『ドククククク!』
「な、なんだありゃ……」
「ば、バカな……あんな巨大なドククラゲ、いるはずが……」
「先ほどの三杯酢の影響ですの? いえ、それでは説明がつかない……?」
俺が驚くと、ナツメとエリカも驚きを隠さずに呟いた。
呆然としていると、ロケット団は吹き飛ばされてもまだ戦意は喪失してないようで、アタフタしながら動き出す。
「くっ、ど、どれだけ大きくなろうととクラゲはクラゲだ!」
「そうよ、ロケット団が負けるはずないわ!」
「行くニャおミャーら! ニャーたちの猫に小判のためにも!」
「「言われなくても了解だ!」」
「行けアーボ!」
「ドガースお前もだ!」
『シャーボ!』
『ドガ~!』
しかし、多勢に無勢、アーボとドガースはメノクラゲ軍団にタコ殴りにされてトレーナーであるムサシとコジロウの元まで投げ飛ばされた。
そして、侵攻するメノクラゲ軍団によってまた吹き飛ばされた。
「「「ぎゃああああああ!!!」」」
巨大なドククラゲとメノクラゲ軍団がさらに侵攻してきた。
「まずい、みんな逃げろ!」
その異常事態、明らかな危機的状況に叫ぶと、周りの人間たちがパニックを起こしたように逃げ始めた。
***
「なんとか避難できたけど」
リカが息を吞む。その視線の先には街中で暴れまわる巨大ドククラゲ、ビルをなぎ倒し、持ち上げ、遠くへと投げる。そこはあのババアの会社のある付近だ。
「おいおいなんだよこれ、まるで怪獣映画だぞ」
あまりに現実離れした光景に俺は思わずそう呟いてしまう。呆然と見ているとカスミが意を決したような顔になり動き出す。
「私行ってくる。メノクラゲとドククラゲにこれ以上暴れさせたくない!」
「待てカスミ、あれを見ろ」
俺が言うとカスミは指す方向を見た。
俺が見たのはドククラゲが一本の触手を掲げたところだ。その触手の先でロケット団のニャースが巻かれていた。その頭に1体のメノクラゲがくっつくと、ニャースは眼を開く。しかしその眼は明らかに正常ではなく、赤く光っていた。そして口を開く。
『みなさん、私たちはメノクラゲとドククラゲでございます。あなたたち人間は私たちの住処を壊しました。なので私たちもあなたたちの住処を壊します。あなたたちに文句を言う資格はございません』
それは胸に突き刺さる言葉だ。住処を破壊された彼らの怒りはどれほどのものだろうか。その怒りは当たり前のもので、その復讐心のすべてを否定することができない。
メノクラゲとドククラゲはさらに激しく容赦なく、町で破壊の限りを尽くす。大きなビルが次々と砕かれ倒壊していく。
「そんな……メノクラゲとドククラゲが人間を襲うなんて……」
「このままだと、町が壊されちゃうよ」
カスミとリカの言葉に俺は改めて町を見渡す。
あまりにも異常な光景、ポケモンたちが町を破壊し侵攻している事実にこの場にいる誰もが恐怖しながら茫然としている。
「ここは
「あのドククラゲとメノクラゲをどうにかするわ」
力強い言葉とともに進み出たのはエリカとナツメだ。
「どうにかって、バトルするの……?」
「あのメノクラゲたちは悪くないわ! 自分たちの住処が荒らされてる被害者よ!」
「そうね、だけど彼らがこの町の人たちを害そうとするのを黙って見ているわけにはいかないわ」
カスミの訴えにエリカは冷静に答える。
「だけど!」
「カスミさん!」
「っ!?」
声の主はエリカ、その語気の強い言い方にカスミだけでなく俺も驚く。
「ポケモンを守るのはトレーナーとしてジムリーダーとして大事なことです。しかし、暴れるポケモンの脅威から人を守ることもまた
「貴女もジムリーダーならやるべきことを理解しないといけないわ。ポケモンを愛しているなら尚のこと」
「……ジムリーダーのやるべきこと」
エリカとナツメに言い聞かされ、カスミは俯きながら考え込んでいるようだ。
「それでは行って参りますわ」
ビルの窓からエリカとナツメが巨大ドククラゲとメノクラゲ軍団を見据える。
「2人だけなんて無茶だ。俺たちも――」
「一般トレーナーを巻き込めないわ。だから大人しくしてて」
諫めるように言ったナツメはモンスターボールを取り出す。
「出てきなさいバリヤード」
『バリバリッ』
パントマイムの動きをするバリヤードが現れる。
「このビルに『ひかりのかべ』と『リフレクター』」
『バリリィ』
バリヤードが両手の平で空気を撫でる仕草をすると、一瞬にして二重の見えない壁が形成される。
「いくわよエリカ」
「ええナツメさん」
「フーディン『テレキネシス』」
『フゥ」
窓に立つナツメとエリカの体がふわりと浮かぶ。
フーディンの念動力が2人を包み、ゆっくりと降下していく。
***
遥か先から襲来する巨大ドククラゲと配下のメノクラゲ軍団。
深い海から人間たちを強襲せんと敵意を抱いて迫りくる脅威を前に、エリカとナツメの顔には恐れはなく、強い鋭さを帯びていた。
それぞれのモンスターボールが投げられ、2人が出したポケモンは、ナツメがフーディンとスリーパー、エリカがラフレシアとモンジャラだ。
「さあどういこうかしら」
「では地上と空中の2か所から攻めましょう」
「それなら私が空中ね」
「
走り出したエリカを見てサトシたちは驚いていた。想像していたよりも走りが速かったからだ。
着物だと走りにくいはずなのに。しかもその走り方は動作の一つ一つが洗練されていて美しい。
「着物姿での走り方がありますのよ」
そしてエリカは侵攻するメノクラゲ軍団の数十メートル前で停止する。
「ラフレシア『ちからをすいとる』」
『ラッフウウ!』
ラフレシアの全身から緑の光が放たれ、大量のメノクラゲたちを捕えた。その半分以上の動きが鈍ってきた。
「モンジャラ『つるのムチ』で捕えなさい!」
『モジャ!』
すかさずエリカは次の指示を飛ばし、モンジャラの全身の蔓がメノクラゲたちを捕縛した。
「そのまま『ギガドレイン』!」
『モジャアアア!』
モンジャラの蔓が怪しく光ると蔓に巻かれたメノクラゲたちが倒れていった。体力を吸い取られたのだ。
***
モンジャラが蔓でメノクラゲたちを捕らえ体力を吸い取る。その光景に俺はわずかな疑問を抱く。
「思い切ったことするなエリカ。メノクラゲって特性ヘドロえきがあるから、体力を吸収する技はダメージになるのに」
考えもなしにジムリーダーであるエリカがそんな判断をするだろうか。
「あっ、そっかそのための『ちからをすいとる』なんだ」
「どういうこと?」
リカがなにかに気付き、カスミが尋ねる。
「メノクラゲの特性は能力を下げられないクリアボディもあるよね。だからヘドロえきのメノクラゲを見分けるために使ったんだよ」
「一瞬でそれを判断して、能力が下がらなかったメノクラゲだけを狙うとはな」
昨日も見せてくれたジムリーダーの実力に俺は舌を巻いた。
***
膨大な数のメノクラゲたちをエリカは焦ることなく半数以上を弱体化させることに成功した。
そして、空中を移動する彼女も動いた。
「フーディン、スリーパー『サイコキネシス』」
『フウディ!』
『スリ!』
2体の強力な『サイコキネシス』がメノクラゲたちに衝撃波となって襲い掛かる。毒タイプを持つメノクラゲたちには効果抜群。一撃で大量のメノクラゲたち戦闘不能にまで追い込んだ。
「さあ、海に帰りなさい」
戦闘不能になったメノクラゲたちを『サイコキネシス』で海へと返す。メノクラゲたちが流されていく。
すると巨大ドククラゲが動きだす。巨大な触手を使ってナツメとエリカのポケモンたちを叩き潰そうとする。
「フーディン、スリーパー『サイコキネシス』」
『フウ!』
「ラフレシア『エナジーボール』、モンジャラ『つるのムチ』」
『ラッフゥ!』
『モンモン!』
フーディンとスリーパーの強力な念動力が振り下ろされる触手の動きを止める。
ラフレシアの緑の光球が触手に衝突し動きを止め、モンジャラの蔓が触手に絡みつく。
「「押し返せ(すのです)!!」」
念動力が、緑の光球が、大量の蔓が、巨大なドククラゲを押し返した。ドククラゲはなすすべなく後退してしまう。
高い実力を持つジムリーダー2人がメノクラゲ軍団を次々と追い込んでいく。早くも事件解決か、誰もがそう感じた。
だがナツメとエリカは違和感を覚えていた。
「なにか妙ね」
「ええ、いくらなんでも多すぎますわ」
かなりの数のメノクラゲを戦闘不能にしたはずだ。しかし、メノクラゲの大群は際限なく海から出現し、街へと侵攻している。
海の近くにいるメノクラゲたちを見ると、何かを海に投げ込んでいた。次の瞬間、海からメノクラゲたちが次々と出現していた。その触手に先ほほど投げ込まれた黒い何かを持って。
それが違和感の正体。
「まさか『くろいヘドロ』か!」
ナツメの言葉にエリカも合点がいく。
「確か毒タイプが持てば体力回復の効果を与える道具!」
メノクラゲたちは回復すると、弱った別のメノクラゲに『くろいヘドロ』を渡す。それを何度も繰り返すことで何度もでも戦線復帰をすることが可能になり、不死身に近い軍団と化した。
数が多いうえにあんなことされたらいくら2人でも疲弊は免れない。
「『サイコカッター』!」
「『はなびらのまい』!」
『フウ!』
『ラフ!』
フーディンのスプーンに紫の刃が形成され、ラフレシアの周りに大量の花びらが発生。そして発射され、巨大なドククラゲに激突し、ドククラゲは痛みに呻いた。
ナツメとエリカは攻撃の手を緩めない。メノクラゲたちの戦略を理解したがやることは変わらない。
全員を戦闘不能にし海に返すことを目的としポケモンと共に戦う。
「あのドククラゲから倒す。フーディン、スリーパー『サイコキネシス』!」
「ええ、ラフレシア『はなびらのまい』モンジャラ『エナジーボール』!」
ナツメとエリカのポケモンたちによる強力な連続攻撃、その威力は先ほどよりも上がっているように見えた。狙いをメノクラゲ軍団から巨大ドククラゲに集中し、戦闘不能にすることでメノクラゲ軍団の統率を乱すのが狙いだ。
巨大なドククラゲも最初はなんとか耐えて町を破壊しながら前進していったが、その攻撃に徐々に後退していく。
これがチャンスであることを同時に悟ったエリカとナツメはアイコンタクトを交わし追撃を重ね、相手に反撃する暇を与えない。連続攻撃にたまらなくなった巨大ドククラゲはついに来た海へと押し返された。
「エリカ、一気に戦闘不能にする!」
「ええ、行きますわよ!」
船着き場に立つナツメとエリカが決着をつけるために指示を出す。
「フーディン『サイコキネシス』!」
「ラフレシア『はなびらのまい』!」
『フウディ!』
『ラッフウウ!』
エスパータイプと草タイプの渾身の一撃が放たれる。誰が見ても最高の一撃がドククラゲの炸裂する。
次の瞬間、ドククラゲの全身が光りを帯びる。
そして、念動波と舞う花弁がドククラゲに直撃したと思うと、反射され、ナツメとエリカ、彼女たちのポケモンにも降り注いだ。
「『ミラーコート』!?」
「く、油断した……」
実力のあるジムリーダーといえども多勢に無勢、尽きることなく現れるメノクラゲたちに対し、エリカとナツメに焦りが生まれる。
大ダメージを受けながらも倒れないナツメとエリカのポケモンたち、しかし、自分たちの強力な攻撃を倍返しされたことで足元がふらついていた。
メノクラゲ軍団はその隙を見逃さず、襲い掛かる。
「はぁっ!」
ナツメの超能力を発動させる。襲い掛かるメノクラゲの内の何体かを抑え、無力化した。
だが、それだけでは足りなかった。
「くっ、数が多すぎる」
ナツメの強力な超能力をもってしても、メノクラゲ軍団すべてを抑えることはできなかった。
自由に動けるメノクラゲたちが再び襲い掛かる。その時、
「ピカチュウ『10まんボルト』!」
瞬時に飛来する連射された銃弾のような電撃がメノクラゲ軍団に1体1体に寸分狂わず直撃した。
「「サトシ(さん)!」」
現れたのはサトシ、肩には相棒のピカチュウが乗っていて頬が帯電してる。
後ろからリカとカスミが追従するように走ってくる。
「ナツメ、エリカ! わりぃ、やっぱり見てるだけなんてできない。加勢するぞ! リカ、カスミ、行くぞ総力戦だ!」
「うん!」
「ええっ!」
サトシがピカチュウに加え、フシギダネ、ゼニガメ、ニドリーノ、スピアーを出し、リカはフシギソウ、ピッピ、ニドリーナ、バタフリーを出し、カスミがヒトデマン、スターミー、トサキント、シャワーズを出す。
「ふぅ……きっとダメって言っても聞かないわよね」
「もちろん」
嘆息しながらも嬉しそうにナツメ呟く。
「困った人……だけど、貴方のそういうがむしゃらなところ、やっぱり好きよ」
「やっぱり貴方は
ナツメとエリカは熱のこもった視線をサトシに向ける。2人の頬はほんのり赤く染まっている。
「あ、あはは、そんなに褒められると照れるな」
「サトシこんな時にデレデレしない!」
「危機的な状況なんだからしっかりして!」
サトシが頬をかきながら笑っていると膨れたカスミとリカが怒鳴る。
気を取り直して巨大ドククラゲとメノクラゲ軍団を鋭く見る。
「カスミ、貴女も戦うの?」
ナツメが尋ねる。
「ええ、もう迷わないわ! 私もジムリーダー。たくさんの人たちが困ってるなら見過ごせない。たとえ大好きな水ポケモンと戦うことになっても、それに!」
カスミの顔に迷いはない。
「このまま彼らを悪者になんてしておけない!」
カスミの強い決心がその場にいるみんなに伝わる。愛する水ポケモンだからこそ彼女自身は黙っていられない、自分の力で暴走を止めたいという気持ちが何よりも強い。
ここからが人間たちの本当の反撃開始だ。
エリカとナツメのジムリーダーとしての強さを自分なりに表現してみました。
少しずつコロナの終息まで進んでいると思います。みんなで頑張りましょう。