サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題) 作:エキバン
「着いたぜホウエン地方」
船でホウエン地方に到着した俺たち、降りた町はトウカシティ。
「カントーに比べると暖かいね」
「ポカポカしてるわね」
日の光を浴びてリカとカスミは心地良さそうだ。
トウカシティは住宅街に商店街とよく見る町といった印象だ。
お察しの通り、今回の一日体験の地はホウエン地方。カントーより南に位置する地方で、海が近いことでも有名、また天候の変化も激しく、大雨の時季が多かったり、日照りが長かったり、果ては火山灰が降り注ぐ地域や砂漠の地域も存在する。
しかし、訪れたトウカシティはそこまで大きな気候の変化の見られないポカポカ陽気だ。
まず俺たちはオダマキ博士の研究所に連絡を取るためにポケモンセンターへと向かった。
***
「え、オダマキ博士はいらっしゃらないんですか?」
ポケモンセンターに入り、オダマキ研究所に連絡を入れると研究員のお姉さんが応対してくれた。
まさかのアクシデンツ。
『ええ、オダマキ博士はフィールドワークに出かけていて研究所にはいないんです』
「そうでしたか」
『本当にごめんなさい。あの人、ふとした時にフィールドワークに出かける癖があるの。今日はあなたたちが来るのに『すぐ戻る』て言っていたけど、いつになることか』
申し訳なさそうにするお姉さん。
「押しかけたのはこちらなんですから気になさらないでください」
『ごめんなさいね。博士が戻ったら必ず連絡するから』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
プツリとパソコンの画面が真っ暗になる。
「さてどうしようか」
俺は振り返り、リカとカスミを見る。するとリカが電子端末を片手に口を開いた。
「ねえトウカシティにはポケモンジムがあるんだって」
リカの弾んだ声に俺の気分も弾む。
そうだったのか、せっかく他の地方に来たんだからポケモンジムにも挑戦してみるのもいいな。カロスではジムに行かなかったしな。
「じゃあ挑戦しに行くか」
「待って」
レッツゴーとなる前にカスミに呼び止められる。
「どうした?」
「地方ごとに登録しないとジム戦は受けられないよ」
「「え、そうなの?」」
俺とリカの声がハモる。
「まったく、サトシはともかくリカまで知らないなんて。ポケモンジムに挑戦するにはポケモンセンターで地方ごとの登録が必要なの。けど、違うリーグに挑戦中では他の地方のリーグ登録はできないわ。だから、カントーリーグに登録してる今のサトシとリカは登録ができないってこと」
「そうだったんだ」
それは残念。
「まあでも、見学くらいはさせてもらえるかもしれないから行くだけ行くのもいいかもしれないわ」
「そうだな、さんきゅカスミ」
ジム資格者の知識を頂いて嬉しいよ。
「べ、別にこれくらいたいしたことないわよ……」
ほんのり頬を染めてプイと顔を逸らすカスミ。そんな反応されるとこっちまで照れてしまうのだが。
「よっしそれじゃあトウカジムに行くか」
照れた気分を誤魔化す意味も含めて大きな声を出し、2人と一緒にポケモンセンターを出た。
カスミに言われた通り、ジム戦はできないまでも。行って話をだけでもしたいと思い案内にしたがってトウカジムめざして歩きだし――
「わあああああ! ど、どいてえええええ!」
坂から悲鳴に近い叫び声がし振り返ると、自転車に乗った、俺たちと同年代と思われる女の子が猛スピードで坂道を下っていた。
このままじゃあの女の子はどこかに激突するかもしれない。そうなる前に俺が止める。
タイミングを見計らった俺は自転車に乗る女の子に飛び乗り、一緒になって自転車から飛び降りた。勢いのまま俺と女の子は地面を転がる、しばらくすると転がる俺たちの体は動きを止めた。
その時、俺の顔にとてつもない圧迫感に襲われる。
それは質量の暴力。俺の顔を強く押し付け、呼吸に必要な口や鼻を塞ぐ。しかし同時に感じるのは母に抱かれるような安心感。その天使と悪魔が同居するような感覚に俺の意識は昇天し――
「だ、大丈夫!?」
女の子が起き上がると同時に圧迫感は無くなる。
こちらを見下ろす女の子はとても綺麗な顔立ちをしていた。リカとカスミに劣らない美少女だ。服装はTシャツにショートパンツとアクティブなスタイル。
一瞬目線が下に吸い寄せられる。そこにはとても豊満な胸がシャツを押し上げ膨らみを強調していた。目測でカスミとリカ、果てはエリカとナツメよりも巨大な果実。
どうりであれほどの圧迫感を生み出していたのかと感心さえしていまう。
「あ、はい大丈夫。君こそ大丈夫か?」
瞬時に煩悩を振り払った俺は心配する少女に対し尋ね返す。
「私は大丈夫、本当にありがとう。君のおかげで助かったかも」
「「サトシ!」」
駆け寄るリカとカスミ。
「大丈夫?」
「あの、貴女も大丈夫ですか?」
「俺は無事だよ」
「私も、彼のおかげでなんともないです」
俺と少女が安全であることに2人は安堵していた。
「ごめんなさい。スピード出しすぎたら止まらなくなっちゃって」
「それ本当に危ないから気を付けた方がいいぜ」
自転車はそれ自体が危険な車両になり、人に取り返しのつかない大けがを負わせる危険性もあるからな。
「うん、本当にごめんなさい。私ハルカ、ここトウカシティに住んでるの」
「俺はマサラタウンのサトシ」
「同じくマサラタウンのリカ」
「ハナダシティのカスミよ」
「マサラタウンにハナダシティてことは、3人はカントーから来たの?」
「ああ、最近ポケモントレーナーとして旅を始めたんだ」
「もうトレーナーの旅してるなんて3人ともすごいかも!」
目を輝かせて身を乗り出すハルカ。その動きで胸の果実が激しく揺れた。眼福眼福。
「ポケモントレーナーならポケモンジムに挑戦するんでしょ? 私のパパはジムリーダーなの。バトルして行ってよ!」
ハルカの言葉に俺たちは驚く。まさかトウカジムの関係者に出会うとは、幸先がいいかもしれない。
しかし、
「ホウエン地方で登録してないから、ここのジムは受けられないんだ」
「えーそうなのー? 残念かも」
「けど、せっかくだから、ホウエン地方のジムリーダーに会ってみたいな」
「ほんと!? じゃあ行きましょついてきて!」
「登録してないのにいいの?」
リカが聞くとハルカはニッコリと頷く。
「パパは気前いいからバトルしてくれるわ!」
娘がそう言うなら本当に練習試合くらいならしてくれるかもしれない。
自転車を押して先行するハルカに俺たちも続こう。
「よし、行こうぜ」
「うんそうだね、けどその前に」
「ん?」
振り返るとリカとカスミがニコニコとした顔で俺を見ていた。
「あの娘に抱きしめられて随分嬉しそうだったわね?」
その笑顔の裏にある怒りの滲ませながら。
なので俺は――
「さらば!」
逃走を図った。
「「こら待てえ!」」
あっさり捕まった俺は2人に弁解しながらジムを目指すことになった。
***
「ここが私のパパがジムリーダーをしているトウカジムよ!」
武道の道場といった出で立ちだ。
ハルカに案内された俺たちはジムに隣接する家の玄関へと案内された。
「ただいまー」
「「「お邪魔します」」」
しかし、返事は返ってこない。
「あれパパー?」
父親の返事がないことに首を傾げるハルカ。次の瞬間、合点がいったという顔になった。
「あそっか、今日ジム戦があるって言ってた」
「ってことはバトルフィールドか?」
「うんそうね、こっちこっち」
ハルカに促され、先ほどの道場のような外観のポケモンジムへと向かった。
建物に近づき耳を澄ますと、打撃音や衝突音が響いていることに気が付いた。
ハルカが扉を開けると、2人のトレーナーが相対している。
片方はチャレンジャーと思しき少年、もう片方は精悍な顔つきの男性。彼がこのトウカジムのジムリーダーセンリ。
2人のトレーナーを挟んで2体のポケモンが激突していた。1体は少年のポケモン、力士のような姿のマクノシタ。もう1体は白い体に鋭い爪をもつヤルキモノ。
どっしり構えたマクノシタに対し、ヤルキモノは素早い動きで翻弄していた。
「ヤルキモノ『きりさく』!」
鋭い爪の連続攻撃にマクノシタは倒れ伏した。
「マクノシタ戦闘不能、ヤルキモノの勝ち。勝者ジムリーダーセンリ」
審判の宣言で勝敗が決した。
「良いバトルだった。また鍛えて出直してくるといい」
「はい、ありがとうございました」
ジムリーダーはチャレンジャーを労い、少年は感謝を述べそのままジムを後にした。
「パパー」
「ん? ハルカかお帰り。そちらの人たちは?」
ハルカの声に反応したセンリさんがこちらを見る。
その顔は、真剣で鋭いジムリーダーの顔ではなく、優しく穏やかな父親の顔だ。
「えっと、男の子がサトシ、女の子2人はリカとカスミ。みんなカントー地方から今日ここに来たんだって」
「ほう、それは遠路はるばるホウエン地方へようこそ。私はこのトウカシティジムリーダーのセンリだ。ハルカの父親でもある」
「「「よろしくお願いします」」」
カッチリしたセンリさんの挨拶に俺たちは姿勢を正して挨拶をする。
「ちなみにママと弟がいるんだけど、今はカイナシティでお買い物中なの」
カイナシティはホウエン地方で1番の港町だと案内に書いてあったな。行ってみたいが今日は諦めよう。
「ここに来たということはジム戦をご希望かな?」
「いえ、俺たち1日だけこのホウエン地方に来て、登録はしてないんです」
「1日だけというのは?」
センリさんの疑問に、俺はオーキド博士の提案で短期間だけ別の地方を訪れていることを説明した。
「そうだったのか。それにしてもオダマキの奴は相変わらずだな」
呆れた顔で溜息をつくセンリさん。どうやらセンリさんはオダマキ博士とは親しいようだ。
「はるばる来てもらったのに、なにもおもてなししないわけにはいかないな。せっかくだからバトルをしていきなさい。公式のジム戦ではなく練習試合のようなものだ」
「はい、お願いします」
センリさんからバトルの許可をもらった。ホウエン地方のジムリーダーと、せっかくだからバトルしたい。
「なあリカ、俺にバトルさせてもらえないかな?」
「うん、いいよ」
リカはすぐに譲ってくれた。
「さんきゅ」
「その代わりしっかり良いバトルしてね」
「ああもちろんだ」
「練習試合だからって気を抜かないで」
カスミからもアドバイスをもらう。
「ああ、カントーのトレーナーとして恥ずかしくないバトルをするよ」
「使用ポケモンは1体ずつ、相手を戦闘不能にした方の勝ち、でいいね?」
先ほどいた審判のお兄さんはおらず、センリさんが審判も兼ねてくれる。
「はい」
「よし、行けヤルキモノ!」
『ヤアル!』
現れたのはさきほど出ていたヤルキモノ。闘争心溢れるその姿は先ほど観戦していた時とは比べ物にならないほどの迫力だった。だが、ビビってはいられない。
「ピカチュウ、君に決めた!」
『ピッカチュウ!』
現れた相棒。頬を帯電させながら気合十分。
先手必勝、行くぜ!
「ピカチュウ『10まんボルト』!」
『ピィカ、チュウウウウウ!』
極大の電撃を発射、ヤルキモノに襲い掛かる。
「かわせ!」
センリさんの指示でヤルキモノは素早く回避、フィールドを縦横無尽に動く始めた。
『ヤルヤルヤルヤルッ!』
「速い!?」
「ヤルキモノ『きりさく』!」
『ヤァル!』
猛スピードのヤルキモノはその速度のままピカチュウに向かって鋭い爪を炸裂させる。
だがピカチュウもそのスピードにはついていける。
「ピカチュウ『アイアンテール』!」
『チュウウ、ピッカ!』
鋼となったギザギザ尻尾がヤルキモノの爪を受け止める。そのまま2体は拮抗する。
「やるな、ならばヤルキモノ、連続で『きりさく』」
「だったらピカチュウ、連続で『アイアンテール』!」
ここで注意しなければいけないのはヤルキモノが両手を使って『きりさく』をしていることだ。
ピカチュウの尻尾は1本しかない、片手を受け止めている間にもう片方の爪が襲い掛かるかもしれない。だから受け止めるだけでなく回避を織り交ぜながらヤルキモノの攻撃を躱していかなければいけない。
爪が襲い掛かり、鋼の尾が受け止め、さらなる爪が襲い掛かり回避する。そんな動きを繰り返していく。
「どうした、守ってばかりでは勝てないぞ」
センリさんが余裕の笑みを浮かべながら告げる。
乗せられるな、これは俺を挑発することが狙いなんだ。焦って攻撃すれば必ずピカチュウの動きに隙ができる。そうなったら一巻の終わり。
ヤルキモノの右爪が襲い掛かる。ピカチュウは回避する。瞬時に左爪が襲い掛かる。ピカチュウは『アイアンテール』で受け止めながら威力を流していく。その動きによってピカチュウはヤルキモノの懐へと一歩近づいた。
――今だ
「ピカチュウ『10まんボルト』!」
『ピッカチュウウウウウウ!』
強力な電撃がヤルキモノに襲い掛かった。ダメージを受けたヤルキモノが一歩後退する。
「うむ、素晴らしい電撃だ。よく育てられている」
センリさんに焦りはない。ヤルキモノも難なく戦闘態勢に戻った。
――流石ジムリーダー
「ありがとうございます」
「こちらもまだまだ行くぞ、ヤルキモノ『きあいパンチ』!」
「ピカチュウ、かわして『10まんボルト』!」
ヤルキモノは拳をピカチュウへとぶつけようとする。ピカチュウは素早く回避し電撃を発射する。
「ならばヤルキモノ『かえんほうしゃ』!」
『ヤアルウウ!!』
ヤルキモノの口から火炎が発射される。ピカチュウの電撃と衝突して爆発を起こす。
「ヤルキモノが『かえんほうしゃ』!?」
「ノーマルタイプは多彩な技を覚えられる強みがある。けどギリギリまで悟らせずに意表を突くなんて流石ジムリーダー」
「私のパパすごいでしょ」
リカが思わぬ技に驚き、カスミがセンリさんの戦略に息をのみ、ハルカが父親のすごさに誇らしげだ。
「どうかなサトシ君」
感じる。センリさんとヤルキモノの強烈な闘志が、俺たちを圧倒しようとする意志が。だが――
「今の炎で俺たちの闘志もますます燃えてきましたよ。そうだろピカチュウ!」
『ピッカピカチュウ!』
「うむ、素晴らしい闘志だ。それでこそポケモントレーナー。私もジムリーダーとして全力で応えよう。ヤルキモノ『きりさく』!」
『ヤァル!』
「負けないぞピカチュウ『アイアンテール』!」
『チュウウウピッカァ!』
2体の強烈な一撃が炸裂。吹き飛んだピカチュウとヤルキモノは後退しながら相手を見据える。
「『かえんほうしゃ』!」
ヤルキモノから強烈な炎が発射される。先ほどよりも威力は大きい。これが2人の闘志の証。
これを待っていた。
「ピカチュウ『なみのり』!」
「なに!?」
『ピカピカ、ピッカア!』
ピカチュウの全身に水流が纏う。そのままヤルキモノの『かえんほうしゃ』に突進する。
纏った水は火炎を押しのけ、そのままヤルキモノに直撃した。
ヤルキモノは吹き飛んで倒れる、しかしすぐに立ち上がる。
「意表を突いたつもりが、逆に突かれるとは思わなかった」
驚いた顔だったセンリさんは冷静に俺とピカチュウを見ていた。『なみのり』が通じたのはさっきだけだろうな。ここからは小細工なしの本当のバトルだ。
「ここからだヤルキモノ『きりさく』!」
ヤルキモノは一瞬でピカチュウとの距離を詰め、鋭い爪を振り下ろした。
吹き飛んだピカチュウはダメージを負いながらも立ち上がる。
「大丈夫かピカチュウ!」
『ピッカチュウ!』
ピカチュウはまだまだやれるな。
「追撃の『きりさく』だ!」
「迎え撃て『アイアンテール』!」
センリさんの猛攻、怯まず迎え撃つだけだ!
ヤルキモノの爪とピカチュウの尻尾が激突する。互いに打ち合い、爪がピカチュウに振り下ろされる。しかし、ピカチュウも負けじと尻尾を振り上げヤルキモノの顔を打ち抜く。
ヤルキモノが後退する。
「今だ『ボルテッカー』!」
『ピッカァ! ピカピカピカピカピカピカピカ!!』
全身を電撃で包んだピカチュウが猛スピードでヤルキモノへと突進する。
「なんという電撃、素晴らしい! ヤルキモノ『きあいパンチ』だ!」
体勢を立て直したヤルキモノが拳を振り上げ、突進するピカチュウを迎撃する。
凄まじい音と共にフィールドに衝撃が走る。
互いの技の破壊力に2体は後方に吹き飛んだ。
「ピカチュウ!」
「ヤルキモノ!」
立ち上がったピカチュウは反動ダメージに苦悶の表情を浮かべ、ヤルキモノも大ダメージなのか息が荒い。
「見事だサトシ君、その歳でよくここまでポケモンを育てた」
「ありがとうございます」
「どうやら君のバトルは相手を熱くさせるようだ。ジムリーダーとしてだけじゃなく、1人のトレーナーとして私は君に勝ちたいと思っている。私たちの本当の全力をお見せしよう」
「あんな熱いパパ見るの初めてかも」
観客のハルカがセンリさんを見て驚いている。
「俺たちもまだまだここからが全力です」
「よし来い!」
その時、駆動音がこちらに近づくのが聞こえた。
「む?」
「なんだ?」
***
「おおいセンリ!!」
「オダマキ?」
トウカジムの前に勢いよく停車した車から降りてきたのは、白衣を着た大柄で口髭を蓄えた男性だ。
オーキド博士に見せてもらった顔写真通りの男性。
「あの人がオダマキ博士?」
俺の質問をかき消すようにオダマキ博士はセンリさんにむかって興奮気味に詰め寄った。
「すごいぞ、すごい発見をした!」
「落ち着け! まったく客人の子供たちを待たせて思いつきで外に飛び出して、なにをやってるんだ」
センリさんがチラリと俺たちを見ると、オダマキ博士も吊られるように俺たちを見た。そして目を見開く。
「あ、君たちはもしかしてサトシ君とリカちゃんとカスミちゃんかい?」
「はい、そうです」
「そうか、私がオダマキだ。またせて本当に申し訳ない。どうしても気になることがあって居ても立っても居られなくて、君たちが到着するまでは戻るつもりだったんだが」
オダマキ博士が申し訳なさそうな顔で俺たちを見まわす。やはり悪い人ではないようだ。
博士は好きなことに夢中になると周りが見えなくなって居ても立っても居られなくなるのだろう。
それは研究者として必要なことなのかもしれない。
「それで、血相変えてわざわざ俺のところまで来たのはなぜだ?」
「そうだった、実はトウカの森近くを調べていたんだが、そこで面白い発見をしたんだ。実は――」
「待てオダマキ」
「む?」
話を止めたセンリさんがフッと笑う。
「せっかくだからその面白い発見とやらを、サトシ君たちに直接見せてあげるのはどうだ?」
「「「え?」」」
センリさんの申し出に俺たちは同時に声を上げる。
「おおそうだそれはいい! 君たちには私のフィールドワークを体験させてあげたかったんだ。どうだい?」
これは願ってもないことだ。研究者の仕事に同行できるなんて滅多に体験できることではないからな。
「ええ是非お願いします」
「ホウエン地方の自然を感じてみたいです」
「見たことない水ポケモンも見てみたいです」
俺もリカもカスミも答えは同じだ。
「よっし、待たせてしまったしすぐに出発しよう」
「あの私もいいですか?」
意気込むオダマキ博士にハルカが片手を挙げて申し出た。
「ハルカちゃんもかい? 俺は構わないが、サトシ君たちはどうかな?」
「お願いサトシ!」
ハルカは両手を合わせて俺たちにお願いしてくる。答えはもちろん――
「ああ、ハルカも行こうぜ。ポケモンたちと出会うのってすっごくワクワクするんだ」
「ありがとう!」
ハルカはパァと笑い今にも飛び上がりそうだ。
センリさんはそんなハルカを見て軽く笑いながら、
「ハルカもしばらくしたらポケモントレーナーとしてデビューするんだ。先輩トレーナーたちとポケモンのことを学んでくるといい。帰ったらその発見のことをハルカから教えてくれ」
「やったありがとうパパ! 楽しみにしててね!」
センリさんの激励にハルカはますます嬉しそうな顔になる。
「それじゃあサトシ君、リカちゃん、カスミちゃん、ハルカちゃん。フィールドワークに出発だ」
オダマキ博士が胸を張り大きく宣言する。
「「「「よろしくお願いします!」」」」
***
オダマキ博士の車に乗った俺たちはトウカの森を通過していた。博士の車は力強そうな見た目に反してエンジン音はとても静かだ。森に住むポケモンたちを驚かせないための配慮なのだろう。周りを見ると野生のポケモンたちはこちらを伺っているが、驚いたり怖がっている様子はないようだ。
「野生のポケモンが多いとこって行ったことないから楽しみかも」
「ポケモンが動く姿って本当にすごいんだぞ、よおく見て見ろよ」
はたから見ていてわかるくらいにワクワクしているハルカ、彼女にポケモンの良さを知ってほしくて俺はらしくもなく先輩のように振る舞っている。
温暖な気候のホウエン地方なだけあって、森林は豊かに生い茂り、野生のポケモンたちが生き生きとしていた。
「わあ! あのポケモンは!?」
「あれってハスボーとラブカス? 可愛い!」
走行中の車から見える自然とポケモンたち。草むらをジグザグマとポチエナが走り、木の上でタネボーが遊び、川ではハスボーとラブカスが泳いでいた。
オダマキ博士が車を止める。降車した俺たちは周りの原っぱや木々、森全体を見渡す。
「わあ、あれポチエナだっけ? 可愛いかも!」
嬉しそうな顔のハルカはポチエナに近づき右手を伸ばした。
「ほらほらおいで~」
『ポチェ!』
その時、ポチエナはハルカを見ると口を開けて牙をギラつかせ襲い掛かった。
咄嗟に俺は飛び出した。
「危ない!」
「きゃあ!」
ポチエナが『かみつく』よりも先にハルカの両肩を掴んだ俺は、彼女をその場から退避させることに成功した。ポチエナは攻撃がかわされたことがわかるとそのまま茂みの奥へと走り去って行った。
「怪我はないか?」
「う、うん」
「野生のポケモンは人間を攻撃してくることがあるから、不用意に近づいちゃダメだ」
「そ、そうなんだ、すぐに仲良くなれると思ったのに……」
ハルカは、ポチエナが去ってしまった茂みの奥へ、名残惜しそうな視線を送る。
「焦らず少しずつやっていけばいいよ」
「……うん」
ふと気づくと俺はハルカの両肩を抱いて向かい合ってる。男が女の肩を抱いている。これは今日会ったばかりの人間の距離としてはあまりにも近すぎるのではないか、
ファーストコンタクトであんな密着してしあわs……もとい、衝撃的な出来事にはなったのだが。
するとハルカも距離が近いことに気づいたのか、頬が赤くなっていく。
「あ、あうぅ……」
俺はサッと両手を離して一歩下がる。
顔を赤くしてモジモジするハルカとそれを見て視線が定まらない
気まずい雰囲気になっていると俺はさきほどのオダマキ博士の話を思い出した。
「そういえばオダマキ博士、面白い発見ってなにがあったんですか?」
オダマキ博士は「そうだった」と言い、ある場所を指差した。
「あの窪みを見てくれ」
オダマキ博士の示した場所に行くと、そこには言われた通りの窪みがあった。その形はまるで――
「これってもしかしてポケモンの足跡かな?」
「正解だよ」
リカの答えにオダマキ博士は満足そうに頷いた。
「なんのポケモンなんですか?」
「これはキモリの足跡だよ」
「キモリ?」
「確かホウエン地方で新人トレーナーに渡される草タイプのポケモンでしたよね」
「そうだね、ホウエン地方の新人トレーナー用のポケモンとして有名なキモリ、アチャモ、ミズゴロウ。実はこのポケモンたちは生息地についてわからないことが多いんだ」
オダマキ博士は続ける。
「新人トレーナーのポケモンは専用の施設で生まれたポケモンなんだ、しかし、野生の個体はなかなか見つけることができない。だから生息地不明であることが多いんだよ」
「足跡があるということは、この近くにキモリがいるということですか」
カスミの疑問にオダマキ博士は頷く。
「その通りだ。今までわからなかったポケモンの住処がわかるのは大発見だからね。ぜひキモリをみつけたいんだ」
図鑑で確認すると、確かに生息地不明のポケモンとあった。しかし、本当に近くで暮らしているというならこれはいい機会だ。
「せっかくホウエン地方に来たんだし、本物のキモリ見てみたいな」
「そうだね、私たちも探しますよオダマキ博士」
リカの言葉を受けオダマキ博士は満足そうに頷く。
「ありがとう助かるよ」
「でもそう簡単に見つかるのかしら」
カスミの言う通り、身軽なキモリをホームタウンである森の中で見つけるのは至難の業となるだろう。
「あ、あれキモリじゃない!?」
声の主はハルカその場の全員が振り向くと、木の上に両手両脚でへばりつくポケモン、キモリがいた。
『キャモ』
「おお、あれは紛れもなくキモリだ!」
早速本物のキモリに出会えるとは幸先がいい。キモリは木にへばりついたまま俺たちを見下ろしていた。よく見るとキモリは小枝を口に加えていた。なかなかクールな出で立ちだな。
『キャモキャモ!』
キモリは瞬時に別の木へと飛び乗り、繰り返すことで森の奥へと移動していった。
「すごいジャンプ力だな」
「どこに向かってるの?」
***
俺たちは木の上を移動するキモリの後を追って
ここで森の探索の基本、迷わないように現在地や目印を気にしながら俺たちは駆ける。
すると大きく開けた場所が見えた。キモリの目的地はここなのだろうか。
道を開ける木々に見送られながら俺たちはそこに到達した。
「なんだこの大きな木は」
そこにあったのはとてつもなく大きな木。その全長周りの木々とは比べ物にならないほどの巨大な大樹だ。
「草タイプのポケモンの一部は群れになって大きな木の上で暮らしているのは知られているが、キモリもそうだったのか。それに、ここまでの大樹は見たのは私も初めてだ」
オダマキ博士の解説。つまり自然の恵みはポケモンの暮らしに大きな影響を与えるんだな。
「でも、これって枯れているみたい」
リカの言う通り、この大樹の枝にはほとんど葉っぱが付いておらず、体表もボロボロ、枯れている。
「ところでキモリは?」
ハルカの言葉で、こっちに来たはずのキモリがいないことに気付く。
「ねえあれ!」
カスミが指さした方を見ると、森の奥から先ほどのキモリが現れる。
よく見ると大きな葉っぱを背負っている。
「あのキモリはなにしてるんだろ」
リカの疑問の答えはすぐに出た。葉っぱには水が入っていた。おそらく近くの川から汲んできたのだろう。水を大樹の根本に注いだ。そしてキモリは枯れ葉を根本に優しく置いた。
「大樹を世話しているのか?」
見る限りそう考えられる。
すると、森の奥から複数の影が飛び出した。
それらすべてはキモリたちだった。
「キモリがこんなにたくさん」
たくさんのキモリが大樹の元に集まった。すると、キモリたちは大樹の世話をしていたキモリに1体の年老いたキモリ何かしら話しかけていた。その鳴き声はどこか諭すようにも聞こえた。それに対して世話をしていたキモリは首を振っていた。まるで拒否するかのように。
「どうしたんだろ喧嘩かも」
その時、地響きと共に巨大な重機が出現、重機から大きな網が出てくるとキモリたちを掬い上げ、備え付けてある檻に閉じ込めてしまった。
閉じ込められてしまったことに驚き慌てるキモリたちは騒ぎ出す。
「これはいったいなんなんだ!?」
「なんだかんだと言われれば――」
――以下略
現れたのはいつもの男女ポケモンの3人組。
「ロケット団!」
「久しぶりだなジャリボーイ、俺たちは怒ってるんだぞ! お前たち追いかけてあちこち行く羽目になったんだからな!」
「カロスにまで追いかけたらあんたたちもういなくなるなんてどういうことよ!」
「飛行機代を返すのニャ!」
「そんなもん知るか!」
ロケット団の金銭問題の責任なんか俺が知るもんか。
「ねえサトシ、あの人たち誰なの?」
質問者はハルカだ。
「あいつらはロケット団、人からポケモンを盗む悪人だ」
「ロケット団、カントーを中心に暗躍していると聞いたことあるが、彼らがそうなのか」
オダマキ博士はロケット団の存在を知っていたようで警戒を露わにする。
「ふん、まあいいわ。カントーでは珍しいホウエンのキモリたちを頂いていくわ」
「ポケモンを捕まえるならモンスターボールで捕まえるんだ!」
ロケット団のポケモンの捕獲方法にオダマキ博士は異議を唱える。
「あたしたちは悪の組織ロケット団」
「そんな常識やルールには縛られないのさ!」
しかし、ロケット団は聞く耳を持たない。
「だったらフシギダネ、ゼニガメ!」
『ダネダネ!』
『ゼニィ!』
「『はっぱカッター』と『みずでっぽう』! 檻の鍵を壊すんだ!」
『ダネフシャ!』
『ゼニュー!』
葉っぱの刃と水流が檻に向かって放たれる。
「させるか行けドガース『ヘドロこうげき』!」
「アーボ『どくばり』よ!」
『ドガース!』
『シャーボ!』
ロケット団が繰り出したドガースとアーボが迎撃してきた。
「行くのよスターミー『みずでっぽう』!」
「お願いブースター『かえんほうしゃ』!」
『フゥ!』
『ブスター!』
カスミのスターミーが水流を、リカのブースターが火炎をそれぞれ発射しヘドロと毒針を粉砕する。
「ドガースとアーボは私たちが相手するよ」
「サトシはキモリ達をお願い!」
「さんきゅリカ、カスミ」
俺はフシギダネとゼニガメに再び檻の破壊を指示、しかし、檻は壊れる気配を見せない。
「く、壊すには威力が足りないのか、だったらピカチュウを――」
その時、檻に1体のキモリが降り立つ。そのキモリは小枝を咥えていた。
あれは大樹の世話をしていたキモリだ。どうやら檻に捕まらずに済んでいたみたいだ。まさか地上から檻までジャンプしたのか?
「おそらく、檻にへばりついて仲間を助ける機会をうかがっていたんだな」
オダマキ博士の説明を聞いて納得した。キモリの手のひらは足の裏には小さなトゲトゲがついていて、垂直な壁も渡ることができるんだったな。
『キャモオオオ!!』
するとキモリは口から緑の弾丸を発射し檻の鍵にぶつけた。高速の弾丸が絶え間なく鍵に直撃していく。
「あの技は?」
「おおっ、あれは『タネマシンガン』、種を連射して連続攻撃を可能にする技だ!」
オダマキ博士の解説を聞き、キモリの技に感心していた俺は自分たちも続かなければと、フシギダネとゼニガメに指示を出す。
3つの技がぶつかり鍵はとうとう破壊された。
「やった鍵を壊せた」
「逃げてキモリたち!」
檻が開き、キモリたちが次々と飛び降りていく。あの高さからの落下しキモリたちが危ないと思っていると、キモリたちは次々と周りの木に飛び乗っていった。それぞれの木から地面に降りたキモリたちには傷一つない。
「すごい」
「なんて身軽なの」
リカもカスミも驚いている。
「ホームグラウンドではお茶の子さいさいということだな」
オダマキ博士も感心したように頷く。
捕まっていたキモリ、最後の数匹が飛び降りようとしたその時、彼らは足を滑らせバランスを崩して真っ逆さまに落下してしまった。態勢の立て直しもできていない。
「危ない!」
「フシギダネ『つるのムチ』でキモリたちを受け止めろ!」
『ダネフシ!』
フシギダネは蔓を器用に動かし落下するキモリ計3体を受け止めていく。
「ナイス、フシギダネ!」
『ダネダネ!』
見守っていたハルカがきもりたちの無事を喜んでいる。
「キモリたちが無事で良かったかも」
「ああ、そうだな」
「ブースター『かえんぐるま』!」
「スターミー『こうそくスピン』!」
『ブースター!』
『フウウ!』
ブースターとスターミーの突撃がドガースとアーボに炸裂した。
『ドガァ〜』
『シャボ!』
吹き飛んだアーボとドガースがロケット団の2人に衝突する。「ぐえ!」「ぎゃん!」と悲鳴が聞こえた。
「これでとどめだ!フシギダネ『ソーラービーム』、ゼニガメ『みずでっぽう』!」
『フッシェエエエ!!』
『ゼ、ニュウウウウウ!!』
日光が膨大なエネルギーとなりフシギダネの蕾から発射され、ゼニガメが先ほどよりも強力な水流を放つ。2るの技はニャース気球に直撃。
「「やな感じー!!」」
技の衝撃で吹き飛んだロケット団はそのまま遥か彼方に見えなくなった。
ロケット団を撃退し、キモリたちも無事で万々歳。そう思っていると襲い掛かった脅威がいなくなりキモリたちは安堵の表情を浮かべていた。
それを遠巻きに見ていたのが小枝を咥えたキモリ、彼が大樹へ向かおうとすると、老いたキモリを中心としたキモリたちが立ちはだかり再び言い争いが再開した。
彼らの間に何があったのかまだ話がつかめずにどうしたものかと頭を悩ませていると俺はあることに気が付いた。
視線を向けた先に1体のニャースが地面に倒れ伏していた。
「いててひどい目にあったニャ」
そうロケット団のニャースだ。運良く吹き飛ばされなかったようだ。悪いのかもしれないが。
「お、ちょうどよかったニャース」
「ニャニャ、ジャリボーイ!」
俺が近づくと慄くように後ずさるニャース。
「ちょっと手伝ってくれないか?」
「ニャ、ニャーになにをさせる気だニャ!?」
近づく俺にビクリとニャースは驚く。
「別に怖いことじゃないよ、あのキモリたちの通訳をしてほしいんだ」
「わ、わかったニャ」
逆らってもいいことは無いと悟ったのか。ニャースは言い争うキモリたちの方を見る。
「サトシ、なんであのニャース人間の言葉を喋ってるの? 少し変かも……」
ハルカの疑問ももっともだ。
「俺たちも詳しくは知らん、けど、こういう時は役に立ってるから気にしてない」
今更だしな。
「ふむふむ……どうやらあのキモリはこの枯れそうな大樹を元に戻そうとしているのニャ。けれどもあの長老キモリや他のキモリは大樹はもう寿命だから、もうこのまま終わらせてやるべきだと言っているニャ」
「あのキモリ、この木を守ろうとしてたのね」
「……お別れは辛いよね」
カスミとリカが悲哀を浮かべてキモリたちを見る。
「しかし、もうこの大樹は寿命だ。もうこのまま枯らせてやるのがこの大樹のためだ」
オダマキ博士の言う通り、この大樹は枯れ果てて、葉っぱの一枚も無い。誰が見てもどうしようもないことは明らかだ。
小枝を咥えたキモリは仲間たちから離れると、枯れ葉を根本に与え始めた。
きっと、こんなことしても大樹の運命は変わらない。だけど――
「キモリ、俺たちも手伝うよ」
「サトシ?」
俺は大きな葉っぱを拾うと急いで近くの川に向かった。そこで可能な量の水を汲み、零さないように注意しながら運んだ。そして、その水を木の根元に注ぐ。
「サトシ、どうして?」
リカが尋ねる。当然の疑問だよな。
「キモリもこの木がもう寿命だってわかってるんだと思う。だけど、この木のためになにかしたいんだよ」
俺はキモリの隣で屈む。
「ただ枯れるのをジッと見ているだけなんてできない。自分たちを育ててくれた木に最後まで全力を注いでお世話してあげたい。そういうことなんじゃないかな」
キモリは俺を一瞥すると何も気にしないように作業を再開した。
「じゃあ、私も手伝うわ」
「私も、それじゃ枯れ葉をいっぱい集めないとね」
リカが枯れ葉を集め始めるとカスミは大きな葉っぱを担いで川へ水を汲みに行った。
すでにボールから出ていたフシギダネ、フシギソウ、ブースターも枯れ葉集めを手伝っている。ゼニガメとスターミーはカスミについて行った。
「ふう、ポケモン研究家として、子供たちが頑張ってるのに黙って突っ立てるわけにはいかないな」
オダマキ博士も集めた枯れ葉を根本に与える手伝いを始めた。
すると、周りのキモリたちも次々と大樹の世話の手伝いをし始めた。小枝を咥えたキモリに何かを言っていた。
俺はニャースを見る。それで伝わったのかニャースは通訳を始める。
「『大樹に育ててもらったのは俺たちも同じだ。お前の言う通り、今、自分たちにできることをしたい』と言ってるニャ」
それを聞いて俺は心から嬉しく思った。この行為は決して無駄ではないんだと確信できた。
「ニャア……キモリたち、なんて仲間想いで健気なのニャ。ジャリボーイたちもキモリたちのために頑張って、みんないい奴なのニャ、感動的なのニャ……」
後ろでニャースが泣いていた。
***
ハルカはキモリを手伝うサトシたちをジッと見ていた。自分のポケモンと共にキモリを手伝うその姿に口を開く。
「ねえ、サトシはどうしてキモリたちのためにそこまでするの?」
「ん?」
振り返るサトシにハルカは続ける。
「だって、キモリは野生のポケモンで、サトシのポケモンってわけじゃないんでしょ? なのにそんなにキツくて、体が汚れるかもしれないのに、どうして?」
「そうだな、確かにキモリは俺のポケモンじゃない。けど、困ってるポケモンがいるならなにかしてあげたいんだ」
ハルカにとってそれは思わぬ答え、驚いて目を見開いた。
サトシは続ける。
「俺、最高のポケモントレーナーになりたいからさ、ポケモンには常に向き合いたい。どんなポケモンでも、自分にできることをしたい。それができるのが、一流のポケモントレーナーだって思うからさ」
屈託なく笑うサトシは心から嬉しそうに見えた。
「それに、一緒になにかを頑張れば、友達になれるかもしれないだろ?」
「ポケモンと……友達……」
サトシの言葉を反芻するハルカ。すると手伝っていたカスミとリカがハルカに歩み寄る。
「サトシは人一倍ポケモンバカだからね。なんでもかんでも首を突っ込んじゃうのよ」
「ポケモンのためのならたとえ火の中水の中草の中森の中……絶対に止まってくれないんだよ」
困った風な言い方だが、リカとカスミはどこか嬉しそうに笑う。
「まっ、それがいいとこなのかもね」
「頑張るサトシ見てるとこっちも頑張りたくなるんだよね」
優しく笑うカスミとリカの言葉を聞き、ハルカは再びサトシを見る。
するとオダマキ博士が「ハルカちゃん」と呼びかける。
「『大好き』であることはすべての原動力だと思うんだ。サトシ君のポケモンが大好きという気持ちはきっと彼を前に進めてくれるんだよ」
「『大好き』の、気持ち……」
「ハルカちゃん、君はどうしてポケモントレーナーになりたいのかな?」
言葉が頭を反芻する。父親のセンリがポケモンを巧みに操る姿を幼い頃から見てきた。その姿に憧れて自分もポケモントレーナーになりたいと考えるようになった。けど、今はどうだろう。
(私はどうしてポケモントレーナーになりたいの?)
サトシが頑張る理由、オダマキ博士が言った『大好き』という気持ち、それはハルカの中で何かが嚙み合う気がした。ポケモンのことをもっと知りたい、色んなポケモンに出会いたい。そう思えるのは、きっとそれは『大好き』が原動力だから。それが自分の中にある大事な気持ちだから。
そして、伝わる。リカとカスミのサトシへの想いが、自分の中に芽生えている想い。
ハルカは決心する。
「じゃあ私も手伝うわ!」
自分もいつかポケモンと出会うことになる。その時、自分にできることをここから学びたい、心からそう思った。
「ハルカ、ありがとう」
「えへへへ」
サトシがハルカに心からの笑顔を向ける。ハルカは自分の中に芽生えたものがどんどん暖かく膨らんでいるのを感じ豊かな胸元に手を当てる。その感覚がとても心地よく、大事にしたいと思った。
***
引き裂くような音が響いたのはその時だ。
その場にいた人間もポケモンも同時に顔を上げた。地響きのような音と共に僅かに大樹が揺れた。
亀裂がみるみるうちに木の中心に走って行く。
「そんな、木が……!?」
世界が止まる。
種から芽が生え、次第に伸びていく。
芽は次第に大きな木となり、さらに種を落としていく。それはは木になり大樹の周りを囲んでいく。
それから大樹にはたくさんのポケモンたちが集まる。
大樹は時に、木の実をポケモンたちに与え、時にポケモンたちが雨風を凌ぐ屋根となり、時に怖い存在から隠れる盾となり、ずっとずっと見守り手助けをした。
「これって、まさか、この木の、記憶……?」
――ありがとう
『キャモ!?』
「今の声って……」
ズズン……という地響きと共に、大樹は完全に沈黙した。
キモリの足元に一粒の種が転がった。
「この木も、キモリたちのことが大好きだったんだね」
リカが優しくキモリと種を見る。
キモリは転がった種を拾うと仲間に渡す。そして、サトシに近づく。
『キャモキャモキャッモオ!』
「キモリ、どうしたの?」
ハルカが呟くとニャースが耳を傾ける。
「ニャニニャニ……キモリはジャリボーイとバトルしたいと言ってるニャ……『俺が勝ったらお前のポケモンになってやる。お前が勝ったら俺をお前のポケモンにしていい』と言ってるニャ」
「どっちにしてもサトシのポケモンになりたいんだね」
「サトシのこと気にいったのね」
「素直にそう言えばいいかも」
リカ、カスミ、ハルカが可笑しそうにキモリを見る。
「うむ、トレーナーのことは気に入ってるがその実力を知りたいということなのか。素直じゃないがなかなかストイックで良いポケモンじゃないか」
オダマキ博士の言う通り、こんなにたくましいキモリが仲間になるなら心強い。
「よしバトルだキモリ!」
するとキモリはサトシの足元にいるフシギダネを指さす。
『キャモ!』
『ダネ?』
「もしかしてフシギダネとバトルしたいのか?」
再びニャースに通訳をお願いする。
「ふむふむ、『俺の仲間たちを救った動きは見事だった。同じ草ポケモンとしてフシギダネとバトルしたい』と言ってるニャ」
「よしそれなら……フシギダネ、君に決めた!」
『ダネダネ!』
フシギダネが前に飛び出しキモリと対峙する。
俺の後ろではゼニガメが『ゼニゼニー!』応援してくれてる。
「フシギダネ『はっぱカッター』!」
『ダネダネ!』
先手を取ったフシギダネが鋭い葉をキモリに向かって連射する。
『キャモ!』
キモリは駆け出し、超スピードで『はっぱカッター』を回避する。
「速い!」
フシギダネもキモリの凄まじい速度に驚いているようだ。
「キモリは草タイプの中でも素早い動きを得意とするポケモンだ。あの動きを捕えるのはなかなか難しいぞ」
オダマキ博士が研究者らしくポケモンの解説をしていた。
するとキモリの攻撃、口から高速の弾丸を発射する『タネマシンガン』だ。
『タネマシンガン』はフシギダネに連発する。
「キモリはフシギダネよりも速いかも。キモリの方が有利なんですか?」
「いやそうとも限らない。フシギダネは素早さはそこまで高くないが、防御が強い。攻撃を耐えていけばきっと勝機はあるはずだ」
そうだ。どんなポケモンにも勝つ可能性がある。
『タネマシンガン』を耐え抜いたフシギダネ。するとキモリは駆け出し猛スピードで突進した。この速度の攻撃は『でんこうせっか』
「今だフシギダネ『つるのムチ』!」
『ダネフシャ!』
こちらに向かって来るキモリに対し、フシギダネは蔓で迎撃。攻撃を受けたキモリの動きが一瞬止まる。
「そのまま『ヘドロばくだん』!」
隙を逃さず指示を出す。フシギダネから毒タイプの一撃が発射されキモリに直撃する。
効果は抜群だ。大ダメージを受けたキモリは苦悶の表情を浮かべる。
しかし、鋭く目を開くと再び『タネマシンガン』を発射する。
「かわしてそのままキモリに向かって走れ!」
『ダネダネ!』
弾丸を回避したフシギダネは持てるスピードを出してキモリへと突進する。
「行け『すてみタックル』!」
フシギダネの最大スピードと共に猛烈な体当たりをキモリへと炸裂させた。
キモリは回避が遅れて全力の『すてみタックル』を受けて吹き飛ぶ。
「今だ行けモンスターボール!」
キモリにぶつかったモンスターが開き、キモリが入る。
しばらく、揺れる。そして、止まった。
「よっしゃあ! キモリゲットだぜ!」
『ダネダネ!』
『ゼニゼニ!』
フシギダネも飛び上がり、ゼニガメも駆け寄ると一緒に飛んで喜んでくれた。
「カロスに続いてまたゲットね。おめでとう」
「サトシ絶好調だね」
「ああ、ありがとう」
俺はカスミとリカにキモリをゲットしたボールを見せる。
そのボールを見てあることに気づき固まる。
「どうしたの?」
「あのさ、キモリに本当に俺たちと旅をするのか聞きたいんだけど、7個目のボールだから開かなくてどうしようかなって」
カスミもリカも困った顔になる。
「それなら良い方法があるぞ」
「「「え?」」」
オダマキ博士の思わぬ言葉に俺たちは同時に驚きの声を上げた。
「君のポケモン図鑑をオーキド研究所に繋げることで、いつでもどこからでも、オーキド博士の元にポケモンを送ることができるんだ」
そんな方法があるなんて知らなかった。
「それじゃあ誰かを一旦オーキド研究所に送るんだ。そうすればキモリのボールも開くよ」
「それじゃあ……ゼニガメ、少しの間だけ戻っててくれ」
『ゼニゼニ』
俺の足元にいたゼニガメは笑って頷く。ゼニガメをボールに戻し、オダマキ博士の指示に従ってボールを図鑑から転送する。
ゼニガメのボールが転送されたことを確認すると、俺はキモリのボールを開く。
『キャモ!』
キモリが無事に出てきた。
「キモリ、俺たちについてきてくれるか?」
『キャモ!』
キモリは力強く頷いた。すると、長老キモリがキモリの肩に手を置きなにか話しかけた。
頷いたキモリは周りの仲間たちを見るとみんな祝福するように鳴き出した。
「よし、これからよろしくなキモリ」
『キャモ!』
その時、ハルカが駆け寄って来た。
「さっきのサトシのバトルすごかったかも! パパの時とおんなじくらいすごかった!」
「ははっありがとう」
「サトシってほんっっっとにすごかったかも! ポケモンバトルするサトシかっこよかったし、ポケモンのために頑張ってたサトシもかっこよかったかも!」
ハルカが目を輝かせて物理的に急接近してきた。迫力と、近づく豊満な胸に反射的にのけぞる。
「「むー」」
隣でジト目で見てくるカスミとリカ、ああ、あとでお仕置きかな……
「うんうん、青春は素晴らしいな」
オダマキ博士、感心してないで助けてください。
あれ、そういえばいつの間にかニャースがいない?
***
森の奥をニャースが走っていた。
「ニャーはこれでおさらばニャ。早くあいつらを見つけるニャ。ニャーもあいつらと一緒に頑張って幹部昇進だニャ! ムサシー! コジロー! どこ行ったニャー!」
***
研究所に戻った俺たちは博士とハルカにお別れの挨拶となった。ちなみにキモリはオーキド研究所へと預けた。
「「「今日はありがとうございました」」」
「こちらこそありがとう。私も良い体験をした。君たちを呼んで本当に良かったよ」
オダマキ博士の言葉に俺も来た甲斐があったと本心から思えた。
「私も今日、サトシ達と一緒にいられてよかったかも。今日のことは絶対に忘れない!」
ハルカも喜んでくれて良かった。
「よし決めた! 私、絶対サトシたちと旅する! ねえどうかな?」
俺はカスミとリカを見る。2人は笑顔で頷いた。
「ああ、これから先ホウエンリーグに挑戦するときになったら、その時はよろしくな!」
「うん、絶対絶対絶対だよ! よーし、すっごくやる気出てきたかも! 家に帰ったらもーっとポケモンのこと勉強するんだから!」
後輩がやる気を出してくれて嬉しいな。なんだかほっこりする。
「それじゃあ、これで失礼します」
「「失礼します」」
「ホウエンに来たら俺のところにも寄ってくれよー!」
「「「はーい!」」」
ホウエン地方体験はこれで終わり、新しく仲間になったキモリも一緒にに次の旅へ向けて俺たちは歩きだす。
***
「待ってー!」
歩き出した3人を引き留めるのはハルカだった。ハルカはリカとカスミに近づく。
「リカ、カスミ。一緒になったらよろしくね」
「ええ、待ってるわ」
「楽しみにしてるからね」
「それから、私負けないかも!」
ハルカの眼は強い決心を抱いていた。それを受けた2人はハルカの気持ちを理解した。そして答えは決まっている。
「ええ私も負けないわ」
「私も、それは別として仲良くなりたいけど」
「もっちろん。私も2人とは仲良くしたいかも」
「「「うふふふふふ」」」
微笑み合う3人の美少女、それをサトシは優しい眼差しで見守っていた。