サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題) 作:エキバン
新しい仲間、ナエトルをゲットした俺、リカ、カスミはヒカリも連れてマサゴタウンに向かっていた。
ちなみに俺の足元ではピカチュウとナエトルが歩いている。
「ねえ、ピカチュウとナエトルも一緒に歩いてるの?」
「ああ、ピカチュウは野生のポケモンが飛び出した時にすぐに迎え撃てるようにするためだよ。ボールから出すよりも最初から出ていた方が速いからな。ナエトルはこれからしばらくシンオウから離れることになるから今はなるべくここの空気を感じさせてあげたいんだ」
『ピカチュウ!』
『ワアウ!』
ピカチュウとナエトルが元気な声を上げる。
「ふーん、そっか」
ヒカリはピカチュウとナエトルを順に見ると俺の方を向いた。
「ねえ、これからナナカマド博士の研究所に行くんでしょ?」
「ああそうだ」
「この辺りに住んでる子供ってトレーナーになる時はナナカマド博士からポケモンを貰うの。もちろんあたしもね」
「初めてポケモン貰う時って、すっごく感動するんだよ!」
「うん、今からすっごく待ち遠しいわ!」
空を見上げるヒカリはこれから先に待っている自分の夢と冒険を見ているようだ。
きっと彼女は旅の先々では驚きや感動が待っているだろう。その姿を想像するだけでこっちも楽しみになってきた。
そう思いながら目的地までさらに進んでいく。
フタバタウンにある研究所はマサラタウンのオーキド博士の研究所にも劣らないほど大きな建物だった。
俺はインターホンを鳴らす。
『はい、どなたかな』
聞こえてきたのは威厳のある男性の声だ。
「突然お邪魔してすいません、俺たちはオーキド博士の紹介で来た者です」
『おお、君たちか。少し待ちたまえ』
「ようこそサトシ君、リカ君、カスミ君。む? 来るのは3人と聞いていたが?」
「あはは、あたしはさっきサトシたちに出会って付いてきた者でヒカリっていいます! 近々、トレーナーデビューする予定なんです。サトシたちにトレーナーについていろいろ聞いてるんです!」
「そうか、勉強熱心なのはいいことだ。君も参加するといい」
「ありがとうございます!」
研究所に案内された俺たちは全員でナナカマド博士と、向かい合い、講義を聞いていた。
「私はポケモンの進化について研究している。ポケモンはレベルを上げるほかにも様々な方法で進化をしている」
「石などの道具による進化、特定のポケモンが関係している進化、様々だ。さらにはポケモンと人がかかわることによる進化も多く確認されている」
「例えば、交換による進化。ポケモンと人間がいることで可能となる進化だ。他にもトレーナーに懐くことによる進化もある。つまりこれはポケモンがトレーナーを心から信頼している証だろう。共に暮らし、遊び、旅をし、冒険をし、困難に立ち向かい、嬉しい時も悲しい時も悔しい時も、ポケモンとトレーナーは一緒にいる。そこに生まれる心と心の密接な触れ合いが。ポケモン自身に大きな影響を与える」
博士は「無論、トレーナー自身にも」と付け足す。
「俺、今までみんなと旅をして、大変な経験を何度もしてきました。けど、どんな時もポケモンがいたから立ち向かうことができました。怖いと思うこともあったけど、ポケモンと一緒だったらどんなことでも乗り越えられる。そんな気持ちになって、最後まで諦めずにいられました。それはこれから先も同じだと思います」
「それはポケモンからしても同じことだろう。君たちというトレーナーがいたからこそ、力を発揮することができ、困難を解決できた。それは互いの成長を促す大変貴重な経験なのだよ」
ナナカマド博士は「付いてきたまえ」と言うと、外につながる扉を開く。俺たちは博士に促されてついていくと、そこには広大な草原が広がり、向こうには森が見えた。
「この辺り一帯には野生のポケモンが多く生息している。ヒカリ君により多くのポケモンたちを見せてあげるといい」
「わあ、ポケモンがたくさん!」
「「待った!!」」
喜色満面のヒカリが駆け出そうとすると、リカとカスミがそれぞれ片手でヒカリの肩を掴んで急ブレーキをかけさせる。
「え、なに?」
「ポケモン持ってないのに野生のポケモンに近づいたら危ないんだってば」
「さっきビークインに襲われてて怖い思いしてたよ」
「う、そうだった……」
少し恥ずかしそうなヒカリが片手で頭をかく。するとカスミとリカがヒカリの前に出る。
「私たちから離れないようにしなさいよ」
「ヒカリは私たちが守るからね」
「2人ともありがとう!」
やだお2人ともイケメン! 惚れる!
ナイト役が男というのは時代錯誤だろうか、俺も前に海で2人に守ってもらったしな。俺は影から見守る守護者にでもなるか、お、なんだか守護者ってかっこいいぞ守護者(ガーディアン)そのままだけどかっこいいぞ。周りを見渡し、危険が迫ってないか前後左右果ては空を土の中も警戒を怠らない。ピピピッ……我がレーダーには異常なし、脅威反応なし。よし、このまま前進! さあ行こうみんな!
4人はとっくに歩き出して俺からもう5メートルは先にいた。
「何してんのよサトシー!」
「置いてくよー!」
ふっ、いいのさ。今の俺は影、みんなが無事ならそれで――
「今行くー!」
泣いてないぞ、ほんとだぞ!
「ナナカマド博士、あのポケモンはなんていうんですか?」
ヒカリが指さした先には木々に止まるポケモンたちがいる。黒と灰色の体毛にオレンジの嘴の小さな鳥ポケモン。そしてそれらと同じ色の体毛と嘴を持ち一回りほど大きな鳥ポケモンもいる。
「あれはムックルという飛行タイプのポケモンだ。その向こうにいる少し大きい体のポケモンは進化系のムクバードだ」
ナナカマド博士の説明を聞いたヒカリはムックルとムクバードを見上げる。その時、ガサガサという音がすると、3体ポケモンが飛び出した。うち2体は茶色の体毛に丸っこい体、尻尾は3つの山のようになり、愛嬌のある顔に口から大きな前歯が飛び出している。1体はそれらと特徴が似た特徴を備えている。違いは尻尾が大きく伸びていることと、大きな体。
飛び出したことで俺たちは瞬時に構えるが、3体は別の茂みの奥へと消えた。
「今走って行ったポケモンはビッパと進化系のビーダルだ。ビッパはノーマルタイプだがビーダルに進化すると水タイプも備えている」
「え、水タイプなの!?」
あの見た目からは想像できない事実にカスミは驚きの声を上げた。俺も驚いた。
初めて見るポケモンたちにヒカリだけでなく俺も興奮を覚えた。おそらくリカとカスミも同じだろう。
「サトシ君、先ほどの話しの続きだが、人とポケモンの関わりが重要と言ったが、他にも私はポケモンとトレーナーの触れ合い、そしてトレーナー同士の関わり合いも重要だと考えている」
「トレーナー同士がバトルを通して互いを知り、自分と違う考えやバトルスタイルが本人の考え方にも強い影響を与える。そんな例を数多く見てきた」
「ポケモントレーナーが多くのトレーナーとバトルをすることでより成長するのは、相手のトレーナーから与えられる多くの刺激によるものだと私は考えている」
「君と旅をしているリカ君とカスミ君だけでなく、これから先出会うポケモントレーナーたちが君自身を成長させる要因となる。このことを理解し、自身をさらに磨いていくといい」
「はい」
その言葉は博士からの忠告でありこれからの旅への激励、「自分を磨く」よく聞く言葉で人がやるべき当たり前のことなのだろうけど、改めて言われるとより身が引き締まった気がする。
ナナカマド博士に感謝の気持ちで一礼した俺は、他のポケモンを探してみようとした。その時、激しい音と共に閃光が走る。音のした方を見ると電撃が木々の間から空に向かって放出されていた。
「なんだあの電気は」
「行ってみましょう」
***
強烈な電撃が森の木々から飛び出すように激しくうねっている。すると多くのムックルたちが驚いたせいか、木々の間から空へと飛び立っていった。
電撃の発生源まで走るとそこには1人の少年、足元にはエレキッドが両腕を振り回しながら電撃をムックルにの群れに浴びせていた。
「ん?」
エレキッドを伴った少年は俺たちに気付いたのか振り返りその鋭い目を向けた。
「お前……」
「あ、ごめん、邪魔するつもりはなかったんだけど」
少年は俺を見て、視線をナナカマド博士の方へ向けると歩いてくる。
「初めまして、俺はトバリシティのシンジと言います。ナナカマド博士とお見受けします」
「うむ、いかにも私がナナカマドだ」
「お会いできて光栄です」
鋭い目つきで不愛想にも見える雰囲気だが印象と違って礼儀正しい態度だった。彼――シンジは俺を見て、次に俺の足元のナエトルを見ると口を開いた。
「お前、そのナエトルでいいのか?」
「え?」
『ワウ?』
質問の意味が分からず、俺は疑問の声で聞き返す。
「さっきお前がそのナエトルを仲間にするのを見ていた。どうせゲットするなら能力値が高く強いやつにした方がいい。だが、お前は何も考えず出会ったからゲットしたみたいだな」
「……それの何か問題があるのか? 第一、そのポケモンがどんな能力かなんてわかるのか?」
嘲笑うようなシンジの言葉に苛立ちを覚える。
「わかるさ、お前ポケモン図鑑の機能を知らないのか?」
「機能?」
「ああ、ポケモン図鑑は捕まえたポケモンの技を覚えているのかわかるし、能力値を測ることができる。それで同じポケモンでも能力の違いがわかる。こんな風にな」
シンジは三つのボールを投げるとそこから3体のムックルが飛び出した。
『『『ムクゥ!』』』
「ムックルを3体も?」
現れたムックルはシンジの足元に着地する。シンジはムックルに向けて図鑑をかざす。
「まあ、ゲットする前からわかっていれば手間も省けるんだが……」
面倒そうにしながらムックルたちに図鑑を向けた男は一瞬眉をひそめると溜息をつく。
「どいつも大した技を覚えてないな、もう用は無い。住処に帰れ」
『『『ムクゥ!』』』
男の言葉にムックルたちは森へと飛び立っていった。
男の顔には僅かな葛藤も後悔も感じられない。まるでポイ捨てするような行動に絶句する・
「せっかく捕まえたのに逃がすの!?」
リカが悲壮な声を上げる。
「碌な技を覚えていないポケモンを捕まえても即戦力にはならないだろ。そんな使えないポケモン捕まえてなんの意味がある」
「なによそれ、ポケモンたちに失礼じゃない!」
カスミが声を荒げるが男は気にした様子もない。
俺も言わずにはいられない。
「そんなのトレーナーの育て方次第だろ、それでどんなポケモンでもいくらでも強くなれる」
「ふっ、根性論か? くだらない。トレーナーが使えないと、ポケモンも使えない連中ばかりが集まる」
「なんだと!」
「弱いポケモンを一から育てるよりも、強く才能のあるポケモンを育てるほうがはるかに効率がいいだろ」
「才能だとか効率だとか関係ない! どんなポケモンでもトレーナーが強くするんだ。ポケモンの能力値をあれこれ言い訳にするなんてそのトレーナーの力量が知れてる!」
言いたいことを言い切ると男はニヤリと笑う。
「ほう、そこまで言うなら試してみるか?」
「……ポケモンバトルか」
「ああ、ルールは3対3、トレーナーの力量、タイプのバランスを見るにはそれが手っ取り早い」
「ああ、受けて立つ」
この男の間違いを証明してみせる。
俺はモンスターボールを取り出す。
「ナエトル、ボールに戻っていてくれ」
『ワウ』
ナエトルが頷き、俺は彼をモンスターボールに戻した。続いてもう一つのボールも取り出し、ピカチュウを戻そうとしたその時、
「おーいシンジー!」
「やっと見つけましたよ」
現れたのは、朝出会った2人のトレーナー、キララとユキネだ。
「どこほっつき歩いてた」
歩いてくるキララとユキネに対しシンジは尖った口調で応対する。
「む、どっちかといえば勝手にどっか行ったのシンジじゃん」
「シンジ、ポケモンを探すのはいいですが、黙って行かないでください」
「……次は気を付ける」
キララが頬を膨らませジトっとシンジを見て、ユキネは微笑みながら注意すると、シンジはバツが悪そうに返答する。おそらく反省しているのだろうが。
「まあいい、これからこいつとポケモンバトルをする」
シンジが言うと、キララとユキネは俺たちに気付く。
「おっ、さっきの人たちじゃん。なになに、彼強いの?」
「力の差を教えてやるだけだ。というか知り合いか?」
「ええ、朝たまたま出会いました」
ユキネはそう言うと俺たちの方を向く。
「……さっきぶりですね。シンジのお相手、私からもよろしくお願いいたします」
「あ、ああ……」
いきなりのことで俺の返事もたどたどしくなってしまう。
「キララにユキネ、もしかして、あなたたちの旅の仲間って」
リカが驚愕を隠さずに問う。
「そう、彼がボクたちの幼馴染で仲間のシンジだよ。」
「そ、そう……なんだ……」
キララの言葉にカスミは信じられないという表情になる。
するとユキネは何かを察したという顔になる。
「まったく、シンジったらまたキツいこと言ったのですね」
「事実を言っただけだ」
困り顔のユキネが言うとシンジはさも当たり前であるかのように言い放つ。
「あはは、ごめんね。シンジは口悪いし性格悪いし目つき悪いしで嫌なとこだらけだけど、悪い奴じゃないから」
フォローになってないフォローをするキララに場が微妙な空気になってしまう。キララ本人以外は。
「2人の仲間なのはわかったけど、せっかく捕まえたポケモンを逃がすなんて」
リカがシンジの考えに異を唱えることを伝える。
「逃がすことってそんなに悪いことですか?」
「え?」
ユキネは真面目な顔で問いかける。リカは一瞬言葉を止める。
「例えば、ゲットしたポケモンが仲間の元に戻ることを望んでいたら? バトルすることを嫌がっていたら?」
「そ、それは……」
その言葉に対しリカは反論ができない。それは俺もカスミも同じだ。
「どんなポケモンも、捕まえたトレーナーとの絆を深めればいつか――」
「それは人間側の身勝手だよ」
俺の意見をキララは静かな声音で一蹴する。
「シンジの言う『使えない』っていうのは、『自分とは合わない』ってことなんだ。性格にしろ、やり方にしろ、自分と会わないポケモンをゲットするのはお互いのためにならないよ」
キララが言葉を切るとユキネが続ける。
「無理に育てて、ポケモンにこれ以上の成長が望めない、ポケモンも嫌がって、結局トレーナーと合わない。そうなった場合は逃がさざるを得ません」
ユキネが言い終えるとキララと交代する。
「けど、長い間人間と一緒に過ごしたポケモンは野生に馴染めるのかな?」
俺もカスミもリカもその言葉に反論できなかった。
俺たちが今までゲットしたポケモンたちは皆、一緒に旅をすることを望んでいた。だが、そうでないポケモンもいる。何事も合う合わないという相性の問題が存在する。
もしこれから先ポケモンをゲットした時、俺はそのポケモンを仲間にすることを望むだろう。けどそのポケモンが望まなければ、俺は躊躇なく手放せるだろうか。
今まで仲間になったポケモンたちも、この先立派に育てることができるだろうか。
今日仲間になったナエトルもそうだ。ゲットしたばかりでまだわからないけど、俺と会わなくて上手く育てられずに彼を酷く傷つけてしまうかもしれない。
そうなれば、彼と離れることがナエトル自身の今後のためになるかもしれない。
それでも――
「俺は、トレーナーとポケモンの出会いは、どんな形であれ大きな意味があると思ってる。そのポケモンの強さとか能力とか相性とか、それだけで決めたくない。俺が出会ってきたポケモンたちとの思い出を否定したくないんだ」
「お前がそう思いたいならそう思えばいい」
『ピィカピカチュウ!』
見下ろすと足元でピカチュウが心配そうに俺を見上げていた。もしかして俺怖い顔してたかな?
するとピカチュウがエレキッドの元まで走り前に立つ。そうしてピカチュウは右手を前に差し出す。握手しようということだろうか。
それを見たエレキッドは、
『ビビィ!』
ニッコリ笑うと彼も右腕を差し出す。
「ポケモン同士は仲良しなのね」
ヒカリがそう言うとその場の空気も僅かに和んだ気がした。
バチィッという音が響く、エレキッドの差し出した右手から火花が散りピカチュウが吹き飛ぶ。
「ピカチュウ!?」
エレキッドはニヤニヤと笑っていた。今のはおそらく微弱な電気をぶつけてピカチュウを吹き飛ばしたのだろう。
ピカチュウはすぐに立ち上がると怒気を浮かべてエレキッドに詰め寄る。
『ピカア!』
『ビビビッ!!』
エレキッドは先ほどとは打って変わってピカチュウを睨みつける。まるで「馴れ馴れしくするな」とでも言いたいようだ。
「こらエレキッドやめなさい!!」
怒鳴り声の主はユキネだった。ユキネは眼鏡の奥からエレキッドを睨む。彼女の声にエレキッドはビクリと震え恐る恐るといった様子でユキネを見上げる。
「ごめんなさいね」
「あ、いいよ」
「トレーナーの悪いとこばっか似るよねぇ」
「フン」
キララがシンジをいたずらっぽく見るとシンジは黙って鼻を鳴らす。
「バトルをするなら研究所の庭を使うといい。サトシ君とシンジ君、みんなも付いてきたまえ」
「「はいありがとうございます」」
俺とシンジのセリフが被り、思わず目を合わせ視線が交錯する。
――こいつには負けるわけにはいかない
***
フィールドに立つサトシとシンジ、その中間にはユキネが立っている。
「審判は私が務めます。使用ポケモンは互いに3体、先に2勝した方の勝利でよろしいですね」
「ああ」
「はじめるぞ」
「ではお互いにモンスターボールを投げてください。
「フシギダネ、君に決めた!」
「ナエトル、バトルスタンバイ!」
サトシとシンジは同時にモンスターボールを1つずつ投げる。
『ダネダネ!』
『ワウ!』
蕾を背負ったフシギダネと、頭に葉っぱを生やして甲羅を背負ったナエトルが現れる。
「シンジもナエトルを持ってたんだね」
観客のリカがそう言う、彼女もカスミやヒカリも驚いているがサトシも驚いていた。さきほどサトシがゲットしたナエトルにいちゃもんをつけていたが、今フィールドに出ているがシンジにとっての強いナエトルということなのだろうか。
(いや、そこを考えても仕方がない。今はバトルに集中するだけだ)
「それではバトル開始!」
ユキネが両腕を掲げる。
「フシギダネ『はっぱカッター』!」
『フシャ!!』
先手をとったサトシが指示を出し、フシギダネから大量の葉っぱが発射される。葉は鋭い刃となってナエトルに襲い掛かる。すべての刃がナエトルに直撃する。しかし、ナエトルは表情を一切変えず、その体は一筋の傷も無かった。
「効いてない!?」
カスミが驚愕の声を上げる。
「だったら『ヘドロばくだん』!」
『ダネェ!』
フシギダネの蕾から毒エネルギーが発射される。草タイプのナエトルには一番効果のある攻撃だ。
「『ギガドレイン』!」
『ワウウ!』
その時初めてシンジが動く。ナエトルから放出されたエネルギーが『ヘドロばくだん』を打ち消し、フシギダネに殺到するとその全身を拘束した。さらに『ギガドレイン』は相手の体力を奪っていく技だ。
身動きが取れないフシギダネは堪えている。
『ダネ……』
「フシギダネ逃げろ!」
「あれに捕まったら逃げるのは至難の業だよ」
キララが自身ありげに言い放つ。
フシギダネには効果はいま一つの攻撃だが、動きを封じられ無防備に体力を吸い取られていくのは苦しい。
「フシギダネ、『はっぱカッター』で拘束を切り裂くんだ!」
『ダネ、フッシャア!』
フシギダネから発射された緑の刃、ナエトルから放出された草のエネルギーに打ち付けられる。次第にエネルギーに亀裂が走り、やがて消滅。フシギダネは自由の身となる。
「フシギダネ大丈夫か?」
『ダネダネ!』
フシギダネはまだまだ戦える。
「よし、『つるのムチ』で捕まえろ!」
フシギダネから勢いよく伸ばされた2本の蔓がナエトルに迫る。
「『かみくだく』!」
2本の蔓が触れる寸前、ナエトルは口を大きく開いて蔓に咬みついた。フシギダネは驚きながらも引っ張るがナエトルは咬みつきを緩めず、蔓はビクともしない。
「投げ上げろ」
シンジの指示にナエトルが首を大きく動かす。フシギダネは踏ん張るが、その小さな体は一瞬で宙に浮く。
「そのまま叩きつけろ!」
『ワアアウッ!』
無防備なまま浮いたフシギダネはさらに強く引っ張られ、地面に叩きつけられる。フシギダネは苦し気な表情になりながらも立ち上がる。
「なんてパワーだ」
「フシギダネ、さっきサトシのナエトルとバトルしたときは互角くらいのパワーだったのに」
ヒカリの言うように、さきほどサトシがナエトルをゲットした時もフシギダネがバトルをしていた。その時の勝負は互角と言えた。しかし、シンジのナエトルとのバトルでは圧倒されている状況だ。
「うむ、ポケモンは人間と同様に1体1体違うものだ。森の中で平和に生きていたサトシ君のナエトルと育てられたシンジ君のナエトルとでは力に差が出て当然だろう。しかし、これほど鍛えられたナエトルは私も見たことがないな」
「そりゃあ、ナエトルはシンジの最初のポケモンですからね」
ナナカマド博士が感心していると、キララが満悦な表情を見せた。
「一番最初のポケモン?」
カスミがキララを見る。
「そそっ、だからシンジにとっても信頼の厚い相棒で切り札ってわけさ」
「キララ、余計なことを言うな」
「ごめんごめん」
シンジに叱責されるが、キララはコロコロ笑う。気心の知れた中であることが伺える。
「フシギダネ、『はっぱカッター』!」
サトシの狙いは攻撃ではなく、注意を逸らすこと。
「『すてみタックル』!」
遠距離では決定打を与えられない。ならば接近戦に持ち込んで確実に攻撃を当ててダメージを与えていく。
「『だいちのちから』!」
『ワウウウ!!』
ナエトルが前脚で地面を強く叩くと、その足元から膨大なエネルギーが放出される。地面エネルギーは突進するフシギダネに向かい直撃した。
『ダ、ダネエエエ!』
強力な地面技を受けたフシギダネは大きなダメージに苦悶の表情を浮かべる。さらに足元からの攻撃であるため動きも止められ『すてみタックル』は不発となった。
「フシギダネ!」
「接近戦に持ち込むつもりだったのだろうが、甘いな。誘い込んだのは俺の方だ」
「なんだと!」
不敵な笑みを浮かべ冷酷に言い放ったシンジは、強い意志を持ってナエトルに命じる。
「『リーフストーム』!」
『ワウ、ワアアアウウウウ!!』
ナエトルの頭の葉っぱが淡く光ると、そこから大量の葉っぱを伴った嵐が発生する。一帯の大気を震わせるほどの猛烈な緑の竜巻が、ダメージでフラつくフシギダネに襲い掛かる。
「フシギダネ戦闘不能、ナエトルの勝ち!」
ユキネの宣言でバトルが終了する。リカとカスミは呆然とフィールドを見ていた。
「あのナエトル、とんでもなく強いよ」
「しかもナエトルはほとんどダメージを受けてないわ!」
「うむ、技を受けながら相手を観察し、安定したバトルであったな。それにあのナエトルを見て、君たちは何か気づかないかな?」
「「「え?」」」
ナナカマド博士の問いかけに周りは疑問の表情を浮かべる。真意を探ろうとし、答えはすぐに出た。
「あ、あのナエトル、バトル開始からずっとあの場所から移動してない!?」
ハッとしたリカの言葉にサトシも気づき、衝撃がその全身を駆け抜ける。
シンジのナエトルの威風堂々とした姿はただの木立ではない、天高くそびえる大木、いや、その大木が根を張る決して崩れることのない大地。
その姿にサトシは畏怖をも覚えてしまった。
「頑張ったなフシギダネ、戻ってゆっくり休んでくれ」
「戻れナエトル」
両者はモンスターボールに自分のポケモンを戻す。
サトシは労いの言葉をかけるがシンジは特に声もかけずにボールを腰に戻す。
「少しくらい、褒めてやったらどうだ?」
「勝って当たり前のバトルをして褒める必要があるのか?」
どうでもいいというような言い方にサトシは歯を食いしばって睨みつける。
だが、内心は焦燥が渦巻いている。
ナエトルだけでなくシンジ自身が大きく思える。巨大な、堅牢な、自分に立ちふさがる壁。目の前にあるだけで凄まじい威圧感を与える。本当に自分は勝てるのだろうかと恐怖が沸き上がる。
(今のバトルでわかった。シンジは強い。あのナエトルは並みの鍛え方ではあそこまでの力はつかない。だとすれば残りのポケモンたちもかなりの実力のはずだ)
サトシは確かな敗北への恐れを抱いていた。
「サトシ、まだまだこっからよ!」
「ファイトー!」
「大丈夫大丈夫!」
ハッとして顔を上げると、バトルを観戦しているカスミとリカ、そしてヒカリが視界に入る。
彼女たちの顔には落胆も諦めもない。
(そうだな、こんなことでへこたれてちゃいけないよな!)
1度負けただけだ。諦めるには早過ぎる。負けることに対する恐怖なんて取り払え。自分とポケモンたちを信じるんだ。
「2回戦、始めます。両者ボールを投げてください」
「ニドリーノ、君に決めた!」
「コドラ、バトルスタンバイ!」
『ニドォ!』
『コドォ!』
サトシのポケモンはニドリーノ、シンジのポケモンは鋼の肉体の四足歩行の重量ポケモン、コドラだ。
「コドラ!?」
「鋼岩タイプ、毒タイプのニドリーノには不利だよ」
「そうなの?」
シンジのコドラを見たカスミとリカが驚き、ヒカリは疑問の声を上げる。
「うん、鋼タイプに毒技はまったく効かないから」
リカの説明にヒカリは目を見開き、心配そうにサトシを見る。
「出し勝ち出し負けもポケモンバトルの醍醐味だよねぇ」
キララは楽しそうにフィールドを眺める。
「しかし、タイプ相性だけで決まらないのがポケモンバトル、果たしてどうなるのか」
ナナカマド博士が締めくくる。
「バトル、開始!」
ユキネが片手を挙げる。
「ニドリーノ『みずのはどう』だ!」
『ニドォ!』
先手はニドリーノ、角の前に水の音波を形成し発射する。高速で宙を走る水の音波がコドラに直撃、大きなダメージに苦悶の表情を浮かべる。
「やった効果抜群だよ!」
リカが手を叩いて歓喜の声を上げる。
「もう一度『みずのはどう』だ!」
第二波、再びコドラに迫る。
「コドラ『ラスターカノン』!」
『コォォドラァ!』
コドラが口を開けると銀色の光が収束、一直線に『みずのはどう』に衝突。破裂音と共に両技が消滅。
「打ち消された!?」
「だったら『ドリルライナー』!」
『ニド!』
ニドリーノは角を猛烈に回転させると、そのまま走りだした。
「『てっぺき』」
『コォ!』
コドラは鋼の全身さらに硬質化させる。この技で防御が大幅に上昇した。
ニドリーノの大地のドリルがコドラに直撃する。鉄壁の守りを得たコドラは、
吹き飛んだ。
「なに!?」
シンジは驚愕の声を上げる。
吹き飛んだコドラはすぐに立ち上がると、立ち上がる。
「『にどげり』!」
「『メタルクロー』!」
ニドリーノの連続の蹴り、それをコドラは両前脚を硬化させ、両者が撃ち合う。数回の打ち合いの末、ニドリーノが吹き飛ぶ。
「『てっぺき』だ!」
ニドリーノが離れた隙にシンジは再度コドラの全身の防御を上げる。
「しまった!」
これで『ドリルライナー』は効きにくくなった。だがサトシは止まらない。
「ニドリーノ『ドリルライナー』!」
さらに加速をしたニドリーノ、その角がコドラに激突する。
激突音が響くが、先ほどとは違いコドラはその場で踏ん張る。大幅に上がったコドラの防御力が大地を纏った角を阻む。
だが、サトシの狙い通りだ。
「待ってたぜこの超至近距離、『みずのはどう』!」
『ニィドォ!』
「『ラスターカノン』!」
シンジは一瞬眉を顰めると技を指示する。しかし、ニドリーノの方が速い。
水の音波がコドラの至近距離で炸裂し、その重い体が吹き飛ぶ。効果は抜群だ。
「『てっぺき』は防御を上げるが特殊防御は上がらない。コドラに一番有効な『ドリルライナー』ではなく『みずのはどう』の方がダメージとなるため決め技に選択した。サトシ君はそれをキチンと理解しているようだ」
「みんな考えながらバトルしてるんだ」
ナナカマド博士の解説にヒカリは感心してバトルの様子を見ている。
「よし、もう一度『みずのはどう』!」
「『きんぞくおん』!」
『みずのはどう』が発射される寸前でコドラから凄まじい音が放射される。その強烈な音にニドリーノも苦悶の表情を浮かべて動けなくなる。
「『ラスターカノン』!」
『コォ!』
動きの止まったニドリーノに鋼の光線がヒットする。ニドリーノはダメージと共に後方に押される。
「『メタルクロー』!」
コドラの追撃、鋼の爪と共に駆け抜ける。
「ニドリーノ『みずのはどう』!」
「切り裂け!」
『コドォ!』
「なっ!?」
鋼の両爪が水流を切り裂き飛沫が上がる。コドラは勢いのままニドリーノに突進する。
「抑え込め!」
飛び上がったコドラはニドリーノに上からのし掛かる。
『コド……!』
『ニ、ド……!』
コドラの超重量にのしかかられ、ニドリーノはじたばたともがく。
「『ラスターカノン』!」
コドラの口が開き、銀色の光が収束する。真下で抑え込まれているニドリーノには回避する術はない。
「ニドリーノ、地面に向かって『みずのはどう』!」
ニドリーノはカッと両目を開くと地面に接触した角の先に水のエネルギーを発生させそのまま放つ。
地面に叩きつけられ弾けた流水がコドラの全身に浴びせられる。不意の水攻撃にコドラは苦悶を浮かべ、『ラスターカノン』も不発に終わる。拘束が緩み、ニドリーノは脱出する。
「ちっ、怯むな『ラスターカノン』!」
シンジは再度『ラスターカノン』を指示、コドラも瞬時に持ち直すと口の中に鋼エネルギーを込める。
「『にどげり』だ! 顎を狙え!」
顎を蹴り飛ばされたコドラ、頭を強制的に上に向けられ、銀の閃光がそのまま口から放出され空へと消えた。そして、『にどげり』はもう一発残っている。第二の蹴りがコドラの腹に突き刺さる。
コドラの体は吹き飛び、そのまま目を回して倒れた。
「コドラ戦闘不能、ニドリーノの勝ち!」
「やった、ニドリーノが勝ったわ!」
カスミの喜びの声、リカとヒカリの歓声がサトシの耳にも届く。
「よくやったニドリーノ!」
『ニドォ!』
「どうだ、これで1勝1敗!」
「戻れコドラ」
シンジはコドラを戻したボールをひと睨みすると無言で直し、次のボールを取り出す。サトシはそれに対して言いたいことを我慢しながらニドリーノをボールに戻す。
「3戦目を始めます。互いにポケモンを出してください」
審判ユキネが宣言する。このバトルでの最後のモンスターボール、サトシは取り出し、向かい合うシンジと同時に投げる。
「ピカチュウ、君に決めた!」
「エレキッド、バトルスタンバイ!」
『ピッカ!』
『ビビッ!』
「ピカチュウ『10まんボルト』!」
『ピィカチュウウウウウウ!!』
ピカチュウから放たれる膨大な電撃がエレキッドの全身を包み込む。
『ビビィ』
しかし、エレキッドは余裕の表情を浮かべたままだった。
「くっやっぱり効果今一つとは言えダメージほぼ無しか」
様子見の意味も込めた『10まんボルト』だがエレキッドがよく鍛えられていることを証明しただけだった。
「ふん、エレキッド『かわらわり』」
『ビビビッ!!』
エレキッドは腕を勢いよくピカチュウに振り下ろす。
素早い手刀が頭に直撃したピカチュウはそのまま後方に吹き飛ぶ。
『ピカ!』
「大丈夫かピカチュウ!」
『ピカピカチュウ!』
ピカチュウはすぐに立ち上がり、まだまだバトルが続行可能であるとアピールする。
「エレキッド『かみなり』」
『ビビビッ、ビッビビィッ!!』
エレキッドの追撃の強力な電撃、先ほどとは逆の状況でピカチュウが攻撃を浴びる。
『ピィ……カ……』
だがエレキッドの時とは逆で、ピカチュウは直撃した電撃に苦しそうだった。
「な、なんだこの威力は!?」
「気づかないのか?」
「え?」
「さっきは敢えて先手を取らせたんだ。ピカチュウの電気技で俺のエレキッドをパワーアップさせるためにな。お陰で効果が薄い電気技でピカチュウにダメージを与えられた」
嘲笑うようなシンジの言葉に、サトシは相手の戦略に嵌ってしまったことに歯噛みする。
「ああちなみに、ピカチュウは『ひらいしん』の可能性もあったが、バトル前の小競り合いでエレキッドの電気がピカチュウに吸収されてないのがわかったからな。安心して『かみなり』を使えた」
小競り合い、エレキッドがピカチュウに好意的なフリをして微弱な電撃を浴びせ転倒させた先ほどの出来事。あのやり取りだけでシンジはピカチュウの特性を見抜いていた。
(バトルはあの時から始まってたってことか!)
「だったら『アイアンテール』!」
「『まもる』」
ピカチュウが鋼の尻尾を振り下ろすが、エレキッドは両腕をクロスさせ絶対防御の半透明の盾を生み出す。『アイアンテール』が阻まれる。
「防がれた!?」
ヒカリが声を上げる。
「『かみなりパンチ』!」
『ビビッビィ!』
エレキッドのアッパーカットの『かみなりパンチ』がピカチュウの顎を打ち抜き大きく吹き飛ばされる。
「まだ行けるかピカチュウ?」
『ピカッ!』
ピカチュウの闘志はまだまだ燃えている。
「よし『アイアンテール』!」
「無駄なことを、エレキッド『まもる』」
弾き飛ばされるピカチュウ、これは先刻のパターンとまったく一緒。学習しない様子にシンジは嘲笑う。しかし、そこまでサトシはの予定通り。
「ピカチュウ『なみのり』!」
『ピカピカ、ピッカア!』
ピカチュウの全身を水流が包みエレキッドに向かって突進する。エレキッドの小さな体躯が吹き飛びそのまま倒れる。
「なにっ!?」
「うっそマジ!?」
「波乗りピカチュウ!?」
シンジだけでなく、キララとユキネも驚愕の声を上げる。
「このまま行くぞ。『なみのり』!」
『ピカピカ、ピッカア!』
再び水を全身に纏うピカチュウがエレキッドに向かう。
「エレキッド捕まえろ!」
『ビ、ビビビィ!』
立ち上がったエレキッドは両腕を伸ばして迫るピカチュウを受け止める。そして、『なみのり』の効果は終了し、ピカチュウはエレキッドの両腕に高速される。
「くっ」
「『かみなり』!」
『ビビビィ!』
両腕に捕えられ身動きが取れないピカチュウに対するエレキッドの超至近距離の『かみなり』、膨大な閃光が走る。
『ピ、ピィ、ピカ……』
高威力の電気技は同じ電気タイプのピカチュウにもダメージとなる。苦しみながらもピカチュウは耐える。逃げることもできずにこのまま『かみなり』を受け続けることしかできない。
だが、このピンチこそがチャンスだ。
「ピカチュウ今だ、『ボルテッカー』!!」
『ピ、カ……ピカピカピカピカピカ!!』
ピカチュウは目を見開くと『かみなり』に耐えながら全身に力を込める。するとピカチュウの体から電撃が発生、ピカチュウの電撃がエレキッドの電撃を内側から食い破る。
「な、『ボルテッカー』だと!?」
ピカチュウが一筋の閃光となり、エレキッドの体を疾走と共に押し込んでいく。
凄まじい勢いでエレキッドの体が吹き飛び、地面に倒れる。
「ちぃ!」
「エレキッドの『かみなり』でパワーアップさせてもらったよ」
シンジは僅かに悔しさを滲ませ、サトシは気勢を見せる。
『ピカ! ピ……ッ!』
着地したピカチュウは大技を決めて自信に満ちた表情になる。しかし、『ボルテッカー』反動ダメージに顔を歪める。
吹き飛んだエレキッドは大きなダメージを受けながらも立ち上がり、射るような視線をピカチュウにぶつけ走り出す。
「だが『ボルテッカー』の反動でピカチュウもそろそろ限界だ『かみなりパンチ』!」
『ビビビィ!』
シンジは冷静な顔になり指示を出すとエレキッドは右拳に雷を込めてピカチュウに突進する。
「迎え撃てピカチュウ『アイアンテール』!」
『チュウウウ、ピッカァ!』
ピカチュウは尻尾は鋼へと変質させ、エレキッドを迎え撃つ。
ぶつかる2体のポケモンの技、ほぼ同じ威力となり2体は拮抗し押し合いになる。
「エレキッドにはまだ左腕がある。『かわらわり』!」
「ピカチュウの『アイアンテール』はまだ終わってない!」
エレキッドが空いた左腕を振り下ろす。ピカチュウ即座に反応し体を回転させて『かみなりパンチ』を受け流す。エレキッドの手刀が、ピカチュウの尾が同時に相手にぶつかる。互いに攻撃を受けながらも着地する。
そして、同時に倒れた。
「りょ、両者戦闘不能! このバトル引き分け!」
審判のユキネは驚きながらもバトル終了を宣言する。
「っピカチュウ大丈夫か!?」
サトシはフィールド内に倒れるピカチュウに駆け寄り抱き上げる。ダメージを負って傷だらけのピカチュウはサトシの顔を見ると申し訳なさそうに弱弱しく鳴いた。
「いやぁ予想外だねぇシンジ、引き分けだよ引き分け」
「……驚きましたね」
「言われなくてもわかっている」
歩きながら話しかけてくるキララとユキネにシンジはボールにエレキッドを戻しながらつまらなそうに答える。
「おい、シンジ!」
ピカチュウを抱えたままのサトシはシンジの背中に向かって声をかける。
「……認める、お前は強い。だけど、ポケモンのことを考えないやり方を俺はしたくない!」
しかし、シンジは何も答えずナナカマド博士の元へ向かった。
「庭を貸していただきありがとうございました」
「うむ、見事なバトルだった。順調に腕を磨けばシンオウリーグにも出場できるだろう」
「いえ、俺たちは今、ホウエン地方のリーグを目指しています。まだ出場に必要なジムバッジ8つを集める途中で、シンオウリーグ出場はしばらく先になります」
「なんとそうだったか、ではホウエンリーグを目指して頑張りたまえ」
「ありがとうございます。それでは俺たちはこれで失礼します」
回れ右をしたシンジはキララとユキネの元へ歩く。
「いくぞ」
「はいはーい。それじゃあ皆さんさようならー」
「失礼します」
立ち去るシンジ一行をその場にいた人たちは無言のまま見送った。
「サトシ……」
「……けない」
「え?」
「次は、負けない……!」
モンスターボールを強く握り、サトシは俯きながらつぶやく。その顔は泣き出しそうで怒りだしそうな、ものだった。その胸中では同様に多くの感情が渦巻き混ざり合っていた。
***
これからサトシとリカとカスミはカントーへ帰る。ヒカリは港まで見送りをするために付き添っている。
サトシが先刻のバトルで苦い思いをし、まだその気持ちを引きずっているのがわかる。リカとカスミもそんな彼にどう言葉をかけたらいいのか迷っているようだった。一緒に歩きながら時折彼を心配そうに視線を送る。それはヒカリも同じだ。
遠い地方からの友人、たくさんのことを教えてくれた友人、彼らとこのまま寂しいまま暗いままお別れしていいのだろうか。
ヒカリはサトシに落ち込んだままでいてほしくなかった。リカとカスミに寂しそうな顔をしてほしくなかった。
「大丈夫だよサトシ、またこれから頑張ればいいじゃん」
「さっきサトシ言ってたじゃない、『ポケモンたちと一緒なら乗り越えられる』って、だったらそうすればいいのよ。バトルで勝ちたいならポケモンと一緒に特訓する。辛い気持ちもポケモンと一緒に立ち向かい。今までそうしてきたならこれからもできる。だから――」
落ち込む彼を勇気づける言葉、彼に一番伝えたい言葉は、『頑張れ』よりも――
「大丈夫!」
今日一番、自分のまっすぐな想いが伝えられた気がする。
「何やってんだろうな、俺。こんな真っ暗なんて俺らしくないよな」
恥じるように呟くサトシ、しかしそこには先ほどのような暗さは無い。
「あ、サトシ笑った」
「そうやって能天気に笑ってるほうがあんたらしいわ」
「ヒカリ、ありがとう。お陰で元気出た」
「えへへ、良かったサトシ!」
本当に良かった、彼の笑顔をまた見ることができて。自分まで自然と笑顔になって嬉しくなってくる。
自分の中に生まれた暖かい気持ちが何なのかをヒカリはまだよくわからないでいた。
***
船の出向まで時間があるため、港の売店で時間を潰していた。俺が見ているのは
リカ、カスミ、ヒカリの女性陣はぬいぐるみや化粧品などの、俺にとっては華やかでキラキラしたゾーンでキャイキャイと騒いでいる。
「少しよろしいですか?」
不意に声をかけられ振り返る。聞き覚えのある声の主は――
「君は……ユキネ?」
「はい、さっきぶりです」
「君はシンジたちと出発したんじゃ?」
「ホウエン行きの船の出航までまだ時間があるので、待っているところです」
俺たちと同じだったのか。
「マサラタウンのサトシさん、いきなりで申し訳ないのですが、少しお話したいことがあります。お時間よろしいですか?」
ユキネは一礼すると俺に切り出した。
「わかった」
「ありがとうございます。ではこちらにお願いします」
「それで話って?」
「はい、単刀直入に聞きますが」
「あなたは本当にマサラタウンのサトシですか?」
「……は?」
一瞬、聞かれたことの意味が理解できずに思考が止まる。しかし、すぐに再起動。ユキネの発した言葉の内容を理解し、頭が撃たれたような衝撃を受け、心臓が早鐘を打つ。
「……どういう、意味?」
「いえ、なんというか私の知識と齟齬というか違和感がありまして、確かめたいと思ったのです」
まるで「マサラタウンのサトシ」を以前から知っているような口ぶり、その得体の知れなさに背筋が凍りつく。
「君はいったい……」
なんとか絞り出した言葉は掠れていた。俺は今どんな顔をしているだろう。ボーッとしたバカ面を下げているのだろうか、それとも恐怖で顔がクシャクシャに歪んでいるだろうか。目の前の理知的な美顔の少女に懇願するような視線を送っているのだろうか。いずれにしても、俺にできるのは彼女の次の言葉を聞くことだけだ。
しばしの間――俺にとっては何時間にも思える時の流れ――を経て置いてユキネは嘆息した。
「どうやら私の予想は当たったようですね」
「サトシさん、いえ、サトシの皮を被ったどちらさん。私は別の世界の記憶を持つ者です」
「なっ!?」
彼女の言葉からある程度は予想できていた、しかし、まさか本当に自分以外にもポケモンの世界に前の世界の記憶を持っている人間がいるとは思わなかった。
「どうやら当たりのようでしね。あなたの記憶では、ポケモンがゲームやアニメとして存在していたのではないですか?」
確認するように、というよりも確信を持ってユキネは問いかけてくる。それならば隠し事や誤魔化しに意味はないだろう。洗いざらい話すのが最善。
「ああそうだ。俺は別の世界の記憶があって、ポケモンっていうコンテンツを知っている」
「やはりそうでしたか。私も、ポケモンがゲームとして、アニメとして存在した世界の記憶があります」
俺の方こそ「やはりそうか」と言いたい。彼女もまた俺と同様の事態に遭っている。つまり――
「気が付いたら、俺はサトシになっていたんだ。君もだろ?」
「ええ、いつの間にか、私はこのポケモンの世界に存在し、こうしてポケモントレーナーになっています」
きっと、多くの人には言えないであろう重大な秘密。これを暴露し合うというのはとてつもない覚悟がいる。前にカスミとリカに話した時も、恐怖で震えが止まらなかったくらいだ。
「このポケモンの世界に来たことも驚きましたが、まさか私と同様に、しかも主人公であるサトシになっただなんて、信じられなかったです」
「俺も最初はまさかサトシになるなんてって感じだよ。まあそれなりに頑張ってるよ。こうしてこの世界にこれて良かったよ。毎日がワクワクな冒険だからさ」
「分かりますよその気持ち。私もこの世界に来れて心から嬉しく思っています」
似た境遇であるためか、気を置くことなく話すことができている。
「この世界に来ることができて、目的もできましたから」
「目的?」
「はい、私の目的はシンジを最強のポケモントレーナーにすることです」
ユキネは力強く言った。
「シンジこそ、頂点に立つに相応しい男です。だいたい、どうしてあの最高のシンジが後のシリーズでパッタリ登場しなくなったのか理解に苦しみます。意味の分からないライバルを無駄に量産して、サトシとシンジの最高のバトルを過去のものにして追いやって誰も触れず、そんなこと許されるわけが――」
「あ、あの……」
俺が言うとユキネはハッとした顔になりマシンガントークを中止した。
「失礼、取り乱しました」
ユキネは「コホン」と咳払いする、その顔は少し赤い。
「シンジのことが大好きなんだな」
「そ、それはもう、最高の物語を見せてくれた人ですからね。あなたもシンジと出会って嬉しいでしょう?」
顔を赤くしながら照れたように言うユキネ。
「あの、俺あいつ知らないんんだ」
「……はい?」
ユキネは頬の赤色が消えて「こいつ何言ってるんだ?」という顔で俺を見ていた。
「あの、一応聞きますが、ポケモンのアニメはどこまで観たのですか?」
「実はほとんど観たことないんだ。ゲームも最初の方しかしたことなくってさ」
「……はあああああああああっ!!?」
ユキネが驚きと怒気を込めたような声を出す。最初に会った時の物静かさが嘘のような大声、さらに顔を歪めて俺を見る。すると右手の平を額に当てる。
「信じられない。どうしてポケモンを知らない人が、よりにもよってサトシに憑依するなんて……」
俺はどうやら彼女の期待を大きく裏切ってしまったようだ。
なんかすいません。
「また質問で申し訳ないのですが、あなた今どこを旅しているのですか?」
「カントー地方だけど」
「ではなぜシンオウ地方にいるのですか?」
眉をひそめるユキネに対し、俺はオーキド博士の企画である地方の一日体験のことを教えた。
「……そんなイベント知らない」
「そうなのか?」
「ええ、あなたは最初のシリーズではカントー内を冒険しているはずなのです。それと……」
そう言ったユキネは少し考え込むと口を再び開く。
「差し障りなければ、あなたがゲットしたポケモンを教えていただけますか?」
俺はカントーでゲットしたポケモンたち、そして、ここ数日の地方巡りでゲットしたポケモンたちのすべてを教えた。話していると次第にユキネの表情も困惑を見せた。
「もしかしたら、憑依の影響で物語が大きく変わったのかもしれません。そもそも、あなたはサトシの持っていないはずのニドリーノをゲットしていた。さらにナエトルもシンオウに来てゲットした、それからリカさん」
「リカがどうかしたのか?」
「彼女はそもそも、存在しないはずの子なんです」
「な……」
「彼女は、あの容姿から見るに、初代ポケモンのリメイク作の女主人公です。まさかサトシの仲間になるなんて」
本来は存在しない、その言葉が頭の中で反芻する。リカは本当はいるはずない、俺が存在することで世界を歪めたことが原因なのか、もしかしたら、リカはサトシとかかわることがなく、自分の生き方を冒険をしていたのかもしれない。俺によって生まれた歪み一つで世界が大きく変わってしまう。まさか、何かの拍子にリカは消えることもあるのか?
「何やら難しい顔をしているようですが……」
「……ああ、俺のせいでおかしくなっているんじゃないかって思うとさ」
「私はおかしいとは思っていませんよ」
「え?」
「そもそも、私もキララも本当なら存在していないのですから」
あっけらかんとしたユキネの態度に虚をつかれた気分になる。
「そう、なのか?」
「はい、ですから最初は『このまま自分はシンジの傍にいていいのか』と何度も悩みました。けど、もう開き直ることにしました。自分がしたいことをして、自分にできることをして、ただ進むんです。それが本来とは違う結果をもたらしたとしても、精一杯やるだけです」
前の世界の話題になったせいか、リカとカスミに打ち明けた時の不安な気持ちにまたなってしまっていたようだ。あの時、迷いは吹っ切れたはずだ。
「俺にとっては、リカは大事な仲間なんだ。本来の物語がどうでも、俺の大事な人に変わりはない。もちろんカスミもだ」
だから、俺の大事な人たちが消えるなんて、絶対に許さない。
「……そうですか。なんだか安心した気持ちです」
優しく微笑むユキネ、こちらこそ安心した気持ちになる。
「なあ、俺はこれからどうしたらいいんだ?」
ユキネは右手を顎に当て「うーん」と唸る。そして、
「もはやこの世界は私の知るアニメのポケモンではなくなった……でしたらあなたも好きにしたらいいのではないですか?」
「俺の好きに……」
「ええ、この世界は本来のアニメの世界とは流れが大きく変わっています。だから、未来は誰にも分らない」
先に何があるのか誰にも分からない。これから先どうするかは自分たちが決める。それって、
「それってさ、ここはもう物語の世界じゃないってことなんだと思う」
ユキネがわずかに目を見開く。
「俺たちが前にいた世界はたくさんの人がいて、未来がどうなるかわからない中で生きている。人間とポケモンが本物の命として生きているこの世界も同じだってわかったんだ。君もそう感じているんじゃないか?」
ユキネはしばらく考える仕草をすると、薄く笑った。
「……そうですね。あなたの言う通りこの世界では本物の命が生きている」
俺たちがいる世界は物語じゃない。みんな生きていてみんなの暮らしが、人生がある。その世界を生きる自分は確かに存在する。その答えで十分生きる理由になる。それを俺は理解した。きっとユキネもそうだろう。
「お話ができて良かったです」
「俺もだよ」
「あなたとは良い友人になれる気がします」
「ありがとう。これからも同じ秘密を持つ者同士で色々相談できたらいいな」
「ええ、私からもよろしくお願いします。けれど、これだけは言っておきます。最強のトレーナーはシンジです」
「君がシンジのことが大好きなのは伝わったよ、だけど、俺も負けるつもりはない」
挑戦的に笑うユキネは軽くお辞儀をするとその場を去った。俺も仲間のもとへ向かった。
出航前になり、俺とリカとカスミはタラップの付近でヒカリと向かい合った。
「サトシ、リカ、カスミ、今日はありがとう。3人のおかげですっごく貴重な体験ができたわ!」
「俺たちもヒカリと過ごせて楽しかった」
「これからの旅、頑張ってね。あたしずっと応援してるから」
「3人がシンオウに来た時は一緒に旅がしたいわ。どうかな!」
「うん、楽しい旅にしようね!」
「旅の話もいっぱいしてあげるから」
「うん、約束よ!」
ヒカリは元気に弾けるように笑った。
その姿にカロスで、ホウエンで出会った少女たちを思い出す。みんながトレーナーとして旅立ったら、いつかどこかで再会したい。その時は自分が経験したことを話して、彼女たちが体験したことを聞きたい。そう思った。
「またねー3人ともー!!」
俺たちを乗せたカントー行きの船が港からどんどん離れ、街並みと手を振るヒカリが小さくなっていく。1日だけ過ごしたシンオウ地方の大地が離れて行き胸の中に寂しさが沸いてくる。頭の中に思い浮かぶのは、輝くようなヒカリの笑顔と引き分けに終わったバトルとその相手。
「……強く、ならないとな」
独り言として呟いたつもりだが、どうやら2人には聞こえていたみたいだ。
「あいつとのバトルのこと考えてたの?」
「やっぱり気にしてるんだね」
心配そうに見る2人を見て正直な気持ちを話したくなった。
「シンジは間違いなく強いトレーナーだった。恐らく旅を始めたのは俺たちと同じくらいだろう。あいつのポケモンに冷たいやり方は好きじゃないけど、あいつの考えで育てられたポケモンたちは本当に強かった。バッジはまだ8つ揃ってないし、リーグ出場もまだだって言ってたけど、あいつなら間違いなくポケモンリーグに出場する」
「そしていつか、あいつとは同じリーグを目指すことになる。そんな気がする」
「サトシは絶対負けないよ!」
「あんたのやり方であいつをぎゃふんと言わせてやるのよ!」
「ああ、必ず勝つよ」
シンオウでのシンジとの出会い、俺の中でとてつもない熱がとめどなく吹き上がるのを感じる。もっともっとポケモンたちと強くなりたい。いつかまたシンジとバトルをし、そして勝つんだ。
その時を思い描きながら俺は見えなくなったシンオウの方向を見つめ続けた。
***
シンオウを発進したホウエン行きの船の上、ユキネはシンジとキララ共に船の甲板にいた。
「そういえばユキネ、さっきあのサトシとなんか話してたよね?」
「あいつとなんの話をしていた?」
「シンジの誤解を解いていたんです」
まだ2人には自分の秘密を明かせていない。だから、こうして誤魔化してしまう。
いつか、このことを話せる日が来るのだろうか。その時、自分たちの関係に大きな変化はあるのだろうか。
どんな結果になろうとも前に進む。彼が、サトシがそうしたように。
「余計なことを」
「なーに言ってんのさ、シンジがそんな不愛想だから行った先で険悪になるんだよ」
シンジが嘆息するように言うとキララは若干の非難を込めたニヤニヤ笑いでシンジに言い放つ。ユキネも思わず口に出す。
「年上の方々には礼節がキチンとしているのに、同年代にも少しでいいですから気を配ってください。そうしたら私たちの負担も減るのですよ」
「……善処する」
これが自分たちのいつものやり取り、それがユキネにとっては心地よい。
「だがあいつとは馴れ合うつもりはない。気持ちだけで勝てるほどポケモンバトルは甘くない。そんなこともわからないような奴に配慮することは何もない」
勝利を渇望しそれ以外を削ぎ落とそうとするシンジらしい言葉、それはシンジ自身に気持ちの余裕が無い証拠。それはユキネもキララも口には出さないが理解している。
「だが、あんな中途半端でぬるい結果は認めん」
その言葉はユキネには意外だった。
「シンジもしかしてあの男の子が気になるの?」
「バカを言うな」
キララも同じように以外に思ったのか、軽口でシンジに問いかけていた。
「中途半端な結果が嫌ならまたバトルをして決着をつけなければいけませんよ」
もしかしたら、シンジの中でサトシという少年が少なからず影響を与えたのかもしれない。ユキネにはそれが良い傾向に思えた。
「なんにしてもシンオウに一時的に戻って来た価値はありましたね。彼、サトシに出会ったこと」
ユキネは「そして」といいシンジの腰のモンスターボールを見る。
「その
サトシたちと出会う前日、シンジは森の中でザングースの群れと小競り合いをしていた1体のヒコザルを見つけていた。ヒコザルは多勢に無勢に追い詰められていた。しかし、倒されそうになる寸前、ヒコザルからとてつもない炎が放たれ、ザングースの群れを全滅させた。
一部始終を見ていたシンジはヒコザルをゲットした。
「シンジ、そのヒコザルは決して手放してはいけませんよ」
「私には分かります。ヒコザルはシンジにとって最強の炎ポケモンになります」
「……こいつが使えるならな」
ユキネは先ほどのサトシとの会話で恐ろしい事実に気付いた。彼がすでに将来のサトシのエースとなるポケモンをゲットしていたこと。ホウエン地方のキモリは今後の冒険で伝説、幻のポケモンに引けを取らない実力を有し、ケロマツはとてつもない進化を遂げる。これらの戦力がすでに彼の手にある。
これは由々しき事態。シンジを彼に勝たせるためにあらゆる手段を用いなければならない。
その一つが先日、シンジがシンオウ地方でゲットしたヒコザルだ。時期は早まっているが経緯を考えると、このヒコザルは間違いなくシンジとサトシの物語に大きくかかわることになるヒコザルだ。最強の炎タイプになる可能性を秘めたポケモン。
ヒコザルだけはサトシに渡してはならない。シンジの元で育てさせ、彼のポケモンにするべきだ。そのために自分にできるサポートはすべてしよう。
彼を最強のポケモントレーナーにするために。
シンジの横顔を見る。迷いのない強い顔。
この世界に生れ落ちて数年、自分の中にある別世界に記憶、迷ったし悩んだ。けれど、彼が進んでいく姿を見たいという気持ちに揺るぎはない。シンジとキララと一緒にいたいという気持ちも。
甲板の手摺を握るシンジの手に、ユキネはそっと自分の手を添える。
「……なんだ?」
シンジは横目でユキネを見る。
「シンジ、貴方は必ず最強のポケモントレーナーになります。私はその姿をこの目で見たい」
「……そうか」
女の子として精一杯のアプローチをしているが、シンジは眉一つ動かさず素っ気ない。悔しさで思わず、彼の腕に自身の腕を絡ませる。だが、自慢の胸も押し当ててもシンジは無反応。
「あー! ずるいぞユキネぇ! ボクもボクもー!」
キララは大声を上げるとシンジの腕に抱きついた。ユキネよりも若干小さめだが十分に大きい双丘を彼の腕に絡める。
「……暑苦しい」
シンジはそう呟くがユキネもやめるつもりはないしキララもそうだろう。
3人は海風を浴びながら船に揺られていく。
アニメでのサトシとシンジの最初のバトルはムックルvsムックルで、これはシンジがしっかりポケモンの能力を見ていてサトシを圧倒するということを描いていたと思います。今作では同種でもシンジの育てたポケモンは強いということを表現しました。ナエトルは最初のポケモンですから、厳選したわけではないですからね。シンジが貰ったナエトルが能力値が高かったのかもしれませんが。
シンジは本来、エレキッドとヒコザルをシンオウを旅する前にゲットしましたが、本作ではトレーナーとして旅を始めて間もない時点でゲットしています。なので、進化のスピードやサトシとの今後の関わりも大きく変えていきます。
これからどうするつもりなのか知りたい方がいらっしゃればメッセージをくだされば、活動報告でネタバレという形で書いていきたいと思います。
これから先、サトシ、シンジ、ヒコザルがどうなるのか見守っていただければ幸いです。