サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題) 作:エキバン
メイとツタージャの問題は解決した。2人はこれから心を通わせ強い信頼し合えるだろう。
問題が解決した。俺たちはバトルハウスへ戻った。
「本当に良かったわメイ」
「ええ、貴女が旅をやめたら私も悲しいもの」
「し、心配かけてごめんなさい」
「がんばれよメイ、俺も応援してるからさ」
「は、はい、サトシも本当にありがとうございます」
メイは嬉しそうにはにかむ。頬が赤く視線が熱っぽいのは気のせいだろうか。
その時、ふと施設の天井から下げられたテレビが目に入る。そこではポケモンバトルが行われていた。それも互いに2体のポケモンを使用したダブルバトルだ。そこでは見たことない2体のポケモンが目立った。
「あのポケモンは……?」
「あれはクイタランとエンブオーね」
「エンブオーってポカブの最終進化系なのよ」
博士の説明を聞いていると続くようにトウコが教えてくれる。
「そっか、じゃあポカブもあのエンブオーになれるように頑張らないとな」
『カブカブッ!』
しゃがみ込んだ俺はトウコの足元にいるポカブの頭を撫でる。ポカブは嬉しそうに笑っている。
「ふふっ、ポカブったら嬉しそう。サトシのこと気に入ったのね」
『カブッ!』
「ははっそりゃ嬉しいな、仲よくしようなポカブ」
『カブゥ!』
***
今いる場所はバトルクラブ内の食堂、そこにある大きめのテーブルに座り俺たちは昼食を摂っていた。
席順は俺の右にアララギ博士、左にアイリス、向かい側にトウコとメイが座っている。足元ではポケモンたちも食事中だ。俺のピカチュウ、フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメ、ニドリーノ、スピアー。トウコのポカブ、そして初顔合わせのバチュルとエルフーン。メイはツタージャ、まだ他にポケモンはゲットしていないらしい。アイリスはドリュウズがボールから出てこないようだ。
テーブルの上にならぶ色とりどりの料理、トウコはオムライス、メイはカルボナーラ、アイリスはハンバーグランチ、アララギ博士はラーメン、そして俺はカレーライスだ。
パクパク、モグモグ……うむ、やはり料理とは場所によって味は変わるようだ。といっても具材や色合いが大きく変わるわけではなく、イッシュのカレーはカントーのそれとは大きな違いは無いようだ。そもそも、オムライスやラーメンが普通にあるのは驚いた。イッシュ地方はカントーはシンオウ等とは文化が違う地方だが、似ているところは似ていた。
美味美味。
「研究所に連絡することがあるから少し席を外すわね」
「「「「はい」」」」
食事を終えた俺たちはそのまま一休みすることにした。アララギ博士は席を立ちそのまま立ち去る。
「サトシは今からどうするんですか?」
「そうだな、休んだらまたバトルしに行こうかな」
「朝あんだけバトルしたのにまたするの? ほんとにバトルのことばっかりじゃない」
「そりゃポケモントレーナーだしな、バトルは大好きだよ。それにせっかく来たんだからできるうちにしておかないとさ」
「そうですね、お気持ちはよくわかりますよ」
「まあでも、イッシュ地方のことを調べるのもいいかもな」
「それじゃあ、私もお付き合いしますよ」
「いいのか?」
「はい! サトシにはお世話になりましたら、その……お礼も兼ねて……です」
嬉しそうに笑うメイは急に頬を染めてモジモジと左右の人差し指同士を合わせていた。
「だ、だったら私も教えるわよ」
急に立ち上がったアイリスが、俺に勢いよく顔を近づけ叫びに近い声で言ってきた。
「ちょ、近い近い」
「あ、う、ごめん……」
俺の至近距離でアイリスはハッすると顔を赤くし、すすすっ……と後退した。
何やら妙な空気になり俺もどう声をかけたらいいのか混乱してしまう。
「むぅ……」
メイの若干不満げな声が聞こえた気がした。
「メイ?」
「なんでもありません」
声をかけるとメイはプイッとそっぽを向いた。なんか怒らせただろうか。
その時、ふとメイの隣に視線が行く。
そういえばさっきからトウコは一言も喋っていないことに気づいた。彼女の顔は床を向いている。
いや、床ではなくそこにいるポケモンたちだ。
「……」
「ん? トウコどうしました?」
黙り込んだトウコの視線の先には俺のピカチュウがいる。
そしてトウコの体は僅かに震えていた。
「……も……かい」
「「「ん?」」」
俯いたトウコは何事かを呟く。その時――
「ごめん、もう限界!」
トウコはガバッとピカチュウを抱き上げるとギュウウウと抱きしめた。
『ピ!?』
「ふわあああ、かっわいいいい!!」
トウコは勢いよくピカチュウを抱き上げる。その『でんこうせっか』の勢いにピカチュウは為すすべなく持ち上げられる。
「最初に見た時から、こうしてスリスリしたかったの! 生ピカチュウ、もちもちふわふわで可愛い! たまんないわぁ!」
先ほどまでの凛々しさはどこへやら、可愛いピカチュウに夢中になって頬擦りする女の子になってしまった。
『ピィカァ……』
トウコに抱きしめられ、身動きが取れないピカチュウが、俺に助けを求める涙目な視線を送ってくる。
ピカチュウよ、可愛い女の子に抱きしめられるんだからその幸せを嚙み締めなさいよ。そんなことを思いながら、俺は美少女と小さなポケモンの戯れ(一方的だけど)を微笑ましくその光景を見ていた。
『カブ?』
走り出したポカブ。トウコがピカチュウに構うから焼きもちで突進したのかと思いきや、トウコとは別方向に向かっていった。
「ポカブ?」
「ポカブ、どうかしたの?」
急に走り出したポカブに気づいたトウコは、我に返ったようで心配そうに声をかける。
ポカブが走った先には一人用のテーブル、そこには1人の男が座っていた。
『カブカブ』
ポカブはその男を見て嬉しそうな顔で鳴いていた。
「なんだお前は?」
ポカブが走った先にいた男に見覚えがあった。先ほどみ観た映像に映っていた、エンブオーとクイタランのトレーナーだ。
「ごめん、私のポカブなの」
男を見上げているポカブ、その様子はとても懐いているように見え、まるで大好きな人に会えて喜んでいるような顔だ。
「お前……そうか、あのポカブか」
男は合点がいったという表情でポカブを見下ろしていた。そこに侮蔑の感情が見えるのは気のせいだろうか。
「この子のこと知ってるの?」
トウコが訊く。
「知ってるもなにも、俺はこいつの元トレーナーだよ。俺はスワマ、最強の炎ポケモン使いさ」
ポカブの元トレーナー、ということは――
「じゃあ君はこのポカブを手放したってことか?」
「そうだよ」
男――スワマは飄々とした態度で何でもないかのように軽く言い放つ。
「どうしてポカブを捨てたの?」
トウコがわずかに表情を曇らせながらスワマに尋ねる。
「だってそいつ弱っちいんだぜ、才能の無い弱いポケモンをわざわざ育てるなんてしたくないよ。だから逃がしたんだ」
「っ! ポカブを見つけた時、この子縄で縛られてたの。そうしたのはあんたなの?」
「ん? ああ、そいつ逃がしたのにしつこくついて来たからな。仕方なく縛ってやったんだよ」
困ったように溜息をつくスワマはまるで自分が被害者のような言い方だ。
「あんたがそんなことしたせいで、ポカブはずっと大変なことになってたのよ! それに、さっきのポカブを見たでしょ! あんたを見つけてあんなに嬉しそうな顔してたのよ! 今でもあんたのことを……気にしてたってことじゃない。それなのに――」
トウコは掴みかかろうとするのを必死でこらえているように見えた。両手の拳は固く握られ、悔しそうな表情を浮かべている。
「バトルに向いてないポケモンを無理に育ててもトレーナーにもポケモンにも良くないことだぜ」
「そんなことない!」
「そうです、お互い頑張れば信頼しあえばきっと上手くいきます!」
「ポケモンの気持ちも考えずに捨てるなんて最低よ! サトシもそう思うでしょ?」
トウコに続いてメイもアイリスもスワマに反論、さらに俺に同意を求めてくる。
「……」
「サトシ?」
黙る俺を不信に思ったのかトウコ、メイ、アイリスは疑問の表情を浮かべる。
「そいつの言うことも一理ある」
「「え?」」
「向き不向きはある。バトルが苦手なポケモンも確かに存在する。それを無理やり戦わせるのはそのポケモンのためにも、トレーナーのためにもならない」
「そ、そんな……」
「はははははっ、あんたよぉくわかってんじゃねえか」
トウコ、メイ、アイリスは動揺を隠せないという顔になる。ポケモンを手放すことも正しい選択になるという意見がとても信じられないのだろう。
以前の俺もそうだった。だが、シンオウ地方で『あいつ』とその仲間の考えを俺は否定しきれなかった。それは心のどこかでそれが正しい考えだと認めている証拠だ。ポケモンが不幸になるなら、『捨てる』という判断もやむを得ない。それが間違いではないと理解してしまっている。
「けどポカブに才能が無いだなんて思えない」
「あん、どういう意味だ?」
正しい部分があると思いながらも、この男の意見には納得できない部分もある。
「さっきポカブとバトルしたんだ。動きも良いし技の威力も申し分ない。トウコが見事に力を引き出してたんだ」
「サトシ……」
どこか安堵を含んだようなトウコの声。
「俺がポカブの力を引き出しきれてないのが悪かったって言いたいのか?」
「さあな、だがポカブは強いポケモンだ。だからお前の考えは間違ってる」
「言ってくれるじゃないか。俺は最強のファイヤーウォーリアーズを操るトレーナーだぞ!」
バンッと机を強く叩いてスワマは俺を睨みつけながら立ち上がる。
「そんなことどうだっていい! あんた、ポカブに謝りなさい!」
トウコが対抗するにスワマを睨みながら言い放つ。
「はぁ? なんでそんなことしないといけないんだよ」
「ポカブにひどいことしたんだよ、当たり前じゃない!」
「誰がそんな雑魚に頭なんか下げるかよ。そいつが弱いのが悪いんだ」
「ポカブは弱くないって言ってるでしょ! 偉そうなこと言って、どうせあんたも大した腕じゃないんでしょ!」
「……言ってくれるじゃないかこのアマ、そんなに言うなら見せてやるよ。俺の実力をな」
スワマは見下すようにトウコを睨む。
「勝負はダブルバトルにしようぜ。俺のファイヤーウォーリアーズの真の力を発揮できるからな。だが、お前にも勝つチャンスくらい与えてやるさ。勝負はそうだな……3時間後にしよう。その間に作戦でも考えておくんだな」
「あんたにだけは絶対負けない」
「言ってろ、せいぜい無様なバトルをしないようにな、はっははははは!」
哄笑を上げて廊下を歩ていくスワマ、その背中を俺は見つめる。ちらりと横を見るとトウコがポカブを抱き上げて悔しさをこらえるような顔をしている。
「絶対、負けない……」
***
「そんなことがあったのね」
戻ってきたアララギ博士に事情を話すと彼女もまた深刻そうな顔をしていた。
「彼の考えを改めさせる必要があるわ。トウコ、バトル頑張ってね。バトルを通じてトレーナーは気持ちをぶつけ合うものだから」
「はいっ!」
『考えを改めさせる』か。多くの人間なら怒りに任せて『スワマを叩き潰せ』とか言いたくなる話だ。けど、アララギ博士は流石に大人なだけあって、客観的で落ち着きのある発言だ。
トウコもそのことは理解しているだろう。だが、ポカブのためにも負けるわけにはいかない。俺もできる限りの協力をするつもりだ。
俺たち5人は作戦会議を立てることにした。
「さっきバトルを見たが、おそらくあいつは口先だけってわけでもなさそうだぜ」
「そうですね、エンブオーとクイタラン、かなりの強さでした」
「あんな奴認めたくないけど、あっさり勝つってわけにはいかないみたいね」
俺の言葉にメイとアイリスも続ける。
「スワマはダブルバトルを指定してきた。トウコ、確か君の他のポケモンは……」
「うん、出てきて」
トウコがボールを投げ、現れたのは、
『フーン!』
『バチュ!』
エルフーンとバチュルだ。エルフーンは草タイプを持ち、バチュルは虫タイプを持つ。
「ポカブ以外は炎に弱いタイプか」
「やっぱり苦しいかな……」
『フーン……』
『バチュ……』
エルフーンとバチュルが不安そうな顔になる
「いや、そんなことないさ」
不安げな顔になるトウコに俺は答える。
「確かにタイプ相性は不利だ。けど、タイプだけでポケモンバトルの勝敗は決まらない。大事なのはトレーナーがどれだけポケモンの力を引き出すかだ」
「へぇ、良いこと言うじゃない」
「これでもバトル経験は豊富なもので」
「頼もしいです」
「よっし、それじゃあ、トウコのポケモンたちの技や得意なことを見てそれから――」
「ポカブ『かえんほうしゃ』!」
「ヒトカゲ『かえんほうしゃ』!」
『カブゥ!!』
『カゲェ!!』
ぶつかり弾ける炎と炎、激しく燃え上がり熱風が舞う。
攻撃を終えた2体は『はぁはぁ』と肩で息をする。
「よしここまでにしよう」
バトルの時間まで残り1時間、やれるだけのことはやった。
「あとはトウコたち次第だな」
特訓をしている間、ポカブはずっと元気が無かった。特訓自体は真面目に取り組んでいたものの、何かを気にしているように上の空になることもあった。
「ポカブ、まだあいつのこと気にしてるのかな」
「捨てられたとしても、元トレーナーのことはそう簡単に割り切れないのでしょうか」
見るからに元気が無いポカブ、彼の気持ちを考えると頭ごなしに『あんな奴のことは忘れろ』だなんて言えない。元気を取り戻してほしいがどうしたものかと悩んでいた、その時、
『カゲカゲ』
『カブ?』
『カゲカゲカ』
ヒトカゲがポカブに近づいたかと思うと、何かしら話しかけ、小さな手でポカブの頭を撫でてあげていた。ニコリと笑ったヒトカゲが『クアー』と人鳴きすると、ポカブもつられたように笑い頷いた。
「ヒトカゲはポカブのことを励ましてるんですね」
「さすがヒトカゲ、ドラゴンになるポケモンなだけあるわね」
「ありがとう、ヒトカゲ」
メイもトウコもアイリスもその様子は微笑ましそうに見ている。
ヒトカゲがポカブを気にかけているのはきっと――
「ヒトカゲもさ、捨てられたポケモンなんだ」
「「「えっ?」」」
3人が一斉に俺の方をみた。3人とも目を大きく見開き驚いているのがわかった。
そりゃ驚くよな。深刻な話だがみんなになら話してもいいと思った。
「――そのヒトカゲのトレーナーとのバトルは決着がつかなかったけど、次会った時はまたバトルを挑むつもりだ。勝ってヒトカゲに謝ってもらわないといけないからな」
「そんなことがあったんですね……」
「ヒトカゲも、苦しい想い、してたんだ……」
「どうして簡単にポケモンを捨てられるの……?」
メイとトウコは痛ましそうにヒトカゲを見て、アイリスは悲しみと憤りの混じったような顔
「簡単にポケモンを捨てるトレーナーが多くいることは、残念ながら事実ね。だからこそ、それを悲しく思うならポケモンたちを不幸にしないために考えて全力を注がなければいけない」
アララギ博士は慈しむようにヒトカゲとポカブを見て、しゃがみ込むと2人の頭を優しくなでる。
「サトシ君、あなたがヒトカゲを救った行いは立派よ。この子を見ているとわかるわ、とっても幸せだって」
「救ったって言い方は大袈裟な気もしますね。ヒトカゲが捨てられたことを完全に吹っ切れてるのかどうかわかりません」
「今はそれでいいのよ。大事なのはあなたがヒトカゲのために行動したってことなんだから。辛い思いをして傷ついたヒトカゲをあなたは救ったのよ。その事実を誇りなさい」
アララギ博士は立ち上がりまっすぐな視線で俺を見ていた。理知的で慈愛の籠ったようなその表情に俺はドキリとしながらも自然と笑った。
「はい!」
誇っていいのか俺は、ヒトカゲのために動いたことを。なんだが勇気が湧いてくる気がした。
「……私、絶対勝つわ」
「トウコ」
「サトシがヒトカゲのために頑張ったんだもん、私も同じくらい、いえ負けないくらい全力でバトルするわ」
「その意気ですトウコ」
「トウコなら勝てるわ!」
闘志を燃やす女性陣、その熱さがポカブの強さへと繋がればいいと、俺はポカブを見る。しかし、彼はどこか浮かない顔のままだ。そんなポカブに俺はしゃがみ込みながらも話しかける。
「なあポカブ」
『カブ?』
「―――がんばれよ」
一言二言話しかけポカブに俺なりのエールを送る。
『カブ!』
ポカブは笑顔を見せて頷いてくれた。
***
そして、約束の時間、俺たちはスワマが指定したバトルフィールドに立っていた。
しばらくすると、向かい側の入り口からスワマが現れる。
「逃げるかと思ったんだがちゃんと来たのは褒めてやるぜ」
「逃げるなんて恥かくことするはずないわ。勝てる勝負なら特にそうじゃない?」
トウコの挑発にスワマは軽く舌打ちすると、モンスターボールを2つ取り出す。
「勝負方法は先に言った通り2vs2のダブルだ。ポケモンが全滅した方が負けだ!」
「ええ、受けて立つわ!」
「ポカブ、エルフーン、レディーフォーバトル!」
「カモン、ファイヤーウォーリアーズ! エンブオー、クイタラン、ショータイム!」
トウコのモンスターボールからポカブとエルフーンが飛び出し、
『カブ』
『エル、フーン!』
スワマのモンスターボールからエンブオーとクイタランが飛び出す。
『エエェンブ!』
『クイイイ!』
「はははははっ、何が来るかと思えば、雑魚のポカブと草タイプのエルフーンか。そんなので俺のファイヤーウォーリアーズに勝てると本気で思ってんのか?」
「あんたには絶対負けない。私たちの本気、見せてあげるから」
嘲笑するスワマにトウコは闘志を燃やした表情で言い返す。
トウコな負けない気持ちは少しも迷いがない。
『カブ……』
ポカブを見ると悲しそうな顔でスワマを見ていた。
「やれエンブオー、クイタラン。『かえんほうしゃ』!」
「2人とも躱して! エルフーン『おいかぜ』、ポカブ『ころがる』!」
『エルルー!!』
エルフーンは火炎を回避し、両腕を上げるとフィールドにポカブとエルフーンの背中を押す追い風が発生する。その効果によりポカブとエルフーンの素早さは大幅に上がり、バトルはトウコの有利に進む、サトシたちはそう思っていたが、
『カブ――』
ポカブが体を回転させようとしたその時、ポカブの目にスワマの顔が映る。それを見た瞬間、ポカブの表情は沈む。故に、攻撃の回避が間に合わない。
悲鳴を上げて、ポカブは火炎の攻撃をモロに受けてしまい吹き飛ぶ。
「ポカブ!?」
『カブゥ……』
「大丈夫? どうしたのポカブ?」
ポカブはトウコの顔を見るとハッとした表情になり立ち上がる。そして気を引き締めたような表情になると『ころがる』攻撃を開始する。
『おいかぜ』によって『ころがる』スピードが上がる。回転するポカブが2体の『かえんほうしゃ』を弾き飛ばしていく。そして、高まる速度のままのポカブがエンブオーとクイタランに突撃し、ダメージを与える。
「クッソ、小癪な真似しやがって、エンブオー、ポカブを捕まえろ! クイタランはエルフーンを焼け『かえんほうしゃ』!」
『ブオウ!!』
『クイイイイ!!』
エンブオーは丸太のような両腕で転がるポカブを捕らえようとし、クイタランの口からは猛烈な火炎がエルフーンへと放たれた。
「負けないでポカブ! そのまま『ころがる』を続けて! エルフーン『ぼうふう』!」
『カブッ!』
『エルルー!!』
エルフーンの起こした強烈な風がクイタランに襲い掛かる。ポカブは転がり動き回りながら、エンブオーを回避しながらもその背後を狙おうとする。
「往生際が悪いんだよ雑魚が! エンブオー『アームハンマー』!」
『ブオウ!』
エンブオーは振り返ると剛腕を転がるポカブに振りぬいた。『ころがる』ポカブに真っ向から振るわれる大きな腕、僅かな拮抗の末、吹き飛んだのはポカブだ。
「はははっ、その程度か。エンブオー『かえんほうしゃ』!」
『ブオオオオ!!』
エンブオーから放たれる炎にポカブの全身は包まれさらに吹き飛ばされる。ダメージを受けボロボロになったポカブはフラフラと立ち上がる。その視線は未だスワマに向いていた。
『カブ……』
「あっははははは! みっともない恰好だな。やっぱり雑魚はどんなに頑張っても雑魚なんだよ。あーあ。お前を捨てて正解だったぜ」
「負けないでポカブ、あなたが強い子だって、私信じてる!」
嘲笑うスワマにトウコは悔し気な顔になりながらもポカブへ言葉をかける。
ポカブはうつ伏せに倒れながらその目は未だにスワマを悲し気に見つめていた。
「おいおいなんだポカブその目は? まさか俺がまだお前のこと気に掛けるとでも思ったのか?」
スワマは吐き捨てるように続ける。
「にしても大概バカだよなお前も、いまだに俺に懐いてるなんて、まさかあの時の言葉を信じてんのか?」
「ちょっと、なんのことよ!?」
トウコがスワマの言葉に反応する。
「はははははっ、俺がそれを捨てる時に言ってやったんだよ『お前をこれ以上バトルで傷つけたくない、俺も辛いけどこれはお前のためなんだ』って涙を浮かべてな。そうやって言えばそれも諦めるだろうって思ってな」
「なのに、見限られたことにも気づかないなんて、ほんっとにバカだよな。バトルだけでなくおつむも弱いなんて救いようがないや。あっはははははは!」
フィールドに響くスワマの哄笑、トウコは悔し気な表情で歯ぎしりしていた。
***
倒れたポカブはスワマの言葉に打ちひしがれていた。
――信じていたのに、ずっと心配していたのに
――たとえトウコのポケモンになっても君に会いたかったのに
ふと横を見ると、彼と目が合った。
トウコとメイが最近仲良くなった人間の男。トウコが仲良くしているからきっと良い人間なのだろう。彼の仲間の炎ポケモンはとても強かった、自分とは大違い。
そう考えているとふと思い出すものがあった。
それは彼が自分に言ってくれた一言。その言葉を頭の中で反芻する。そして、ポカブは見る。自分にとって大事な人を、大切な人を。
すると、自分の中にある重いものが無くなった気がした。そしてポカブは立ち上がる。
***
『カブ……ポ、カブッ!』
起き上がったポカブは振り返るとトウコに向かって鳴いた。
その顔には何も迷いが見当たらない。。
「ポカブ……ええわかったわ。『かえんほうしゃ』!」
指示と共にポカブの鼻から発射される火炎は猛烈な勢いでエンブオーとクイタランに衝突する。
飲み込まれた2体はそのまま地面に衝突し転がっていく。
「な、なんだよこの威力は!?」
「迷いを捨てたんだよ」
「な、なんだと?」
何が起こったか理解できない様子のスワマは、サトシの言葉に反応する。
「今までのポカブは本調子じゃなかったのさ。それはお前の言う通り、お前のことを信じてたからだ。だから本気で戦うことができなかったんだ。だがお前が本性を見せてくれたおかげでポカブは遠慮する必要なんてなくなったんだ」
気持ちというのは本人の動きに直結する重要な要素だ。迷いは歩みを遅らせる。だが、それを捨て去り覚悟を決めた時、予想以上の力を誰しも発揮することができる。
「俺もポカブに言ったことがあるんだ『どうしても辛いときはトウコを信じろ』ってな」
「あの時の……」
メイはサトシがポカブに話しかけていたことを思い出した。
「ポカブは大好きなトウコのために本当の本気を出す」
『カブカブッ!』
サトシの言葉に呼応するかのようにポカブは大きな鼻を鳴らし、そこから炎を勢いよく吹き出す。目には闘志が強く燃え上がっていた。
『カブカブ』
『エルルー』
そして、ポカブは相方のエルフーンに声をかけ、エルフーンは嬉しそうに笑った。
「ポカブ、もう大丈夫なのね?」
『カブッ!!』
「それじゃあ、こっから反撃開始よ! エルフーン『ぼうふう』、ポカブ『ころがる』! クイタランを狙って!」
猛烈な風がクイタランに襲い掛かり動きを封じる。そこにポカブの岩タイプの技が迫る。
「こぉのぉ舐めるな! エンブオー『アームハンマー』!」
『ブオオオオオッ!』
エンブオーがクイタランを助けるために剛腕に力を込めて迫りくる。
「今だエルフーン『くさむすび』!」
『エルル、フーン!』
歩き出したエンブオーの足元に現れる草の輪っか。それはエンブオーの脚に引っ掛かり勢い余ったエンブオーはつんのめり前に倒れる。そして、倒れる先には地に伏せるクイタランがいる。
ズウウウウンッという音共に何かが潰れる音。フィールドではクイタランが超重量ポケモンであるエンブオーにのしかかられてピクピクと目を回していた。エンブオーも転ばされたことでダメージを受けた。
「こっちも合わせ技いくわよ。ポカブ『かえんほうしゃ』、エルフーン『ぼうふう』!」
『カァブウウウウウウ!!』
『エルルー、フウウウウン!』
ポカブの火炎がエルフーンの烈風により勢いが増大する。風に運ばれた炎は倒れるエンブオーをクイタランに渦を巻くように襲い掛かる。
莫大な炎がフィールドを埋め尽くす。そして炎が晴れると、そこには倒れ伏した。エンブオーとクイタランが目を回していた。
対するポカブとエルフーンは健在だ。
エンブオーとクイタラン戦闘不能。勝者はポカブとエルフーン、そしてトウコだ。
「やったあああああ!」
歓喜の声を上げるトウコ、彼女に向かってポカブとエルフーンも飛び掛かる。
「2人ともすごいよ。すごいバトルだったわ!」
「う、嘘だ、俺のファイヤーウォーリアーズがこんな雑魚に負けるなんて……」
「ほら、約束通りポカブに謝りなさい」
「ふ、ふざけんな! どうして俺がそんな雑魚ポケモンに謝るんだ!」
「あんた負けたくせに見苦しいわよ」
「うるせえうるせえ! そもそもこいつが俺のポケモンの時からしっかりバトルしてりゃ捨てずに済んだんだ! 俺のために強くならなかったそいつが悪いんだ!」
我儘、身勝手、独善的な屁理屈。そのあまりにも見るに堪えないスワマの姿にトウコだけでなく、後ろで観戦していたメイやアイリスも顔に不快感を示す。
「はぁ、何を言っても無駄みたいね。もう謝らなくていいわ。行こうみんな」
トウコは呆れの溜息とともにポケモンをボールに戻すと振り返り歩き出す。
「ふざけんなああ!!」
叫んだスワマはトウコにモンスターボールを投げるとそこからポケモンが現れた。
飛び出したのはバオッキーだ。
トウコは再度スワマに向き直す。
「まだこいつがいる! またバトルだ!」
『バオバオ!』
必死の形相で吠えるスワマにトウコは冷たい視線を送る。
「あんた、ほんっとに見苦しいのね」
「うるせえ! いいから勝負しろ!」
トウコの言う通り見苦しい姿だが、トウコのポケモンは先のバトルで疲弊している。連戦は辛いだろう。ならば――
「俺が相手するよ」
「はん、だったらお前からぶっ潰してやる!」
スワマは前に出てきたサトシに攻撃的に睨みつける。
サトシはスワマとバオッキーを軽く見るとモンスターボールを投げる。
「……スピアー、君に決めた」
『スピッ!』
ボールから飛び出したスピアーが羽音を響かせ、両手の槍を構える。
「はん、何が出てくるかと思えばただの虫じゃねえか! やれバオッキー『はじけるほのお』だ!」
『バーオ!』
バオッキーの口から放たれた火球が空中で弾け、散弾のようにスピアーへ迫る。
「スピアー『ダブルニードル』!」
指示と同時にスピアーの姿が消える。一瞬にしてスピアーがバオッキーの眼前に現れる。
『スピッ!』
「なに!?」
『バオッ!?』
二槍をバオッキーに突き刺す。バオッキーが吹き飛ぶ。
「『どくづき』!」
『スピアッ!』
間髪入れずにスピアーが右槍に毒エネルギーを込め、一気に直撃させた。
バオッキーは追い打ちを受け吹き飛び、壁に激突してそのまま目を回して動かなくなった。
バオッキー戦闘不能。
「そ、そんな……こんなあっさりと……」
「よくやったスピアー」
『スピ!』
サトシがバトルを終えたスピアーを撫でながら労うと、スピアーは嬉しそうに鳴いた。
「さあ、どうする?」
サトシはスピアーをモンスターボールに戻すとスワマを見据える。
「う、くうう……ちくしょおおおっ!」
サトシに見下ろされたスワマは悔しさを隠さずに叫びながら走り去った。
その後ろ姿をポカブは見つめていた。先のバトルで迷いを捨てた彼だが、まだ思うところがあるのか、寂しげな顔だ。
するとトウコは屈むとポカブへ語り掛ける。
「ポカブ、あなたは私が立派に育てて見せる。これからも一緒にいてくれる?」
トウコの迷いのない言葉に、ポカブは力強く頷いた。
『カブッ!』
この時、2人の絆はより強固なものになった。共に鍛え、戦い、越えるべき過去を越えた。これからの旅で2人はもっと強くなり高め合っていくだろう。この場にいた誰もがそれを確信していた。
***
翌日、俺たちは港に集まっていた。先日のように大きな飛行艇が船着き場で停留していた。
もうすぐ離水時間、トウコ、メイ、アイリス、アララギ博士は見送りをしてくれている。
「サトシ、ありがとう。あなたのおかげでバトルに勝つことができて、ポカブも吹っ切ることができた」
「私もツタージャともっと仲良くなれました。本当にありがとうございます」
「私も改めてドリュウズと向き合おうって思えた。ありがとう」
「いや、トウコは俺のアドバイスが無くてもあいつに勝てただろうし、メイもツタージャを見つけることができてただろうし、アイリスもドリュウズのことはいつも考えていたし、俺は大したことはしてないよ。全部3人それぞれの力でできたことだよ」
「そんなことないよ。サトシが言ってくれたから気づけたことがあった」
「私だけじゃ、もっと時間がかかったかも知れません。少しでも早くツタージャを見つけられて本当に良かったと思ってます」
「サトシはそう思ってても、私たちには大きなことなんだよ。素直に受け取りなさい。素直じゃないとこはまだ子供ね」
「それなら、俺の方こそありがとう。イッシュ地方に来て、短い間だけどトウコ、メイ、アイリス。3人に出会えて本当に良かった」
そう言うと、トウコ、メイ、アイリスの3人はほんのり頬を赤くしてほほ笑んだ。
可愛らしい笑顔にドキリとする。俺も顔赤くなっていないだろうか。
その時――
地面から何かが飛び出した。
「「「「「!?」」」」」
そこから現れたのは小さなポケモン。
『クロッコォ!』
「あ、メグロコだ」
あのサングラスをかけたメグロコだ。もしかして俺のこと追いかけてきたのか?
『クロクロッ!』
サングラスの奥にある瞳が俺を鋭く射抜いているように感じた。そうか、リベンジしたいんだな。
「よっし、そんなにバトルしたいなら受けて立つぜ。ピカチュウ、君に決めた!」
『ピッカ!』
「メグロコは地面タイプだからピカチュウじゃ不利なのに」
「それでも昨日は勝っちゃったのよね」
「ポケモンバトルはタイプ相性が全てではないもの」
不安そうなトウコに対しアイリスは呆れたような関心したような反応。そしてアララギ博士が2人の言葉をまとめるように解説する。
そうだ、何が起こるか分からないからポケモンバトルは面白い。
昨日はメグロコに勝った、けれど今回は負けるかもしれない。まあ、もっとも――
「ピカチュウ『アイアンテール』!」
負けるつもりなんてないけどな!
『チュウウウ、ピッカ!』
ピカチュウが鋼の尻尾をメグロコに向けて振り下ろす。
『クロッコ!』
メグロコは地面を掘り姿を消した。
「だったら地面に『アイアンテール』!」
ピカチュウが尻尾を構えた瞬間――
『クロッコォ!』
地中からメグロコが飛び出しピカチュウに突撃した。
『ピッカァ!?』
「な、速い!」
吹き飛ぶピカチュウ、地面技は効果抜群だ。ピカチュウは大きなダメージを受け倒れる。
「大丈夫かピカチュウ!」
『ピカ……!』
ダメージを受けてもピカチュウはまだまだ元気に立ち上がる。
「同じ手は通用しないってか、面白れぇ!」
あのバトルからあのメグロコはピカチュウに勝つための戦略を考えていたのかもしれない。思わぬ強敵に心が高鳴るのを感じた。ピカチュウを見ると、その顔はワクワクした顔だ。
メグロコが大きく両の前脚を振り下ろすと地面から鋭い岩が飛び出す。大技の『ストーンエッジ』だ。
「走って躱せピカチュウ!」
『ピッカ、ピカピカピカ!』
ピカチュウは鋭い岩を回避しながら自慢のスピードでメグロコに接近する。
「『アイアンテール』!」
『チュウウウピッカァ!』
加速の勢いのままピカチュウは縦に一回転しながら鋼の尻尾を振り下ろす。
『クロッ!』
ガキンッと金属がぶつかる音がした。するとピカチュウの『アイアンテール』はメグロコの顎に噛みつかれ捕らえられていた。自慢の大きな顎による『かみつく』だ。
「あのメグロコ、最初にサトシのピカチュウとバトルした時よりも明らかに強くなってる」
「昨日の今日でここまで力をつけるなんて、それほど悔しかったのか、それとも……」
メグロコは大きく体を振りピカチュウを投げ飛ばした。
だがピカチュウはまだまだ動ける。
「ピカチュウ『なみのり』!」
『ピッカアアアアア!』
ピカチュウの全身に水のオーラが現れる。
「「ええっ!?」」
「ピカチュウが『なみのり』ですって!?」
「電気タイプなのに覚えるんですか!?」
アイリスとメイが同時に驚きの声を上げ、アララギ博士とトウコも信じられないといった様子を見せる。
ピカチュウは水を纏ったままメグロコに突進、弱点である水タイプの攻撃を受けたメグロコは大きなダメージを受けて吹き飛ぶ。
フラフラになりながらも立ち上がるメグロコ、そこに畳み掛ける。
「今だピカチュウ、『アイアンテール』!!」
鋼鉄と化した尻尾がメグロコ目掛けて振りぬかれる。
メグロコは吹き飛び、そのまま倒れてしまった。
バトルはピカチュウの勝ちだ。
ピカチュウは倒れるメグロコに声をかける。メグロコは悔しそうだがピカチュウに優しく鳴いた。
「ありがとうメグロコ、良いバトルだったぜ。俺たちはもうカントーに帰るけど、また会うことがあったらまたバトルを――」
『クロックロクロッコ!』
サトシの言葉を遮ったメグロコはまるで何かを訴えるようにサトシに呼びかけた。その顔はかなり興奮気味だ。
「もしかしてサトシに付いていきたいんじゃないですか?」
メイに言われ、改めてメグロコを見る。
「そうなのか?」
『クロッコオ!』
メグロコは頷くと「早く早く!」と急かすように俺の足元に歩いて来た。
「私はメグロコをゲットするのは良いと思うわ。短い時間でここまで強くなったんだもの、この子には間違いなくバトルの才能があるわ」
「バトルの才能」か、博士のお墨付きなら間違いないんだろうな。それ抜きにしてもここまで「一緒に行きたい」って気持ちを示してくれるなら俺もメグロコを仲間にしたい。ピカチュウを見ると、賛成だと言わんばかりにニッコリ笑っていた。可愛い。
「これからよろしくなメグロコ」
『クロッコ!』
元気に鳴くメグロコへ俺はモンスターボールを投げた。
***
「ふー、ただいまっと」
俺はカントー地方の空港へと到着した。
アイリス、トウコ、メイ、アララギ博士との別れは名残惜しかったが、いつかまた会えるだろうと、その日を楽しみにすることにした。
カスミとリカはまだ戻っていないのか。しばらくどうやって時間を潰そうか。
そう思っていると、不意に肩を叩かれる。反射的に振り返ると、
「「アローラ!!」」
トロピカルな服装のリカとカスミがいた。
「うお!」
驚いて思わず声を上げてしまう。
2人の恰好はアロハシャツ、リカは赤色、カスミは緑色だ。下は動きやすそうなショートパンツをはいている。さらに2人とも麦わら帽子を被っている。太陽と海がよく似あう格好だ。
「よ、よお昨日ぶり……」
「む、なによもっと嬉しそうにしなさいよ」
「あはは、びっくりさせたかな?」
「アローラは暖かいからね。こういう服装で過ごすのが普通なの」
普段のカスミとそこまで変わってない気がするが、言わないでおこう。
「海も綺麗だったんだー。こないだ行ったアオプルコに負けないくらいすごかったよ」
「イッシュ地方はどうだったのよ?」
「ああ、イッシュ発祥のポケモンたちをたくさん見られたんだ。それにポケモンバトルに力を入れてたみたいで、イッシュのトレーナーたちとたくさんバトルしたぜ」
「観光はしてないの? あんたらしいわね、どこでもポケモンバトルなんて」
「サトシが楽しいなら良かったよ」
「あ、そうだ」
「どうしたの?」
「ああ、イッシュでできた友達と連絡をな」
俺はパソコンの電話の項目を操作しイッシュ地方まで繋いだ。この時間ならまだみんなポケモンセンターにいるはずだ。
『あ、サトシ!』
画面の向こうにいたのはトウコだ。
「ようトウコ、今カントーに着いたんだ」
『そっか、また顔が見られて嬉しいわ』
「俺も、またトウコの顔が見られて嬉しいよ」
「そ、そう? ありがと……」
照れたような顔になるトウコは普段の快活さとのギャップがあった。
『2人もいるから呼ぶわね、メイー、アイリスー! サトシと電話繋がってるわよー!』
すると、ドタドタという音と共にトウコの左側から2人の人影。
『『サトシ!!』』
メイとアイリスだ。
「よう、さっきぶり」
『はい、無事に帰りついて何よりです』
メイは嬉しそうな顔だ。
「ああ、この通り元気だよ」
『私たちと離れて寂しいんじゃない?』
アイリスがからかい混じりで聞いてくる。
「心配してくれてんのか? ありがとうアイリス」
『にゃっ、べっべべべ別にあんたの心配なんか別に……元気ならいいわよ……』
なぜか真っ赤になって萎むような小さな声になったアイリス。
あ、そうだ。
「紹介するよ。2人は俺の旅の仲間のカスミとリカだ」
画面の向こうの3人に俺は仲間を紹介する。
「リカ、カスミ、彼女たちはイッシュで知り合った友達のアイリスとトウコとメイだ」
後ろにいる2人に話しかける、すると2人はシュバババッと素早い動きでパソコンの前を陣取る。
「リカ、カスミ?」
「初めまして~私はサトシと一緒に旅をしてるカスミです」
「こんにちは、私はリカです。サトシと同じマサラタウンの出身で付き合いは長い方ですよ」
ニコニコとした笑顔でパソコンの向こうにいる3人に話しかけるリカとカスミ。
なんだろう、妙な圧力があるような……?
『……トウコよ。よろしくね』
『……メイです。お会いできて嬉しいです』
『……アイリスよ。サトシの友達よ』
なんだか声のトーンが変わったような3人、不思議と空気が歪んだ気さえしてきた。
「……また、絶対に会えるって信じてるから、サトシも私たちのこと、忘れないでね……絶対負けない」
「サトシ、できる限りでいいので、これからは連絡をください……必ず振り向かせます」
「旅の話とかいろいろ聞かせなさいよ……私だって追いついてみせるから」
「?、お、おう、絶対また会おうな、俺もっと強くなるからさ」
なにやら最後の方が聞こえづらかったが、3人とまた会いたいのは俺も同じだ。
『『『またね!』』』
トウコ、メイ、アイリスは笑い手を振っていた。パソコンの画面を消し、俺はリカとトウコに向き直った。
「よし、じゃあ次の町に――」
「「サトシ?」」
こ、これはダークオーラ!? それとも2人は「ぬし」になったのか!?
あまりの迫力は俺は言葉を失う。そしてリカとカスミはガッチリと俺の両腕ほホールドした。
「この節操無しのジゴロ! 今日という今日は許さないんだから!」
「サトシのアホ、バカ、えっち、すけべ、もうもう、ほんっとうに怒るんだからね!」
左右の2人は頬を膨らませて物凄い剣幕で睨んできた。とてつもない『いかく』だが、俺の『かちき』も『まけんき』も発動せず、ズルズルと引きずられていくのであった。
明日の朝日を拝めることを願いながら俺にできるのは苦笑いだけだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回で、他の地方へ行くのは一旦やめます。次回からカントーの冒険に戻ります。
残りの地方はまたいずれ。