サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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思った以上に時間がかかりました。
それなのにあまり進んでいないという。

このサトシは現時点でDPサトシやXYサトシの面構えだと思います。


さあ、旅立とう

頭にはなんとなくだが記憶があった。

マサラタウンの景色や街並み、どんな自然があって、どんなお店があって、どんな人たちが住んでいて、どんなポケモンたちが生きているのか。

記憶を探るように考え込むとそれらの情景が頭に浮かんだ。

これがサトシの記憶なのか。

 

憑依してしまったが、記憶まで見ることができるとはなんとも都合が良い気がするが、今後のマサラタウンの人たちとの付き合いに於いては重要になるだろうから助かる。

 

今日出会った共に旅立つトレーナーの記憶もある。

 

シゲルはいつもサトシを嫌味な態度で見下している。

リカはとても優しくサトシとも友人だ。

ナオキはいじめっ子のガキ大将で、特にサトシにつっかかることが多い。

 

サトシとの仲が良い悪いはともかく、彼らとはそれなりの付き合いの長さなのは間違いない。

彼らともかかわることになるだろうから、サトシの知る彼らを俺もしっかり理解しなければいけない。

 

 

 

研究所の前にはいつの間にか人だかりができていた。

老若男女、たくさんの人がいた。

 

シゲルが一番前に来て、群衆に手を振っていた。

 

『いいぞ、いいぞシゲル!がんばれがんばれシゲル!』

 

チアガールやブラスバンドの人たちがシゲルの登場に大盛り上がりだ。

この人たちはどこから現れたんだ?

 

「ありがとう。愛しい僕の友人たち、ハニーたち。僕は超一流のポケモントレーナーになって帰ってくるよ」

 

『きゃあー!!いいぞいいぞシゲル!!』

 

シゲルの宣言に歓声が増す。

さらにはシャッターを切るカメラマンやマイクを向ける記者もいた。

 

シゲルがオーキド博士の孫であることも期待される要因なのだろうな、それから、オーキド博士の祖先も有名なトレーナーで、ここマサラタウンの名前になったんだよな。

期待されるということはそれだけ本人にはプレッシャーになるものだが、シゲルは大丈夫か?

 

「皆様、お見送りありがとうございます。オーキド・シゲル。ただいまよりポケモントレーナーの修行をして参ります。おじい様とそしてそのまたおじい様の名に恥じない成果を上げて帰ってくることを誓います!」

 

『きゃあー素敵ー!!』

 

……うん、あいつは心配なさそうだな。

 

「そこにいるサートシくん!」

 

「は?」

 

「先ほどはなかなかのバトルをしたようだね。しかし、それはトレーナーにとって当たり前でしかない。僕もすぐにあれくらいのことはして見せる。次会うときは君を圧倒してみせよう!」

 

「あ、はい」

 

群衆が拍手を送ると、シゲルは仰々しく一礼する。

『心配』は撤回しよう、そのまま潰れろ。

 

「それでは皆様応援ありがとうございました。では行って参ります」

 

シゲルは美人の運転手付きのオープンカーに乗り込むとそのまま行ってしまった。

徒歩で行けよ。

 

 

***

 

 

両親が用意してくれたキャンピングカーに揺られながら、シゲルはシートに深く座っていた。

そこに先ほどの余裕の表情はなく、深く考え込むような顔だった。

 

(僕は負けない。今までサトシに負けたことなんてないんだ。トレーナーとしても負けるはずがない)

 

シゲルは自らに強く言い聞かせるように『負けない』という思考を反芻した。

 

サトシとは昔からの付き合いで、向こうは何かと意識してつっかかってきて、シゲルは自分よりあらゆる面で遥かに劣るサトシを見下し、圧倒して勝利してきた。

しかし、先ほどのサトシのバトルを見て、シゲルの中には敗北感に似た悔しさが胸を占めた。

今までサトシに対して抱くはずの無い感情をシゲルは認めたくなかった。

 

(そうだ、サトシのことなんか気にする必要はない。僕はオーキド・マサラの子孫で、オーキド・ユキナリの孫なんだ。誰にも負けない!)

 

「そうだよね、マイハニー」

 

シゲルは初めてのポケモンであるゼニガメのモンスターボールに口づけをすると、マイナスの気持ちを振り払うように前を向いた。

 

しかし、今はシゲルがサトシを強く意識していること、そして、先ほどのシゲルのサトシを見下すような宣戦布告は彼への敗北感を誤魔化すためのものであり、シゲル自身はそれに気づいていないままだった。

 

 

***

 

 

シゲルの応援団が去るが、まだまだたくさんの人たちが研究所前に残っていた。

見るとリカが同年代や年下の女の子たちと話していた。

 

「リカ、頑張ってね」

 

「うん、もちろん」

 

「私も来月で10歳になるから、旅に出て絶対追いつくからね」

 

「待ってるからね」

 

「リカなら美少女トレーナーってなってテレビに出られるかもね」

 

「や、やだもうそんなことないよぉ」

 

キャッキャッとなる女の子たち。うんうん微笑ましいなあ。

 

ところ変わって、別の方ではナオキが如何にもヤンキーな少年少女や年上の兄ちゃん姉ちゃんと話していた。

 

「兄貴、頑張ってください!」

 

舎弟っぽい小さな男の子がナオキを応援する。

 

「おう、任しときな」

 

「しっかりやるのよ」

 

いかにも姉御肌な美人さんも激励する。

 

「心配ねえよ」

 

あちらさんは全体的に雰囲気怖いな。

目が合っただけで喧嘩売られそうだ。

 

それにしても、リカの女友達もナオキの女友達もみんな可愛いな。

清楚な娘だったりとギャル系だったりと、どっちも美人揃いだ。

マサラタウンの女性は美人しかいないのか?

 

 

***

 

 

「ねえ、リカ」

 

友人たちと別れの挨拶と談笑をしていたリカに友人の一人が話しかける。

 

「どうしたの?」

 

「あそこにいるのって、サトシよね?」

 

友人が指さした方にはオーキド博士と話しているサトシがいた。

 

「そうだよ」

 

「なんか、いつもと違うくないかな?」

 

「うん、そうなの。なんか旅に出るから気を引き締めてるみたい」

 

「へー、そんなに変わっちゃうものなのね。『男子三日会わざれば』ってやつ?」

 

確かに旅立つ一週間ほど前から準備で忙しく、サトシたちとは会っていない。

 

「そうかもね」

 

「だね、それにしても……あのサトシ。なんか……かっこいいかも」

 

友人の言葉に周りの女子たちも色めきだす。

 

「そうそう、ガキっぽさが薄れてるっていうか」

 

「うんうん、絶対うるさくはしゃぎ回ると思ってたのに、落ち着いてるよね」

 

「顔は悪くないのにバカでガキだから台無しになってたのが、すっかりイケメンになってるよね」

 

「リカもそう思わない?」

 

「え!?う、うん、そうだね。サトシ、ちょっとかっこよく、なったかも……」

 

また高鳴り暖かくなる胸。

その心地よさが長く続けばいいなとリカは思った。

 

 

***

 

 

「ナオキ、シゲルになんか負けんじゃねえぞ」

 

「ああそのつもりだ。それに……サトシにもな」

 

ナオキがサトシの名前を出すと、周りの友人たちの雰囲気が少し変わる。

 

「サトシ?お前相変わらずサトシ嫌いなんだな」

 

「ああ、あいつは気に入らねぇ……けどまあ、実力は認めるがな」

 

「あん?どういうことだよ?」

 

ナオキがサトシを認めるという言葉に一同は怪訝な顔をする。

 

「……さっきバトルして負けたんだよ」

 

「マジかよ!?あのバカに負けたのか!?」

 

「ほーん、いじめられてたサトシがな」

 

「ああ、だからもう負けねえ」

 

「おいおい、なかなか熱いじゃねえかよ」

 

「るっせ」

 

からかうような言葉に、ナオキは悪態をつく。

しかし、その口元は少し緩んでいた。

 

 

***

 

 

今の今までオーキド博士にピカチュウを任せたということ念入りに頼まれ「ゴム手袋やゴム紐を持った方がいいのではないか?」とアドバイスをもらった。

だが俺は「そんなものを使うのはピカチュウを信頼していないのと一緒だから必要ありません」ときっぱり言った。博士は俺の言葉に感心したのか心配しているのか微妙な表情だったが納得してくれた。

 

「おいサトシ」

 

ママを中心としたサトシ応援団であるご近所の皆様のところへ行こうとすると、後ろから声をかけられる。

もう何度も聞いたナオキの声だ。

 

「なにか用?」

 

ナオキは鋭い目で俺を見ていた。しかし、その目は先ほど俺に喧嘩を吹っかけてきたときとは違い真剣に見えた。

 

「俺は最強のトレーナーを目指す。そのために俺は必ずお前に勝つ。これはそのための旅だ」

 

心臓が強く鳴った気がした。ナオキの目やその強い言葉がなんというか心に響いた気がした。

湧き上がってくるこのゾクゾクして熱くなってくる気持ち、これはきっと喜びだ。

競う相手が自分を意識して認めてくれていることがわかったから沸いてくる。

つまり『ライバル』。自分にとっての『ライバル』がいることで俺は喜んでいるんだ。

 

「……俺も負けない」

 

「……そうか、じゃあな。先に行ってるぜ」

 

後ろから来たナオキの応援団のいかついお兄さんたちやお姉さんたちに去り際に笑いかけられたり背中や肩をポンッと叩かれた。

見た目は怖いけど良い人たちなんだな。

 

ナオキはそのまま町の出口まで歩いて行った。見送りの彼の家族や友人たちもずっと声をかけ続けていた。

 

 

***

 

 

「おいあれほんとにサトシかよ」

 

「なんつーか顔つき変わったよな」

 

「ああ、いつもの馬鹿面じゃない。あれは出来るぜ」

 

「へー、意外なところに良い男っているもんなのね」

 

「あ、アネさん!?」

 

ナオキの後ろでは友人たちがサトシを口々に評価していた。

背中越しに聞こえるその声にナオキはどこか誇らしげだった。

 

 

***

 

 

「なんかいいなー」

 

次は綺麗な声が聞こえた。

リカだった。

 

彼女も両親や友人たちに出口まで見送られるようだ。

 

「ライバルってやつだよね。なんだか素敵」

 

「それならこれから旅立つリカも俺にはライバルだよ。ついでにシゲルもな」

 

あいつも一応サトシのライバルってことになってるからな。

俺にとっては本当に、ほんっとうっについでだけども!!

 

「そ、そんな、私、サトシみたいにすごいバトルとかできないから全然だよ」

 

「そんなの少しずつ身に着ければいいんだよ。そのために旅をしながらフシギダネと仲良くなっていっぱい知っていけばいいのさ。他のポケモンのこともだけどな」

 

「そう、ね……そうだよね。ありがとうサトシ!」

 

リカは笑顔で俺に礼を言ってくれた。

うんうん、やはり美少女は笑顔が一番。

 

「サトシもピカチュウも頑張ってね」

 

「ああ、リカもフシギダネも頑張れよ」

 

「うん、次会うときは今よりすごいトレーナーになってるから!」

 

そして、リカとその応援団の皆様は町の出口まで歩いて行った。

リカの友人の女の子たちが何人かがこちらを振り返った。

そこまで知り合いではないが手を振ってみよう。

 

あ、顔を逸らされた。

……俺あんまり好かれてないのか、ショック。

 

 

***

 

 

「やばい、やっばい……サトシがかっこいい」

 

「態度も紳士的でめっちゃ大人!」

 

「なんで、どうして?いつの間にあんなかっこよくなったの?」

 

「うう……こんなことならもっとお話ししとくんだった」

 

「なんか、胸がドキドキしてきた……」

 

リカは後ろの友人たちの声を聞きながら、自分の胸の高鳴りを感じていた。

そして、友人たちのサトシへの評価に一つの答えが見えた気がした。

 

(この気持ちはもしかしたら――)

 

***

 

 

『いいぞいいぞサトシ!がんばれがんばれサトシ!』

 

ご近所のおじさんおばさんチビッ子たちが俺に応援の言葉をくれた。

 

「なんだか今日のあなたはいつもより立派に見えるわ」

 

ママは感慨深そうに俺を見ていた。

 

「今日だって寝坊してパジャマのまま家を飛び出すんじゃないかって思ってたのに、ちゃんと早起きして、自分で準備して、しっかりポケモンも貰って……本当に見違えたわ」

 

ごめんなさい、ママ。今の俺はあなたの知るサトシではありません。

だましてごめんなさい。

けれど、なんとかサトシらしくがんばります。

 

「俺は超一流のポケモントレーナーになるんだ。それくらいできるよ」

 

「サトシ……怪我しないように、風邪を引かないように気を付けなさいね」

 

「うん、わかってるよ。ママ」

 

「……サトシィ!」

 

目に涙を浮かべたママは感極まったようで、俺の顔を胸に抱きしめた。

うおおお、ママの胸やっぱ大きい、俺の顔を包み込んでいる。服越しでも柔らけぇ、暖けぇ!

あ、息が、やっばい息が……

 

「もご、もがが、むうう!」

 

「あ、あらごめんなさい。つい」

 

ママはパッと両腕を離して俺を開放した。

 

「い、いや、大丈夫だよ。ママ」

 

ご馳走様です。

 

「そういえば、あなたはどんなポケモンを貰ったの?」

 

「ああ、こいつなんだけど……」

 

ボールを取り出したが、待てよ。

あのピカチュウをここで出すのは危ないか?

いや、ピカチュウを信じよう。

 

ボールからピカチュウが現れる。

 

「ピカチュウ」

 

出てきたピカチュウを俺は抱き上げる。

おお、抱っこは初めてだが、そこそこ重い、でもふかふかで気持ちいいな。

 

「こいつが俺の相棒のピカチュウだよ」

 

「まあ、可愛い子じゃない。ちっちゃくて毛並みも綺麗ね」

 

ピカチュウを見たママは色めき立った。

まるで十代の女子学生がはしゃいでいるようだ。

……この人ならまだまだ十代で通じそうだよな。

 

「でしょ?それにバトルも強いんだぜ!」

 

「まあ、いい子を貰えたのね。撫でてもいいかしら?」

 

「どうぞ」

 

「やった。こんにちはピカチュウ、サトシのママでーす」

 

「……ピカ」

 

ママがピカチュウの頭に触れようとすると、ピカチュウは目を細めて頬を帯電させる。

 

「あら?」

 

ピカチュウの反応にママは疑問の声をあげる。

 

「ああ、こいつ少し恥ずかしがり屋なんだよ」

 

「まあ、そうなの」

 

「ピカ……」

 

勝手に触ろうとしたことが気に入らないのか、帯電が大きくなる。

 

「なあピカチュウ」

 

「ピ?」

 

俺の声にピカチュウはピクッと反応し俺を見上げる。

なるべく優しい声と笑顔で話さないとな。

 

「大丈夫、この人は俺のママだよ。何も怖くないし、恥ずかしがることもないよ」

 

そう言うと納得してくれたのかよくわからないが、ピカチュウはおずおずとママを見上げる。

頬の電気はなくなっていた。

 

「うふふ、よろしくね。ピカチュウ」

 

「ピカ」

 

ママがピカチュウの頭を撫でると、ピカチュウは大人しく従った。

少々不満げな様子だが、『でんきショック』をする様子はなさそうだ。

 

 

 

ピカチュウをボールに戻すと、俺は町の出口まで歩いてきた。見送りのママやご近所さんたちも一緒だ。

 

「それじゃあ、皆さん。立派なポケモントレーナーになるため、サトシは旅立ちます」

 

「ええ、パパやグランパに負けないようにしっかりやるのよ」

 

『いいぞいいぞサトシ!がんばれがんばれサトシ!』

 

みんなが声援を送ってくれる。

サトシの記憶のせいなのか、お世話になった記憶が頭を駆け巡り、目頭が熱くなる。

誤魔化すように頭を下げる。

 

「行ってきます!」

 

そのまま振り返り、トレーナー修行の第一歩を踏み出した。

マサラタウンに、みんなに、さよならバイバイ。




憑依サトシは言動は大人ですが、冒険にワクワクして素直なのがサトシと似ているから、周りの人間にもあまり違和感になっていないという、無理矢理なご都合主義です。

それからサトシの記憶が残っているのもご都合主義です。

申し訳ないです。

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