サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題) 作:エキバン
「うおおおおお!!!」
俺、マサラタウンのサトシは町を出てしばらく経つと走り出した。
別に何かに追われているわけでも、お腹が痛いわけでもない。
言うなれば、喜びを全身で表現しているのだ。
「よっしゃああああ!!旅だ!冒険だああああああ!!!」
サトシに憑依する前の世界で、子供のころどれだけ夢を見たことか、どれほど焦がれたことか。
旅、冒険、アドベンチャー!
知らない町、知らない自然、知らない人、知らない生き物。
それらと巡り合いたいと誰もが思ったはずだ。
そんな冒険が俺の目の前に広がっている。どれだけ吐き出しても足りないくらい喜びが溢れてくる。
しばらく走ると丘に到着した。そこから見下ろすとマサラタウンが見えた。
あっという間にここまで来たのか。
サトシの記憶のおかげか、見下ろすマサラタウンに懐かしさがこみ上げてくる。
「よし、お前も出てこい」
モンスターボールから相棒を呼び出す。
「ピカチュウ」
黄色の可愛い電気ねずみのピカチュウが大地に降り立つ。
「見ろよピカチュウ、マサラタウンがもう遠いぜ。俺たち旅に出たんだぜ!」
「……ピカ」
ピカチュウはそっぽを向いた。
――お前と一緒にするな、旅をするなんて認めてない
と言った雰囲気だ。
ふむ、まだまだ先は長いかな。
「ポッポー!」
「お?」
「チュウ?」
頭上から何やら声がして見上げると、そこにいたのは鳥ポケモンのポッポだ。
ポッポは俺とピカチュウを上からじっと見つめて視線を外さない。
つまりこれは、「野生のポッポが飛び出してきた」ということか。
「ポッポー!」
ポッポは一鳴きすると、そのまま俺たちの方へ向かってきた。
この速度の攻撃は『でんこうせっか』か!
俺とピカチュウは転がりながらポッポの攻撃を避けた。
ポッポは旋回して、再び突撃してきた。
狙いはピカチュウか。
「ピカチュウ避けろ!」
「ピカ!」
俺の声にピカチュウは横に跳んで避けた。
するとポッポは翼をはためかせて突風を巻き起こした。
「『かぜおこし』だ、踏ん張れピカチュウ!」
でんきタイプのピカチュウにひこうタイプの技は効果は薄いものの、体を吹き飛ばされないようにしなければいけないな。
「ピィカァ、チュウウウ」
いきなりの攻撃で腹が立ったのか、ピカチュウはお返しとばかりに俺が指示をする前に『でんきショック』を放つ。
しかし、ポッポは容易く躱す。
「チュウウウ!チュウウウ!チュウウウウウ!」
空のポッポに向かい『でんきショック』を連発するピカチュウ。
「待て、そんなに闇雲に撃ったって当たらない!」
「ピカ?」
俺の言葉にピカチュウは攻撃を止めて、こちらを見た。
「相手は空にいるんだ。ただ攻撃しても簡単に逃げられる」
そういうとピカチュウは悔しそうにポッポを見た。
「大丈夫、俺に考えがある。またお前が勝つための手伝いをするよ」
ポッポは俺たちを観察するように空中を旋回している。
ピカチュウがでんきタイプの攻撃をするとわかったのかなかなか近づいてこない。
けれど、それでいい。
「ピカチュウ、『でんこうせっか』!」
「ピッカァ!」
ピカチュウは走り出すと最高スピードに乗り、一本の光の線のようになり空のポッポに突撃する。
ポッポもピカチュウのスピードが予想外だったのか、驚いた様子で間一髪で躱す。
ピカチュウは着地すると、空のポッポを見上げる。
ポッポはピカチュウを見ると距離を取る。
そして、翼をはためかせた。
来た!
「今だ、『でんこうせっか』!」
「ピカピカァ!」
ピカチュウは最高速度で空中で停止したポッポを捉えて突撃した。
そして、ピカチュウの一撃はポッポの体に激突した。
「ポッポォ!?」
ダメージを負い空中でふらつくポッポ。
その真下には着地したピカチュウがいる。
充分に射程距離内だぜ!
「ピカチュウ、『でんきショック』!!」
「ピィカ、チュウウウウウウ!!」
全身の帯電と共に、ピカチュウは電撃をポッポに放つ。
「ポッポォー!!?」
効果は抜群だ!!
そのままポッポは地面に落ちて、目を回した。
戦闘不能だ。
「よくやったなピカチュウ。作戦通りだな」
作戦と言っても単純なものだ。
ポッポが『かぜおこし』をするには一旦空中で停止して狙いをつけなければならない。
そこを狙っただけだ。
「ピカピカチュウ」
――すごいだろ
とでも言いたそうに胸を張る。
はは、可愛い奴め。
「やっぱりお前はすごいよ」
「ピッカ!……ピ、ピカ」
ピカチュウは俺の賞賛に笑顔で返してくれたと思ったら、ハッとなりそっぽを向いた。
「相変わらずだな、まあいいさ。まだ旅は始まったばかりだからな」
「ポッポー」
「うん?」
声のした方向を見ると先ほどのポッポが起き上がり、何処かへ飛び去ってしまった。
敵わないとわかり逃げることにしたようだな。
「よし急ぐか」
できれば夕方までにトキワシティに着くようにしたいため急がないとな。
しばらく歩いていると大事なことに気づいた。
ピカチュウをボールに戻し忘れた!
あのままどこかに逃げたかもしれん。
しまったと思い、足を止めて振り返ると、そこにはピカチュウがいた。
俺が振り返ったことに驚いたのかビクッとした反応をして俺を見ていた。
もしかして――
俺は少し考えると再び歩き出す。耳を澄ますと小さな足音が後ろから聞こえた。
そして止まって振り返る。
ピカチュウは俺の後ろにいてビクッと反応して、俺を見つめた。
しかも俺との距離が先ほど立っていた時と変わらない。
つまり――
「着いてきてくれるのか?」
「ピ!?ピカ……ピカチュ」
俺の言葉に驚いたピカチュウは目を泳がせると誤魔化すようにそっぽを向いた。
「ははは……」
少しずつだが、ピカチュウとの距離が縮まったようで嬉しかった。
「よし、行こうぜピカチュウ!」
「……」
返事はない
あくまで『そんな気はない』スタイルを貫くつもりなのだろう。
俺は小走りで道を進んだ。
後ろの足音も少し早くなった気がした。
***
ピカチュウは不思議に思っていた。
――どうして僕はこのニンゲンについて行っているのだろう。
それはピカチュウ自身にも理解できない感情だった。
――ニンゲンとは話したくない、ニンゲンには触りたくない。
――命令なんかされたくない。
けれど、今の自分はこのサトシというニンゲンの後ろを歩いている。
嫌なら逃げ出せばいいのに、どうして……
「ほらほらピカチュウ、置いてくぞ!」
サトシは振り返りピカチュウに呼びかける。
――あの目だ。このニンゲンのあの目はいったいなんなんだろう。
いつか見た夜空の星。あれらよりも強く輝いている彼の眼差しはピカチュウの心を揺らした。
彼を攻撃しようとしたときも、その強い目に息を呑んだ。
さっきのバトルも素直にサトシに従った自分が不思議でならない。
――ニンゲンの指示に従うなんて何をやってるんだ僕は
と自分を責めた。しかし、それよりも
――どうして嬉しかったんだろう
いや、それはバトルに勝利したからだ。勝てば誰でも嬉しいんだ。
そうだ、そうに決まっている。
けれど、どこか納得できない自分がいた。
嫌いなニンゲンの指示で勝ったのに本当に嬉しいのか?
――わからない。どうして僕は……
ピカチュウは答えの出ない疑問に悩みながらも、走るサトシの背中を見つめて追いかけていった。
ピカチュウの心情を入れました。
彼の一人称は「僕」で合ってるでしょうか。
それから、これは転生ではなく憑依だと指摘されました。その通りなので、近いうちに題名を変更します。