第七学区のとあるファミレス。
昼下がりの利用客が少なくなった店内で、テーブル席を陣取っている四人の少女達が、いつも通りの非常識な行為を行っていた。
店員達は遠巻きにその様子をうかがっているが、彼女達がこのファミレスでやりたい放題するのはこれが初めてのことではなく、過去に同僚が退職していった原因でもある問題児達に注意しに行くような勇敢な者は存在しなかった。
注文もせずに店外から持ち込んだコンビニ弁当を食べている、セレブな雰囲気の少女。
「二人の
「他の暗部組織と共同任務とか。結局、いつものめんどーな仕事って訳よ」
それに反応した金髪碧眼の少女。フレンダ=セイヴェルンがつまらなそうに言いながら、サバの缶詰を手のひらで弄んだ。
彼女の前のテーブルには、どう考えても食事には使用しない物騒なツールが大量に散らばっている。
「しかも、侵入者達の詮索を禁じていたり、こちらからの超襲撃が禁じられていたり、本当に妙な依頼ですが」
十二歳くらいに見える少女。
「【
「結局、銃で監視カメラを破壊してるなら無能力者なんじゃないの?」
「遠目から目撃した職員がギリギリで認識できるくらいの移動速度だったらしいし、能力者なのは確定ね。おそらく【肉体強化】ってところかしら」
「どちらの襲撃者に当たるかはわかりませんが、個人的には【肉体強化】の方がいいですね。私の【
昼下がりのファミレスで物騒な暗部の話をする彼女達。
彼女達に今回、与えられた任務は「施設を襲撃する者の撃退」。
襲撃者達は二人組らしく、それぞれが別々の施設を同時刻に襲撃しているらしい。
標的にされている二つの施設の内、片方は別の暗部組織が防衛するそうなので、もう片方の施設を防衛するのが今回の依頼内容だった。
「どっちにしても結局、待って嵌めるだけって訳よ」
「私と絹旗で襲撃者に当たるから、フレンダは滝壺の護衛も頼むわね」
「オッケー。私に任せといてって訳」
「だそうですが、滝壺さんはそれで超問題ありませんか?」
三人が会話している間、ずっと黙っていた少女に絹旗が声をかけた。
何もない場所をぼんやりと眺めていた、ジャージ服の少女。
「……北北西から信号がきてる」
彼女達の所属する組織名は【アイテム】。
【メンバー】や【スクール】と同格の学園都市の闇の狩人である。
御坂と一時的な協力関係を結んだ二日後の昼。
上層部が関与している疑いがある以上、盗聴される可能性のある携帯端末で密談をするべきではない。
【
よって、二人はあれから借り続けているホテルの部屋に集合して、襲撃の結果を報告することになっていた。
久遠がその部屋に入って行くと、ベッドにマップを広げて眺めていた御坂が、振り向きもせずに話しかけてくる。
「……あと二基ね」
「結果報告のために来てるんだからさぁ。一応は結果を聞いてこいよ」
「なによ、あれだけ大口叩いておいて失敗したワケ?」
「いや、二基とも破壊したよ。特に妨害とかもなし」
「こっちも問題はなかったわ。このまますんなり行けばいいけど」
久遠と御坂の決めた襲撃方法は単純で、二人で同時刻に別々の施設を襲撃するだけ。昨夜だけで四基を破壊したので、関連施設は残り二基。
こちらにゆっくりと振り向いてきた御坂は、相変わらず疲れきったような表情をしていた。
彼女が差し出してきたマップを見ながら、どうでもよさそうに久遠が言う。
「残りは『脳神経応用分析所』と『病理解析研究所』だっけ?」
「えぇ、アンタはどっちがいい?」
「それなんだけど、俺の【
「時間操作は一発でアンタだって特定されるんだから当然だけど、それがどうかしたの?」
「とりあえずはレベル3、4程度の【速度操作】に偽装してるつもりなんだけどさ。こいつの弾があと四発しか残ってなくてな」
そう言いながら、御坂に拳銃を見せつける。
最初に御坂と一緒に襲撃した施設で見つけた物で、能力の隠蔽に使えると思って拝借してきたのだ。
主に威嚇や監視カメラの破壊に使用していたが、次の襲撃で弾が足りなくなりそうだった。
人と監視カメラさえ排除すれば、普段通りの能力行使も解禁できるのだが。
「監視カメラが少ない方にして欲しいんだよ。別に拳銃じゃなくても破壊はできるけど、高所にあるカメラを破壊するのがめんどくさいからさ」
「あ、そっか。アンタはわからないのね」
「……なにが?」
「施設内は外部との通信は遮断されてるのよ。私のサイバーテロを警戒してるんだと思う」
「なんだよ、じゃあ道中の監視カメラは無視して良かったのか」
久遠はほとんど加速しながら移動しているので、監視カメラには身体がブレてまともに映らない。
外部から録画データを解析されるのを警戒していたが、施設内が外部との通信を行っていないなら最後に施設内のデータを破壊するだけでいい。
昨夜、二基とも道中の監視カメラを破壊しながら遂行したが、全く必要のない行動だったようだ。
「……なぁ、二人で協力してるんだからさ。ちゃんと情報共有はしてくれよ」
「私のサイバーテロが対策されてることは説明してたでしょ。むしろなんで気づかないのよ」
「そんな原始的な対策してるなんて思わないだろうが」
「聞いてこなかったアンタが悪いわね」
「いや、お前が情報交換の時に説明するべきだった」
どうやら御坂と合流した時にはわかっていたことらしい。
普段は馬場や下部組織の人間がやるような細かい仕事をさせられたのに、久遠の苦情は受け付けて貰えなかった。
お互いに責任を押しつけて険悪になったところで、御坂が妙なことを言いだす。
「……それもアンタが悪いのよ」
「はぁ?」
まるで全てこちらが悪いというような発言に、ついイラついたような口調になってしまう。
久遠が御坂を睨みつけていると、ふてくされた彼女はこちらを責めるように言い放った。
「アンタが私を弄ぶようなこと言うから悪いのよっ」
一瞬、何を言ってるのかわからなかったが、御坂は何かを勘違いしているらしい。
久遠が弄ぶのは容姿とスタイルのいい女の子の身体だけなのだ。
深く溜め息をついてから、久遠は反論することにした。
「……意味がわかんないんだけど」
「精神的に弱ってた私を言葉責めしたじゃない」
「俺は事実しか言ってなかっただろ」
「じゃあ、アレはなによっ!!能力で脅してきたわよねアンタッ!!」
「わかった、わかった。俺が悪かったから」
御坂が疲れているくせにヒートアップしてきたので、仕方なく宥めることになってしまう。
こうしてよく見ると御坂は目元に隈ができているし、あまり眠れてないのかもしれない。
この後の展開は読めないが、施設の襲撃はとりあえず今晩でケリがつく。せっかく手伝っているのだ、襲撃の失敗は許されない。
御坂に休むように言い聞かせて。久遠はホテルの部屋をあとにした。
計画の関連施設『病理解析研究所』。
夜になって、久遠はその研究所へ侵入していた。
残り二つの施設は結局どちらでもよかったので、久遠が気まぐれで行ったコイントスでこちらの施設が選ばれたのだ。
偽装のために抑えた時間加速を行使して、今夜は監視カメラも気にせずにひたすら進んでいく。
安物のパーカーのフードを深くかぶり、慣れない伊達メガネをかけた久遠は、ある程度進んだところで機材の物陰に隠れて周囲を確認する。
今のところは異常はない。危険は『未来』が教えてくれるのだから、確認する意味もないのかもしれないが。
「最後まで妨害がないとは思えないけどな」
加速した世界で誰にも聞きとれない呟きを一つこぼして、そのまま走りだした。
そして階段をかけ上がり、太い配管に囲まれた通路のような区画に入った所で。
『未来』からの警告。
これは損傷ではなくて、意識を飛ばされたような感覚だ。麻酔銃でも撃ってくる奴がいるのだろうか。
久遠は周囲を時間停止して、立ち止まってみることにした。【速度操作】でも、飛び道具を防ぐのは不自然ではないはず。
そこらの物陰から出てくる奴がいたら逆に攻撃してやろうと拳銃を取り出すが、いくら待っても出てこない。
その隙に前と後ろの隔壁が落下するような速度で降りてきて、久遠はその区画に閉じこめられてしまった。
「……やられた。そのパターンか」
配管から空気が漏れるような音。『未来』からの警告は催眠ガスのことだったらしい。
昨晩の施設にも防犯装置やセンサーの類はあったが、こんな大がかりなトラップなんてなかった。
配管を改造して催眠ガスを仕込むなんて、素人がやるような行動ではない。
「この手口は同業者っぽいな」
『不殺』の任務で、馬場や博士がやりそうな手口だ。仮に同業者だとして、どこの組織の可能性が高いか。
垣根には弓箭を通して連絡してあるので【スクール】なら事前に教えて貰えるはず。
戦闘要員の久遠に依頼がされていないのだから【メンバー】はありえない。
【ブロック】は外部の敵対者を相手する組織なので、対能力者戦に駆り出されることはないだろう。
となると。
「消去法で【アイテム】が怪しいか」
垣根の話では【アイテム】は女だけで結成されたチームで、
「能力隠蔽したまま【第五位】と戦闘するのは面倒だな。口封じに殺してもいいけど、こんなところで上層部に目をつけられるのも馬鹿らしいし」
御坂にとっては決死の作戦でも、久遠にとっては暇な時間を使った『遅延行為』でしかないのだ。
学園都市の貴重な
催眠ガスが充満していく区画内を加速して、出口にあたる隔壁のところまで到着する。
昨晩までは明らかにレベル4相当の能力行使は避けてきたが、もう解禁していいだろう。
もし、本当に【アイテム】が出動してきたのなら、さっさと施設を破壊して撤退した方がいい。
隔壁を時間加速で持ち上げて外に出る。通路のような区画が終わり、そこは開けた部屋のような区画になっているようで、中で二人の少女が待ち構えていた。
黒髪ロングのセーラー服の少女と、左頬に髑髏の刺青を入れたファンシーな服装の少女。
久遠が黙って二人を見ていると、セーラー服の少女が男勝りな口調で話しかけてくる。
「オマエ、いいパワーしてんじゃねーか。あの隔壁、結構な重さありそうだったぜ」
「リーダーが言ってた通りだったねー。【肉体強化】ならアレも突破するかもしれないってさ」
ファンシーな服装の少女も同意するような発言をしてきた。なんだかやたらとフレンドリーな雰囲気の二人。
仮にこの二人が【アイテム】だとすると、『リーダー』とやらが【第五位】のことなのだろうか。それなら【第五位】を刺激しないように、仲間は気絶させる程度で済ませておいた方がいいかもしれない。
「お前ら戦闘する気あるの?ないなら見逃してやるけど」
「あるに決まってんじゃん、じゃないと任務失敗になっちゃうもんね」
「オレらの任務はオマエの撃退だからな。悪いが、逃がさねーぜッ」
言い放った瞬間、セーラー女がナイフを持って滑るように突っ込んできた。
『未来』からの警告は時間停止で消える。それならカウンターで適当に気絶させるか。
セーラー女のナイフが停止の障壁に阻まれ弾かれていく。
そして、久遠のカウンターの拳はセーラー女の身体で
「なんだ摩擦を操作する能力かよ。めんどくさいなぁ」
「チッ、オマエの身体固すぎんだろーがッ」
時間停止を解除して語りかけると、久遠から距離をとったセーラー女が手を押さえながら悪態をついてきた。
そして、再び未来からの警告。何かに締め付けられるような感覚。
ファンシー女が手に持っている傘が伸びてきて、久遠を拘束しようとするが時間停止で完全に防ぎきる。停止の周囲に残った、
どうやらファンシー女の方は『紙を操作する能力』のようだ。
「ぼ、ボクの紙が効かないっ、なんかにガードされたッ」
「殺しはしないけど、ちょっと動けなくなって貰うぜ」
久遠は言いながら加速でセーラー女に近づいて、効果範囲に入った瞬間に能力を行使する。彼女の『摩擦を操る能力』の効果対象である『摩擦係数』の一部を部分加速。
加速状態の【
まずは、一人目。
「せ、清ヶが、やられちゃった」
「次はファンシーちゃんの番だな。抵抗しないなら優しくしてやるけど」
壁に叩きつけられて気絶しているセーラー女を見て、呆然としているファンシー女に語りかける。
貧乳のセーラー女と違って、ファンシー女はよくみると久遠の好みのタイプだった。この子は優しくしてあげてもいい。
久遠が近づいて行くとファンシー女は後退りをして距離を取ろうとしていたようだったが、やがて緊張の糸が切れてしまったのか。
「あ、あっ、うあアァァーーーーーーーーッ」
「……抵抗しないならって言ったのに」
紙を装甲のように纏って、大声で叫びながら突撃してきたファンシー女。
久遠は時間加速して紙の装甲を再び引きちぎり、彼女の姿を見て思わずツッコミをいれてしまう。
「いや、なんで全裸になってんだよ。お前」
ファンシーなあの服は、能力の紙で作っていたのだろうか。
そんな考察をしながら加速状態でファンシー女の顎先を軽く撫でる。
気を失って倒れそうになる全裸の彼女を受け止めて、床に優しく寝かせてあげることにした。
その後、久遠は値踏みするように黙って彼女の裸体を眺めていたが、やがて未練を振り払うようにゆっくりと立ち上がる。
「……名残惜しいけど、そろそろ『リーダー』を探しにいかないとな」
そして久遠が区画を歩き始めた瞬間、またしても『未来』からの警告。今度は何故か凍結するみたいな感覚。
時間停止で消えたので、無視してそのまま歩き続ける。
しばらくすると、背後の物陰から何かを投げつけられた。
「や、やった?」
「いや、やってないよ」
すぐに加速して、投げた奴の背後に回って返事をしてやる。
キャスケットをかぶった女。そいつの首筋を鷲掴みにしながら、久遠は気になったことを質問してみることにした。
部分停止でキャスケット女の身体を固定したあと、耳元でそっと囁く。
「俺はさぁ、人間の首くらいは簡単に引きちぎれるんだよ」
「え、あっ、ッ、やだッ」
「質問に答えるなら気絶するだけで許してやるよ。お前が組織の『リーダー』か?」
「ち、違う」
「じゃあ、『リーダー』の序列は?」
「え?な、なに、が?」
「……ありがと、もう寝てていいよ」
時間加速して顎先を撫でて気絶させる。
しかし、構成員が三人もやられたのに【第五位】の介入がないということは、こいつらは【アイテム】ではないのだろうか。
キャスケット女も、久遠の質問の意味がわかってないようだったし。
こちらの素性がバレる訳にもいかないから、直接【アイテム】かどうかは聞かなかったが。
久遠は黙々と思考しながら、目的地まで加速して走りだした。
燃え盛る建造物。かつての『病理解析研究所』だったもの。
久遠は自分の能力で引き起こした火災を、離れたビルの屋上から眺めていた。
学園都市の夜の街に輝くその火災は消火活動がとても間に合いそうもない酷い状態で、夜中だというのに大量の野次馬が集まってきてしまっている。
【
久遠の身体や周囲に部分操作する分には特に制限はないが、触れた対象に部分操作する場合は少しだけ制限があった。
触れた対象に『部分停止』するのは演算が面倒で、全体停止より強度が下がるし。
触れた生物に『部分逆行』すると体内時間がズレてしまって、対象が死に至る場合もある。
そして触れた対象に『部分加速』する場合は、使い道がたったの一つしか存在しない。
何かを壊すことにしか使えない、部分操作の中で最も【
今夜はその能力によって設備の部分的な老朽化を引き起こし、研究施設を放火したという訳だった。
もう破壊状況の確認は十分だろう。今夜の襲撃はこれで終わりだ。
久遠がそんなことを考えていると、いつの間にか隣に来ていた少女に話しかけられた。
「……すまない。敵である僕たちを運んで貰って、感謝する」
「死なれても迷惑なだけだよ。事態が大きくなるからな」
口を塞ぐようなデザインが描かれたマスクをつけた小柄な少女。
この少女が今回、研究施設に雇われた組織の『リーダー』だそうだ。
目的地で待ち受けていたこのマスクの少女は戦闘要員ではなかったらしく、久遠に見つかるとあっさりと降伏してきた。
燃え盛る施設から仲間を助ける条件として聞き出した情報によると『
全く聞いたことのない名前だったが、久遠は学園都市の暗部事情に詳しくないのでそんなものなのかもしれない。
マスクの少女は先ほどからずっと落ち込んでいるようで、今は屋上の床に転がる仲間の三人を見つめて俯いていた。
「……失敗してしまった」
「あんまり気にすんなよ。お前ら結構強かったしさ」
マスクの少女の呟きが聞こえてきたので、無意識に慰めるような発言をしてしまう。
失敗させた本人に言われてもいい気はしないだろうが、実際こいつらは暗部の中でも優秀な方だろう。
セーラー女とファンシー女なんかは、馬場や査楽より優秀そうに思えるくらいだ。
久遠に優しい言葉をかけられたからか、マスクの少女はたまっていた愚痴をこぼしてくる。
「うぅッ、想定外すぎる。【発電能力】でも【肉体強化】でも対応できる配置だったのにッ」
「よく頑張ったな。大丈夫、俺はお前の味方だからさ」
軽く頭を撫でてやるが、何故か涙目で睨まれてしまった。
久遠はやれやれといった感じの動作をとりながら、頭から手を離す。
マスクの少女の話によると、御坂の襲撃している施設にも別の暗部組織が配置されているらしい。
一応、様子を見に行くべきだろう。あちらに【アイテム】が配置されている可能性もあるし。
まだ涙目で睨んできているマスクの少女に別れを告げて。
彼女から見えないところまで来たのを確認すると、時間加速して空を走っていく。
「さて、御坂はどうなってるかな」
久遠は加速した世界で、誰にも聞き取れない呟きをこぼした。
自分はとある科学の一方通行を読んでないので、スカベンジャーの面々に違和感があるかもしれません。
おかしいところがあったら教えて下さると助かります。