とある科学の歪曲時計   作:割り箸戦隊

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第13話

 

そこはもはや『施設』ではなく『施設だった場所』と呼んだほうが正確かもしれない。

麦野の『ビーム』を何度も受けて、施設内の壁や床は大穴だらけ。さらには久遠の『部分加速』で、地下から火災まで発生している始末。

そんな倒壊寸前の建物の中で、麦野沈利は勝ち誇るように笑い続けていた。

 

 

「ぷっ。くははッ、アナタがあの【第四位】ねぇ」

 

 

麦野の放射する『ビーム』の正体は、久遠の時間停止に接触している間に逆算が終わっている。

原子崩し(メルトダウナー)】は不安定な状態の電子を操作する能力。

麦野が使用してきたあの『カード』は、おそらく電子を拡散させる性質を持っていたのだろう。

 

 

「どんなヤツなのか、ずーっと気になってたのよ」

 

 

麦野は何も理解していないようだが、【原子崩し(メルトダウナー)】が【歪曲時計(ワールドクロック)】に勝利する可能性など万に一つも存在しない。

先ほど行った逆算の結果から、すでに二人の決着はついてしまっている。

このまま戦闘を続行しても、久遠に敗北はない。しかし、事態はそんなに簡単な話でもなかった。

 

 

「アナタは大好きな【第三位】を助けようとしてるみたいだけど、それはちょーっと許せないのよねぇ」

 

 

『時間逆行』で麦野の記憶を奪ったところで意味はないだろう。

久遠の性別や行使してきた能力。それは施設の職員は勿論、【屍喰部隊(スカベンジャー)】や【アイテム】の連中にも知られているのだ。

それに加えて超能力者(レベル5)に勝利して記憶を奪ってしまえば、きっと久遠永聖まで辿り着かれる。それが両立できる能力は、時間操作の【歪曲時計(ワールドクロック)】だけだ。

 

かといって、麦野を殺害するのも問題がある。

上層部が刺客として送り込んだ超能力者(レベル5)を消してしまえば、『反逆者』への警戒は最大のものになってしまうだろう。

それに個人の特定こそ避けられるが、超能力者(レベル5)を殺害できるような能力者なんて限られている。久遠も御坂も容疑者として疑われるのは間違いない。

 

 

 

「……だから、あのクソガキを先にブチ殺してやるよッ!!」

 

 

 

御坂のいる方向に放たれた原子崩し(メルトダウナー)。時間加速で正面に回り込み、時間停止で問題なく受け止める。

正体を隠す意味はもうなくなってしまった。パーカーのフードをゆっくりと外して、伊達メガネを雑に投げ捨てる。

そして久遠の移動の余波だけで壁に叩きつけられて、無様に地面に膝をついた麦野を冷めた瞳で見下した。

 

 

「お前は『時間』には逆らえないよ。【原子崩し(メルトダウナー)】なんかじゃ勝負にすらならないからな」

「テメェ、ッ」

「それにしても困ったな。御坂だけならともかく、俺まで身元がバレちまうなんて」

「【歪曲時計(ワールドクロック)】ッ!!」

 

 

叫びながら放たれる原子崩し(メルトダウナー)も時間停止が当然のように完封する。

頭から血を流して激昂する麦野。次々と連射される原子崩し(メルトダウナー)を正面から眺めながら、久遠は黙々と考える。

 

こいつを殺さずに、久遠の正体を隠す方法はないだろうか。

そして、方法がないのなら『逆行』と『殺害』。どちらを選ぶべきか。

 

 

「スカしてんじゃねえぞッ!!テメェはこれからグロテスクなオブジェに変えてやるんだからよォ!!」

 

 

麦野の声は時間停止に阻まれ届かない。

口の動きでなんとなくはわかったが、イライラしているのは久遠も同じだ。

こいつのせいで、時間を無駄に浪費させられている。

ひたすら原子崩し(メルトダウナー)を放射しながら何かを叫ぶ麦野の姿に、やがて久遠は鋭い舌打ちをして。

 

 

 

「ごちゃごちゃうるせぇんだよッ!!」

 

 

 

我慢の限界を迎えた久遠が時間加速して蹴り飛ばすと、麦野はサッカーボールのように吹き飛んでいく。

壁に再び叩きつけられた麦野に向かって歩きながら、今度は久遠が怒鳴り散らした。

 

 

「お前が誰を怒らせたのか、身体に直接教えてやるからよぉ!!」

「く、クソ、がッ」

 

 

こいつがどうなろうと知ったことか。死んでさえいなければ、時間逆行は行使できるのだ。

反撃に放射される原子崩し(メルトダウナー)なんて障害にすらならない。雑に何度も麦野を蹴り飛ばして、辿り着いたのは袋小路。

 

 

「おいアバズレ、さっきまでの威勢はどうしたんだよッ!!」

 

 

死ぬ寸前まで痛めつけてやる。あとのことは、あとで考えればいい。

床に這いつくばる麦野の細い手に、かぶせるように右足をのせる。

 

 

「手足から順番に潰していってやるよ。絶望しながら死んでいけ、クズが!!」

「あ、ぐっ」

 

 

時間加速で踏みにじり、苦悶の声をあげる麦野を嘲笑っていた時に。

 

『未来』からの警告。

 

歪曲時計(ワールドクロック)】が暴走するかのような、久遠にとって初めての感覚。

反射的に周囲に停止をかけるが、『未来』に変化はない。

そもそも、この警告の原因はなんなのだろう。突発的な能力暴走なのか、それとも能力制御に失敗しているのか。

 

その身に宿る能力(チカラ)が強大であるほど、暴走の危険(リスク)は大きい。

 

久遠は冷静に能力演算を見直して。『未来』の観測を続ける。

 

 

 

そして、それが完全に失態だった。

 

 

 

「なに、ッ」

 

 

 

久遠のAIM拡散力場へ、外部からの干渉。

干渉されて暴走しかける【歪曲時計(ワールドクロック)】を制御しながら、即座にAlM拡散力場を停止する。

『過去』『現在』『未来』の観測を止めたことで、能力の一部が行使不能に陥ってしまった。

 

 

「クソがッ」

 

 

慌てて拳銃を取り出す。今夜の襲撃で威嚇に使用したので、残りの弾は三発。

なんらかの能力を使って干渉してきた奴を探すために、周囲を素早く見渡した。

同じフロアには見当たらない。しばらく探して、久遠の足元の付近を見て発見する。

麦野が破壊した床の穴。その先の何階も下のエリアにいたのは、【アイテム】のジャージ女。

下部組織らしき男の肩を借りて、戦闘不能のはずだった彼女はこちらにじっと視線を向けていた。

 

 

 

「ッ、ハははッ」

 

 

 

目の前で転がっていた麦野が潰れた左手を庇いながら起き上がってくる。

能力が暴走しかけている今の状態で原子崩し(メルトダウナー)を放射されるのは面倒だ。

現在の久遠は『未来』からの警告がない。『過去』と『現在』が把握できないから、再生の部分逆行も使用不可。

そして、『調整』が終わるまでは同時に複数の能力行使はできない。複雑な演算を必要とする能力の使用は暴走を引き起こす恐れがある。

いや違うか。今はAIM拡散力場に停止を使用しているから、時間停止しか行使できない。

 

 

「……めんどくせぇなぁ」

 

 

麦野に原子崩し(メルトダウナー)を放射される前に拳銃で撃ち抜こうとして、あちらに先手をとられた。

時間加速が使えないから、どうしても後手に回ってしまう。

 

 

「チッ」

「ぎゃははははははははははッ!!」

 

 

なんとか時間停止で防げたが、今の状態でどれだけ耐えられるかわからない。

しかし撤退するにしても、加速が使用できない状態で逃げ切れるだろうか。

ジリジリと後ろにさがりながら、麦野から距離をとる。

 

 

「オイオイッ、逃げてんじゃないわよッ!!」

 

 

とりあえず麦野の視線から逃れなくては。

あちらの負傷もかなりのものだ。追いかけてくる速度自体は大したことない。

 

 

「今からテメェにヤられた分、兆倍にして返してやるんだからよォ!!」

 

 

通路の角を曲がり、走りながら考える。

あのジャージ女の能力。あれは対象を目視していないと発動できないタイプなのだろうか。

目視せずに遠隔からAlM拡散力場に干渉できるなら、あの場所にいた意味がないはずだ。いや、ロックオンするために目視が必要なだけで、干渉は遠隔でも可能なのかもしれない。

AlM拡散力場の時間停止を解除するか否か。それ次第で久遠の行動は変わってくる。

試してみるか。干渉が継続しているならすぐに再度停止すればいい。

 

そして、久遠が時間停止を解除した瞬間。『未来』からの警告。

 

 

 

「アバズレッ!!」

 

 

 

例の『カード』を使用して、拡散された原子崩し(メルトダウナー)

時間停止でそれを防ぎながら、AIM拡散力場の調子を確認していく。

ジャージ女の干渉はない。遠隔干渉は不可能なのか、いや。限界まで疲弊しているようだったし、彼女はもう能力行使できない状態なのかもしれない。

ともかくAlM拡散力場が復活して、時間加速も解禁された。

さっそく時間加速して通路を走り抜け、御坂のいる場所へ向かう。

もう『カード』は使いきったのか、麦野から放射されるのは適当に乱射される原子崩し(メルトダウナー)だけだ。

 

 

「御坂ッ」

 

 

再会した御坂は立ち上がることができる程度には回復していて、壁に手をつきながらヨロヨロと移動していた。

周囲の壁の様子から察するに、流れ弾の原子崩し(メルトダウナー)は能力でそらして防いでいたらしい。

 

 

「ごめん、私、が」

「あとで聞くから、とりあえず掴まってろ」

 

 

肩に御坂を乗せて、壁の穴を飛び出す。

深夜の学園都市の街を、時間停止した足場を歩いて移動していく。

久遠の【歪曲時計(ワールドクロック)】は乱されたままだ、今は単体の能力行使しかできない。

女の子とはいえ人間一人を抱えながらの移動は嫌になるほどゆっくりで、近くのビルの屋上にやっとの思いで到着する。

御坂を屋上の床に座らせて、久遠は拳銃を施設に向けた。

 

 

「……なにを、するつもり?」

「俺もあの女に身元がバレたんだよ。だから口封じだ」

 

 

加速世界の拳銃から放たれた三発の弾丸が施設を蹂躙していく。

弾を撃ちきった拳銃も加速して施設に投げ捨てて、ついに完全に崩壊していく施設を睨みつけた。

 

 

「これで死んでくれるといいんだけど」

 

 

最後に忌々しげに吐き捨てて、ようやく今夜の襲撃は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼過ぎ。御坂が借りているホテルの一室。

すっかり見慣れてしまったその部屋。久遠は備品の椅子に座って、昨晩『調整』した【歪曲時計(ワールドクロック)】の確認を行っていた。

大抵の能力者達は専用の機材を使用して行う能力の『調整』だが、自身のAlM拡散力場で『過去』の記録を参照できる久遠には必要ない。

ゆっくりと『過去』と照らし合わせながら【歪曲時計(ワールドクロック)】の確認作業を進めていく。

 

それにしても、昨夜は完全に不覚をとられてしまった。

他人のAIM拡散力場に直接干渉してくる能力者。【アイテム】のジャージ女。

強力な能力者であるほど、能力行使は複雑な演算と制御を要する。そして、その制御を乱すことができる彼女の能力。

あの能力は『格上キラー』といっても過言ではない。単純な戦闘能力はスキルアウトにも劣るかもしれないが、高位能力者にとっては最悪の相性といえる相手だ。

 

 

「もう、上層部の連中にはバレてると考えて行動するべきだろうな」

 

 

仮に昨夜の施設崩壊に巻き込まれて麦野が死んでいたとしても、超能力者(レベル5)を相手にあれだけ派手に暴れたのだ。同じ超能力者(レベル5)は八人しかいないのだから、最低でも久遠達は容疑者になっているはず。

上層部の連中がレベル4の上位に位置する奴らも疑ってくれると助かるのだが。

 

そして麦野が生きていた場合は、もうすでに報告されているだろう。

久遠と御坂。超能力者(レベル5)の二人をいきなり始末しようとすることはないと思うが、徹底した上層部の監視が行われるのは間違いない。

人質という名の『首輪』。御坂なんかはそれだけで逆らえなくなるだろうし、久遠も平穏な今の生活を捨てて、反逆するためだけに生きるつもりはない。

 

しばらくは垣根とも連絡しない方がいい。いや、すでに久遠が見限られている可能性もあるか。

今できることは、ただただ大人しくすること。そして今回の襲撃の結果を確認することだけだ。

 

 

「……とりあえずは布束の報告待ちか」

 

 

ギョロ目の女。布束砥信。

アイツによると『絶対能力進化計画』は他の機関に引き継ぐ動きがあったらしいが、それがどうなったのか。

引き継ぎを失敗させることができたのなら、実験の再開までに結構な時間を要するはずだ。

 

そうして久遠が考えている内に、御坂が寝ているベッドから物音が聞こえてくる。

御坂は昨晩の帰りに疲れきって眠ってしまい、ここまで久遠が運んできたのだ。常盤台の寮に運ぶ訳にもいかなかったので、拠点であるこのホテルのベッドまで。

ホテルに入る時に受付のお姉さんに疑わしい目で見られていたので、警備員に通報とかされていないかちょっと心配なのだが。

 

ともかく、誰にも声が届かない。そんな停止した空間に慣れたせいで独り言が多いのは久遠の欠点の一つ。どうやらそれのせいで彼女を起こしてしまったらしい。

 

 

「んっ、ぁ、え?」

「悪い。起こしちゃったみたいだな」

「ここ、そっか。あのあと」

 

 

寝惚けている様子の御坂をしばらく眺めていた久遠だったが、ふと何かを思いついたように立ち上がり、備え付けの電子ポットに向かって歩いていく。寝起きの彼女に飲み物を用意してやることにしたのだ。安物のティーパックの紅茶しかなかったが、ないよりはマシのはず。

こんな真夏に飲むようなものではないと思うかもしれないが、完璧に一定の温度に保たれた学園都市製のホテルに季節感なんてものは存在しない。そんな無機質な風情のなさが、科学の発展し過ぎた学園都市なのだ。

ベッドに腰かける御坂が手の届く場所。テーブルの上に湯気のたつ紅茶を置いて、久遠も近くの椅子に座る。これで二人で向かい合うような位置になった。

 

 

「安物みたいだけど。紅茶置いとくよ」

「ん、ありがと」

「あと、身体が痛むならそこにある塗り薬を使ってくれ。手足はともかく、服の中は触ってないから」

「……うん」

 

 

塗り薬は昨晩近くのコンビニで購入してきた物。学園都市製なので効能は確かなはずだが、服の中まで塗ったら御坂がキレそうなのでやめておいたのだ。

御坂は塗り薬を手に取ると、おぼつかない足取りで洗面所に向かっていった。しばらくするとシャワーの音も聞こえてきたので、それなりに時間がかかるかもしれない。

 

御坂との今後の関係をどうするか。昨晩は久遠も能力を『調整』してから眠ってしまったので、それについて考える時間がなかった。

今回の協力関係でわかったことだが、御坂の【超電磁砲(レールガン)】は極めて優秀な能力だ。

あらゆる機密情報が電子化されている学園都市において、御坂のハッキング能力は有能過ぎるくらいだし、戦闘能力も悪くない。

戦闘特化の【歪曲時計(ワールドクロック)】とサポートもこなせる【超電磁砲(レールガン)】は非常に強力な組み合わせだ。

垣根のように手下を持たない久遠にとって、是非とも味方に引き込みたい人材。

協力とか、同盟とかではなく、できれば久遠の思うままに使える手駒にしたい。

『絶対能力進化計画』の凍結に対する並々ならぬ執着さえなければ。いや、それも説得できれば問題はないか。

 

シャワーの音が止まり、脱衣場の方で物音が聞こえてくる。

とりあえずは優しく接してやるか。女なんてどれも一緒だし。自分が追いつめられている時に優しくされただけで、すべての価値観が変わってしまうような。そんな単純な生き物だ。

 

 

「ごめん。身体が汚れてたから、薬を塗る前にシャワー浴びてきた」

「いや、気にしなくていいよ。怪我の具合は大丈夫?」

「うん。まだお腹がちょっと痛いけど」

「心配なら病院行くか?行くなら付き添うけど」

「ううん、大丈夫。それより実験がどうなったかわかる?私、あの施設の破壊ができなかったのよ」

「置いてあった機材は俺が潰したよ。建物も完全に崩壊したしな」

 

 

濡れた髪のまま、制服姿に着替えて戻ってきた御坂は『絶対能力進化計画』についてさっそく質問してきた。

久遠の即答を聞いて、御坂は安心したように一息ついている。

実験が引き継がれる可能性について話す気はない。このまま突き進んだら御坂は死ぬまで止まらなそうだし。

 

 

「……これで完全に実験を潰せたの?あの雇われの奴らが上層部の刺客だったってことよね?」

「まぁ、こんな早急に超能力者(レベル5)を雇うなんて、一般企業にできることじゃないだろうな」

「そうよね。でも、なんとかなったのよね。まだやらないといけないことは沢山あるけど」

 

 

御坂は久々の明るい表情を見せながら、ぬるくなった紅茶に口をつけた。

他にも暗くなるような話はいくらでもあるが、何故か彼女の嬉しそうな顔を曇らせたくなくて。今は何も言わないことに決める。

久遠はいつもの調子を意識しながら、緩い感じで話しかけることにした。

 

 

「その、『やらないといけないこと』なんだけどさぁ」

「なによ、急にヘラヘラして」

「その小学生みたいなデザインの携帯に、半端ない回数の着信があったんだけど。いったい誰からなんだろうな」

 

 

久遠が指差した先にある御坂の携帯端末。テーブルの上に置かれた、カエルみたいなデザインのそれ。

御坂は一気に血の気が失せたような表情になり、こちらに恐る恐る尋ねてきた。

 

 

「い、今、何時なの?」

「昼過ぎだな。お嬢様の常盤台生が昼帰りとか許されるのか?」

「ちょ、ヤバいっ、黒子っ、黒子に確認しないとっ!!」

「御坂は慌て方がおもしろいなぁ」

 

 

わたわたと白井に連絡を取り始める御坂の姿に爆笑して、久遠は自分で用意した紅茶を飲み干した。

今日はもう解散でいいだろう。結局、布束から連絡もこなかったし。

しばらくして白井との通話が終わったらしい御坂が、久遠を睨みつけて噛みついてくる。

 

 

「アンタ、大声で笑いすぎよっ!!黒子に声を聞かれたじゃないッ!!」

「白井、なんて言ってた?」

「男と一緒だったって思われたから、っ、もうッ、全部アンタのせいよッ!!」

「あー、はいはい。俺も反省してるしさ、許してやってくれよ」

「あ、アンタねぇッ」

 

 

狂犬のように吠えだした御坂を適当に宥めて。出口に向かって歩きだす。

このホテルに来るのもおそらく最後になるが、それなりにいい部屋だったな。なんて考えながら。

久遠が帰ろうとしていることに、ようやく御坂も気がついたらしい。吠えるのを急に中断した彼女は、小さな声で呟いてきた。

 

 

 

「……ありがと」

 

 

 

聞き取れてしまったので振り返ると、真っ赤な顔をした御坂と目が合った。

きっと、久遠に聞かせるつもりはなかったのだろう。

 

 

 

 

 

「ちゃんと死ぬまで感謝するんだぞ」

 

 

 

 

 

久遠が笑顔で返事をすると、御坂は再び吠え始めた。

 

 

 

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