とある科学の歪曲時計   作:割り箸戦隊

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第16話

 

久遠が無造作に放り投げたアサルトライフル。

それが遠く離れた地面に落ちるより前に、二人の接触は一瞬で終了した。

 

 

「チッ、まだ無理なのか」

 

 

久遠は時間加速で一方通行から距離をとり、忌々しそうに舌打ちをする。

ヤツの『反射』を停止させて掌握してやるつもりだったが、【歪曲時計(ワールドクロック)】で加速した演算処理能力でも時間操作の対象にすることができなかった。

眉をひそめる久遠を見ながら、一方通行がつまらなそうに話しかけてくる。

 

 

「何でオマエが俺の邪魔をすンのか考えてたンだけどよ。確か【第四位】は実験の資料に能力が載ってた気がすンだよなァ」

 

 

完全にこちらをナメている態度の一方通行。

今すぐ黙らせてやりたいが、このまま攻撃したところでヤツに『反射』されるだけだ。

時間操作の対象にできなかったということは、久遠に理解できていない何かがあるということ。

先ほど行った『反射』の解析内容に、何か見落としがあるのかもしれない。

 

 

「なンだったかなァ、研究者どもから聞いたはずなンだが」

 

 

一方通行は久遠から視線を外して、顎に手を当てて夜空を眺め始めた。

ヤツはひたすら記憶を辿っていたようだったが、ようやく何かを思い出したらしい。

 

 

「あァ、そォだそォだ。確か『時間を操る』とかいう能力だったか。なるほどなるほど、それなら勘違いすンのも仕方ねェのかもなァ」

「さっきからお前は何が言いたいんだ。めんどくせぇ野郎だな」

「ククッ、俺に勝てると思ってンだろ?オマエ」

 

 

時間には『向き(ベクトル)』が存在しない。

歪曲時計(ワールドクロック)】の時間操作の対象になった時点で、一方通行は抵抗する手段を失うのだ。

 

時間加速で老死させてもいいし、時間逆行で能力開発される前まで巻き戻してもいい。

そして『反射』に阻まれ、本体が時間操作できなかったとしても『反射』に時間操作ができればそれでもいい。

 

そもそも一方通行は全てのベクトルを『反射』している訳ではない。

ヤツも生身の人間だ。ならば呼吸するための酸素、この地に立つための重力などの必要最低限のベクトルは受け入れているはず。

一方通行の『反射』を時間停止させて掌握すれば、そんな受け入れているモノがヤツに牙をむく。

 

 

「当然だろうが。お前の『反射』を掌握したらゲームセットなんだからな」

「ハッ、そォかもなァ。もし、()()()()()()()()()()()だがよ」

「あぁ?ほとんど千日手なんだから逆算する時間は十分あるんだ。つまんねぇ命乞いはすんじゃねぇよ、クズ野郎が」

 

 

こちらを見下してくる、一方通行のあからさまな態度。

次第に久遠の語気が荒くなり、怒りがあらわになっていく。

罵声を浴びせられた一方通行は、何故かひたすら愉しそうに笑いだした。

 

 

「ホント、わかってねェなァ。俺が【第一位】で、オマエが【第四位】。そんな単純なことがわかってねェ」

「わかってないのはお前だろうが。【歪曲時計(ワールドクロック)】は演算処理すらも加速できるんだ。お前は『時間』に追いつけない」

 

 

久遠の殺意に【歪曲時計(ワールドクロック)】が呼応し、周囲の空間が禍々しく歪んでいく。

それすらも嘲笑いながら、一方通行はゆったりと両手を広げた。

焦らすように両手の位置を持ち上げていき、肩の高さまで持ち上がったところでピタリと停止させる。

 

 

 

「だからさァ、時間の問題じゃねェンだよ」

 

 

 

まるで友人同士で交わす、どうでもいい雑談みたいに。

一方通行は、さらりとその事実を告げてきた。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

『未来』からの警告。

 

そして、いきなり目の前に高速移動してきた一方通行。

瞬時に時間加速を行使した久遠は、警戒して後ろへ跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方通行の攻撃に、時間停止を一撃で破るような威力はない。

何のベクトルを操作しているのかはわからないが、ヤツは久遠に迫る速度で近接戦闘を仕掛けてきた。

ひたすら久遠を追尾して攻撃することで、少しずつ時間停止の演算処理を圧迫してくる。

 

 

 

コイツ、どうやって俺の位置を把握してやがるんだ。

 

 

 

加速状態の久遠を追尾して、何度も攻撃に成功するなんて普通のことじゃない。

それは単純な移動速度の問題ではなく、反射神経や状況判断の速さの問題だ。

移動速度だけを加速している一方通行と違って、久遠は【歪曲時計(ワールドクロック)】によって全ての行動が時間加速している。

久遠が回避に徹すれば、ヤツは触れることすらできないはずなのに。

 

一方通行は、久遠を目視すらしていなかった。

まるで自動で身体が動いているみたいに、滅茶苦茶な体勢でこちらに向かって移動してくる。

 

 

 

まさか、コイツ。

 

 

 

それに考えが及び、久遠の思考は停止する。

いや、そんなことがありえるのだろうか。

 

 

 

もし、そうだとしたら。俺はすでに。

 

 

 

いや、無理だ。そんなこと、ありえるはずがない。

たったこれだけの時間で、ここまでの精度で解析するなんて。

 

 

 

しかし、今の状況はそれ以外に考えられない。

 

 

 

不可能に決まってる。

いくら超能力者(レベル5)の演算処理能力だとしても、そんな『樹形図の設計者』みたいな真似は。

 

 

 

俺の移動先を全て掌握するなんてことは。

 

 

 

そんな思考を嘲笑うかのように。

ひたすら繰り出される連続攻撃に、ついに久遠の時間停止が破られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで、爆心地のようになってしまった廃工場の跡地。

残っていた建物は全て崩壊し、砕けた瓦礫が乱雑に散らばってしまっている。

そんな荒廃した場所で、大量の砂煙が巻き上がる中。殴り飛ばされた久遠は周囲を警戒していた。

 

歪曲時計(ワールドクロック)】の時間停止は、対象が停止し続けるように演算処理を続ける必要がある。

そんな『時間が停止している空間』に『時間が動いている空間』からの物理的な干渉があると、徐々に久遠の演算処理は圧迫されていってしまう。

そして、それが限界を迎えれば時間停止は解除されてしまうのだ。

 

ヤツの攻撃を受けとめた両腕は無惨にへし折られてしまった。

尋常じゃない痛みと出血に歯を食い縛りながら、部分逆行を行使する。

 

『未来』からの警告はない。

 

一方通行からの追撃はなく、ヤツの姿も確認できなかった。

ヤツが何を考えているのかはわからないが、気を緩めるわけにはいかない。

もし本当に久遠の移動パターンを逆算されてるのなら、ここで立ち止まっているのも把握されているだろう。

 

周囲に巻き上がる大量の砂煙が、手で払いのけられるかのように四散していく。

一方通行が何らかのベクトルを操作したようだ。

ヤツは周囲を見渡して、久遠を見つけると驚いたような反応をする。

 

 

「へェ。オマエ、受けた傷を『戻す』こともできンのか」

 

 

一方通行は首をコキコキと鳴らしながら、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてきた。

完全に戦闘体勢に移行した久遠と、ポケットに片手を入れて余裕綽々の一方通行。

 

 

「まァ、それを含めて再演算すればイイだけなンだが」

「……お前、何をッ」

「くっくっ。やっぱオマエじゃ、わっかンねェンだろ?」

 

 

無言で睨みつける久遠を嘲笑いながら、一方通行は演説するように語りだした。

 

 

「『演算処理を加速する』だったかァ?だが逆に言えばよォ、オマエは加速することしかできてねェンだよなァ」

 

 

一方通行はその場で立ち止まり、ニヤニヤと愉しそうにこちらを見つめてくる。

 

 

「演算処理ってのは、要するに計算能力。小学生がどれだけ時間をかけたって、高校の問題が解けるようになる訳じゃねェだろ?それと一緒さ」

「……ふざけんなよ、強度は同じ超能力者(レベル5)だろうが。俺の優位性は」

「ホント、憐れだよなァ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言ってンだよ。格下」

 

 

久遠の言葉を遮って、一方通行はポケットから手を出して両腕をこちらに向けてきた。

 

 

「オマエの移動パターンは逆算済み。さっきの『巻き戻し』も組み込ンだし、これでチェックメイトだ」

 

 

『未来』からの警告。

 

再び高速移動してきた一方通行。

今度は死ぬまで終わらない。そんな鬼ごっこが開始してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に見下されている。

激しい怒りに身を任せそうになるが、なんとか理性が抑えてくれた。

次に時間停止が破られるまで、しばらくの猶予が残されている。逆に冷静になってきた頭で、久遠はゆっくりと現状を分析していく。

一方通行がこちらの移動パターンを読んでいるのは確定。

そしてヤツの発言からして、この追尾と攻撃はあらかじめ設定されたもの。

さらに先ほどの攻防で、時間停止の耐久限界も把握されてしまっただろう。

 

問題はどうやってこちらの移動パターンを読んでいるのか。

冷静になって考えてみると、やはりそこがおかしい。

こちらの思考を読んでいるなんてありえないし、何か他に判断している材料があるはずだ。

 

久遠は一方通行の今までの行動を思い返していき、やがて一つの引っ掛かる行動に思い当たる。

それは先ほど、久遠が一方通行に殴り飛ばされたあとのこと。

ヤツが追撃をしてこなかったのは、久遠を仕留めたと勘違いしたから。

 

妙なのは、そのあとの行動だ。

 

ヤツはわざわざ砂煙を払いのけて久遠を目視で探していた。

こちらの移動パターンと位置を常に把握しているなら、そんなことをする必要はない。

 

現在の位置は把握できて、あの時の位置を把握できなかった理由。

そこまで考えて、すぐに答えはでた。

 

 

「……風。いや、気流」

 

 

誰にも聞き取れない言葉。

風の流れ。気流には当然『向き(ベクトル)』が存在する。

いくら【歪曲時計(ワールドクロック)】がベクトルの存在しない時間操作でも、久遠が加速して移動すれば周囲の気流を乱してしまうのだ。

ヤツは『反射』に接触する気流を解析して、そのベクトルから逆算して久遠の位置を特定。そして追尾、攻撃する設定を組み上げたということ。

 

 

「それなら、これは自業自得って訳か」

 

 

どうやら、最初から手の内を見せすぎたらしい。

明らかに勝負をナメていたのは久遠の方で、他にもっと上手いやり方があったのだろう。

どうせ千日手の演算勝負になると予想していたが、それがそもそもの間違いだった。

久遠は『反射』を攻略することはできず。結局、勝負は一方通行(ワンサイドゲーム)

 

 

「……流石。あの先輩を抑えて序列【第一位】に選ばれただけはあるなぁ」

 

 

やがて、久遠は諦めたように呟いた。

自分が今まで見下して、蹂躙してきた弱者たちのように。

これから【第四位】の【歪曲時計(ワールドクロック)】は、久遠永聖は虐殺されるのだ。

 

 

「こうなると、打つ手もないし。俺じゃ『反射』は掌握できないのかもしれないけど」

 

 

じわじわと削られる演算処理を自覚しながら、久遠は言葉を続けた。

この場所から本格的に逃げ去れば、おそらく逃げ切ることはできるだろう。

一方通行が『反射』で気流を読んでいるのなら、ヤツとの距離が離れるほど精度は粗くなっていくはずだ。

ヤツの設定は先回りを織り混ぜているが、直線の移動速度は久遠の方が速い。

 

しかし、逃げたところで意味はあるのだろうか。

 

久遠はすでに反逆してしまっているのだ。

それも明らかに上層部の重要な方針である『絶対能力進化計画』を妨害しようとしている。目障りな反逆者。

一方通行を殺害して、『方針』あるいは『プラン』の主軸になることで上層部と交渉するつもりだったが、惨めな敗北者にそんな価値などないだろう。

 

久遠はそこまで考えて、自嘲するような笑みを浮かべる。

 

 

「……似合わないことするから、こーなるんだよなぁ」

 

 

そもそも『妹達』が100体を下回れば、垣根帝督と組んで一方通行を殺害する予定だったのに。

何の意味もない一騎討ちを仕掛けて、無様に返り討ちにされてしまうなんて。

 

 

なんで、こんな馬鹿な選択をしたんだったっけ。

 

 

久遠は少し前の出来事を思い返していき、御坂美琴の顔を思い出す。

あの時は認めたくなかった。久遠永聖が変わってしまった理由。

でも、今は素直に。それを認められる気がした。

 

 

きっと。

 

 

学園都市の闇に囚われて、闇の中に逃げ込んだ臆病者は。

 

光の中で、闇に抗い続ける彼女が羨ましくて。

 

一度、ゆっくりと目を閉じて。久遠は自然な表情で微笑んだ。

 

 

 

「どうせ死ぬなら、最期まで抵抗してみるか」

 

 

 

このまま久遠が殺されたら、きっと御坂は止まらない。

何の意味もない自己犠牲で、命を落としてしまうだろう。

 

目の前には、ひたすら追尾してくる一方通行。

まずは一発。久遠は時間加速して、一方通行の『反射』に殴りかかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二度目の時間停止の処理限界。

『未来』からの警告でそれを察知していた久遠は、あえて早めに時間停止を解除することにした。

一方通行が突きだした指が、久遠の腹部をあっさりと貫く。

激痛を無視して時間加速でヤツの指を引き抜き、無理やり後ろへ回避する。

 

 

今、コイツ、何をしやがった。

 

 

二人の接触は一瞬。

それなのに、接触した腹部付近が破裂したようにグチャグチャになってしまっていた。口から大量の血を吐きながら、部分逆行して自分の身体を観測する。

 

そうか、血流を滅茶苦茶に操作されたのか。

 

またしても砂煙を晴らして現れた一方通行。ヤツは頭をポリポリとかいて、めんどくさそうな口調で声をかけてきた。

 

 

「オイ、イイ加減諦めたらどうなンだ。オマエも無駄な抵抗だってのはわかってンだろ?」

「……そうかもな」

「確かにオマエが抵抗するパターンは設定してなかったけどさァ。再設定がめんどくせェだけなンだからよ。さっさと死ンじまったらどォだ?」

 

 

こちらを馬鹿にしたように笑う一方通行を見ながら、久遠はひたすら思考を続ける。

『反射』に自分から攻撃を加えたことで、時間停止を破られるのが早まり、ヤツの設定をくぐり抜けることができたらしい。

 

しかし、久遠が攻撃した際に行った解析は全く進展していない。

解析どころか、攻撃する直前に『未来』からの警告で自分の損傷を伝えられてしまうくらいなのだ。

 

そして再び開始されてしまった、命がけの鬼ごっこ。

 

一方通行から逃げながら、次はどうするべきかを考える。

近接攻撃は意味がない。久遠がわかったのは一方通行の『反射』する正確な位置くらいのもので。

 

 

 

「いや、待て」

 

 

 

そこまで考えて、久遠は思考を戻す。

 

『未来』からの警告で、ヤツの『反射』の位置と、久遠の損傷の状態が把握できるなら。

 

 

 

「『反射』はヤツから離れていくベクトルも反射するのか?」

 

 

 

もし、一方通行から離れていくベクトルも『反射』するのであれば。

『反射』されたそのベクトルは一方通行に向かっていくのではないか。

 

そして久遠は一方通行に演算領域の広さでは負けているが、反射神経や状況判断の時間加速は越えられていない。

例え、ヤツが『反射』を再設定したとしても。それを『未来』からの警告で確認して対応できるかもしれない。

 

どうせ無理なら殺されるだけだ。

他に手段もないし、試しにやってみる価値はある。

 

久遠は邪悪に笑い、一方通行に迷わず拳を突きだした。

『未来』からの警告に従って、自分が損傷するはずだったタイミングで拳を時間加速して引き戻す。

 

 

 

 

 

微調整が甘かったのか、久遠の小指がちぎれ飛び、親指がへし折れた。

 

 

 

 

 

それによって加速の勢いは殺されたが、それでも拳に残った確かな感覚。

 

 

 

 

 

戦闘開始から数時間。

 

 

 

 

 

久遠の拳が初めて、一方通行を殴り飛ばした。

 

 

 

 

 




一方通行を登場させてからというもの、なんだか感想欄を見るのが怖いんですが。
やっぱり彼は人気キャラなんだと実感しますね。
リメイク前に一方通行戦を飛ばしたのは英断だったのかも。なんて最近は考えてます。

劣化木原神拳も予想されてた方が多いかもしれませんが、能力勝負で一方通行を上回る展開にはしたくなかったため、これしかありませんでした。

突っ込みどころが多いとは思いますが、話を書き直すレベルの矛盾がないことを祈ります。
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