とある科学の歪曲時計   作:割り箸戦隊

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今回は過去編です。


堕落日和
第18話


 

複数の女子校が共同で運営する区画。通称『学舎の園』。

そこは完全な男子禁制のエリアであることから、箱入り娘のお嬢様達が生活する華やかな場所となっている。

当然、内部に存在する飲食店なども、そんなお嬢様達をターゲットにしたお洒落な店舗ばかり。

その日、常盤台中学の制服に身を包んだ少女達が入店したカフェも例に漏れず、お洒落で豪奢な雰囲気をかもしだしていた。

 

楽しげに談笑する彼女達は、常盤台において最大規模を誇る『食蜂派閥』のメンバー達。

超能力者(レベル5)の【第六位】【心理掌握(メンタルアウト)】の食蜂操祈(しょくほうみさき)を中心とした、同好の士の集まりである。

 

 

「女王。彼からのお誘いの件ですが、よろしかったのですか?」

「んー。そうねぇ」

 

 

女王と呼ばれた少女。食蜂操祈は紅茶に口をつけたあと、間延びした声で返事をした。

金色のロングヘアーに人形のように整った顔立ち。中学生とは思えない抜群のスタイルと容姿を持つ彼女は、しばらく考えてから言葉を続ける。

 

 

「まぁ、今さらっていうかぁー。どーしても私と話がしたいなら、それなりの誠意力を見せてくれないとねぇ」

「そうですか。残念ですが、女王がそう仰るなら仕方がありませんね」

「それにぃ。彼、猛省力も足りてないのよねぇ。まだ性懲りもなく似たようなコトしてるみたいだしぃ?」

「えっと。あの、女王?」

「そもそも私を直接誘ってこないのが気に入らないのよねぇ。他の女を通してる時点で、本当は悔い改めてない証拠力になってるっていうかぁー」

「……は、はぁ」

 

 

一向に終わりが見えないその話に派閥メンバー達はひきつったような顔になるが、当の操祈は気にした様子もない。

この状態になった彼女は『彼』への愚痴と文句を全て言い終わるまで止まらなくなるのだが、それも近頃は定期的に起こるイベントのようになってしまっていた。

派閥メンバー達は仲違いしている二人の仲をなんとかしようとしているのだが、残念ながら一向に改善する兆しはない。

ペラペラと一人で喋り続ける操祈。それに曖昧な返事をしつつ、派閥メンバー同士で視線を交わしてアイコンタクトを取っていると、新しく入店してきた少女達の会話が漏れ聞こえてきた。

 

 

「それって本当なの?」

「ホントだってば。確かにあれは御坂さんと久遠さんだったよ」

「でも、そんな話聞いたことないけどなー。そもそもあの二人って知り合いだったの?」

「私もビックリしたけどさ。かなり仲良さそうだったし、前から隠れて付き合ってたんじゃない?」

「うーん。ちょうど夏休みだし急接近したのかもよ」

 

 

派閥メンバー達の動きがピタリと止まる。

恐る恐る操祈に視線を向けると、彼女も石像のように停止してしまっていた。

 

 

 

「それにしても、まさか二人でホテルから出てくるなんてねー」

 

 

 

その言葉を少女が言った直後。店内にいる全ての人間は、この時間の記憶を奪われることになる。

意識を操作されて動かなくなった人々の中で、【心理掌握(メンタルアウト)】を躊躇いなく行使した人物が頬をヒクつかせながら呟いた。

 

 

 

「まぁ、ガセだとは思うけどぉー。その記憶は覗かせてもらうゾ☆」

 

 

 

手のひらでリモコンを弄ぶ少女。

食蜂操祈は人の精神を操作する超能力者(レベル5)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは今から一年と少し前。

久遠が中等部の三年生に進級し、数ヶ月たった頃のとある日のこと。

【メンバー】の構成員が溜まり場にしている『17拠点』と呼ばれるマンションの一室で、無駄に高級そうなソファーに座った少年が威圧感にあふれる声を発した。

 

 

 

「今日、お前らを呼び出した理由を説明してやる。質問があるヤツは挙手をしてから発言しろ」

 

 

 

少年のその発言に、馬場と査楽は二人で視線を交わす。

「今すぐ『17拠点』に来い、後悔したくなかったらな」。そんな文面で呼び出された二人が目撃したものは、ソファーで腕を組んで君臨する暴君だったのだ。

 

暴君の名前は久遠永聖。【メンバー】の正規構成員にして、戦闘要員。

暗部組織に加入した直後はまさに悪魔と言っていいほど冷酷で残忍な少年だったが、最近は比較的まともな性格に落ち着いていた。

あくまでも過去の彼との比較であるため、一般的に見ると人格破綻者の烙印を押されることは間違いないのだが。

 

とりあえず文句の一つでも言ってやろう。そう思った馬場が手を上げる。

 

 

「……なんだ、馬場」

「こっちはいきなり呼び出されたんだ。それなりの対応をしろよ」

「知ったことか。次に無駄な発言をしたヤツは半殺しにする」

 

 

無表情に宣言されたその内容に査楽が冷や汗を流す。

まるで冗談みたいな話だが、そんな言葉遊びのような流れで本当に殺害されてしまった人間を何度か見たことがあったからだ。

 

 

「まずはこれを見て欲しい。馬場の本棚にあった物だ」

「……おい、真面目な話じゃないのかよ」

「ちゃんと挙手をしろ馬場。次に挙手をしなかったヤツは身体の一部を欠損させる」

 

 

テーブルの上に置かれたのは、一冊の漫画の単行本。

それは現在七巻まで刊行された、そこそこ人気のある少年漫画。ジャンルはハーレム系ラブコメディであった。

馬場の発言はもっともで、とてもこれから真面目な話が始まるとは思えない。査楽が久遠に視線を向けると、彼は任務中でも見せないような真剣な表情で単行本を睨みつけていた。

 

 

「……お前達はこの漫画の『主人公』について何か思うところはないか?」

「この手の漫画は主人公じゃなくて美少女を見るもんだろ。そんなヤツは名前すら覚えてないね」

「馬場君に同意します。もっとも僕はどんな漫画だろうと女の子しか見てませんが」

 

 

ちゃんと挙手した査楽と馬場の発言内容に、久遠は深いため息をついた。

完全に二人を見下しながら、暴君は言葉を続ける。

 

 

「俺が言いたいのはそんなことじゃない。この主人公はモテモテで、大量の女を侍らせていて、さらには軽度の性犯罪まで許されているんだ」

「それがどうしたんだよ?」

「まだわからないのか?俺の言いたいことが」

 

 

久遠は二人にそう聞いてくるが、全く理解できそうにない。

挙手するまでもなく、二人は揃って首を横に振る。

それを見た久遠は呆れたような表情を浮かべて、やれやれといった感じの動作をしてきた。

 

そして、彼はゆっくりと立ち上がり。

 

 

 

 

 

「俺もモテモテになりたいって言ってるんだよッ!!」

 

 

 

 

 

急に大声で叫ばれて、二人は身体をビクつかせる。

鬼気迫る表情の久遠は冗談を言っている様子ではない。普段は()()()()()()()()()()()()()()()()()、この漫画を読んで考え方が変わってしまったのかもしれない。

 

 

 

「だから俺に協力しろ。馬場の情報収集能力と、査楽の冷静な判断力が必要なんだ」

 

 

 

学園都市の闇。

統括理事長の直轄部隊。暗部組織【メンバー】の超能力者(レベル5)

これは、久遠永聖が節操なしの女遊びを覚える前の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから久遠は早速とばかりに街へ向かって行き、査楽は通信機の状態を確認しているようだった。

そして馬場は情報端末の画面をどうでもよさそうに眺めて、二人の会話を聞き流しているところ。

 

 

「まずは、久遠君の好みのタイプを把握したいのですが」

「……そんな急に聞かれてもな。俺はあまり女と接したことがないんだ、そもそも学校すら行ってないし」

「では年齢や性格、容姿やヘアースタイル。もしくは、こんな芸能人がいいとかはありませんか?」

「俺はさぁ、女は質より量だと思うんだ。とりあえず何人かキープしてから考えるよ」

 

 

そんな久遠の最低すぎる価値観に呆れながら、馬場は先ほど決まった『作戦』のことを考える。

 

 

1、街をぶらついて可愛い娘を探す。

2、発見した可愛い娘に『暴漢』が襲いかかる。

3、久遠が颯爽と現れ、格好良く救出する。

4、そのままの流れでどこかの店に連れ込む。

5、全力で口説き落とす。

 

以上。

 

 

間違いなく、こいつらは頭がおかしい。

馬場は頭が痛くなってきたが、この二人は真面目に『作戦』を遂行するつもりらしい。

そこで久遠視点の画面を見ていた査楽が、何かを見つけたような声を出した。

 

 

「久遠君。先ほどすれ違った娘はどうですか?」

「ん、ちょっと待ってくれ。えーっと、あの金髪のことか?」

 

 

久遠が後ろを振り返ったため、情報端末の画面もぐるりと反転する。

そこに映し出されたのは学園都市で一、二を争う名門校である、常盤台中学の制服に身を包んだ少女だった。

しばらく少女を眺めていた久遠だったが、やがて不満を隠そうともせずに吐き捨てる。

 

 

「ハッ、ただのクソガキじゃないか。絶望的に胸囲が足りてないな」

「女は質より量なのでは?それに常盤台は箱入り娘のお嬢様ばかりですから、こちらの『作戦』で騙しやすいかと思われますが」

「うーん。でもなぁ」

「顔はかなり可愛いですし、胸はこれから成長する可能性もありますよ」

「まぁ、それもそうだな。とりあえずアイツも狙っておくか」

 

 

どうやら一人目の被害者が決定されてしまったらしい。

それから久遠は査楽と細かい打ち合わせをしたあとで、作戦決行の言葉を放った。

 

 

 

「おい、アイツに下部組織の連中をけしかけろ」

 

 

 

『暴漢』役に選ばれてしまった、哀れな下部組織の連中。彼らは記憶ごと巻き戻して再利用していく予定らしい。

馬場はついに頭を抱え、死んだ魚のような目をして呟いた。

 

 

 

「僕達は学園都市の闇。暗部組織の【メンバー】なんだぞ」

 

 

 

これは余談だが。

このような『作戦』を何度も繰り返し行ったせいで、久遠永聖の『噂』が学園都市中の女子の間で囁かれることになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常盤台中学に入学してから数ヶ月。

金髪の少女。食蜂操祈は憂鬱な面持ちで街を歩いていた。

現在、操祈を悩ませているのは、同学年に在籍する超能力者(レベル5)の【第三位】【超電磁砲(レールガン)】の御坂美琴のこと。

 

彼女は操祈にとって、出会う前から因縁のある相手といってもいい。

御坂美琴のクローン人間。『妹達』のプロトタイプとして産み出された少女『ドリー』。

心理掌握(メンタルアウト)】の能力研究施設に預けられていた『ドリー』は、操祈にとって初めてできた友達だったのだ。

 

 

きっと、彼女は悪くないのだろう。

 

きっと、彼女は知らなかったのだろう。

 

でも、それでも。

 

 

『ドリー』はデータ収集を目的とした実験動物として扱われ、無茶な投薬を繰り返されて命を落としてしまったのに。

 

どうして彼女はみんなに囲まれて、あんなに楽しそうに笑っているのだろうか。

 

それが自分勝手な八つ当たりだとわかっていても、どうしても納得することができなくて。

操祈は荒んだ心を落ち着けるために『学舎の園』の外に出かけることにしたのだった。

 

そして当てもなく、思考に耽りながら歩くこと数時間。

 

 

「オウ、常盤台の嬢ちゃん。実は俺達、財布を集めるのにハマってんだよ」

「ギャハハハっ。そーそー、いつも中身と一緒に収集してんだよなー」

「ちなみに俺らは能力者狩りに馴れてっからさ。無駄な抵抗とかはしないほうが身のためだぜぇ?」

 

 

気がつけば、いつの間にか厳つい顔の男達に囲まれてしまっていた。考え事をしている内に、ふらふらと路地裏に入っていたらしい。

操祈は溜め息をつきながら肩にかけたバックに手を入れて、中に収納されているリモコンに触れる。

どんな精神操作をしてやろうか。見た目からしてスキルアウトか何かなのだろうし、ストレス発散には丁度いいかもしれない。

操祈がそう考えていると、男達の向こうから誰かの声が聞こえてきた。

 

 

 

「おい、ゴミ屑ども。その娘から離れろよ」

 

 

 

染められた頭髪に、黒いピアス。嘲笑うような表情の少年。

『作戦』通りに颯爽と現れた暴君は、あっさりと下部組織の連中を制圧したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厳つい顔の不良達を一瞬で蹴散らした、不良少年。

操祈はこいつも似たような人種なんだろうと思っていたが、意外にもその物腰は柔らかく、穏やかな声で語りかけてきた。

彼に優しく手を引かれて路地裏から脱出したあと、明るい場所で改めて少年を観察する。

 

不思議な少年、それが第一印象。

 

整った容姿を台無しにする不良みたいな装飾品の数々。でも笑顔や声は優しくて、なにより感情の読めない無色の瞳。

今まで操祈が出会ったことのないタイプの人間だった。彼に場所を変えて話さないかと誘われて、コクリと頷いて了承する。

仮に悪意を持っていたとしても【心理掌握(メンタルアウト)】でどうとでもなるし。それに、彼とはもう少し話をしてみたかったから。

 

近場の喫茶店に着いて注文を済ませると、対面の彼がこちらをじっと見つめていることに気がつく。

 

 

「えっとぉ。久遠さんだったかしらぁ?」

「そうだよ。ちなみに中学三年生な」

 

 

二つ年上らしい彼は相変わらずこちらの顔をひたすら見つめ続けてくる。操祈は顔の熱が上がっていくのを自覚しながら、それを隠すように言葉を続けた。

 

 

「あの程度のヤツラなら自分で追い払えたけどぉー。まぁ一応、お礼は言っておいてあげるわぁ」

「あー。そういえば常盤台はレベル3以上しかいないんだっけ?それならそうかもね」

「まぁねぇ。レベル3どころか学園都市が誇る超能力者(レベル5)の【心理掌握(メンタルアウト)】である私に、不可能なんてないのよねぇ」

 

 

ドヤ顔を決める操祈。

目の前の少年の反応が気になってチラリと視線を向けるが、彼に驚いた様子はない。

 

いや、それどころか。

 

 

「へぇ。君が【第六位】の【心理掌握(メンタルアウト)】なのか」

「ちょっと、もっと驚いたりするべきでしょぉ?」

「確かにすごい偶然かもな。この街に超能力者(レベル5)はたった八人しかいないんだからさ」

「ようやく理解が及んだみたいねぇ。つまりアナタは食蜂操祈サマの露払いを務められたってわけ。光栄に思うといいわぁ」

「ハハッ、おもしろい冗談だなぁ。まぁ、俺は序列を気にしないタイプだから許してあげるよ」

「はぁ?何を言って」

 

 

操祈の言葉を遮って、優しげだった少年は不敵な表情で宣言する。

 

 

 

「俺は【第四位】の【歪曲時計(ワールドクロック)】。助けられたことを光栄に思ってもいいぜ」

 

 

 

偶然出会った超能力者(レベル5)の二人。

驚愕して固まる操祈を見て、彼は楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注文していたメニューが届けられ、二人はそれに口をつけていく。

操祈は最初こそ突然の出会いに驚愕したが、今は普通に会話することができるようになっていた。

 

学園都市に八人しかいない『同類』の存在。

 

食蜂操祈を除いた超能力者(レベル5)は隠しきれない人格破綻者の集まり。

それが学園都市の常識だが、彼は比較的まともな人格なのかもしれない。

会話の流れで【第三位】【超電磁砲(レールガン)】の愚痴を言うと、彼は操祈の目線に立って御坂美琴を酷評してくれた。

 

 

「俺も似たような経験あるからわかるよ。初対面から気に入らないヤツってのはどこにでもいるんだよなぁ」

「しかも彼女、すっごい短気なのよぉ。その上、心根が捻くれてるっていうかぁー」

「なるほどね。つまり君とは正反対のタイプってことか」

「そーいうこと。それなのに周囲に媚びるアピール力だけは高めでぇ」

「そんなヤツ【心理掌握(メンタルアウト)】で廃人にしてやればいいのに」

「それも試してみたんだけどぉ。なーんか電磁バリアみたいなのに邪魔されちゃうのよねぇ」

 

 

操祈はショートケーキを上品に食べながら楽しげに会話を続ける。

流石に『ドリー』のことは話せないが、今はこんな下らない愚痴を聞いてくれるだけでも有り難かった。

 

 

「ふーん。能力の相性まで悪いのか」

「それに彼女、何考えてるんだかよくわかんないしぃ。本当に目障りなのよねぇー」

「同級生なら嫌でも関わっちゃうもんな」

「そうなのよぉ。いっつも彼女の話ばかり聞かされててぇ」

 

 

その後も、二人は日がくれるまでくだらない雑談を続けて。

操祈は寮の門限が近づいてくると、彼に『学舎の園』まで送ってもらうことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠が『17拠点』に帰ってくると、定位置で待っていた馬場と査楽がからかうような雰囲気で声をかけてきた。

 

 

「ずいぶんと楽しそうでしたね。一人しか捕まえられませんでしたが」

「まっ、全部見てた訳じゃないから安心しろよ。途中から通信は切ってやったんだ」

 

 

そのまま無言でソファーに座った久遠に、二人はさらに追撃をしてくる。

 

 

「いやはや、最初は乗り気じゃないようでしたが。そんなにあの娘が気に入ったんですか?」

「おいおい査楽、聞いてやるなよ。しっかし、オマエのあんな姿は初めてみたなあ」

 

 

ニヤニヤと笑う二人に向けて、久遠は顔をしかめて言い放った。

 

 

「……お前らは黙ってろ。次に勝手に喋ったヤツは八つ裂きにする」

 

 

今まで女子とまともに関わって来なかった久遠にとって、食蜂操祈との出会いは新鮮で、とても印象深いものだったのだ。

あらかじめ考えていた『作戦』を全て放り投げて、一日を潰してしまうくらいには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めての出会いから半年ほど。

寒くなってきた学園都市の地下街で、操祈は白い息を吐きながら佇んでいた。

待ち合わせの時間より三十分も前から待ち続けている彼女は、下を向いて思考を整理していく。

 

きっかけは、彼から聞かされた進学先の話だった。

本当に非常識な話ではあるのだが、彼は今まで中学校に籍だけを置いてほとんど通学していなかったらしい。

そんな不良街道まっしぐらな少年が進学先に選んだ高校は、なんと名門と名高い長点上機学園。

 

おそらくあの名門校に入学したら、彼に言い寄る女は増えてしまうだろう。

 

ただでさえ、最近は『学舎の園』の内部でも彼の噂を耳にすることが増えてきたというのに。

 

つまりは独占欲と、嫉妬心。

そんな胸をしめつけるような感情を払拭するためには、操祈は彼にとって一番大切な存在にならなくてはならない。

 

恋人。あるいは彼女と呼ばれる存在。

 

そのための一歩として、操祈は彼を呼び出すことにしたのだった。

振り返ればこの半年間。二人は何度も約束し合い、何度もデートを繰り返してきたのだ。

 

きっと、上手くいくはず。

ちゃんと言葉にして伝えることさえできれば。

 

自分で自分を励まして、操祈はゆっくりと顔を上げる。

遠く離れた視線の先に見馴れた不良少年が現れて、こちらにヒラヒラと手を振っているのがわかった。

今は約束の五分前。まだ遅刻ではないが、可憐な美少女を長時間待たせたのだ。文句の一つは言ってやらなくては。

操祈は小悪魔のように笑って、彼をどんな言葉でなじるか頭を悩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下街をぶらぶらとデートして、地上に出たあと。

二人っきりになりたいと言うと、彼は立ち入り禁止のとあるビルの屋上に案内してくれた。

時刻は夕方になってしまって、沈みゆく夕日。そこから見られる景色はそれなりにムードがあり、ロケーションは悪くない。

それなのに固めていたはずの決意はあっさりと崩れてしまい、操祈は顔を赤らめて黙り込んでしまう。

 

何度も小さな口を開いて、閉じて。

うつむいた操祈はたどたどしく言葉を紡いでいく。

 

 

「えっと。ちゃんと最後まで、聞いてて欲しいんだけどぉ」

「ん?いいけど」

「あの。さ、最近、思ったことがあってぇ」

「あぁ」

「私たち、その、何度も、デートとかしてるわよねぇ?」

「そうだな」

「それならぁ、その、も、もう少し、近い関係になるべきだと思うのよぉ」

「あー。そうかもね」

 

 

彼はガチガチに緊張している操祈に優しく微笑み、はっきりとその言葉を口にした。

 

 

「こんなにデートしてるんだし、もう付き合ってる方が自然だよな」

「そう、そーなのよぉ。だ、だからぁ」

 

 

付き合う。そんな確信的なワードに操祈は喜色満面になる。

さらに会話の流れはどう考えても断られるような雰囲気ではなかった。

 

 

 

「それなら操祈。俺と付き合ってくれないか?」

「……うん」

 

 

 

ようやく操祈は顔を上げて、彼の顔を正面から見つめた。

イタズラっぽい笑顔を浮かべていた彼に、飛びかかるように抱きついて。背中に回されてきた腕の感触に温かい気持ちが広がっていく。

操祈が頭をグリグリと押しつけていると、近距離からの囁きが耳をくすぐってきた。

 

 

「で、こっちからも話があるんだけど」

「もぉー、空気の読めない人ねぇ。こんな時は黙って抱きしめてないとダメなんだゾ☆」

「まぁ、とりあえず聞いてくれよ。俺が憧れている存在の話を」

「……はぁ?」

「実はさ、俺は『ハーレム系主人公』ってヤツを目指してるんだよ」

 

 

操祈は意味不明なその言葉に困惑してしまう。

彼に両肩を掴まれて、近距離で正面から向かい合う二人。

恋人同士がキスをするような距離感で。彼は、久遠永聖は宣言した。

 

 

「俺は複数の女性と同時に交際したいんだ。だから、操祈にはそれを許可して欲しいんだけど」

「は、はぁ?」

 

 

彼の真剣な表情。それを呆然と見ながらフリーズしていた操祈だったが、ようやく理解が及んでいき。

 

 

 

 

 

「はァーーーッ?はァーーーーーーーーーーッ??」

 

 

 

 

 

二人っきりの屋上に、食蜂操祈の叫び声が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在。

『学舎の園』のお洒落なカフェは異様な雰囲気に包まれていた。

人形のように動かなくなった少女達の中で、カツカツという無機質な音だけが一定の間隔で鳴り響く。

 

 

「……ふぅん」

 

 

鳴り響く音の正体は、操祈がフォークを突き刺す音。

彼女が注文していたケーキはぐちゃぐちゃに潰れてしまっていて、フォークが皿に当たる音が鳴り響いているのだ。

 

 

「まさか、あの御坂さんがねぇ」

 

 

心理掌握(メンタルアウト)】で読み取った少女の記憶。

その記憶の中でホテルから出てきた二人の男女は、確かに御坂美琴と。

 

 

「まぁ、相手が誰かはどーでもいいんだけどぉ」

 

 

無表情の操祈はひたすらフォークを突き刺して、頭の中でとある少年を突き刺し続ける。

 

超能力者(レベル5)の【第四位】【歪曲時計(ワールドクロック)】。

 

 

 

「やっぱり更正させるんじゃ甘いわねぇ。私の天才力で強制的に『巻き戻して』あげるわぁ、永聖」

 

 

 

彼の名前を呟いて、無表情だった操祈は暗い笑みを浮かべた。

ぐちゃぐちゃになったケーキを精神操作した人間に片付けさせて、小さなバックから豪奢にデコレーションされた携帯端末を取り出す。

 

長い付き合いで【歪曲時計(ワールドクロック)】の能力詳細はすでに把握済みだ。

彼の『時間停止』に、おそらく操祈の精神操作は通用しない。だが、あれはAIM拡散力場からの観測を把握して発動する手動操作によるもの。

つまり睡眠時などの、『未来』からの警告に気がつけないタイミングは必ず存在する。

 

 

 

「……馬鹿」

 

 

 

携帯端末に表示された彼の名前を見て、操祈は小さく呟いた。

 

彼に告白しようとした時も、いきなり浮気宣言をされた時も。

 

ちゃんと我慢していた、想い人への【心理掌握(メンタルアウト)】。

 

 

 

 

 

「……永聖が悪いんだから」

 

 

 

 

 




食蜂さんは二次創作における約束された勝利のヒロイン。
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