とある科学の歪曲時計   作:割り箸戦隊

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第19話

 

第七学区にある警備員の詰所。

デスクの上で学園都市製の空気清浄機を作動させて、女性職員の黄泉川愛穂(よみかわあいほ)は紫煙をくゆらせていた。

彼女が情報端末で『今回の事件』の資料をざっくりと眺めていると、同僚の男性が疲れきった様子で部屋の敷居を跨いでくる。

同僚は手慣れた動作で煙草に火をつけると、早速とばかりに苛立ちを吐き出してきた。

 

 

「全っ然、俺の話を聞いてねーな。あのガキは」

「あははっ、でも見た目からしてわかってたことだし。アイツは完全に素行不良の悪ガキじゃんか」

「あんなのが超能力者(レベル5)だなんて悪夢だぜ。何を聞いても『それはきっと、俺が正義の味方だったから』の一点張りだ」

「くっ、あはははっ。そんな前代未聞の事情聴取になるなら私も立ち合ってみたかったじゃんよ」

 

 

話す度にイライラが増していく様子の同僚を見て、黄泉川はさらに笑いが込み上げてくる。

ひたすら笑っていた黄泉川だったが、いつの間にか真剣な表情に変わっていた同僚に見つめられると、彼女も一瞬で雰囲気を切り替えた。

 

 

「で、そっちはどうなったんだ?」

「こっちも同じく一点張りじゃん。二人とも厳重注意だけで処置完了、追加捜査も事後観察も必要なし。だそうじゃんよ」

「はぁ?どう見ても真っ黒じゃねーかよ」

 

 

超能力者(レベル5)の二人による私闘。それが今回の事件。

救急車が呼ばれた直後に、事件性ありと判断されて出動することになった黄泉川。そんな彼女が目撃したものは、爆撃地のようになった工場の跡地と三人の学生達だった。

その内、二人の少年達は意識不明。通報した少女は気が動転していて、まともに受け答えすらできない状態。

少年達をそれぞれ病院に搬送したあと。ようやく落ち着いた少女に事情聴取を行い、黄泉川は事件の異常性を知ることになる。

 

少年達は超能力者(レベル5)の【第一位】と【第四位】。

通報した少女自身も同じく超能力者(レベル5)の【第三位】。

 

学園都市にたったの八人しかいない存在が、今回の事件に三人も関わっていたのだ。

『これは何か裏がある』そう感じざるを得ない。しかし彼女らが上層部から与えられた指令は事件の調査ではなく、後始末と二人の少年への厳重注意のみ。

ほとんどの警備員はそんな上層部の意向に従うが、黄泉川を始めとした数名は個人的な調査を進めることに決めたのだった。

 

 

「そう、この事件は間違いなく裏があるじゃん。上層部がひた隠しにしてる学園都市の闇って奴がね」

「チッ、本当に胸糞悪い話だ。俺はよ、未だに『特力研』で見た光景が夢に出てくるくらいなんだぜ」

「アンタが目を背けたいなら止めはしないけど。私たちが諦めないからこそ、救える命だってあるじゃんよ」

「……わかってんだよ、そんなことは」

 

 

能力開発を受けた人間は、一人につき一つの能力しか使えない。

そんな学園都市の常識を作り上げたのが、多重能力者(デュアルスキル)の研究施設。

特例能力者多重調整技術研究所。通称『特力研』。

そこで犠牲になってしまった『置き去り』達の姿を知る二人は、険しい表情を崩さずに会話を続ける。

 

 

「問題はどいつから探って行くかだ。俺達の人数的に三人同時に調査するのは無理だろうしな」

「そんなの考えるまでもないじゃんよ。まずは【一方通行(アクセラレータ)】で決まりじゃん。彼は過去に『特力研』にいたことがわかってるんだしね」

「それはそうだがな。【歪曲時計(ワールドクロック)】の書庫の閲覧規制も相当に怪しいぜ?」

「書庫には【第二位】と【第五位】も同レベルの規制が掛けられてるじゃんよ。それに、あんな証言をされちゃうとね」

「……何の話だ?」

「【超電磁砲(レールガン)】が言うには『アイツは何も悪くない』らしいじゃん。もしかしたら本当に『正義の味方』だったのかもね」

 

 

彼女の証言は何かを隠しているような曖昧な内容ばかりだったが、この発言だけはハッキリと言いきっていたのだ。

黄泉川のそんな意見を聞いて、同僚は顔をしかめて呟いた。

 

 

 

「あんなクソ生意気な『正義の味方』が居てたまるかよ」

 

 

 

一方通行(アクセラレータ)】は未だ意識を取り戻していない。

担当医によると命に別状はないらしいが、彼の能力に『反射』されて本格的な治療ができない状況なんだとか。

それはともかく、彼が退院してからの事情聴取は黄泉川が行うことに決まっている。一筋縄では行かないであろう少年に、どんな会話を切り出してみようか。

黄泉川は二本目の煙草に火をつけて、まだ見ぬ少年に思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五学区は大学や短大が数多く存在する学区である。

自然と成人向けの施設などもこの学区にあることが多く、彼女が連れてこられた場所もそういった類の施設であった。

巨大な液晶画面に並んだ、用途不明でいかがわしい部屋の数々。

それを慣れた様子で眺める少年。久遠永聖がこちらに向かって楽しげに話しかけてきた。

 

 

「弓箭はどれがいい?俺のオススメは無重力ベッドがある部屋なんだけど」

「し、知りませんっ」

「部屋の中がプラネタリウムで宇宙空間みたいになっててさぁ。ぶっ飛んでて笑えるんだよな」

「は、早く選んで下さいっ、別にどこの部屋でも問題はないんですからっ!!」

 

 

顔を真っ赤にして狼狽える少女。弓箭猟虎は彼を急かすが、そんな彼女の主張はあっさりとスルーされてしまった。

普段は絶対に着ないような露出度の高い服装に、髪色も髪型も普段と違う黒毛のポニーテール。

垣根から「変装してから街に出て、久遠にナンパされろ」という理解不能な指示を受けた彼女は真面目にそれを遂行し、こんな奇っ怪な場所に連れ込まれてしまったのだった。

 

 

「まぁ、せっかく来たんだしさ。先輩との話が終わったら泊まっていこうよ」

「と、泊まッ!?い、いや、嫌ですっ、なな、何を考えてるんですか!!」

「俺の考えが知りたいなら、ちゃんとあとで教えてあげるよ。弓箭の身体に直接な」

「は、はぅあっ!?い、いきなり手を繋がないで下さいっ」

 

 

なんでも彼は現在、上層部の連中に監視されているのだとか。まあ、先ほど本人に聞いた話によると正確には【メンバー】の仲介役に、だそうだが。

つまり垣根はそれを予測して、弓箭に意味不明な命令を下してきたということらしい。彼は変装した弓箭を見てすぐにそれを理解したようで、ここに来るまでの道中に小声で解説をしてくれた。

 

結局、彼はいつまでたっても部屋を選ばないので、弓箭が画面を見ずに部屋を決めることになる。

どうせそのまま垣根の待つ部屋に向かうのだから、全く悩む必要などないのだ。

二人はエレベーターに乗り込み、指定された階数のボタンを押す。

学園都市製のエレベーターは静かすぎるから、本当に上昇しているのか不安になることがあるな。などと弓箭が思っていると、隣に佇んでいる彼がふざけたような口調で声をかけてきた。

 

 

「それにしても、床から天井まで全面が鏡仕様になってる部屋かぁ。弓箭って意外と大胆なんだな」

「な、ななな、なっ何をっ」

「まぁ、俺はどんな部屋でも構わないんだけど。全てをさらけ出したい願望でもあるのか?」

「ち、違いますっ!!だ、だって使わないんですから、どんな部屋でも一緒じゃないですか!!」

「本当に弓箭は反応がおもしろいなぁ。ずーっと苛めたくなるタイプって感じだ」

 

 

ケラケラと笑う彼を、弓箭は唸りながら睨みつける。

もうすっかり慣れてしまったが、相変わらずこの少年は何を考えているのかよくわからない。

弓箭が初めて出会った時は冷酷な殺人鬼のような雰囲気だったのに、近頃の彼はまるで表の住人のような一面ばかり見せてくる。

それ故に、ふとした拍子に現れる闇の住人の一面が恐ろしくもあるのだが。

弓箭はこれからも続くであろうこの人格破綻者との付き合いが憂鬱になり、それを振り払うようにエレベーターの階数表示を確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは普段からよく利用するホテルの一つなのだが、久遠の推測が正しければこの先に垣根が待っているはずだ。

弓箭に与えられた指令の中に、ついでのように付け加えられたという数字列。それが指し示す部屋をノックして返事を待つ。

もしも全く関係ない人物が出てくるようなら、弓箭を説明不足の罰として一晩中可愛がってやろう。そんな勝手なことを考えていると、ドアが開いて見知った少女が顔を覗かせた。

 

 

「あら、遅かったわね。彼、お待ちかねよ」

 

 

【スクール】の正規構成員。ホステス嬢みたいな格好の少女。どうやら久遠の推測は間違っていなかったらしい。

彼女に案内されて、久遠達は古風な茶室のようになっていた室内に入っていく。

そこで座布団に行儀悪く座り込んでいたホストのような男。垣根帝督が軽く手を上げてから声をかけてきた。

 

 

「よお、相変わらず滅茶苦茶だな。お前の行動はよ」

「そんな誉めないでくれよ。先輩」

「いや、別に誉めちゃいねえんだが。ま、とりあえず座れ」

 

 

垣根に促されて、久遠は対面の座布団に座り込む。

二人とも礼儀作法などはガン無視しているので、茶室の格式高い空間と正反対の不良の集会みたいになってしまっていた。

 

 

「まず最初の報告なんだけどさ。多分、俺らが組んでるのも上層部に把握されてるよ」

「その程度なら予測済みだ。こうして情報交換するだけなら問題はない。それに連中も全ての情報を共有してるわけじゃねえだろうしな」

「……なら、どの辺りまでバレてると思う?」

「お前の行動は大半が把握されてるだろうな。いくらなんでも派手に動きすぎなんだよ」

 

 

垣根はそう言うと、呆れたような表情を浮かべた。

それに関しては完全に反論する余地はないが、そんな派手な行動によって手に入れた情報もある。

 

 

「でもさ、『絶対能力進化計画』はぶっ潰してやったぜ」

「こっちからは詳細が探れてねえんだが。凍結の決め手は何だ?」

「協力者から聞いた話だと、俺との戦闘の影響で【一方通行(アクセラレータ)】の成長を誘導するのが困難になったから、らしいよ」

 

 

この『協力者』というのは御坂でもクローンでもなく、布束砥信のこと。引き継ぎ先の研究施設に軟禁されていたという彼女は、再会した時にそう語っていた。

久遠によって【一方通行(アクセラレータ)】の成長の方向性が乱されてしまい、演算装置の『樹形図の設計者』が大破しているために再演算ができないから、という理屈なのだろう。

 

もっとも、布束はそのことは知らないようだったが。

 

垣根は先ほどの説明では納得できないようで、眉をひそめて考え込んでいるようだった。久遠は円滑に会話を進めるために、この爆弾とも言える情報を投下することに決める。

 

 

「それに『樹形図の設計者』が大破してるから、実験の再演算はできないんだよな」

「……は?おい、ちょっと待て。何の話だ?」

「そのままだよ。世界最高峰のスーパーコンピュータ『樹形図の設計者』は、もうこの世に存在しないんだ」

 

 

これには垣根だけではなく、脇に座っていた二人の女の子も驚愕を隠せない様子だった。続きを促すように見つめてくる三人に向かって、久遠はゆっくりと口を開いていく。

 

 

「俺も最初は信じられなかったんだけど、これは確かな情報だ。【超電磁砲(レールガン)】がハッキングで統括理事会への報告データを確認したらしい」

「ハッ、そいつは想定外の情報だぜ。だが、これでアレイスターの監視方法はかなり絞られた」

「……どういう意味だよ?」

「『アレイスターは俺達の動向を知りすぎてる』。俺は通常の監視に加えて、要注意人物の動向を『樹形図の設計者』で予測演算でもしてるんじゃねえかと睨んでたんだが、どうやらそいつは間違っていたらしい」

 

 

そして久遠は引き続いて【一方通行(アクセラレータ)】の『反射』の攻略方法も伝えていく。

再び思考に耽りだした垣根から視線を外して、久遠は弓箭に飲み物を要求することにした。

素直に頷いてお茶を用意しに行く弓箭を見つめながら、何でもないことのように会話を続ける。

 

 

「それにしても、俺が見逃されてる理由がわからないんだよなぁ」

「自分が危ない橋を渡ってる自覚があったのか。お前」

「それでもまっすぐ突き進む。みんなの久遠永聖は、そんな物語の主人公のような少年なんだ」

「ふふっ」

 

 

二人の会話を黙って聞いていたホステス嬢みたいな少女が急に笑いだした。

久遠がそちらに目を向けると小馬鹿にしたような彼女の瞳に見つめられ、何だか気まずくなって視線を外す。

 

それにしても、これが本当にわからないのだ。

二日前、仲介役の少女に電話を割り込まれたあの日。それなりの時間交わされた会話は要領を得ない内容だった。

上層部に逆らう者は粛清の対象になることもあるとか、仲介役も連帯責任になる場合があるので勘弁して欲しいだとか。

どれも今さらすぎる内容ばかりで、肩透かしをくらってしまった。

 

それに、これは勘違いなのかもしれないが。仲介役の少女の雰囲気は、何故か久遠のことを心配しているように感じられたのだ。

 

 

「お前が【一方通行(アクセラレータ)】をブチ殺したんなら話は単純だったんだがな。正直、意味のわからねえ状況になっちまってる」

「……アレイスターの『プラン』。その『第一候補』に変更はあると思うか?」

「あのクソ野郎が生きてんなら変更はないはずだが。それも現段階ではわからねえな」

「俺が放置されてるのが不気味でさ。仲介役は監視してるみたいだけど、それがアレイスターの指示とは思えないし」

 

 

そこで弓箭が運んできたお茶に口をつけて。一旦、二人の会話が止まる。

喉を潤してから『プラン』について議論する中で、久遠は『絶対能力進化計画』に感じた違和感を話すことにした。

 

各所に漏れていた実験の機密情報。それに『妹達』の乱雑な取り扱い。

そして、何よりも御坂や久遠が実験を阻止するために意図的に呼び寄せられたように感じたこと。

 

 

「なぁ、『絶対能力進化計画』は()()()()()()()()()()()。なんてありえると思う?」

「……アレイスターは同時に複数の『プラン』を進行してやがる。つまり実験が凍結しても支障はなかったのかもしれねえな」

「これだけやっても『プラン』は揺らぎもしないってことか」

 

 

垣根の推測では、アレイスターは『絶対能力進化計画』が完遂しようが凍結しようが問題はなかったらしい。それが事実なら久遠への処置が温いのも頷けるのかもしれない。

しかし、ならばあの実験は『プラン』において重要なものではなかったのだろうか。

学園都市の悲願とも言える絶対能力(レベル6)への到達は、間違いなくアレイスターも望んでいる『プラン』の中核だと考えていたが。

 

 

「いや、『絶対能力進化計画』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってことだ。それがお前か【超電磁砲(レールガン)】かはわからねえがな」

「チッ、本当に薄気味悪いな。何を企んでるかわからないってのは」

「ま、当面は情報収集だな。『プラン』の詳細が最優先だが、他にも把握するべきことで溢れちまってる」

「なら、俺は引き続き『窓のないビル』と『仲介役』に探りを入れてみるよ」

「こっちは『アレイスターの監視方法の特定』、『統括理事会の動向調査』でいく。これ以上は無駄に引っ掻き回すなよ、次は容赦なく見捨てるぜ」

 

 

そう言って垣根は立ち上がる。今回はこれで解散らしい。

久遠達三人も揃って立ち上がり、出口に向かって歩いていく。

垣根はドアのノブに手をかけたところで停止して、こちらを馬鹿にしたような表情で振り返ってきた。

 

 

「今回は【超電磁砲(レールガン)】と随分仲良くしてたようだがよ。お前、確か【心理掌握(メンタルアウト)】にも手を出してなかったか?」

「俺が二股してるみたいな言いがかりはやめてくれ。名誉毀損って知ってるか?」

「ハッ、どうだかな。せいぜい深入りしないことだ。俺らみたいなクソ外道はどうせ誰も守れやしねえんだからよ」

 

 

通路に出ながらヒラヒラと手を振る垣根と、それに続くホステス嬢みたいな少女。

久遠はそれを黙って見送り、トコトコと着いていこうとしていた弓箭の腕を掴む。

 

 

「ひ、ひゃう!?な、ななな、なんですか!?」

「いやいや、先輩達と一緒に出たら意味ないだろ?」

 

 

上層部の連中には今回の密談もバレているのかもしれないが、全く隠蔽する意味がない訳でもない。

ヤツらがどんな監視方法を使用しているか判明するまでは、必要最低限の隠蔽工作はするべきなのだ。

 

 

 

「じゃあ早速だけど、弓箭が選んだ部屋に行こうか。鏡とベッド以外は何もない場所だからさぁ、俺を退屈させないでくれよな」

「は、はぅあっ!?ちょっとまっ、引っ張らないで、はぅっ!?」

 

 

 

真っ赤な顔でパニック状態になった弓箭の腰に手を回して、垣根達とは逆方向に歩きだす。

明日になったら『17拠点』に顔を出してみようか。そろそろ馬場の調査も一区切りついているだろうし。

久遠はそんなことを考えながら、ついに諦めておとなしくなった弓箭を抱き寄せた。

 

 

 




やっと垣根を再登場させられました。
あと、一方通行は原作より一足早く黄泉川と出会います。
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