とある科学の歪曲時計   作:割り箸戦隊

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第23話

 

屍喰部隊(スカベンジャー)】は学園都市の暗部組織の中でも、さほど重要視されていない組織である。

つけられた蔑称は暗部の二軍。そんな雑な扱いを受ける存在に明確な役割などあるはずもなく。彼女達は顔も知らない仲介役から与えられた下請け企業のような依頼をひたすら引き受けることしか許されていない。

 

先日の任務を失敗してからは更に扱いが悪化しており、近頃は暗部組織に依頼するような仕事なのかと疑問に思ってしまうほどの雑用に駆り出され続けていた。

 

本日の依頼は無事に完了。薬丸は同僚の構成員であるナルと清ヶと共に、次の目的地に向かってダラダラと移動しているところ。

 

 

「ふぅ、やっと終わったねー」

「……ナルが集合時間に遅れて来るのが悪いんでしょ」

「しょーがないじゃん。仲介役の指示がテキトーなんだからさぁ」

「ま、確かに。今回の依頼は突発すぎだよな」

 

 

つい先ほどまで、スキルアウト達が根城にしていた廃墟。

あそこを彼らに不法占拠されるのは、今回の依頼主にとって都合の悪いことであったらしい。

いくら武装しているとはいえ、所詮は無能力者の集団。その程度の相手に苦戦するほど【屍喰部隊】は弱くはないが、彼らは無駄に人数を揃えていたのだった。

 

 

「それにさー、こんな雑用にマジになるのってアホらしくない?」

「だな。草むしりみてーなのばっかりだしよー」

「文句ばっかり言わないでよ。あの時の任務でミスっちゃったんだから仕方ないじゃない」

「わかってるけどさぁ。ずーっとこんな調子じゃヤル気もなくなっちゃうって」

 

 

いつものファンシーな服装のナルが愚痴をこぼして、セーラー服姿の清ヶがそれに同意する。

そしてキャスケット帽をかぶった少女。薬丸はこうなった二人を宥めるのにすっかり慣れてしまっていた。

 

彼女達はその後も他愛ない雑談を続けるが、薄暗い路地裏に入ったところで会話を止める。

 

 

「三人ともご苦労様。あれから問題はなかったかな?」

 

 

電柱に寄り掛かって待機していたマスクを着けた少女。【屍喰部隊】のリーダーが声をかけてきた。

今回の任務は捜索系の能力者である彼女が遠方から指示を送り、それぞれ三人が逃げ道を潰していく作戦をとっていたのだ。

リーダーの能力は昼間には著しく性能が低下するので、こちらの動きが上手く把握できず不安にさせてしまったのかもしれない。

 

 

「問題ないぜ。むしろ余裕すぎて退屈だったくらいだ」

「そーだね。まぁ、これくらいは【屍喰部隊】のエースとしては当然っていうかぁ」

「……そうか。これでまたAランク復帰に近づけたな」

 

 

それを聞いたリーダーは安堵したような表情を浮かべると、少しだけ嬉しそうな声色で返事をした。

あの夜の任務を失敗したことで、降格処分を受けることになった【屍喰部隊】。彼女達はもう一つの施設を防衛していた組織の足を引っ張ってしまったことも重なり、それなりに厳しいペナルティが課せられている。

仲介役が言うには雀の涙のような報酬しか得られない依頼を何度もこなすことで、ようやく元のランクに戻してくれるのだとか。

 

 

「で、これからどーすんだ?」

「とりあえず拠点に戻ろう。任務の報告が終わったらミーティングをしたいんだ」

「えぇー、ミーティングなんて必要ないって。今回もボクの大活躍で楽勝だったじゃんか」

「ほら、いいから行くわよ」

 

 

アンタの意見はさほど役にたたないだろうけど。薬丸はそう思いながらナルの背中を押す。

そして合流した四人は再び路地裏を歩いて移動していたのだが、明るい場所に出たところで突如として女性の叫び声が響きわたってきた。

 

 

「ちぇいさーっ!!」

 

 

それに続いてズドンという轟音。普通の日常生活ではあり得ない音につられてそちらの方角を見ると、そこでは異様な光景が広がっていた。

 

 

「やるなぁ。こんな裏技があったなんて知らなかったよ」

「ふふん。でしょ?なんかジュース固定してるバネが緩んでるみたいでさ、特定の場所に衝撃を加えると落ちてきちゃうのよね」

「へぇ。学園都市の自販機なのに随分とお粗末な欠陥だな」

「こんなボロっちいのなんて外部から持ってきた型落ちでしょ」

「それもそうか」

 

 

飲料水の自動販売機の前で楽しげに談笑している二人の男女。

自販機荒らしらしき二人は取り出し口に手を突っ込んで盗品のジュースを物色しているようであった。

 

このような軽犯罪は学園都市においてそれほど珍しい出来事ではない。これは公然の秘密なのだが、学生の街であるこの都市はあまり治安がよろしくないのだ。

不良グループであるスキルアウトが引き起こす犯罪行為や、超能力を悪用した能力犯罪など。その程度の事件は学園都市では日常茶飯事だったりする。

 

薬丸が驚いた理由は自販機荒らしの服装が普通ではなかったから。

常盤台中学と長点上機学園。学園都市でも五本の指に入ると名高い名門校の学生服を着ている二人は、威風堂々とした仕草で盗品を持ち去っていく。

 

 

「……なんなのよ、アイツら」

 

 

薬丸が無意識の内に呟くと、隣にいた清ヶとナルが同調するような声を上げてきた。

 

 

「アレって確か常盤台と長点上機の制服だったよな。あんなアウトローな感じのヤツもいるのか」

「ほっときなよ。いい子ちゃんの優等生に紛れてるようなヤツらなんてさ」

「……ナルにしてはまともなこと言うわね」

 

 

確かに下手に関わらない方が賢明だろう。見たところ警報装置の類は作動していないようだったが、もし誰かが警備員に通報していたら近場にいるだけで面倒なことになる。

さっさとこの場を離れるべきだ。薬丸達はそう判断して移動を再開するが、リーダーが自販機荒らしの二人に視線を向けたまま棒立ちになっていることに気がついた。

 

 

「リーダー、どうかしたの?」

「……いや、何でもない。おそらく僕の勘違いだろう」

 

 

これは、しばらくあとの話になるのだが。

【屍喰部隊】の構成員はとある事情で超能力者(レベル5)達の顔を把握することになり、この時の自販機荒らしの正体を知ることになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期が始まってから三日目。

久遠は学校帰りに、とある少女と予期せぬ対面をすることになっていた。何故か彼女は得意げな表情を浮かべていて、こちらに人差し指を突きつけてきている。

現在の場所は長点上機学園の校門前。下校する生徒達が遠巻きに眺めている中で、常盤台中学の制服に身を包んだ少女は恥ずかしがる素振りもなく口火を切った。

 

 

「いたいた。いやがったわねアンタっ!!」

「……あのさぁ」

 

 

少女の名前は御坂美琴。ここは本来なら長点上機の学生しか存在しない空間であるため、彼女は非常に悪目立ちしてしまっている。

自覚があるのか、それともないのか。

久遠は深いため息をついて、世間知らずのお嬢様に一般常識を教えて差し上げることにした。

 

 

「お前は携帯電話っていう文明の利器を知らないのか?」

「あん?アンタが逃げないようにわざわざ出向いてやっただけよ」

「……そうか。で、何しに来たんだよ?」

 

 

しかし会話が成立しなかったので、久遠は諦めて用件を尋ねることにする。

なにやら妙なテンションになっている御坂は腰に両手を当てて、大きな声で言い放った。

 

 

「アンタにはキッチリ責任を取って貰うわよっ!!」

 

 

久遠が予想外すぎる発言に硬直していると、二人を遠巻きに眺めていたギャラリー達がひそひそと内緒話を始めていく。

 

 

「……ねぇ、今の聞いてた?まさかとは思うけど」

 

「……あの子って常盤台の【超電磁砲(レールガン)】だよな?」

 

「……『久遠は知り合った美少女全員と交際する』。あの信じられない噂は本当だったのか」

 

「……責任って言ってたわよね。しかも、逃げないようにここまで来たって」

 

 

一瞬の内に拡散されていく根も葉もない噂話。

久遠は無表情で御坂の肩に手を置いて。

 

 

「……ぶっ殺すぞ」

 

 

無実の少年はドス黒い殺意を撒き散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず別の場所へ移動することになった二人。

ようやく御坂は自分の発言がどんな誤解を招いたのかに理解が及んだらしい。顔を真っ赤に染めた彼女はお詫びとしてジュースを奢ると言いだして、何故か通りがかりの自販機に凄まじい勢いの蹴りを放ったのだった。

久遠の聞き間違いでなければこの裏技は『常盤台中学内伝』のものだそうだが、常盤台のお嬢様の中には御坂みたいな荒くれ者が他にも多数在籍しているということなのだろうか。

『学舎の園』のお嬢様学校。栄光の常盤台中学の光と闇。久遠がそんなことを考えていると、噴水広場のベンチに座っている御坂が仕切り直すように咳払いをしてきた。

 

 

「で、今日はアンタに言ってやらないと気が済まないコトがあんのよ」

「……ふぅん」

「なによっ、その気の抜けた返事はっ!!」

「わかったって、ちゃんと聞くから話を進めてくれよ」

 

 

問い詰めるような口調の御坂に対して、久遠は極限まで脱力した口調で対応する。

久遠の記憶では御坂と会うのは結構久しぶりのはずなのだが、彼女と会っていない間に何か怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。

何か心当たりがないかと思い返してみたが、久遠の行動や言動に問題などあろうはずもない。

 

 

「まずは、私が夏休みに連絡したのは忘れてないわよね?」

「……『ちょっとツラ貸しなさい』って件名のヤツ?」

「それそれ。アンタがそれに返信しなかった理由をキリキリ説明しなさいっ!!」

「なんだ、俺に無視されて怒ってるのかよ。御坂も意外と可愛いとこあるんだな」

 

 

久遠に揶揄された御坂は再び頬を紅潮させるが、どうやら彼女の怒りはまだ収まらないらしい。

 

 

「ち、違うわよっ!!それに私は無視した理由を聞いてんのっ!!」

「いや、俺も色々と忙しくてさぁ。これはあまり知られていないけど、実はモテすぎるのも大変なんだよ」

 

 

女の子にモテすぎるが故の苦悩。こればかりはモテない者達にはわからないだろうが、モテることによる弊害だって当然のように存在するのだ。

というか、今も嫉妬に狂った女の子に絡まれている訳だから現在進行形と言えるのかもしれない。

 

 

「別に御坂を蔑ろにするつもりはないんだ。でも、これだけはわかって欲しい」

 

 

久遠は手に持っていたジュースの缶をベンチに置いて、御坂の顔を正面から見つめる。

戸惑ったような表情で見つめ返してきた彼女に向けて、久遠は自然な笑顔で語りかけた。

 

 

 

「俺が誰よりもモテモテなイケメンだってことをさ」

「ふ、ざ、け、ん、な、ァーーーッ!!」

 

 

 

この世界は広いし、色んな特技を持った人がいる。それは理解しているが、ただの叫び声で『未来』からの警告を発動させるような人類は御坂だけであって欲しい。久遠はそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野獣のように吠え猛る御坂を宥めること数十分。

やっと静かになった彼女はジュースで喉を潤すと、再び一転して久遠を糾弾し始めた。

御坂の言い分をざっくりと聞き流したところによると、彼女は久遠の『妹達』への対応に酷く不満があるらしい。

 

 

「基本的にアンタの発言はデリカシーに欠けてんのよ。女の子の身体的特徴を比較するなんて最低なんだから。って、アンタちゃんと聞いてんのっ!?」

「……あぁ、聞こえてるよ」

「それなら返事くらいしなさいよね。で、さっきも言ったけど成長期の胸囲に優劣なんてものは存在しないの。現時点で語るのはナンセンスだってコトくらいはアンタにもわかるでしょ?」

「……でもさぁ」

「そもそも、あんな駄肉の塊がなんだっていうのよ。たかが胸が大きいだけで調子に乗ってるヤツらは滑稽っていうか」

「……でもさ、御坂」

「なによ?なんか文句あるわけ?」

 

 

一切の口答えは許さない。そんな鋼の意思が込められた瞳から逃げるように視線を逸らして、久遠は静かに本音を呟いた。

 

 

「……でも、胸が大きい方が揉んだとき気持ちいいだろ?」

 

 

パチリと何かが弾けるような音が鳴り響く。

御坂の怒りに呼応した【超電磁砲(レールガン)】から、裸眼で目視できる規模の電撃が迸っているようだった。

彼女は顔をうつむかせて、不気味なほどに抑揚のない声で語りだす。

 

 

「……へぇ。これだけ言ってもわからないなんてね」

「いや、御坂の言い分はわかったけどさ。やっぱり俺は」

「アンタはもう黙ってなさい。こうなったら徹底的にわからせてやるわ」

 

 

そして御坂はゆらりと立ち上がると、電撃を帯びた指をこちらに向けた。

 

 

「……なぁ、まさかこれって戦闘する流れなのか?」

 

 

問いを投げられた御坂は決意を固めたような表情で、これは明らかに戦闘態勢に入っているような気がするのだが。

いや、暗部に所属する久遠ならともかく、御坂は表側の住人。無関係な一般人がいる場所での戦闘は避けるはず。

 

ただのハッタリ。久遠はそう結論づけて。

 

質問の回答として雷撃の槍が襲いかかってきたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疲れきった表情を浮かべた女性の警備員。

「広場のど真ん中で高位能力者が痴話喧嘩してる」。そんな通報を受けた黄泉川愛穂は即座に現場に向かったのだが、件の高位能力者は誠に残念ながら黄泉川の知り合いだったのだ。

 

今も険悪な雰囲気で睨み合っている少年と少女。

久遠と御坂はこちらの指導など聞いてはいないようで、下手に刺激を与えたら再び戦闘を開始しかねない様子である。

それを確認した黄泉川は目頭を押さえ、二人の問題児に問いかけることにした。

 

 

「……で、今回の騒動は何が原因じゃんよ?」

「こいつがいきなり豹変して暴れだしたんだ。違法薬物の反応がないか検査した方がいい」

「アンタが悪いんでしょーがぁッ!!」

「はぁ?俺は何もしてないだろ。責任転嫁はやめてくれ」

 

 

またしても二人はケンカ腰になっていく。

当然だが、警備員としてそれを見過ごすことはできない。黄泉川は両者を抑えるように手のひらを向けて、教育指導を再開する。

 

 

「幸い周囲の人達に被害はなかったけど、君たち超能力者(レベル5)が好き勝手に暴れてたら、いずれ取り返しのつかないことが起こりかねないじゃんよ」

「……御坂、この女の言う通りだぜ」

「自分は無関係みたいに言ってんじゃないわよっ!!」

 

 

これからは高位能力者としての自覚を持って、みんなの手本となるような生活を心がけて欲しい。黄泉川はそんな風に言葉を続ける予定だったのだが、彼らの態度を見るに言うだけ無駄になりそうだった。

 

つい最近、紆余曲折あって黄泉川の自宅マンションに居候することになった少年がそうであるように、どうやら超能力者(レベル5)の能力者というのは癖者揃いであるらしい。

あれから黄泉川は例の事件の裏側。つまり『絶対能力進化計画』の存在について把握することができていた。

そんな非合法の実験を中止に追い込んだ二人。彼らは黄泉川を無視して、飽きもせずに口喧嘩を続けている。

 

 

「……ほら、イチャついてないで解散するじゃん。その続きは他の人に迷惑がかからない場所でやるじゃんよ」

 

 

やがて黄泉川は最後まで指導するのを諦めて、二人の痴話喧嘩を終わらせることに決めた。

学園都市の警備員は教職と掛け持ちであるため、黄泉川は非常に多忙なのである。いくら相手が超能力者(レベル5)だとしても痴話喧嘩に付き合ってやるほど暇ではない。

 

 

「い、イチャついてなんかないですっ!!」

「……俺は無抵抗で攻撃されてただけなのに」

 

 

頬を赤く染めながら反論する御坂と、しかめっ面で納得できないように呟く久遠。

黄泉川は二人の対照的な反応に笑い、その場をあとにする。そして近くに駐車していた車両に乗り込むと、優しい雰囲気で独り言を呟いた。

 

 

「ま、二人とも仲が良さそうで何よりじゃん」

 

 

『絶対能力進化計画』。

そんな学園都市の闇に囚われてしまった生徒達。しかし、こちらの二人は特に心配する必要はなさそうであった。

 

やはり黄泉川がやるべきことは。

 

 

「【一方通行(アクセラレータ)】と【打ち止め(ラストオーダー)】。こっちも仲は悪くないんだけど、抱えてる事情が複雑すぎるじゃんよ」

 

 

実験の加害者側である少年と、被害者側のクローンとして生み出された少女。

自宅マンションで待っているはずの同居人を思い出して、黄泉川はさらに笑みを深めた。

 

 




かなり更新が遅れました。次話でこの章は終わりです。

素人が何言ってんだと思われそうですが、前回の話から若干スランプ気味です。
次話投稿の前に前回の話を手直しする予定。話の内容は変わらないですが前半の地の文がなんか変に感じたので。
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