とある科学の歪曲時計   作:割り箸戦隊

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第24話

 

とある学校の空き教室に用意された、臨時の会議室。

 

そこに集められた面々は会議を進行することを放棄し、ただひたすらに沈黙を続けていた。

その原因となっているのは、先ほど進行役がホワイトボードに貼りつけた『とある八人』の個人情報。

彼らが通常であれば入手困難なそれを用意することができたのは、この会議の議題が他ならぬ学園都市の上層部によって提案されたからであった。

 

 

「……本当に、例の案が通ってしまったんですか?」

 

 

やがて沈黙に耐えられなくなったのか、会議の参加者の一人が覇気のない声で呟いた。

できれば嘘であって欲しい。他の参加者たちは揃ってそう願うが、この会議の議長によって即座に肯定されてしまう。

 

 

「わかってないんだ。上層部の連中は」

 

 

これから自分たちに待ち受ける運命を嘆くかのように、別の参加者の一人が吐き捨てる。自ら言葉にしたことで感情が昂ぶってきてしまったのか、彼は続けて机に拳を叩きつけ怒鳴り散らした。

 

 

「アイツらはッ、隠しても隠しきれない、人格破綻者の集まりなんだぞッ!!」

 

 

怒りを爆発させる者と、どこか諦めたような雰囲気の参加者たち。

そんな光景を見ながらも、会議の議長はあくまで事務的に発言をする。

 

 

「……やめるんだ。『方針』が決まった以上は、我々はそれに従うしかない」

 

 

それが我々に課せられた任務なのだから。

そう続いた議長の言葉に口を挟める者はいない。沈黙していた会議の参加者たちは、次第に覚悟を決めたような表情に変化していった。

 

彼らは学園都市の最大イベントの一つ、大覇星祭の実行委員会。

そして上層部から彼らに与えられた任務は、全世界に配信される大覇星祭の選手宣誓を学園都市トップクラスの能力者に行ってもらうこと。

 

つまりそれは。

 

 

超能力者(レベル5)に選手宣誓を依頼するということ。

 

 

会議室で実行委員会の面々はそれぞれ自身の記憶を思い返していた。

学園都市が誇る超能力者(レベル5)たちの、とても信じたくない異常な『噂』の数々を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在の時刻は放課後。

久遠は担任の教師に、長点上機学園の応接室に呼び出されているところであった。

迎えにきた女の子たちに聞いたところによると、久遠と話をしたいと言う人物が来訪しているのだとか。

 

かつて中学校をほとんど欠席していた。いや、籍を置いているだけだった久遠だが、意外にも長点上機学園には自ら望んで進学を希望している。

学校に行かない生活が暇で退屈だったことや、仲良くなった女の子たちと話を合わせるためという自分勝手極まりない理由だったのだが、それで学園都市唯一の時間操作能力を手放すほど長点上機学園の首脳陣は愚かではない。

一芸に特化した人材を集めるこの学園にとって、【歪曲時計(ワールドクロック)】は他校に渡したくない能力だったという訳だ。

 

そんなこんなで長点上機学園の生徒となった久遠だが、もとより真面目に学園生活を送るような性分でもないので、呼び出しなんて無視してさっさと帰宅する予定だった。

しかし、校内で久遠と仲良くしている女の子たちに迎えに行かせるという担任の悪辣な策略によって、誠に遺憾ながら応接室に向かう流れになってしまう。

周囲を取り囲んだ女の子たちに向かって、久遠は嫌そうな顔を隠すことなく話しかけた。

 

 

「……行きたくないなぁ」

「永聖にしか頼めない話らしいから。そんなこと言わないの」

 

 

年上の女の子に窘められ、久遠は曖昧に返事をする。

この年上の女の子は、何故かやたらと久遠を弟のように扱うのだ。

胸が大きくなくて、顔が可愛くなかったら絶対に従わないのに。そんなことを考えつつ、ダラダラと歩を進めていく。

 

 

「大覇星祭の実行委員の人だって言ってたし、きっと大事な話よ」

「えっと、能力の使用制限とかじゃないかな。永聖君の能力は周囲の被害も凄そうだし」

「さっすが超能力者(レベル5)ってカンジよね。わざわざ実行委員が会いに来るなんてさー」

 

 

こちらを無視して勝手に盛り上がる三人の女の子たちを眺めながら、久遠は思考に没頭することにした。

今日の夜には垣根と情報交換をする予定になっているし、現在の状況を整理しておく必要がある。

 

あれから継続している仲介役の監視のおかげで、久遠は完全に後手に回らされていた。

 

『窓のないビル』の案内人。

馬場が作成したリストの中で、久遠が最有力の候補者と考えていた結標淡希(むすじめあわき)は、こちらが接触する前に行方不明になってしまったらしい。

彼女が在籍している霧ヶ丘女学院の生徒から聞き出した情報によると、何の兆候もなく忽然と姿をくらませたのだとか。

空間移動(テレポート)】の能力者たちの中で最も能力強度が高そうだからという単純な推測ではあったのだが、こんな狙い澄ましたようなタイミングで失踪されては疑念を抱かずにはいられない。

やはり上層部の連中にはこちらの行動はすべて筒抜けなのだろうか。いや、それとも。

 

 

「永聖君、着いたよ」

「またボーっとして。なんか最近考え事多くない?」

 

 

どうやら思考中に、目的地まで辿り着いていたらしい。

相変わらず嫌そうな表情で応接室に入室しようとする久遠だったが、ドアに手を伸ばしたところで年上の女の子に呼び止められてしまった。

 

 

「永聖。お客様なんだから、ちゃんと身嗜みは整えないとダメよ」

「どうせ大した用件じゃないって。適当に終わらせるからさぁ」

 

 

そんな気を使うような相手ではないと主張するが、あえなく却下される。

制服のカッターシャツのボタンをほとんど使用することなく、黒色のシャツを大胆に見せつける久遠の格好は、彼女には到底認められないものであったらしい。

 

 

「……これで大丈夫かな。髪とかピアスで真面目には見えないけど」

「あはははっ。久遠がちゃんと制服着てるの初めてみたかも」

 

 

年上の女の子に無理やり身嗜みを整えられ、久遠はもはやどうでもよくなってきてしまう。

さっさと家に帰りたい。久遠はそんな心境で、応接室の扉をノックもせずに乱暴に開け放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長点上機学園の応接室。

学園都市でも屈指の名門校と名高いことから予想はしていたが、気品に満ちあふれた格調高い部屋に案内されてしまい、大覇星祭の実行委員はガチガチに緊張してしまっていた。

高級感漂わせるソファーに行儀よく座り、これから始まる任務を脳内でシミュレーションしていると、さきほど自己紹介をすませた長点上機学園の校長が朗らかに笑いながら話しかけてくる。

 

 

「そんなにかしこまる必要はない。彼は一見すると気性が荒そうに見えるかもしれないが、根は優しい子だからね」

「……そ、そうなんですか?」

 

 

うむ。と一つ頷いたあと、校長はもう一人の教員。【歪曲時計(ワールドクロック)】の担任の教師だという男に話を振った。

 

 

「それよりもだ。彼の呼び出しは上手くやれたのかね?」

「……はい。久遠の性格からいって間違いないかと」

「うむ、うむ。私としてはそちらの方が心配だったくらいだよ」

 

 

校長は再び朗らかに笑っていたが、突如として何かを思いだしたかのような表情を浮かべると、わざとらしいオーバーなリアクションで右の拳を左の手のひらに打ちつけた。

 

 

「おっと。そういえば、これから理事長と大覇星祭に向けた会議があるのだった!!」

「……校長?ま、まさかとは思いますが」

「すまないが、私は席を外さなければならなくなってしまった。彼を説得するのは一筋縄ではいかないだろうが、あとは君に任せるとしよう」

 

 

校長は担任の教師にそう告げると、ソファーから立ち上がり逃げるように出入口の扉に向かって歩いて行く。

しばらく呆然としていた担任の教師は慌てて校長に追いすがり、なにやら小声で抗議らしきことを言い始めた。

 

 

「ま、待ってください!!そもそも私は久遠に依頼するべきではないと言っていたのに、無理やり強行したのは校長じゃないですか!!」

「……来客の前でみっともない真似をするのはやめなさい。それに、この案件は上層部の意向でもある。結果はどうあれ依頼をしたという形式は作らなくてはならないんだ」

「し、しかし、どう考えても久遠が納得するとは思えな」

「やる前から諦めてどうするんだ!!君が担任なのだから、それくらい自分でなんとかしたまえ!!」

 

 

最初は小声で聞き取りづらかったが、どちらも段々と声が大きくなっていき、最終的には校長が怒鳴るような大声をあげた。

そんな二人のやりとりに、実行委員はこれから自分がどんな目にあうのかをなんとなく悟ってしまい、頭を抱えてふさぎ込んでいく。

 

そして数分後。

 

実行委員はくだらない用件で呼び出されたと知り激昂した久遠永聖の殺意と恫喝にさらされ、精神的なトラウマを負ってしまうことになる。

 

超能力者(レベル5)にまともなヤツなんていない。

 

臨時の会議室に戻ったあと、彼は議長にそんな事実だけを伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来客のための施設が集まる第三学区のとあるエリア。

そこにあるビジネスホテルは学園都市で最大規模を誇るイベントである大覇星祭の期間中には予約でいっぱいになるのだが、なんの変哲もない平日は利用客もほとんどいないようで、きちんと経営が成り立っているのか心配になるほどの有り様であった。

それを哀れに思った久遠と垣根は、深刻な経営問題を抱えた三流ホテルを救済するために立ち上がり、今回の定期報告に利用してあげることになったという訳である。

 

二人はそれぞれ別々の部屋を予約して、隠蔽工作のためにあえてチェックインの時間をずらす。

そして久遠は先にチェックインする担当になったので、現在は携帯端末で暇潰しをしながら垣根の来訪を待っているところだった。

 

一般的なビジネスホテルといった感じのシンプルな室内でベッドに寝転がりながらダラダラとしていると、部屋の扉をノックもせずに開け放つ音が聞こえてくる。

自分の数時間前の行動を棚にあげて、久遠は咎めるような口調で言葉を放った。

 

 

「ノックくらいしろよ」

「時間の無駄だろ。部屋にお前が居るのはわかってんだ」

 

 

予定通りの時刻に現れたホストみたいな格好の男。垣根帝督。

久遠には人格破綻者の理屈は全く理解できなかったが、一般的に見て間違いなくこちらが正論であることは理解できた。

 

 

「ホントに常識がないよなぁ。そんなとこまで能力と一緒なのかよ」

「無駄話はあとにしろ。まずは情報交換からだ」

 

 

垣根にバッサリと話を切り捨てられてしまい、久遠は深いため息をついた。

何があったのかは知らないが、どうやら今日の垣根は虫の居所が悪いらしい。

 

 

「……やれやれ。大人になってから後悔すんなよな」

「『幻想御手(レベルアッパー)』製作者の研究データだったな」

「ここにあるよ。ウチの構成員のチップを逆行で復元してきた」

 

 

久遠が投げて渡したのは、かつて馬場が持ち出した木山春生のデータチップ。

『絶対能力進化計画』や『妹達』の他にも『幻想御手』本体のデータやら、アンインストール用のプログラム、作成資料など。

馬場は持ち出した証拠を隠滅するためにデータを消去していたが、【歪曲時計(ワールドクロック)】の時間逆行にかかれば何の問題もない。

垣根は自前で持ってきた情報端末でデータを確認すると速読で目を通していき、一息つくと関心したように呟いた。

 

 

「……伊達に研究者は名乗ってねえな」

「『幻想御手』なんて上層部の連中はとっくに対策済みだと思うけど」

「それは当然だが、構想と発想がぶっ飛んでやがる」

「確かに『幻想猛獣(AIMバースト)』を見たときは現実を疑ったけどさぁ、『幻想御手』の暴走なんて木山も絶対想定してなかったと思うぜ?」

「それでも、だ。『幻想御手』は俺達の選択肢を増やした」

 

 

垣根は手放しで称賛するが、久遠は任務中の想定外な出来事に振り回されっぱなしだったので、素直に賛同はしたくない。

 

 

「『幻想猛獣』は間違いなくアレイスターの『プラン』に絡んでる。いや、絡んでしまった。が正しいな」

「……『プラン』は一本道ではない。だが、最終的には収束する。と」

「そうだ。ただの偶発的な暴走事故なら、【メンバー】をそんなタイミングで出動させてねえだろ」

 

 

垣根は再び情報端末に視線を戻して、さらに細部まで確認していくつもりのようだった。

久遠はしばらくそれを黙って見ていたが、先ほどの会話の中で気になることがあったので直接本人に聞いてみることにする。

 

 

「なぁ、仮に『幻想猛獣』が『プラン』と関係してるのが正しいとして、その場合のアレイスターの狙いは何なんだ?」

「学園都市全能力者のAIM拡散力場を利用した兵器、もしくはシステム」

「……あのさ、たった一万人であんな化け物なんだぜ?全能力者とか想像もつかないんだけど」

 

 

垣根の仮定が正しいとしたら、アレイスターはあの虚数学区の化け物をはるかに超越する存在を自らの『プラン』に組み込んでいる可能性があるらしい。

もしも久遠がそれと対峙することになったとして、果たして勝機はあるのだろうか。

一方通行との戦闘によって【歪曲時計(ワールドクロック)】が最強の能力であるという自信が崩れてしまったからなのか、久遠は無意識のうちに戦闘を避ける方法ばかりを考えてしまっていた。

 

そもそも、久遠は『絶対能力進化計画』を凍結させるのが目的だったのだから、これ以上は深入りするべきではないのかもしれない。

 

久遠が思考に沈んでいると、今度は垣根がこちらに質問を投げかけてくる。

 

 

「お前、木山春生の本命は【歪曲時計(ワールドクロック)】だったとか言ってたよな?」

「……あー、なんか時間逆行を使いたかったらしいよ」

「なら、お前が『幻想猛獣』に取り込まれないように【メンバー】に依頼をだして状況をコントロールしてた可能性もあるな」

「『幻想猛獣』が【歪曲時計(ワールドクロック)】を取り込むとなんかあんのかね?」

「逆にアレイスターの『プラン』側が盗られたくねえのか。いや、単純に超能力者(レベル5)の演算能力は渡せないってだけだったのかもな」

 

 

垣根はそこまで言うと、おもむろに久遠へ向かってメモリーチップを投げつけてきた。

とっさに受け取ったメモリーチップが自然と視界に入ってくるが、先ほど渡した馬場のものとは色が異なっている。

 

 

「……これは?」

「お前が頼んできたリストだ。誉望にまとめさせておいた」

「おぉ、もう終わったのか。頼んでからそんなに経ってないのに」

 

 

一昨日の夜に猟虎を通して依頼した、とある能力者のリスト。

いまだに久遠の監視を続けている【メンバー】の仲介役の女を特定するために、彼女が何度か連絡手段として使用していた液体金属らしきものを操る能力の候補者をリストアップするように頼んでおいたのだ。

また馬場を適当に騙して調べさせようかとも考えたが、前回は直属の上司であるアレイスターの『窓のないビル』を調査させたばかりだし、続けて仲介役を探らせたら流石に怪しまれてしまう可能性が高い。

 

 

「誉望もやるなぁ。こっちの構成員とトレードしてくれよ」

「そいつは無理な相談だ。まあ、本筋が進展してねえから手が空いてたってだけなんだが」

「『アレイスターの監視方法の特定』だっけ?そっちが難航してるのか」

「ある程度の予想はついてるんだがな。それを確認する手段がない」

 

 

久遠はその予想を聞いてみようかとも思ったが、少し考えて今はやめておくことにした。

ただでさえ仲介役の監視に参っているのに、余計な気苦労はしたくない。まだ確定情報になっていないなら垣根に任せておいた方が気が楽だろう。

 

 

「……あとは何かある?」

「別に期待はしてねえが、そっちの『窓のないビル』の案内人はどうなった?」

「多分だけど、手掛かりが途切れた。しばらくは様子見かな」

「……ま、そうだろうな」

 

 

垣根は意味深に相づちを打つと、情報端末を閉じて帰り支度を始める。

予定より短い時間だが、今回はこれで解散か。久遠はそう判断して、最後に本日ずっと思っていたことを尋ねてみることにした。

 

 

「先輩さ、なんで今日はそんなに機嫌悪いんだ?」

「……あぁ?どうでもいいだろ」

 

 

学園都市で最大規模のイベントである大覇星祭。

それを楽しみにしているお子様たちにウケそうなビジュアルのメルヘンな能力をその身に宿した男は、忌々しげに吐き捨てた。

 

 

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