とある科学の歪曲時計   作:割り箸戦隊

3 / 26
暗部日誌
第3話


 

歪曲時計(ワールドクロック)】は、時間を操作する超能力である。

久遠永聖(くどうえいせい)の身体から数センチ以内、または直接触れている物の時間を操る。超能力者(レベル5)の【第四位】。

学園都市に住む230万人の中でも限りなく頂点に近いその能力(チカラ)を、今日も彼は遊び半分で振り回していた。

 

 

「せっかく、オマエが興味ありそうな情報手に入れたのに」

「俺も悪かったって。そんな怒んなよ」

「悪いのはオマエだけなんだよッ」

 

 

夜のとある工場。

建設途中らしいその場所で、久遠は【メンバー】の任務に駆り出されていた。

無許可でその工場を取引現場に利用していたターゲット達。

彼らは学園都市外部の敵対勢力に技術を売り渡し、私腹を肥やした反逆者であるらしい。

つまりは、彼らの殲滅が今回の依頼内容。しかも類似組織への警告とするために、惨たらしく殺して欲しいという追加注文付き。

出入口を全て封鎖され、泣き叫びながら半狂乱で逃げだす反逆者を久遠はゆっくりと追いつめていく。

視界に入った奴を、一人一人()()()()()()()()()()()黒いピアスを通して会話を続ける。

 

 

「前にお相手した風紀委員のお姉さんから連絡きちゃってさぁ。また会いたいって言うから、断れなくて」

「オマエは毎日そんな感じだろ。先に誘ったんだからこっちを優先しろよ」

「その人、風紀委員なのに堅物な感じしなくてさ。顔もスタイルも良いんだ」

「僕に言うな。そういう話は査楽としろ」

 

 

任務開始時は抵抗する奴や外に逃げようとする奴もいたが、抵抗する奴は真っ先に久遠に惨殺されて、外に逃げた奴は博士の『発明品』の餌食になってしまった。

博士の発明した作品の一つ、反射合金の粒『オジギソウ』。

久遠も何度か目にしたことがあるが、人間が骨だけ残して消えていく光景はかなり傑作で、流石はあの狂人の発明と思わせる作品である。

 

 

「オマエの好きそうな『噂』ってヤツだよ」

「へぇ。じゃあこのあと『拠点』行くから、その時に教えてくれよ」

「ちゃんと僕に謝罪したらな」

 

 

そんな風に呆気なく殺されていく仲間の姿に絶望でもしたのだろうか。

もうターゲットは気絶してる奴と、諦めてすすり泣く奴しか残っていなかった。

久遠が適当に近くにいた奴に手を伸ばすと、そいつも本日の恒例になっている命乞いを始める。

 

 

 

「お、オレ達が悪かった、だっ、だから、お願い、だ、ユルし、テ」

 

 

 

「……なぁ、コイツもこんなに反省してるんだしさぁ。馬場もそろそろ水に流してやれよな」

「ふざけんな」

 

 

血色の鍋をぶちまけたような工場でまた一人。

本日の任務完了まで、あと五分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園都市の第十八学区にある『17拠点』と名付けられたマンションの一室。

そこは久遠達三人の溜まり場になってしまった、【メンバー】の待機場所のことだった。

三人の通う学校から近いから。そんな理由で私物を山ほど持ち込まれ、そこはとても暗部の拠点とは思えない部屋になってしまっている。

久遠は任務の帰りに買ってきた差し入れのハンバーガーを手に持って、部屋の中へ入っていった。

 

 

「遅い。こんなにかかる距離じゃなかっただろ」

「差し入れ買ってきたんだよ。そんなイライラすんなって」

 

 

先に到着していた小太りな少年、馬場はイライラしながら言い放った。

昨日、約束を破ったことを未だに怒っているようだ。久遠は仕方なく宥めてやることにする。

馬場の好きな食べ物なんて知らないが、ハンバーガーが嫌いな人はそんなにいないはずだ。定位置である高級そうなソファーに座りながら、買ってきた差し入れを渡して笑いかける。

だが、渡された紙袋を見て、馬場の怒りで真っ赤だった顔が青くなった。

 

 

「……オマエ、よくこんなの食う気になるな」

「あれ、馬場ってハンバーガー嫌いだったっけ?」

 

 

先ほどまで工場内のナビ係をしていた馬場は、久遠が人間を素手でバラバラにする映像をリアルタイムで見ていたのだ。

暗部に所属してそれなりに時間が経つ馬場だが、しばらく肉料理は食べたくない。

本気で意味がわかってなさそうな久遠に呆れの目を向けていた馬場だったが、この精神異常者に何を言ったところで無駄だと諦めた。

 

 

「……イヤ、今は食欲がないだけだ」

 

 

そのやり取りだけで、何があったのか大体察した査楽が苦笑いする。

査楽の任務は工場の外に出ていた連中の暗殺だったので工場内の反逆者達の末路は知らなかったが、馬場が気分を害するほどに酷い有り様だったらしい。

 

 

「馬場君、それで見せたい情報とは何なんですか?」

「大した情報じゃないんだろ、どーせ」

 

 

すかさず久遠が茶々を入れたので、馬場の額に血管が浮かぶが、気を取り直して話を始める。

 

 

「『幻想御手(レベルアッパー)』事件の後始末で手に入ったんだけど」

「俺の大活躍で万事解決したあの事件か、なんだか懐かしいぜ。ハッ、アイツら元気してるかなぁ」

 

 

一昨日の話を、遥か昔の思い出のように語る久遠。

馬場は真面目に聞くように睨むが、久遠は素知らぬ顔でハンバーガーを食べ始めた。

 

 

 

 

 

「あの時、下部組織の連中に木山の住処をあさらせてたんだけど、そこで面白い物が見つかってね」

 

 

 

 

 

「……変態かよ」

「僕は変態じゃない」

 

 

馬場は再び激昂するが、久遠は相変わらずハンバーガーに夢中なようで全く意に介さない。

ついに馬場が食べなかった分のハンバーガーにも手を伸ばして、心底どうでも良さそうにしている。

 

 

「馬場君が面白いと言うほどの情報があったのはわかりましたが、よく持ち出せましたね」

 

 

学園都市統括理事長の直轄部隊、暗部組織【メンバー】。

その言葉だけを聞くと凄まじい権力を持っているように聞こえるが、実際にはただの便利屋でしかなく機密情報を全て把握している訳ではない。

馬場の言う「面白い情報」が重要な機密なら、こんな三人の溜まり場に持って来られる訳がないのだ。

 

 

「ただの研究者の木山が何故、ここまでの情報を所持していたのかはわからない。けど、二人も興味はあると思うよ」

 

 

そう言いながら馬場はメモリーチップらしき物を見せつけた。

どうやら無断でコピーして持ち出してきたらしい。

 

 

「僕が回収する前に、木山の所持品に手を着けたヤツはいないはずだ」

 

 

下部組織のボンクラどもを除いてだけどね。と呟きながら。

馬場は慣れた手つきでチップを嵌め込み、学園都市最先端の情報端末を起動させる。

 

 

「今までの、チンケな噂話なんかとは比べ物にならない情報なのは間違いない」

 

 

馬場は勿体ぶりながら二人の反応を眺めた。

ズラリと並ぶリストの中から選択した項目を開いて、情報端末の画面を久遠に向ける。

 

 

 

 

 

「久遠、オマエに最初に見せたかったんだ」

 

 

 

 

 

絶対能力進化(レベル6シフト)計画】

 

 

 

 

 

「おい、すっげぇの見つけてきたな。馬場ちゃん」

 

 

久遠は子供の頃のように顔を輝かせた。

 

 

 

 

 

学園都市の空に浮かぶ世界最高峰のスーパーコンピュータ。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)による演算の結果、学園都市に存在する超能力者(レベル5)の八人の中で、【第一位】の【一方通行(アクセラレータ)】だけが【絶対能力者(レベル6)】に到達できることが判明した。

 

一方通行(アクセラレータ)】に通常の時間割り(カリキュラム)を250年分組み込むことで【絶対能力者(レベル6)】に辿り着く。

 

時間操作の超能力者(レベル5)である【歪曲時計(ワールドクロック)】を運用し250年を短縮、あるいは【一方通行(アクセラレータ)】を250年延命させることで解決を図るが、短縮では【一方通行(アクセラレータ)】の寿命が問題となり、延命では時間割り(カリキュラム)も巻き戻ってしまうため、【歪曲時計(ワールドクロック)】では不可能と判断し『250年法』を凍結。

 

他の手段として、実戦における能力の向上をこちらで操ることで【絶対能力者(レベル6)】を目指すことにする。

【樹形図の設計者】に再度演算させた結果、超能力者(レベル5)の【超電磁砲(レールガン)】を128回殺害することで【絶対能力者(レベル6)】に進化することが判明した。

 

しかし、【超電磁砲(レールガン)】を128人用意することは()()()()

 

よって【超電磁砲(レールガン)】の劣化クローンである【妹達(シスターズ)】を運用し、二万体を殺害させることで【絶対能力者進化(レベル6シフト)計画】とする。

 

 

 

 

 

しばらくの間、三人は沈黙していた。

久遠はまだ情報端末に身を乗り出して確認していたが、馬場と査楽は会話を始める。

どうやら二人は、これを半信半疑の噂話だと思っているようだった。

 

 

「随分、壮大な話ですね。二万人のクローンとは」

「しかも『妹達』とやらの詳細もちゃんと作ってあるしね。作り話なんだろうけど、かなり手の込んだ『噂』ってヤツだよ。これは」

「久遠君の能力詳細も記載されていましたね。これを流した人物は相当な命知らずのようで」

「ハハッ、だろ?そうなんだよ。久遠、それを流したヤツぶっ殺すなら探してやろうか?」

 

 

木山春生が【歪曲時計(ワールドクロック)】の詳細を知っているようだったのも、御坂美琴に意味深な発言をしていたのも、これを知っていたから。

 

そして、久遠永聖の()()()()が行われた理由は。

 

一方通行(アクセラレータ)】を絶対能力(レベル6)にするためのものだったのか。

 

ゆっくりと情報端末から離れた久遠は、ソファーに戻って静かに笑いだした。

 

ふつふつと沸き上がる何か。それは久しぶりの感覚。

 

学園都市最強の一角である久遠永聖が。最凶の【歪曲時計(ワールドクロック)】が。

 

 

実験動物(モルモット)

 

 

ひたすら笑い続ける久遠に、馬場達が話しかけてくる。

 

 

「おい、急にどうしたんだよ。笑いだして」

「……何か気になる所でも?」

 

 

二人はただの噂話だと決めつけているが、久遠はこれが事実だと確信していた。

でも、それに至るまでの考察を説明するのも面倒だ。

今はそんなことはどうでもいい。

 

瞳をドス黒い憎悪に染めながら、久遠は静かに呟いた。

 

 

 

「この俺を、踏み台にしようとするヤツがいるなんてな」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。