学園都市の【第一位】【
この世界の、ありとあらゆる『ベクトル』を操作する、学園都市の頂点とされた存在。
学園都市最高の演算処理能力を誇る、人格破綻者。
【
久遠は自分の
しかし、久遠より格上かもしれないあの先輩が【
やはり直接戦闘は避けるべきなのか。でも、久遠を踏み台にして【
実験を凍結させる手段はすでにいくつか思いついている。しかし、それには問題もあった。
おそらく【絶対能力者進化計画】は学園都市上層部に容認された、あるいは主導で行われている実験である。
暗部に所属する久遠が学園都市上層部の意思に反することは、『裏切り』になってしまうのだ。
久遠は自分が裏切ったあとの展開を予想していく。
学園都市の刺客達をあらかた皆殺しにしたあとで、派遣されてきた先輩との死闘の末に敗北する光景が頭に浮かび、それを考えるのをやめる。
「……ちょっと。アンタ、聞いてる?」
あの日、馬場が木山のメモリーチップを入手できたのは単なる偶然なのか。
ただの研究者である木山春生が、何故あんな機密情報を持っていたのか。
いくらなんでも簡単に機密情報が手に入りすぎている気がするのだ。
ある程度の実験関係者には知られた情報で、上層部は久遠のような存在にそれを知られたところで大したことはないと思っているのか。
あるいは
問題は【
上層部への反逆は、間違いなく個人では難しいだろう。
だが、【メンバー】の仲間である馬場も査楽も、学園都市上層部と久遠永聖を天秤に掛けたら上層部につくに決まっている。
「ねぇ、返事しなさいよ」
ここは、先輩と協力するのが一番良さそうに思えてきた。
久遠も彼も【
そして二人で組むことができたなら、上層部が送ってくる刺客など相手にもならないだろう。
「ねぇって、なんでガン無視してんのよっ!!」
そこまで考えて、最後に先輩に合った時のことを回想する。
あれは確か『令嬢狩り』の時だったはずだ。
『
そんな噂を聞いた、久遠、査楽、馬場の三人。
彼らは噂の真偽を確かめるために立ち上がり、三人の力を合わせて、馬場が一人で情報を収集した。
久遠は『学園都市の闇の人体実験』系の噂が好みなので、正直乗り気ではなかったのだが、いつもクールな査楽が珍しく乗り気だったので付き合うことにしたのだった。
三人の力を合わせたお陰で、馬場は一人で『令嬢狩り』の犯人を特定する。
三人の力を合わせて、久遠が一人で犯人を確保して拘束。
そいつを警備員に引き渡した三人はみんなに称賛されて、学園都市にようやく平和が訪れたのだった。
「コイツは生意気そうだし、いい気味だね」
「もうちょっと、胸がデカかったらなぁ」
「この娘は少々、服装が派手すぎますね」
今日も今日とて『ヒロイン』の選別を行う三人。
『令嬢狩り』の魔の手が少女達を襲う映像をまるで映画か何かかのように観賞する彼らは、『令嬢狩り』と大差ない外道であった。
まことに残念ながら、本人達に自覚はないのだが。
「この娘、可愛いですよね!?」
何件かの暴行事件をスルーした彼らだったが、査楽がついに好みの相手を見つけたらしい。
その頃には『令嬢狩り』ブームに飽きていた久遠と馬場は、協力プレイしていたゲーム画面から監視カメラの映像に視線をうつす。
その液晶画面を覗いてみると、そこには黒髪ロングの清楚そうなお嬢様が映っていた。
「へぇ、査楽はこんな娘がタイプなんだ」
「すぐに向かうなら位置情報出すけど、どうする?」
興味がなさそうな二人とは対照的に、即答で「行きますッ」と興奮気味に叫んで部屋を飛びだして行った査楽。
久遠と馬場は顔を見合わせ、一応どうなるのかを確認する。
査楽はレベル3の【
しばらくして『令嬢狩り』視点の画面に現れた査楽は戦闘を開始し、間もなくあっさりと敗北する。
今になって考えると『令嬢狩り』は『
「今日の査楽はさぁ、本っ当に面白いなぁ」
仲間の査楽が『令嬢狩り』に追い討ちをかけられているのを見て、笑いすぎて涙目になっている久遠。
査楽が劣勢になってからというもの笑いっぱなしである。
流石に見かねた馬場が、呆れた表情で呟いた。
「……そろそろ助けに行ってやれよ」
久遠が現場に到着してから三分後。
【
今回は任務ではなくプライベートなお遊びのため、殺したりはしていない。
むしろ久遠としては、かなり笑わせてもらったのでこのまま無罪放免にしてやりたいくらいだ。
査楽が近くでボロ雑巾みたいになってるのを見てしまい、再び笑いそうになるが『
あまり見ないようにしよう、あとから録画で見れるんだし。そんなことを考えながら被害者の方を向いた。
『令嬢狩り』に痛めつけられて、あちこちに擦り傷を作っている常盤台の制服を着た少女。
助けにきた査楽が瞬殺された時は絶望したような顔をしていた彼女だが、今はじっとこちらを見つめている。
「大丈夫?」
彼女と目が合ってしまったので、久遠は優しく笑いながら話しかけることにした。
いつもの優しい少年のような擬態。
仲間内で「似合わな過ぎて気味が悪い」と大絶賛されているそれは、長時間使用すると久遠本人が飽きて止めてしまうのだけが欠点だった。
「は、はいっ」
頬を染めて答える彼女を見ながら久遠は思う。これはあとで、査楽の反応がめんどくさそうだな、と。
そして、常盤台の少女を『学舎の園』と呼ばれるお嬢様学校が共同運営する区画まで送ることになる。
区画内は男子禁制の場所なのだが、何度も女の子を送迎したことがあるので手慣れた物だった。
被害者の女の子に何度もお礼を言われたが、彼女は久遠の本性を知ったらどんな反応をするんだろうか。
その後、久遠は『17拠点』に戻ることなく近場のファーストフード店に入っていく。馬場に回収されていった査楽に会いたくなかったがためである。
注文したハンバーガーを持って席に着き、黙々と腹を満たしていく。
今日はこのまま帰って寝ようかな。なんてことを考えながら。
先ほどから携帯端末には査楽から何度も着信が来ていて、そろそろ鬱陶しくなってきた。
もう着信拒否するべきだろうか。久遠が画面を見ながら考えていると、テーブルの向かい側に誰かが座った気配がする。
店内は相席が必要なほど客が入っているようには見えなかったのだが。久遠は怪訝に思いながら、その人物の方を向いた。
「よお、久しぶりだな」
久遠よりも明るく染められた髪に、長身で二枚目の男。その声や表情からは何やら風格のような物も感じる。
ホストみたいな格好のこの男と、久遠は知り合いだった。
「先輩じゃん。ほんとに久々だね」
久遠がこの学園都市で唯一『先輩』として扱っているこの男は、
そして、過去に久遠が全力で戦闘して勝てなかった相手でもある。
何の変哲もないファーストフード店で、【第二位】と【第四位】が向かい合う。
二人の関係は今のところ友好的ではあるのだが、もしもケンカでもしよう物なら周囲一帯が更地になりかねない。
店内にそんな爆発物があるとは知らずに、周囲の人々は楽しげに談笑していた。
何も知らない彼らから見ると不良少年の二人が会話しているようにしか見えないので、これは仕方のないことなのだが。
「先輩って、この辺に住んでるんだっけ?」
「いや、近くに用があってな。その帰りだ」
久しぶりの再会に久遠は少しテンションが上がってくる。
垣根帝督。彼は久遠より二つ年上で、学校こそ違うがまさしく『先輩』なのだ。
同じ
同じ
チームは別だが、暗部組織の【スクール】に所属している。
共通点の多かった二人は初対面の時こそ
ちなみに久遠が先輩と呼称する人物は、学園都市の中で垣根ただ一人である。
「お前も確かこの辺じゃねえだろ。長点上機は十八学区のハズだぜ」
「さっきまで『学舎の園』に行ってたからさぁ」
「ハッ、相変わらず懲りねえな。お前はよ」
付き合いもそれなりに長いので、何か勘違いをさせてしまったらしい。
別に自分がなんと思われようと気にしないが、今回は確か『正義の味方』になっていた気がする。
「それは誤解だって、今回は人助けなんだからさ」
「また女を騙して遊んでやがったんだろうが、お前は限度って物を知らねえのか?」
「本当に違うんだって。拠点には多分、美少女を助けたシーンの映像も残ってるし」
「……いや、どんな流れでそうなるんだよ」
垣根は呆れたような表情を浮かべた。
その後、久遠は一連の流れを説明して、垣根は最後には馬鹿にしたような笑顔を見せる。
二人はどちらも闇の住人で、人を殺すのを何とも思わない。
利害が一致しなければ、お互いを排除するのも躊躇わない。
だが、今の二人にそんな殺伐とした雰囲気はなかった。
そう、周囲に友人同士だと思われるくらいには。
垣根のことを思い出したついでに『あの時の査楽』を思いだして久遠は笑いそうになる。
現在、久遠が居る場所は第七学区のファミレス。
馬場に『絶対能力進化計画』を知らされたあと。
自宅に戻った久遠は携帯端末を確認して、御坂美琴からの連絡があったことに気がついた。
その内容は荒っぽい文章で綴られた呼び出し。久遠は正直行きたくなかったが、『絶対能力進化計画』を潰すために彼女の力が必要になる可能性もあると考えて、こうして呼び出しに応じてあげたのだった。
「あァーもぉーーッ、無視すんなァァーーーッ!!」
どうして、コイツはいきなり怒鳴りだしたのだろうか。
どうして、学園都市には平和が訪れないのだろうか。
「店の中では静かにしろよな」
久遠は人差し指を口に当てて、御坂を咎めるような口調で注意する。
とりあえず、ここは大人の対応をしなくてはならないだろう。この手の店は騒ぎ過ぎると追い出されてしまうのだ。
「ア、ン、タ、がッ、悪いんでしょォがぁァーッ!!」
このままでは痴話喧嘩のように思われてしまうかもしれない。
周囲はとっくに二人を白い目で見ていたが、久遠は諦めずに他人のフリをすることにした。
冷静にアイスコーヒーを喉に流し込みながら外の景色を眺める。
一通り眺めてみたが、真夏の日差しが眩しかったのですぐに視線を戻した。
「お客様。他のお客様のご迷惑になりますので」
やってきたウェイトレスのお姉さんは、狂犬のように吠える御坂に話しかけたくなかったのだろう。
久遠の方を真っ直ぐ見ながらそう言ってきた。
これを最初に言い出した人は、きっと今の久遠と同じ気分だったに違いない。
人格破綻者どもの中でただ一人。やっぱり久遠だけがまともな常識人で、最後の良心なのだろう。
「本当に俺以外の
それを聞いた御坂は、怪獣のような大声で怒鳴り散らした。