とある科学の歪曲時計   作:割り箸戦隊

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第6話

 

これは過去の記録。

 

(おれ)が闇に堕ちてから。

 

闇の住人になった頃の物語。

 

 

 

学園都市の第十九学区。

『寂れた学区』なんて揶揄される、学園都市では珍しい廃墟や使われていない施設の集まる場所。

そんな夜の寂れた区画に配置された、【メンバー】の構成員の二人。

任務の内容はこれまた珍しく、他の暗部組織との共同で行っていた。

仲介役曰く『鬼ごっこ』らしい今回の任務は、学園都市にとって都合の悪いことを知ってしまったターゲット達を『鬼の二人』が処刑する。

本来ならば【メンバー】にしろ、今回組むことになっている【スクール】にしろ単独で行える任務なのだが、どちらの組織も欠員が出ている状態のため、確実性を取っての共同任務となったらしい。

 

ターゲットの能力者は六人。中でも目を引くのは。

 

レベル4の【透視能力(クレアボイアンス)】他人の瞳をレンズに遠くの物を見ることが可能。

レベル4の【発火能力(パイロキネシス)】文字通り、炎を生み出す能力者。

 

あたりだろうか。

この六人が手を組んで、何を探ったのかは開示されなかったが、そんなことはどうでもいいかと馬場は思考する。

ターゲット達は逃走に能力を使っているらしく、こんな寂れた学区まで逃げ込むことに成功したみたいだが、その強運もこれまでだろう。

博士に預けられた機械の犬。【T:GD(タイプ:グレートデーン)】を使ってターゲット達の位置を探っていく。

 

捜索の途中で、近くに佇む『新入り』の方をちらりと窺う。

たん。たん。と足先を苛立たしげに打ちつけながら夜の廃墟を睨む、馬場と同級生らしい少年。

博士が勧誘に成功した超能力者(レベル5)。【歪曲時計(ワールドクロック)】の久遠永聖。

この『新入り』は【メンバー】に入って一ヶ月もたっていないが、その身に宿る悪魔のような能力は何度も見せつけられていた。

それは冷酷な馬場でさえ、敵対した奴らに同情したくなるほどに。

そんな今回の『鬼役』の一人の久遠だが、よほど今回の任務が気に入らないらしい。

仲介役から【スクール】と合同で行うと言われた時にキレて、通信モニターを素手でバラバラに破壊していたくらいだ。

頼むから、真面目に任務を遂行してくれと言いたい。

でもやっぱり無理なんだろうなとも思う。

 

こんな悪魔の手綱を握れるヤツなんて、きっとこの世にいないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠永聖は苛立っていた。原因は仲介役の放った一言。

 

 

「今回は鬼役が二人いる」

 

 

自分が『鬼』扱いされるのは別に気にしないし、どうでもいい。ただ、『自分と同格の奴がいる』ような発言は認められなかった。

 

 

【第二位】の【未元物質(ダークマター)

 

 

名前の響きからして稀少な物質でも操作する能力なんだろうが、最強の能力である【歪曲時計(ワールドクロック)】と並ぶなんてことはありえない。

今回の任務で遭遇することがあったら、そいつを殺してやろう。

 

そう決めた久遠は無言で移動を開始する。ここで待っていても何の意味もない。

久遠は馬場(無能力者)のことなんて戦力として数えていないし、居ても邪魔になるだけだと思っていた。

 

 

「お、おい。どこ行くつもりだよ」

「適当に探す。もしお前が見つけたら、俺に連絡したらいい」

 

 

久遠は無能力者に適当な返事をしながら、耳に着けた黒いピアスを指差す。

博士に渡されたこのピアスは、どんな仕組みか知らないが【歪曲時計(ワールドクロック)】の能力発動時でも使える通信手段だった。

 

 

 

夜の人気のない区画。

当てもなく歩いている久遠は、ここ最近のことを考える。

暗部組織【メンバー】の構成員になってから、久遠の生活は一変していた。

 

研究所に通う必要もないし、学校にも通っていない。任務は毎日ある訳でもないので、暇な時間が増えていた。

どうせ暇ならばと、今まで触れたことのなかった物に触れる日々。

博士に貰った黒いピアスに合わせて、髪を染めてみたり。流行りの音楽を聴いてみたり。

今まで興味のなかったことも、段々と体験して吸収していく。

 

学園都市は面白い。今は心の底からそう思えるようになれていた。

 

もし、あの帰り道で博士と出会わなければ、久遠は気づかないまま生涯を終えていたかもしれない。

死ぬまで過去に囚われて、何も楽しむことなく朽ちていく。

それがどんなに愚かなことか、当時の久遠にはわからなかったのだ。

ここに至るまで色々とあったが、これから久遠は自分のためだけに生きると決めた。

だから、絶対に【歪曲時計(ワールドクロック)】は最強でなくてはならない。久遠が好き放題に生きていくために。

 

 

 

 

 

「……見つけた」

 

 

 

 

 

久遠が見つけたのは男の二人組。

この区画は現在、ターゲットの連中以外は下部組織のゴミ屑と【スクール】しかいないらしい。

それなら、見かけた奴は皆殺しでいいか。

 

相手は頭にバンダナを着けた奴と()()()()()()()()

 

時間を加速して、速攻でケリをつける。こいつらは前座だ。

 

今夜の獲物は【第二位】の【未元物質(ダークマター)】。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

歪曲時計(ワールドクロック)】は有効範囲内の時間を歪曲する(ずらす)能力である。

久遠の視点では加速を発動したあと、()()()()()()()()()

 

『スローモーションになった世界』で、久遠一人が普通に行動することができるのだ。

とりあえずは、近くにいたホスト野郎に狙いを定めて殴りつけてやった。

久遠の感覚ではただ殴りつけただけなのに『スローモーションの世界』は大げさ過ぎる反応を見せてくれる。

音速を超える速度で久遠が動いているかのように空気が弾けて、殴りつけたときの余波だけで近くにいたバンダナ野郎も吹き飛んだ。

 

もう終わりだろう。そう思って時間加速を解除して、周囲を見渡す。

久遠は『スローモーションの世界』が【歪曲時計(ワールドクロック)】で崩壊していくのを見るのが好きだった。

 

圧倒的な強者の世界に、破壊されるしかない弱者の世界。

 

たったの一撃で崩壊した周囲の光景を声を出さずに嘲笑っていると、どこからともなく人の声が聞こえてきた。

 

 

「……痛ってえな」

 

 

ホスト野郎が吹き飛んで行った方向から、こちらへ歩いてくる人影が見える。

そいつは久遠を悪魔のような表情で睨んでいた。

加速状態の【歪曲時計(ワールドクロック)】で攻撃したのにも関わらず、大きな損傷は見当たらない。

 

 

「オイ、テメェは生かして帰さねえぞ。クソガキ」

「死ぬのはお前の方だ、すぐに俺がぶっ殺してやるよ」

 

 

簡単に頭に血がのぼった久遠は、安い挑発を即行で買い叩く。

今の一撃を防いだということは、こいつが本命の【未元物質(ダークマター)】なのだろうか。

こんなに早く会えるなんて、どうやら今日の久遠はついているらしい。

 

再び久遠は時間加速を行使して、今度は空を駆け上っていく。

歪曲時計(ワールドクロック)】の有効範囲は久遠の身体から数センチ。それだけあれば足裏の空間を時間停止させて、擬似的な足場にすることができる。

そして久遠は加速した世界でホスト野郎の頭上から十数メートルの位置に到達すると、足場の停止を解除した。

 

 

「ぶっ潰れろ」

 

 

蹴りの姿勢で真下に自然落下する。これで終わるならそれでいいし、防ぐならその方法を見せてもらう。

隕石でも落ちたかのように地面に深い穴が開き、周囲に大きなひび割れが広がっていく。

 

ホスト野郎の身体に久遠の蹴りは届かなかった。

奴の身体を覆う()()()のような物に受け止められたからだ。

 

 

 

なんだコレ。

 

 

 

と久遠が思った瞬間、AIM拡散力場が『未来』の身体の損傷を伝えてきた。

久遠は意識するより速く身体の全周囲に時間停止をかける。

これで演算処理を超えない限りは、久遠の身体に干渉はできない。

 

 

 

だが、何故か『未来』に変化はない。

 

 

 

何故。

 

 

 

そして、さらに不可解なことが起こる。

 

 

 

久遠が白い繭だと思っていた物は、六枚の()()()だったようで、その翼に()()()()()()()()()()

 

 

 

今度は久遠が吹き飛ばされて、近くのビルを貫通する。

ビルに叩き付けられたことによるダメージはなかった。

つまり、時間停止はちゃんと発動できている。

まるで、あの白い翼だけが時間停止を無視したような結果だ。

 

隣の路地まで吹き飛ばされた久遠は、白い翼でズタズタにされた身体を部分的に逆行させていく。

部分逆行はAIM拡散力場の『現在』と『過去』の情報を参照しないと行使できない。

身体の全体を逆行させる方が演算は速いが、奴の白い翼が時間停止を貫通してきたことを()()()しまっては意味がない。

時間停止が行使できるようになってからしばらくなかった物理的な痛みには驚かされたが、これですべてが巻き戻った。

 

それにしても、ホスト野郎の能力は明らかにおかしい。

歪曲時計(ワールドクロック)】は久遠が理解できない物、演算に組み込めない物は操作できない。

だが、白い翼は時間操作を受けつけないのではなく、時間停止した対象を無視して貫通してきた。

今までそんな結果になったことはない。そもそも、そんな想定すらしたことはなかったが。

 

あの異常な能力。どうやって攻略したらいいのだろうか。

 

いつの間にか久遠は、【未元物質(ダークマター)】は警戒に値する相手だと認識していた。

超能力者(レベル5)の序列は能力研究の応用が生み出す利益が基準である。

などと言われているが、それとは関係なく【未元物質(ダークマター)】は【歪曲時計(ワールドクロック)】に並びかねない反則(チート)能力なのかもしれない。

 

久遠が考えている間に、ホスト野郎はこちらに()()()()()

六枚の翼を使って悠々と、こちらを嘲笑うような表情を浮かべて見下ろしてくる。まるで天使のような似合わない姿。

久遠は眉間にしわを寄せて睨みつけた。

 

 

「よお、無様な姿を見にきてやったぜ。クソガキ」

「……気持ち悪い能力だな、馬鹿みたいだ」

「なんだ、羨ましいのか?テメェのクソみたいな能力じゃ仕方ねえが」

 

 

『未来』からの警告はない。

何故かホスト野郎は久遠と会話をするつもりらしい。

 

俺をナメてやがるな、こいつ。

 

ふつふつと殺意が湧いてくるが、今は少しでも考える時間が欲しい。

それに、こいつに喋らせて能力詳細を把握できるなら楽に殺害できる。

 

 

「【歪曲時計(ワールドクロック)】。どうやら時間操作のようだが、大したことはねえな」

「お前がその速度に反応できてないのはわかってんだよ。クズ野郎が」

「ハッ、テメェも【未元物質(ダークマター)】に干渉できねえんだろうが」

「どうでもいい。お前と一緒にぶっ壊してやるよ」

 

 

罵倒に罵倒を返し合う。意味のないやり取り。

 

 

「テメェの『停止』の障壁。逆算が終わったら教えてやるぜ、死ぬ前に命乞いでもするんだな」

 

 

ホスト野郎は能力詳細を明かす気はなさそうだ。

それに、早く奴を黙らせたいし。

 

 

もういいか。

 

 

「お前は『時間』を敵に回したんだ、さっさと死ねよ」

「残念だが、俺の【未元物質(ダークマター)】にそんな常識は通用しねえんだよ。クソガキ」

 

 

ホスト野郎が言い終わった瞬間、『未来』からの警告。無視して突っ込み加速で蹴り飛ばす。

またしても白い翼に阻まれたが、それでいい。

とりあえず距離が取りたかっただけだから。

 

ホスト野郎はおそらく勘違いをしている。こちらに白い翼を防ぐ手段はないと。

確かに白い翼には時間停止が通用しない。いや、違うか。

そもそも、あの白い翼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だが、それだけだ。

 

久遠永聖が無自覚に発するAIM拡散力場の効果。

久遠の身体の『過去』『現在』『未来』を観測する能力が生きている以上、白い翼の攻撃は察知できる。防御ではなく回避してしまえばいいだけのこと。

それに、もし避けきれなくて身体が損傷したとしても、演算能力が残っている限りは時間逆行で巻き戻れる。

そして、ホスト野郎の本体は久遠の時間加速に反応できていない。あの白い翼が自動(オート)で防御、迎撃しているだけだ。

 

ひとまず白い翼から距離をとって遠距離攻撃で様子見してみるか。

久遠は視線を動かして、近くに時間加速して投げつけられる物がないかを探す。

 

 

 

まず久遠がやるべきことは、奴の能力詳細の把握。

 

 

 

またしても『未来』からの警告が届き、久遠はビルの影に飛び込むように回避する。

さっきまで久遠がいた場所を『光線』としか表現できない、訳のわからない攻撃が通過して周囲を破壊し尽くした。

歪曲時計(ワールドクロック)】の加速中にまるで通常通りのような速度で攻撃してくるなんて、あの能力はあまりに異常すぎる。

 

この光線もあの白い翼の能力なのか。 

 

あの『光線』があるなら、遠距離戦闘は不利。ならば無理に合わせてやる必要はない。

本体の速度は久遠のが上のはずだ。あの白い翼を避けながら、近距離戦闘をしかけるしかないか。

久遠はビルの影から飛びだして、ホスト野郎の姿を探す。

 

ホスト野郎は攻撃した時の方向にそのまま残っていた。やはり本体の速度は話にならない。

 

 

 

遥か上空、こちらを見下ろす六枚の翼。

 

 

 

空を駆け上がって、奴の上まで一気に上がりきる。

ホスト野郎が迎撃をしてきたが、やはり速度が足りてない。

風、いや烈風か。それが廃ビルを蹂躙するが、その方向はとっくに通りすぎたあとだ。

本体の攻撃は無視していい。だが、久遠も白い翼の自動防御を突破しなければならない。

白い翼は久遠の攻撃を完全に無効化してる訳ではない。今までの攻撃も衝撃は伝わっているはずだ。

 

まずは地面に叩きつけてやろう。

 

 

「落ちろよ、クソ野郎がッ」

 

 

追いかけて、さらに追撃する。

 

 

上からの二連撃。

 

 

だが、白い翼は突破できない。

 

 

「……チッ」

 

 

この程度では威力が足りていないみたいだ。

 

こちらも奴の能力を逆算して、あの白い翼を時間操作の影響下におくべきなのか。

 

それとも、今まで久遠が行使したことがないような全力の時間加速を行うか。

 

再び迎撃してきた白い翼を避けながら、また空を駆け上がっていく。

 

『未来』からの警告。

 

時間停止をかけたら警告は消えたが、何をどうやったらそうなるのか。久遠を追いかけて空気が爆発してくるのが見えた。

 

やるしかないかと覚悟を決めて、久遠はさらに空を上がる。

 

 

 

全力まで加速した一撃を叩き込む。それしかない。

 

 

 

つい最近まで戦闘なんてすることがない一般人であった久遠は、無意識の内に己の能力に制限を掛けていた。

 

その制限が解除される。『最後の良心』という名の制限が。

 

 

 

 

 

 

 

 

周囲の被害なんて知ったことか。俺は自分が良ければいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの生死なんて気にもならない。俺が負けるくらいなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の全力の【歪曲時計(ワールドクロック)】で。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、第十九学区は『寂れた学区』から『崩壊した学区』になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬場は頭に包帯を巻きながら、下部組織の人間が運転するキャンピングカーで移動していた。

 

今回は、本当に死ぬかと思った。

 

久遠が何故か【スクール】の超能力者(レベル5)と戦闘を開始した時、馬場はすぐに学区外に避難することにしたのだが、途中で乗っていた車が奴らの戦闘の衝撃で吹き飛ばされた。

なんとか怪我だけで済んだが、もう少し判断が遅れて居たら他の連中みたいになっていただろう。

 

他の連中。

 

今回のターゲットや下部組織などの現場に残っていた奴らは、【歪曲時計(ワールドクロック)】と【未元物質(ダークマター)】を除いて全員、戦闘の余波に巻き込まれて死んでしまったそうだ。

そんな戦略兵器を使った戦争みたいな戦闘をしていた癖に、爆心地にいた二人はお互いに怪我こそしていたものの五体満足だったようで。

第十九学区の崩壊後もしばらく戦い続けた二人だったが、引き分けでお互いに手を打つことにでもしたのだろうか。

こちらに戻ってきた久遠は、何でもなかったかのように『無傷に巻き戻っていて』さっさと帰宅して行った。

元からあの辺りは廃墟だらけだったこともあって、大した処罰もないらしい。

もしかしたら【メンバー】と【スクール】の仲介役が二人を制御できなかったとして自分自身が処罰されないように、必死になって庇ったのかもしれない。

 

 

「馬場君」

 

 

キャンピングカーに取り付けられた液晶モニターに、突如として【メンバー】のリーダーである老人。博士の姿が映しだされた。

馬場はいつもの形式的な挨拶を交わしたあとで、今回の任務の顛末を説明していく。

 

 

「ふむ、そうか。今回はすまなかったな。まあ、このような結果になりそうだと予想はしていたが」

 

 

ニヤリと笑う博士に、馬場は懇願した。

もう、あんな戦場みたいなところには行きたくない。

 

 

「博士。もっと離れた距離から、例えば学区外の安全地帯から【T:GD】を操作できるように改良して欲しいのですが」

 

「……なんと」

 

 

 

 

 

 

 

 

「その発想は浮かばなかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは過去の記録。

 

 

歪曲時計(ワールドクロック)】が唯一、戦闘で引き分けた話。

 

 

俺と先輩が出会った時の話。

 

 

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