とある科学の歪曲時計   作:割り箸戦隊

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この話はカットするか迷ったんですが、貴重な日常回ということで残しました。


第9話

 

暗部組織【メンバー】の上司にあたる。

学園都市統括理事長。アレイスター=クロウリーの根城。

それが、『窓のないビル』。

 

 

「オマエ、何をするつもりなんだよ」

 

 

久遠の発言に馬場も真剣な表情になる。

そこは決して、何の事情もなしに探りを入れるような場所ではない。

 

 

「さっきも言っただろ。俺達は騙されてたって」

 

 

久遠は、今まで馬場が見たことのない目をしていた。

真剣な、『覚悟を決めた男』の眼差し。

 

 

「アレイスター=クロウリーは俺達が想像しているような奴じゃなかったんだ」

 

 

そこまで言って、久遠は二人を順番に見る。まるで二人の『覚悟』を試すかのように。

馬場と査楽は唾を飲み込み、ただただ久遠を見ることしかできない。

久遠は忌々しいことを語るように、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

「アレイスターは美少女だ。それもとびっきりのな」

 

 

 

 

二人は死んだ魚のような目で久遠を見つめ返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬場に調査を依頼した次の日、久遠は街に出ることにした。

 

『アレイスター美少女説』は久遠が即興で考えたネタだったのだが、調べてみると学園都市の『噂』に何故か似た内容の噂があり、馬場達はすんなりと久遠の動機に納得した。

 

馬場は「オマエの女好きは、もう手遅れなのかもな」とか言ってきたが、久遠には何を言いたいのか全く理解ができなかった。

査楽は普通にノリノリだったし、こんな簡単に騙される奴らが暗部組織で学園都市の闇は大丈夫なんだろうか。

 

そして妙にテンションが高い査楽と、普通に情報収集する馬場にドン引きした久遠はソファーで睡眠をとることにする。

二人は夜通し調査をしていたみたいだが、昼前に久遠が起きた時は疲れて眠っているようだった。

今は話相手もいないし、久遠は昨日から何も食べてない。

そんなこんなで一人で街に出た久遠だったのだが、暗部生活の癖でついつい裏路地のような場所ばかり通ってしまい。

 

 

「……なんだろ、これ」

 

 

久遠が裏路地で見つけた封筒に入っていた物、これは『マネーカード』だろうか。

手の届く位置に置いてあったソレをなんとなく手に取り、眺めながら路地から出る。

明るい場所で確認すると、五千円分らしいそのカード。

 

 

「まぁ、こんな小銭はどうでもいいか」

 

 

ゴミでも捨てるようにカードを投げ捨てて、久遠はその場を立ち去ろうとする。

とりあえず何かを食べよう、昼時だし。そんなことを考えていると。

 

 

「あッ、あぁーーーッッ」

 

 

いきなり女性の叫び声が聞こえて反射的に振り返ると、何故か叫んだ女の子はこちらを見ていた。

 

 

「あなた、今、このカードをっ」

 

 

久遠を興奮気味に見つめる、黒髪ロングの少女。

突然すぎて何も返事ができない久遠に、彼女はこう言ってきた。

 

 

「もしかしてっ、あなたが噂の『カードの神様』なんですか?」

 

 

全く意味がわからないが、一つだけわかったことがある。

 

 

 

 

 

こいつは変人だ。

 

 

 

 

 

あれから場所を変えて、第七学区のファミレスに到着した久遠は空腹を満たすため、さっさと注文を済ませた。

先ほどの話の流れでついてきた、変人の少女と一緒に。

 

 

「いやー、まさか御坂さん達が言ってた超能力者(レベル5)の人だったなんて。すっごい偶然ですよね」

 

 

佐天涙子(さてんるいこ)と名乗るこの少女は、御坂美琴の知り合いらしかった。

久遠はとりあえず『カードの神様』なんて意味のわからない称号を獲得した覚えはないので、興奮する彼女の話を聞いてみることにしたのだ。

なんでも聞くところによると、さっき拾ったマネーカードをバラまいている狂人のことらしい。

そして久遠は否定して立ち去ろうとしたのだが、佐天が名前を名乗ってきたので名乗り返すと、またしても彼女は驚き叫びだしてしまったのだった。

 

 

「御坂が俺のことをなんて言ってたかは知らないけどさぁ、そんなに驚くようなことか?」

「だってだって、『幻想御手』事件で超能力者(レベル5)の二人で戦ったって。御坂さんから聞いてたんですよ」

「俺はあの時、共闘した覚えはないけどね」

 

 

なんだかやたらとグイグイくるタイプの少女で、久遠はいつもの爽やかな人格を作る暇がない。

久遠と仲良くなる女の子は基本的に受け身の性格なことが多いので、ちょっと新鮮ではあるのだが。

 

 

「久遠さんはどんな能力なんですか?能力名は?」

「ものすっごい強い能力だよ。続きはもう少し大きくなってからな」

「えー。教えてくれないんですかぁ」

 

 

ブーたれる佐天に、はぐらかす久遠。

佐天は反応がいちいち怖いもの知らずで遠慮がなく、会話していて楽しいタイプだった。

まるで垣根や、馬場達と話しているような。

 

 

「てかさぁ、さっきは聞かなかったけど。マネーカード集めてんの?」

「あ、はいっ、宝探ししてるんですっ」

 

 

宝探し。あんな大した額じゃないマネーカードが宝物らしい。

どうして、他の人間は久遠のように高潔に生きられないのだろうか。

 

 

「……浅ましいよな。人間って生き物はさ」

「あれ?ひょっとしてバカにされてます?あたし」

「キミは、キミだけの自分でいればいいんだ」

「うーむ。やっぱりバカにされてるような」

 

 

久遠が適当に言ったことに、何故か真剣に悩みだした佐天。

しばらく考えていた佐天だったが、何かに思い当たったのかハッとする。

 

 

「……そうだっ」

「どうしたんだ、急に。頭は大丈夫なのか?」

「久遠さん、このあと空いてますか?」

 

 

皮肉を全力でスルーされた上に、邪気のない笑顔を向けられてしまった。

久遠は何かを諦めたような表情で思考していく。

馬場と査楽はしばらく寝ているだろうし、今日は元々予定はない。

 

 

「……まぁ、空いてるかな」

「じゃあ、ちょっと付き合ってくださいっ」

「いーよ。何をするのか知らないけど」

 

 

ウエイトレスのお姉さんが、二人が注文した料理を運んで来たのでそれに口をつけていく。

注文の際に久遠の奢りだと言ったら容赦なく高額なメニューを選んでいた佐天が、爛々と瞳を輝かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を済ませた二人は、再び街に出ていた。

すたすたと歩く佐天は裏路地へと向かって行く。

「ついてきてくださいっ」と言われた久遠はしばらくは大人しくついて行ったが、目の前の光景にそろそろ突っ込んだほうがいいんだろうか。

 

 

「……何をやってるんだ、お前は」

「え?何って、見たとおりですけど」

 

 

犬のように地面に這いつくばった佐天は不思議そうに言ってくる。

そして久遠が訳もわからず混乱していると。

 

 

「さっき言ったじゃないですか。宝探しですよー」

「……佐天、お前は」

 

 

久遠は絶句して、顔面をひきつらせて佐天を見た。

まさか、こんなに必死になって探しているとは思わなかったからだ。

 

 

「久遠さんも一緒にやりましょうよ」

「……いや、俺はいい。金には困ってないから」

 

 

久遠は即答するが、なにやら佐天は悪巧みをするような顔でこちらを見ていた。

 

 

「へぇー。そうなんですか」

 

 

なんだか嫌な予感がする。

 

 

「御坂さんは、沢山見つけてくれたけど」

 

 

御坂美琴は一応、本当に一応ではあるが、書類上では常盤台のお嬢様に分類されることもあるのに、こいつにはそんなことは関係なかったらしい。

もし、こいつの自由さに強度があるのならレベル6くらいありそうだ。

 

 

「まぁ、『序列』がありますもんね超能力者(レベル5)の人って」

「……何が言いたいんだ?」

「久遠さんより御坂さんのが格上なんじゃないですか?」

「ハッ、笑わせんなよ」

 

 

久遠の悪い癖の一つ。それは安い挑発でも。

 

 

「いいぜ、やってやるよ。御坂なんかよりも大量にな」

 

 

簡単に、買い叩いてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、久遠も一緒になってマネーカードを探すはめになったのだが、御坂の集めた分を超えた段階で佐天が「次に行きましょう」とか言い始めた。

久遠は本気で嫌そうな表情で呟く。

 

 

「なぁ、もう宝探しはしたくないんだけど」

「次に行く場所は違いますよー」

「……それなら、いいけどさぁ」

 

 

佐天はまたしてもすたすたと歩きだした。

それにしても、こいつは本当に自由すぎる。

いったい、どういう教育を受ければこうなるのだろうか。

 

 

「……次はどこに向かってんの?」

「あたしの友達のところです」

「友達か。ちょくちょく話してた『初春』って子?」

「はい。多分、風紀委員の支部に居ると思うんですけど」

 

 

つまり、風紀委員の支部が次の目的地らしい。

『正義』の名を冠する者達が集う場所。

久遠は自首する凶悪犯のような心境になってしまっていた。

 

 

「マネーカード盗難の犯人として自首するのか」

「あはははっ、違いまーすっ」

 

 

佐天は無邪気に笑っているが、隣に居る奴が暗部組織の構成員だと知っても笑っていられるだろうか。

久遠は少し考えたが、こいつのことを考える時間が勿体ない。という結論に達した。

 

 

「でも、なんで友達のところに行くの?」

「初春が、久遠さんにお礼を言いたいって言ってたんです」

「……変わった友達だね。会ったこともないヤツにお礼が言いたいなんてさ」

「変わってるのは久遠さんの方だと思いますけど」

 

 

何故か呆れたような表情を浮かべる佐天。

久遠は深く溜め息をついて、自分の周囲に変人しかいないことを嘆いていた。

結局、いつの世も常識人が苦労するのが定めなのか。

 

 

「ここですっ」

 

 

そしてようやく辿り着いた風紀委員の『117支部』。

佐天は容赦なくその扉を開くと、大きな声で叫んだ。

 

 

「初っ春ぅーっ!!お客さん連れて来たよーっ!!」

「佐天さんもお客さんですけど、あ、あれっ」

 

 

パソコンの前に設置された椅子から振り向いた、見覚えのある少女。

そして、頭に花を飾り着ける奇抜なファッション。

こいつは果たして正気なのだろうか。いや、間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

こいつも変人だ。 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、『幻想御手』事件の時はご協力ありがとうございました」

「御坂だけで大丈夫だったらしいけど」

「それでも、万が一ということもありましたので」

 

 

頭に花を飾り着ける奇抜な変人。初春飾利(ういはるかざり)は内面はわりとまともな少女だった。

久遠は、自分以外で久しぶりに出会った常識人に感動を隠せない。

 

 

「……お前は正気らしいな」

「ど、どういう意味ですか?」

「久遠さん、あんまり初春を困らせないでくださいよー」

 

 

しばらく話していると、長点上機の制服を着たメガネが奥の部屋から現れる。

そして、胸が大きなメガネは厳しい表情でこちらを睨みつけて注意してきた。

 

 

「あなた達、騒がしいわよ。ここは遊び場じゃないわ、って、久遠君!?」

 

 

誰だこいつは。

 

久遠のことを知ってるみたいだが、長点上機学園では素の人格で通しているので少し面倒なことになるかもしれない。

 

 

「あなた、何でここに居るのよ!?まさか、ウチの後輩に手を出すつもりじゃないでしょうね!!」

「……いったい誰なんだろうか」

「本当にッ、生意気な後輩ね!!相変わらずッ!!」

 

 

巨乳のメガネは急に怒りだした。

それにしても、こんなおっぱいメガネとどこかで知り合っていただろうか。だが、胸を揺らしながら怒鳴り散らす牛乳メガネに見覚えはない。

しばらく考えていた久遠だったが、どうしても思い出せそうにないので佐天に提案することにした。

正直、あんまり長居はしたくない。

 

 

「……なぁ。俺、今日はもう帰っていいか?」

「えー。もうちょっと遊んで行ってくださいよー」

 

 

 

「ここは遊び場じゃないって言ってるでしょッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、あれから二人とも追い出されてしまったので雑談しながら佐天の寮に向かっていく。

一応、帰りは送ると久遠が言い出したからだ。

夕暮れになった街を二人で歩いていく。

そろそろ寮に着く辺りまで来たところで、佐天がこちらを見つめてきた。

佐天は小悪魔のようにイタズラっぽく笑う。

 

 

「今日は楽しかったですっ」

「話してばっかりだったけどな」

「それでも楽しかったです。久遠先輩、話しやすいし」

 

 

『先輩』と言われて少し動きが止まる。

中学校をほとんど出席していない久遠は、現在高校一年生。

今まで、先輩なんて呼ばれたことはなかったから。

 

 

「……まぁ、俺も楽しかったかな」

 

 

佐天に向かって自然に笑いかける。

どうにもこいつは自分の天敵のような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手を振る佐天に別れを告げて。久遠はまた、いつもの路地裏に入って行く。

しばらく歩くと、久遠は何もないように見える暗闇に向かって声をかけた。

 

 

「待たせたな。もう出てきて大丈夫だぜ」

 

 

久遠の声と同時に、暗闇から一人の少女が現れた。

【スクール】の構成員、弓箭猟虎。

弓箭は今後、垣根と久遠の伝言役をやらされると聞いている。さっそく垣根から何かを言われたのだろうか。

彼女はこちらに濁った瞳を向けて、低い声でささやく。

 

 

「……本当に性格が悪いですね。わざと見せつけてたんですか」

 

 

薄暗い路地裏に、ぼっちの声が木霊した。

 

 

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