Recover 作:DOS
耳を聾する大砲の轟音と船長の雄叫び。
それらがぼくらのスイッチが入る合図。
サーベルを佩いて、ピストルを腰に忍ばせる。
今回の獲物は商船。大量の金品を積んだそれを頂こう、そういう算段らしい。
ぼくはといえば金品も女も酒も興味ない。
じゃあなんでこんな海賊船に乗っているかっていうのはまあ色々と過去があるのでここでは話さないでおくけど。
ともかく、海賊のぼくらは彼の船の襲撃準備に移る。
大砲を撃って威嚇。降伏し、金品を寄越せばそれでいいし、降伏しなければ強奪する。
結局それで片がつく。
どうやら降伏する気はないようだ。
接近して、乗り移る。
喚き散らす子供も。懇願する妊婦も。乗り合わせた人間は鏖殺しろとの指示だから。
心は少しばかり痛むが仕方ない。容赦なくサーベルを振るって殺していく。
「金品のある場所は?」
ぼくが船員の一人にサーベルを突きつけつつ、訊ねた。
彼はやや顔をひきつらせて素直にその場所を吐いてくれた。
それを聞いてぼくは聞き出した場所へ向かう。
ありがとう。そうお礼の言葉を述べてから、彼に背を向ける。
彼をぼくは殺さない。理由は一つ。ぼくが死なないですむから。
あとでぼくの仲間が殺すだろう。
へなへなと腰を抜かした座り込んだ彼を尻目に、ぼくは船室へ向かう。
その瞬間。ピストルの発砲音。出所から察するにさっきの彼ってとこだろう。
腰を抜かして、失禁して。そんな情けない状態から如何にしてそんな気力を絞り出したのだろうか。
それは称賛に値する。しかし、その弾丸がぼくに届く事はない。
ガキン。硬質なモノがぶつかる音がしてから、弾丸は甲板に転がった。
「ぼくはオラオラの実の能力者。生命エネルギーであるオーラを自由に扱えるんだ」
さっきのは能力の一つ。オーラを盾に変化させただけ。
彼に向けて背中越しに説明した後、懐に忍ばせたピストルを構えた。
彼には恩があるけども、仇をなすのなら話は別。
殺すしか選択肢はない。頭部に照準を合わせて引金を引く。
ピストルは楽に殺せるが、弾の再装填が面倒臭い。だからメインウェポンはサーベルだ。
オーラを纏わせて強化する事も可能だから。
邪魔者も消えたし、これでぼくの道を阻む者は存在しない。
死んだ彼から教えられた場所へ。
船室の奥深く。そこにソレはあった。
いかにも厳重そうな扉。そしてその前にはよく鍛えられた男。大方、用心棒だろう。
厄介な事態になった。ぼくより弱い事は明らかだが、如何せん時間がない。
おそらく、上は火が回っている事だろう。仕留めるのに手間取ればこの船はいずれ沈没する。
その前に金品を運び出して船長へ献上しないとぼくの命が危ない。
「そこをどいてくれないかな? お互いの為にもさ」
「嫌だ、と言ったら?」
「力ずくで突破する」
「言ってろ! ガキッ!!」
どうやらぼくの風貌を見て油断した様だ。まぁ、声変わり以前の声色に身長もあまり大きくない。
少女、と言われれば通用する位だろう。
馬鹿正直に突進してくる用心棒。鍛えられた体の割には三下臭い動きだ。
オーラを盾にして防御。接近してサーベルを振るう。
咄嗟のところで避けたらしいけど、反応も遅いし、動きに無駄が多い。
所詮肉体だけのこけおどし。ぼくの敵ではない。サーベルで突く。すると右に避けたので、そのまま薙ぎ払う。
回避も防御も間に合わない。故に、サーベルはその脆弱な体をいとも容易く切り裂いた。
ぼくがフゥ、と安堵の息をつくと、船が大きく揺れた。
急がないと。扉を開けると、目の前には大量の金品。
厳重に施錠された宝箱が三つ。そして大量のベリーの束。
想像以上の収穫だ。この分だと運び出す事すら大変だ。手早くオーラで持ち上げる。
この能力はいくらでも応用が利く。超能力的な事から日常の補佐まで。手広く様々な事に使える。
本当にアタリの悪魔の実だ。
甲板の火の手から逃げ回ってやっとの事で船に戻った。
そこには仁王立ちの船長とうずくまる船員たちの姿があった。
また、始まった。役立たずを鍛える、腐った性根を叩き直す、という名目の暴行が。
これはある種の洗脳。恐怖で染め上げて、己の支配下に置く。その為の儀式。
もうそこには収穫の喜びはない。恐怖たったそれだけ。
この儀式で死んだ者も多いと聞く。海にのさばる悪人も拷問の果てに殺されるのは勘弁願いたい、というのは自然な発想。しかし、それなりに貢献していれば、この不当な暴力は回避できる。
ぼくはそんな重苦しい空気の中で努めて明るい声を作り、
「ただいま帰りました」
と、金品を船長に献上する。
やるじゃないか、とぼくを適当に誉めて、その暴力の続きに移る。
可哀想。内心で同情しても、面には出さない。標的にされるのは嫌だからだ。
と、ぼくが自室への一歩を踏み出した、刹那。強風がぼくらの船を襲う。
確か、予兆も気配もなかったはず。
大きく船が揺れる。オーラで床と固定し、転倒を防ぐ。周りをみやると無様に転がっている様が見えた。
船長が帆を畳め、と指示を出すが、ぼくを除けば動ける者はいない。
仕方なく帆を畳むという役割を請け負う羽目になった。手っ取り早くオーラで宙に浮き、てきぱきと帆を畳み終える。
これで幾分か船が暴走するのは防げたが、波による揺れは留まるところをしらない。
しかも、海王類が顔を覗かせる。不運は続く物だ。嵐に驚いたのか、それとも単なる気まぐれか。
ぼくらの船を破壊しにかかった。その巨体で船を押し潰す。それは船を粉砕するには充分過ぎるエネルギーだった。
そうしてぼくは海に吸い込まれる。能力者は泳げないし、浮力すら働く事がない。故に海底にゆっくり落ちていった。
暗くなりゆく視界が。苦しくなる呼吸が。ぼくが意識を失いゆく事を静かに、はっきりと叫んでいる。
これは死ぬかもな。そう思った時、急に楽になった。私奪者にはお似合いの末路だろう。
妻子ある男を殺し。新しい命を腹に抱えた妊婦を殺し。未来ある子供を殺した。
ぼくがいままで殺してきた人間もこんな過程を辿ったのか。
途端に罪悪感が湧いてきて。
ごめんなさい。ごめんなさい。
心の中で繰り返し謝りながら、沈みゆく。
ぼくの意識は暗転して。苦しさもなにも感じなくなったとき。
ぼくには空虚しか残らなかった。