Olgamally_o_a   作:庭の花

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第1話 Restore an adventurer

 

 くすんだ空を光が駆ける。

 

 暗い暗い色合いの街の上を、綺麗な赤色の光が駆ける。

 

 ひび割れた墨色の十字路も、瓦礫に潰されかけ灰に汚れたバイク種らしき機械も、歪んだ墓標のように立つ崩れかけた建造物も関係ない。綺麗な光は一直線に目標へ向かって、高い空から襲いかかる。

 

 きっとそれは、私と彼女を殺しきる矢弾なのだろう。

 

 小さな悲鳴が聞こえる。自身の腕を胸の前で抱き、怯えるように身を縮こまらせる彼女の姿が視界に入る。

 考えてみれば納得だが、彼女がこの攻撃に対応しきれるわけがない。この街で暮らしていた一般市民なのか、それとも近くの街から来た冒険初心者なのかはわからないが、ただの骸骨戦士の集団程度に殺されかけていた女性だ。見た目こそ上等な衣服だが防御力は元より、耐性も不足しているのだろう。

 

 私を、正確にはすぐそこにいる彼女を中心にして降り注いでくる赤く光る矢の群れ。

 先刻受けた一度目は被弾に伴いファイアボールに似た青い爆炎が上がる、魔法の矢に似た攻撃だった。しかしこの二度目、時間を置いてからこうして攻撃を仕掛けてきたからには相応の対応が為されているのだろう。具体的には単純に物理的高威力の一射。エンチャントのお遊びなどない、射貫けば殺せるという分かりやすい暴力。それが今回の攻撃だろう。それでも、受けるという選択は変わらない。

 

 使うべき支援魔法はもう自分にかけている。速度も火力も、念のための防御力も器用さも即席で可能な限り高めた。

 そして名前も知らない怯える彼女に向かって、私が付いていると声をかける。これで準備は整った。

 

 自分の冒険者生活のほぼ全てにおいて苦楽を共にしてきた相棒たる短剣と、私の信念を貫くために鍛え上げた短剣。その二本をそれぞれの手に持ち、彼女を庇うように我が身を盾にして構える。

 回避するという選択肢は初めからない。私が助かっても彼女は助からない行為に価値はない。そんなことをしても、悲しくなるばかりだから。

 

 矢が迫る。こちらからみて一番先頭に当たる矢は、もう私の攻撃射程に入ろうとしている。こちらの武器は短剣だ。その射程なのだから、どれほど近くまで来ているかは言うまでもない。

 このまま何もしなければこの体を射貫き、後ろの彼女も貫くのだろうか。そんなことを考えるくらいに威力の窺える攻撃を正に前にしているが、この体も心も固まることはない。

 

 一手先、更にもう一手先の距離にある全ての矢に二本の短剣を振るう。戦鬼と呼ばれて久しいこの身に染みついた剣技がどれほど通じるのかわからないが、そこに躊躇いも恐怖もない。自分の知る戦い方はこれだけだ。だからただ全てを斬り刻む決意の下に刃を振るう。

 

 爆発する。連鎖するようにいくつもの爆炎と黒い煙が上がる。

 こちらが矢を退けきること、相手の技量がこちらを上回ること、もしかしたらこれはただの陽動かもしれないこと。様々な可能性を心のどこかで考慮しつつ振るった剣技は、先刻の一度目とこの二度目がほぼ変わらないという結果を告げた。それはつまり、これが本命ではないということ。次か、その次か、真にこちらを抉る一射が飛んでくる。

 

 警戒しつつもう一度剣を振るえば同じ炎と煙が広がる。こちらは属性の耐性は揃えているから、煙は当然として炎も受けつけない。しかし視界が遮られる。ただの暗闇ならまだ手の打ちようもあるが、この状況ではできる対応が限られてしまう。

 根本的に気配も探れないような不可視状態でない敵なら斬ることはできる。その程度はある程度技能を磨けば誰でもでき、当然私も可能だからこうやって矢弾を捌くのに問題はない。しかしそれだけでは駄目なのだ。反撃か防衛か退却か、その判別が難しいのは辛い。

 

「レフ……レフ、助け……」

 

 間髪入れずに飛来する矢に剣を振るい、斬った本数爆発する。音自体がダメージになるほどではないとはいえ、繰り返す爆発の中で彼女のか細く苦しげな声が聞こえたのは奇跡か。意識を少し傾ければ彼女の酷い咳の音も耳に入る。

 失策だ。私は彼女のことを誤解していたらしい。こんな場所にいたのだから、もっと――いや、今はそこではない。大事なのは彼女の命だ。振り向いてみれば彼女は力なく地面に伏せているではないか。早くここから退避させなければならない。

 

 剣技、そして爆発。相変わらず同じ攻撃が飛んでくるが、少なくとも脱出という点で見ればこれはありがたい。本命の一撃のための準備か、それともこのように間接的に彼女を攻撃するのが目的だったのかはわからない。しかしいずれにせよ、致命的でない内に立て直すべきだ。

 短剣を振るいながら、伏せている彼女の背中に乗ってテレポートの魔法を唱える。彼女に合わせた速度で転移先が敵の眼前になっても対応できるよう、覚悟を決めて。

 

 

      ◇◇

 

 

 彼女の背に乗ったまま気配を探る。すぐさま感覚が捉えた殺気の密度と方向から考えれば、謎の狙撃手との直線距離はテレポートする以前と大差はないがこちらの位置は大分動いたようだ。

 敵前転移や転移前と比べて本当に一歩分程度しか動かないこともある癖の強いテレポートの成果としてはまずまずと言える。

 

 再び狙撃されることを警戒しつつ軽傷治癒の魔法を唱える。背に乗ることで伝わってくる彼女の生命力と推測した力量からすればこの程度でも十分に治療になるだろう。

 すると予想通り一度の詠唱で彼女の傷は塞がった。一応先程の、火炎属性攻撃の余波で倒れるというあまり聞いたことのないほどの虚弱体質ぶりを踏まえて数回軽傷治癒を重ねてかけておく。これで流石に万全に回復したはずだ。

 

 彼女の背から降り、未だ動きを見せないその体をひっくり返して抱き起こす。服や顔に煤こそ付いているが、火傷もなければ衣服の焼失もない。耐火ブランケットなしの上に属性耐性不足という状況下にしては恵まれた生存状態だ。

 しかし軽く体を揺すっても支えながら肩を叩いても起きる気配がない。可愛らしい呼吸は聞こえるから無事という認識は間違っていないようだが、もしかしたら最後の爆炎には混沌属性もいくらか混ざっていたのかもしれない。

 

 寝息を立てる彼女を近くの、おそらく民家の外壁跡らしき場所に寄りかからせて自分は改めて周囲に目を配る。感覚だけでなくこの目でも敵性生物がいないかを確かめる。

 

 見る限り敵はいない。いや、それどころか生物の影が一つもない。

 随分と殺風景な眺めだ。片方に広がるのは、王都で核爆弾が使われたときの惨状を思い起こさせる破壊痕。もう片方、少し遠くに見えるのは終末が訪れたかのように燃え盛る森林。それらの光景と今私たちがいる付近の違いなど、揺らめく炎があるかないかという程度。

 

 私たちの周りには瓦礫でできた小さな壁ができている。穏やかに眠っている彼女を寄りかからせるため、元々あった邪魔な残骸を魔法で吹き飛ばした結果できた壁、いや高さから見れば壁というより段差。その近くへ行き、元々はこのほとんどが崩れ果てた民家の一部だっただろう瓦礫を一つ手に取る。

 

 ――あのときと同じだ。何度も見たことのある光景、何度も手に取ったことのある残骸。それと何も変わらない、破壊の跡地。

 またやってしまったのか。どこの誰とも知れない猛者たちよ。じゃれ合うのはいいが、街中で分裂生物核メテオ終末パレードは勘弁してほしいのだが、全くもって。

 

「ん……、どこよ、ここ……」

 

 見慣れた惨状を前に苦笑しつつ瓦礫を投げ捨てると、どうやらやっと目覚めたらしい彼女の声が聞こえる。

 

「あ、貴方……! い――いったい、何がどうなっているのよ……」

 

 覚醒しきっていない状態で無理に立ち上がろうとしたからか、彼女は一瞬脱力するように倒れかかるものの、歯を食いしばるようにして踏み止まった。本人の矜持が覗く瞬間であったが、それはともかく。

 

 しかし、一体何がと問われてもこちらも困る。そもそも不明なことが多い中で最初に出会った非敵対者が彼女なのだ。先程は真面に話すことができない状況だったこともあり、自分が知っていることだけでは彼女の期待には沿えないだろう。

 そのような事実は拭えないが、とりあえず簡素に経緯を話してみる。骸骨戦士の集団に殺されかけていた貴方を助けたが、互いに相手を詳しく知る前に何者かの狙撃を受けた、と。

 

「……」

 

 相手を詳しく知る前に、のところを強調してみれば彼女の警戒が少し弱まったのを感じる。こちらが少しでも怪しい動きをすれば狂乱して攻撃してくるか、というぐらいから、敵だと少しでも思えば躊躇なく攻撃してくるという具合に。あまり変わってないかもしれない。

 

 こちらを睨みつけ、敵うかはともかく気持ちの上ではこちらの攻撃動作に対応できるよう心を整えようとしているのだろう彼女に向かって、心情の推測はできるが今のところこちらに害意はないと伝える。

 ファイアボールを引き起こす性質を持つと思われる矢の直撃は自分が何とかしたが、その余波で彼女は倒れてしまった。そこでテレポートを使って彼女共々その場を脱出し、転移先であるここが丁度立て直しに適していたため彼女を外壁跡に寄りかからせて休ませていた。ちなみに彼女の傷を癒したのも私である、と経緯の続きと共に付け足しておく。

 

「…………どういう事?」

 

 何を指した疑問かわからずこちらが聞き返す。もしかして庇ったことや回復の理由についてだろうか。

 

「そんなことじゃ――いえ、そう、そうよ! 貴方何者!? レイシフトは、四十七人のマスター適性者たちは!? ここは本当に冬木なの!? なんでわたしは襲われて、助けは……なんで、なんでわたしばかりこんな目に遭わなくちゃいけないのよ!?」

 

 堰を切るように吐露される感情。彼女の言葉にはこちらが理解しきれないものがいくつかあったが、今気にするべきはそこではないと捨て置く。

 猛者たちのお遊びという名の破壊に巻き込まれた、ただの市民か新顔の冒険者かと思っていたが中々どうして、彼女なりに重い何かを背負っているらしい。

 そんな彼女に他人がかけられる言葉などあまりない。私が今言うことができるのは、だからこそ情報が必要だということくらいだ。

 

「わたしだって知りたいわよ!」

 

 そう、貴方も知りたい。かく言う私も知りたいことがある。互いに情報が不足していて現状が理解しきれない。そして少なくとも今、私たちは敵対関係でない。なればこそ情報を交換すべきだ。それが最善かはわからないが、間違った一手ではないと思うのだがどうだろうか。

 

「それは……!」

 

 様々な感情がない交ぜになった瞳で彼女はこちらの顔を見る。

 そんな目を向けられても私が助けを出せないのは変わらないが、視線自体は喜んで受け入れよう。彼女も色々と思うところがあるようだから、一つでも気持ちをぶつけられるところがあればその分楽だろう。それに長く冒険者生活をしている身としてその程度の余裕は勿論ある。

 

「……そうね、その通りよ。わかってる。わかってたわよ、そんなコトは……!」

 

 苛立つ気持ちを吐き捨てるように呟く彼女。どうやらある程度は落ち着いてくれたらしい。

 その様子を見て一瞬間を置いてから断りを入れ、こちらから先に改めて自己紹介をしようとしたが、彼女がそれを制した。彼女から先に話したいらしい。こちらはそれを拒む理由もないので続きを促す。

 

「……まず初めに、感謝を。成り行きとはいえ貴方は二度、いえ、三度かしら。わたしを助けてくれたことには、その……感謝しているわ。……ありがとう」

 

 どういたしまして。自分は偶々居合わせて動いただけだが、それで感謝してくれるなら何よりだ。

 

「……」

 

 こちらをじっと見てくる彼女。先程とは違い幾分か感情が抑えられている視線だ。

 しかしどうかしたのだろうか。

 

「いえ、何でもないわ。わたしは特務機関カルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィアです。本来であればこの特異点を修復するために陣頭指揮を執るなんて真似はしないのだけれど、気がつけばここにいたわ。きっと何か手違いが」

 

 そこで何かに思い当たったように顔をしかめ、片手で自身の体に触れるオルガマリー。

 

「――違う、手違いなんてレベルじゃない。もっと大きな、それこそレイシフトの仕組みが根本から歪むほどの、致命的な……! どういうこと!? これじゃマスター適性者たちは!? そもそもここは本当にあの冬木なの……!?」

 

 混乱が恐怖を得て再燃した、と表現すればいいのだろうか。機関カルディアの所長だったか、そう名乗ったオルガマリーは再び平静を失ってしまったようだ。

 話を聞く限りでは、一大陸の名前を冠するほどの組織の長でありながらこの特異点、とやらにいつの間にかおり、しかもそれは極めて想定外の事態だったらしい。特異点とは固有名のあるネフィアの一つなのか、この街の名前なのかはわからないが、オルガマリーの話から考えるに点と言うには些か大きな何かを指しているのは確かのように思われる。

 

 しかし話が本当ならば、私が巻き込まれている事態もそれに類するものだと推測できる。

 

「え? ……少し取り乱したけど、貴方も似たような状況にあるのね? ……聞かせてもらえるかしら」

 

 勿論である。

 一度、骸骨戦士の群れを倒した後にこちらの自己紹介はしているが、改めて名を名乗る。

 オルガマリーと違い所属と言えるのはノースティリスの冒険者であることくらいだ。あと世間で私個人を指す異名としては、地獄好きの鍛冶屋というのもある。一応尋ねるが、聞いたことはあるだろうか。

 

「……ないわ」

 

 先刻通りのため予想通りだが少し残念な気になるぐらいばっさりとした否定である。しかしカルディアという、ティリス大陸の海向こうの大陸名を持つ組織所属という事実を知った今ならその反応も納得ではある。自分程度の冒険者が活動範囲外の土地で名が通っているとは思っていない。

 

「……もう訊いたことだけど、もう一度問います。それは本当なのね?」

 

 それとは私が述べた立場のことだろうか。それなら当然そこに虚偽はない。

 私はノースティリスの冒険者だ。確かに見た目こそ熟練には程遠いかもしれないが、それはポーションの効果で肉体年齢が下がっているだけだ。実力で言えば名立たる猛者には遠く及ばないが、それでも地獄巡りができるくらいはある。その結果として異名が付いているのもまた事実だ。

 だから、確か件の狙撃を受ける直前にも尋ねられたのだったか、私が何者かという問いの答えに嘘はない。更に答えればこの街の戦乱の生存者というわけでもない。そして、何だったか。サーなんとか、という種族でもない。

 

「……サーヴァント。サーなんとかじゃなくて、サーヴァントね。種族の名前でもないわ。……貴方、本当にサーヴァントではないの? あんなに強かったじゃない」

 

 強かったと言うが、サーヴァントとは強ければ誰もがなれる、あるいは強者に与えられる称号のようなものなのだろうか。本当に私は知らないのだが。

 

「そんなわけないじゃない。サーヴァントって言うのはね、過去の英雄を使い魔にした存在よ。強ければなれるのではなくて、強かったと多くの人々に伝えられたからこそなれる存在。貴方の考えるような安いものじゃないのよ」

 

 オルガマリー所長の講義に私はなるほどと頷く。

 それなら尚の事私はサーヴァントとやらではない。カルディアにはそのような猛者がいるようだが、ノースティリスではそのような強敵もそれほど称えられた冒険者も見聞きした覚えはないし、自分も勿論そんな大それた存在ではない。

 

「その、それよ」

 

 どれだろうか。オルガマリーの言葉に首を傾げてみれば、彼女は会いたくない存在に出くわしたかのように顔をしかめた。

 まるで地獄ネフィアに入った途端、遠方から「Mr.Bubbles!」と聞こえてきたかのようである。あれで殺害数が増えるのだから勘弁してほしいが、そんなことは今関係ない。

 

「ノースティリスって……何なの?」

 

 オルガマリーがこちらに向ける視線は、今まで向けられたものと比べて格段にわかりやすい懐疑の色に染まっていた。

 




 
 
 
☆≪第1話_omake≫
・elonaの世界を伝える情報だ。
・それは記憶で作られている。
・それは酸では傷つかない。
・それは炎では燃えない。
・それはFateシリーズと無関係として扱うことができる。
・それは参考程度の理解に適している。


      ◇◇


 あれは、あの子がうちに来てから間もないころのこと。
 新しく買った自宅でのんびりと釣りをしていたら、あの子が走り寄ってきたのだ。そしてそのままこちらに抱きついて言った。

「お姉ちゃんお姉ちゃん、私も魔法を使いたいにゃ!」

 魔法、とは時々私が使っているもののことだろうか。頭が大きくなったり、手に取ったポーションが瞬時に毒薬になったりするのではなく。

「それはエーテル病にかかったときにゃ……」

 あの子は悲しい顔をした。

「そうじゃなくて、お姉ちゃんも言った時々使ってる方にゃ。瞬間移動とかー、炎をばーんとか、私もしてみたいにゃ!」

 それは良い志だが、おそらく実現は難しいだろう。
 魔法を使うには、先天的に特定の魔法が使える特性を持つ一部の種族を除き、魔法の素質を持つ者が必要な技能を習得して後天的に学習するしかない。そしてあの子は前者ではなく、魔法の素質すらない。

「そうだったにゃ……」

 しかし最近は魔法の素質がない者でも一定の条件を満たせば魔法書に記された魔法を使えるようになるという技術革新が進んでいると聞く。いつになるかはわからないが、いずれあの子も魔法を使える日が来るかもしれない。

「そうなのかにゃ!? 楽しみだにゃあ……にゃふふ」

 まあいつになるのか本当にわからないが。
 それに魔法を主体にして戦わないのであれば、最悪使えずとも何とかなるものである。事実私は近接攻撃を中心としていて、魔法はあくまで戦闘補助か手加減ぐらいにしか使わない。

「にゃ? でも使えた方がお姉ちゃんや他のペット()も助けられるよにゃあ」

 それは、確かに否定できないが。
 身体能力を向上させる魔法や回復魔法は近接主体の私でもよく使うし、転移系の魔法も仕切り直しや逃走に使うことがある。そしてそれによって命が救われる場面があるのもまた事実だ。

 しかし私はあの子が魔法を使えなくてもいいと思っている。魔法が使えなくても、生命力が低いせいですぐ死にかけるとしても、それがあの子の個性なのだからそれを尊重したいのだ。
 勿論改善したいと言うのであれば私なりに手伝うが、いい機会だから言っておこう。私はあの子が万事に秀でていなくてもいいのだと。そしてあの子があの子なりに頑張っているなら何かが足りなくてもそれで私は十分なのだ、と。

「お姉ちゃ……そ、それはその……照れるような、嬉しいような、にゃ! それならそれとして、んと、テレポートってどんな魔法なのかにゃ!?」

 なんだか凄い勢いで話を切り替えられた感じがするが、あの子の様子を見る限りたぶん伝わったのだろう。

 それはそれとしてテレポートか。テレポートは、対象を転移させる効果を持つ魔法の中の一つである。そして対象となるのは発動者自身のみで、転移先は元の地点から遠いところになりやすいという特徴を持つ。

「……あれ? でも前に戦闘中お姉ちゃんがテレポートを使ったとき、私も一緒に転移してなかったかにゃ?」

 それはそのとき、乗馬スキルで私があの子に肩車されていたからだ。
 王国ギルドで教えてもらえる技能の一種、乗馬を使っている最中は特異な対象判定が起こるのだ。例えば支援魔法と私が呼ぶ種類の魔法の一部は、発動者が乗る側か乗られる側かを問わずどちらか片方のみが対象になるようになっている。それらと同じようにテレポートも効果対象に変化があり、本来発動者自身のみ転移させるところを乗る側乗られる側両者を一緒に転移させるというようになっている。

「にゃるほど、だからなのにゃー」

 ちなみに乗っていない状態かつ両者がテレポートを使えたとしても、乗馬時と同じ結果にはならない。テレポートは毎回ランダムに転移先が決まるのだ。二人が同時にテレポートを使っても離れ離れになるだけのことが多い。
 だからあの子が口にした状況のように転移後も二人揃って行動したいときは、片方がもう片方に乗っかってテレポートを唱えると良いのである。

「転移先はほんとランダムだにゃ……。あれ、どうにかならないのかにゃ?」

 無理である。
 遠距離用と言えるテレポートの他に近距離用と他者を飛ばせるものもあるが、任意の場所に転移する魔法技術は今のところ開発されていない。
 一応自宅などの決められた場所なら飛ぶことができる魔法もあるが、あれは風の噂によると一部の神様が手伝ってくれているからできるだけのことらしい。

「そんにゃあ……。んー、ところであの炎がぶあーんって魔法は何なのにゃ? あれは攻撃魔法なのにお姉ちゃんよく使ってるよにゃあ」

 炎がぶあーん、はファイアボールの魔法だろう。
 あの子が言う通り攻撃用の魔法であり、自分を除く周囲にいる者全てに基本見境なく火炎属性の魔法ダメージを与える効果を持つ。そのためそもそも使い勝手が良くない。
 しかも火炎属性の攻撃はついでに対象付近の可燃性のものを燃やすため、アイテムの回収ができなかったり上がった火柱でこちらが燃えたりと尚更使い勝手が悪い。
 更に言って火炎に対する耐性が足りない状態で燃えると可燃性の所持品や装備品もこちらの体と一緒に燃えるのだから本当にファイアボールは使い勝手が悪い。

 ファイアボールを使うときはしっかりと耐火性能を持つ装備を付けて、その上で燃えても構わない相手に放ちましょう。

「はいにゃ! ……けど、ならほんとになんで使ってるにゃ? お姉ちゃんは魔法をダメージ源にもしてないし、そんなに使いにくい魔法なのに」

 使いにくくとも、覚えてしまったからにはつい使わずにはいられない性分だからだ。
 それにやっぱり燃えても構わない相手だからであり、そして極めていないファイアボールでも殺せる程度の敵だからである。
 それに。

「それに?」

 相手の体を燃やしてとどめを刺す、それはどことなくダークヒーローっぽい良さがあると思う。

「わからないにゃ」

 私は悲しくなった。
 
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