Olgamally_o_a   作:庭の花

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第4話 二度占める

 

 盾持ちの少女マシュとの一騎打ちは、ほぼ膠着状態に陥った。

 

 その理由はこちらの火力が低いことと言うべきか、それともマシュにこちらを打倒できるだけの地力がなかったことと言うべきか。

 どちらも相手を殺しきれないのだ。こちらからしてみればほとんどの攻撃を盾で弾かれ無効化される上、やっと当たっても追加ダメージしか通らない。せめてマシュの持つ属性耐性に穴があれば違ったのだろうが、そんなものは見事になく追加ダメージの大部分は抵抗されている感覚がする。身体異常は効いているため完全無効化ではないようだが、それでも決着に繋がるほどではない。

 一方マシュはそもそも攻撃頻度が低い。それは彼女が未熟ということではなく、こちらが積極的に攻撃しており、かつそこに付随する行動阻害の異常をなるべく受けないことをマシュが優先しているからである。防戦一方手前といった具合だが、その分こちらは攻撃一辺倒だ。そうしなければマシュの動きの幅が増え、今のこちらが一応は有利な戦況が維持できないと見えるのだから仕方ない。

 

 どちらかにもう一歩優位な何かがあれば、と惜しく思えるほど拮抗するようになった原因は横結いの少女、藤丸だ。オルガマリーの助言を受けてからの彼女は戦場における第二の目としてマシュを支援し始めた。

 時にマシュの体を癒し、時にマシュの身体能力を高め、時に広い視野から指示を出す。後方支援と呼ぶに相応しい戦い方だ。

 

 一対一とは、ともう問うまい。望ましい高潔な精神はあっても、元より殺し合いに守るべきルールはない。それにオルガマリーが何かしらは運命共同体と言っていたし、藤丸とマシュは二人で一人の戦士だったりするのではなかろうか。

 後は、そうだ。片方が前線に立ちもう片方が支援する。そんな戦い方が、懐かしい記憶を呼び起こさせる。だから温かい気持ちが湧いてきて、悪い気はしないのだ。

 

 しかしだからといってこんな戦闘を延々続ける気はない。同じような動作の繰り返しはもう十分他でやっている。

 魔のネフィアで過去似たようなことはあったのだから、私はそのときどうしていたかを思い出して解決策を探す。

 

 ――駄目だ。ゴリ押ししかしていなかった。

 

「マシュ、負けないで!」

「はいっ!」

 

 そうなるとマシュは無理矢理押し通せない分、これまでで最高峰の耐久性能があるということか。物理無効という特性も相まって優秀な前衛盾役だ。少しばかり仲間(ペット)にして育ててみたい気もするが、私には相棒たるあの子がいるし、二人の振る舞いを見れば藤丸がマシュの主なのだとわかるのだから横取りはしまい。

 それより倒す方法を見つけ出さねば。まずは魔のネフィアの前例に倣って、得意ではないが魔法の攻撃に切り替えよう。

 

「え、足が……これは、クモの巣?」

 

 第一に使うのは蜘蛛の巣の魔法。任意の場所、今はマシュの足元に移動を一時的に封じる魔法の蜘蛛の巣を張る。マシュ自身に働きかける弱体化の魔法は抵抗されて意味を成さなかったが、これは場所を対象に取るから問題ない。

 実際期待通りマシュの動きが止まった。その慌てぶりからして初めて蜘蛛の巣の魔法を受けたようで、もうその隙を短剣で突きたくなるくらいだったが、効果が薄いことは飽きるほど体験したのでやめておく。

 代わりに今の内に距離を取って別の魔法を唱える。純粋な魔力の塊である魔法の矢を放つ魔法だ。単発の火力は抑え気味だがその分燃費がよく、連射しやすい。

 

「マシュ、前!」

「っ!」

 

 藤丸のおかげもあってまたもやマシュの姿が大盾の後ろに消えるが、それでも十数本放った魔法の矢の内最初の数本は隙だらけだったマシュの体に命中していた。

 しかし彼女は大した痛みも受けたように見て取れなかった。つまり彼女は純粋な魔力自体にも素晴らしい耐性を持っているということなのだろう。だがこちらはもう驚かない。追加ダメージからしてあまり効いていなかったのだから予測できる事態だ。

 

 しかしそうなると攻め手の大半が死ぬ。どう殺せばいいのだこの子は。やはりゴリ押しこそ正義だということなのか。

 

 他の種類の攻撃魔法もマシュに撃ちつつ、彼女たちがこちらの魔法を警戒して身を守っている間に自分の持ち物を漁る。この状況を変えられるものはないだろうか、と期待して。

 そして出てきたのは冒険の必需品と予備の装備、そしてお気に入りのハンマー。どうにもならない。一番現実的な攻撃手段が、終末を起こして現れるグリーンドラゴンのブレスにマシュを巻き込むというモンスター頼みの時点で万策尽きている。

 

 駄目だ。やはりゴリ押ししかなかった。

 

「おい、二刀使いの嬢ちゃん!」

 

 自分の準備不足に失望していると、それを見かねたのかキャスターが声をかけてきた。

 なんだろうか。

 

「いつまでチマチマやってるんだ? そろそろ切り札の一つでも見せてくれよ」

 

 楽しそうに笑いながら頼まれても、できることとできないことがある。そもそも切り札など持っていない。そしてチマチマも好きでやっているわけではない。

 

 ただそれとは別に、盾持ちのマシュたちは、何というか平和な子たちなのだなとは思う。こちらが会話中だからといって、わざわざ戦いの手を止める必要などないというのに。

 しかし、その優しすぎる善意はありがたくキャスターの相手に使わせてもらうとしよう。打開策に繋がるかもしれない。

 

「あ、それともアレか。相手に切り札を使わせないと使えない、ってヤツか。……ぷっ、く、ハッハッハ。もしそうだってんなら、生身でサーヴァントとやり合う嬢ちゃんにゃ相応しいなあオイ!」

 

 一人で爆笑されても困るのだが。何を言いたいのかよくわからないし、現にマシュや藤丸も首を傾げている。

 それに対峙している相手がいる前で繰り返すことでもないが、私に切り札はない。追い込まれないと使えないという条件付きの装備や魔法もない。

 

「……あー、マジか」

「本当に(わたしたち)の前でする発言だとは思えないのですが……」

「もしかしていい子?」

 

 それぞれ好きに言ってくれる。特に最後の藤丸。肉体年齢こそ多分に下げているとはいえ、いい子という言葉は血で血を洗うノースティリスの冒険者にどう足掻いても当てはまる言葉ではない。知らないとは時に恐ろしいものだ。

 

 全く、話が逸れたがもうキャスターに言うことがないなら殺し合いを再開しよう。

 切り札はないと言ったが、こちらの体力も魔力もほとんど削られていない。そして腕が鈍る要因もなし。今まで通り追加ダメージだけでも、マシュの命を削り取ってみせよう。

 

「ヒッ!?」

「そんなことはさせない!」

「先輩……。はい、その通りです。先輩(マスター)を守るためにも、わたしは負けません」

 

 素晴らしい主従関係が築けているようだ、藤丸とマシュは。いや先程の戦闘でそれはわかっていたことか。

 しかし何故オルガマリーが怯えた声を上げたのだ。宣言はマシュに向けたものだし、発言もマシュを見てしたというのに。

 

「いや、その戦い待った」

 

 両者決意を改め構え、いざ再戦と思ったところで待ったをかけるキャスター。

 そこにからかう様子はないからいいが、一体今度は何用だろうか。そう思って彼を見てみれば、真面目な表情のままこちらとマシュの間へと歩いてくる。オルガマリーとの決闘にキャスターが闖入してきたときの焼き直しのような状況だが、はてさて。

 

「後輩を導くために自分は一歩引くとか、やっぱガラじゃねえわ。しかも片方は人間のクセしてサーヴァントと真っ向からやり合うとか、二刀使いだとか、敵なら構わず殺すオレらみたいな思考の持ち主と来た」

 

 何が言いたいのか、キャスター。

 

「つまりだな――オレも交ぜろってことだ!」

 

 キャスターの手のひらが空を撫でるように素早く動き、その軌跡が炎のように光る複数の記号を描く。するとすぐさまそこから火球が生まれ、こちらに全て命中すると体を飲み込んで尚余裕あるほどに大きな爆炎を上げた。

 

 視界の全てが暖色に染まって明るく綺麗だが、キャスターはこの景色を見せたかったのだろうか。

 最近のネフィアからは過去にないほど優れた性能を持つ装備が発掘されるようになったため、ネフィアによく潜る冒険者の一人である私も同等のものを手に入れている。そのため火炎で所持物が焼失しないどころか無傷にまで耐性を付けており、やはりキャスターからの火炎魔法でも傷を負わないのだが。

 

「いいねえ。それでこそ戦い甲斐がある!」

「キャスター、やっぱり味方なの!?」

「あん? 言っただろ。オレは中立、アンタらのどちらにも味方しない。だが不干渉とまでは言ってないぜ。二人纏めて叩き潰してやるよ!」

「ずるい! キャスターずるい!」

「なんだと!?」

 

 楽しそうな藤丸とキャスターである。その様子にマシュも不機嫌顔だ。

 

 殺し合いとしては気楽な再開だが、すぐにマシュだけでなく藤丸とオルガマリーの非戦闘組も顔を強張らせた。予想以上に火炎使いのキャスターの戦いぶりが苛烈だったからだろう。

 

 こちらには杖を使って殴り、叩き、時には先端で突いてくるキャスター。これまでの反応からこちらに火炎魔法は意味がないと理解したのだろう、積極的に接近戦で打ち込んでくる。

 反対にマシュには火球を飛ばして遠距離ながら狙い撃っている。それをこちらに殴りかかるついでにやってみせるのだから、キャスターの技量の高さが窺い知れる。時には地雷のように魔法を設置して攻撃しているから器用なものだ。

 

 盾持ちのマシュはというとあまり攻撃に転じられていない。キャスターの火球を盾で防いでいるのもあるが、見たままを表現するなら不慣れといったところか。守ることは得意でも攻めはまだ慣れきっていない。そして私とキャスター、マシュの三人の乱戦であることが響いていると見える。いきさつからこちらは敵と判断しているが、攻撃してくるキャスターにも全力で反撃してもいいのかまだ迷っている。戦い方にしても、間接的にキャスターを支援してこちらの息の根を優先的に止めるべきか、味方ではなく纏めて叩き潰すと言われた以上キャスターに背中を見せられないと判断すべきか決めきれていない。だから動きが鈍く、攻撃の機会まで繋がらない。

 

 藤丸は何をしているのだ。仲間(ペット)にいざというとき指示を出すのも主の役目だというのに。そう思ってキャスターの攻撃を短剣で受けたり回避したりする合間を縫って数度視線を配れば、藤丸の俯く姿とついでにオルガマリーの苦々しい顔が目に入る。まさか藤丸は足元の猫を見ているのかと驚いたが、違うようだ。彼女の視線の先には召喚された猫たちはおらず、周囲と同じように破壊によって荒れた大地しかない。

 

 猫たちはいつの間にいなくなったのだろうか。猫は殺気を出していなかったため移動を感知できず、自由な生き物だからふらっとどこかへ行っただけなのだろうが、今残っているのは一匹の白猫だけだ。藤丸の肩に乗る、いやあれは、猫ではないか。一番近い生物を挙げるならシルバーキャットだが、あんなにもこもこした体毛と尻尾はない。見たことのない生き物だ。藤丸のもう一人の仲間(ペット)だろうか。

 

「マシュ!」

 

 余計なことに思考を割いていると藤丸が顔を上げて大声を出した。戦闘に巻き込まれないよう少し離れているから声が大きいのも当然だが、そこにはちょっとした怒気と拳を強く握りしめるほどの奮起が感じられる。

 

「盾で吹っ飛ばしちゃって! 二人ともを、思いっきり!」

「……はい、先輩!」

 

 それが藤丸たちの決断らしい。こちらの価値観に近い答えだが、ノースティリス的思考を無視しても間違った判断ではないと思う。こちらは、そしてキャスターも敵意を示した。なら戦場で迷う必要はない。

 

「おう、やってみな!」

 

 一方キャスターは楽しそうだ。彼の杖とこちらの短剣がぶつかり合うときは特に愉快そうに、そして少しばかり獰猛に笑っている。彼は戦闘や挑戦者が好きな性格なのだろう。

 他にこうして武器を交えてわかったことといえば、思っていた以上にキャスターは戦いの中で生きてきた人物ということだ。熟練の冒険者に近い存在だとは認識していたが、ここまで精神技能両面で高い水準を誇るとは。乱戦を巧みに行って尚余裕を残し、こちらとマシュの攻撃を全てかわすか杖で受け止めている。

 イルヴァのことを知らないとキャスターは言っていたが、本当は知っていたか違う単語を用いているだけということはないだろうか。彼もノースティリスの猛者だと明かされても驚かないくらいの戦闘能力なのだが。

 

「どうした、その程度じゃねえだろう? 特に盾の嬢ちゃん、そんなじゃマスターを守れないぜ」

 

 余裕綽々といったキャスターに対し、こちらとマシュは疲れが出始めている。彼からこれといった外傷を奇跡的に受けていないが、それでも戦力差が厳しい。

 強いて戦況を変えるとすれば、こちらがマシュに再び行動阻害の異常を与えてキャスターの攻撃をマシュに対して通しやすくすることで、彼女を早く削るという手もあるが駄目だろう。キャスターとの一騎打ちに専念した上での逆転の策は未だ思いついておらず、そもそも彼がこちらにマシュを攻撃する暇を与えてくれない。

 

「さあ、吹っ飛ばすって言った気合を見せてみな。じゃなきゃ、主諸共焼け死ぬぜ」

 

 我が魔術は炎の檻、その言葉から始まったキャスターの詠唱。今までの火球を飛ばすようなものとは違う、複雑な魔力を感じる工程。

 彼が何を目論んでいるかは知らないが、長い詠唱を本当に必要とする魔法は不味い。こちらの知識と合致するなら、繰り出されるのは強力な性能を有する大魔法と呼ばれるもの。

 

 詠唱を止めるべく即座にキャスターの下に踏み込んで短剣を振るう。

 しかし、どうしたのだろうか。キャスターがこちらの攻撃に対して身を守ることも回避することもしようとしない。それでもこちらは手を止めるわけにはいかないため、彼の首目がけて振りきるが、感触がおかしい。

 

(わり)いな。オレも盾の嬢ちゃんの同類でね」

 

 なんと、マシュと同じ特性持ちなのか、キャスター。あれだけの戦闘力を誇り、その上で物理無効を引っ提げてくるとは流石に開いた口が塞がらない。もしかしてこの地はノースティリス以上の修羅の国なのか。計り知れないほど激しい生存競争が繰り広げられているというのか。

 それは何と言うか、面白い話だ。もしかしたら私こそ、ここでは駆け出し扱いなのかもしれない。そう思うと実に冒険心が刺激される。

 

 だがそれはそれとして、これは不味い。

 

「せっかくの記念にアンタも味わいな。とっておきをくれてやる」

 

 踏み込み、キャスターの想定外の特性に驚いた隙を突かれて、彼に襟元を掴まれ投げ飛ばされる。その先はマシュの近くだ。自分自身が投擲武器となる経験はあまりなかったが、かつて巨人種に投げられたときのことを思い出して何とか着地を成功させる。

 マシュに着地の隙を突かれる覚悟をしていたが、彼女からの攻撃は来なかった。それどころかこちらを気にする余裕もないほどに、キャスターを緊張した面持ちで見つめている。

 

 その様子からしてマシュは知っているということか、キャスターが使う大魔法の内容を。彼女がすぐに防御態勢を取れるような構えをしているということは、今から来るのは攻撃魔法なのだろう。

 魔法の矢のような単体狙いのアロー系か、それとも周囲を抉るボール系か、最悪破壊の権化たるメテオ系か。どれにしても魔法なら火球と同じくこちらはほぼ傷を負わないとは思うが、あのキャスターが行使するのだ。今更無効化される攻撃をするはずもなし、十分に警戒しなければならない。

 

「倒壊するは――ウィッカーマン!」

 

 それが詠唱の終わりを司る言葉だったのだろう。ウィッカーマン。それが何を意味するものかは知らないが、現れたのは炎を纏う一体の巨人。

 その顔を見るためには真上を見上げてようやく足りる巨体。その手足はこちらの体を簡単に潰せるだろう。しかし一番異様なのはその体の素材だ。肉でも鉱石でもない、見る限り木でできている。糸で編み物を縫うように、木材でもって編み上げられた身体。その胴体の前面には牢屋の入口めいた大きな鉄格子が付いており、異様さを増している。

 しかもその巨人がめきりめきりと軋む音を出しながら歩いて迫ってくるのだから、堪ったものではない。

 

 キャスターの召喚した木の巨人に対する第一の印象は、理解しきれない物だ。ノースティリスで知り得た魔法や特技の中にこんな存在を呼び出すものはない。

 魔法の作成(スペルメイキング)によるキャスター固有の大魔法の可能性が脳裏をよぎったが、そうだとしても自分の知るその魔法技術にここまでの力はなかったはずだ。あれはあくまで既存の魔法を少し作り変える程度で、新たな生物を召喚し味方に付けるようなことはできない。

 

 その上でぱっと思いつくのは、一般に知られる魔法作成の技術には一部の者しか知らない更なる使い方があったということ。もしくは、イルヴァの知識が通じないように、こちらにとっては未知の魔法体系をキャスターが使ったか。

 しかしそれはただの理解しがたさの再確認だ。解決策には繋がらない。

 

「イヤ、イヤよ、助けてレフ、ねえ!」

「所長落ち着いて、走って! 早く!」

「ダメです間に合いません! わたしが、わたしが守らないと……!」

 

 もしかしたらとわずかな希望を込めてマシュを見てみれば、彼女はいつの間にか移動していて二人を背後に庇おうとしている。元々こちらの戦闘に巻き込まれないよう離れていたオルガマリーと藤丸だが、相手はあの巨体と相応の炎だ。人間規模の距離などお構いなしに蹂躙し尽くすだろうし、攻撃対象になるオルガマリーが阿鼻叫喚なのも仕方ない。

 

 マシュの選択は守ることだった。ただそれが守りきれることと同義かどうかは、彼女の悲痛な表情を見ればおおよそわかる。

 

 おそらくキャスター側と同じ知識を持つだろう彼女たちがあの様子では、残念なことに期待するには儚すぎる。

 ではこちらが自力であれを倒せるかというと、それも難しいだろう。なにせあの巨人は、何を間違ったのか、こちらに対して倒れてきているのだから。勿論大きさからマシュたちも十分に巻き込まれるだろう。

 

 てっきりその巨体を活かした格闘戦を仕掛けてくると思いきや、倒れてくるとはどういうことだ。キャスターが制御を誤ったということなのか。仮にそうだとしても、むしろ厳しい状況だ。戦鬼の称号効果によって二手先の距離まであの体を斬り尽くすことがもしできたとしても、その巨体から斬り落とされた体の残骸が結局のところ降ってくる。それを致命傷にならないほどまで斬り刻めなかったら同じように圧死するだけだ。材質が木だからといって炎を纏う巨体がこちらの貧弱な火炎魔法で灰になるとも思えないため、攻撃魔法も望みは薄い。

 

 炎が広がる。まるで木の巨人を収める棺のように、あるいは巨人同士が抱き合うように、その巨体分だけの燎原が広がる。

 その中に薪のようにくべられた私の視界は、迫る巨人の体のごく一部だけで占められた。

 

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