空の堂   作:みょこみょこ星人

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これは彼女たちの物語に交わる話


守護幻影

気持ち悪い。

ポタリポタリと少年の右手に持つナイフから赤い液体が滴る。

吐き気が止まらない。

目の前に少女が倒れていて、腹部からナイフと同じ色の液体が流れていた。

最低だ。

耳元でそんな声が聞こえた。ああ、確かに最低だ。でもこうすることでしか"生きている"実感を得れないのだから。

ナイフを逆手に持って高々と構える。俺は今どんな顔をしてるのだろうか。どんな目でこの目の前の少女を見てるのだろうか。

分からない。

多分虚ろな目で目の前の少女を眺めてるのだろう。

 

だから分からない。

なぜ目の前の少女は必死に笑っているのだろうか。

腹部は痛くないのか?いや、痛いだろう。ひきつった顔から痛いのは分かる。それに痛いと彼女を纏っている"糸が叫んでいる"。痛いのになぜそんな笑顔を俺に見せつけるのだろうか。

気持ち悪い。

吐き気が止まらない。

口から声が漏れる。

言葉になってない声が漏れる。

何か割れる音が聞こえたような気がした。そして、何かが動き出した音が聞こえたような気がした。

 

「おい、何をしている」

 

その言葉が聞こえた瞬間、モノクロの世界に小さな有彩色が浮かび上がったような………そんな気がした。

 

 

 

「……………またこの夢か」

 

頭がボーッとする。あれだ、ライブハウスなんて行ったから予想以上に疲れたのだろう。

幽霊事故の後、修也は結局ライブを見ることになった。

初めは帰ろうとしたのだが、circleの人に行かないのかと声をかけられ、さらにたまたま近くにいた羽沢に一緒に行きましょうなんて言われたから行くことにした。何だかんだ押しに弱いなと思う修也だった。

 

4月23日。

ライブから数時間経った夜遅く、修也はある男に呼び出されていた。

花咲川教会。この小さな教会の椅子に腰掛け、呼び出した男を待ち続けた。待ってる時にそのまま寝てしまったのだろう。腕時計を見ると23:00前だった。

 

「すまない、少し知人が来ていてな。用を済ませていた」

 

少しボサついた長髪に光のない黒目、筋肉質な長身のカソックを纏った男が現れ、祭壇に立った。

 

「いや、集合時間までまだ5分前だから大丈夫だ」

「そうか」

 

この男がこの教会の神父である。胡散臭いのだが、人望は厚いらしい。どう見ても悪人にしか見えないが、社長曰く良い人らしい。裏で暗躍とかしてそうというのが修也の印象だった。

 

「もう寝なくても大丈夫なのか?」

「見てたのかよ」

「1度ここを覗いたからな。だがその時はまだ集合時間の30分以上前。寝かしておいて大丈夫だろうと判断した」

「教会の椅子で祈りとかせずに寝る大馬鹿者を見逃してくれる寛大な心に感謝します」

「礼を言うな気持ち悪い」

 

気持ち悪いものを見るような目で見る神父。本当に彼は神父なのだろうか。

 

「で?見ての通り俺はお疲れなんだ。用件は手短に頼む」

 

コツコツと神父は歩き始め、修也の近くまで近寄る。

 

「用件は2つだ。1つはいずれお前の会社に直々依頼が来るだろう。私が依頼しても良いのだが、そこまでするほどのものでもない」

 

ピタッと止まり、修也を見下すように見る。右手にはB5サイズの封筒があり、それを大事そうに持ちながら説明を始めた。

 

「ここから少し離れた所にショッピングモールがあるだろう?」

「ん?ああ、確かにあるな」

「そこからさらに北西に向かうと橋がある。その橋を渡ると住宅街に着く。そこで、行方不明事件が多発している」

「………ニュースになってたな。男女年齢問わず、その付近の住民が消息不明になるという……だが、何人か戻ってきてただろ?」

「戻ってきたというより返されたと言った方が良いだろう」

「………………つまり」

「そうだ、あれは魔術師によるものだ。警察には手に負えん」

 

ショッピングモールをさらに北西に進んだ住宅街で多数の人が消息不明になる事件があった。捜索に出た警察までも消息不明になるのだからかなり危険なことになってると判断し、警察は大掛かりな捜索に出たらしい。

結果は何も出ず。いや、出てきたのは出てきた。消息不明となった少年や老人、捜索に出た警察が公園で発見された。

事情聴取してみたが何も覚えてないらしく、捜索に出たことすら覚えてない警官もいたとのこと。

 

「多分1度社長が視察しに行くだろうな。それで消息不明になったら奥さんが出る………嫌な予感しかないな」

「全くだ。あの男の事になれば奴は容赦しないからな」

 

はぁ…と2人でため息をつく。しばらく雑談を交えた後神父は修也に大事そうに持っていた封筒を渡した。

 

「これが本題だ」

「…………資料に…DVD……じゃない、CD?」

 

入っていたのは数枚の資料とCDだった。

 

「これは私個人がお前に依頼する」

「会社には言うなってことか?」

 

左様と神父は笑みを浮かべる。それを見て嫌な顔をする修也だが、依頼を持ってきたのだからちゃんと内容を見ないといけないと心を鬼にして資料を見た。

 

「…………はあ?ストーカー被害?」

「ああ、被害者はパスパレの白鷺千聖。数日前から黒ずくめの男に付けられている」

「お前じゃなく?」

「バカ言うな。私が付けるならバレないように付ける」

「……………」

 

多分呆れた顔をしてるのだろうなと修也は思う。言動を見るからに目の前に立っている神父はこの"Pastel*Palettes"とやらのファンだ。

 

「………結成して日が浅いのだな」

「ああ、たまたま彼女たちが大雨の中チケットの手売りしてるのを見かけてな。あれから私の心がときめいてしまった」

「そのニヤケ面、どう見ても"大雨の中濡れながら活動している……愉悦"にしか見えん」

「お前は大馬鹿者だな。どうしてあんな健気な子達をそんな目で見れる」

「……………」

 

やばい、こいつ本気のファンだ。あまりに怖くなったから目で確認してみたが、本気でファンしてる。

 

「………で?何故俺だけに言う?社長に言ったら結構安値でやってくれるだろ?自分で言うのもあれだが俺に直接したら結構額取られるぞ」

修也は社長に依頼された仕事は文句言わずにやる。だが、直接依頼してきたらそれなりの額を戴くようにしている。単に社長が出す金額が安すぎるからだ。身内価格とか言って正直食っていけるのか?と思える金額で依頼を受ける。だから修也に直接来た場合、"正式な値段"で依頼を受けた。そうしないと勘違いする客が出てきてしまうから。

 

「お前は本当に大馬鹿者だな。私がパスパレのファンである事をあの男にバラしてどうする!」

「いや、知らねぇよ」

 

単に奥さんにバレて茶化されたくない、恥ずかしいからだろう……正直、見ていて気持ち悪い。

 

「つか、よくこの護衛に俺を組み込めたな。どうやってやったんだ?」

 

資料を見ると明日の16:00から彼女の護衛をすることになっている。どうやって交渉とかしたのだろうか。

 

「それはあの男の娘に協力してもらった」

「奥さんにバレるの一直線だぞ」

「安心しろ。奴は私と同じ同志だからな」

 

つまり社長の娘はPastel*Palettesのファンということか。Pastel*Palettesは資料を見るからにアイドルバンドだから……社長の娘と神父が並んでケミカルライトを振る…………ダメだ、気持ち悪すぎて笑える。

クツクツと込み上がる笑いを堪えながら資料を見ていたらあることに気づく。

 

「………このメンバー、どこかで見たような」

「大手のアイドル事務所だからな。テレビにも出たことがあるぞ」

「いや、最近どこかで見たような………あ、今日のライブだ。こいつら今日のライブで出てたな」

「何っ!」

 

いきなり神父が修也の胸ぐらを掴む。びっくりした、見えなかったぞ。

 

「なぜそれを私に言わない!」

「どうやって教えろと。今初めてあんたがPastel*Palettesのファンだと知ったのに?」

 

胸ぐらから手を離して頭を押さえる神父。彼女たちの動向をチェックし忘れてたとか、知ってたら懺悔なんか聞かずに向かっていたのにとか呟いていた。彼は本当に神父なのだろうか?

 

「ふん、まぁ…今後は気を付けることにして。この依頼、受けるかね?」

「………………」

 

どう見ても受けないと面倒な事になる。だから修也はため息をつきながら、依頼を受けることを決めたのだった。

 

 

 

 

 

「という訳で依頼を受けたのでしばらく事務所に顔を出さないと思います」

「了解。依頼者は花咲川教会の神父さんで良い?」

「はい」

「依頼内容は修也君に対しての依頼だから会社に話さない……か」

「個人的な依頼だからとのことで」

「………了解。何かあったら言ってね」

 

翌日、修也は依頼を受けたことを社長に伝えるべく事務所を訪れた。人喰と幽霊事故の資料作成も兼ねて。

 

「そういえば、人喰から何か情報は出ましたか?」

「まだ捕まって2日しか経ってないよ?しかも彼、全然話さないから進展もないって」

 

ただ、と一旦一息ついて

 

「彼はずっと自分の左腕を噛んでいたんだって。君に"喰らう意思を斬られた"というのにね」

 

と言ってキーボードで字を打ち込むのを止めた。

 

「…………本能じゃないですか?己の起源が食べることだから」

「………本当に喰らうことが起源なのかな?」

「?」

「いや、何でもない」

 

再び文字を打ち始める。それを見て修也は頭に?マークを浮かべたが社長の思考を読み取るより仕事を終わらせるのが先だと考え、作業に戻った。

 

「………ふぅ。つかもうこんな時間か」

「14半時過ぎか……早いけど支度し始めたら?」

「そうですね。"考察"を書き終えたら行きます」

 

ノートパソコンを閉じて横に置いてあったノートを開く。そこにはびっしりと文字が書かれていて、これまで関わった事件について事細かに書かれていた。

 

「今回の人喰事件と何か関係のある事件はあるかな?」

「去年から出ている"蛇女"と関係は?」

 

去年の10月辺りから出没し始めた"蛇女"と呼ばれる存在がいる。

痕跡である長い髪や遺体の腕に残された手で掴まれたような痣から女性と判断。さらに痣から絡み付くように鱗のような痣を残していて、世間からは蛇女と呼ばれていた。残念ながらそれ以外の痕跡や目撃情報を残していないため未だに警察の手から逃れている。

 

「蛇女かぁ………確かに蛇のような噛み跡とかあったらしいから"食べる"という意味で言えば共通したものと言えるかな?」

「え?それ初耳なんですけど」

「え?」

「え?」

 

沈黙が事務所を満たす。

 

切り換えるように社長は

 

「2週間前の遺体に噛み跡が見つかったんだって。もしかしたら人喰のように肉を食らったのかもしれないな」

 

と言った。表情から察するに言い忘れてたのだろう。たまに抜けてるところがあるよなと修也は思った。

 

「同じ地域に人を噛んでるだけじゃ、ちょっと弱いかな?黒幕がいるという仮定で話を進めるには」

 

ここの所この近辺で事件や事故が多発しているからもしかしたら何者かの陰謀が働いているのかもしれないと践んで社長と修也は捜査を続けていた。しかし、欲しい情報は中々集まらなかった。

 

「そうだね。やはり、人喰の証言待ちかな」

「…………ですね」

 

そう言って修也はノートに考察を書き終え閉じた。クルクルとペンを回していたら

 

「ふーん、修也君って鉛筆で書くんだね。シャーペンとか使わないの?」

「いや、シャーペンありますよ。貰ったロケットペンシルを使いきろうと思って今使ってるんですよ」

「………………ロケットペンシルって何?」

「え?」

 

また沈黙が事務所を満たした。

 

「知らないんですか?ロケットペンシル」

「知らないよ、ロケットペンシル」

 

またまた沈黙が事務所を支配する。

 

「あ、ちょうど良い時間なんで行ってきます」

「え?あ、うん。行ってらっしゃい」

 

修也は立ち上がって鞄に封筒やノートパソコンを入れると社長に向けてロケットペンシルを投げた。社長は危なげにそれをキャッチするのを確認し、

 

「それがロケットペンシルです」

 

と言って事務所を後にした。

 

「…………社長の年代だと思うんだけどな。ロケットペンシル」

 

と、事務所の外で呟く修也であった。

 

 

 

時刻は15:49。約束の時刻まで約10分のところまできた。

修也は割りと急ぎで歩いていた。

あの後、年代が別なのか社長の奥さんと宇田川さんの奥さん、宇田川さんに蒼崎さんに電話をしてみたら社長の奥さんと宇田川さんの奥さんは分からなかったようだ。宇田川さんと蒼崎さんはばっちり知っていた。というかその話で盛り上がった。蒼崎さん、年齢バレますよと思いながらも楽しい2人の会話に心を踊らされた。それが原因で集合時間に間に合わないとか笑えない。

 

「…………集合時刻まで後7分…。何とか間に合ったか」

 

集合場所は花咲川女子学園…から少し離れた公園。よく分からないがそこを集合場所と書類に記されていたので向かったのだが、そこには誰もいなかった。まだ集合時間ではないから来ていないのだろうと修也は考え、目に入ったベンチに座って書類を取り出し目を通し始めた。

護衛対象は白鷺千聖。俳優として有名人らしく子役時代、かなりのドラマに出演していたそうだ。

そして、加害者の黒ずくめの男。見た目は黒のコートにヘルメット。身長は180強の高身長。

特に手を出したわけでもないが、ただずっと後ろを付きまとってくるそうだ。それなら警察に連絡すれば良いと思うのだが、しないということは何か理由があるのだろう。

 

「あ、修也さーん。ちゃんと来てましたね」

 

ちらっと声の方を見ると見覚えのある灰色の制服に身を包んだ女性2人と見覚えのない制服を着た女性がいた。

 

「そりゃ、依頼だからな。普通来るだろ……」

 

彼女は社長の娘さん。神父と共同で依頼をしてきた高校2年生。隣に立っている2人も見覚えがある……というかこの資料に載っている。

片方の灰色制服が大和麻弥。元々メンバーではなく代理のドラマーだったらしい。何か色々あって正式メンバーになったらしい。

で、隣にいるのがストーカー被害者の白鷺千聖。

 

「ふふ、光溜さんと違って真面目ですね」

「瓶倉さん、真面目だろ。依頼はきっちりこなしてるし」

「そりゃこなせる依頼だけ回してるのですから」

「………………」

 

このことは聞かなかったことにしよう、と修也は思うのだった。

 

「それで?俺はこれからどうすればいい?」

「修也さんにはこれを着てもらいます」

 

娘さんから少し大きめの鞄を受け取り中身を確認する。

 

「……スーツ?」

「そう」

 

娘さん曰く、この相談を受けたのは大和麻弥からだそうだ。この頃バンドメンバーがストーカー被害を受けていると。警察とか話して大事になったら今後の活動に影響を受けかねないから最小限に治めたいと聞いてその時に娘さんが思い付いたのが修也だった。

修也にマネージャー兼護衛をしてもらって、帰り道にそのストーカーを発見したらボコってもらおうと考えたらしい。

 

「物騒な考えだな。で?神父に連絡して俺に依頼を受けるように仕向けたと」

「そういうこと。私が依頼したら絶対パパに言うでしょ?」

「………まあな。社長に言われてるし」

 

依頼内容までは話さなくていいが、誰が依頼してきたかは話さないといけない。これは会社ルールで決まっていた。

 

「すみません。何か未那ちゃんから聞いた感じ忙しそうに聞こえたんッスが、大丈夫ですか?」

「ん?確かに忙しいが……まあ、何とかなるだろ」

「じゃあ、修也さん。そこのトイレで着替えてくださいね。着終えたら事務所に移動してもらうから。では、麻弥ちゃんよろしくお願いします」

 

と言って娘さんは公園から去っていった。先程から千聖が話さないのが気になるが、後々分かるだろうと判断し、修也は鞄を持って公衆トイレに向かうのだった。




まず、謝罪から
本当に遅くなってすみません
色々と忙しくて書く暇もありませんでした
さらに風邪を引くという厄介なことに巻き込まれて…………
頭が痛いと執筆も捗りませんね
次はいつ投稿できるか分かりませんが早く上げれるよう努力します
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