私は“樋口一葉”   作:紅ヶ霞 夢涯

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 何とか日付変更前に書けました!

 今月最後の投稿です。


第15話 

 

 ガチャ、と家の扉を開ける。

 

 そのとき玄関に鏡花ちゃんの靴、というか下駄がないのに気づいて、思わずため息を吐いた。

 

「またですか」

 

「また、とは?」

 

 途中で降ろそうとして失敗し、結局家まで来た先輩の声は無視。靴を脱いでデバイスはそのままに家に上がる。先輩は勝手に上がり込んだ。

 

 鏡花ちゃんの姿は案の定ない。

 

「鏡花は、どうした?」

 

 当然それが気になったのだろう。尋ねる先輩に、私は無言で机の上に置かれていた手紙を渡した。

 

 それは達筆な文字で埋められていて、最後にある人の名前が書かれていた。

 

 ーーー尾崎紅葉。

 

(無断で連れて行くのを止めて欲しいとは言ったけどさ~。一言あったら連れて行ってもいいってわけじゃないんですけど)

 

 たぶん今頃鏡花ちゃんは、原作で少しだけ出てきた座敷牢のような所にいるのだろう。

 

 鏡花ちゃんには申し訳ないが、異能の制御ができないのでは仕方のない措置だと思う。

 

 それはそれとして、息抜きくらいは必要だろうと思い同棲してたりするわけだが。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………これから夕飯ですが、一緒にどうですか?」

 

「いただこう」

 

 さいで。

 

 スーツの上着をハンガーに掛けエプロンを着る。

 

 鏡花ちゃんがいないのだから、カレーは十分に余っていることだろう。

 

 冷蔵庫から鍋を取り出し、コンロの上に置いて温め始める。すぐに焦げるようなことはないので、しばらく放置。今日デパートで買った食材の中から、豚肉を一枚用意する。

 

 で、これを揚げる。今夜はカツカレーだ。

 

 

 

 

 

 

 

<side芥川龍之介>

 

「お待たせしました」

 

 机の上に並べられる二人分のカレー。それには食べやすいよう切り分けられた、揚げられた肉が乗っている。

 

 加えて言えば、普通のカレーより赤い……気がする。

 

 樋口はギリギリまで氷水の入った水差しから、二つのコップに水を入れた。

 

「いただきます」

 

「……いただきます」

 

 控えめな声でそう言ってスプーンでカレーを口の中に放り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 美味かった。

 

 しかしそれと同じ程、あるいはそれ以上に辛かった。

 

 まだヒリヒリと痛む口にコップを運ぶ。ひんやりとした水が、喉を通る感覚が心地いい。

 

 何とはなしに樋口を視界に収める。

 

 仕事のときとは違い、どこか樋口の纏う雰囲気は柔らかい。それこそマフィアではないと思えるほど。

 

 そしてその姿もいつものスーツ姿ではなかった。

 

 すでに風呂に入ったため、今の樋口は寝巻き姿。それもまるで貴族が使うかのようなネグリジェ。しっとり濡れた金髪がうなじに張りついている。樋口はそれを鬱陶しそうに握っているタオルで拭う。

 

 そのタオルを肩に掛けて、樋口は(やつがれ)の向かいに座った。

 

「……なぁ、樋」

 

 話しかけようとして遮るように何かを放り渡された。

 

 反射的に掴み取ったのは、鈍く光る銀色の鍵。

 

「それ、ここの合い鍵。貰っておいて下さい」

 

「ーーー良いのか?」

 

「良いんです。それより早く戻った方が良くないですか?いつまでもここにいるわけにもいかないでしょう?」

 

「………そう、だな。邪魔をした」

 

 鍵を外套のポケットに入れて立ち上がる。

 

「見送ります」

 

「いや、構わぬ。お前はもう休め」

 

「そうですか。では先輩」

 

「何だ?」

 

 玄関に続く通路で一度振り返る。

 

 樋口は仕事のときは決して浮かべぬ、花のような、と形容するに相応しい笑みを浮かべて言った。

 

「今日はお疲れ様でした。また来て下さい」

 

「………邪魔をしたな」

 

 扉を閉めて鍵を掛けた。

 

 それからしばらくの間、先ほど目にした樋口の顔が頭から離れなかった。

 

黒の時代編を書く?書かない?(マジで何も考えてません)

  • 書く(幕間終了後、黒の時代)
  • 書かない(幕間終了後、三社鼎立)
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