時よ止まれ、お前は美しい   作:クトゥルフ時計

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 多分大体の人は初めまして。もう小説書き始めて三年経つのに日常を書いたことがないから、最近ハマってるバンドリで何か書こうと思い立ったので書きました。ここからは少し長い前書きだよ。いらないって人は飛ばしてね。

 一つ。作者は日常を書いたことないからどんなことを書けばいいのかよくわかってないよ。
 一つ。作者はこれまで狂気にまみれた残酷な物語しか書いてこなかったから日常がよくわかってないよ。
 一つ。ついでに作者は恋愛がよくわかってないよ。だから恋愛を期待してる人は期待はずれかもしれないよ。
 一つ。作者はこれまでシリアスしか書いたことないから今回は頑張ってコメディに寄せてみるよ。
 一つ。キャラクターの喋り方とかが違ってもそれは作者がよく特徴を捉えられてないだけだよ。変だなーと思ったら教えてね。
 一つ。以上のことを踏まえて、出来れば批評はご遠慮願うよ。

 それでは前書きはこの辺にして、本編どうぞ。


第一話

 泣いていた少女がいた。煌めくようなパステルイエローの髪は水に濡れ、その瞳から流れる涙と共に水滴を地に落としている。

 

 否、髪だけではない。その全身は等しく濡れていた。頭から足の先に至るまで、余すところなく。しかし雨は降っていない。なら何故、少女はそんな惨状に見舞われたのか。下手人は、少女の前に立つ少年らだ。

 

 人数は三人。少女と同じ程の、ランドセルを背負った如何にも悪ガキといった風貌の彼ら。その一人の手にはバケツが握られていて、中には少量の水滴がついている。

 

〝おまえ、生意気なんだよ!〟

〝そうだそうだ!〟

〝げーのーじんだからって調子乗るな!〟

 

 次々と少女に浴びせられる身勝手な罵声。悪意が込められた彼らの言葉が少女を責め立てる。少女は萎縮し泣くばかり。無理もない。まだ幼い彼女に、大人数を相手にして立ち向かう勇気などあるはずがないのだから。

 

 そんな変わらない少女の反応に嫌になったのか、少年の一人がバケツを振りかぶる。狙いは勿論少女だ。いくら中身が空とはいえ、それが当たれば怪我は免れない。

 

 振り下ろされるバケツ。恐れから固く目をつむる少女。人の身体を硬いものが叩く嫌な音が響いた。

 

 しかし、何時になっても少女に痛みが降りかかることはない。恐る恐る目を開けば、そこには彼女よりも幾らか年上と思える少年が、彼女を庇うように立っていた。その頭からは血が流れていて、足元を見れば角が赤く染まったバケツが転がっている。

 

〝大丈夫、◾️◾️◾️?〟

 

 彼は優しく微笑んで少女に語りかける。自分たちより年上の者が来て分が悪いと判断したのか、三人の悪ガキ達は一目散に逃げ出した。

 

 安堵からか、それとも別の要因か。少女の瞳からより大きな涙が溢れ出す。それを見た彼は一転慌てて、

 

〝ああっ、えっと泣かないで! もうあいつらはどっか行ったから、ね?〟

 

 しかし少女の涙は止まることはない。少年は困ったように苦笑する。

 

〝うーん、こういうときなんて言えばいいんだっけ……あ、そうだ〟

 

 そうして、彼は少女の前に膝をついた。これから言うのは、最近覚えたばかりの言葉だ。意味はよくわからないけど、多分大丈夫。

 

〝◾️◾️◾️◾️◾️、◾️◾️◾️◾️◾️◾️〟

 

 告げた彼のその声色は、誰よりも優しかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「――――くん。――せくん。逢瀬くん!」

 

 誰かが自分を呼ぶ声で眼が覚める。顔を上げると、そこにいたのは一人の妙齢の女性だった。如何にも〝仕事ができる女〟といった雰囲気を醸し出す彼女が、机に突っ伏していた青年を見下ろしている。

 

「まーた徹夜で台詞覚えてたの? その意気込みは認めるけど、自分の身体のことも考えてね」

「ん……ああ、すまないマネージャー。襲いくる睡魔にはどうも勝てなくてね。君の心に要らぬ陰を落としたようだ」

「心配かけてる自覚あるなら楽屋で寝るな! あと一時間で撮影始まるから、準備だけしておいてね」

 

 此処は楽屋。俗に芸能人と呼ばれる人種が、撮影前に待機する場所として有名だろう。即ち、此処で居眠りして説教を食らっていた彼も、例に漏れず芸能人ということに他ならない。

 

 誰が呼んだか〝貴公子〟。テレビを点ければ見ない日は無いとまで言われる人物。

 

 名を瀬田逢瀬。歳は十九。腰まで靡く紫紺の髪と誰もが振り向く容貌を備えた、今をときめく俳優である。

 

 して、その実情は――――

 

「了解した。今日も今日とて、僕の声を数多の子猫ちゃん達に届けようではないか。それが僕の為すべき使命、果たすべき責務だからね」

 

 まるで劇中から飛び出した王子様のような、生来の演者である。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 撮影後、逢瀬は楽屋に戻るべくマネージャーと共に廊下を進んでいた。

 

 今日の撮影はバラエティ番組。様々な芸人やアイドルタレントなどが一堂に会すアレだ。そこに逢瀬もゲストとして呼ばれていた。

 

「お疲れ様、逢瀬くん。今日もすごい歓声だったわね。相変わらず女性ファンの多いこと。もう聞き慣れたわ」

 

 乾いた笑いとともに皮肉を溢すマネージャー。しかし当の逢瀬は特に気にする様子もなく、大仰に手を広げた。

 

「ふふっ、さもありなん。ああ、僕は罪な男だ。そこにあるだけで誰もを魅了してしまう! かのゲーテもこう言っているだろう。『神は移ろいやすい物だけを美しくしたのだ(Macht ich doch, sagte der Gott, nur das Verg?ngliche sch?n.)』と!」

「それ、使い方あってるの? というか移ろうな。移ろわれたら困るわ」

 

 頭を抑えて、マネージャーは一つため息を吐いた。

 

 この彼の芝居がかった喋り方は、業界やファンの間では〝逢瀬節〟と呼ばれている。ファンを〝子猫ちゃん〟と呼んで憚らなかったり、何処かの国の偉人の名言を引用したり。テレビを通して見る分には格好良く見えるのだろうが、毎日聞かされる立場にしてみればたまったものではない。

 

 それに今回は引用したモノがモノだ。ルックスで判断されることも多い俳優なんて職に就いている者が〝移ろいやすい〟だとか、縁起が悪いにも程がある。小野小町だって嘆くだろうに。

 

 と、そのとき逢瀬が不意に立ち止まった。廊下の向こう、こちらへ歩いてくる誰かを見つめている。

 

「……あれは?」

 

 マネージャーは逢瀬の視線の示す方を見た。

 

 それは五人の少女だった。白を基調とし、そこに各々別の色をあしらった衣装に身を包む、うら若き乙女達。すれ違いざまこちらへ会釈し、皆一様に一言挨拶をして去っていく。逢瀬の目はその様をじっと見つめていた。

 

「知らない? Pastel*Palettes、略称はパスパレ。この前結成が発表されたばかりのアイドルバンドよ。というか、事務所同じでしょ?」

「普段あまり事務所には寄らないものでね。そういえば、以前そういった噂話は聞いたかもしれない」

 

 数日前、ドラマで共演した同じ事務所の人間が「なんかウチで新しいプロジェクトやるみたいですよ」といった内容のことを話していた。その時は自分には関係ないものとして聞き流していたが……。

 

「そうか……彼女が」

 

 小さく呟く逢瀬に、マネージャーが茶化すように言う。

 

「何よ、気になる娘でもいたの? 隅に置けないわね、逢瀬くんも」

「そういうわけじゃないさ。ただ見知った顔があったからね。少々驚いた」

「あらそうなの。見知った顔……もしかして白鷺千聖かしら?」

 

 その言葉に逢瀬は首肯する。

 

 〝白鷺千聖〟――――テレビを見る人間なら、恐らく知らない者はいないであろう女優だ。元子役という経歴も相まって、その演技力には目を見張るものがある。

 

 そして、他ならぬ逢瀬にとっても妙な縁で結ばれた少女であり、

 

「幼馴染なんだっけ? それが同じ事務所で、共演作多数で、しかもお互い美男美女。まるでドラマか映画の中の話みたいよね」

 

 マネージャーの言う通りである。白鷺千聖、瀬田逢瀬、そして芸能人ではないが()()()を含めた三人は幼馴染だ。家も近く、昔はよく互いの家に出入りしていたとは逢瀬の言。

 

 が、それも昔の話。今ではその関係性は多少変化した。世間の目というものもある。いつまでも子供ではいられないのだ。

 

 閑話休題(それはともかく)。とにかく、逢瀬にとっては千聖がアイドルバンドなるものに参加しているという事実こそが驚愕に値するものであった。

 

 彼女はアイドルなんていう柄じゃないだろう。真っ先に思ったことはそれだ。人前に立つのは慣れているだろうが、ステージの上に立つような少女とは思えない。

 

 何か心境に変化でもあったのか、それとも――――

 

「何か思惑でもあるのか……」

「なんか言った、逢瀬くん?」

「ああいや、なんでもない」

 

 どうやら声に出ていたようだが、幸いにもマネージャーには聞こえていなかったようだ。

 

 とにかく、たとえどんな事情が絡んでいようと他人の道は邪魔するものではない。それは何であれ彼女の選んだ道だ。軽々しく踏み入っていいものではないだろう。

 

 が、それでもこう思わずにはいられないのだ。如何なる運命の悪戯か、白鷺千聖というストイックの化身と組むことになってしまった四人の少女達の後ろ姿を思い浮かべる。

 

 ――――苦労しそうだな、これから。

 

 何事もなければいいけれど、と。この心配が杞憂であることを願いながら、逢瀬は再び廊下を進み出した。

 

「ところで、彼女らはこれから何を?」

「たしか、初お披露目ライブとかそんなんじゃなかったかしら。大勢の観客を集めてね」

「へぇ……」

 

 そこで逢瀬は顎に手を当て思案する。

 

「ねえマネージャー。この後、撮影の予定は無いはずだね?」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 Pastel*Palettesお披露目ライブの開始予定時刻まで、あと二十分を切った。特設ステージの裏側、スタッフ達が入り乱れる中を逢瀬は進む。本来ならば、いくら同じ事務所の者とはいえそうそう入ることは出来ないような場所であるが、そこはマネージャーが掛け合ったらしい。おかげで彼は誰にも邪魔されず目的の場所を目指すことができた。

 

 辿り着いたのはステージ袖。何故こんなところに来たのかと言えば、単純に興味があったからだ。

 

 同じ事務所の後輩たちがバンドを組んでステージに上がる。直接の知り合いは千聖しかいないとはいえ、多少気になりはするだろう。

 

 と、そんなことを考えていた逢瀬の背後から、五人の少女が現れた。その中の一人、パステルイエローに煌めく雰囲気を纏った少女が口を開く。

 

「……そんなところで何してるんです、()()()()

 

 逢瀬はその声に応えて振り向いた。そこにいたのは間違いなくPastel*Palettesの面々。そして白鷺千聖その人だ。

 

「いや何、大したことではないよ()()()()。ただ、少しだけ君たちより長く業界(ここ)にいた先達として、後輩の晴れ舞台くらいは見ておきたいと思ってね。あと心ばかりの激励を」

「そうですか。それはどうも」

 

 淡々とした会話だった。逢瀬の方には多少大仰な身振り手振りが入っているが、そうだとしても彼らの言葉には〝一介の仕事仲間〟以上の感情を見出すことが出来ない。

 

 が、内容を紐解く限り悪い話ではないようで、五人の内の一人、丸山彩は逢瀬に尋ねる。

 

「えっと……あなたはあの、瀬田逢瀬さんでいいんですよね?」

「そうだとも子猫ちゃん。僕があの瀬田逢瀬だ。以後、お見知り置きを」

 

 そう言って逢瀬は彩にウィンクを飛ばす。現実でやれば、たとえ誰がやろうと酷く絵にならない絵面だろうが、そこは天性の役者根性と美貌故だろう。彼の自己紹介は確かな手応えと共に彩の中に刻み込まれた。その証拠に彩は顔を赤くしてあたふたと慌てふためいている。

 

 そんな茶番劇を面白くなさそうに見ていた千聖が、

 

「で、結局何しに来たんですか貴方は。用がないならウチのメンバーにちょっかいかけないでください」

「これは手厳しい。さっきも言った通り、激励だよ。応援と言い換えてもいい。緊張しすぎないで、落ち着いて、あとは()()()()()()に。そうすれば万事うまくいくものさ」

 

 逢瀬の言葉に、一瞬だが少女たちが硬直した。動揺から来るものだろうか。そして、それを見過ごす逢瀬ではない。

 

 ――――これは、また妙なことになりそうだ。

 

 一体何故そのような反応をするのか、彼には理解が及ばない。緊張が表に出ただけ、とは考えにくいだろう。

 

 その時、奥の方からPastel*Palettesを呼ぶ声が聞こえた。予定時刻まであと十分を切ったようだ。衣装や段取りの最終チェックでもするのだろう。

 

「時間を取らせてすまなかったね。お行きなさい、子猫ちゃんたち」

「えっ……ああはいっ! 失礼します!」

 

 硬直していた彩が姿勢を正してお辞儀をし、去っていく。他のメンバーも同様に呼ばれた方へ向かっていった。そしてその最後尾は千聖だ。

 

「待ってくれ白鷺さん。一つだけ聞いても?」

「……なんですか」

「君、()()()()()()()

 

 核心を突く一言。この時ばかりは、いつもの貴公子然とした振る舞いをやめる。目線は千聖の瞳のみを射抜いていた。

 

「っ……失礼します!」

 

 その問いにあからさまな戸惑いを見せて、千聖は語気を強めた。そして逃げるように、焦るようにメンバーの後を追う。

 

 そして、その反応で逢瀬は確信する。

 

「成る程。これは大変なことになりそうだね」

 

 少女らの動揺の種。スタッフ達が調整している機材とステージに置かれた楽器を交互に見遣って、逢瀬は天井を仰いだ。

 

 開始予定時刻まであと僅か。波乱の時は、すぐに(きた)る――――。




 これが作者の書ける限界の日常。芸能界とかよくわかんないね。
 感想とか高評価が来ると作者は喜ぶよ。ついでに更新速度がナメクジから亀くらいには上がるかも。
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