コードギアス反逆のルルーシュ Revenant   作:Ned

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TURN 3 剣と約束

振り翳される悪魔のごとき異形の右腕が蒼の騎士を捕らえようとしていた。

捕まれば最後。敗北は必至―――死すら免れない必殺の一撃が込められている。

その右腕が擁する機巧(カラクリ)はマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム・通称『輻射波動機構』。

高周波を短いサイクルで対象物に直接照射することで、発生する膨大な熱量が対象を膨張、爆発し破壊するというもの。

また発生する高周波を展開することで飛来する弾丸やミサイル等を破壊することすら可能である為、盾としての役割も果たす。

 

―――『紅蓮弐式』

攻防一体のハイブリット兵装を有したナイトメアフレームはそう呼称されていた。

全身を真紅に染め上げたそれは機械であることさえ考慮しなければ正しく、名は人を表すという日本の諺を体現している。

中華連邦インド軍区で開発された後にエリア11において反ブリタニア活動団体の筆頭となった『黒の騎士団』に提供。数々の戦線へと主力として投入された。

その初陣はナリタ攻防戦であることはブリタニア軍人ならば当然の如く知っているだろう。

当時総督であったコーネリア・リ・ブリタニアを後一歩まで追い詰め、当時世界で一機のみであった第七世代ナイトメア、ランスロットと互角に渡り合うという結果を黒の騎士団に。

ナンバーズを見下し、反抗勢力など他愛もないと罵り続けたブリタニアには屈辱を齎した。

反抗勢力の主力であったグラスゴーを改修した無頼、鹵獲したブリタニア軍用サザーランドでは比較にならず、当時最新鋭機として親衛隊を始めとしたコーネリア軍に多数配備されていたグロースターをも凌駕していた。

第七世代ナイトメアクラスのマシンポテンシャルを知らしめた紅蓮と搭乗者である黒の騎士団のエースはブリタニア軍を震え上らせた。

 

―――だが、それは以前の話だ。

 

頭部へと迫った死の一撃を逆方向へと傾いて、ギリギリに回避すると蒼騎士は一気に敵の懐へと肉薄する。

確かに紅蓮の右腕はこれ以上ない脅威だ。

輻射波動機構は当然、鋭利に研がれた爪である指の一本一本とて飾りではなく、凶悪な外見通りの攻撃力を有している。

しかし、巨大であるが故に独自の間合いがあった。

必殺の輻射波動を叩き込む為にその掌は必ず前へと延ばされる。

加えてクランク伸縮機構により長い間合いを有し、見た目通りの長さに騙され後方へと退避して逃れたと思いきや時既に遅し。

高周波による熱量の洗礼を浴び、自らの敗北を悟ってから判断の誤りに気が付く。

 

ならば、どう逃れるか。次の攻撃へと繋げる為にはどうするか。

()()に入ってしまえばいい。輻射波動の攻撃範囲外である右腕の内側に。

その通り、蒼騎士は滑り込むと―――すかさず左腕を振り上げる。

 

異形の腕が一瞬、宙へと舞い……落ちた。

振り上げられた左腕が逆手に握っているのは赤く発光した幅広の剣。

鞘から解き放たれたその刃が紅蓮の腕を切り落としたことは誰が見ても明らかだった。

メーザーバイブレーションソード・高周波振動を利用した斬撃兵装。

ランスロットの装備として初めて実用化された物とは形状こそ違っていたが性能に差異はない。

強固な金属やナイトメアの装甲、紅蓮の右腕であろうとも例外なく、ナイフでバターを切る様に容易く両断する。

最強の武器を失った紅蓮だが、それでも戦えないわけではない。

残された武装は左胸部に搭載されたスラッシュハーケン・飛燕爪牙と左腕に内蔵式グレネードランチャーと握った小刀と十手を融合させた構造の特殊鍛造合金製小型ナイフ・呂号乙型特斬刀。

終わっていない。まだ負けてはいないのだ。

まずは呂号乙型特斬刀を構えて反撃に転じる―――ことは無かった。

 

腰部から上、ナイトメアの主な戦闘能力はほぼ上半身に集約されている。

索敵の為のファクトスフィア。

アサルトライフルなど火器を操るための腕部マニュピレーター。

攻撃及び移動手段として使用されるスラッシュハーケン。

戦闘の要、いや全てと言っても過言ではない。

そのブロックの丸ごと総てが滑るように地へと落ちた。

相対していた蒼騎士の右腕には左と全く同じ形状の斬撃兵装が握られている。

紅蓮の右腕を両断した直後に右腕のMVSで胴を切り裂き、総ての武装を無力化することに成功していた。

反撃の構えへと移られようとする前、既に決着はついていたのだ。

そして、蒼騎士が戦場の汚れを払う騎士の如く剣を振るうと、その動作が合図のように無機質な音声が流れた。

 

 

―――全敵性機体の撃破を確認。シミュレーションプログラム終了。

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

「おめでとう~! そして、残念でした~。

 キミ、この機体のデヴァイサーの資格アリアリだね~。

 一応キミの戦闘データを参考にした調整をしておいたんだけど、まさか初搭乗で無頼五機と月下四機に加えて紅蓮まで倒しちゃうなんて驚いたよ~」

 

シミュレーターでの戦闘を終え、コクピットを降りたレヴニールを迎えたのはクネクネと腰を左右に振り、抑えの効かない興奮をまるで隠さないロイドだった。

奇妙な踊りにも見えるその動作が喜びを全身で表しているという事だけはなんとなく理解できる。

シミュレーションの内容やロイドの奇行について内心では散々に物申したい気分だったが、それに勝る高揚感がレヴニールを支配していた。

しかし、それをあくまで表には出さず、普段と何も変わらない淡々とした調子で口を開く。

 

「シミュレーターだから上手くいっただけです。

 実戦で黒の騎士団がエースの操る紅蓮なら、あの距離まで接近された瞬間に機体をフルスロットルで前進させた後、その勢いで体当たりするくらいは充分有り得る」

 

「んふー、そうかもしれないけどね。だとしても次の手段は考えてたんでしょ?」

 

「その場合は後ろに後退しながら、右のMVSを牽制として投擲した後にヴァリスで仕留めます。

 この機体に搭載されたものは通常のヴァリスよりもバレルが短くなっている分早撃ちに優れている、でしょう?」

 

「ん~、まぁそれも確かに間違ってはないんだけど、あれの真価はそこじゃあないんだよねぇ。

 西部劇のガンマンみたく二挺になったのは偶々で、本当は仕方なくだったんだよ?

 ……だというのにキミは早々に一挺を捨てたけどね」

 

若干な不満を漏らすロイドは未だぶつぶつと何かを呟きながら手に持ったノート型コンピューター端末を睨む。

数分前までシミュレーターで紅蓮と交戦していた蒼騎士の全体像と素人が目にしても理解の及ばない専門用語満載の文字群。

内蔵及び懸架された武装一覧、レヴニールのパイロットデータも画面には映っている。

武装覧の一つ、話題に上がっていた銃型兵装の画像をクリックし、詳細情報を拡大表示するとロイドは端末の画面をレヴニールへと向けた。

 

Variable Ammunition Repulsion Impact Spitfire Short Type略してVARIS(ヴァリス)S(ショート)

可変弾薬反発衝撃砲。ランスロットに搭載されていた弾薬の反発力を制御できるライフルを改良、伸縮可変機構はそのままに銃身を短くすることで取り回し安さに特化した兵装。

……と、レヴニールは思い込んでいた。詳細なデータが記された端末の画面を見るまでは。

確かに。記載されているスペックが真実ならばロイドが不満を漏らす理由も納得できる。

目の前に突き付けられた事実はそれ程に衝撃だったのだろう。

画面を食い入るように凝視するレヴニールの表情をロイドは意地の悪そうな笑顔で眺めていた。

 

「……凄いですね。この『ランスロット・クラブ』は」

 

素直に感嘆せざるを得ない。ナイトメアフレームとその開発者にここまで感心することは初めてだった。

興奮冷えぬどころか益々増す気味合いでレヴニールは視線を上へと上げる。

工廠の端という一角に鎮座しながらも圧倒的な存在感を誇る巨人。

―――紅蓮を斃した蒼の騎士がそこに在った。

 

『ランスロット・クラブ』は第七世代ナイトメアの性能を世界へと知らしめたランスロット、その量産計画の一端から生まれた試作実験機である。

外見はランスロットと酷似しているがカラーリングは白と青を基調としており、額には強化ファクトスフィアの役割を担う甲虫のような角が装備されているのが最大の特徴であった。

だが、その姿は以前と比べれば幾分かの違いが見られる。

以前と比べ、僅かに延長された頭部の角は元々の特徴をより強調するが如く存在感を増し、短く丸みのあった両肩部は外側へと延びる形で大型化。

全体的に改修前よりも鋭角的なフォルムとなっていた。

 

「正式名称は『ランスロット・クラブ・レガリア』です。

 元々試作機だったクラブを私とロイドさんの趣味が入り過ぎた改造のせいで、スザクくんですらまともに使えない機体だったのですけど…」

 

「やることが多すぎるから向いてないって言ってたよね~、彼。

 あ、こちらの女性はセシルくん、僕の助手」

 

「またそんな杜撰な紹介の仕方を……。

 こほん。初めまして、キングスレイ卿。キャメロット所属のセシル・クルーミー少佐です」

 

「レヴニール・キングスレイです。

 本日は専用ナイトメアの件でロイド伯爵から提案を頂き、こちらへと参りました」

 

互いに挨拶を済ませ自然と握手を交わす。

「あ……ご丁寧にありがとうございます」とセシルは一瞬だけ意外そうな表情を見せた後に小さく会釈した。

成程、ロイド伯爵のストッパー兼キャメロットのヒーリング役は彼女か。

敬遠されがちな外見の人間に対しても柔和な笑みを向け、躊躇いなく握手できる人物なら合点がいく。

正反対な同士だからこそ互いを補填し合う良いパートナーとなれるというやつかもしれない。

実際は技術面以外、ほぼ一方的にセシルがフォローしているというのが隠しようの無い事実であり、出会ったばかりのレヴニールだとしても遠からず思い知るだろう。

 

「それで、いかがだったでしょう。

 クラブ・レガリアに搭乗してどう感じました?」

 

「まだ武装を完全に把握していないので現状の感想ですが。

 今まで乗ってきたナイトメアと比べ物にならないくらいに動かしやすかった。…と思います」

 

「あはぁ、セシルくん聞いた? 彼、やっぱり適性あるよ。

 じゃあもう一回シミュレーターに乗ってみよう。今度は僕の指示通りに武装を使ってもらってさ」

 

「あんな無茶な戦闘プログラムを始めからやらせておいて何を言ってるんですか…。

 キングスレイ卿だって人間ですよ? それにお身体の事だって」

 

「―――いえ、構いません。やらせてもらいます」

 

気遣うセシルの言葉を遮るようにきっぱりと言い切った。

あのナイトメアフレームに騎乗した時の高揚感が未だ熱を持って身体を廻り、昂っている。

レヴニール・キングスレイにとってのナイトメアはあくまで今の時代、最も主流となっている兵器であるが故に戦争の手段でしかなかった。

己が脳内で思考し弾き出した理想通りの行動を反映しようと操作すれば、数秒のタイムラグが発生する。

たかが数秒と侮る事なかれ。実戦経験のある兵士なら皆理解している自明の理であるが、弾丸と爆炎の舞う戦場では数秒が生死を左右するのだ。

自分の反応速度に機体が追従してこないのであれば自らが合わせるしかない。

だからこそ、ナイトメアフレームという人型兵器をあまり信用していなかった。

剣には剣を。銃には銃を。

時代の流れと共に戦場を支配した兵器が今はナイトメアとなっただけの話。

最も戦果を上げたであろうエリア18での決戦も最後は生身の白兵戦。

鍛えた肉体と研ぎ澄ました神経こそ己にとって最大の武器なのだ。

その自負は今でも変わらない。

ただ、一つ心境の変化があったとしたら―――。

 

己の力を最大限に発揮するどころか、増幅してくれる存在に出会ったこと。

出会って数分か数時間か、それくらいの時しか経ていないにも関わらず。

蒼騎士とも呼べる姿のナイトメアの存在が欠かす事ができない程大きくなっていた。

運命の恋人、騎士にとっての愛馬。

様々に呼称できようが一つだけ、間違いなく言えることがある。

 

 

レヴニール・キングスレイと戦場を共に駆けるのは―――『ランスロット・クラブ・レガリア』

冷たく無機質な格納庫であっても悠然と佇む蒼の騎士。

乗り手の現れない幻の機体と呼ばれたナイトメアフレーム以外、有り得ないということ。

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

―――誰かが呼んでいた。

それは自分の名前なのか、それとも知らない人間のものなのか。

昔、今よりも遥か前にそんな風に呼ばれていた気もするが、よく覚えていない。

ひとりではない。正確な人数を把握しきれない程多く、騒がしい……声。

 

「――――様!!」

「――――様!!」

「――――様!!」

「――――様!!」

「――――様!!」

「――――様!!」

「――――様!!」

 

気高い騎士を志す若い男が、婚前の輝かしい未来を夢見る妙齢の女が。

農夫の格好をした中年の男と恰幅のいい酒場の女主人が。

顔のしわがれた老父と連れであろう老母が。

喉が張り裂けんばかりに呼んでいる。

おそらくは男であろうその名を。

皆待っているのだ。王たる男が口にする言葉を。

かつては辺境の小国であったこの国を拡大し、民に様々な益を齎した偉大なる王の号令を。

 

ならば応えなくては―――ならない。

 

他人事のように思える。だというのにそんな感情が沸いた。

沸く所以など微塵も理解できないというのに。

民の声に、民衆の総意に応えるべく命令を下さなくては……ならない。

そうしなければ守れないから。

虐げられていた日々に怯えていた少年はもういない。

力を得て変わったのだ。

虐げられることも平伏することもない真の王に。

 

民には餓える事のない安寧を。

志を持つ騎士には栄光を。

歯向かう敵には死を。

悪行を為した罪人には裁きを。

 

だから―――。

 

自らの意思ではない。

そんなことを考えてもいないし、思ってもいない。

それでも開かれる口と放たれる王としての勅命を止める事はできなかった。

 

 

「―――共を――――にしろ!!」

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

最初に見えたのはおぼろげだがやわらかな笑顔。

続いて髪を撫でる優しい掌の感触。

意識は未だ半分ほど覚醒していない。だとしても脳は漠然と機能し、現在の状況を理解しようとしていた。

少し分析してみればなんとなく、そうかもしれないと考えは浮かんだ。

どうやら正解だったようで、後頭部の感じる微かな体温が憶測を決定づけている。

―――ああ、自分は女性の膝の上で眠っていた、と。

 

どうしようもなく、心地よくて。

戦場での目を背けたくなる光景も全て忘れてしまうような安息。

だから、仕方のないことなのかもしれない。

顔も覚えていないのに―――そんなことを口走ってしまったのは。

 

 

「……は…は………うえ…」

 

 

しかし、その安息は―――。

 

 

「ごめんなさい、私はお母さんじゃないわ」

 

 

凛と涼やかな声によって終わりを告げた。

 

「………モニカ?」

 

「おはよう、眠れる森の美少年さん」

 

冗談か皮肉、あるいは両方か。

入り混じった言葉とまどろみの中で見たものと同じ微笑みがレヴニールを迎えた。

モニカ・クルシェフスキー。同じくナイトオブラウンズであり、十二の席を担う者。

ナイトオブツー叙任される前、エリア18からの帰還直後に組まれたブリタニア皇帝観戦の御前試合で相手となった女性。

……というのがモニカに対するレヴニールの印象だ。

一体何が、どうなってこのような状況になったのかはまるで理解が出来ていない。

おおよそ今日の予定を回想してみれば恐らくは答えは出るだろう。

 

ペンドラゴンのホテルで起床後、謁見の間に行く前に着替え……。

いや、任命式典までは通常通りだった筈。ならばもっと先の話だ。

スザクに連れられてロンゴミニアドファクトリーのロイド伯爵の下へ。

それから、自分の相棒とも呼べるナイトメアに出会って―――。

 

……思い出した。自分にも責任はあるがロイド伯爵のせいだ。

クラブ・レガリアの武装を一通り使用してシミュレーションを行った後、見せられたランスロットの量産型だという『ヴィンセント』に搭載予定という新型兵器のデータ。

肘に内蔵され、サクラダイトにより発生したエネルギー場であるブレイズ・ルミナスを利用した攻撃から防御まであらゆる使用法が可能な兵器だという。

初めて見るタイプの兵装であるそれを面白いと言ってしまったのが運の尽き。

あらゆるパターン、敵、状況での使用方法を実践することになり、紅蓮や黒い月下と十回以上も戦闘する羽目になった。

セシルの鉄拳制裁によって漸く解放されると、疲れ果てて近場の公園のベンチで横になっていたらそのまま寝てしまったという訳だ。

本日ナイトオブラウンズに任じられたばかりというのに正直、情けない。

 

「……すまない、モニカ。迷惑を掛けたようだ」

 

「別に構いません。

 病院帰りに偶々見かけたから、流石に放っておくわけにもいかなくなっただけですから」

 

「見かけたって、私をか?」

 

いくら顔見知りの男がベンチで寝ていたからと言って膝枕をする流れになるだろうか。

そう単純に考えてレヴニールが質問すると、モニカは一瞬顔をしかめ呆れたように大きく溜息を吐いた。

 

「…あなたの財布が盗まれそうになっている現場ですよ」

 

げっ。思わず声が漏れた。

反射的に腕が財布を忍ばせてあるパンツの左ポケットに触れる。

脚で感じている膨らみからそこに在るのは解っていた筈なのだが、どうしても確認しなくては気が済まなかった。

普段から使っている長財布の感触を知るとほっと胸を撫で下ろした。

 

「帝国最強の騎士が任命当日に財布を盗まれるなんて、洒落になりませんよ?

 もっと自覚を持って、気を引き締めてください」

 

「……返す言葉もないな。ところでモニカ、一つ聞きのだが」

 

「む、何ですか。返す言葉もないとか言いつつ本当は言い訳が?」

 

「いや、言い訳をする気はない。

 が―――膝枕をする必要はあったのか?」

 

何気ない一言にかぁぁっとモニカの表情に恥じらいの色が表れた。

そんなことを言いつつも未だに膝に頭を乗せている青年は全く意にも介した様子はなく、淡々とした調子で何故そこで赤くなる。と、はてなを浮かべていた。

 

「それは、その……。ほら、あれですよ!!

 あなたと恋人みたいに見られれば、変な輩が近づいてこないと思ったんです」

 

「それは私にか、それとも君にか?」

 

「~~~~っっ!! どっちだっていいでしょう、もう!!

 はい、サービス期間は終了です。起きてください、ほら」

 

「わかったから、無理やりどかそうとしないでくれ。

 頭から落ちて怪我をしたら危ないだろう」

 

「知った事じゃありません!」

 

怒らせてしまったか。何か失礼なことを言った自覚は無いのだが…。

持ち前の朴念仁を存分に発揮したレヴニールは少し名残惜しそうに上体を起こす。

ベンチへと座り直して、隣のモニカの様子を伺うと膝の上でぎゅっと両手を握り締め、顔はそっぽを向いてしまっていた。

異性にこのような態度を取られた場合どうすれば正解なのだろうか。

それは恐らく千差万別。女性一人一人によって違うだろう。

レヴニール・キングスレイという男は同性同士の友人関係も無ければ、ましてや異性との交際経験などある筈がない。

自覚はあまりないが自身の女性関係には無頓着と言っても納得されてしまう程である。

それであっても他人を気遣う心がないという訳ではない。単純に不器用なだけのだ。

ならば、この状況で彼が正解を選んだとしても不思議ではない。

 

「モニカ、詫びと言ってはあまり聞こえがよくないが、受け取ってくれ」

 

「? これ、舞台のチケットですか。一体どうしてあなたが」

 

差し出された二枚の観劇用チケットを手に取り眺めながらモニカ問う。

彼女がレヴニールに抱く印象では少なくとも映画や舞台に心を打たれる事を喜びや趣味として、財布を出すという人間ではない。

もしもそんな男なら失礼かもしれないが意外過ぎるにも程があるというものだ。

 

「式典に来ていた貴族がスポンサーをしているから是非にと。

 まぁ半ば押し付けられる形で貰ってしまった。というわけだ」

 

「ふふっ。やっぱり、そうですよね。

 あなたの趣味が舞台鑑賞だなんて、全然似合っていませんし」

 

「仰せの通りだよ。適当な誰かに渡そうとでも思っていたが、生憎と交友関係が狭くてな」

 

「……ふーん、そうですか」

 

依然としてチケットを眺めているモニカの心中には未だに刺さった棘のような後悔がある。

少し前の話だ。E.U.から鹵獲した機体を改修した新型機のテストとしてカンボジアへ滞在していた時、一人の青年と出会った。

理不尽な乱暴狼藉を働くブリタニア兵の行動を制止しようとした若い男。

氷のような瞳をして、それでいて内側にどこか危うげな脆さを感じさせる者。

互いに好感を持ち食事の約束を取り付けたのだが、新型ナイトメアの破壊又は奪取を目的とした組織の襲撃によって、モニカは意識不明の重傷を負った。

意識不明のまま移送され、目が覚めた時にはブリタニア本国にある大病院のベッドの上。

不可抗力ではあるが当然、約束の食事をすっぽかすことになってしまい、相手の名前も連絡先も知らない故に謝罪のしようもなかった。

モニカ・クルシェフスキーはラウンズの中でも最年少という訳ではないが、少女と言えるほど年若く、感性も同年代の女性とほぼ変わらない。

同年代の年若い者たちが経験していることを未だ経験していないだけで、自分だって好ましい異性となら関わっていきたいし、恋をしたいという願望もある。

つい勢いでやってしまった節があるが、膝枕だって一般的な少女たちの恋愛模様に憧れてのこと。

モニカ自身、帝国最強の騎士とは言えど人であり、女性であることを捨てたつもりは毛頭なかった。

ラウンズであろうと…いや、だからこそ前線に出る機会が多く、一般の軍人と同じく常に死と隣り合わせであることに変わりはない。

戦場で朽ちる事は覚悟の上だが、生きている間に心残りはできるだけ減らしておきたいのだ。

ならば―――目の前のチャンスを逃す理由はない。

 

「では、ありがたく頂きますね。

 そして、あなたに一枚差し上げます。なので私と一緒に観てください」

 

「いや、私は…。ドロテアやノネットを誘えばいいだろう?」

 

「勘違いしないで欲しいのですが、あなたには観劇前のショッピングにも付き合ってもらいます。

 憂さ晴らしをするように買いますので、荷物持ちが必要なんです。

 ……膝枕のお礼としてこれくらいいじゃないですか」

 

「―――…そうか、わかった。君に付き合おう」

 

「え、本当にいいのですか?

 どうしても嫌というのなら別に無理強いはしませんが…」

 

「いや、一緒に行こう。財布を守ってくれた礼もある。

 それに……君の膝枕は人生で一番心地よく眠れた気がするんだ」

 

「また、あなたはそんな調子のいいことを言って…。

 でも、本当……ですか?」

 

「ああ、嘘を吐く意味がない。それと食事もご馳走させて欲しい。

 当日までに良さそうな店を見つけておくから」

 

「―――っ、約束ですよ。

 破ったら一生、許してあげませんから。……それでもいいのですか?」

 

ああ。短くそう返すとモニカの右腕をとって、互いの小指同士を絡ませた。

指切りの約束。確かエリア11、旧日本に古くから存在する大衆の風習。

どうしてそんなものを知っているのか、一体誰に教えて貰ったという記憶はもう覚えていない。

だけど、何かとても大切な―――忘れてはいけない約束をこの方法で誓ったような……。

 

「これをどうすればいいのですか?」

 

突然の行動に放心しているモニカを放っておいてしまったらしく、きょとんとして絡み合った小指を同志を眺めていた。

 

「……あ、すまない。

 これはエリア11の人間が約束する時のもので、破ったら相手に針を千本呑まされるらしい」

 

「随分と物騒な風習があるのですねエリア11は。

 ―――でも、ちょっとだけロマンチックというか…。

 存外に、悪くないかもしれませんね」

 

 

どこか嬉しそうな表情でモニカは微笑むと小指に力を入れて、より強く絡ませ合った。

 

 

 

 

 

 

 

 




モニカを出そうとしたら9000字超えてるし…。分割した方が良かったかもしれませんね。

クラブ・レガリアは頭部以外、コンクエスターと形状は似たイメージを想像しています。
そういえばDS版にレガリアってKMFがいたんですけど…マイナー過ぎて知ってる人かなり少なそうですね。
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