コードギアス反逆のルルーシュ Revenant 作:Ned
皇歴2017年。現在、世界は実質三つ大国に分断されている。
テューダー朝期のイングランド王国を源流とした帝政国家『神聖ブリタニア帝国』
E.U.と通称されるヨーロッパとアフリカ、ロシアを領土とし、ドイツやフランスなどのヨーロッパ各国が、構成自治州となり存在する連邦制国家『ユーロピア共和国連合』
そして、中国王朝と大陸を中心とし、島国である日本を除いたアジア諸国、中東一部の国を統合した連邦国家『中華連邦』
歴史書を読めば簡単に調べられる事実であるがE.U.の成立は神聖ブリタニア帝国の発足と深く関わっている。
エリザベス3世の時代、革命の指導者ナポレオンが率いる革命軍にエディンバラへと追い詰められ、王政廃止を迫られていた。
この窮地を救い、女王を含んだ王党派を新大陸への逃亡させることに成功させたのが後の神聖ブリタニア帝国第1代皇帝・リカルド・ヴァン・ブリタニアである。
処女王であったエリザベス3世を最後にテューダー朝の血筋は途絶えるが、女王の遺言により王位を継承。
帝政を施行し、唯一皇帝となると国号を『神聖ブリタニア帝国』と改め、新たな国家が成立させた。
一方、革命を成功させ英国王室を淘汰し絶対王政を解体したナポレオンは皇帝ナポレオン1世として皇帝に即位するが長くは続かず、帝政に反発する勢力によって処刑される。
これらの歴史を踏まえて、ヨーロッパは以後皇帝も国王もいない民主国家となった。
3人の大統領を中心とした「四十人委員会」と呼ばれる議会が国家運営・国防を行い、政治家は国民によって選ばれる。
―――が、長きに渡って迂拙な人間を有権者にし続けていた結果、民主主義という都合のいい皮を被った衆愚政治へと劣化、変質し現在では大衆迎合主義と利己主義が蔓延している事実が現状であった。
民衆の困窮と国家の腐敗は中華連邦とて例外ではなく、権勢欲に溺れた大宦官と呼ばれる八名の官僚集団が元首たる天子に幼い者を祀り上げ、隠れ蓑とし政治を牛耳っている。
私利私欲のために国内で圧政を敷き、まるで大樹を内部から浸食する白蟻が如く蝕み病ませた結果、国力は低下し軍・文・民全ての腐敗が取り返しのつかない段階まで及んでいた。
首都洛陽に位置する『朱禁城』は天子の住まう城郭であり、中華連邦の権力を投影したが如き、威容の巨大な居城である。
広大かつ華美なこの城こそ大宦官の専横によって腐敗の温床と化し、内部を食い荒らされた大樹そのものを表していた。
外見だけ取り繕った張りぼての国―――国体が既に破綻しているであろう内情を看破した現皇帝が支配する神聖ブリタニア帝国は弱肉強食を是とする。
―――世界のパワーバランスにチェックをかける決定的な侵略の一手、その為の先駆は既に向かっていた。
◇
「うおぉぉぉ……。
まさかランスロットタイプが二機もだなんて…! なんという光景。壮観だぁ……」
並び立つ様に配置された紅と蒼、二機のナイトメアフレームの前で感嘆の声が上がった。
透き通った黄土色の瞳を一杯に開き幼子のようにキラキラと輝かせて、対称的なカラーリングのそれらを見上げている。
若干赤みがかった茶髪の若い男。纏った制服は赤を基調としてた軍用であり、所々金色の留め具や飾り紐で装飾されていた。
最も目を惹く左肩にあしらった紋章には箒に乗った魔女が描かれていた。
その軍服は青年の体系に合わせたサイズや細かいデザインなど特注であるが、この場においては別段珍しいという訳ではない。
この格納庫はブリタニア軍対テロリスト遊撃機甲部隊グリンダ騎士団の旗艦・カールレオン級浮遊航空艦『グランベリー』内部。
『重アヴァロン』と呼称されるログレス級浮遊航空艦に比べて多少のスケールダウンは否めないが、カールレオン級こそブリタニア軍艦隊の主力艦である。
KMF運用に充分な広大さを誇る格納庫へ搭載されたナイトメアは一機を除いた全てが赤系統のカラーリングに統一されていた。
「戦場で戦う者は血を浴びる覚悟が必要」
というのはグリンダ騎士団を結成した皇女にしてグランベリー艦長、マリーベル・メル・ブリタニアの方針だ。
それに従い、隊員の制服やナイトメア、旗艦グランベリーまで一式が赤で塗られている。
当然、赤い軍服の青年―――レオンハルト・シュタイナーもグリンダ騎士団の一員であり、ナイトメアを操り戦場を駆ける騎士であった。
「うん、確かに。紅が隣に在るからこそ、蒼も映えまた逆も然り。というやつかな。
でも、いいのかい? 技術系貴族であるシュタイナー家のご子息が他所のナイトメアを褒めたりなんかして」
「それとこれとは別の話ですよ、ティンク。
カッコいいものはカッコいいのですから仕方ないですって」
それもそうだね。そう短く返すのはティンク・ロックハート。
細かなデザインこそ違うが同じく赤の服を纏う彼も同じくグリンダ騎士団所属の騎士であった。
共に18という若い年頃であったが、専用機を任される程に優秀な騎士であり、グリンダ騎士団の活躍を支える重要な一柱である。
「それに、このカラーリングはちょっと思い入れがあるんですよ」
懐かしむ様な口調でレオンハルトがぽつりと言ちる。
ティンクが言ったが、レオンハルトの生家であるシュタイナー家はナイトオブスリーの専用開発機関としてシュタイナー・コンツェルンを運営している技術系の貴族であった。
マリーベルに目をかけている第二皇子シュナイゼルの根回しもあるが、故に彼の搭乗する機体はナイトオブスリー専用ナイトメアの試作機である。
名は『ブラッドフォード』今でこそグリンダ騎士団のシンボルカラーに合わせたオレンジ系の塗装が施されているが、ロールアウト前にレオンハルトが見た時は白と青系統に塗られていた。
視線の先に鎮座したナイトメアはレオンハルトの記憶を回想させるような装いをしていた。
「―――気になるのか?」
「「うぉっ!?」」
今日に背後からかけられた声に驚かされたのはレオンハルトだけでなく、ティンクまでが珍しくその場から飛び退くように振り向いた。
くすんだ灰色のような銀の髪に磨かれたサファイアの如き蒼の瞳。
足先から口元までの全身を包帯で覆い隠した姿。
肩に羽織った灰色の外套を自らの象徴とした男は赤の軍服がデフォルトであるグランベリー内において、嫌でも目立つ。
一度見ただけで一生忘れる事のないだろう異様な出で立ちだが、それを抜きにしても帝国最強の騎士団にて第二席を担う者である事実は艦内に知れ渡っていた。
ナイトオブツ―、レヴニール・キングスレイ。
蒼と白に塗られたランスロットタイプのナイトメア―――『ランスロット・クラブ・レガリア』のデヴァイサーであった。
「す、すいません、キングスレイ卿。
自分は対テロリスト遊撃機甲部隊グリンダ騎士団所属レオンハルト・シュタイナーであります」
「お、同じく、グリンダ騎士団所属のティンク・ロックハートです」
あたふたと慌てた様子を見せた後、急に畏まってびしりと敬礼をする二人の心拍は異常なまでに上昇していた。
彼らの所属するグリンダ騎士団を乗せたグランベリーは現在、中華連邦へと向かっている。
つい先日の事、第二皇子シュナイゼルを皇帝の代理とし、中華連邦とブリタニア帝国の友誼を図るための布石となる交渉が決定した。
だが、これはあくまで表向き。皇帝の真意は中華連邦を政治的に侵略する好機を看破し、宰相であるシュナイゼルを大宦官との密談のテーブルに送り込んだのである。
その護衛任務を与えられたのがカールレオン級浮遊航空艦とナイトオブラウンズ専用機の試作型を有したグリンダ騎士団。
そして、ナイトオブツーであるレヴニール・キングスレイであった。
本来はグリンダ騎士団のみでの任務となる手筈だったが、皇帝シャルルは他国へ最も新しいラウンズを披露するという理由で本国よりナイトオブツーを同行させる事とした。
当然、名目上での話である。
その真意はナイトオブツーを衆目に晒し、帝国最強騎士団の席がまた一つ埋まった事実を突きつけ、中華連邦を含んだ他国への牽制とする為だ。
加えるならばレヴニールが最も戦果を上げたエリア18は中華連邦領土に近く、周辺国にその異名は知れ渡っている。
『ブリタニアの幽鬼』
誰が名付けたのか不明だが、総督府への攻撃作戦が成功した後に急激に広まったとあるブリタニア兵の噂だ。
相対した時、何度斃したと確信させたか。
だが、実際は斃れておらずどれだけの傷を身体に刻もうと敵を斃すまで止まらない一人の男。
真正面の直撃コースで撃ち出した弾丸が、まるですり抜けているように躱された。
何の気配もなく背後へと忍び寄られ、気絶させられていたことにすら気が付かなった。
等々、噂は様々で実際にはあり得ない様な事まで広まっているが、それらは戦場でレヴニールと敵対し生き残った兵士が伝えている。
ブリタニア側はそれを利用し、大宦官との交渉を円滑に進めようという算段なのだ。
そして、他国に広まれば自国に広まるというのは自明の理である。
どころか、広まるにつれ尾鰭が付いて回る事も当然といえばそうなのだがもはや人間ではなく、本当に幽霊なのではないかとまで言われていた。
原因はテレビに出演していた高名な学者が冗談のつもりで、真面目なフリをしながら口から漏らした発言である。
学者自信、自らの影響力と情報社会に生まれた現代の若者を甘く見た結果として、噂に更に拍車がかかったというのは当然であった。
レオンハルトとティンクも噂を耳にして影響を受けた若者たちの一人である。
勿論、軍人である以上あまりにも信憑性のない話は真に受けなかった。
―――が、当の本人を目の前にしてみると「あの噂って実は本当なのでは……」と思わせる何処か現実味のない風体と亡霊のように希薄な雰囲気を醸している。
何せ人外の集団とまで言われているナイトオブラウンズだ。
凡人では一生辿り着くことのない境地へと至った者たちに一般的な常識は通用しないと言っても間違いではない。
「……何を緊張しているか知らないが、別に小言を言うつもりはない。
それより、先ほども聞いたが、このクラブが気になるのか?」
「―――え? あ、はい。
同じランスロットタイプとは言っても、オズ…オルドリンのグレイルとは結構な違いがあるものですから」
成程、とレオンハルトの言葉に相槌を打つ。レヴニールの視線は既にクラブからその隣、紅に染め上げられ金の装飾が施されたナイトメア―――『ランスロット・グレイル』へと移っていた。
いくつか造られたランスロットの予備パーツで組み上げられたという点ではランスロット・クラブとその起源を同じくする機体であるが、並んでいる様を見れば違いは一目瞭然である。
グレイルの最もな特徴であろう左右に大きく広がった背面のマントは「ソードラック」と呼ばれ、内側に計12本の剣型兵装が規則正しく並んで装備されていた。
『シュロッター鋼ソード』と呼ばれるこの試作兵器は名の通り、ブレイズルミナスのエネルギー停滞を可能とし、かつ超硬度を両立した特殊合金『シュロッター鋼合金』で構成されている。
腕部ユニットに固定し、ブレイズルミナスを纏わせる事で切断力を高めた刺突武器『ソードブレイザー』とラックからワイヤーで繋がれた2本のソードをスラッシュハーケンとして射出する『ソードハーケン』の役割を担っていた。
近距離から中距離に対応したマルチウェポン。グレイルにとっては戦闘の要にして最大の携行武器であり、同時にそこから乗り手の得意とする戦闘傾向が理解できる。
製作者であるロイド伯爵がデヴァイサーである人物のデータを分析し機体へと反映した結果、この『ランスロット・グレイル』が完成したのだろう。
「グレイルは近接戦闘に特化した機体か。
確かにクラブとはコンセプトからして違う。この機体、搭乗者の名は?」
「オズ―――オルドリン・ジヴォンという女性です。
我らグリンダ騎士団の
「……オルドリン・ジヴォン、か」
思い当たる節でもあるのか、レヴニールの呟きには疑問の色が混じっていた。
ジヴォン家は広大な領地や莫大な財を抱えているという訳ではない為、有力とは言い難いがブリタニア帝国に古くから存在し、時代の皇帝へと仕えてきた貴族の家系である。
ラウンズを輩出した時代もあり、歴代当主は二刀を扱うジヴォン流剣術を駆使する騎士として、その実力はナイトオブラウンズにも劣らないと云われていた。
加えて、現当主オイアグロ・ジヴォンは次世代ナイトメアを開発する企業に出資することで近年の表舞台へと台頭しつつあり、ナイトオブツー任命式典にも出席していた。
世事には疎く、興味のある事柄以外にはとことんまで関心がないと自負しているレヴニールでもその家名には心当たりがあった。
「あ! そうだ、宜しければ中華連邦に到着したら彼女をデートにでも誘ってみてはどうですか?
観光する時間くらいはあるでしょうし、まだ若いのに男の気配が全く無いのが同僚としては心配でむごっ!」
「な・に・失礼な事を言ってるんですか、ティンクッ!!
あの、気にしないでくださいね、キングスレイ卿。ただの冗談ですから、本当に!」
自分より体格の勝る男を制止するべく行動したレオンハルトの額には汗が浮かびながらも必死の表情で、これ以上何か言わせまいと口を抑えつけている。
一方のティンクは若干、呼吸が苦しげな様子ではあるがまだ何かを言いたげにふがふがと空気を吐き出し続けていた。
仲の良い兄弟のじゃれ合いのようにも見える二人の様子を一頻り眺めるとレヴニールは思案を止め、唐突に口を開いた。
「―――いや、前向きに検討しよう。
個人的に聞きたいこともある。早速、探してみよう。では、また後に」
独り言のようにそう言い残し、レヴニールは格納庫の出口へと向かって行った。
噂に聞いていたイメージと何処か違う後姿を見送る二人は揉みくちゃに絡まったまま顔を見合わせる。
互いに素っ頓狂な表情であったがあまり気にはならなかった。
何故なら相手の表情を確認するよりも先に反射というべき行動へと移っていたのだ。
寸分違わない、全く同じタイミングで同時に二人は声を上げた。
「「え、えええええええっ!?」」
実際、グレイルとクラブが並んでいたら映えるだろうなぁ。
今更ながら二機のロボット魂が欲しくなってきたこの頃です。
てか、グレイル=聖杯。レガリア=王権象徴の証ってすげぇ名前ですね…。
……でも、戦場で並び立っている光景を見たらカレンが超嫉妬しそうな予感。
以下、前話の加筆・修正点。
セシルさんの階級を中尉としましたが、スザクがラウンズになると彼女も昇進し少佐となったようなので修正。
クラブ・レガリアの頭角をクラブと比べてより大きく特徴的になったという描写を加筆しました。