コードギアス反逆のルルーシュ Revenant   作:Ned

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TURN 5 矛盾

「ぜぇ~ったいイケメンですよ、あの人!」

 

何の脈絡もなく、唐突に叫んだ声の主に視線が集中した。

現在、グランベリーは中華連邦側の手続き不備により、領内東部の威海衛に寄港している。

グランベリー内の一室に集結した三人の少女はグリンダ騎士団戦略顧問であるヨハン・シュバルツァー将軍の指示により、36時間の半舷休息が与えられたばかりであった。

叫び声の主はツインテールの髪型が特徴的な少女、エリシア・マルコーア。

軍属前はアイドルという異色の経歴ということもあってか明るい性格であり、グランベリーでは戦略オペレーターを勤めている。

グリンダ騎士団に所属しているが騎士には遠く、感性は同世代の少女と変わらない故の俗っぽさが、彼女の長所であり前線での戦が多いグリンダ騎士団においてはその存在自体一種の癒しとなっていた。

 

「え、エリシアたん? それって全身包帯の……ナイトオブツー様?」

 

「はい! だって、少しくせのある銀髪に蒼い瞳…それに顔を隠すための包帯(マスク)ですよぉ?

 もう少女漫画の王子様属性てんこ盛りじゃないですかぁ」

 

「う~ん、ソキアちゃんにはちょっとよくわからん世界だにゃー…」

 

半ば引き気味に返すのはエリシアと同じく同年代に見える少女、ソキア・シェルパ。

元競技KMFリーグのスタープレイヤーであり、かつてはスポーツ用品メーカーで専属モデルを務めていた。

明朗闊達で表裏のない社交的な性格でエリシアと同じくグリンダ騎士団のムードメーカーとも言える存在だ。

しかし、意外な一面として戦闘においてはKMFリーグでの経験から、高度な戦略と情報分析能力を持った騎士であり情報分析など電子戦を視野に入れたKMFに搭乗している。

加えてブリタニア帝立大学の電子工学修士号まで取得しているのだから、人は見かけによらない。それは正に彼女の事と言えるだろう。

 

「ちょっと不気味な雰囲気だし、もしかしたらすっごいブサイクってこともあり得るかもよー?」

 

「えーっ! 酷いですよ、ソキアさん。

 全国の乙女たちが噂してるんですよ、新しいナイトオブツー様は不思議の国から来た王子様かもしれないって!」

 

「う~ん、それはちょっと妄想が過ぎると思うんだにゃー。

 それに私はそういう王子系よりもオデュッセウス殿下みたいなのが好みだしー。

 あ、オズはどう思う? ナイトオブツー様のこと」

 

「え、どう思うって言われても……。

 美形かどうかはさておき、騎士としては尊敬できる方だと思うわ」

 

オズ―――そう呼ばれた三人目の少女が答える。

オルドリン・ジヴォン。グリンダ騎士団の筆頭騎士(ナイト・オブ・ナイツ)であり、皇女マリーベルが最も信を置く騎士。

若く実戦経験も浅いが努力家で、ラウンズを輩出したこともあるジヴォン家の血筋からKMFの操縦に長け、特に近接格闘戦は目を見張るものがある。

キャメロットから贈られた『ランスロット・グレイル』は彼女の特性に合わせてチューンされた機体であり、戦場においての愛馬であった。

 

「いくら無能だったとはいえ、司令官の指揮下から独立して反抗勢力を制圧するなんて普通の騎士では有り得ないわ。

 それにキングスレイ卿の指揮下に入ったのは皆、私たちと同じくらいの年齢で実戦経験の浅い騎士だったそうじゃない」

 

同じランスロットタイプのデヴァイサーでもある、とあえてオルドリンは加えなかった。

心の底でどこか彼に対して微かに芽生えつつある羨望と対抗心に似た感情を悟られまいとする為だった。

ランスロット量産計画においていくつかの部隊に試験型ランスロットが配備された事実はオルドリンも知っている。

自ら搭乗するグレイルもグリンダ騎士団が計画の為に受領した機体だ。

しかし、多数配備された量産試作機『ランスロット・トライアル』とは違い、グレイルはオルドリン専用に調整された所謂専用機である。

強大な国力と軍事力を有するブリタニア帝国においても専用ナイトメアを扱うことを許された騎士は特例を除き、帝国最強の騎士団(ナイトオブラウンズ)以外有り得ない。

グリンダ騎士団は特例の一つであり、ランスロットタイプとラウンズ専用機の試作型を保有している。

これは創設者であるマリーベルに関心を寄せる異母兄、第二皇子シュナイゼルの手回しによるものが大きい。

言い方は悪いが、最新鋭のナイトメアフレームを自分たちの実力で勝ち取ったという訳ではないのだ。

それを理解しているが故、未だ己の実力不足を思い知らされる。

レヴニール・キングスレイは何も始めから専用機を与えられていたわけではない。

『ランスロット・クラブ・レガリア』と呼称される蒼い機体を受領したのはつい先日で、初陣も経ていないという。

そして、グラスゴーやサザーランドといった一般的な量産型ナイトメアを駆り、多大な功績を残した記録は確かなものとして残っている。

比較対象としてラウンズでありランスロットタイプのオリジナル、Z-01・ランスロットのデヴァイサーからナイトオブセブンとなった枢木スザクなら話は少し違う。

彼の場合はナンバーズにして初騎乗のナイトメアがランスロットであったという異例であり、故・ユーフェミア皇女と親しくその専任騎士となった。

あらゆる点で比較してみると、スザクとオルドリンは共通点が多い。

もしも、枢木スザクがエリア11でランスロットに乗っていなければ今の地位は無かったかもしれない、というのがオルドリンの見解だ。

勿論、己も皇女マリーベルと幼馴染でなければ今の地位に就いているのは別の人間であった可能性は高いと予想している。

つまるところ、ブリタニア帝国において絶大な権力を有する皇族とロイド・アスプルンドという異色過ぎる科学者に見出された自分たちは運が良かったのだろう。

ナイトオブツーにとってある意味幸運なのはエリア18での指揮官が無能だったと本来なら運の悪い事この上ない状況だ。

絶望的なまでの状況を好転させ、自らの功績に繋げる。それだけの機転が利く対応力は今のオルドリンには無い。

レヴニール・キングスレイはあらゆる点で尊敬に値する現状の目標だが、同時に己の未熟さを実感させられる存在として対抗心を抱きつつあった。

そんな事を考えているとまるで見計らったかのようなタイミングで扉が開き、噂の中心人物が登場した。

 

「―――失礼する。ジヴォン卿はこちらに……。ああ、居るみたいだな」

 

「ありゃー、これはもしや噂をすればなんとやらというやつかにゃー…」

 

「? 一体何の話だ」

 

「あー、それはその…何と言いますか…。ねぇ?」

 

入室して早々いぶかしげな表情のレヴニールに対してばつが悪そうにソキアは視線を逸らした。

ソキアから助けを求められるような目線を向けられたエリシアも言葉はなく、ただ無理だとアピールするようにぶんぶんと首を横に振る。

ほぼ初対面の上官へと馬鹿正直に「貴方の容姿について話していました」と答えられる程の度胸を生憎二人は持ち合わせていなかった。

しかもソキアは冗談のつもりでも不敬罪で処罰されても可笑しくはない発言をしている。

ならば仕方がない。この場は筆頭騎士である自分が何とかするしかないだろう。

貧乏くじを引かされたと溜息を一つ吐き、オルドリンは口を開いた。

 

「それより自分に何かご用でしょうか、キングスレイ卿」

 

「む、ああ。そうだった。

 突然ですまないが、ジヴォン卿はこの後の予定は空いているだろうか?

 良ければ共に繁華街を周らないかと誘いに来たのだが」

 

「えっと、この後は彼女たちと一緒に「いえいえ、全然オズは暇ですとも!」…ちょっと、一体何よ!」

 

「いいから、いーーから。

 一緒に行ってきなさいな。…というか行ってきてくださいお願いします!」

 

「わ、わたしからもお願いします!」

 

話に割り込んできたかと思えば急に手と頭を床へと――…所謂土下座で拝みこむソキアと何故かそれに釣られるエリシア。

若干どころではない。明らかに不自然な二人の態度から良からぬ企みがあることは明白だった。

ははーん、わかったぞ、こやつらめ。オルドリンは素顔の裏に狡猾な表情を造った。

予想するに二人は大方、包帯の下の素顔を自分に探らせようとでもしているのだろう。

 

(普段あんまり賢くないからどうせバレないとでも思ったのでしょうけど、まだまだ甘いわね!)

 

その陰謀暴いたり!そう豪語する様子こそ見せなかったが、内心ではどやりと得意げに勝ち誇った。

ならば知っていながらも指摘をしない慈悲深い筆頭騎士(オルドリン)様は敢えて部下の策謀に乗ってやろう。

加えるなら、ナイトオブラウンズと話せる貴重な機会でもある。きっと何か得られるものがある筈だ。

 

「彼女らもこう言っている事ですし、喜んでお供させていただきます。

 待ち合わせは甲板で宜しいでしょうか?」

 

「ああ、それで構わない。なら、私は先に待っているとしよう」

 

騒がせたな。ぼそり陳謝を述べて去ったレヴニールをオルドリンは見送った。

直後、背中に何だかもぞ痒いような…何とも言えない気配を感じて、振り返るとニタニタ気味の悪い笑みを浮かべた女二人組の視線に晒された。

 

「な、なによ。気持ちの悪い顔しちゃって…」

 

「いやー、ついにオズにも春が来たのかと思うと感慨深くてさぁ…」

 

「私、お二人のこと応援してるですぅー!

 王子様と二人きりのデート、頑張ってくださいね!」

 

当事者を置いてけぼりに意気揚々としている二人だが、オルドリンには正直意味が解らなかった。

一体何をそんなに興奮することがあるのか。自分たちの思惑通りに事が運んで喜ばしいのなら理解できるが、どうやらそういう訳でもないらしい。

いつにもなく時間をかけて思考してみる。記憶を数刻前にまで戻してみると一つだけ、引っ掛かる部分が存在した。

ん、さっきエリシアは何て言った? 聞き間違いじゃないなら確か……。

 

「―――……ほえ、デート……?」

 

その呟きが自分のものだと理解することに数秒を要した。

それくらいに間抜けで、気の抜けた声が反射的にオルドリンの口から漏れていた。

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

人々の流れが辺りで最も盛況な通りにオルドリンとレヴニールは訪れていた。

まず二人の鼻腔を擽ったのは中華料理に多く使用されているであろう辛味の強い刺激的な香辛料の匂い。

中華連邦特有の装束に身を包んだ商人たちが切り盛りしている屋台には唐辛子の色を濃く反映した料理が並び、それらに舌鼓を打つ観光客の様子が窺える。

腕のいい料理人によって調理された食品の見栄えこそ良いが砂の路上へと雑に店を構えている為、衛生環境は劣悪の一言。

だからこそ、口にしてもいないのに嗅覚を刺す刺激的な香りの次に強く嗅ぎ取れたのは当然、腐臭であった。

少しばかり注意深く観察してみれば店の裏手に大量の生ゴミが積まれている光景がまるで普通であるかのように多々見られる。

実際、一歩路地を外れてみれば貧困街―――スラムが広がっており、様々な事情を抱えその場所での生活を余儀なくされた人民は少なくない。

ブリタニア帝国もスラム街を抱える国ではあるが、第一皇子オデュッセウスが執り行うボランティアや社会復帰を促す労働プログラムの存在が貧民の生活を支えている。

引き合いに中華連邦の行政は貧民対策を全くせず、納税の義務を怠った者はただ切り捨てられ、その日暮らしもままならない現状を強いられていた。

現状への不満こそあるもののそれを打開しようとする反骨的な気概は見えず、地べたに座り込む覇気の無い住人たちからは諦めの感情が読み取れた。

 

(デート……。なんて、言える雰囲気じゃないわよね)

 

異性との個人的な付き合いがほぼ皆無なせいか、出発前こそ妙に意識してしまいオルドリンはいつにもなく浮き足立っていた。

自分では彼女(マリーベル)の騎士となると誓ったあの日から、少女であることよりも騎士である事を選び現在に至っている。

だからといって、同年代の少女が体験しているだろう日常に対する憧れが完全に無いとは言い切れなかった。

しかし、自分たちが任務で訪れている国の内情をまるで誂えたように目の当たりにしては流石に気が滅入ってしまう。

自分を連れ出した当の本人…レヴニール・キングスレイは周辺の情報を仕入れると言い残し、オルドリンから僅かに距離を離して道端に寄ると、壁に寄り掛かって脚遊びをする十代前半に見える地元の少女に声をかけ何やら聞き込みをしていた。

純心ゆえの恐れ知らずか、話を聞かれた少女は全身包帯という異様な姿を目にしても気にすることは無く、いくつかの質問に丁寧に対応していた。

レヴニールも腰を落として相手と目線の高さを合わせている。強烈な第一印象からは意外な姿に思え、興味深く眺めていると幼子の扱いに慣れている様子がそれとなく解った。

話し終えたのか、礼を述べ折り畳まれた紙幣を握らせるとレヴニールは少女を解放した。

雑踏の中心へと駆けて行きながら振り返って、大きく手を振る少女にレヴニールは小さく返す。

大人が中心となる人の群れに紛れ、やがて少女は見えなくなった。

 

「結構優しいのですね、キングスレイ卿って」

 

ほんの数分前よりもずっと好ましく見える背に声を掛ける。

冷ややかで人を寄せ付けない氷のような第一印象とは大きく違い、深い包容力と温かみのある海のような人だとオルドリンは内心評価を変えた。

自分の事という訳ではない癖にどうしてか善行の直後みたく嬉しくなり、 鬱屈した心持も晴れやかに戻りつつあった。

だが、微笑むオルドリンとは対称に当人であるレヴニールの表情は晴れない。

むしろ上陸する前の方が冷ややかに見える分、覇気が感じられる様子をしていた。

 

「―――ジヴォン卿。先程の少女だが、両親は既に亡くなっているらしい。

 今は一人で生活している。…つまり、孤児だ」

 

父親は徴兵され、出兵した先で戦死。

母親はそんな夫の顛末に耐え切れなくなり精神が摩耗、流行病を発症して病死した。

引き取ってくれる親戚もおらず、外国人観光客からの施しで日々を繋ぐ生活。

教師が授業の補足するように淡々と憫然たる事実をレヴニールは独り言のように語る。

思い返せば確かに顔や服は砂の汚れと色落ちが目立ち、財布すら持っている様子はなく、少女の暮らしが裕福ではないと容易に想像できた。

だが、そこまで侘しい境遇だとは実際にレヴニールが話すまで頭に浮かびもしなかっただろう。

だって、さっきあんなにも笑顔で、元気一杯に手を振って…―――!

 

「相手に憐みの感情を持たせて強請る。

 そんな物乞いの常套手段かもしれないが、些末な事だろう」

 

養われる事が当たり前の人間が逆の立場に属している。

あの少女に限った話ではない。辺りを少し見渡せば年齢も近く似た風体の幼子たちは当たり前に存在していた。

本来は有りない状況を隠そうともせず、日常の一部にしているのは行政及び国家そのものだ。

長期に渡る大宦官による腐敗の影響、人民にまで広がったその闇は身近と思える程に深く浸透している。

温かさを取り戻しつつあった心の熱が引いていく感覚。

心臓へ尖った氷柱を突き立てられたかの如き錯覚がオルドリンを襲っていた。

 

「もしかしたら、あの少女は駆けて行った先で、金を得た場面を目撃した者に狙われるかもしれない。

 お世辞にも治安がいいとは言えないこの辺りだ。可能性としては充分にあり得る。

 目の前でなら犯罪を止める事はできるだろう。だが、自らの与り知らぬ所でなら話は別だ。

 私は……そこまでの責任を取ることはできない」

 

―――それは杞憂だ。とは返せなかった。

オルドリン自身、中華連邦という国の内情は数時間足らずで嫌という程理解させられた。

それだけにレヴニールの仮定話を無為に否定はできない。

 

「それでも君は―――私を優しいと思うか?」

 

何処か哲学めいた雰囲気のそれは誰かに対しての言葉というより、自らに言い聞かせている。

その姿を例えるなら己を戒めている罪人だ。

少女の消えた雑踏へと向けられた瞳はその場所を映しておらず、ずっと遠く……過去を回想しているようにも思える。

思いがけないレヴニールの問いに、オルドリンは返す言葉に詰まった。

恐らく、その答えに完全な正解はないのだろう。

レヴニールの行動は立派な善意とも捉えられるが、彼の語る先の顛末を予想すれば偽善とも考えられる。

だが、それを偽善としてしまえばもはや本当の優しさなど存在しない。

民衆にまで腐敗の広がったこの国みたく、世は闇だということを肯定してしまう。

あの日、彼女の心を守る為に自分が吐いた嘘も本当は只の自己満足でしかなかったと―――。

 

「……すまない。意地の悪いことを言ってしまった、忘れてくれ。

 それよりも、この先の店に美味い小籠包が―――」

 

言い終える前に近傍で発生した爆音がレヴニールの言葉を遮った。

空へ向かって放たれたなら花火と言えるが、それは地面に着弾し炸裂している。

一度だけではない。二度三度、続けて何処とも知れない場所を狙い砲弾は放たれ続けていた。

被害から逃れようとする人々の波に流されまいと咄嗟にレヴニールはオルドリンの腕を掴み、引き寄せると共に近隣にあった石造りの家屋へと退避した。

幸い、家の中に住人は居なかったがもう一つの懸念が残る。

間近で目にした威力から察するに例え石造りの頑丈な建物であろうと耐えられて一発程度が限界だろうと二人は予想していた。

 

「小籠包はまた今度だ、ジヴォン卿。

 今は最優先としてこの状況を乗り切る。グランベリーとの通信は可能か?」

 

「今、やっています。…あ、繋がりました!

 こちらオルドリン、グリンベリーより状況確認と救援を要請します。

 ―――はい、了解しました。レオンハルトとティンクさんが既にナイトメアで救援に向かっているそうです!」

 

恙なく終了した通信にレヴニールは拍子抜けしていた。

これだけの規模で勃発した破壊行為の癖に電波妨害装置によるジャミングが発生していない。

ともすればこの無差別攻撃は事前に計画されたものではなく、突発的な暴走と判断できる。

目的は恐らく、グランベリーが威海衛に寄港した事ではっきりとしたブリタニア帝国と大宦官の密談の阻止だろう。

自らの護身が最も重要な大宦官達が元首たる天子と国家そのものを取引材料するくらい、散々圧制を強いられ続けた民ならば予想できて当然だ。

 

『オズ、キングスレイ卿! 遅くなって申し訳ありません。今すぐこちらへ!

 ティンク、防御はお願いします!』

 

『勿論、しっかりやってるよ!』

 

機械越しだが、聞き覚えのある声に二人が向くと家屋の入り口へ手を差し伸べるKMFが見えた。

ブラッドフォード。レオンハルト・シュタイナーが搭乗するオレンジ系統に塗られた細身の機体。

もう一機、似たカラーリングだが対称的に重厚なフォルムのナイトメアがブラッドフォードの背に立っていた。

ゼットランド。砲撃から二人を守る役割を担い、機体を前面に展開したブレイズルミナスのシールドで覆っている。

機動性を犠牲にした代償として鉄壁の防御を誇り、何度も砲撃の直撃を食らっているがゼットランドは微動だにせず、機体とその周辺には一切の被害がない。

その性能に絶大な信を置き、搭乗するティンク・ロックハートは顔色一つ変えず、オルドリンとレヴニールの回収作業を終了まで見守った。

 

『保護完了しました。これより、グランベリーへ一時帰投します。

 ティンク、帰りも後ろは頼みました』

 

『うん、任せて。二人と君の機体には傷一つ付けさせないよ』

 

二人の人間を掌に乗せたブラッドフォードが飛び立ち、ゼットランドはその背に続く。

振り落とされぬようナイトメアの指を強く掴み、オルドリンは振り返ると各地で火の手の上がった街並みを見下ろしてた。

街を民を救えるのは我々しかいない。力を持つ者が弱き者を守るために力を振るわぬ理由はない。

軍人が命を守ろうと戦うのは間違っていない。だが、その過程で人の命を奪うのも軍人なのだ。

貴族であり、騎士たらんとするオルドリンだが、優しさの定義と同じくその矛盾に明確な答えを出す事は出来ない。

だが、一つだけ明確になっている信条に一切の迷いはなかった。

ただ、単純に。愚直なまでに真っ直ぐ。

目の前で無惨に消えていく命の価値に差を付ける事は無く、誰であろうと救いたい。

そう願う想いだけはきっと―――間違っていない筈だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




甘いデートなんて思ったら大間違いだよ! まぁ本当はそういう話も書きたいのですけどね…。

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