コードギアス反逆のルルーシュ Revenant   作:Ned

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TURN 6 ピースマーク

達観、若しくは諦観している。

他者がレヴニール・キングスレイを評する場合によく用いられる言葉だ。

どこか遠いところから世界を見下ろし、俯瞰しているような雰囲気を漂わせる人間だと関わりの薄い者には認識されている。

別段レヴニール自身が意図的にそう振舞っているわけではない。本質的にただ不器用なだけなのだ。

実際、接してみれば第一印象とは全く違うと評価を覆す人間の方が圧倒的に多く、現ラウンズであるナイトオブセブン、ナイトオブトゥエルブもその中に入っている。

本質を即座に理解したのはモニカの後に御前試合で戦い、引き分けたナイトオブナインくらいだろう。

ただ、冷淡に見られがちな雰囲気を漂わせる所以ははっきりと自覚していた。

 

場所、時間、そして世界。

そこには確かに己が存在している筈だ。

だが、その実感が限りなく希薄に思える。

 

ある種の虚無感とでも言えるだろうか。

別に世界を嫌っているとか、現状への不満故の逃避という訳ではない。

死への誘惑は自我が抵抗しがたい衝動であるとある学者は提唱したが、それに当てはまるという事でもなかった。

単純に兎に角、現在を()()()()()という当たり前に対して思考が疑問符が付ける。

何処とも知れない遠くから頭に響かせて来るのだ。

 

『何故、此処にいる―――?』

 

その度、律儀に返すが言葉は決まっている。

 

『知った事じゃない』

 

関係の無いやつが勝手に他人の人生に首を突っ込むなと。

瞳を閉じると聞こえてくる声にぶっきらぼうに返す。

煩わしい姿も見せないで一方的に何様のつもりだ。

悪夢から目を覚ますように瞼を開く。

目下は戦場と化し、己は起動既にしたランスロット・クラブのコクピットで操縦桿を握っていた。

戦地へ赴く為に心持を入れ替える。通信が入ったのはほぼ同時だった。

 

『すまないね、キングスレイ卿。

 皇帝陛下直属の君に難しい役割を押し付ける事になってしまった』

 

ランスロット・クラブのモニターに映ったのは、この場において最も権力を有する人物。

帝国宰相にして第二皇子。皇帝に最も近い男、シュナイゼル・エル・ブリタニア。

レヴニールは目が合うと自然にさっと姿勢を正した。

 

「いえ、そもそも自分がこの場に存在すること自体が異例なのです。

 少々予想外でしたが、クラブに初陣の機会を与えて下さった感謝こそあれど、不満などありません」

 

『そう言ってくれると私も気が休まるよ。

 それと、感謝なら私よりもマリーへとお願いするよ』

 

穏やかな笑みを浮かべたシュナイゼルが画面から外れ、替わりに現れたのはまだ年端も行かぬ少女。

愛らしい外見をしており、若く美麗な女性士官の多いグリンダ騎士団の中でも一際目を惹く。

シュナイゼルの異母妹、つまり神聖ブリタニア帝国皇女にして「グリンダ騎士団」団長兼「グランベリー」艦長、マリーベル・メル・ブリタニア。

帝国で最も高貴な血を引く事実をまるでその容姿が裏付けている様にも感じられた。

だが、高貴で温和な姿は鳴りを潜め、眼差しは鋭く毅然とした態度で状況を指揮する相貌となっていた。

 

『キングスレイ卿。作戦概要を確認します。

 当艦はランスロット・クラブ発艦後、一時洋上へ退避。

 宰相閣下の安全が確保された後、中華連邦軍との挟撃にて敵を殲滅。

 キングスレイ卿にはグランベリー退避までの陽動及び露払いを任せます』

 

「イエス、ユア・ハイネス」

 

『指名手配中のピースマークが中華領に潜伏しているとの情報もあります。

 この騒ぎに乗じて宰相閣下暗殺を企てる可能性もあるでしょう。

 それを踏まえ、現場での判断は貴公に一任します』

 

『ピースマーク』その単語を口にして以降、マリーベルの語気が僅かに強くなったのは錯覚ではない。

世界各地の反ブリタニア思想のテロ組織を含む様々な組織やE.U.の様な反ブリタニア各国から依頼を受け、所属チームで依頼行為を遂行する傭兵派遣会社が「ピースマーク」と呼ばれている。

実質のテロリスト支援及び派遣組織であり、世界中にネットワークを持つ強大な組織力を有し、指導者は不明瞭でブリタニアの諜報機関を以てしても実態を掴むには至っていない。

黒の騎士団で運用された紅蓮弐式と同型の第七世代ナイトメアフレームまで保有しているという意味でも、各国に点在するテロ組織とは一線を画している。

過去の経緯からテロリストへの憎しみが強く、対テロリスト遊撃機甲部隊であるグリンダ騎士団組織にまで行ったマリーベルには許し難い組織。

テロ殲滅を何よりも優先する方針から、むしろ暗殺計画を実行して欲しいと危険な考えすらマリーベルには浮かびつつあった。

ラウンズであるレヴニール・キングスレイとランスロット・クラブであればピースマークの第七世代KMFと交戦したとしても遅れを取ることは無い。

加えてナイトオブラウンズは皇帝直属であって皇族には然程関わりはなく、戦死したとしてもマリーベルとグリンダ騎士団への影響はほぼ皆無。

それらの打算合ってマリーベルは能力を試すように柔軟な対応能力を必要とされる仕事をレヴニールに任せたのだ。

マリーベルの性質こそ知らないが、レヴニールはそれとなく作戦の裏に隠された打算には気が付いていた。

レヴニールが己の意図を理解してこの作戦を了承した事はマリーベルも承知している。

互いに食えない人間だと心中で呟くのは殆ど同時だった。やはり考えていることは同じだろうと察しながら表には出さずマリーベルはにこりと、とびっきりの笑顔を作ってみせた。

 

『ブリタニアの幽鬼とその愛馬の力、存分に見させて貰います。期待していますよ』

 

「クラブの性能はともかく、私自身の能力には過度の期待はしないようお願いします」

 

―――心にも無い事を。微笑みながら呟いてマリーベルは通信を切った。

それは貴女とて同じだろう。その言葉は口に出さず喉元に留め、飲み下す。

初めからこちらに等期待はしていないだろう。むしろ目の上の瘤くらいに考えているかもしれない。

特に因縁があるわけでもないが、レヴニールはマリーベルと良好な関係が築けるとは思えなかった。

それはきっとマリーベルも同じだろう。生理的に無理という表現は少し低俗だがそれしか適正なものがない。

 

『グランベリー、ポイント到達まで残り三十秒。ランスロット・クラブは発艦用意を』

 

オペレーターのアナウンスに我に返ったレヴニールは操縦桿を握り直す。

初陣を飾るには少し物足りなかったら、許してくれ。囁き、すっと正面を見据えた。

 

「……MEブースト―――」

 

『十、九、八、七、六、五、四、三……』

 

コアルミナスが風を切るが如き音で唸り、全身の駆動部へと熱を注いでいく。

グランベリーのカタパルトデッキ上で蒼騎士の脚部が左右に滑り、身を低く沈めた。

 

『ランスロット・クラブ、発艦どうぞ!』

 

「―――発艦!」

 

既に戦場と化した威海衛へと飛び出した一つの影は夜空を切り裂く彗星の如く。

王権の証(レガリア)の名を冠する蒼き騎士がその姿を現した。

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

ランスロット・クラブ・レガリアの周囲は屍山血河となっていた。

無作為に次々と出現する標的を悉く破壊していく様は傍から見ればもはや蹂躙と呼称されても可笑しくはない有様だ。

擦れ違う度に斃れていく中華連邦のKMFである鋼髏(ガン・ルゥ)の性能はブリタニア軍のサザーランドには及ばず、精々グラスゴー程度。

だというのにサザーランドなど寄せ付けない機動力で圧倒されるのだからそもそも単機では勝負にもなっていない。

だから、物量で押し切るというのが自明の理。生産コスト故に配備数は圧倒的に多く、隊列を組んで一斉射撃を行った場合の火力自体は侮れない。

―――だが、その圧倒的な物量差を以てしてもスクラップとなった非人型が山のように積まれていくだけで、蒼き騎士を討伐するには至らない。

既に二十機以上を屠った蒼騎士の進行する先には六機の鋼髏が待ち構え、正面へと火力を集中し行く手を塞いでいた。

それでも蒼騎士―――ランスロット・クラブ・レガリアは意にも介さず、その進行は止まらない。

オリジナルのランスロットには一歩及ばないものの、クラブ・レガリアの運動性能は現行のナイトメアフレームではトップクラスに入る。

その性能を生かし、地を這う様な動作で砲撃を正面から回避していく。

無茶とも見えるが、敵の弱点とクラブの防御兵装を考慮に入れた上での行動である。

鋼髏の武装は全て固定式のマシンガンとキャノンである故に自由度に難点があり、直撃コースだとしてもクラブの腕部にはブレイズルミナスのシールドで防ぐことが可能だ。

付け加えるなら、隊列を組んだとしても攻撃対象が回避したら総ての機体がその方向へと向かねばならない。そして、訓練された部隊とはいえどKMFを操るのは人間である。

指揮官の指示通りに八割近くの機体が同じ動作をしたとしても僅かな乱れが生じる場合がある。本来なら見咎められることもない本当に僅かな乱れ。

だが、クラブを操るレヴニールはその乱れを隙として捉え、逃さない。隊列の乱れた一角をVARIS(ヴァリス)S(ショート)で撃ち抜き、陣形を崩す。

一機減り計五機となった鋼髏の部隊は六機編成の戦略を破棄し、即座に次の陣形へと移るために動いた。

正面の一機が距離を離し、クラブの側面を囲うように四機が展開する。この陣形が完成した時点で正面の鋼髏に搭乗していた部隊長は勝利を確信した。

四方からの同時攻撃に加えて正面には退路を塞ぐ自分がいる。背後へと逃れようとも鋼髏四機が正面へと即座に向き直るのは容易い。

しかし、信じられないことが起きた。包囲の中心となっているクラブから射出される四基のスラッシュハーケン。

それだけなら持てる全てのスラッシュハーケンを撃ち出した―――ただ、それだけのことだ。

問題はそれらの軌道だった。放たれたハーケンは弾丸の如く宙を奔り、鋼髏のバイタルパートを的確に貫いた。

当然、回避行動をとった四機全て漏らすこと無く。誘導弾を連想させる軌道でハーケンは射出後に方向転換したのだ。

 

『ば、馬鹿な!?――がっ!』

 

有り得ない現実を目の当たりにした部隊長が驚愕する事と撃破されたのは同時だった。

クラブの両手には赤い刀身の剣、MVSが握られている。包囲した全機を破壊すると真正面へと急速接近し、加速の勢いと二刀を以て斬り裂いたのだ。

 

「―――ふぅ……。少し危なかったな」

 

息を吐いて気を落ち着かせる。

包囲を敷かれた時、クラブ・レガリアでなければやられていた可能性も状況的には大いに有り得た。

一瞬の間に鋼髏を解体したのはレヴニールのパイロットとしての腕だが、包囲網を容易く突破できたのは機体性能に頼るものが大きい。

スラッシュハーケンの自動追尾機能(オートホーミング)。通称ハーケンブースターと呼ばれる機構と量子演算システムによる高精度な行動予測を併用した一芸だ。

レガリアへと改修前のクラブには強化ファクトスフィアが搭載されていたが、より高度な演算能力を持つ電子解析装置へとアップグレードされている。

索敵だけに留まらない機能を考えればファクトスフィアより第六世代ナイトメアフレームとして開発され、後にゼロによって鹵獲された実験機ガウェインに備わっていた『ドルイドシステム』に近い。

高すぎる性能故に一般的な人間には却って扱いきれないドルイドシステムや機能を限定化する事で扱いやすくしたウァテスシステムには及ばないものの、電子戦に特化しているわけでもない機体としては充分過ぎて余る代物。

それでも使いこなすには適性が必要となり、ナイトオブセブンである枢木スザクが自分には向いていないとの発言はシステムとの相性悪さ故だ。

改めてレーダーを確認する。索敵範囲内の敵性を示す赤い点は全て消えていた。

つまり、辺り一帯の鋼髏は掃討したといえる。

グランベリーも既に洋上へと退避している頃だと考え、レヴニールは通信回線を開いた。

 

「こちらランスロット・クラブ。これよりグリンダ騎士団の援護に―――っ!」

 

咄嗟に操縦桿を傾け、クラブが左方向…遮蔽物の多い位置へと飛び退く。

反射、直感。動物的な本能とも言うべき感覚が思考より先に身体を動かしていた。

論理的には説明できない行動に従ったことは結果として正しかった。

次の瞬間には、風を切り裂き奔る一発がクラブが先程までいた空間へと駆け抜けていったのだから。

 

「―――AP弾か!」

 

弾丸が通り抜けた先、石造りの建造物には見事な風穴が空いていた。

装弾筒付翼安定徹甲弾。APFSDSと呼ばれる貫通力に特化した砲弾であると予想するのは容易かった。

サザーランド等に装備されたアサルトライフルでは威力が足らず、鋼髏の固定式キャノンの榴弾では着弾時に炸裂してしまう。

彫刻のように一瞬で削り取る芸当はタングステン合金くらいに強固な弾芯でしか有り得ない。

数秒間、過剰なエナジー消費には目を瞑り、レヴニールはクラブの索敵範囲を拡大した。

数倍まで跳ね上がった索敵能力によって友軍機の反応がぽつぽつと浮かび上がる中、レーダーに一点の赤い光が燈る。

―――見つけた。必殺の一撃を放った狙撃手はクラブから離れた先の十一時の方向に存在していた。

ランドスピナーとハーケンを駆使し、競技用ナイトメアと遜色ない立体的な軌道を魅せながらクラブは最短ルートで肉薄した。

驚異的なスピードであり、多角的に動く機体には無闇に狙っても当たらない。

狙撃手もそれを承知しているのか、牽制程度の軽い砲撃のみを繰り返しAPFSDS等の強力な兵器は温存している。

残り数メートルまで到達するとクラブは左腕のMVSを鞘へと納め、腰部からヴァリスを引き抜いた。

其方が撃たなくともこちらは遠慮なく使わせてもらう。と瓦礫に隠れた敵機へ狙いを定める。

壁越しの標的へと向けられた銃身が上下に展開、銃口を含んだ内部パーツが伸び終えると―――撃った。

バーストモード。最大出力で放たれた光弾は牽制弾を消し飛ばして尚止まらず、狙撃手が壁としていた巨大な瓦礫を粉微塵に粉砕した。

直撃ならば要塞とて壊滅させる一撃。だが、威力に対し手応えは薄い。

着弾する刹那、直撃地点から飛び退く影があった。

クラブの正面へと着地した影。己を確実に狙っていた狙撃手が姿を現すとレヴニールは目を見開いた。

全体のフォルムは殆ど、というよりも完全に見覚えがある。以前シミュレーターで交戦した紅蓮弐式そのもの。

相違点は全体のカラーリングは白を基調とし、頭部にはクラブと同じく甲虫の如き一本角が煌めいている。

そして、輻射波動機構とは違う巨大な右腕を有していた。

コンテナを括り付けた様に見える異形の腕から戦車砲に似た砲身が突出しており、狙撃に用いられた武装である事は明白だった。

黒の騎士団以外に紅蓮型のナイトメアフレームを運用した記録がある組織。ならば当て嵌まるのはただ一つ。

 

「……ピースマーク」

 

予想外の遭遇に一層気が張り詰める。

第七世代相当のナイトメアフレームと戦場での相対はレヴニールには初めての経験だ。

油断、遠慮。元より一切有り得ないがその感情がより強くなる。

白い紅蓮型はコンテナへと砲身を折り畳み、収納すると大型の鋏にも見える刃を展開した。

物質を切断する際、鋏が閉じる様に上下の刃が一つに重なると大型のブレードへ変わり、クラブへと向けられる。

対するクラブは左腕のヴァリスを腰部へマウント。MVSを抜刀し、二刀を構えた。

二機の一本角が向かい合う。開戦への秒読みは既に始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更ながら小説版コードギアスをナイトオブラウンズを含めて電子書籍で全巻揃えましたが、アニメでは語られていない部分やオリジナリティもあって面白いです。
……マリアンヌの印象は最悪になりましたが。

ついにクラブにも搭載されたスパコンもどき。改修前のクラブにも何となく近いものは搭載されていたのではないかと思います。ファクトスフィア展開しないし…。
憶測ですがあの一本角がやはりその役割を担っているのではないかと思います。
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