エリザベート宝具強化きたし、絆10にもできたし、ちょっと他作の方で行き詰ってたので息抜きに前々から書いてみたかったネタを書きました

何番煎じか解りませんが、ザビとエリザベートの契約ネタです

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紅い竜と私

 どいつもこいつも、何の興味も引かれなかった。

 予選を突破してきた人間達。そのどれもが全く持ってどうでも良いどころか、趣味じゃ無かった。

 一人だけちょっと興味を惹かれたのはいたけれど、ソイツは別の奴がさっさと名乗りを上げて契約を交わし、私はこの退屈なプレゼンを見続ける羽目になっている。

 こんな事なら、あのピエロ女で妥協するべきだったのかもしれない。

 どいつもこいつも駄目、駄目、駄目。

 

 

 見た目が駄目。

 

 

 声が駄目。

 

 

 目が駄目。

 

 

 鼻が駄目。

 

 

 口が駄目。

 

 

 耳が駄目。

 

 

 髪が駄目。

 

 

 手が駄目。

 

 

 足が駄目。

 

 

 体全体が駄目。

 

 

 魂が駄目。

 

 

 心が駄目。

 

 

 行動そのものが駄目。

 

 

 存在そのものが駄目。

 

 

 何もかもが駄目、駄目、駄目。

 

 

 その辺に転がってる石ころの方がマシ。

 いや、あんな連中と比べるなんていくらなんでも石ころに対して失礼というヤツかもしれない。

 まさか、サーヴァントになってから石ころに対し、ほんのちょっぴりでも罪悪感を覚えるとは思わなかった。

 結局のところ、時間の無駄。退屈なんて物じゃない。無駄無意味無価値の極み。

 

 

 そう思っていた。

 

 

 最後の最後で現れた、薄茶色の髪をした少女が現れるまでは。

 

 

 

 

 暗い闇の中、煌びやかなステンドグラスだけが光る礼拝堂を思わせる空間。

 そこに響くのは、無機質な金属音と、一人の少女が殴られる鈍い音。

 

「――っあぁっ!」

 

 人形の一撃に吹き飛ばされ、無様に地面を転がる。

 骨が折れたかと思える程の激痛。口から強制的に吐き出される血が混じった唾液が床を汚し、苦悶に呻きながらも肺は酸素を求める少女、岸波白野の体はその機能を止める事をしない。

 

「ゲホッ! ゴホッ……はぁ、うっ……っ!」

 

 乱れた髪が掛かった視界で、自身を吹き飛ばした人形を睨みつける。

 鋭い刃物のような手足。敵対者を破壊し、命を奪う事に特化したその為だけの存在。

 感情どころか自我すらなく、単にそうプログラムされているからというだけで、何のためらいもなく無機質に殺戮を、効率的に行うだけの冷たい処刑人。

 

『ふむ……君も駄目か。そろそろ刻限だ。君を最後の候補とし、その落選をもって、今回の予選を終了としよう』

 

 どこからか聞こえてくるのは、無機質にも聞こえる淡々とした声。

 

『では、さらばだ。安らかに消滅したまえ』

(殺される……。このまま、何もできずに……)

 

 毎日毎日、繰り返される学園生活。そこで覚えた違和感を辿り、真実に目を凝らして、流されるようにここまで辿り着いた。

 その結果、何もできずに殺されるのか。

 あの声の言う通り、安らかに消え去るしか出来ないのか。

 

「嫌だ……っ!」

 

 それは許されない。決して許される事じゃない。

 少女の視界の隅に映るのは、自分と同じくこの空間に辿り着いて、この人形に無残に殺された人々。

 何もできず、されるがままに己の命運を奪われてしまった無念という名の残骸。

 

「嫌だ!」

 

 ああはなりたくない。

 こんな処で死にたくない。

 何もできず、一方的に殺されたくはない。

 流されるままにここに辿り着き、流されるままに死ぬなんてまっぴらごめんだ。

 そう。流されてここまで来ただけで、なんで死ななければならないんだ。

 

 

 

 頭にくる。

 

 

 

 絶対に死にたくない。

 

 

 

 死が避けられないのであれば、せめて最後の瞬間ぐらいは――。

 

 

 

「私はまだ……自分の意志で戦ってすらいないんだから!」

 

 

 

 ――自分の意志で、自分の足で、足掻いてからだ。

 

 

 

 

「へぇ…………結構見所あるじゃない」

 

 

 

 その叫びに応えたのは、少女の声だった。

 

 

 

「……えっ?」

 

 頭上から降り注ぐのは、眩い光。

 光と共に降りてくる影。黒を基調としたミニスカート一体のドレス。血のように紅い長髪を靡かせ、ゆっくりと降り立つその姿は、異形の物だった。

 頭には二本の角。背中からは二枚の翼が広がり、ミニスカートの下から伸びるのは爬虫類の尾。

 嫌でも目を引く特徴的なそれらを持つのは――――

 

(……綺麗)

 

 ――――とても、美しい少女だった。

 歳は自分とそう変わらないように思えるが、幼さの中にも大人びた印象を与える整った顔立ちは紅い髪と相まって、とても美しい。

 角を初めとした異様さを強調させるパーツすらも、彼女の美しさの引き立て役のように思える。

 今まで見た事の無い美しさに、白野は見惚れていた。

 

「聞かせなさい。あなたが、私のマネージャー(マスター)?」

「ぇ……」

 

 その言葉が、自分に掛けられているのだと理解するのが一瞬遅れた。

 彼女に見惚れ、奪われていた意識を取り戻して言葉にする。

 

「うん。私が、あなたのマスター」

「ふぅん。そう……」

 

 少女は腰を折り、白野の顔を覗き込む。

 顔から足先まで、一通り品定めをするように白野の体をじっくりと見定め、口元を吊り上げる。

 

「顔はまぁまぁ……ってとこかしら? 身体つきは中々ね……良いわ。サーヴァント、ランサー。特別に、貴女と契約してあげる」

「ラン、サー……? っぅ!」

 

 直後、手の甲に走る焼けるような鋭い痛み。

 見れば、見覚えのない紅い文様が三画。皮膚に焼き付けられたように、そこに浮かび上がっていた。

 

「さぁ、指示を寄越しなさいマスター。この私が専属契約を結んであげたんだから、雑なマネージメントは許さないわよ?」

 

 そう言うが早いか、少女の手の中に現れるのは身の丈程もある長大な槍。

 重量も相応にあろうそれを、片手でグルグルと振り回しながら少女……ランサーは白野の隣を通りすぎる。

 その視線の先に捉えるのは、未だに白野の命を奪わんと機会を窺う人形。

 無機質な音を立て、ゆっくりと迫ってくるそれに思わずたじろぐ。ついさっきまで、殺される寸前だった相手なのだから無理はないであろう白野の反応に、ランサーは呆れたようにため息をついた。

 

「何? この程度の相手にビビッてるの? あんなのに負けっぱなしなんて、私のマネージャーとして失格よ?」

 

 お前を選んだ自分に恥をかかせる気か。と言わんばかりの、侮辱すら込めた言葉に、白野は唇を噛みしめ、真正面から人形を睨みつける。

 やってやる。また流されるままで終わってたまるか。

 

「……やるよ、ランサー!」

 

 精一杯の、力強い声にランサーは口元を吊り上げた。

 あぁ、この少女を選んだのは正解だったかもしれない。幸薄そうな、吹けば消し飛びそうな存在感しか無いのに根性はある。

 同時にムカつく。遠い記憶の中にあるとある少女を、唯一自分の思い通りにならなかった小娘を思い出して、怒りでどうにかなりそう。

 

(あぁ……ムカつく。ムカつく、ムカつく!)

 

 怒りのあまり、慢性的に自分を悩ませる頭痛すら消えていくようだ。

 この怒りをどう晴らそう。この抑えきれない欲求を、どうやって晴らしてやろう。

 

「ランサー! 防御して!」

「おっと……」

 

 考え事に意識を取られ、人形の事がすっかり頭から消えていた。

 指示通りに人形の攻撃――上段から振り下ろされる一撃――を槍で、片手で受け止める。

 まるで何も、重さすら感じない攻撃ですらない一撃。思わずため息が漏れそうになるが、それすら億劫だ。

 力任せに、雑に槍を振るって人形を弾き飛ばす。

 

「そのまま、串刺しにしてやって!」

「オッケー!」

 

 手の中で槍を回し、切っ先を空中で姿勢を崩した人形へ。

 そして、一歩踏み込むと同時に、力任せに突き出した槍が人形の腹を刺し貫き、粉砕する。

 たった一撃で上半身と下半身を別つも、それだけでは物足りないとばかりにランサーは槍を振り回し、人形の上半身と下半身をさらに細かく、文字通りの意味で粉々に。

 

「解ってはいたけど……この程度の相手じゃ、論外ね。憂さ晴らしにもなりはしないわ」

 

 槍を脇に抱えて、淡々と呟く。

 時間にして数秒。軽々と、なんて言葉では足りない程にあっさりとランサーは人形の存在を抹消した。

 小柄で華奢な見た目からは、想像もできない圧倒的な力。あの人形よりも強い事は一目で感じていたが、これほどの差があるのかと、白野は改めて理解する。

 彼女は強い。自分なんかとは比べ物にならない程に、存在の根本から違うのだ。

 

「っ……うぅ!」

 

 気が抜けると同時に、手の甲に刻まれた文様から来る発熱が一気に白野を襲う。

 痛みすら覚える熱が全身を駆け抜け、思わず両膝をつく。

 

『手に刻まれたそれは令呪。サーヴァントの主人となった証にして三つの絶対命令権。時にサーヴァントを強化し、束縛する事も可能。使い捨ての強化装置だとでも思いたまえ。ただ、それは聖杯戦争への参加証でもある。三つ全てを使いきれば、マスターは死ぬ』

 

 淡々と聞こえてくる声。

 自分に予選敗退を伝えてきたのと同じ声だと気付くのに時間は掛からない。

 

『まずは予選突破おめでとう。傷つき、迷い、辿り着いた者よ。主の名の下に休息を与えよう。とりあえずは、ここがゴールという事になる。随分と未熟な行軍だったが、だからこそ見応え溢れるものだった……』

 

 何やら喋っているが、あまり頭に入ってこない。

 こっちは現在進行形で、秒単位で増していく手の甲の痛みに苦しんでいるというのに、長ったらしく、勿体ぶるような喋り方であれこれ言われても苛々するだけだ。

 人をここまで苛つかせる喋り方が出来るとは、この声の主はある意味天才と言えるだろう。

 

『では洗礼を始めよう。君にはその資格がある。変わらずに繰り返し、飽くなき回り続ける日常に背を向け、踏み出した君の決断は、生き残るにたる資格を得た。しかし、これはまだ1歩目に過ぎない。歓びたまえ、若き兵士よ。君の聖杯戦争はここから始まる』

 

 声の語る内容は、どうやら終わりが近いようだった。

 聖杯戦争だの、生き残る資格だのと、上から目線で偉そうなのがイチイチ癪に障るがどうにも気にかかる言葉が飛び出し、無視する事を許さない。

 

『かつて地上には全ての望みを叶える、万能の願望機が存在した。人々はその奇跡を“聖杯”と呼称し、多くの欲望が無限を求め争い、しかして、至れる者は一人のみ。この闘いは、そのカタチを継承したもの。聖杯を手にするただ一人になる為の、魔術師達の命を賭した戦争。君は今、その入り口に立ったのだ。聞け、数多の魔術師よ。己が欲望で地上を照らさんと、諸君らは救世主たる罪人となった。ならば殺し合え。熾天の玉座は、最も強い願いのみを迎えよう』

 

 全ての願いを叶える聖杯。

 それを手にする為の戦い。これはその参加権を得るための予選か何かだったという事か?

 痛みに堪えながら、必死に頭を働かせるが薄れゆく意識では長く持たない。

 脳内に渦巻く疑問には答えず、声は続ける。

 

『闘いには剣が必要だ。それはマスターに仕えるサーヴァント。敵を貫く槍にして、牙を阻む盾。これからの闘いを切り開く為に用意された英霊。それが君の隣にいる者だ……せいぜい、上手く使いたまえ。ランサーを呼び寄せた君の、その決意と覚悟を代価とし、聖杯戦争への扉を開こう』

 

 直後、手の甲の発熱が更に強まって白野の意識を刈り取っていく。

 

「あっ……ぁぅ……っ……」

 

 限界を超えたとばかりに崩れ落ち、急速に意識が薄れていく。

 

『では、健闘を期待する。おや……? 珍しい事に何者かから君に祝辞が届いている……光あれ、と』

 

 それを最後に声は聞こえなくなった。

 秒単位で闇に沈んでいく意識。霞んでいく意識の中、顔をあげてランサーを見やる。

 すぐ傍に立ち、自分を見下ろすランサー。手を差し伸べる事は無く、ただ、そこに立って見下ろしているだけ。

 ただ、その顔は――――

 

「……何? 気絶しちゃったの? マスター?」

 

 返事はない。完全に気を失ったようだ。

 軽く槍の石突で小突いても反応しない。つまらない、と小声で漏らして槍を手の中から消し、しゃがみ込んで白野の髪に触れる。

 とても綺麗で、柔らかい、手入れの行き届いた薄茶色の髪。

 まぁまぁかと思っていた顔も、こうしてみると……苦痛に歪み、気を失った後という事も相まってとても、とても愛らしく見えてくる。

 

「あぁ……最高。最高よ、あなた……」

 

 あの絶望的状況でも屈しなかった根性も、令呪を刻まれた痛みで苦しむ様も、気絶する寸前に自分を見上げた、何かに縋るような顔も、何もかもが最高じゃないか。

 この先に待ち受ける聖杯戦争。その中で、この少女はどういう風に苦しんでくれるのか。どんな顔を見せてくれるのか。どんなあがきを見せてくれるのか。

 自身の中に渦巻く、消え去る事のない加虐的な趣向が燃え上がる。

 

「せいぜい、あがいて、苦しんで……私を愉しませなさい?」

 

 ランサーの顔には、とても少女が浮かべる物とは思えない―――

 

「その代わり、私はあなたを……愛してあげる」

 

 ―――狂気に染まった笑みが浮かんでいた。

 




この先も続いていくと、最初は単に加虐趣味の対象としか見ていなかったはくのんにエリザがガチで惚れていく話になると思いますが、とりあえず続きを書く予定は今のところありません


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