クーフーリンにはMCSが分からなかった。
何者か、という話ではない。アレが召喚されたとき、クーフーリンはMCSから強者が纏う独特の雰囲気を感じとっていた。
自分が生きていた時代の戦士達からよく感じた風格、しかしMCSは別格だった。その雰囲気は、自分の師匠と同じように戦いにのみ生きる者のソレだった。
加えて人には見えない外見から、こいつには協力させるどころか意思疎通すら無理だとすら考えていた。
しかし、どういうわけかMCSはマスターにじゃれついていた。最初は見境なく襲おうとしていたのかと思って加減抜きで攻撃したが、まるで通じなかった。
結局協力するということで話は落ち着いたが、普通攻撃してきた連中の協力をしようとは思わないだろう。
今だってそうだ。MCSは急に現れたバーサーカーに向かって、躊躇いもなく突っ込んでいった。出会ったばかりのマスターに、ここは自分に任せて逃げろとでもいうのか。それとも、まだ見せていない宝具が勝機を作れるのか?
いや、この際なんだっていい。
クーフーリンは臨戦体勢に入った。MCSにどんな考えがあろうと、頭数が減るのは困る。魔術は本業ではないが、まあそれなりには戦える。何より、今から逃げるには遅すぎるから、戦う以外に道はない。腹を括り、敵を見据える。
「■■■■■■■!!」
獲物を見つけたバーサーカーの咆哮が、戦いの合図となった。
2mを超える巨漢の握る無骨な大剣が、MCSに叩き付けられた。
丸太のような太い剛腕が、MCSに向けて振るわれた。
巨体にそぐわない俊敏さによる突進が、MCSの小さく四角い体を弾き飛ばした。
その“戦闘“は、その場の面々の予想より長く続いていた。
暴風のような猛攻がMCSに向けて、既に何百と繰り返される。一見するとバーサーカーによる一方的な“蹂躙”にしか見えないそれは、しかし確かに“戦闘”だった。
作り出した欠片がバーサーカーの皮膚をなぞり薄皮を裂く。
レーザーは一発目に無意味と知って撃たず、攻撃を反射する板はバーサーカーに自らの馬鹿げた力を教える。
怒濤の攻撃に晒されながらも、MCSは反撃をしていた。
そして、どういうわけかMCSは無傷だった。
乱打を受け続けているのは明白なのに、何故戦い続けていられるのか。とにかく、MCSはバーサーカーの攻撃を耐えていた。
かといって、状況はいいものではない。
MCSの攻撃はバーサーカーに大してダメージを与えられていない。それはクーフーリンも同様で、マシュは飛び込む隙を見出せないでいた。
今のところはMCSが的になることで均衡を保ててはいるが、例えばバーサーカーの標的がMCS以外になれば。
マシュなら一撃は耐えられるだろう。だがそれだけで、二撃三撃で潰されてしまう。立夏やクーフーリンのような後方担当では、一撃すら致命的になる。
しかもこの後に聖剣の持ち主との戦闘が控えているのだから、出来れば余力を残しておきたい。そんな折に、MCSが立夏の心に叫ぶ。
『宝具を使用してもいいでしょうか!?』
「いいけど、それでどうにかなるの!?」
立夏はあの筋肉ダルマはたとえ宝具でもどうにかするのは難しいと思い、そこら辺がどうなのかをMCSに問いただした。緊急時なので念話なのに喋っているという突っ込みは入らない。
『なんとかなるかは分かりませんが、それでダメなら私にはどうしようもありません!』
言葉を返す。そうしている間にも、MCSはバーサーカーの攻撃で吹き飛ばされた。MCSだって、いつまで耐えられるか分からない。立夏は覚悟を決めた。
「いいよ!使って!」
『はい!
宝具、使用します!』
その時、辺り一面が強い光に包まれた。その光は敵も味方も平等に宝具の対象として選び、彼らを夢幻の世界へと送り込んだ。
バーサーカーは標的を見失ってしまっていた。蹴っても殴っても倒れない四角いの。アレも化け物の一種だろう。なら、倒し方は分かる。
倒れるまで、蹴って殴るだけだ。今までもこれで試練を乗り越えてきた。
理性が狂化によって奪われてしまっているせいで、少し思考が鈍くなってしまっているのだが、バーサーカー自身はそれに気付けていない。今のシャドウサーヴァントと化したバーサーカーには、自分の主を守るという使命感しか残されていない。
それなのにわざわざ森から出てきたのは、あの異端の四角い化け物が召喚されただろう時に、とても大きな危機を感じたからだ。
アレは今潰しておかないといけない。化け物だろうがなんだろうが、我が主に危険をもたらす可能性のある存在は残さず潰す。
そう結論した頃に、バーサーカーはようやく自分が立っている場所が、
燃える廃墟の町並みから、少し前まで陣取っていた森の中に変わっていることに気が付いた。
そして、幾つもの木の中に、バーサーカーは何者かの背中を見付けた。それが誰なのかを認識したと同時に、バーサーカーはその背中に向かっていた。
赤い外套に短い白髪。肌は褐色で、手に弓を持っている。
顔を見ずとも分かる。あれは、いつかどこかの聖杯戦争で下した弓兵だろう。
何故自分がここにいるのか、何故弓兵がここにいるのか、そんなことはどうでもいい。
目の前にいるのは敵だ。敵は潰さなければならない。バーサーカーは大剣を高く振り上げ、勢いのままに振り下ろした。
ところが、その一撃は赤い弓兵をすり抜け、地面を砕くだけだった。それを疑問に思うこともなく、バーサーカーは追撃を仕掛けようとするが、そこで世界が切り替わり、再び廃墟の町並みの中に戻ってしまった。
「■■■■■■!!!」
バーサーカーは雄叫びをあげ、森の方へ走り出した。よりにもよって敵を主のいる場所に残してしまった。すぐに向かわなければ、主か毒牙にかけられてしまう。
目の前の化け物よりも先に潰さなければ。
急げ、急げ。
『…なんとか、なりましたね』
MCSはそう言って、さっさと生成した欠片やらを消した。
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攻撃頻度が高くてスーパーアーマー持ち(怯まない)のキャラクターには有利です。