オルガ所長が殺された。俺の目の前で。
MCSが死んだ。俺の、目の前で。
藤丸立夏はその日、初めて人の死を見た。
死んだのは彼が知り合った人で、殺したのはその彼女が懇意にしていたハズの男。何故殺したのかと声を荒げて問えば、もう死んでいるからと理由にならない答えが返ってきた。
結局その男はどこかに消えていき、立夏はそれを、ただ立ち尽くしながら見送るだけだった。
無事カルデアに帰還することができたが、溺愛していたMCSもいなくなってしまって、マシュは立夏が塞ぎこんでしまわないかと不安だった。
「召喚をしよう」
感情の見えない顔でロマニやダヴィンチの話を聞いた後に、立夏はそう提案した。特異点を攻略するための英霊が現在マシュしかいない以上、確かに英霊召喚は必要だし、ロマニも話が終わったらそれを言うつもりではあったが、立夏は続けてこう言った。
「MCSを呼ぶよ、俺は」
無表情に、少しだけ熱が混じっていた。
英霊召喚には、二つの方法がある。
一つは、召喚したい英霊にまつわる遺物を使う触媒召喚。コストはかさむが、その遺物の持ち主本人、またはその縁者を召喚することができる。
もう一つが、触媒に頼らず、召喚者と英霊との縁によって召喚を行う、いわゆる縁召喚というヤツである。
召喚者にとって馬が合う英霊が召喚される場合が多いが、何者が召喚されるか分からなく、戦力足りえない英霊が召喚される可能性があるし、相性の悪い英霊を召喚してしまったら目も当てられない。
よって、正規の聖杯戦争の参加者は、大体があらかじめ召喚する予定の英霊の遺物を用意していた。
一方、立夏は縁召喚によってもう一度MCSを召喚しようとしていた。何故か知らないが自信満々で、曰く、自分とMCSは運命の糸で結ばれているからイケるらしい。できればMCSの欠片を使いたかったそうだが、今更な話だった。
ずっと真顔でそんなことを言うものだから、威圧感が凄かった。
カルデアの面々は無理だろと思った。過去に名を残した者なら、作家ですら英霊として座に召し上げられる。つまり英霊は大勢いて、その中でたった一人を狙って召喚するなんて、それこそ本当に運命で結ばれていないと不可能だ。
まあ、どのみち英霊召喚は行われる予定だったので、各自慰めの言葉を考えつつも、とりあえずやらせてみることにした。
「MCSううううううう!!!!」
そしたら、どうだ。いきなり本当にMCSを召喚してしまった。これにはカルデアも思わず困惑しつつ立夏の運命力にドン引いたが、泣き崩れたとはいえ立夏が表情を取り戻したので、良かった事になった。
自分が消えてから何があったかを質問するMCSに特異点・Fでの成り行きを教えつつ、立夏を泣き止ませるという混沌めいた状況になった召喚部屋。
立夏は別に心のどこかで召喚できないと思っていたから無事召喚をできて泣いたとかではなく、死に直面して緊張し通しだったが、MCSの姿を見たら安心して緊張の糸が切れてしまったようだ。
「さて、立夏くん」
ロマニがわざとらしい咳をして発言した。自分に注目が集まったのを確認してから、改めて発言する。
「無事……無事!MCSを召喚できてよかったと思う。君はMCSが大好きみたいだからね。積もる話もあると思うけど、まだ召喚が終わってないから、まずはそれをお願いしたい。
あと、そろそろMCSを放してあげたらどうかな?」
召喚されてからずっと抱きしめているMCSを放しせと言われて、立夏は露骨に嫌そうな顔をしたが、MCSに何かを言われたのか、渋々とMCSを放した。
そして、二度目の召喚。マシュの盾が置かれている召喚サークルに、聖晶石という魔力で出来た石の塊を捧げる。
一度目や冬木での召喚と同じように、サークルから光が満ち溢れ、光が三つの輪に束ねられていき、部屋の中が爆発した光の奔流に包まれた。
そして、やがて光は収まっていき、サークルの前には召喚された英霊の姿が…
「あれ?誰もいないよ?」
立夏の言葉通り、英霊も何もそこにはなかった。一同は一瞬召喚システムに不備が生じたのかと硬直したが、立夏の足元に小さい何かが転がっているのを見付けた。
足元の何かに気付いた立夏は、それを手でちょいと摘まんで持ち上げる。
それは小さいが人型で、ライト付きの赤いヘルメットにを頭に被り、青いリュックを背負っている、どことなく弱そうな、冒険家って感じの男だった。
ぴくりとも動かないから、多分人形とかだろうと当たりを付けていじっている立夏にロマニが話しかける。
「それは魔術礼装だね。武器になる物とか盾になる物とか、まあ色々ある。それがどんな効果を持ってるかは分からないけど、とりあえず立夏くんが持っておくといいよ」
そう言われたが、一応マシュとMCSにいらないかどうか聞いておく。マシュは普通にいらなかったみたいだけど、MCSは人形をどこかで見た気がすると言っていた。思い出したら教えてと返事をして、確かに英霊の反応だったんだけどと唸っているロマニに断りを入れてもう一度召喚をする。そして、現れたのは____
「よお。俺は…オルガ。ああ、オルガだ。クラスはアーチャー。ま、よろしく頼むぜ?マスターさんよ」
そして、第一特異点、フランス。本来の親玉である竜の魔女は召喚した英霊にの手によって既に葬られ、聖杯も奪われた。
「■■■■…」
彼は、バーサーカーとして召喚されたわけではなかった。しかし、竜の魔女が外見で勘違いした挙げ句、
<バーサーカーよ!貴方は身も心も更に狂気に委ね、バーサーク・バーサーカーとなりなさい!>
と、令呪によって命じてしまった。令呪の拘束力は凄まじく、彼を本当にバーサーク・バーサーカーにしてしまったが、そんなことをされて黙っていられるハズもなかった。
「■■■…ヴゥゥ」
思い出したらやはり腹が立つ。尊厳を踏みにじられるのは、誰にとっても心地いいものではなかった。
その“黒い鬼”は、紅い眼を輝かせ、在りし日のフランスをさまよっていた。
誤字・脱字報告よろしくお願いします
黒い鬼は狂スロットさんに似ています。