「格闘大会?えっと…それだけ?」
つい本音が漏れる。果たし状と言うからもっとこう、不良のケンカとかそんなものだと思っていた。
「あぁ、あんたの言う通り、ただの格闘大会だよ。いつだったか、あいつが出たのも見られたぜ?」
オルガが返事をする。勝手に期待していただけとはいえ、拍子抜けしてしまった。知らないうちに張っていた肩の力を緩め、言葉の端から生まれた違和感をかき消すために問う。
「そうなの?もっと物騒なものだと思ってたからほっとしたよ。ところで、あいつって誰のことなんだい?」
「MCS」
気のせいか、巨大な角砂糖の名前が聞こえたような気がする。
「うーん…ごめん、聞き間違いしちゃったみたい。もう一回、言ってくれるかな?」
自分はきっと疲れているんだ、あとで耳通しが良くなるマッサージをしてぐっすり眠ろう。未来の自分にそう誓いながら、本当は何を言ってたのかを確認する。
「MCSだよ。あの白くて四角いの」
結果、間違いは無かった。自分の知らないMCSでない可能性すら皆無らしいと察したロマニは、せめて詳細を問い詰めることを選んだ。
「格闘大会って言ってたよね?アレが参加できるの?」
「アレってロマニお前…あー、MUGENってのはな、格闘大会ではあるけど、参加者に制限はないんだよ」
「…つまり、どういうこと?」
焦りからつい口汚くなってしまったのを指摘されてしまう。心の中でMCSに申し訳ないと思いつつも、どこまでも曖昧な返しに対して追求する。
そして、ロマニは信じられないような言葉を突き付けられることとなった。
「望みさえすれば、誰でも戦えるってことだ。格闘家とか戦士は当たり前だが、勇者やら戦闘機乗りやら殺人鬼やら、あげく鬼だのタヌキだの、国旗まで戦うんだぜ?立方体が戦ってたとしてもおかしくないだろ?」
「いや待って色々とおかしすぎる」
信じられないというか、理解したくないレベルだった。
「…それで、MCSをその、MUGEN?って大会で見たって?」
「…ああ、ここにいるやつは、ちょっと様子が違うみたいだがな」
ここまで、ロマニが説明の意味不明さに困惑し、さすがに分かりにくかったかと説明をし直され、その説明も結局分かりにくかったせいでますます混乱してしまう流れがあったが、割愛する。
なんやかんやで、参加者云々について無理矢理割り切ったロマニ。最後にはお互いキレ気味で話し合っていたせいで散々に疲れきってしまっていたが、まだ気になることが残っていたので気力を振り絞る。
「それはそうだろうね。英霊はあくまで本人の一側面。君が知っているMCSと違うように感じるのも無理はないよ。
それはそれとして教えてほしい。MUGENは、どこで開催された大会なんだ?」
オルガは間違いなくMCSについて知っている。思い直してみれば、オルガはMCSを紹介していなかったのに名前を知っていたし、英霊の姿ではないだろうMCSを見たようだった。少ない情報で無理して仮説を立てるより、素直に知ってる人に聞いた方が楽だし早いし確実である。
「どこで、なぁ…悪いが、よく分かんねえんだ」
「えっ」
確実なハズが、突き放されてしまった。
「いや、そもそも前提から違うか。MUGENはこの世界の、俺がいた世界の催しじゃないんだ」
どうしようか。せっかくさっき割り切ったばかりなのに、もう意味不明だ。オルガもそれを察したようで、慌てて補足を加えた。
「すまんすまんすまん!分かりにくいよな?俺もそう思う。証拠はあるんだよ、これだ」
オルガは、机に置かれっぱなしだった果たし状を指差した。そういえばこれのこと忘れてたな。そんな何気ない気持ちで手に取り、中身を見ようとして、手に走った強めの衝撃に襲われた。
「!?っ、オルガ、何を…!」
「…説明しなかったのは俺が悪い。でもな、だからこそこれから話すところだったんだよ。
それを開くのは絶対に駄目だ。地獄を見るぞ?」
ロマニの手から奪い取った手紙をポケットにしまいながら、何やら物騒なことを言い始めたオルガ。手をさすりながら真意を問うたロマニも神妙な顔つきになり、オルガの言葉を待った。
「その手紙は招待状だ。原理は知らないが開いたら最後、MUGENの開催場所に飛ばされちまう」
「…え!?いやそんな、手紙からは魔力を感じなかったのに…いや、それよりも、何でそれで、MUGENが別世界で開かれてるってことになるんだい?」
手紙が恐ろしい力を秘めていたのは後回しだ。何よりも、それがどう繋がるのかを知りたい。
「俺以外にもこの招待状を持ってるやつらがいたんだよ。そいつらはそれなりに顔が知られてる俺のことを知らなかったし、同じように元の世界で有名だったらしいそいつらのことを俺は知らなかった、誰一人としてだ。いくらなんでも、おかしい話だろ?」
手紙を持っているならどこか別の世界の住人で、持っていないならMUGENの住人だ。あとはMCS本人に聞くのが一番早いだろう。
その言葉でオルガとの会話は終了した。ロマニは自室で休憩を取ってから立夏の部屋へ向かった。立夏がいなければ、MCSとコミュニケーションを取るのは難しいからだ。ドアをノックする前にオルガとの会話を振り返る。
…自分だけがこんな気持ちになるのは理不尽だ。八つ当たりで可哀想だが、立夏にも同じ気持ちを味わってもらおう。そんな気持ちでノックをして、返事がないのを確認してから勢いよく扉を開いた。
誤字・脱字報告よろしくお願いします
お待たせしました、次回からやっとフランスです!