「おっ見えたぞ!よかった、二人ともちゃんとレイシフトできてるね」
月を見るのも飽きてきたし、暇だからしりとりでもしようとマシュに提案してからしばらく。
見た目的に日本語には疎そうだから接待してあげようとか思ってた立夏は、気付けば執拗な『る』攻めに屈する寸前で、ちょうどよく飛んできたロマンからの通信に助けられていたりした。
「よかったついでに朗報だ!ロマンを待ってる間退屈でね、周囲の生体反応を調べてみたんだ。そしたらね?割りと近くに、人間らしき反応が多数あったんだよ!」
ロマンに割り込んでダヴィンチちゃんが口を開いた。ダヴィンチちゃんは、前からカルデアに召喚されていた英霊だ。自分の容姿を有名な絵画のそれに変えてることと、時々MCSに向ける熱視線を気にしなければいい人だと思う。うん。
「反応があった位置に町があった記録はないから、兵士の砦だと思う。そこまで遠くもないから、ひとまずそこに行ってみてほしい。暗いから、足元には気を付けてね?」
道案内は任せてね、と付け足してロマンが喋る。俺はそれでいいと思うけど、一応マシュの意見を聞いてみる。
「はい。現状、何の手がかりもありません。現地の方から情報を得られれば、特異点修復の手助けになるでしょう。行くべきだと思います、先輩」
言ってることには同意見だ。同意見、なんだけど、マシュの様子がおかしい。めっちゃ笑顔だ。マズい、嫌な予感が…
「近いとはいえ歩きです、目的地までは時間がかかるでしょう。
到着するまでの間、先程までの続きを楽しみましょうね?」
語彙力の差が大きすぎて勝負にならないからと、キャラクターの名前やらなんやらをありにしてもらった上で立夏が詰んだ頃。
「ぷ…ぷ…んー……あっ!マシュ、あれ見て!」
「先輩、誤魔化しは効きませ…あれは」
月以外に何一つ代わり映えのなかった暗黒に、優しい光明が差し込んだ。立夏達からそう遠くない所に、明かりが灯されていたのだ。
明かりはユラユラと上下しながら、立夏達に向かって進んでいっている。多分たいまつを現地の人が持ってるんだろう。このまま行けば、明かりの主は立夏達を認識するに違いない。
ところが。立夏達はずっとしりとりをしていたせいで、現地の人間と出会った時のコミュニケーションをどうするか考えていなかった。ロマンも砦に着くちょっと前ぐらいにコミュニケーションの指南をしようと考えていたので、結果的に打ち合わせが全く出来ていない。
『どうしようマシュ、俺外国語で会話なんてできないよ!?』
『し、心配ありません、私は英語を話せます。英語は世界の共通語、特異点においてもそれは変わりないハズです!それにぼんやりとしか見えないですがあの姿はフランス兵でしょう。同じヒューマノイドならきっと分かりあえます!』
マシュは念話でそう結論付けると、明かりに向かってゆっくりと歩き始めた。立夏はマシュの後ろ姿を呆然と眺めていたが、自分が置いていかれている事に気付き、慌ててマシュの背中を目がけて駆け出そうとした。足元に気を留めもせずに。
「マシュ、待って…うわっ!」
小石につまずいてすっ転ぶ立夏。反射的に地面に伸ばした手と曲げた膝が擦れて痛む。ますます慌てて起き上がろうとしたが、不思議なことに体が動かない。
マシュに助け起こしてもらおう。そう思い、マシュを呼ぼうとしたが声が出てこない。代わりに立夏が聞いたのは、壊れたホイッスルのオモチャを鳴らしたような、掠れた高い音だった。
ふと、左胸に違和感を感じた。触ろうと伸ばした手がベタ付いた液体にまみれる。
最後に立夏が知覚したのは、何故かゲームの効果音みたいな電子音だった。
立夏は崩れ落ち、地面と一体になった。
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主人公は死にましたが問題ありませんし、これからも何回も死にます。