ただ記憶のままに   作:空澄みの鵯

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グレモリーサイドですね。
というか、カード表記どうするか悩みました。
ハートがいいのか♥がいいのか、とかそんなことから手札をどう表現するのかとか。

ハーメルンに遊戯王の二次創作があってよかったと思った今回。


イカサマ

紙に書き込まれた内容を再度反芻しながら、リアス・グレモリーはゆっくりと準備を進めていた。ポーカーに幾つかルールを加えただけのものだが、見落としがあっては困るのだ。

 

・ポーカーに扱うトランプは空条譲治が持参したものを扱う。ジョーカー二枚を含めた54枚のもの。

・シャッフルはディーラー役として木場裕斗が行い、一度毎にカードを纏めシャッフルすることとする。

・役が被った場合、数値の大きい方の勝利とする。

・ジョーカーはワイルドとし、数値を自分で指定することができる。ただし、二枚同時に扱うことはできない。

・ワイルドがあるため、ファイブカードが発生するがこれはストレートフラッシュの上位でありロイヤルストレートフラッシュの下位と判断する。

・イカサマがあった場合、直ぐに指摘する。指摘されその事実を確認し実際に行っていた場合は違反者の掛金(ビット)をディーラー預かりとする。

・掛金はコインの代用としてチェスのポーンを利用する。

・お互いが8つのポーンを所持し、一度の賭けで使用できる限界数は4つとする。

・勝利した場合賭けられたポーンを自分のものとする。

・勝負を降りた場合、降りた側のポーンはディーラーの預かりとなり、一方は再び持ち駒とする。

・カードの交換は宣言が早い方を優先する。

・勝者は自身の願いを一つだけ相手に対して強要できる。

 

コインの代わりにポーンを使うなんて……まるで相手も王様のようね。

 

犠牲(サクリファイス)という戦略がチェスにはあるが、やはり使うのはポーンが多い。戦車(ルーク)であれ、僧侶(ビショップ)であれ、狩る役を与えることはあっても率先して犠牲にするべき駒ではないからだ。だからといって兵士(ポーン)を犠牲にするのは嫌いなのだが。

 

リアス・グレモリーは考える。この勝負に勝つ方法を。相手がこのゲームを選んだ真意を。

 

幾つか厄介なルールがある。それは二つ目のルール『一度毎にカードを纏めシャッフルすることとする』という点だ。相手のカードと自分のカードが捨て札として溜まっていけば、残りのカードを頭の中で組み立てることはできる。だが、それは叶わない。ディーラーとして選ばれた裕斗だが、イカサマができるような技術はないし知らないだろう。

 

それと六番目。イカサマがあった場合の対策のようで、イカサマを見抜けなければ文句を言う資格がないと言っているようなものだ。全く巫山戯ている。

 

そう思いつつもニヤリと不敵に歪む口角を隠すことはできない。

 

楽しい。そう、楽しいのだ。

 

こうして交渉の一旦として勝負することが。そして勝負の結果によって運命が決まるという天秤の重みが。人間は弱い。協会のエクソシストでもない彼が小猫を押さえ込んだ方法は不明だが、ハッタリをかますにしても実力はそこそこあるのだろう。

 

でなければこの人数相手に言い張れるとは思えない。まぁ、だからといって直接の戦闘で負けるつもりは全くない。ただ眷属に怪我をして欲しくないという思いもあるが、負けるような眷属だとも思ってないのだから。

 

なら、どうしてこの勝負を受けたのか。それは空条譲治の胆力に免じようと思ったのだ。

 

先程も言ったが人間は弱い。脆いと言ってもいい。特殊な能力を持っていても、小猫が本気で殴れば一撃で死んでしまうだろう。だから彼はポーカーを選んだのだとリアスは考えていた。相手のリスクを掲示した上で自分から折れるのではなく、相手に提案を飲ませようとする。

 

ここに来るまでに必死に考えたのだと思うと、実に小生意気で小憎たらしいが同時に可愛らしくも思ってしまったのだ。それはある種の慢心。悪魔が上位で人間が下位。ある意味当然の帰結とも言えた。

 

だが、相手がイカサマを公然とやると言っているのに許してやるほどリアス・グレモリーは甘くない。下手なイカサマをしようものなら、『騎士』としての動体視力を持った裕斗がいる。スタンドと称していた能力を使えば『戦車』の小猫がいる。不必要かもしれないが、隣にいる朱乃の笑顔もプレッシャーにはなるだろう。

 

それに――自分のイカサマは正直反則だと自負してもいい。

 

こっそりと視線を彼から逸らし、相手の背後の天井を見れば暗がりのなかに輝く二つの点。それも悪魔であるから見えるのであって、彼の視覚には影も形も見当たらないだろう。リアス・グレモリーの使い魔の蝙蝠がそこにはいた。

 

使い魔には主に対してある種のパスが通っている。使い魔の視界は自分の視界でもあるし、使い魔の見聞きしたものは自分も知ることができる。ならば、『相手の手札を盗み見る』ことなど造作もないことだった。

 

相手にはカードに触れさせもせず、カードにイカサマしようものなら眷属が抑えこみ、自分自身は相手の手札を随時確認する。既にギャンブルというよりも、相手の身動きを雁字搦めに封じたこんだ上での『自分の幸運』を信じるだけの作業だ。

 

負けるわけがない。自分で言うのも何ではあるが、幸運には自信がある。自慢の眷属がその証明だ。ふふ、『幸運』は私についている!

 

「さて、始めてもいいですか」

 

裕斗が何時ものように笑みを浮かべながら私達に問いかける。

 

「えぇ、勿論よ」

 

「同じく問題ないです」

 

ソファに深々と腰を落とし、リラックスしている目の前の男は――空条譲治はコチラと目が合うとニヤリと不敵に笑ってみせる。思わずこちらも似たような笑みを返す。

 

「では――始めます」

 

イカサマを仕組めるほどの技術はないが、本物のディーラーのように裕斗は器用にカードの束をお互いに振り分けていく。カードの擦れる音と共にテーブルの上に札が増えていき、五枚になった時点でその動きは止まった。無言でお互いがそのカードを手に取る。

 

リアスの手札は小さい順からハート4、クラブ7、ダイヤ7、ハートK、ジョーカー。この時点で7、7、ジョーカーのスリーカードとして扱うことができる。下から三つ目の役だ。ここから変更するのは悪手だろうし、素直に4とKを捨てチェンジした方が良さそうだ。

 

リアス・グレモリー現在の手札

ハート 4 K

クラブ 7

ダイヤ 7

スペード なし

ジョーカー

現状の役 7、7、ジョーカーによるスリーカード。

 

そう判断しつつトランプを見ながら使い魔の視界と自分の視界を重ねる。一瞬視界がぶれた後、逆さになった視界が目の前に広がった。ぶら下がっている蝙蝠故の弊害ではあるが、特に動いているわけでもないので頭の中で逆に考え直すことは簡単だった。

 

そうして覗いた視界で思わずリアスは吹き出しそうになった。

 

違和感を感じ取られたのか、譲治の視線が自分に向けられているようだが表面上何事もないようにするのは得意分野だ。それでもじっとりとした視線――ヤラしいものではない観察の視線――が外れない。内心で上等、と思いつつも相手の手札を思うと涙が出る。

 

ハート6、ハート8、クラブ9、クラブJ、スペードK。所謂ブタ。役なしだったのだ。

 

空条譲治の現在の手札

ハート 6 8

クラブ 9 J

ダイヤ なし

スペード K

現状の役 なし

 

しかも数字の間隔が微妙に開いているので、ここから揃えるのは相当に運がいる。というよりも運がいい人間なら最初からこんな手札にはならないだろう。ポーカーの提案まではよかったのだが、彼はもしかしたら『幸運』とは程遠いタイプなのかもしれない。

 

不憫だとは思うが同情はしない。これは勝負であって、勝者と敗者がいる以上は哀れみなど不要な属性でしかない。

 

「二枚チェンジするわ」

 

まぁ、それゆえに叩き潰すことに躊躇いはない。馬鹿にされたとか、舐められたとか、そんなチャチな理由ではなく。悪魔の矜持としてルールに則って敗北を与えてあげる。そんな嗜虐心を孕んだ笑みを見て譲治の頬が少しだけ引き攣りそうになったのだが、幸いというかリアスが気づくことはなかった。

 

捨てた札はハート4、ハートKの二枚。返ってきた札はクラブ2、スペード8。都合よくフルハウスやフォーカードとは行かなかったが、それでもスリーカード。相手の札に比べれば随分とマシな手札と言える。そんな雰囲気を感じ取ったのか譲治は手札を三枚捨てた。

 

リアス・グレモリーの現在の手札

ハート なし

クラブ 2 7

ダイヤ 7

スペード 8

ジョーカー

現状の役 7、7、ジョーカーによるスリーカード。

 

「んじゃ、俺は三枚行きましょうかね」

 

捨てられたカードはハート6、ハート8、スペードK。残ったのはクラブの9とJ。狙うのは同じ数字でのワンペアかツーペア。それかクラブで揃えてのフラッシュというところか。まぁ、ハートは私が捨てた二枚がある以上、狙える確率は低いわけだし間違った判断でもないだろう。裕斗がそのカードの対価として三枚のカードを相手の元へと渡し、彼がそれを手札へと加える。

 

彼は「ふむ」と悩んでいる風を装う。だが、こちらには相手のカードは見えている。残念ながら相手の手札はクラブの6、9、JとスペードA、にジョーカー。せっかくジョーカーが来たというのに相手の手札はワンペア。笑いだしそうになるのを堪えるのが大変だ。

 

空条譲治の現在の手札

ハート なし

クラブ 6 9 J

ダイヤ なし

スペード A

ジョーカー

現状の役 A、ジョーカーのワンペア。

 

「何か可笑しかったですか?」

 

否、気づかれていた。

 

「割といい手札が揃ったから、ついね。貴方はどうなの?」

 

「ま、いいんじゃないですか。少なくとも最初に比べれば雲泥の差です」

 

それはそうだろう。無価値(ブタ)ワンペア()になっただけまだマシではあるが……まぁ、弱いことに変わりはない。結果として私がスリーカード。相手はワンペア。勝利はこの時点で確定している。

 

「さて、それじゃ賭けましょうか」

 

手元にある特注の紅のポーンを一つ前に置く。コトリ、と音を立てて一人立つポーン。勝てる勝負だと知りながらも、こうして敵を前に立つポーンのなんて力強いことか。ポーンは最弱と呼ばれるし、犠牲戦略(サクリファイス)によく扱われる駒でもある。それでもポーンなくしてチェスは成り立たないと言われるように、戦いの要とはポーンなのだ。

 

知らない人は知らないがポーンにはそれぞれ名前がある。配置する位置によってルークポーン、ビショップポーン、ナイトポーン、クイーンポーン、キングポーン。それはただの配置による名前の付け方だったのかもしれないが、私からすれば兵士という存在の可能性を示す言葉だ。まだ見ぬ私のポーンがそんな可能性を持っていれば――

 

「んー、俺はこのまま勝負(コール)でいいですけど、先輩はどうします?」

 

「え?あ、問題ないわ。なんなら上乗せ(レイズ)してもいいのだけど、最初だしこのままでいいわ。勝負よ」

 

少し思考がそれてしまった。勝てる勝負であるという油断か、それとも慢心か。気を引き締めなければならないというのにこの有様では眷属にも笑われてしまう。ふっと息を軽く吐き出してから目の前の事柄に集中する。

 

「「勝負(コール)」」

 

お互いが声を合わせて手札をテーブルの上へと晒す。わかりきっていたことではあるが、相手の手札はAとジョーカーによるワンペア。こちらの手札はジョーカーを含めた7のスリーカード。私の勝ちだ。

 

「んー、負けましたね。もしかして『幸運(luck)』高いですか?」

 

「自慢じゃないけど高いという自信はあるわね。私の自慢の眷属がいい証明よ。こんなに素晴らしい眷属は同期どころかここ数年はいないんじゃないかしらね」

 

「へぇ、それは重畳ですね。ま、これで俺の一敗ですか」

 

そういうと彼は自分の手元にあったポーンを此方へと差し出してくる。指先でなぞるようにそのポーンの頭を撫でてやりながら、ふと思いついた疑問を問いかける。

 

「私が幸運かどうかという話はさておき、貴方の方はどうなの?手札を見る限り幸運とは言い難いように見えるのだけど?」

 

そう。ここが疑問だった。

 

見た瞬間に笑いそうになるくらいに彼の手札は酷かった。ジョーカーが来ることで一応の体裁は取り繕えたとはいえ、下手をすれば本当にブタのままだった。あまり運が良いとは言い難い彼がどうしてこんな賭け事なんて勝負を選んだのか。

 

「んー、まぁ大した話でもないんですけどね」

 

捨てた自分の手札を纏めて裕斗に渡しながら彼は切り出した。

 

「俺は自分が世界で一番『幸運(luck)』が高いと信じてるんですよ。少なくとも何かであったり、誰かであったりに賭けた場合は負けなしと思ってます。あぁ、今回の勝負はまだ過程ですからナシってことで。結果的に勝てばいいんですから」

 

語られた言葉は下手をすれば傲慢とも取れる宣言ではあったが、謙遜が過ぎる日本という国においては内心で欲望を燻らせるよりもずっと好印象ではあった。もちろんそれは個人としてであり、悪魔としてでもあるが、勝負には関係無い程度の話だ。

 

「勝てばいい、とは簡単に言ってくれるわね」

 

「簡単かどうかなんて関係無いんですよ。勝たないとダメなら勝つしかない。そうでしょう」

 

「そうね、その通りだわ。だけど絶対に勝つことはないわ。私が勝つんだもの」

 

そう言い放つとこの勝負を提案してきた時と同じ挑発的な笑みを浮かべながら譲治は笑った。

 

「いえ、勝つのは俺です。少なくとも負けるつもりなんて無い」

 

一回戦目は私の勝利。それも圧倒的に。それでもどうしてこうも揺るがないのか。不思議に思いつつも裕斗に目配せをして、二回戦目を開始した。

 

配られた手札は案の定というべきか、悪くない。少なくとも役なしではない。

 

リアス・グレモリーの現在の手札

ハート 2

クラブ 2 Q

ダイヤ なし

スペード Q K

現状の役 2、2・Q、Qのツーペア。

 

安全手に走るのならば、チェンジするのはスペードのKだろう。そうすれば少なくともツーペアは守れる。しかし、こうして手札が揃うとこの勝負の『シャッフルはディーラー役として木場裕斗が行い、一度毎にカードを纏めシャッフルすることとする』というルールが邪魔になってくる。毎回カードが一纏めにされてしまうと残りのカードを予測するのが難しいのだ。

 

まぁ、それは相手も同じではある。いや、譲治の方が難しいか。何しろこちらは譲治の手札がわかっているのだ。実質、譲治が手札五枚のみに対して自分のを含めて十枚知っているというのは倍のアドバンテージと言える。そう思いつつ使い魔との視覚リンクをONにする。

 

空条譲治の現在の手札

ハート 8 9

クラブ 8 9

ダイヤ 3

スペード なし

現在の役 8、8・9、9のツーペア

 

今回の手札は此方と同格。このままチェンジするならやはり3だろう。スリーカードとワンペアが揃う役はフルハウス。ロイヤルストレートフラッシュ、ストレートフラッシュ、フォアカードから見て四段階目の強さを誇るのがフルハウスだ。だが、今回の勝負はジョーカー……つまりワイルドカードありという変則的なものだ。

 

いま裕斗の下にあるトランプはジョーカー二枚を含めた54枚から、私たちの手札の分を抜いた44枚。お互いに欲しいカードを保有しているわけではない。私が欲しいのは2かQ。譲治が欲しいのは8か9。欲しいカード二枚に加えフルハウスという役は種類を問わないため、そのハート、クラブ、ダイヤ、スペードを含めて総数は八枚となる。さらにジョーカーを加えれば10枚。44枚の内、10枚が当たりというわけだ。

 

悪くない。賭けるには、まったくもって悪くない数字だ。

 

「「チェンジ」」

 

声が重なり、お互いの手札からカードがテーブルの上へと落とされる。当然、私がスペードのK。譲二はダイヤの3。狙うのはお互いにフルハウス。

 

「確か手札交換は先に宣言した方だったわね。こうして重なった場合はどうなるのかしら?」

 

「……あー、これは想定しなかった。レディファーストでいいですよ?」

 

「そう?じゃあ遠慮なく」

 

目で合図すれば裕斗は直ぐにカードをテーブルの上へと一枚渡される。テーブルの上を伝って目の前にきたカードを受け取り確認すると……そのカードはダイヤのQ。

 

心臓が軽く跳ねた。負けないという自身がふつふつと自分のなかで湧き上がる。勝てる。この勝負の流れは既に私の手の中にある。私がやっているイカサマは相手の手札の確認。こうしてカードが来たのは私の『幸運』のみの力だ。運も実力のうちというが……ふふ、いいものね、こういうの。

 

内心でニヤニヤしつつ、先程指摘されたようにならないように表面にはそれを出さないように顔を作る。上っ面の塗り堅めなど簡単だ。

 

「じゃあ次は俺ですね」

 

そうして渡されたカードを使い魔を通して見れば――ダイヤの8。譲治もフルハウスを決めていた。

 

だが、ルールには同じ役の場合は数の大きい方の勝利となると記載されている。私の方に既にQがある以上、この勝負は私の勝利だった。

 

「自分で言うのもなんですけど、いい札揃いましたよ」

 

「奇遇ね。私もよ」

 

「そうですか、んじゃまずはポーン1」

 

「私もポーンを1」

 

コトリ、という音がテーブルの上で響く。私の紅い駒と彼の白い駒が対面する形で睨み合うが、勝利が既にこちらにある以上先程とは違い少し意地悪してやろう。勝敗の有無を知っているというイカサマを見極められない貴方が悪いのだから。

 

「私は上乗せ(レイズ)するわ」

 

「それじゃあ俺も」

 

再びテーブルの上に増えるポーン。お互いに自信のある手札故にその動きは滑らかで、勝利を確信しているからだろうか――このやり取りの全てが酔いしれる程に心地よい。睨み合う紅と白の駒。されど白の駒は蹂躙されると知っている、この全能感。何て素晴らしい。

 

「……自信有り気ですね」

 

「私は何時だって、ね。それが眷属の安心にも繋がるし、信頼してくれてる彼らへの心尽くしだと思っているわ」

 

「自信満々の女王様気取り、か。まぁ確かに貴方は似合いますね、そういうの」

 

女王は朱乃であって、正しくは王なのだけど。とはいえ、相手は悪魔側(こちら)の事を知ってる訳ではないかもしれないし、それは仕方ないことか。

 

「俺は上乗せ(レイズ)する」

 

テーブルの上に増える白の駒。威圧的に構える彼には悪いが、不敵に笑みを返しその威圧を流し通す。

 

「私も上乗せ(レイズ)

 

テーブルの上に更に紅の駒が増えた。3対3で構えるそのテーブルに更に白い駒が置かれ、思わず彼の顔を伺った。自身があるのはわかるが、更に上乗せするというのか。

 

上乗せ(レイズ)だ。俺は上乗せ(レイズ)したぞ、グレモリー」

 

「……大した自信じゃない。吠え面書く事になるわよ」

 

今回のルールでいう最大の賭け数、駒四つがテーブルに並ぶ。壮観であると同時に彼の駒が一気に消えてしまう事を思えば、虚しい光景とも言えた。ここで負ければ彼の駒は最初の負けも含めて3になる。下手をすれば次の勝負で勝敗が決まってしまうのだ。

 

彼の目を見た。

 

黒い瞳だ。私の紅い目とは違う、朱乃に似た黒曜石のような瞳。ただ大きく違うのは瞳に宿る自信だろう。彼の目には勝つという思いがある。自身がある。希望がある。何がこうも彼を動かすのだろうと考えながらその奥を覗こうとして、一瞬でその目に吸い込まそうになった。

 

イメージするならそれは黒い炎だった。漆黒の、殺意にも似たナニカ。あまりにも一瞬の出来事で何を見たのかすら自覚できなかったが、彼はそれを背負ってここにいるのだと確信する。思わず使い魔と再びリンクを繋ぎ、彼の手札を確認した。何かイカサマをしたのではないか、と思ってだ。

 

手札は変わっていなかった。

 

私には一歩及ばないフルハウス。

 

勝てるはずなのに、不思議と喉が渇く。全身を包んでいた全能感はナリを潜めて変わりと言わんばかりに足元から不信感が這い上がる。手札を確認し、相手の手札を確認し、テーブルの上の駒を見る。そうして意を決して言い放つ。

 

「勝負しようじゃない」

 

コトリ、と小さな音が室内に響きテーブルの上には四つの駒が並び立った。

 

「GOOD。素晴らしい勇気だ。さて、負ける準備は?」

 

「NOよ。むしろ貴方は自分の事を心配するべきね」

 

互いの息を吸い込む音が耳朶を打ち、高鳴る鼓動と這いよる不安を伴ったまま高らかに宣言する。

 

「「勝負(コール)!」」

 

展開されたのは予想通りの手札。私がQ、Q、Q・2、2のフルハウス。譲治が8、8、8・9、9のフルハウス。

 

勝った。

 

そう、そのはずだった。

 

「私の勝ちみたいね。役が同じだった時は数字の大きい方の勝ちなのだから。貴方のポーン4つ全部頂くわよ」

 

そう言って伸ばした手を譲治の腕が掴み止めた。力強く握られた私の腕はポーンに触れるか触れないかの地点で止まっている。まさか勝敗にケチでもつけるつもりだろうか。それならば興醒めもいいところだ。

 

「何のつもりかしら?」

 

「いえ、俺はルールに則った行動をしてるだけですよ」

 

「ルール?同じ役の時は数が大きい方の勝ちでしょう?貴方の場合は9があるけど、私の最高数はQ。つまり12に当たる数値よ。勝敗なんて疑う点はどこにも無いと思うのだけど」

 

「いいや、それじゃない。そこじゃない。見当違いだぞグレモリー。俺が何時『数字の大きさ』の話をした?いや俺はまだ『ルールに則った行動』をしてるだけとしか言ってないだろう」

 

彼の視線が私を貫く。勝利を確信したその瞳――まさか何かされたのか!その考えに至った瞬間、彼の手を振りほどいてテーブルの上を見て絶句した。

 

彼のカードに変わりはない。8、8、8・9、9のフルハウスと白いポーンが四つ並び立つだけだ。だが、私の陣営に明らかな異変が起きていた。そのことに後ろから覗いていた朱乃も気付いたのか驚いて声が漏れる。

 

「……六枚?」

 

そう、私の手札が増えていた。数字も見えない程に重なっているが、確かに私の手札は六枚になっていた。恐る恐る手を伸ばし、テーブルの上のカードを広げていく。ハートの2、クラブの2、クラブのQ、スペードのQ、ダイヤのQ。

 

「ハートの5……どうして」

 

そしてダイヤのQに重なっていたハートの5。合計六枚。手札が五枚になるように交換したはずだったし、それを自分でも確認した。なのに手札の数が多い。それはつまり――反則ということだ。

 

「わかってもらったとは思うが、ルールの六番を適用させてもらう。『イカサマがあった場合、直ぐに指摘する。指摘されその事実を確認し実際に行っていた場合は違反者の掛金(ビット)をディーラー預かりとする』というルールに則り、このポーンは木場預かりとなる」

 

思わず裕斗の顔を伺うが、呆然と六枚のカードを見つめたまま動かない。おそらく自分でも信じれらないのだろう。手渡しされたわけでもなく、テーブルの上においてから受け取っていたにも関わらず、お互いが重なっていることに気づかない?そんな馬鹿なことがある訳がない。

 

「何をしたの」

 

睨みつけるが空条譲治はどこ吹く風と言わんばかりに此方を逆に見返してくる。

 

「むしろ俺が言いたいくらいですよ。どうしてイカサマなんてしたんですか」

 

最初と同じ、不敵な笑みを浮かべながら譲治はこの場にいる全員に知らしめるように再び宣言する。奇しくも、というよりも狙ってだろうが最初と同じ宣言を。

 

「勝つか負けるかが賭け事。別に魂を賭けろとは言いませんが、ギャンブルってのは泣いた人間の負けらしいので、泣き落しってのは通じないと思ってください。ここでは涙は武器にならない。さぁ、ギャンブルを続けましょう」

 

何をされたのか分からない。裕斗は自分のミスではないかと呆然とし、朱乃は「あらあら」と余裕があるように振舞ってはいるが長年の付き合いだ。そのハリボテの内側を見破ることは容易い。最後に小猫へと視線を移せば、何かを探すように目を細めてはいたが、私が見ていることに気づくとすまなさそうに首を横に振った。

 

足元から這いよる不信感は何時の間にか腰周りまで来ていたようだ。このままでは身動きすることさえも、ままならない。譲治の不敵な笑みに対して同じように笑い返す。

 

さて、私はちゃんとそういう風に笑えているだろうか?




イカサマってこわい(確信)

さて、今回譲治がイカサマしましたけど、かなりしょうもないことです。
ぶっちゃけた話「いや、気づけよ」ってレベルの。でもツッコミはしないでくれるとありがたいっす。えぇ、とても。
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