ただ記憶のままに   作:空澄みの鵯

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うん、先に言うね。
書きたいのと違う内容になってしまった。

予定では
勝負→勝利→空条譲治はクールに去るぜ。
グレモリー「ぐぬぬ」

だったんだけどなぁ……


逆転・反転・一転

間違いなく流れは掴んだ。

 

そう断言できてしまうほどに相手の表情は浮かなく、こちらの心情には余裕があった。一度のミス。許されないという程に切羽詰まっていた訳ではないが、自分が原因でこの流れを作ったのだと思うと動きも鈍くなるだろう。

 

沈む表情を何とか取り繕いながらも、トランプを再び配る木場を流し見てから駒の数を確認する。総数として16あるポーンのうちで、先程ディーラー預かりとなった分を差し引いてプレイヤーが扱えるのは残り12となる訳だ。俺の手持ちが七。グレモリーの手持ちが五。まだ勝敗が確定できるだけの要因というには、温いとしか言い様がない。故にもう少しばかり仕掛けなくてはいけないだろう。

 

木場がカードを配り終え、お互いがテーブルへと手を伸ばす。グレモリーは手にとった五枚の手札を確認してから、こちらへと視線を向ける。顔を見ている訳でもなければ、カードを見ている訳でもない。どこか気持ちここにあらずと言えばいいのか、遠くを見るような視線が薄気味悪いがおそらく何かしらの魔術でも行使しているのだと推察する。

 

以前出会った堕天使は槍の複製、記憶の改竄、飛行能力などなど、幻想(ファンタジー)を忠実に再現するようなぶっ飛んだ能力を見せてくれた。悪魔の能力というのは実際に目にかかった事はないが、よく『催眠』であったり『魅了』であったりと目に関する能力が多いように思える。吸血鬼などがいい例か。

 

リアス・グレモリーという名前はグレモリーとついている訳だし、十中八九ソロモンの悪魔であるグレモリーに連なる能力を持っているのだろう。過去、現在、そして未来における財宝の在り処を知っていて、ソレを語る女性の姿で顕れる珍しい悪魔。さらに言えば女性には愛を諭すとされ、若い女性ほどその効力は強く狂わせるという。戦闘面での活躍はあまり記載されていないものの、公爵である以上軍団を率いる立場にあり決して低くはなかったと思われる。

 

……今更だが、どうして俺はこんな奴に喧嘩を売ってしまったのか。当初はオカルト研究部だけのメンバーだとばかり思っていたが、よくよく考えてみればグレモリーは『軍』を持つ公爵だったんだよな。今ここにいるメンバーは、自軍でも若く見える奴らだけを連れてきたという可能性だってあったというのに。だが、こうなってしまえばもう引けないのだ。というよりも片栗粉を手渡された時点で、ペースが完全に持って行かれていたのだ。小猫許すまじ。

 

私事が入ってしまった。少し落ち着こう。

 

現状において知る限りの情報から推察できる彼女の瞳の能力は『財宝の在り処を知る』というものだろうか。財宝かどうかはさておき、少なくともこれは賭け事(ポーカー)だ。広義的な意味では間違ってないとも言えるのではないだろうか。となると、今の彼女がやろうとしているのは手札の覗き見あたりだろうか。実際に出来ているというのなら、これほどいやらしい手はないだろう。

 

ま、だとしても負けるつもりはないのだが。

 

「……ねぇ、早くしてくれないかしら」

 

「何が、というよりも何をというべきかな?」

 

不機嫌そうなグレモリーには悪いが、秘策を出し惜しみするよりも畳み掛けた方がいいと判断させてもらった。

 

「早くカードを見て、チェンジするか降りるかを決断してもらいたいのだけど」

 

苛立ち混じりにそう言う彼女には悪いが、これが俺の第二手なのだ。

 

「いや、俺はこのままでいい」

 

「馬鹿にしているのかしら?」

 

「いや全く。最初にも言ったと思うが、これは賭け事(ギャンブル)だ。涙すら武器にならない勝負なんだぜ。悪ふざけなんてする余裕はないよ。つまり、これが俺の最善手なんだ」

 

テーブルの上に並べられたカードを『手に取らない』まま、俺はそう宣言する。

 

「おっと、別に俺は何処かの誰かのように本当に『このままでいい』なんて言うつもりはない。チェンジもするし、降りることもあるだろうさ。だけど、それでも、俺はこのカードを手に取る必要性は無いと判断した。だからこその『このままでいい』だ。理解したかグレモリー」

 

「えぇ、理解したわ。そうとう私が馬鹿にされているってことが」

 

そう言ってグレモリーが手札を二枚掴んだのを見た瞬間、すかさず宣言する。

 

「なるほどハートの7とスペードの6か。その捨て札だと種類で揃えようって魂胆か。フラッシュは確かにそこそこ強いしな、悪くない考えだ」

 

ピタリ、とグリモリーの動きは止まる。まるで時を止められたかのようだが、僅かに震える指先が時が流れているという確かな証明でもあった。

 

「……どうした?チェンジするんだろう。ディーラーに宣言しろよ、二枚チェンジするってな」

 

「何をしたの?」

 

「ははは、本気で言ってる訳じゃないだろ?イカサマだと思うならその方法から語るのが、ここのルールで決められたことだ。だからこそ、俺はお前の目が俺の手札を見ていたとしても何も言わないんだしな」

 

ハッタリである。グレモリーの目が何かを見ていたというのは、あくまでも俺の勘でしかない上にそれすら人間に伝わったグレモリーという悪魔の伝承を元にしたものだ。事実とは異なっていた場合、相手に不信感しか与えないのだが恐らくは間違っていないはずだ。そうでもなければ俺の手札が役無しだったときに、笑い出したりはしないだろう。

 

「ふざけた事を言うのね。証拠もないのに、そんな話が信じられるとでも?」

 

「それはお互い様だろう。根拠もないのに、何かをしたと決めつけやがって」

 

人によっては心地よくなるだろう零度の視線が俺を貫こうとするが、それを無視してディーラーを急かす。この短期間で持ち直したのか、木場は最初に見たときのような笑顔を貼り付けていて表面上では揺ぎは見えない。だが、俺の目では見えなかっただろうが、スタンドの瞳はカードを配ろうとするときに一度指でこすり合わせたのを見逃さなかった。気にはしているようでなにより。この調子で持ち直す前に揺るがしたいところだ。

 

集中してカードの内容を探る。俺のカードは残念極まりないことになっているようだ。

 

空条譲治の現在の手札

ハート A 7

クラブ 3

ダイヤ 9 J

スペード なし

現在の役 なし

 

運という要素は俺から遠いものだと思う。だが、俺は世界で一番幸運だと思っているのも嘘ではないのだ。こうした場面において確かに見放されるかもしれないが、普段の生活――とくに生活面においてあんなに出来た姉を持てたこと以上の幸運があるだろうか。平和が一番だと思うのも、日常が素敵だと思うのも、全ては姉の優しさを身に受けているからだろう。

 

もしも姉が姉ではなく、他人のままであったとしたら。きっと俺は俺自身のスタンドを面白がっていただろう。遊んで、暴走して、こうして悪魔に絡まれていそうだ。狂わないままで在れたのは、記憶を大切に思うままで過ごせたのは、そんな環境を与えてくれた姉あってのことだ。だから俺は世界で一番幸福なのだ。そう考えれば、考えるほどに負けるはずがないと確信できる。俺以上に幸福な人間などいるものか。

 

集中する。もう一度カードの内容を探る。手札ではなく、山札の方をだ。上から順にカードを認識し自分のカードとすり合わせていく。そうして見つける最善を相手の手札と照らし合わせて、勝負するか降りるかを判断する。反則上等の必殺である。

 

「三枚チェンジ」

 

テーブルの上の五枚から三枚を選んで中央へと押し出す。クラブの3とハートのAと7。訝しげな表情のグレモリーを尻目に木場は細心の注意を払ってカードをテーブルへと落とす。まぁ、ここでカードを間違えてもらったら困るのは俺なので『何もしない』でそれを見過ごす。

 

「さて、お互いにチェンジも終わったし掛金代わりのポーンを出そうか」

 

白いポーンを目の前に差し出す。犠牲にされやすい、哀れな尖兵。戦局を左右する、重要な走狗。王を勝たせるための基盤を担うもの。それが俺がポーンに抱くイメージだが、あいにく俺は王様ではないしチェスも嗜まないので特に思うことはない。だが、グレモリーにとってはそうではないようで、先程ポーンがディーラー預かりとなった時には沈痛そうな表情を一瞬浮かべた。何をイメージしていたのかは知らないが、愛を諭す悪魔というだけあって情に厚いのかもしれない。

 

とはいえ、容赦はしない。正直言って『軍』を持っている可能性の高い相手にここで引いては、引き続けて何もかもを失いかねない。そんな焦燥感にも近いものを今更に感じているのだ。故に訳も分からないままに負けてもらうしかない。スタンド、という未知数を前にせいぜい虚勢なり何なり張ってもらおう。

 

「どうする、上乗せする?」

 

「そうね、やらせてもらおうかしら」

 

まぁ、フラッシュ揃えたならそうもなるか。

 

「なら俺も乗ろう」

 

テーブルの上に乗せられたコマは合計で四。まぁ、妥当なあたりだろうと判断して宣言。

 

「俺はここで勝負(コール)だ。まだレイズするっていうなら付き合うが」

 

「いえ、これで行きましょう」

 

カードを表に出すグレモリーの手札は予想通りと言うべきか、それともやはりと言うべきか役はフラッシュ。階級的には悪くないし、確実に役を作ってくるその幸運には素直に頭が下がる思いだが、恐らくはこれも能力かなにかだろう。悪魔だし、その程度はできても不思議じゃない。

 

「クラブのA、2、4、6、7のフラッシュ。素晴らしいが残念なことに、ロイヤルにするには俺の手札一枚ともう一枚が足りなかったみたいだな」

 

「それでもフラッシュよ。貴方はどうなのかしらね、『見ない』ままで適当に繕った手札で勝てるとでも?」

 

はは、それこそ問題ない。

 

右端から順番にカードをめくっていく。グレモリーの幸運に釣られたのか、山札の順番もかなり良かったのが幸いした。それとグレモリーの手札交換の枚数もか。もしも後一枚でも多ければ、役としては別のを選ばなければだった。

 

「……冗談でしょう?」

 

「冗談で役が出来るのならアメリカンジョークから下らないオヤジギャグまで網羅してくるが、生憎これはお前の幸運に引かれてやってきた女神を俺が捕まえただけだ。所謂、偶然だな」

 

ダイヤの6、9、J、K、ジョーカーのフラッシュ。ワイルドは入っているものの、役としては同格であり、数値による質で俺の勝利となる。

 

信じられないと言わんばかりに目を見張る彼女には悪い……とは思わない。どうせお互いにイカサマしてるんだ。ヤルかヤられるかどこの話ではない。ヤって勝つかどうか。そんな世界なのだ。それにイカサマってのはバレなければ良いが、バレれば多くを失う博打だ。賭け事の中で更に賭けるというスタンスは、こういったギリギリな場面には相応しいだろう。

 

頭の中でそんな風に理論武装を整えていたのだが、予想に反してグレモリーは静かなままポーンを此方へと押し出してくる。反論か暴論があるもんだと思っていたのだがそれがない。さらに言えば俯いて表情が伺えない事も相まって非常に不気味である。

 

「驚いた。素直に渡してくるとは思わなかったぞ」

 

軽く牽制。言葉遊びを楽しむ風のある彼女なら、きっと何かしらの反応が返ってくるとの判断だ。

 

「別に不思議なことじゃないわよ。私と貴方は賭け事をやっているのだから。冷静な方が勝つのは当然だし、駆け引きであれイカサマであれ見抜けなければこうなるのだと『理解』したから」

 

――――ヤバイ。

 

時折思うのだが、俺が何かしらの手練手管を使った相手が『理解』という言葉を使った時というのは、何かしらの『成長』を遂げた場合が多い。本人の資質の問題もあるのだろうが、間違いなくグレモリーは一歩前に進んでいる。負ける気はしないが、勝てる気もしなくなってきた。

 

俯いていた顔がゆっくりと上がる。目に入ったのは爛々と輝く緋色の瞳。あぁ、畜生。何かしら吹っ切りやがった。その雰囲気に気がついたのか、木場も塔城も姫島も雰囲気が明るくなっていく。

 

嫌な流れだ。良くない、これは決してプラスではない流れだ。

 

「『理解』という言葉は素敵ね。現状を私に見せてくれる。さっきまでと違って、いろいろと視野が広くなった気がするわ」

 

「でしょうね。だからこうなる前に潰してしまいたかった」

 

「酷いこと言うわね」

 

クスクスと笑う余裕まで出来たようだ。まったくもって何よりである。

 

だがまぁ、まだ余裕はある。というよりも相手に余裕ができただけで、こちらの優勢は崩れてないのだ。ただ相手が『成長』しただけだ。そこだけ抜き出せば素晴らしいことじゃないか。

 

「……俺は無駄は嫌いだ。グレモリーはどう思う?」

 

「そうね、余分な部分というのは削ぎ落として行くものよ。その方が綺麗に纏まるもの。だけど、私たちはその無駄とも言える何かをこの上なく愛しているの」

 

「そうか。俺は無駄は嫌いだけど余分は嫌いじゃない。それは決して『悪くない』んだ。そう、それは成長につながる。お前は今確かにこの些細な時間で一歩前へと前進した。羨ましい限りだし、俺にとっては悪いことだろうさ」

 

自分でも何を語り始めているのかは分からないけれど、こういう時は言葉にするべきだと教わった。小夏姉曰く「譲治くんは頭を空っぽにして喋った方がいいよ」。柊姉曰く「譲治は会話を無駄と思わないこと!」だったかな。

 

「会話であれ、何であれ、生きる為に必要な事ではないモノというのは、極論で言えば不必要な『無駄』だ。切り捨てていけばきっと誰よりも完璧な人間になるだろう。だが、こうしてお前は賭け事(ギャンブル)で一歩前へと進んだ。別にお互いがガンマンの様に撃ち合った訳でもなく、こうしてお前は先ほどの敗北を乗り越えている」

 

それは素晴らしいことだ。

 

「リアス・グレモリー。先に言っておくが、俺は負けるつもりはないしお前らに組みするつもりもない」

 

「それは無駄だからかしら?」

 

「いや、危険だからだ。無駄でもなく余分でもなく、危険だと判断した。現に俺はこうして拉致られているわけだし」

 

「貴方が自分で来たんじゃない」

 

「それこそ侵害だ。そこの白いのが片栗粉なんて持ってこなければ、直ぐにでも帰宅していたさ」

 

気力を取り戻したからか、不正を見張る為にさっきから恐ろしいほどの眼力で睨めつける塔城へと視線を滑らせる。それに気付いたのか彼女はその金色の瞳で俺を真っ直ぐに捉えた。

 

綺麗な目だとは思う。月光の輝きをそのまま閉じ込めるとこうなるのだと思える程に。目に力のある人間、というか生物というのは生きる活力に満ちている。知り合いでいうなら一誠先輩とか生きる充足感と性欲の権化とも言える。きっとグレモリー辺りは気に入るんじゃないだろうか。

 

「クリーニング代を要求しないだけ良いと思ってください」

 

「はは、知らんな」

 

「ここまで話しておいてとぼけるのは無理だと思います」

 

「はは、知らんよ、知らん。俺は何も知らん。そのことの証明の為に今こうして部長殿と遊戯に勤しんでいるんだ」

 

大仰にやれやれと格好(ポーズ)を決めながら、彼女から視線を逸らし再びグレモリーへと向き直る。

 

「さて、勝負の行方は絶望的だと思いますが、どうします?降参(リザイン)しますか」

 

「すると思う?」

 

「してくれれば楽です」

 

「答えはNOよ。私、負けるのって嫌いなの」

 

「でしょうね、なんとなく分かってました」

 

勝気そうな目とか、此方を敵性と判断した時の行動力とか、こうして賭け事に興じる胆力とか、まぁ負けず嫌いだなとは思ってた。

 

グレモリーが木場に目配せをして回収したカードを再び分配させる。一枚一枚とテーブルの上に重なっていくカードだが、このままだと手札もチェンジするにしても好ましくないので少しだけ『弄ってやる』ことにする。

 

手札を分配し終えた木場には悪いが、揺さぶりを含めて悪い手ではないので容赦なく行こう。

 

「木場先輩」

 

「なんだい?」

 

人懐っこい、という雰囲気など皆無のキラキラオーラ全開の笑顔が俺に向けられる。人を突き放す笑みではないが、近づきがたい笑みでもある。……女性のこういった笑みには姉さん達で慣れたが、男でもできるもんなのだと少し関心してしまった。

 

それはさておき。

 

「カード多いみたいなんですけど」

 

俺は自分へと分配されたカードをテーブルの上に広げる。するとそこには『六枚』のカードがあった。

 

笑顔の凍る木場先輩には悪いが、配るのに注意するだけでは意味がないのだ。何しろ『確かに貴方がカードを多く配った』ことに違いはないのだから。

 

「あはは……またやっちゃったかな?」

 

「そうみたいですね。まぁ、グレモリーがやったみたいにイカサマだと言われる前で良かったですよ」

 

「確かに私がそのことに気づいてイカサマだと言ったら、貴方も同じ事をやったのだから同じ責任を負ってもらうしかないものね」

 

「そりゃそうでしょう。誰かに指図した事が、自分に向いた瞬間にそれは自分には関係無いとは言いませんよ。ま、気づかれなければ問題ないんですけどね」

 

テーブルの上のカードを全て纏めて木場へと突き返せば、苦笑しつつもそれを彼は受け取って再びシャッフルを開始した。微妙に調整を加えつつ、終わるのを待ちシャッフルし終えた木場が再びテーブルの上にカードを置いた時点でお互いの準備が完了する。

 

「さて、ラストゲームになりますかね?」

 

「あら、もう勝つつもりなのかしら?」

 

皮肉げにそう言う彼女には悪いが、今回の俺の手札は完全に調節された手札だ。負ける気がしない。

 

「グレモリーは気づいてたか?木場は随分と生真面目な人間みたいなんだが」

 

これから勝負が始まろうという時に不意に話題を振られた木場が不思議そうな顔で此方を見た。まぁ、不思議そうな顔をしているのはグレモリーの後ろで無言のまま笑みを貼り付けている姫島だけなのだが。というよりも、このメンバーの中だと、一番こいつが苦手な気がしてならない。

 

何かしでかす前に終わらせないと。

 

「裕斗が生真面目?まぁ、そうね。裕斗は真面目で誠実、それでいて優秀な私の自慢の部員の一人よ」

 

「おぉ、ベタ褒めだな。それだけ素晴らしい人物ってことなんだろうけどが、少しばかり疑問があってな。『シャッフルの回数』が全部同じってのは癖なのか?」

 

「……なんですって?」

 

「だから『シャッフルの回数』が毎度毎度13回なんだよ。不思議って訳でもないんだが、何となく気になってな」

 

ここにイカサマは介入してない。ただ何の気なしに数えていただけだ。意味があるかどうかではなく、周囲の観察のついで。言わばおまけみたいなものだったのだが、思った以上の成果を上げることになった。

 

俺の質問が意外だったのか、それとも何かしらの危機感でも抱いたのか。無言になった彼らだが、手を緩めるつもりは一切ない。先に言っておいたのだ。負けるつもりはないのだと。

 

「その反応だと知らなかったみたいだな。まぁ、それならそれで別に構わないんだ。ただ気になっただけだしな」

 

テーブルの上のカードを二枚前に押し出して、ニヤリと笑う。不敵にと意識した訳ではないが、そうとうエグい表情になってる自覚がある。

 

「二枚チェンジだ」

 

まるで勝利宣言の様に告げられた言葉に、口元をヒクつかせるグレモリー。それだけだった。それ以上の動きがない。

 

「……木場先輩、俺は二枚チェンジって言いましたよ。カード貰えませんかね」

 

「え?あ、あぁ。そうだね」

 

凍りついたような笑顔のまま、俺とグレモリーの顔を何度も視線が往復する。本当にやってもいいのか、不安なのだろう。幾度となく自分の配るカードによって危機を招いてきたのだから、その気持ちは痛いほどに分かるがそれでももう遅いのだ。

 

「グレモリー」

 

動く気配が全くないので一度溜息をついてから、彼女の名前を呼ぶ。その意味が理解できないほどに愚鈍ではない彼女は、静かに、それでいて何か覚悟を決めるように同じく溜息を吐いた。

 

「……わかってるわ。裕斗、二枚チェンジだそうよ」

 

「部長、でもっ!」

 

「裕斗」

 

何かされていることには相手は気づいている。だが、何をされているかまでは理解できてない。イカサマされているとわかっていて、自分のシャッフルの癖まで公表されて、何も無いわけがないと分かっている。それでもお前は俺にカードを渡さなくてはならないんだ。

 

「はぁっ……はぁっはぁっ!はっ!」

 

一枚カードをテーブルに落としはしたが、二枚目に手をかけた瞬間から次第に荒くなる息。過呼吸のように繰り返されるそれを痛ましげに見る塔城と姫島だが、グレモリーの表情だけは変わらない。

 

「グレモリー、降参(リザイン)してもいいんだぜ」

 

「冗談でしょう。私の眷属を馬鹿にしないで」

 

眷属。眷属か。懸案事項だったここにいる連中がグレモリーの軍の中でも若い連中かもしれない、という予想が現実味をおびてきている。色々と不安なことが増えているのは自覚したが、あえて今はそのことに蓋をする。

 

木場はというと、グレモリーの言葉に勇気をもらったのか荒くなっていた息を整えて、最後の一枚をテーブルへと落とした。無言でそれを俺が受け取り、俺の準備は終了となる。

 

「裕斗、私も二枚チェンジするわ」

 

「……はい」

 

俺の時と違ってスムーズな流れだ。だが、木場は疲れきっているのか言葉に覇気はなかった。

 

「さて、お互いに掛金代わりのポーンを差し出す時間だ。先に宣言させてもらうが俺は上乗せ(レイズ)させてもらう。そうなるとグレモリーの選択肢は二つとなる」

 

右腕を伸ばし人差し指を立てる。指に視線が自然と集中したのを見計らう。

 

「まず一つ目。同じく上乗せすることだ。手持ちのポーンが三つしか無い以上、さらに上乗せ要求されたら終わりだがな」

 

次に中指を立てた。既に言いたいことは分かっているとは思うが、それでも言うべきなのだから。

 

「二つ目だが、降りる(ドロップ)することだ。この勝負を捨てて、次の勝負に賭ける。そうなればお前のポーンは二となり、次の勝負でも同じようなことになれば、降りることも許されず勝負しようにも上乗せされれば掛金がない。まぁ、敗北だな。このゲームのルールでは一度に賭ける限界数は決めてあっても、限界数までなら制限はない。足りなかった場合はその数値で、なんてルールはないんだよ」

 

降参(リザイン)をしないと宣言したものの、お前は既に負けているのだと。お前はここからどうする?と言外に告げる。

 

「勝負するわ。上乗せして、私は二つのポーンを賭ける」

 

「……わかって言ってるのか。俺がここで更に上乗せを宣言した時点で、お前の負けになるんだぜ」

 

「えぇ、わかってるわ」

 

「乗れというのか、俺に。この『無駄』な勝負に乗れと言うのかグレモリー。メリットも無いこの勝負に」

 

沈黙の帳が下ろされた。俺の視線はグレモリーの紅い瞳を睨みつけているし、グレモリーの視線も俺の黒い瞳を貫いているだろう。お互いに言葉を発せない。まるで子供の根比べのようだ。

 

「メリットがあれば良いんですね」

 

ぽつり、と沈黙を打ち破ったのは鈴の音のような声だった。

 

「メリットがあれば良いんですね」

 

同じ言葉にも関わらず、一度目よりも力強いそれに釣られそちらへと向き直れば力強い金色の瞳が此方を見つめていた。

 

「内容にもよるが、それがこの勝負のポーンに匹敵するのならな」

 

この勝負はお互いに対しての命令権を争っている。大抵のメリットなら命令権を行使することで、何とでもなってしまうものだ。

 

「なら大丈夫です。この勝負、ポーンとして私を賭けます。二つぶんくらいはなるでしょう」

 

一瞬、頭の中が真っ白になった。思わずスタンドを解いてしまいそうになるほどに。

 

「正気か、お前」

 

「お前じゃありません、塔城小猫です」

 

思わず聞き返すが、まったく揺るがないままそう宣言されてしまえば俺は何もできない。

 

「おい、グレモリー。こいつどうにかしろよ」

 

頼るつもりも組みするつもりもなかったというのに、まさかこんなことで頼るハメになるとは思わなかった。だが、このままこんな事を言わせて勝負を有耶無耶にされるのはよろしくない。諌めるように促してみるが、

 

「小猫、考えがあるの?」

 

「はい」

 

「わかったわ。……貴方の『覚悟』は無駄にはしないから」

 

可笑しな方向で話が纏まろうとしていた。

 

「ま、待て!待て待て待て!グレモリー、お前も正気じゃないだろう!」

 

「正気よ。正気も正気、至って大マジよ」

 

「嘘を吐け!嘘を!わかっているだろう、この勝負はほぼ確実に負けるだろうとは気づいているはずだ」

 

「もちろん」

 

「ならどうして仲間を賭ける。普通に敗北を宣言さえすれば、それ以上はなにもしないんだぞ」

 

「ただ貴方は私たちと関わらなくなるわね」

 

「それの何がいけない」

 

どこにも問題はないはずだ。今まで通り、お互いがお互いの領分を弁えて過ごせばいいだけの話だろう。

 

「私はこの領地を任されているの。貴方は「それはお前らのルール」だと言ったわね。そう、これは私たちのルール。貴方が人間の法を守るように、私たちが守らなくてはならないものなのよ」

 

だから、と彼女は続ける。その目が何時の日かの姉さん達に重なって見えて、思わず反論する言葉さえも失った。

 

「勝算はなくとも打算はあるし、当然のように腹案だってある。それでも私は貴方を見逃す訳にはいかないのよ。何なら力尽くでも良いのだけど、こうも訳の分からない攻撃を受けていると完封という訳には行かないでしょう」

 

「……それでも仲間を賭けるには弱いだろう」

 

「えぇ。だから私は私にできる何かを賭けるつもりだったの。キスでもいいし、添い寝だってしてあげるわ。その先も何ならってくらいにね」

 

殺してしまうのは簡単よ、と続ける。

 

「無茶を言っているのはわかるけど、私は貴方が『欲しい』のよ。その為にはここで関わりを断つわけにはいかないの」

 

無茶苦茶にも程がある。限度がある。思わず頭を抱え込みたくなったが、それは思考停止にも近い行為だ。今は考えるべき時だ。

 

「最初にも言ったが、俺はお前らと関わりたくない。だからこそ、こうして勝負を挑んでお前を追い詰めたんだ」

 

「わかってるわ」

 

「勝利した場合の命令は『今後一切、俺の周囲に関わるな』だ。自分で言うのも何だが、かなりアバウトで付け入る隙もあるぞ」

 

「そうね、それでもその隙に付け入った時点で仲間にはなってくれないでしょう」

 

当然だ。家族に手を出されてしまえばRe:makeを使って何としてでも殺す。それくらいの覚悟は遠の昔に決めている。

 

「……塔城が自分をポーンの代わりと言った時に、お前らは誰一人として止めなかったな。どうしてだ」

 

「それは小猫を信じているからよ。きっと何か考えがあるんだと信じているから」

 

「相手は男だぞ。女性としての尊厳がどうなるか、なんて考えなかったのか。別に代用としてなら木場でもよかった筈だ」

 

「女が覚悟を決めたのに、それを台無しにするなんてこと出来るわけないじゃない。それとも何?貴方は小猫に情欲をぶつけたりするの?」

 

「誰がそんなことするか!それをするのは一誠先輩達くらいなも……の……だ」

 

「なら問題ないわね。というか、そこまで断言されるのね、その……イッセー?は」

 

すいません、一誠先輩。微妙に馬鹿にしてしまいした。

 

「という訳ですので、よろしくお願いしますね空条さん」

 

「待て、まだ決まったわけじゃないだろう。というか俺が納得していないぞ」

 

嫌な流れだ。良くない、これは決してプラスではない流れだ。

 

グレモリーが『成長』した時と同じ、いやそれ以上にまずい流れだと断言できる。

 

というよりもだ。俺は姉さん達に育てられてきたせいか、悪意とかそういうベクトル以外で調子に乗っている女性が非常に苦手だ。負ける気しかしない。

 

「グレモリー……お前、嫌な方向に『成長』したな」

 

「ふふ、一矢報いたかしら」

 

「この悪魔め……」

 

項垂れるようにそう呟けば、クスクスとグレモリーの後ろに立っていた姫島が笑い出す。

 

こいつが動く前に何とかしようと思っていたというのに、とうとう動き出しやがった。そんな風に思えたのも束の間。

 

「あら、正解ですわ。私たち、悪魔なんですもの」

 

わざとらしく黒翼を広げ優雅に笑うその姿を見て、どうしようもなく追い詰められたのだと気付くのに時間はいらない。

 

無言で頭を抱える俺の目の前には五枚のカード。中身は見なくても分かっている。ワイルド込みの負けるはずのない最強の手札(ロイヤルストレートフラッシュ)が、こんなにも憎々しく思える日が来るとは思わなかった。




長すぎるので次回に続く。

まぁ、次回はあれだ。勝負後の事務処理的な何かの予定。
Re:makeが何やってたかもそこで書くけど……怒らないでね?
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