具体的には就活→お祈りのコンボで心がへし折れてました。
俺の心はマジで弱いのだと再認するはめになったぜ……
まだ就活続けてるので、やはり更新は遅れると思いますがご了承ください。
悪魔という侮蔑に笑顔で悪魔だと返された。わかりきっていたことだというのに、微妙な敗北感を抱いている辺りまだ自分には余裕があるようだ。
落ち着こう。素数でも数えようかと思ったが、素数を数えようにもそれほど数を知らないので無理だ。というより俺に信頼できる人物がいるのだから、孤独な数字を数えても勇気など沸くわけがない。勇気というのはそういうものではないのだから。
さて、素数を数えるよりも、勇気を胸に抱くよりも、覚悟で暗闇を照らすよりも、目の前の問題に向き合う努力をしよう。
幸いまだ手札はめくっていない。だが、ここからの改竄をするのは不可能だ。Re:makeがそこまで万能ではない以上、勝負が着いたと判断される今の内に話を推し進めないとマズイ。姉さんに「小猫飼ってもいい?」とか言うのは嫌だぞ、俺は!
……いや、落ち着け。まずは落ち着け。条件はまだ決まってないんだ。俺の家に来るとは限らないし、そういう意味ではないかもしれない。
既に動揺しているのはバレているので、あえて相手に見せつけるように大きく息を吐き出す。呆れ果てていると捉えるか、気持ちを落ち着けているととるかは相手次第だが……十中八九で後者と捉えられるだろう。間違ってないのだが、交渉前となると気が重い。隙だらけというか、穴だらけのロジックしか組めない自分の頭脳が憎い。
吐き出した息の分だけの動揺を飲み込んで問題を見据える。
「なぁ、グレモリー。幾つか質問があるんだがいいか?」
「それは今すぐではないと駄目かしら?勝負が着いたからではなく」
「もちろんだとも。このことをハッキリさせておかないと勝負が着いたとしても、問題が発生しかねないからな。……あれだ。塔城を賭けるとかそういう問題もここでハッキリさせたい」
「ポーン二つ分は私では不満ですか」
「……そういう問題じゃないので、少し黙っててくれ」
「あはは、小猫ちゃんじゃ不満だなんて空条くんは理想が高いんだね。僕もつければいいのかな?」
「そういう問題じゃないって言ってるのに……聞いてないのかお前ら」
あまりにも人の話を聞かないのでコレまでの事もあって、過度のストレスからこめかみあたりがヒクついている。トランプに
「ふふ、貴方が動揺しているのを見ると嬉しくなるわね」
「ホントに嫌な方向に成長しやがって……」
「ふふ、私をこんな風に痛めつけておいてよく言うわね。苛められるばかりは好きじゃないのよ私。少しくらい楽しみがないと拗ねたくもなるし。それにせっかく成長したのだから、第一に張本人に見てもらいたいじゃない?」
そう呆れたように
今更だがグレモリーといい姫島といい、二大お姉さまと呼ばれているだけあって妙に大人っぽいのだ。これを同級生と思えとか、日本人の童顔舐めてんのかと言いたくなるレベルで。色っぽいとかそういう方向には姉さん達と生活していたので多少の耐性は付いているが、からかうような甘やかすような言葉には逆に耐性が削がれていった。
甘やかしを拒否すれば柊姉さんは悲しげに笑みを浮かべ、小夏姉さんに至っては雨の中放置された子犬の幻覚すら見える始末。大切に思うからこそ相当に相応に、俺は
一誠先輩達とつるめるのは、こういう部分で同族意識を持ってるからなのではないか。数少ない男子とはいえ、あそこまで露骨に性欲むき出しの人と一緒にいる辺り……俺も結構業が深い気がしてならない。
「可愛げとかどうでもいいんだよ、そんなのは姉さん達にからかわれるくらいで腹いっぱいなんだよ」
「あら、お姉さん達とは気が合いそうですわ」
「姫島さんは黙っててくれ!正直言わせて貰うが貴方が一番厄介そうだッ」
「あらあら、嫌われてしまいましたわ」
頬に手を当てて微笑みながらも、先程展開した翼は楽しげに上下にパタパタと動いている。犬の尻尾か!とも突っ込みたくなるが落ち着かなければ、このままズルズルと相手に都合いいように進んでしまうだろう。頭の冷静な部分が目の前で笑う二人ではなく、塔城か木場に話題を振るように訴えてくる。
「兎にも角にも、だ。塔城は自分がポーンの代わりになると言ったな。それはどういう意味で言ったのか説明してくれ。グレモリーのとこの配下なんだろうお前。そう簡単に鞍替え出来るとは思えない」
「そうですね。確かに私は部長の眷属であり『戦車』の駒に該当しますが――」
「待て、待ってくれ」
思わず手を伸ばして彼女の言葉を遮る。まるで知っていて当然のように使われたのだが、
「忘れてそうだから言わせてもらうが、俺は『人間』だ。少々特殊な能力はあるが人間なんだ。ここまではいいか?」
「はい?」
俺の言葉に塔城は不思議そうに小首を傾げる。知ってますけどとでも言いたそうな反応だが、そちらの常識との擦り合せがすんでないという事を忘れないで欲しい。
「まず、第一にお前の言った『戦車』の駒ってのはなんだ。流れるように言われたが、まずソレを俺は知らないんだが」
「あ、そう言えば話してませんでした。そこから説明しないとなんですか……面倒ですね」
おい、待てコラ。
「ならそれは私から説明するわ。ふふ、ゲームが楽しくて貴方が『人間』なんだって忘れてたわ」
苦笑しつつもそんな事をのたまうグレモリー。その姿に思わず素でため息が零れた。
「あのな、グレモリー。忘れてそうだから注意しておくが、俺とお前は味方ではないし敵でもない。言ってしまえば宙ぶらりんの微妙な状態なわけだ。そんな中でお前の眷属がこちらに入ってこようとするのを「はい、わかりました」なんて出来るわけないだろう」
本気でそう思っているのなら頭の痛い問題だが、それだけではない。
「それにお前自身の話になるが、さっきのイカサマの正体も分からないのに気を抜きすぎだ。もしかしたら、気が付かない内に致命の一撃をたたき込める状態にまで持って行かれている可能性だってあるんだ。会話しながら注意してたか、俺の動きに、俺の視線に、俺の言葉に。それじゃ駄目なんだよ……頭の良いお前なら分かるだろう」
そこまで言ってから気づいた。妙に静かなのだ。先程まで煩いくらいにこちらをからかってきた連中が、急に黙って此方を見てきていた。視線に混じっているのは『好奇』と『安心』のような暖色。少なくとも先ほどの言葉を聞いて出す色ではない。
「グレモリー聞いてなかったのか、お前は危機感が足りないって言ったんだぞ」
「聞いてたわよ。随分と優しい言葉だったから、思わず嬉しくなっただけよ」
苛立ち混じりにそう言えば、クスクスと楽しげに笑いながら「ねぇ?」と周囲に目配せをする。するとあろうことか、周囲の連中も軽く笑みを浮かべながら同意するではないか。
「貴方、そういう事は思っていても口には出さないものよ。そうじゃないと警戒されて意味がないでしょう」
「だから警戒しておけと言ってるのが分からないのかよ。俺とお前はそういう間柄になっても可笑しくないんだぞ」
「ありえないわね」
「……油断だぞ、それは」
「どうしてそう思うか教えてあげる。貴方が親切に忠告してくれた様に、わざわざ口に出して、ね」
自分の唇をそっと抑え、ウインクしながらグレモリーは笑う。さっきから笑ってばかりだ。既に此方を警戒する必要がまるで無いと思っているかのように。警戒するに値しないとでも言いたいのか?
1mmもないトランプの側面に僅かだが凹凸の波が生じてしまった。相手には気づかれていない様だが、心がブレている時はスタンドの扱いが甘くなってしまう。反射的に指でも傷つけようものなら、先に勝負を破棄したのが俺ということになってしまう。……いや、それが狙いなのか?
動揺させてスタンドの――俺の能力の一端でも知ろうとしている。というのは邪推しすぎだろうか。
「貴方があんまりにも素直に心の内を話すものだから、警戒するのも馬鹿らしくなったのよ。交渉事には向いてないわね」
思考が止まった。ついでに考えていた内容が忘却の彼方へ消え去った。代わりに出てきたのは姉さんの言葉。小夏姉曰く「譲治くんは頭を空っぽにして喋った方がいいよ」。柊姉曰く「譲治は会話を無駄と思わないこと!」。少し前に思い出した言葉がリフレインする。
思わず頭を抱えて机に突っ伏す。相手から目も離すし、Re:makeの目だって俺と重ねているので本当の意味で相手から目を離すことになった。死角だらけの無防備な状態。だが、コチラとしてはそれどころではない。なんというか、本当に姉さんに勝てる気がしない。
「……あら、耳が真っ赤ですわよ譲治くん」
「アンタには指名までして黙っててくれって頼まなかったか!」
悲鳴の様に叫べば「怒られてしまいましたわ」なんて返された。声質でわかるが、からかわれているようだ。
「空条さん」
「なんだ塔城」
「優しいんですね」
「そういうことを真っ直ぐ言わないでくれるかな。割とマジで凹んでんだし」
「空条くん」
「なんだ木場」
「君は優しいね」
「甘いセリフは女子に言え。ってか凹んでるって言ったよな俺?聞いてなかったのか」
塔城と木場は顔を見合わせて首を傾げてみせる。思わず拳に力が入るが、無駄だと気づいてやめる。しかしまぁ……敵に塩を送るどころの話ではない。この勝負は途中からまるで一人相撲ではないか。勝ったにも関わらず、土俵の上で「まだ終わってないぜ!」なんて子供みたいに叫ぶばかり。あぁ、確かにこんな様の相手を警戒しろというのは無茶だ。
「うし、吹っ切った」
「あら、まだ耳が赤いようなですし、もう少し休んだ方がいいのでは?」
「姫島さんはマジで黙れ」
ガバリと顔を上げて言外に「もう大丈夫だ、話の続きをしよう」と言ったつもりだったのだが、身も蓋もない言葉によってバッサリと切り捨てられる。最低限は敬語を使おうと思っていたのだが、もう駄目だ。体裁を繕うことさえもままならない。
「本題に戻すぞ、グレモリー」
「えぇどうぞ」
「さっきから言っているが、まず第一にハッキリさせたいことは『塔城小猫をポーンの代用にする』という問題についてだ。言葉にするとまるで文房具の貸し借りみたいな、まぁ学生らしい感じはするが内容の重みが違い過ぎて笑い話にもならない」
「文房具?」
「ん?あぁ、アレだ。筆記用具とか忘れた時に、友達に借りたりするだろ。どっちも相手のものを自分のものとして扱うけど、貰い受けたわけじゃなくてあくまで『借りてる』ってのがポイントだよな」
「借りたりするようなミスはしないのだけど……まぁ、言いたい事はわかったわ。確かに小猫は私の眷属なのだから、所有権は私にあるということになるわね。眷属から外すっていうのも難しいし」
「それ、それだ。さっきからグレモリーは塔城のことを眷属って言ってるだろう。どうやら正しくはグレモリーの眷属で種類は戦車って感じらしいが、その意味が分からない。戦車っていうのは軍の階級みたいなものなのか?」
グレモリーが持つとされる軍。悪魔の階級というのはこっちの貴族と同じで、男爵やら子爵やらといった表現だったはずだが本当は違うのかもしれない。歩兵、装甲兵、戦車、戦艦、みたいな。そうなるとグレモリーは何になるのだろう。提督とかそこら辺だろうか。
「戦車が階級ってどうしてそういう発想に至ったのよ」
上品に笑いながらそう聞かれたので素直に答える。既に駆け引きとかどうでも良くなりそうになってはいるが、油断するには早いのだと気を引き締めようと思う。思うばかりで出来てないあたり、かなり短い間で絆されている自覚がある。
「プッ、ク……クク……ごめんなさい、少し休憩させて…ふふ」
こいつ、普通に笑いやがった。何が可笑しいと聞きたいところではあったが、周囲の奴らの反応も似たようなものなので甘んじて受け入れることにする。
「ごめんなさいね、戦車という言葉でそこまで考えるとは思わなくって。でも提督って響きは素敵ね、お兄様も気に入りそう」
「いいよ、もう。お世辞とかそういうのはいいから、無知な俺に知識を授けてくれ」
投げやりにそう言う。何となく姉さんを相手にしている時と同じ対応になってしまうが、もうそれはそれで仕方がないのだと諦めた。油断さえしなければ言いわけだし。何から何まで気を張るのは疲れるのだ。口調くらいは楽でいよう。
「悪魔というのは貴方の言ったとおり、確かに階級があるわ。72柱か元72柱とも言うわ」
「元?ってことは今はもっと多いのか」
「いいえ、逆よ。もっと少ないの。いろいろとあって半分くらいになってしまったわ。それでもグレモリー家は未だに上級悪魔として名を馳せているのだけどね。軍というのも無いわけじゃないけれど、その中でも直属と言える精鋭のことを眷属と称するのが最近では一般ね」
「精鋭だったのかお前ら。てっきり軍の中で若いやつだけ選んで来たのだとばかり思っていたんだが」
「私も朱乃も本気になれば学校を半壊させることくらいできるわよ?」
笑顔でさらりと言われた一言に引きつった笑みが浮かびそうになり、必死にポーカーフェイスを作ろうとするがブレている今の俺の精神状態でどこまで繕えているのかは疑わしいところだ。
しかしヤバイ、思った以上に悪魔ヤバイ。あの堕天使だってコンクリ粉砕とかやっていたが、火力的にはRe:makeで対抗できた。だが、話が本当だとしたら直撃した瞬間にRe:makeごと俺が貫かれかねない。
「まぁ、それは置いておくとして。眷属というのは最近ではチェスのルールを採用しているのよ。少数精鋭で勝負を決めようって話ね。数が大きく減ってしまった悪魔にとって都合が良かったというのと、チェスというゲーム性が悪魔に受け入れ易かったのね」
「そうなるとポーンが8、ルークが2、ナイトが2、ビショップが2、クイーン1、最後にキングが1になるのか」
そこまで考えてふと驚愕の事実に気がついてしまう。
グレモリー。こいつは間違いなくキングだ。なら後ろに控えている姫島はクイーン辺りだろう。そしてルークである塔城と、不明ではあるが勘で言えばナイト辺りだと推察する木場。ルークとナイトでさえ一つずつ余裕があるというのに、ポーンとビショップが一人もいない。
つまり、まだ伏兵が最悪12人はいる可能性がある。
汗が吹き出すのが自覚できた。学校を半壊させる相手が目の前に二人、つまりこにの二人で全壊。そしてその王様が『精鋭』と呼ぶ奴らが更に12人もどこかにいる。姉さん、俺はもうダメかもしれない。
「そうね、一応紹介しておこうかしら。私が王の駒、朱乃が女王の駒、小猫が戦車の駒、裕斗が騎士の駒になるわ。それぞれの駒がそれぞれの特性を持っているのだけど、これは余談ね」
「OK、理解した。それを踏まえて改めて言わせてもらうが、少数精鋭の内の一人を俺に『貸す』とか正気とは思えないぞ。それにポーンの代用としてルークってなる訳だろ?プラス分が大きすぎて疑わずにはいられない」
「仕方ないのよ、私にはまだ兵士がいないのだから」
「……あー、すまないがもう一度言ってくれ。今どう考えても狂ったセリフが聞こえた気がしたんだが」
「私にはまだ兵士はいないわ」
「どういう神経してんだテメェ!ポーンってのはチェスの要だぞ!どうしてポーン抜きでチェスの準備進めてんだ!」
思わず立ち上がり机を両手で叩く。風圧でトランプやポーンが散らばるが気にする余裕もない。
「頭痛くなってきた。悪魔には常識ってものがないのか」
「非常識な能力使う貴方がいわないでちょうだい」
「ですね。戦車のパワーに匹敵するナニカなんて非常識極まりないです」
「まぁ、神器かとも思ったんだけど違うみたいだし、僕らに見えない辺りも不思議だよね」
「お互い様ですわね」
悪魔に常識を解けば逆に悪魔に常識を解かれる始末。なんだ俺が悪いのか?と自問しつつも、おそらくは平行線になる議題だと判断し頭を掻き毟りながらソファに座りなおし、グレモリーをもう一度見据える。
「グレモリー」
「何かしら」
「ポーンが……兵士の駒が無いから、代わりに戦車の駒なのか?」
「違うわ。小猫がそう望んだからよ」
……OK。
理解し難いが、目はマジだ。悩みながらさっきの間に決めたんだろう。確かに此方を吹き飛ばしそうなくらいに紅く燃えるようなスゴ味がある。
「もしも話だが、小猫が俺のものになったとして何が変わる。生活を共有する?それともマジで玩具として扱う?魂胆としては監視辺りが近いんじゃないかとは思ってるんだが」
グレモリーのスゴ味に当てられたのか、内側でフツフツと燃えるように心が熱くなっていく。ギャンブル中に近い状態だ。気が抜けたコーラみたいな甘ったれた感じが払拭されていく。
「そこは貴方次第よ。確かに私はポーンの代用として小猫を賭けたけれど、小猫は私の眷属ということに変わりはないわ。どう扱うかは好きにしていいけど、自分の物が傷つけられたらどうなるか分からない訳じゃないわよね。文房具の例えは素晴らしいわ。もしも貴方は自分のペンにイタズラされたらどうする?私なら報復するわね、きっと誰だってそうするわ」
「いいね、シンプルで分かりやすい回答だ」
結局のところ、小猫は俺の所有物ではない。それはつまり
「つまり、ポーン二つ分貸しの担保みたいなもんか」
「そう考えてもらって構わないわよ。それと生活の共有とかそういったことは当事者同士で話し合ってちょうだい。流石にプライベートまで干渉するつもりはないわ。お互いに『イイ関係』でいたいものね」
「全く『イイ性格』してるよ」
「苛められるばかりは好きじゃないのよ私」
少し前に言った言葉を再び口に出してクスクスと笑う。
手をテーブルに伸ばす。バラバラに吹き飛んではいたが、自分の手札くらいはわかっているのでそれを集めて一枚ずつ裏返していく。ハッと息を飲む音が聞こえたが、それを無視して宣言する。
「ロイヤルストレートフラッシュだ。この勝負は俺の勝ちだな」
「……そうね、そうなるわね。ちょっとショックよ、こんなストレートで負けるだなんて。非常識なだけはあるわね」
「お互い様だ非常識。それにここまでこっちを追い詰めておいてよく言う。無駄に抵抗する気も起きないぞ、さっきの話を聞けばな」
悪魔の力、さりげなく混ぜられた兄の存在、ポーンという駒の価値。グレモリーは色々と教えてくれた。小猫の戦車という駒を担保にするよりも、ずっとずっと意義のある内容だった。本当にイイ性格をしている。無知だった俺に話せるだけの情報をくれたのだろう。悪魔の総数が少ないとか自分の兵士がいない、そんな内輪のしなくてもいい話までして。
今なら言えるが、本当によくグレモリーと敵対しようと思っていたと思う。Re:makeは対人は強いが、学校を半壊させるような連中には流石に勝てる気がしない。しかも予定ではもっと人数が増えるとのこと。敵対するのは愚の骨頂だろう。試合に勝って勝負に負けた、そんなイメージだ。
「さて、貴方の願いは何かしら。悪魔として叶えられるだけの努力はするつもりよ」
「俺の願いか……最初の願いは『今後一切、俺の周囲に関わるな』だったが変更するよ」
「あら嬉しい」
「お前らの世界のルールを俺に教えてくれ。多少なら荒事だろうと巻き込まれてやるが、姉さん達を巻き込もうものなら殺してでも逃げてみせる」
「大きく出たわね。てっきり最低限とかそういう言葉がどこかに付くものだと思ったのだけど」
「いいんだよコレで」
ニヤニヤと笑うグレモリー達にうなだれつつもそう返す。反抗する気は遠に失せたのだ。姉さん達に手を出すのなら反故にさせてもらうが、こちらから敵対の意思を示す意味はない。警戒して、勝負して、勝った。そこで終われば良かったんだが、現実を見ればこのザマだ。情けなくて涙が出るな。
「『悪魔と仲良くする』『家族も守る』「両方」やらなくっちゃあならないってのが、「弱者」のつらいとこだな。ブチャラティはそういうとこマジで尊敬する」
「ブチャラティ?さっきの誰かの言葉の引用なのかしら?」
「尊敬して止まない
聖書という言葉に顔をしかめるグレモリー。
「協会の言葉なの?」
「いや、漫画だな。ほら、ドラゴソボールとかそういうの知らないか?男の子には人気なんだが」
「私の性別がわからないのかしら」
豊満な胸を組んだ両手で押し上げつつ問いかけてくるが、そんな露骨な誘惑は小夏姉で慣れきっている。小夏姉の場合は無自覚なので更にタチが悪い。鼻で笑ってやると、傷ついたのか頬がヒクリと歪んだ。
「その反応は傷つくわね。ねぇ、朱乃?」
「あらあら、リアスは子供っぽい方が好みなのかしら?私はこういうからかいがいのある子は嫌いじゃないのだけど」
「それは私も思ったわ。度胸も胆力もあるし、何よりも能力が強い。優良物件なのよね……ねぇ、譲治。本当に悪魔になってみる気は無い?痛くしないから」
「検討はします。それと姫島さんはホント勘弁してくれ」
「あら、それじゃまた今度聞けばいいのかしら」
「うふふ」
「提案されても同じように返すだろうけどな」
白けた目を向けられたが気にしない。こっちも一名を気にしないのだからお互い様だ。
「そうね、そろそろお開きにしましょう。私たちは問題ないけど人間は夜目が効かないものね」
「そうですか?それじゃ、今日は此処へんで帰らせてもらいます」
わざとらしく右手をゆっくりと持ち上げゆき、テーブルの真上で止める。ニヤリと自然と頬が緩むのを自覚しながら、指を鳴らす。
「うわっ!?」
瞬間、木場の手の内にあったトランプが宙へと躍り出る。それはテーブルの上に置いてあったカードも例外ではなく、紙同士が擦れバラバラと音を立てながらテーブルの真上で再び山札を作り上げていった。
唖然とする全員の顔を満足気に眺めてから浮いたままの山札を手にとると、
周囲の反応を見るに恐らくはこの中では一人しか理解できていない光景。トランプの側面の色が普通と違うからと言って誰が声に出すだろうか。そういうモノだと納得して終わりだ。それでもよくバレなかったものだが。
「まさか、最初のときに?」
塔城が呆然とした表情で言う。黒いトランプが白くなったのを確認できたのはどうやら彼女だけのようだ。つまり悪魔全体で『見える』という訳ではなさそうだな。しかし、最後に追加で情報をもらってしまった。まったく、貰いすぎて気が引けてしまいそうだ。
「どうだろうな?まぁ、少しは俺の手札も見せないと。
「ふふ、そうね。それと私のことはリアスでいいわよ?譲治って私は呼ばせてもらうから」
「あー、そういうのは面倒なのでパスで。今日だけでもあれだけ目立ったのに、更に名前呼びとかどうなるかわかったものじゃない」
「私は別にかまわないけどね」
「俺が構うんだよ」
「ふうん、大変ね。でも、私は譲治って呼ばせてもらうから」
自由だな、流石悪魔。
「好きにしてくれ。俺はグレモリーと呼ばせてもらうけどな」
「外までお送りしましょうか?」
「遠慮しておきます。姫島さんはグレモリーに紅茶でも注いでやってください」
トランプを箱にしまいながらそう答え、いそいそと帰宅する準備を終える。送迎付きでしかもそれが姫島さんだなんて冗談じゃない。この短時間で天敵として認識せざるを得ない存在に恐々としつつ、立ち上がり扉へと向かう。唯一と言っていい光源である蝋燭が背後にある為に自分の影で足元が見えづらいがこのくらいなら問題ない。
扉を開けば日もだいぶ落ちており、夕方というよりも既に夜と言ってもいいだろう。ただでさえ暗かった廊下は更に暗く、肉眼では殆ど見えないのではないだろうか。……もしかしてコレを察して言ってくれたのだろうか。だとしたら少し悪いことをした。
「見えます?」
いつの間にか隣にまでやってきた塔城が無表情のまま聞いてくるので、苦笑を浮かべつつなんとかなるとだけ返した。Re:makeを床面に這わせて凹凸と道幅を認識していけば、自然と頭の中に全体像が浮かんでいく。Re:makeの行動範囲外までは分からないが、常時展開しておけば狭い通路ならば問題ないのだ。
「何をしているんですか?」
「詳細は省くけど、見えなくてもなんとかなるってことだけ分かってもらえばいいよ」
「へぇ、便利ね。そういうこともできるの?」
背後に迫っていたグレモリーが関心したように言う。
「トランプのコントロールに通路の把握……空間に反映されるような能力ってことかしら」
「推察はお好きに。不思議な能力な方が切り札として扱えるので」
ニヤリとお互いに笑い合う。そうこうしているうちに殆ど廊下の構造を把握したので一言掛けてからその場を後にする。
暗い廊下を歩きながら今日の成果を思う。悪魔との接触。これはまあプラスと言っていいだろう。内情を聞けるというのはかなりデカい。このまま堕天使、ひいては少しでもあの男の情報が手に入ればいいのだが。
それにRe:makeの認識は悪魔にもできないとわかった。堕天使にも悪魔にも基本的には見えないものとして良いようだ。逆に考えればどうして塔城はコイツを見れるのかが分からないのだが、スタンド使いか固有の能力だと考えるのが順当か。
思考に没頭していたらしく何時の間にか学園の外へと出ていた。それも家路につくまで後十分もかからないであろう地点に達して気づくことになるとは、集中しすぎていたようだ。
「ところで空条さんのお家には連絡しなくていいのですか?」
「あぁ、そうだった。遅くなってるし連絡くらいはしておいたほうがいいか」
「私は荷物を持ってから空条さんのお宅にはお邪魔させて頂くので、それまでにお姉さん方の説得の方お願いしますね」
「任せ……と、け?」
待て、いま俺は誰としゃべっている。
振り向けばそこには真っ白な少女。喜怒哀楽の少ない表情でこちらを見ている塔城小猫がそこにいた。
「どうしてここに?」
「いえ、大したことではありません。私が空条さん預かりになり、空条さんの対価が何かということまでは決まりましたが、結局私の扱いが決まらなかったのでこのまま付いていこうと考えていますが」
「しまった……悪魔の危険性を考えてて塔城のことを煮詰めてない」
「えぇ、なので今日のところは空条さんのお宅でお世話になるようにと姫島さんが」
「あんの女郎!黙っていたかと思えば入れ知恵してただけかよ!」
「空条さんのお姉さんには是非会ってみたかったので渡りに船でした。それでは後ほど会いましょう、自宅の場所でしたら調べ終えてますので問題ありません。では」
「では、じゃねぇよ。では、じゃ」
止めるまもなく走ってゆく塔城の足は以上に軽いように見えた。心なしか本当に姉さんに会うのを楽しみにしているようで、どこかそんなにも興味を引く内容が合ったかと振り返ってみるが検討も付かない。
成せばなる、ではなく成るようになる。そんな気持ちのまま自宅に帰った俺が見たのは、
「おかえり譲治。イッセーくんが遊びに来てるわよ」
「おっす、おかえり譲治。ちょっと相談があるんで上がらせてもらってるんだ、具体的には俺の初デートを成功させるためのプランを一緒に立ててくれ」
和やかな雰囲気でテーブルの上の食事を食べながら談笑する柊姉さんとイッセー先輩だった。
「……やれやれだぜ」
嫌な予感しかない。
「頼む、マジで俺の将来がかかってるんだ!夕麻ちゃんのハートを逃がさないためにも頼む!」
椅子から転げ落ちるような移動を見せながらも俺の前に来て五体倒置を決めてみせたイッセー先輩の変態軌道に、思わずRe:makeを出現させて突っ込んでくる頭を押さえ込みそうになりながらギリギリで抑える。勢いのまま出したRe:makeでは頭を床に陥没させかねない。
「OKです、OKですから落ち着いてください。第一デートって何時ですか」
「日曜日!だから女性目線として柊さん達と女性慣れしてるお前の意見が欲しいんだ、頼むよ!」
「イッセー先輩、頭あげてください。俺は貴方に借りがあるんですよ、返せる機会があるというのに動くのを躊躇うはずないでしょう」
「じょ、譲治!」
「頑張りましょう!」
「まぁ、譲治くんもデートの経験ってなかったと思うんだけど。お付き合いした子っているの?」
「姉さん……それは言わないでくれ」
悲しい現実と向き合っていると、ピンポーンと来訪者を知らせる音色が響く。電流のような閃きが脳裏に白髪の彼女の姿を描き、今のイッセー先輩が合えばどうなるのかを瞬間的にシュミレートし最善を探す。
「ん、小夏さん帰ってきたのかな?ちょうどいいから、小夏さんにも頼んでくる!」
「待ってくれイッセー先輩!俺が対応するから、姉さんともう少しプランを立ててくれ。そのあとに男性目線を含めて話し合いたいし、なによりも時間が惜しいでしょう」
「そうだな、それは確かにそうなんだよ。とりあえず待ち合わせ場所から考えて――」
ぶつぶつ言いながらも再び席に戻っていく彼の姿を見送りながら、走って玄関へと向かう。面倒なことになりそうだ。という予感を抱きながらも、最善手を探して奔走する。
一応、この日塔城のことはイッセー先輩にはバレなかったのだが、根掘り葉掘り姉さん達にはからかわれたというオチだけは着いた。それは確かに、デートの話題があった後に女子のお泊りは……そこまで考えて、過去はどうにもならないのだと判断した。つまりどうにもならないので、俺は考えるのをやめた。
まぁ、何にせよ。月曜が楽しみだ。どんな内容だったのか聞かなくてはいけない。
今回の話は繋ぎですかね。
あぁ、とうとう次回で出せるぞライバル!もう、お前が出したくてしょうがなかったから、今回の話はけっこう乱暴になったじゃないか!
……というか、もうコイツがライバルでいいのだろうか。