ただ記憶のままに   作:空澄みの鵯

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前回出すと行ったから出すとこまで書こうと思った。
無駄に長くなるのを必死に削り、決死で削る。なにこれぇ、もう諦めようぜ。と語る自分に対して、これまでの努力を思うと割り切れない。

そうこうしている内に襲いかかる現実(リアル)の用事。
執筆する余裕も消え、何をするにも時間がない。削る暇すら。

結果がこのザマです。すいませんでした!


再開

たった二泊。されど、昼夜を問わず長く一緒にいれば何となくでも相手の性質というのが見えてくるものだ。

 

塔城小猫は非常に分かりやすい人物だと言えた。名前のとおりというか、なんというか……猫をそのまま人にしたような相手だった。日中、気がついたら日の当たる場所で昼寝をしていたのを見つけたときなど、本当に悪魔なのかを疑うレベルだ。

 

悪魔というのは陽の光に弱いものではないのか、と問いかけたのも無理のない話だと思う。どうやら陽の光に弱いというよりも、『聖なる』ものに対して嫌悪感であったり性質的に合わないというものらしい。どういった定義なのかは分からないので、少し協力してもらった。アクセサリーの十字架でも微妙に嫌悪感があるらしいが流石に割り箸を輪ゴムで留めたものは効果がないようだった。

 

つまり本物ではなくとも、ソレが偶像としての効果が期待できるものもあれば効果の無いものもあるということだ。だから姉さん、別に俺は童心に返って割り箸で遊んでた訳じゃなくて、さらに言えば女の子にソレを向けていじめてた訳でもなくてですね。大事な事だったんですよ、本当に。いや、もしもそれで小猫ちゃんが嫌がったらどうするのかって?それは効果があるってことの証明であって……はい、人の嫌がることはしないようにします。すまん、塔城。いや、許さないって言われても……OKだ、何をさせるつもりかは知らないが大抵の事は請け負う覚悟はある。

 

なんてやり取りが日曜にあったのだが、結局のところ姉さんと塔城の仲は非常に(ディ・モールト)良いと言っていいだろう。ただでさえ自宅において最下位だった自分のヒエラルキーが一つ落ちたくらいなら問題ないと言っていいのだが、幾つか自宅に改造を施されたのは予想外だったと言える。

 

『仲良くする』という条件である以上、お互いにそれがソレに繋がる行為であると思えば許容せざるを得ない。だからこそ、床に魔法陣を刻んで学校へ直行できるようにしたのは許そう。姉さん達のために自宅に簡易とはいえ、魔力によって起動するという結界を張ったのも許容しよう。その効果が物理的な障壁ではなく、呪詛の類を防ぐ程度らしいが非常にありがたい申し出だったと言える。ただそれを施しにきたのが姫島さんで無ければ、それこそ万々歳だったのだが!

 

「どうしました?」

 

朝食を前にぼんやりとしていると、対面するように座っている塔城が小首をかしげていた。仕草といい、小動物のようではあるが食事の量は俺と殆ど変わらない。こと、朝に限っては俺よりも多いくらいだと言っていいだろう。それも活動が昼中心な俺と夜が中心の塔城とでは、エネルギーを使用している時間帯に大きな差があるのだから仕方ないのだろうが。

 

「いや……日曜は疲れたなぁって思ってさ。暇ならイッセー先輩を陰ながらサポートしようと思ってたのに、まさか姫島さんが来るとは思ってなかった」

 

「朱乃先輩はとっても楽しそうでしたけどね」

 

「あれは酷いいじめだ。姉さん相手にどれだけ苦労したことか……ただでさえ、お前のせいで苦労したってのに」

 

「心外です。私はそこまで迷惑をかけた覚えはありません。とても悲しいのでベーコン一枚もらっていきます」

 

「させねぇよ!」

 

右手に箸、左手に茶碗。両手が塞がっているため、反射的にRe:makeを壁のように突き出された箸との間に出現させる。ガギン!と硬質な音を立ててRe:makeに止められる箸だが、音が明らかにおかしいために口元がヒクつく。もしも同じように箸で止めようとすれば逆に砕かれていたかもしれない。

 

「……残念です」

 

「威力おかしいだろ!たかがベーコンのためにどうして皿ごと砕くような勢いで突き出してんだよ!」

 

「ひどく傷ついたので。それこそベーコン一枚で済まそうというのだから、感謝してください」

 

「どこに感謝しろっていうんだ。というよりも、だ。昨日の打ち合わせ内容覚えてるだろうな」

 

勿論です、と断言してからもぐもぐと食事に戻ったのを確認して、死守したベーコンを口にしながら同様にご飯を口へと運ぶ。柊姉は夜勤、逆に小夏姉は夜勤帰りでまだ寝てる。そんなこともあって二人だけの朝食なわけだが、特に話すことがある訳でもなく黙々と時間は過ぎる。話すことは昨日の内に済ませておいたのだから当然ではあるが。

 

「あ、そうだ。空条さん。自宅を出る時間をズラすという話なんですが」

 

「何か問題でもあったか?」

 

甘党な自分ように作ったハチミツ入りココアを手に取ろうとしたところで声をかけられ、反射的に顔を上げてみれば高速でココアひったくった塔城は何食わぬ表情で話し始めた。

 

「私は問題はありません。ですがこういうのって、考えすぎた方が裏目にでませんか?」

 

「……同時に出ても問題ないってか?いやいや、考えすぎとかそういうことじゃなく、『そうなる』可能性がある以上は『そうならない』可能性を選択するべきだろう」

 

「まぁ、当然と言えば当然ですね。あぁ、それと空条さん」

 

「んだよ?」

 

「おかわりください」

 

「食いすぎじゃねぇ!?」

 

「ベーコンを食べなかったのでお腹が空いてしまいました」

 

「理由に無茶ありすぎだろうよ」

 

頭を抱え込みたい気分になりつつ、それでも立ち上がり譲治は茶碗を受け取り炊飯器へと向かう。ぶつくさ言いながらもしっかりとご飯をよそってくれるんだなぁ、なんて思いながら無防備となった彼の皿の上のベーコンへと箸を伸ばし

 

「出来る、と思ったのか?」

 

「……卑怯です、油断させておいてだなんて」

 

皿の影から出現するように現れた陰影すらない真っ黒な両腕が突き出された箸を掴んでいた。ミシリ、と木製の箸が軋む音が聞こえてくる。砕けるというよりも、握力によって握り潰されようとしているようだ。そこまでのパワーがあったとは思ってなかったが、木を砕くくらいなら自分でもできる。故に。

 

「くぅッ?!」

 

譲治が苦しげに声を上げた。拮抗していたはずの箸がゆっくりとベーコンへと近づいていく。信じられないことに彼女の片腕の力はRe:makeの両腕よりもずっと強いということになる。

 

「なんだ!この腕力ッ、女の力じゃあねぇ!」

 

「失礼です、謝罪とベーコンを要求します。それと私の力が強いのは『戦車』だからで、私自身はか弱い女の子です」

 

「なら食い意地は生来かよ、タチ悪ィなおい!」

 

踏ん張る意味もあってその場から動くこともできず、ご飯茶碗を持ったまま炊飯器の前で固まる譲治。無表情で、しかし確実にベーコンへと箸は迫る。何とか顔を動かせば、無表情なのにどうも誇らしげに見える。そっちがその気なら、こっちにだて『対処』する義務がある。

 

「はは、いい度胸だ塔城」

 

Re:makeがその性質を変化させていく。箸を掴んでいる両腕の甲から小さな腕が生えて箸をたどるようにして、彼女の手首を掴み捻りあげようとする。それを止めようともう片方の自由な腕を伸ばすが、両腕が出現していた影から更に追加で腕が生えてきてその腕の動きを相殺する。

 

「むぅ、手ごわい」

 

「ぐぅ、馬鹿力め」

 

ここ数日においての彼らの一般的な食事風景である。手足の如きRe:make。『戦車』としての性能。お互いがお互いの持てる限りの実力を使っての食料の争奪戦。余談ではあるが、この勝負は結局塔城のためにベーコンを追加で焼く、ということで決着となるのだがある意味敗北と言ってもいい結果と言えるだろう。

 

 

 

 

普段と変わらない時間に家を出た譲治は学校に近い時点で言い争っている先輩達の姿を見つけた。騒がしいのは何時も通り……という訳ではなさそうだ。どうも何かがおかしい。イッセー先輩だけが必死に何かを訴えて、松田先輩と元浜先輩がそれを軽く流しているらしい。

 

今まで性癖の差で言い争う姿はあったがこれは違う。意見の相違というよりも、歯車の大きさそのものが違うのに無理矢理当てはめて削れていっているようなズレを感じる。ザザザッと背筋を逆撫でるような違和感と嫌悪感。これに近い感じを以前にも感じたことがあった。忘れようもない、アイツとの出会いだ。

 

恐怖からではなくフツフツと湧き上がる怒涛のような感情に呼応して、溶岩のような熱を孕んだRe:makeを内側に押さえ込みながら空条譲二はゆっくりと彼らに近づいていく。一歩進めば、震える心が静かに澄んでいく。一歩進めば、溶岩は静かに固まっていく。一歩進めば、一歩進めば、一歩進めば。

 

「どしたんすか、先輩方」

 

「じょ、譲治ぃ……お前は覚えてるよな?」

 

既に不安からか泣きそうになっているイッセー先輩の声を聞きながら、どういうことだと松田先輩達へと視線を向ける。爆笑を堪えようとして、ときどきブフォと吹き出している辺りそうとう性格悪いななんて思う。それでも心底から恨めるような人ではないのは知っているのだが、あまり良い行動ではないので苦笑で済ませる。

 

「それがさ、聞いてくれよ譲治。イッセーのやつ、「俺には彼女がいたんだ!知ってるだろ!」だなんて言うんだぜ。おかしくって腹痛いわー」

 

「はげしく同意しよう。ってかよ、お前に彼女が出来ようものなら雨どころか嵐か豪雪か槍が降ってくる。妄想だけが俺等のフェイバリットだろうが!そしてお前が怒鳴るせいでおっぱい拝もうにもおにゃのこが逃げていくだろうが!止めろやテメェ!」

 

逆ギレのように松田が声を荒げると、反射するように一誠が怒鳴り返す。

 

「天野夕麻ちゃんだよ!本当に()()()()()()()!」

 

「「知らんな!」」

 

「あぁああ!!もうどうなってんだよ!譲治は忘れてないよな!」

 

さて、どうするべきか。

 

話を聞きながら恐ろしく冷え切った思考の中で譲治は考える。直感と経験、そして忌々しい『記憶』が絡んだ事件である。妙に連続して最近何かが起きている。やはりアレだろうか。つい最近に悪魔と出会っただけではなく、口を滑らせてアイツの名前を呟いたのがいけなかったのだろうか。仕方ない、と独り言ちながら松田先輩達に顔を向けた。

 

「松田先輩たちは先に学校行っててください。こうして話そうにも話がぐちゃぐちゃになりそうで、まずはイッセー先輩の話から聞いてってことで」

 

「おっけ、おっけ。んじゃ先行ってるぜイッセー。ネボッケーが続きそうならイイブツが手に入ってるから、後で見せてやんよ」

 

「お前らも遅れんなよ?んじゃな」

 

軽快に朝日を浴びながら猥談をして登校していく姿は、何というか塔城とかみたいな悪魔よりも周囲に与える被害が大きいのではないかとすら思う。悪魔よりも悪魔らしい人間。人間よりも人間らしい悪魔。こう称すると、まるでイッセー先輩までもが悪魔の仲間入りをしているかのようで苦笑を浮かべながら彼らを見送る。

 

「ちく……しょう、何なんだよコレ」

 

悔しげにそう呟いて制服にも関わらず地べたに座り込む。頭を抱え込み表情の一切を誰にも見せないように隠した姿は痛々しく、素人目にも精神が摩耗しているのがよくわかった。

 

「イッセー先輩、大丈夫ですか?」

 

「おぅ。大丈夫だ、大丈夫だ……けどさ、譲治も覚えてないのか夕麻ちゃんのこと」

 

「覚えています」

 

「……え?」

 

ハッとしたように、まるで暗闇の中で眩い光を見たように一誠は譲治の方を仰ぎ見る。

 

「覚えています。夕麻さんでしょう?長い黒髪に優しげな目つきで、イッセー先輩の三歩後ろを歩くような大和撫子然とした女性。日曜に彼女とのデートの約束をしていて、金曜に三人でそのプランを練りこんだことも。全部、全部覚えています」

 

「だ、だよな。だよな!居たんだよ、確かに夕麻ちゃんは!」

 

「はい、確かにいました。でも皆が不自然なくらいに『忘れて』いる……イッセー先輩はこういうオカルト初体験ですよね、慌てっぷりからしても」

 

「お、オカルト?まぁ、確かにオカルトっちゃオカルトだけどさ。そんなことよりも夕麻ちゃんだよ!夕麻ちゃんが何処に行ったのか知らないか!」

 

その質問に対して首を横に振ると、項垂れ地面を見つめたまま何かを呟き始める。「大切な彼女だった」とか「大事にしようと思った」とか、そんな言葉が『過去形』で出てくる。

 

決定的な仲違いでもしたのだろうか。

 

それとも何かトラブルにでも夕麻さんが巻き込まれたのか。

 

一番最悪なのはそもそもトラブルの原因が彼女である場合。

 

どれであってもこういう『オカルト』が相手なら『研究』でもしてるような、奇特で奇妙な奇人の集まりに相談するのがベストだろう。問題は、だ。

 

「先輩」

 

「なんだよ……」

 

「こういった『オカルト』を専門にする連中を知っています」

 

「マジか!だったら、だったら相談させてくれ!頼む!」

 

「往来で土下座しないでください!?というかですね、ソイツ等がいるのって学校なんですよ」

 

土下座したイッセー先輩を立ち上がらせて学校に行くように促しながらも、専門家について言葉を継ぎ足して肉付けしていく。

 

曰く、オカルトの専門家。

 

曰く、自らも悪魔であると自称する。

 

曰く、恐ろしく夜目が効く。

 

曰く、そういった事案を解決するスペシャリスト。

 

曰く、この近辺を締める管理者。

 

なにそれこわい。そんなのに相談するのかよ俺……とかボソボソ呟くイッセー先輩には悪いがたぶん出会いさえすれば気にいるんじゃないかな。そんな安易な発想をしながらも、先に思いついていた懸案事項を伝える。

 

「アポはとっておきますが、それは放課後のことになると思います」

 

「お、おう。放課後か」

 

「そればっかりはちょっと仕方ないと諦めて欲しいんですけど、それまで『持ち』ますか?」

 

持つ、が何とは言わなかったが静かに黙り込んだ先輩は幾度か深呼吸を繰り返す。気持ちを落ち着けようとしているのだろうが、上手くいかないのだろう。俺だってRe:makeを押さえ込んでいる身だ。感情のコントロールがどれだけ大変かというのは語るには及ばない。

 

反射的に手が出たというのはよくある話だが、それがスタンドだとシャレにならないことになるのだ。そもそも手足の延長とも言えるスタンドはテメェ自身の意思一つで毒にも薬にもなるような、整合性も合理性も皆無の『もうひとりの自分』なのだ。理屈だけでどうにかなるような人間がいないように、スタンドという自分のもう一つの側面を制御するのはこうした芸当ができないと厳しいものがある。

 

心配なのだ。普通に生きてきた先輩が朝からこんなに憔悴して、それでいて解決策を放課後までお預けされる状態で持つのかが。

 

「『持たせる』」

 

そんな心配など無用だと断言した。

 

「辛いし、意味わかんねぇし、日差し辛いし、怠くてしかねぇけどさ。譲治が……後輩が何とかしてくれる人を教えてくれるって言ってるのに、一人だけグズグズ言ってる訳にはいかないだろ」

 

目に強い意思を宿してイッセー先輩はそう断言した。流石、それでこそです。ニヤリと笑う俺を見て先輩も同じように笑う。

 

「流石です、先輩。伊達と酔狂とエロスで駒王学園に通ってるわけじゃないですね」

 

「伊達と酔狂とエロスって……なんか俺悪い奴みたいじゃないか、それ」

 

「知ってますか。教室でエロ本広げる人に人権ってないらしいですよ?」

 

「誰だそんな終末理論を振りかざす奴!」

 

「クラスの女子です」

 

「……い、いいじゃないか!それくらい!」

 

「R-18に引っかかるのでアウトです」

 

「脳内でくらい俺をリア充にしてくれたっていいじゃないか!」

 

さめざめと泣く先輩の姿に苦笑しつつ、内心で燻っている感情を見事に封じ込めているその姿に敬意を払う。ときどき、この人はこうして格好いいから困る。恨むに恨めず、憎むに憎めず、嫌うに嫌えず、先輩と慕ってしまう。

 

気持ちが軽くなればと思い適当に軽口を言い合いながらも、学園につけば学年が違うので別れることになり玄関先でお互い少しだけ軽口を追加で叩きあい精神のさざめきを抑える。予鈴が鳴るまで続いた行動ではあるが、鳴ってしまえばとうとう別行動を余儀なくされるわけで。

 

「んじゃ、先輩。放課後呼びに行きますけど、頑張ってくださいね」

 

「おう、任せろって。譲治こそアポ失敗しないでくれよ?」

 

「それこそ任せてください」

 

そう言ってそれぞれの教室へと移動する先輩の背中を見ていると、気が緩んだのか押さえつけていた感情の一部が露呈する。蛹から孵化するように、蛇が脱皮するように、俺の背中から俺という皮を脱ぎ捨てるようにのっぺりとした黒い人型が出現する。

 

声帯の存在しないRe:makeは決して喋ることはないが、その拳はぶるぶると震えていて人型として出現したにも関わらず時々表面が波打っていた。俺の感情に引きづられているのだろう。圧倒的な負荷として掛かる『忘却』というストレスが俺の中の冷え切った溶岩を再び加熱していく。

 

「ふっ――ざけ、やがって。ふざけやがって……」

 

怒鳴り散らしたい衝動だけはなんとか押さえ込むものの、ぶるぶると震える拳と嚇々とした溶岩の如き怒りが内側から俺を焼き焦がす。許さん、決して許さん。土下座しようと、足を舐めようと、全裸で謝罪しようと、腹を切ろうと、絶対に絶対に許さん。犯人は喉笛と腸を引き釣り出して殺してやる。

 

空条譲治は腹に据えかねる怒りの炎を宿し、瞳に漆黒の炎を灯した。本当に放課後まで『持つ』のか心配されるべきは、はたしてどちらだったのか。教室へと歩みを進める一歩、一歩、一歩。その一歩毎に少しずつ自分に箍をはめて何時も通りの空条譲治を成形していく。

 

今はこの怒りも何もかも『無駄』なのだ。

 

扱い様のない感情は『無駄』だ。だが、これは覚えておくべき屈辱であり、ぬぐい去るべき侮辱だ。故に自分に箍をはめて怒りも何もかもを残して、『空条譲治』を成形しなおす。いずれこの炎で焼くべき相手が現れるまで、内心で燻っているがいい。決して『無駄』にはしない。

 

箍を外すときこそ、炎の如く飲み込み殺してやる。

 

 

 

 

善は急げと言わんばかりに一時間目終了と同時に、教室を出て塔城とは連絡を取る。テンポよく話は進み、昼休みにはグレモリーとの連絡が付き、放課後には時間が取れるという言質も取った。

 

かくして放課後に旧校舎へと向かうわけだが、どうもイッセー先輩の様子がおかしい。しきりに周囲を見回し、それでも納得できないのか唸るというのを繰り返しているのだ。

 

「どうしました?」

 

「……譲治、変なこと聞くようだけどさ」

 

「はい?」

 

「この旧校舎のなかって暗いよな?」

 

「まぁ、明るいとは言えませんかね。もう少し……そうですね、一時間もすれば本当に真っ暗で何も見えなくなるんじゃないですか」

 

経験談なのだが、あの時の時刻を測ったわけでもないので適当に答えておく。むぅ、と唸りながらもイッセー先輩は再び周囲を見回す作業に戻った。その足取りは危なげなく、譲治の様にRe:makeで廊下の形を把握しているわけではないはずなのだが心配する必要はなさそうだった。

 

夜目が利くのか。と思うと同時に、この人が夜目が利くとなると犯罪臭がするな。なんて結構ひどい評価をしていると、目的地の前にたどり着く。

 

「ここが?」

 

「そうです」

 

「オカルト……研究部?うっさんくせぇ……マジでここなのか」

 

「ぶっちゃけた話。プロってレベルじゃないので安心してください」

 

そう言いながらノックをすれば、はいと声が返ってくる。

 

「覚悟はいいですか?」

 

「おう、問題ないぜ」

 

にぃっと笑う姿を瞳に収めながらドアを開けば、魔法陣やら騎士甲冑やらゴテゴテとしたものが並ぶ室内が覗き隣で先輩が絶句しているのが見なくてもわかる。

 

「よく来たね、歓迎するよ」

 

「どうも木場先輩。この人が兵藤一誠先輩で、今回は先輩の問題の解決を手伝ってもらおうと思いきました」

 

「よろしくね一誠くん。僕は木場裕斗っていうんだ」

 

爽やかに挨拶しながら、何の違和感も持たせずに手を相手に差し出す。初対面の挨拶でナチュラルに手を差し出せる男子高校生を俺はこの人しかしらない。

 

あまりに自然に手を出されたからか、固まるイッセー先輩を軽くつついてやるとハッとしたようにその手を握り返す。その瞬間、ふわり、もしくはキラリと木場先輩の笑顔が強調されイッセー先輩が一歩後ろに退いた。

 

「どう、も。兵藤一誠です」

 

三馬鹿で固まっているときは『あの腐れイケメンが!』『イケメンがイケメンすぎてイケメン!』『イケメンなんて尻穴掘られてしま……おぉうぇ、想像しちまった』とか、ボロクソ言ってたのだが王子様のオーラ(ここは王の御膳である)と言わんばかりの雰囲気に圧倒されている。

 

「グレモリーも姫島さんもいないんだな」

 

「部長と姫島さんは今シャワー浴びてるから」

 

「シャワー!?それにグレモリーと姫島ってあのお姉さまの!?」

 

「う、うん。たぶん間違ってないんじゃないかな」

 

エロスへの想いでオーラを吹き飛ばしたか、流石先輩ブレない姿勢は尊敬します。一人でヒャッホォーとか叫んでる先輩には悪いが、そろそろ俺の用事も済ませておきたい。

 

「木場先輩」

 

「なんだい?」

 

「塔城から聴いてるとは思いますが、今回の件ってのは『イッセー先輩の記憶』についてです。塔城にも聞きましたけど念のため聞かせてもらいます。『悪魔』はこの件に関わってないんですよね?」

 

「断言してもいいよ。……とは言っても、僕の言葉だけじゃなくグレモリーとして断言してくれていいとの部長からのお達しも受けてる。間違いなく僕らグレモリー眷属はこの件に関してノータッチだ」

 

瞳を覗く。自身に重ねる形でRe:makeを展開し、瞳孔の収縮から発汗の有無や呼吸の乱れなど観察するべき点は多い。五秒もなかったと思うが、木場先輩は揺るがなかった。

 

「Good……良い目だ、アンタを信じよう」

 

「それはよかった」

 

それだけ聞ければ十分だ。つまりそういうことなのだろう。

 

まだこの街にいるかも知れないのだろう、殺しても殺したりないような輩が。

 

「じょ、譲治!」

 

「なんですか」

 

部室を出ようとするとイッセー先輩に声を掛けられたので振り返る。目が合ったとき何故か彼はふらついたように後退したが、そんな些細なことを気にするだけの余裕が今の俺にはない。死ぬ気で探さないといけない相手がいる。殺す気で立ち向かわなけばいけない相手がいる。

 

「用がないなら、行きます」

 

「残念、用ならあるのよね。ようこそ二人共、オカルト研究部へ。譲治は二度目だけど、貴方は初めてよね。私の名前はリアス・グレモリー、一応ここの部長をやらせてもらってるわ」

 

「お、俺の名前は兵藤一誠といいます!」

 

「……イッセー先輩、とりあえずこれどうぞ。使わないとそろそろ死にそうですよ?」

 

ポケットティッシュを取り出し彼に渡す。止まらないとかそういうレベルじゃなくて、蛇口をひねったようにボタボタと止めどなく流れるそれは既に鼻血というより出血。確かにうら若い乙女がバスタオル一枚でいれば、普通そうなのかもしれないが……小夏姉がだいたいこんな感じだしなぁ。

 

「あらあら、大丈夫かしら?」

 

声と共に誰かに背後から抱きしめられていた。柔らかく暖かく、それでいて非常に落ち着くソレが経験から胸なのだと気づいてしまう辺り、姉さん達に無駄に経験を積まされていると思わざるを得ない。――というか、そんなのんきなことを考えている場合じゃない。

 

「出たな天敵」

 

「悪いこという口はこれかしら?」

 

グニグニと頬をいじる相手――姫島朱乃が接触する背中との間にRe:makeを出現させて引き剥がしながら、ため息混じりにグレモリーへと視線を向ける。視線に気づいたのか「ふふん、どうかしら?」と言わんばかりに胸を張るグレモリーは確かに魅力的だが、まぁ人間らしい悪意をぶつけてやろう。

 

相手に見えない位置で先ほど出現させたRe:makeを使ってスマホのカメラを起動。そして皇帝の銃士(ホルホース)のような早打ちでカメラを正面に構え激写。パシャリ、という音と共に空気が死んだ。自分でやるよりも圧倒的に早くRe:makeが画像の保存から自宅PCへとデータ転送を済ませる。

 

「弱みゲット」

 

死んだ空気の中でも、空気がある以上声はよく響く。

 

「なななん……なにするのよぉおおおおお!」

 

「はは、グレモリーも焦るんだな。いやなに、悪用はしないさ。しかし『銃は剣よりも強し』とは確かに名言だが、元々の意味である『ペンは剣よりも強し』ってのはこういう状況から生まれるたのかもしれないな。あ、イッセー先輩買います?」

 

何を、とは聞かないけれど。

 

「五万でどうだ!?」

 

そういう脊髄反射で受け答えするところ大好きです。

 

「さてと。グレモリー交渉といこう。俺はこれから『記憶』を弄んだ屑を探しに行くわけだが、現状でわかってる限りで良いんだが情報提供を頼んでもいいかな」

 

「この流れだとそれは脅迫というのよ卑怯者」

 

「黙れ痴女。対して仲良くもない相手の前にそんな格好で出てくるほうが悪い」

 

「……その理屈だと貴方のお姉さんも」

 

「塔城も黙れ。お前の主の醜態が世界に拡散されるかの危機だと思え。というか、姉さんは昔からそうではあるが、流石に男の前でまでそういう格好はしない。バカにすんな」

 

「ブレませんね、流石です」

 

そのセリフちょっと前にイッセー先輩に俺が思ったことなんだが……深く考えるのはやめよう。

 

「ほら、早く決めるといい。イッセー先輩に話もしてもらいたいし、それほど時間に余裕があるわけじゃないだろう?」

 

「貴方……本当に私たちと仲良くする気あるの?」

 

「当然。だから姫島さんを突き飛ばさなかったし、木場に今回の事を聞いて納得もしている。充分に友好的じゃないか。写真は人間らしい悪意というやつだ」

 

「悪意あるじゃない!」

 

「悪魔みたいに魂を奪ったりしてないが」

 

「はは、悪魔でもそういうことをするのは少ないですよ」

 

木場が苦笑交じりに否定の言葉を入れてくるが、どうだろうなと笑みを浮かべる。こっちでいう悪魔の伝承はあまり頼りにしない方がいいとは小猫から聞いているのだが、不死鳥(フェニックス)吸血鬼(ヴァンパイア)などの種族的特性は割とあっているそうだ。

 

そうなると魂の契約というのも無い訳ではないと考えてもおかしくないだろう。

 

例えば、悪魔すら騙し居場所を失ったジャックオランタン。悪魔と契約しその知識を得たファウスト博士。

 

お前らがやってなくても、悪魔がやってないという訳ではないのだろう。実際に『少ない』だなんて言質までとれたしまった。

 

「まぁ、とにかく。イッセー先輩に何があったかってのは、俺にはちょっと考えが及ばないので『分かっている問題』の方を片付けに行きたいと思います。別に特別なことする訳でもなく、今日のところは現場見てくるだけですけど」

 

「……止めるだけ無駄のようだし、行ってもいいわよ。ただし、小猫を連れて行きなさい。それが条件」

 

「OKです。んじゃ、行こうぜ」

 

そのくらいの条件なら安いものと、塔城へと軽く目配せをしてから部室を出る。背後から「俺を置いていくのか譲治ィーーーー!?」と叫び声が聞こえてきたけれど、聞こえない聞こえない。というよりも、詳細を聞いていたら流石に俺が耐えられなくなりそうだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「どっか駄目そうに見える?」

 

そう問い返すと、塔城は少し考え込むように顎に手を当てる。数秒の後、言葉を吟味し終わったのか口を開く。

 

「さっきからですけど、ざわざわしてます。気づいてましたか……全身からときどき真っ黒な何かが染み出るようになっているって。たぶん能力なんでしょうけど、ちょっと暴走気味ですよね」

 

「……自分では完全に押さえ込んだつもりだったんだけど出てた?」

 

「出てました」

 

「あー、なんだ。わりぃ、自分でもわかってんだけど、限界が近い。ストレスで多少感じ悪いだろうけど、今は我慢してくれとしか言い様がない」

 

旧校舎から外に出てそのまま校門へと向かう。

 

既に帰宅してる生徒が大半で、残っているのは部活をしている連中だろう。ランニング中の生徒達からは珍しい組み合わせを見たと言わんばかりにジッと見られたが、それを気にするような性格でもない。校門を出てとりあえず迷わずある地点を目指して歩き出す。

 

「どこに行くつもりですか?」

 

「近くの公園。今朝先輩から聞いた限りだとそこが一番怪しい」

 

歩き進めていき公園が近づくにつれて内側に秘めていたRe:makeが暴れだす。いや、感情の抑えが効き辛くなっているから、スタンドがそれに同調しているというべきだろう。思考は存外クールだというのに、思いだけが空回りし続けて熱を持つ。

 

ズルリ、と意識しないままにRe:makeが背後に出現する。感情の熱を孕んだままのRe:makeが外に出たことによって、一瞬清涼感のある空気が全身を包んだような気すらしたが、それは気のせいでしかない。原因を突き止めない限り内燃する憤りは決して途絶えることはないのだ。

 

公園に辿り着く頃には黄昏時も終わる頃合になっていた。少しずつ宵闇が緋色の空を蝕んでいき、誰しもが恐れを抱いた夜の時間が来るだろう。

 

人気のない公園は静かで、無駄口を聞く余裕のない俺と無口な塔城ではその静寂を破るだけの力はなかった。故に響いたその音色に、俺はどんな表情を浮かべたのだろうか。

 

一瞬視界に入った塔城は目を見開いていたが、そんなこと些事など気にするに値しない。何しろ些事とはそのまま、どうでもいいことだから些事というのだ。そう認識した時点で、どうでもいいのだと断言しよう。

 

あぁ、そうだ。今の問題は耳障りな羽音だ。

 

バサバサと静寂を破るその音は背後から聞こえてきた。暴走し出現させていたRe:makeによって対象の姿は認識していたし、誰だかも分かっていたがそれでも振り向かずにはいられない。

 

振り返る。相手は丁度足を地面へとつけたところだった。

 

初邂逅時と変わらない黒いスーツ姿にどこかふてぶてしい表情。背から伸びる黒翼が一度大きく羽ばたき、烏羽色の羽を無造作に周囲へとばらまく。ズレた帽子を右手で軽く直しながらも、こちらへと視線を外さない男の名前を俺は知っていた。

 

忘れようもない名前だった。

 

『記憶』に焼き付いた姿だった。

 

「どうも悪魔の『匂い』がするものだから、邪魔されては何だと見にきてみれば……ふむ、久しぶりだなどと言おうとは思わん。何故貴様が悪魔と共に居るのだとも問わん。ただ敢えて言うならばその『覚悟』が変わっていないようで何よりだ空条譲治。それは――――良い殺意だぞ」

 

「なら代わりに俺が言おう。久しぶりだな、悪魔と共にいるのは利害の一致だ。そして過去の焼き回しになるが敢えて言おう。『『記憶』を侮辱したときは再び殺しにいくぞ』――――そう言った俺の前にノコノコと現れやがって、『覚悟』は良いか、俺はできてるぞ」

 

七年という月日を超えて再び出会った男の名前を怒りのままに、吐き捨てるように叫ぶ。

 

「お前はどうだ、ドーナシーク!!」

 

黒翼の男は、ドーナシークはその言葉に口の端を持ち上げ、蒼く輝く槍を生み出すことで返答とする。

 

黄昏が蝕まれ、宵闇が空を覆う中。片方は怒りのままに、片方は笑みを携えて一撃を振るい――――静寂が破られる。




ちなみに時間からさっしたかもしれないけど、書き終えてすぐに投稿しているので後で修正するかも。……というか、たぶん修正するとことがあるはず。

でも今は眠いのでおやすみ。
楽しんでくれればさいわいだ……ぐふぅ
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