ただ記憶のままに   作:空澄みの鵯

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軽く欝になることが多くて遅くなった。
うん、語れば愚痴で本編より長くなりそうだからカットするね。

そしてどうしようか、本気で主人公が入れ替わりそうになってるんだが……ってか、コイツまじでどうするんだよ。と自問しつつ、どれだけ書いてもだいたい同じ感じになったのでコレでどうでしょう?


宿命の相手

外野が思っている以上に空条譲治は理性的(クール)な思考回路を保持していた。

 

怒りがそのまま身を焼く痛みに変わるほどの激情に焦がされながらも、思考の一端は客観視しようとする自分が見つめているのだ。だが、止まらない。見つめるばかりで怒りを止めようとはしない。

 

進め、止まるな、ぶっ殺せ!

 

胸の内で炎がうねる度に耳朶を打つ、その叫びが心地よい。冷静な部分ですら熱に浮かされたかのように動きを止めるくらいには、その想いの流れに乗るのは気分が最高(ハイ)って奴になる。冷静なのは、勘違いなのかもしれない。そう思う余裕すら可笑しくて仕方ないのに、拳に乗ったのは怒りばかりだ。

 

振り抜かれた宵闇に溶けるような漆黒の拳と空の青よりも蒼く輝く槍の一閃が、ぶつかり合い生まれた重い音が静寂を破り捨てた。

 

双方の表情は対になるかのように渋面と微笑。拳に伝わる衝撃は重く、鈍く、響く。Re:makeを通して全身が叫び声を上げようとする。

 

怒りに焼かれる部分が吠える――よくも防いだな!

 

冷静に熱に浮かされる部分が笑う――やはり防いだな!

 

背叛する感情の間で言葉に出来たのは、

 

「流石ッ!だが許さん!」

 

度し難いほどに、言葉足らずではあった。

 

「元より許されるつもりもない!」

 

だが、通じたらしい。通じてしまうらしい。正しくはないかもしれないが、何かしら思うことがあったのだろう。お互いが一撃の反動を利用して再び距離をとる。弾かれ地面に足を着く譲治と、そのままふわりと飛行するドーナシーク。譲治の目の前でRe:makeが両腕を後方へと引き絞るように腰だめに構えると同時に、思い切り譲治は相手の間合いへと踏み込む。

 

今にも哄笑でも上げそうなほどに凶悪な表情を浮かべたドーナシークの蒼く輝く一閃が躊躇いなく譲治の首へと煌き、Re:makeの左拳が刃ではなく刀身を打ち抜く形で弾き自分への進路からズラす。槍は弾かれ進路を変えたが、ドーナシークは弾かれた槍の衝撃に怯むことなく、それどころか指先でペン回しのように槍を回転させながら衝撃を殺し肘を曲げて懐へと槍を引き寄せ一瞬で構え直す。

 

Re:makeは引き絞られた右拳をドーナシークへと突き出し、ドーナシークは構え直した槍をそのまま突き出す。

 

再びの衝撃。されど今度はお互いにソレを利用して離れるでもなく、それどころがその場で踏ん張りながら衝撃を利用してRe:makeは全身を捻り次の一撃の準備を整え、ドーナシークも鏡写しのように次の一撃への準備を整えていた。

 

互いに笑う。

 

笑みの気質は違う。ドーナシークはともかくとして、譲治に至っては獣のように歯をむき出しにして目尻を釣り上げ爛々と瞳に黒い炎を灯している。されど、その光景を見た小猫はどうしてかソレが笑っているように見えたのだ。どうかしている。だが、笑っているのだと思わされる。

 

それほど彼らの一撃には躊躇いがなく、友人同士の語り合いにさえも思えるような気兼ねなさを覚えたのだ。

 

「ォオラァッ!」

 

「無駄ァッ!」

 

宙に浮かぶドーナシークが一撃の衝撃から弾かれぬように翼を大きくはためかせ、黒い羽が舞い散る中で再びぶつかりあった衝撃を先ほどの焼き回しのように次の一撃への布石とする両者は目で言葉を交わす。衝撃でいささか歪んだ拳をRe:make(硬化)させながら強く踏ん張る譲治。空中で弾かれるように体制を整え、さらには光力を槍へと込め輝きを増しながら構えたドーナシーク。

 

『いくぜ、ラッシュの』

 

『速さくらべ、というやつだな』

 

通じ合った。

 

互いにそう感じ取った瞬間、Re:makeは下半身を杭へと変化させ地面へと打ち込み不退転を示し、ドーナシークは魔力を過分に充足させた翼をはためかせ空間をしたたかに打ち付け迎撃の音をならす。

 

殺意と歓喜に染まったラッシュの速さ比べ。それは目で通じ合い、行動で示し合い、そして拳と槍によって開幕された。

 

「ォォオオオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァッ!!」

 

「無ゥ駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――無駄ァッ!!」

 

威力も硬度も不足なのか、一撃を加える度に砕けそうになるRe:makeの拳。だが、ぶつかりあった反動を利用し拳を引いた瞬間には再構成を開始し、もう片方の拳が衝撃で引かれた時には全力の一撃が叩き込まれ再び砕けるのを繰り返す。

 

押しきれないならばと出力不足を解消すべく、一撃を加える度に次の一撃の前に光力を注ぎ直し万全を再構成するドーナシーク。下手に注いでしまった場合、光力自体が手元で炸裂しかねないというのに焦った表情は全く見られない。幾度となく、それこそ呼吸と同じような気軽さでやってのけていた。

 

化物め。そう罵ってやりたくなるが、それ以上に腑に落ちない点がある。ラッシュに集中しているせいで、思考が普段よりも鈍く答えに行き着くには随分と時間がかかりそうである。

 

ジャリッと足元が僅かにぐらついた。瞬間ただでさえ鋭かった一撃が針の穴を通すような精密さを伴って突き出されるが、鋭すぎる一撃は側面から叩くことさえ出来れば下手な一撃よりもさばき易い。

 

どうやら少し後方へと押しやられたようだ。滑った理由はこれで間違いない。地面に撃ち込んだ杭ごと後退させられているようだが、相手とて空中では踏ん張りが効かないのだろう。幾度となく翼をはためかせ衝撃によって下がる体を無理矢理に前に押し出してきている。

 

引けぬ自分と進むドーナシークとでこうして差(油断ならない隙)が生まれたのか。

 

ならば。

 

地面に撃ち込んだ杭を再構成し、杭の途中からもう一本の杭を作成し刺した杭よりもさらに後ろに突き刺す。そしてそのままゆっくりと長く再構成し続けることで、スタンドごと体を前に前にと進める。

 

「引かぬか譲治ィ!」

 

咆哮。同時に両手に空よりも蒼い槍が出現し、肘までを埋めるほどに煌々と輝きを増していく。

 

「押し通す!」

 

咆哮。同時に前へと進む杭を植物の根のように張り巡らせ、何からも逃げられない状態へと移行する。

 

十分どころか五分も経過してないこのタイミングでお互いが必殺を狙っていると直感で理解し、躱すでもなく受け止めるでもなく真っ向から潰してやるとお互いに吼えて構える。

 

何がそう狂わせるのか。それすらも思考の外のままお互いは瞬きするよりも当然のように、両腕と二槍はぶつかった。

 

「うぉあ!?」

 

「ぐぅ!?」

 

植物のように根を張ったためか、そのまま地面ごと後方へと吹き飛ばされるスタンド(Re:make)。真っ向から迎え撃った衝撃が強すぎてスタンドに引っ張られ、吹き飛んだ譲治は受身も取れずにそのまま地面を転がった。それでも反射的に転がる体にスタンドを重ねることで外見上では怪我は見受けれられない。

 

「イッテェな畜生!」

 

抜きたての雑草の根に付いている土のように足先に付いている地面を、Re:makeの形状をデフォルトに変更することで落としてから再び形状を変更し自分の前に盾として再構成する。盾の後ろにいる自分には真っ黒な壁しか見えていないが、盾のとして構成したRe:makeの視界には真っ青な点が――――衝撃。

 

盾として構成したRe:makeごと更に後方へと吹き飛ばされる。吹き飛ばされながら足で地面を蹴り体を回転させ、滑りながら立ち上がる。ボロボロになった上着が邪魔で引きちぎるように脱ぎ、そのまま真横へと跳べば再びの閃光が真横を駆け抜けた。

 

「ふぅん、流石にそう簡単には仕留められないか。それでこそ、だ」

 

「上から目線か。そういうとこは変わらないな……自惚れんなよ?」

 

喋り始めた瞬間に隙有りと判断し、空気を震わせないように気を付けながら接近させておいたRe:makeは既に拳を振り被りドーナシークを射程圏内へと収めていた。ドーナシークが拳から発せられる風を唸りを聞くよりも先に、その顔面を凹ましてやる。

 

チリッ。

 

思考回路にノイズ。

 

セーターに溜まった静電気程度の違和感。普段ならば気にもとめないような、気にするだけ無駄なジャンクのような情報。だが、ここぞという場面でこういうった『勘』というのは理屈すら凌駕し現実の先を伝えてくれる。それこそ未来視にも近い。

 

加速された思考の中でそこまで考えながら、同時に別の思考回路が開いている。現実逃避気味に情報を整理している自分と、Re:makeの視界が捉えたドーナシークの不敵な笑みから考えられる次の行動パターンについての考察。

 

 

――――一瞬、白い男が笑って見えた。

 

 

幾つもの違和感が点となって脳内に浮かび上がり、静電気程度だった電気はスパークし点と点を電光石火の如くつなぎ合わせ一つの『真実』を浮き彫りにする。それは信じられないことでありながら、つい最近にも経験した非常識の一端。

 

()った」

 

そうドーナシークが呟くよりも先に拳を突き出す。射程圏内ギリギリ。確実を狙うのならもう少し近づいておきたい。その為にはコンマ数秒待てばよかった。だが、そのコンマ数秒が自信の命運を分けた。

 

蒼く輝く槍の柄から伸びる矛先が『黄金』に輝きながらRe:makeの心臓目掛けて奔るのを、触れた刹那で弾くことに成功する。ほぼ真横へと振り抜いた拳の勢いを使い、駒の様に回転し踏み込み裏拳をドーナシークへと叩きつけようとするが数歩後ろに下がることで回避された。

 

本の一瞬触れた矛先に込められた殺意が心臓を煩く震わせる。右手で胸元を押さえればジクジクとした痛みと、鼓動に合わせて掌を濡らす鮮血の暖かさ。死にかけた。だが、生きている。荒くなった呼吸を整えながら、たどり着いた真実に『納得』した。

 

「惜しかった……今のようなチャンスは恐らくないだろう。しかし、油断していたようだな空条譲治」

 

「驚いた。驚かされた。驚くハメになるとは思わなかった。だが、俺も『理解』したぞドーナシーク」

 

驚愕している。内心の動揺は凄まじいものだし、表情も隠そうとは努力しているが隠しきれてはいないだろう。

 

「貴様、見ているな!」

 

表情を隠すために口元に手を当てながら、血にまみれたもう一方の手を相手に向けて突きつける。奇しくもその姿はあの有名なDIOの後ろ姿に似てはいるが、その実は真逆である。圧倒的優位であることを指し示したDIOに対して、不利な状況であると認識した俺。なんて皮肉だ。

 

俺の言葉に不敵に、それでいて嬉々とした表情を隠しもせずドーナシークは笑う。

 

「応とも。見えている、見えているぞ!貴様のその傍らに佇む影を!以前は鮮血に染め上げられた紅の人影(スカーレット)だったが……ククク。クハハハ!」

 

一頻り笑ってから、獰猛な笑みを浮かべたまま宣言する。

 

「見えないというのは恐ろしい。だからこそ俺は捨てたぞ。多くを捨てたからこそ、多くを得て此処にある。しかし、人の技術も馬鹿に出来ないものだな」

 

「技術?」

 

「俺にこの技術を教えた人間は『仙道』と言っていたな。別の呼び方もあるそうだが……まぁ良い。これは人が人のまま人の限界を超える技術らしいぞ?師父と言える人物は基本骨子を伝えるだけ伝えて何処か行ってしまったが、それでもこうして『見える』のだから彼には感謝の念が絶えない」

 

「『波紋』の技術……か」

 

俺の言葉に一層笑みを深くする。

 

「やはり知っていたか。天使達の神への信仰による『聖なる力』とは別の『聖なる力』だ。既に見限った神への信仰とは比べるべくもないほどに気に入っている。この『黄金』の輝きは太陽の輝き。太陽と同じ性質を持ち波長を放つ……クハハ、火をもたらしたアポロンすら霞む大罪ではないか。素敵だろう、空条譲治?」

 

「やかましい。アドバンテージ取ったつもりかもしれないが、それは元々俺にあっただけの話だろう。ようやく同じ土俵に立ったくらいで喋り続けやがって、余裕のつもりかもしれないが――――それならそれで、ヤリようがある」

 

目の前の空間をなぎ払うように右腕を凪ぐと、指先に連動するようにRe:makeはその体を流体として伸びてゆく。譲治を中心として出来上がったのは、白く輝く単眼を持つ漆黒の蛇。ジャリジャリと音を立てながら地面に体をこすりつけながらとぐろを巻いて譲治の頭の上で牙をむけば闇より深い口腔だけが覗く。

 

「見えるようになったことを後悔するなよドーナシーク。見えないならお前の想像(最悪のヴィジョン)が化物になって食い散らかし、見えるのなら現実の幻想が牙を剥くのが俺のスタンドだ」

 

漆黒の蛇が唐突にその尾をドーナシークへと振り抜いた。ただの尾であったはずのソレが振り抜かれる最中で鎌へと変化し、再構成(鋼鉄化)された尾は重みを増し信じられない勢いでドーナシークへと迫る。

 

ドーナシークは冷静にそれを宙に浮くことで回避するも、視界の端で振り抜かれた鎌が再構成され蛇の頭部になっていることに気づき反射的に槍を投げる。見事頭部に命中しそのまま地面に串刺しにされたものの、振り抜いた姿勢の視界の端に再び蛇の頭部が映った。

 

「チィッ!」

 

反射的に舌打ちするも、長年の修行の果てに身につけた呼吸によって流れるように波紋を指先へと集中させその頭部を粉砕した――――が、その手応えの無さに違和感を覚えた。軽い。綿菓子かスナックのような砕けて当然の感触だけが指先から伝わってくる。

 

「ブラフか!」

 

気づき叫ぶも、

 

「その通りだ」

 

再構成(Re:make)する方が圧倒的に速い。砕いた頭部をそのまま飲み込むように胴体から頭部が再構成され、そのままドーナシークの肘までを飲み込み牙を立てる。肉に牙がくい込む鈍い音とともに、漆黒に着色するように赤い液体が蛇の口の端からだらりと流れ落ちる。

 

「ぐ……貴様のソレはやはり面倒な能力だな」

 

「見えてないなら聴覚にまで集中していただろうに、単眼蛇の頭部、鎌の尾……外見が特徴的だと()()()()だろ。わからない何かよりも、目に見える何かってのは視覚情報としてお前を刺激するからな」

 

「……確かにな。だが、貴様とて忘れているのではないか。そもそも俺とお前では体のスペックが違うということを」

 

蛇の頭蓋を内側から槍が突き出し、そのまま引き裂かれる。スタンドが一部とは言え引き裂かれたことにより、フィードバックによって譲治の手の甲から血が垂れるが極めて少量。噛み付くための部位以外にはそれほど密度を込めてなかったのが幸いした。

 

「人間が致命傷を負うとしても、堕天使ならば軽傷で済む。それほど俺たちでは隔絶された差があるのだ。土で出来た人間と火で出来た天使では、そもそもの土台が違う」

 

出血しているというのに槍を握る手に震えはない。握力は多少落とせたかもしれないが波紋には癒しの力もある。しばらく経てば傷そのものがなかったことになるだろう。

 

「肉体的に上位だとでも?なら俺の能力は槍なんて固定されたお前の能力よりも、ずっとずっと万能だよ」

 

「だが貧弱だろうが。簡単に砕けてしまうから歯ごたえもない」

 

「はっはっは」

 

「クハハハハ」

 

「――堕とす」

 

「――潰す」

 

蛇は地面を砕かんばかりに体を擦りつけながら地面を這い回り砂埃を起こし、上半身に新たに生み出された翼によって巻き起こした砂埃は砂嵐としてドーナシークへと吹き荒れる。一秒でも遅ければ創り出されていた槍が譲治に投擲されていただろう。数瞬の差。だが、譲治は笑い、ドーナシークは顔をしかめた。

 

波紋を練るのを邪魔するつもりか。

 

呼吸によって太陽の波長を生み出される。それは呼吸を封じ込めれば波紋を扱えないということにほかならない。この技術についても知っている譲治だからこその対処法。この状態で深く呼吸し砂を吸えば情けなく咳き込み、最悪それが致命的な隙になりかねない。

 

だからこそ『吸った』。

 

相手がそれを狙っているのだとわかっているからでこそ、その考えを真っ向から叩き潰す。

 

自信の漆黒の翼に既に練りこんであった波紋を流す。波紋は太陽の波長を持ちながら、その性質は水に近しい。掌全体から放出するよりも、指先一点に絞って使う方が勢いも強くなる。故にドーナシークは翼全体ではなく、羽の先から放出する。流石に全ての羽に流せるだけの集中力も精神力もないが、末端中域根元。そんな風に場所分けして使えばいい。

 

大きく羽ばたくことで生まれる突風は波紋の波動を受けて、黄金に輝く暴風と成って砂嵐を迎え撃つ。ゴォオオオオオ!と凄まじい唸り声を上げながら激突する突風のなか、ほんの数秒足らずとはいえ用意された空間のなかでドーナシークは大きく深く呼吸を繰り返す。

 

全身を満たす波紋の奔流。それを両腕で掴む槍の矛先へと移し戦闘の準備を十全以上に整えた時。

 

巨大な黒い闇が壁となって迫ってきていた。

 

準備するだけ時間を稼いだ黄金の風がの絶えた後、現れるのは砂嵐のはずだった。少なくともドーナシークはそう相手の考えを読みそのつもりで準備していた。にも関わらず、やってきたのは黒い壁。思考するよりも先に気づく。これはRe:make。やつのスタンドである、と。

 

「だが無駄だァ!」

 

矛先が黄金に輝く槍は投擲された。蒼い本来の槍の軌跡を描きながら黒い壁を一瞬で突き破る。黒い壁は崩れ落ち、ひらひらと揺れながら地面へとむかう。僅かばかりも勢いの殺されなかった槍は姿を見失う前に確かに譲治が居た場所へと強襲する。

 

ドーナシークとてこの一撃が当たるとは思っていない。この一撃は壁を崩すことのほかに、矛先に溜め込んだ波紋によって着弾した地面を砕き周囲へと礫を炸裂させることにあった。当たればよし、隙が出来ればよし、動揺してくれれば殊更よし。次の瞬間には決着となる。

 

ひらひらと揺れた壁が地面に落ちきる。幾重にも重なったそれはまるで布のようで――――いや、布だ。あれは布だ。壁として向かってきた漆黒のソレは着弾した時には既に布になっていたのだ。光に照らされたとしても、それすら飲み込むような漆黒の人影。それがRe:makeをみたドーナシークの感想だった。

 

蛇と化し鎌と成り翼が生え、それでも尚黒いまま。ただ一箇所だけが白く輝くその姿を見ていたにも関わらず、何にでも再構成されるのだと知っていたというのに。目で見た瞬間に感じた『壁』のイメージで対処していたことに、ここにきて漸くドーナシークは気づかされた。

 

目を見開き視野を広げる。

 

白い単眼の蛇が足元で大口を開けて迫ってきていた。口内にあるのは牙ではなく刃。一本一本が丁寧なことに捕食するための生物の牙ではなく、殺傷するための殺意の刃に変わっている。

 

だが、まだ間に合う。

 

ドーナシークはもう一本の槍を順手に持ち、真下へと突き出す。姿勢が多少崩れる程度で威力が下がるような、無様を晒すような特訓はしてきたつもりはない。白く輝く単眼へと突き出された一撃は、蛇がギリギリで反れたことで口を大きく引き割くだけで終わる。

 

終わった、はずだった。

 

しかし、良い意味でも悪い意味でも空条譲治とドーナシークは似通っていた。

 

『これで終わるはずなかろうが、空条譲治ともあろう男が』

 

終わったと思った思考回路に割り込んだその雑音(ノイズ)がドーナシークに前を向かせた。黒い布が回転しながら自らへと迫ってきていた。ドリルのように回転するソレをまともに喰らえば堕天使とは言え即死するだろう。宛が外れた。予想が間違っていた。

 

だからこそドーナシークは笑い、空条譲治は顔をしかめた。

 

引き裂かれた蛇の頭部が再構成される。

 

回転するドリルが自分に迫ってくる。

 

槍を再構成したとしても恐らくは押し負けるだけの威圧を持った驚異を前に――――

 

「Wrry」

 

悲鳴のように、ドーナシークの口から声が漏れる。だが、それは悲鳴ではなく嬌声にも似た歓喜の叫び。

 

「WWWRrrrYYYYYYYYYYYYYYYYYYYyyyyyyy!!」

 

槍の半ば握った掌から波紋を押し出してへし折る。ガラスが砕けるような音と共に消えるはずだった槍は押し込められていた波紋によって折れているにも関わらず未だ健在。それをドーナシークは両手で握った。長槍であったソレは半ばで砕け、短槍と呼ぶにも満たない長さとなったがドーナシークは両手に武器を得た。

 

驚異は二つ。武器も二つ。

 

ならば押し負けるわけもない。

 

ドーナシークは叫びながら嗤う。生きているのだと嗤って魅せる。

 

蛇の頭部を右手の槍で引き裂いた。回転するドリルを左手の槍で粉砕した。

 

「冗談みたいなやつだな……お前」

 

「ク、ククハハッハハアハッハハ!!貴様こそ、なんだ今のは!流石に死んだかと思ったぞ!あぁ、俺の研鑽は間違ってなかった。故に対応できた……最高だ、最高にハイってやつだ!」

 

「勝手にキマってんじゃねぇ。土壇場の力強さといい無駄に上がったカリスマといい……ったく、どうしてこうなったのかねぇ」

 

「あの日、あの時、人間と引き分けた瞬間からさ。砕けたプライドなんぞ、欠片ほども役に立ちはしない。ならば捨て去り作り直すまでだ。こうして俺は過去の俺との差異を感じるたびに、前へ前へと進んでいるのだと自覚してゆく」

 

ドーナシークは不敵な笑みを浮かべてから、光力に波紋を掛け合わせ砕けた二本の槍へと流し込んでゆく。それは蒼い柄と持つ黄金の剣として再構成され、ドーナシークの新たな力として顕現する。漆黒の翼が黄金の輝きに照らされ、光の加減か白く輝いて見えた。

 

「さぁ、続きをやろうか空条譲治」

 

「テメェが冗談みたいな奴だろうが、記憶を侮辱した以上は殺す。そう決めたんだ。だからこそ、その『記憶』を俺は違えないし『覚悟』してるから引くこともない」

 

譲治の影から這い出るように再び現れたRe:makeには怪我一つなかった。スタンドのダメージが本人に反映されるように、本人のダメージがほぼ皆無だという証明でもある。切り裂かれるであろう部分の構成を甘くし、ダメージを抑えていたのだろう。瞬間的にそれが出来る辺り実はこの男も大概である。

 

空条譲治は再認させられた。厄介な相手だ。宿命の相手だ。

 

ドーナシークは自覚した。厄介な相手だ。宿命の相手だ。

 

ビリビリとした雰囲気のなか両者は再び対峙する。

 

何時かの再現のようでありながら、それ以上の苛烈さを持ってお互いの能力(武器)を信じて。




うん、批判は受け付ける。
だれだこいつ。
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