ただ記憶のままに   作:空澄みの鵯

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今回の更新は早い。
別にクリスマスの用事がないとか、艦これのイベントに備えて遠征ばっかりだったとか、GE2のクリスマスクエが終わったとかは関係無い。

関係無い。


片栗粉

今年の一年は見ごたえがある。

 

坊主頭の男子生徒は実にイイ笑顔を浮かべゆったりとした足取りで歩みつつそう思った。その笑顔を浮かべたまま隣に立つ友人へと視線を向ければ、同様にイイ笑顔を浮かべメガネをキラリと光らせた親友の姿があった。

 

「んん、実に素晴らしいですな」

 

「まったくですな」

 

お互い言いたいことは分かっている。だからこそこんな端的な、それこそ何がどうしてなんて述語を付けなくても以心伝心のように伝わるのだ。この下半身を直接刺激する感情に言葉はいらない、それこそ目と目で通じ合うくらいでなければ何が親友か!

 

だが自然と言葉は紡がれていく。なぜならばこの思いは胸に秘めておくにはあまりにも激しいのだ。今にも胸を割いてしまいそうな感情を御するには、当然のように捌け口を作ってやるしかない。だからこれは仕方のない行為なのだ。だって学生だし、男の子だし。そんな風に言い訳しつつも、躊躇う気配がない辺りに救いようのなさを感じる残念な二人である。

 

駒王学園の中でもマイナスな意味合いで有名極まりない三人組の内の二人であることを加味しても、やはり残念というか救いようがない気がする。坊主頭の方、松田は通称でエロ坊主と呼ばれており、眼鏡の方、元浜はエロメガネと呼ばれている。だが、そんな状況にも屈せず彼らは

 

「いやはや、マジで今年の一年もいいよな。あの子とか一年の胸じゃねぇだろ!」

 

「ふふん、おっぱいと言え!おっぱいとな!だが、俺はあえてその隣のロリータを押す。ひんぬーこそ正義」

 

「なんてことだ!すまん元浜。俺が間違ってた。おっぱいに対して胸なんて無味乾燥な言い方はよくなかったな。おっぱい……あぁ、なんて柔らかな響きなんだ!口の中で解けるようなこの甘い音色……雪解けよりも甘く切ない」

 

「あぁ、その言葉だけでイケるな……」

 

白昼堂々の変態である。というよりも警察仕事しろと言いたいレベル。

 

ズザザザザッ!と音を立てて逃げていく一年生のお尻を眺めながら二人はイイ笑顔のままソレを見送る。そんななかで後ろから近づいてくる足音に気付いた二人の行動は速く、それでいて欲望に直結していた。

 

松田はブレザーの内ポケットに入れておいた小型のデジタルカメラを取り出し、足払いを受けたかのようなダイナミックな動きで空中で姿勢を地面と並行にして落下していく。スカートの中、つまるところパンツを激写するための無駄のない無駄な動きだった。エロ坊主松田の別の異名、セクハラパパラッチは写真にかけるこの情熱のから来ている。

 

元浜は緩んでいた表情を引き締め、眼鏡がズレないように片手で抑えながら体を反転させた。ギラリとナイフを思わせるその眼光は、先程までロリータとか言っていた人物とは似ても似つかない。眼鏡越しに相手のスリーサイズを把握するという特技を持つがゆえの、圧倒的な眼力。エロメガネ元浜の別の異名、3SS(スリーサイズスカウター)の本領発揮である。

 

だが、その行動も無意味に終わる。

 

「ず、ズボン……だと!?」

 

「ぶ、ブレザー……ッ!?」

 

「……何やってんすか先輩」

 

被写体であり、スリーサイズ公開の危機にあった男子生徒は呆れたように二人を見ていた。

 

「どうせ何時ものように欲望を露呈させてたんでしょうけど、足音くらいで反応するとか大丈夫っすか」

 

「うるさいわ!こちとらさっきまでおっぱいとお尻を拝んでたんじゃ!」

 

「迸るパトスのなか次の獲物が来てると気づけば反射的に動くのは当然だろうが!」

 

「うん、嫌な話だけど俺でよかったですね。警察呼ばれそうな発言ですよソレ」

 

「馬鹿野郎!これは男子高校生としては正常な反応なんだよ!お前だって分かるだろうが!」

 

「分かりません」

 

ピシャリ、と言い放たれて徐々に熱が冷めてきたの二人は目の前の後輩をジト目で睨む。そして溜息を吐いてから不純を感じさせない笑顔を浮かべる。なんやかんやでこの二人は後輩のことは気に入っているのだ。

 

「ま、おはよーさん譲治」

 

「おはよう譲治」

 

「うい、おはようございます。松田先輩、元浜先輩」

 

ふっと気の抜けそうなくらいに無防備に微笑んだ空条譲治だが、直ぐに表情を引き締めて先輩二人を睨みつける。

 

「毎度毎度忠告してますけど、本当に警察呼ばれても知りませんよ?というよりも同級生に俺が相談されたんで止めてください」

 

「同級生に相談された?!」

 

「貴様ァ譲治!まさかモテ期か!都市伝説のモテ期でも来たのか!?」

 

「黙ァってろこのボケが」

 

低く唸るような後輩の言葉に黙り込むエロの権化二名。基本的にイイ奴であり数少ない男子生徒の中でも自分らと親しいと断言できる後輩なのだが、時折信じられないくらいに言葉と雰囲気に『スゴ味』が含まれることがある。こういう時は逆らっては行けないのだと、本能的に悟っている二人は

 

「「さーせんしたッ!」」

 

「……はぁ、反省してくださいね。軽度なら俺も見逃しますけど、白昼堂々だと言い訳しようがない変態ですから」

 

「おぉ!そんなこと言ってくれる後輩はお前だけだよ!」

 

「流石譲治!俺たちと同じ道を歩む者よ!そこに痺れる!憧れるゥ!」

 

「ふざけてないで学校行きますよ……ってか、さり気なく俺をそっちの道に入れんな」

 

グダグダと喋りながらも日常を謳歌するその姿は全国で見られる珍しくも何ともない光景だ。だが、その光景に亀裂をいれるかのように、争乱というのは勝手にやってくる。

 

「おーい、松田ー!元浜ー!」

 

声のした方向には自分らと同じ駒王学園の制服を着た男子生徒と、別の学校の制服を着た女生徒が笑顔で歩み寄ってきていた。男子の笑顔は優越感と満足感で緩みきっており、女子の笑顔は淑女然とした柔らかくも仮面のような笑顔のように譲二は判断する。笑顔にもベクトルがあるのだとこうした時に思わざるを得ない。

 

緩みきった、幸せそのものだと全身で表現する男子も譲治の姿に気付いたらしく珍しいものを見たと言わんばかりに目を見開いた。軽く会釈を返すと男子、兵藤一誠は笑みを浮かべた。

 

「よう譲治!」

 

「おはようございます一誠先輩。彼女連れとは珍しいですね」

 

「え?え?わかっちゃう?天野夕麻ちゃんって言うんだけど、俺の!俺の彼女!なんだ」

 

力説する一誠から視線をずらして彼女へと移すと、その視線に気付いたのか軽く小首を傾げてながら「一誠くんの彼女の天野夕麻です」と自己紹介する。松田と元浜は初見ではないのか、ギリギリと歯を食いしばりながらも涙を無言で流すという器用な真似をしているが譲二は意図的に無視する。

 

「初めまして、駒王学園一年の空条譲治っていいます。ここにいる先輩方の……ストッパーみたいなことをよくやってるので、まぁ時々会うことになりますかね。一誠先輩も変態ですけど、頑張って手懐けてくださいね」

 

ニヤリと笑いながらそう言うと「心外な!」と一誠が叫ぶ。

 

「いえ、一誠くんのそういうとこも魅力的ですから」

 

「夕麻ちゃん……ッ!」

 

「一誠先輩。一体何すればこんな彼女作れたんですか?」

 

「何するとか失礼な!俺が何かやったっていうのか!」

 

「私の方が一目惚れで……ね、一誠くん」

 

「夕麻ちゃんッ!」

 

「一誠くん」

 

「「畜生リア充めぇえええええええええええええええ!!」」

 

キラキラと不可侵領域(二人っきりの空間)を作る二人に耐え切れなかったのだろう。突如松田と元浜が叫びながら学園へと走り去っていく。呆然と見送るのは譲治ばかりで、一誠は二人が走って行ってしまったことにも気づいていないようだ。苦笑を浮かべつつも譲二も二人を追って走る。背後の天野夕麻から探るような視線が当てられていることには最後まで気づかないままで。

 

 

 

 

 

駒王学園というのは少しだけ不思議な場所だろう。

 

逸脱したという訳ではないが、普通や平凡とは少しばかり遠い位置にあるようなそんな空間と言ってもいいだろう。元々が女子校で進学校ということもあって女生徒の比率が高く、学力もここら一帯ではずば抜けて高いというだけで十分に浮いた場所だろう。数年前から男子生徒の受け入れもしているが、比率としては圧倒的に女子が多いこともあって男子としては既に異界判定である。

 

何しろ男子に対して遠慮する生徒が少ない。というよりも絶対的多数である女子のヒエラルキーの高さゆえに、男子という存在は一部を除いて空気と化していると言ってもいい。事務的な会話だけであったり、本当に忘れ去られていたりと散々な目にあってる人たちもいる。

 

無視されていない一部というのは身も蓋もない言い方をすれば『極端な人物』である。例えば人当たりもよく誰にでも優しく、それでいてイケメンで笑顔を絶やさないというハイスペックそのものである木場裕斗がプラス面での筆頭だろう。ここではこういうプラス面筆頭=男子であり、男子の殆どはそれ以外という区分になる。

 

それ以外の区分で目立つ、つまりはマイナス面で有名なのが変態三人組と称される三人だろう。エロイッセー、エロボウズ、エロメガネと全員が全員普通なら通報されるレベルの行動を行っている。女子たちがいる中でエロ本を広げ、猥談を繰り広げるのは当たり前というから驚きだ。一部の男子の空気化促進はさり気なくこの先輩方の所為とも言われている。

 

男子にとっての楽園とまで称されていた駒王学園だが、その実態はだいたいこんなものだ。それ以外で特殊な事柄と言えば学園全体でお姉さまと呼びたい人物が何人か挙げられるとか、その内の一人は髪の毛が紅色という何人ですか貴方?と聞きたいような人なのだが……まぁ、些細な問題だろう。少なくとも俺からすれば遠い話だ。関係が無いのなら気にするだけ無駄だろう。

 

俺こと空条譲治はプラス、マイナス、空気のどこに位置するかと言うと一応はプラスだと思われる……が、断定することが出来無い辺りに自分の立ち位置に苦笑せざるを得ない。少なくとも女子に頼られてはいるが、それは変態三人組に対しての意見役としての意味合いが強い。詰まるところ、俺は変態三人組に対しての盾役のような扱いなのだ。

 

正直言ってあの人達は性欲の強さを抜けば悪い人ではない。一誠先輩は情に厚い人らしく、以前軽く口に出した約束事を律儀に守ってくれたし、それに松田先輩も元浜先輩も協力してくれていたらしい。お陰様で姉さん達へのプレゼントに苦労しなかったのだから、心の底から感謝している。……いや、本当にアレさえ無ければ良い人なんだが。

 

ともあれ、一誠先輩達の人となりを知っているため会えば会話するくらいの仲にはなったのだが、お陰さまで変態三人組の新入り扱いされたのは思い出したくもない。あれから変態と呼ばれるのに妙に反応するようになってしまったのだ。そのせいで昨日も無駄に情報を渡してしまった。あぁ、畜生め。無駄は嫌いなんだ、無駄だから。

 

思い出した所為でイライラし始めたのを自覚しつつも、それを表面に出さないように注意しなければならない。女子というのは視線であったり、敵意というものに此方が思ったよりも敏感らしく呼ばれないだけで払拭しきれていない『変態』という汚名が再び現れてしまうかもしれないのだ。もしもそんな名前で呼ばれてることが姉さん達にバレたら……考えたくもない。

 

特に小夏姉にバレたら何が起きるかわかったものではない!

 

内心でイライラしつつガクガク震える。実に器用なことをしていると、ざわざわと隣の教室が騒がしくなっていることに気付いた。隣の席の女子に話を聞いてみると、今更気付いたのかと苦笑されるが考え事していたのだ仕方ないだろう。

 

「なんかね、オカ研の人たちが誰か探してるらしいのよ」

 

「オカ研?」

 

「……空条くんってさ、ホントそういうの知らないよね。あの三人組とも一緒にいたし」

 

「んー、何というか自分に関わりがあれば良いんだけど高嶺の花とか、そういった区分になると急に興味なくなるんだよな。最近のアイドルとかも知らないぜ俺」

 

「それは男子としてどうなのよ」

 

「んー、まぁそこら辺はほら俺の分も一誠先輩達が担当してるし、草食系ってことで」

 

「ふふ。ま、空条くんが肉食ってのはないわね」

 

何を持って断定されたのかは非常に気になるところだが、変態と呼ばれなければそれでいいやと思う辺り大分投げやりになっている。

 

「で、オカ研って何なわけ?」

 

「オカ研っていうのはオカルト研究部のことなんだけど。それが何?と聞かれても困っちゃうけど、そうね……如いて言うなら、美男美女の集い?」

 

「オカルトとは程遠い世界の生き物だろ、それ」

 

「あら?私から言わせてもらえば十分オカルトよ彼ら。リアス先輩も姫島先輩も綺麗すぎて思わずお姉さまって言いたくなるし、木場くんなんてそれこそそのまま王子様。小猫ちゃんなんて着せ替え人形みたいでかっわいんだから!」

 

熱烈に語りだすお隣さんに適当に相槌を返しつつ、自分でも知っている名前が出てきたのでプロフィールを思い返す。まずリアス先輩。姓がグレモリーとかいう、フザけた名前だったのでよく覚えている。何人だよ、と聞きたくなる深い紅色の髪に同様の燃えるような瞳。見た瞬間に「あ、人外だわコイツ」と早々に判断した相手である。

 

大体グレモリーって名前がそのまま悪魔なのだ。愛を伝えるだが財宝を与えるだかの悪魔。そんな名前を名乗り続ける家柄があるものか!と叫びたくなったが、面と向かってそんなことを言えば問題にしかならないのは分かっている。しかし何時ぞやの堕天使に会って以来、無駄に悪魔やら天使やらに詳しくなったのがこんな風に役立つ時がくるとは思わなかった。

 

姫島先輩。この先輩はよく知らない。ただお姉さまと呼ばれている一人であるということは知っているのだが、それ以上の情報は全く持ち合わせていない。そういえば神社でそんな名前のとこがあったような気がするのだが、無駄な知識として忘れたのだろうか。

 

木場先輩に関しては有名も悪名も知っている。情報源は一誠先輩達なのだが、僻みと妬みの絶妙なブレンドに悪意を込められた評価を聴き続けているのだ。彼らの個人的見解を抜き出せば、それで木場先輩の出来上がり。まぁ、それでも金髪の王子様という評価以上に相応なものが無いあたり、真面目に完璧超人をやってると言える。

 

だが、最後の小猫という人物は知らない。

 

グレモリーを知って、姫島を知った。一誠先輩から木場を知った。

 

だが、小猫という人物は自分に関わりの無い領域に居た人物だ。

 

「ふむ、要注意か?」

 

ぼそりと呟きつつ、お隣さんのヒートアップし続ける王子様談義に適当に男子目線の意見を加えて、完膚無きまでに暴論で叩き潰されるという作業を繰り返す。いや、王子だからってサンドイッチ食べるってどういう理屈?男だし焼き肉定食とかでも良いんじゃないだろうか?

 

ガラリという音ともに教室の扉が開かれ、ざわついていた教室が一気に静まり返る。小心者ならばビクつくような静寂に対し、笑顔を浮かべたまま「あらあら、お邪魔だったかしら」なんて言いながら教室を見回す女性。お隣さんはぽかんと口を開けたまま呆然としているが此方はそれどころじゃない。

 

何かを探しているのだと頭が判断し背筋がゾクリと震えた瞬間、皮膚の下に収まっていた影が音もなく這い出ようとしたのに気づいて急いで繋ぎ留める。危険に対して防衛手段を行使する準備段階で、手の内を晒す必要はない。吹き出しそうなる影を押さえつけながら相手の動きを見据える。

 

艶のある深い黒髪をポニーテールにした女性だった。宵闇のような深い黒い髪、目を細め弧を描かせた瞳の色は黒曜石のようだ。ピリピリとした空気とは無縁そうな、対極の包み込むような雰囲気の女性だった。あまりにも大人びて見えるため、女子と呼ぶにはちょっと気が引けるレベルである。

 

「うわ、胸おっきぃ」

 

「お隣さん……」

 

慎ましやかな胸に手を当てながら思わずといった風に零れた一言に憐憫を感じていると、姫島先輩は軽く会釈してから教室を出て行った。

 

「び、びっくりしたね」

 

「ですね。なんだったんでしょう?」

 

「さぁ?でも誰かを探してるのは間違いなさそうだったね。ふむ、少しばかり推理してみようよ空条くん!」

 

「はは、楽しそうっすね」

 

「ふふん、私はミステリー好きだからね。ワルキューレ・ポアロとかアルセーヌ・ルパンとか読んだことある?あれ、ワルキューレじゃなくて、リキュールだっけ?」

 

「ワルキューレ?……なぁ、それってエルキュール・ポアロじゃなかったか?」

 

「あう!なんてこったい、くっついちまってたか。覚えにくいんだよね、こういうの」

 

「だからってそのミスはない。ワルキューレってヴァルキリーとか北欧神話系だし、リキュールはそれこそお酒だろう」

 

溜息混じりにそう訂正すると、へぇと関心するように唸ってからお隣さんはキラキラとした目でこちらを見てくる。

 

「もしかして空条くんって神話とか詳しいの?」

 

「ん、まぁちょっとだけ。ゲームとか好きなんですよ、男の子だし」

 

「あぁなるほどねー。納得だわ。……あれ、それって所謂中二病ってやつ?」

 

「違うからね」

 

未だ油断するなと警報を鳴らす本能に従い、瞳にだけ部分的にRe:makeを展開する。ぼんやりと光っているように見えるかもしれないが、そうそう気づくようなものではない。自分の目の動きとは別にギョロギョロと周囲を警戒させながらお隣さんとの雑談を楽しみながら休み時間を消費していく。

 

妙に心労も溜まった気がするのだが恐らくは気のせいだろう。気のせいにしよう。

 

 

 

 

 

放課後になるまでオカ研は誰かを探していたようだった。

 

既にそのことは噂になっており、お姉さま達の目にかなった新入部員を探しているとか、オカ研に対して不埒な真似をしようとしていた人物の炙り出しをしているとか色々と尾ひれ背びれが付いて広まっていた。こうなってくると真実を引き当てるのは無理だ。調べたところで徒労に終わるだろう。少なくとも自分には無理だ。

 

無理なことに労力を割くつもりはない。早々に帰宅の準備を整えバックを手にかける。

 

「あれ、帰るの?」

 

「まぁね。ウチ帰って何か食べたい。お腹すいたんだよ、俺」

 

「あははー。一緒にどっか食べに行く?」

 

「魅力的な提案っちゃ提案だけど、二人で行くとあらぬ噂が流れそうなので却下させてもらいます」

 

「うわ、女の子の誘いを普通蹴るかなぁ。全くもって失礼なやつだぜ!」

 

「すまんね。ま、学食とかなら付き合うぜ」

 

「味気ないので却下ー。ま、また明日だね。ばいばい空条くん」

 

「さらばですお隣さん」

 

適当に言葉を交わしてから教室のドアを開ける。目の前にはにこにこと笑う姫島先輩がいた。

 

「「……」」

 

互いに無言で見つめ合う。字面にすればそんな雰囲気なのだろうが、こちとら反射的に飛び出した影に拳を振り抜かせそうになったのをギリギリで止めたのだ。ギリギリセーフとかそんなレベルじゃねぇくらいに危なかった。ここで急に姫島先輩が吹き飛べばどう考えても俺の所為になる。女生徒を殴り飛ばした男子生徒。あぁ、確実に保護者フラグ。それだけは回避したい。

 

「あの、退いてもらっていいですか」

 

「あらあら。ごめんなさいね」

 

あまり長い間沈黙していると周囲の視線が厳しいものになってくるので、そう切り出せば笑顔で謝罪の言葉を返された。ただ目の前から動いてはくれなかったが。

 

「……なにか御用ですか?」

 

「はい、実はそうなんです。リアス部長がお呼びでして、着いてきて頂けると嬉しいんですけど」

 

小首を傾げながら右手を頬に当て、困りましたとポーズをとる。コレはそんな風に見える(ポーズ)だけなのだ。実際はこの言葉はほぼ強制と言っても良いだろう。周囲の視線が、この学園の雰囲気がこの発言をお願いから命令にまで格上げしている。

 

お隣さん曰く。学園の二大お姉様の内の一人が彼女、姫島朱乃なのだ。確かにこの圧倒的な母性や、同年代とは思えない雰囲気はそう呼ばせるだけのものがある。それは認めよう。認めざるを得ない。

 

もしもこのお願いを断れば周囲の自分に対しての状況は確実に悪化する。恐らくはここで断ったという『結果』は今後レッテルのように付き纏うだろう。だが、自分でもアホらしいのだが。意味はあれど、理由というには弱いのだが。

 

「着いていくというとオカルト研究部ですか?」

 

「えぇリアス部長はそこでお待ちですので」

 

「一体何の御用でしょうか」

 

「さぁ?そこまでは知りませんわ。ただ部長が待っていますので、なるべく速くして頂けると嬉しいのですけど」

 

「場所が分からないのですが」

 

「それでは私がご案内しますわ。旧校舎なんですけど、迷っては大変ですし。ふふ、手でも繋ぎますか?」

 

「えぇ、それはいいですね。魅力的です」

 

「では行きましょうか」

 

そういって姫島先輩が差し出した手の平をチラリと視線を移してから、彼女へと視線をしっかりと合わせる。

 

自分で言うのも何だが、筋金入りに阿呆だという自嘲も含めての笑顔を浮かべて。

 

「だが、断る」

 

「え?」

 

「あえて断ります。別に俺の大好きなことがYESと言うであろうと思っている相手にNOと言ってやることだとか、姫島先輩を困らせてその反応を楽しむドSだとかそういった理由があるわけではありませんからご安心を。ただ理由もなく行くほど俺が暇ではないというだけですから」

 

この上なくスッパリと切り伏せる。

 

意味ならある。リアス先輩は確実に悪魔であるということ。昨日の事も含めれば接触したくはない。ただの引き伸ばしだと分かっているが、それでも此処でハッキリしておかなければ確実に巻き込まれていく。なぁなぁで絡め取られていくだろう。何しろ相手は愛と財宝を与える悪魔グレモリーだ。甘言などお手の物だろう。

 

故にNOだ。ここで無用心に接触するべきではない。少なくとも姿すら不特定な塔城小猫という存在がネックになる。人数を把握していれば逃げようもあるが、伏兵がいてはそれすら難しい。

 

「え……っと。着いてきてくれません?」

 

「リテイクされても断ります。『結果』は変わりません。俺は帰って貴方は諦める。別にこれで問題はないでしょう。何しろ何の用事があるかも分からないで拘束されるだなんて、男子高校生の貴重な放課後を何だと思ってるんですか」

 

再度断りの言葉を伝えると、本当に困ったらしく眉がハの字を描くがそれはそっちの事情だ。無視して横を通りに抜けようとすると、予想外に強い力で腕が引き止められる。思ったよりも随分と力強いんだなこの人、なんて余裕ある思考回路。

 

「いえ、困ります」

 

凛、とした鈴の音のような響きが耳朶を打つ。

 

余裕があったはずの思考回路は一瞬で焼け付いたのか全く機能しなくなった。

 

今一番聞きたくなかった声ではないが、一番警戒していた相手の声だ。幾つかのピースが繋がり嵌っていく。昨日出会った駒王学園の人外。姿も知らない最後のオカ研のメンバー。名前は塔城小猫。お隣さん曰く着せ替え人形みたいで可愛い。あぁ、畜生。完全な後手だ。

 

「初めましてが良いですか?それともお久しぶりが良いですか?一年の塔城小猫と言います。これ、お土産の『片栗粉』です。よろしく」

 

「……あぁ、初めまして小猫さん。俺は一年の空条譲治って言うものです。大層なモンをありがとうございます」

 

底冷えするような視線でこちらを射抜く白を連想させる少女がそこに立っていた。どう考えても違和感しかない彼女の差し出す『特選・片栗粉』の文字が妙に目に焼き付いた。

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