ただ記憶のままに   作:空澄みの鵯

9 / 17
何時ものように遅れました。
というか、何故俺は三パターンも書いてしまったのか…


オカルト研究部

ポケットの中には何時だって携帯食料が入ってる。カロリーメイトだったり、ソイジョイだったり、まぁ種類は適当も適当で『何時もの』なんて格好いいモンはないのだが、一応は何時も何かしら空腹を誤魔化せるものが入っている。

 

食料以外にはスマホ、財布、ハンカチ。それくらいだ。実にシンプルで、現状では頼りがいのない所持品だ。バックの中にはまた別のモンが入ってはいるが、即出せるかと言われれば無理だ。守るために使えるのは『スタンド』だけってわけだな。

 

制服姿で片手にバック、片手に片栗粉。そんな実にシュールな出で立ちの青年は溜息を隠さずに、わざとらしく音を立てて吐いた。少しでも両隣を歩く相手にマイナスな感情を与えたいという小物の対応ではあったが、お姉様とまで称される姫島は全くどうしていないようだった。

 

対照的なのが小猫のほうか。視線をそちらに向けるまでもなく睨みつけているのがわかる。視線を感じる能力は女子特有のものではないようだ、なんて適当で無味乾燥なことを思いながら小猫の視線を上回る男子の視線を浴びて溜息をもう一度。

 

「どうして木場を連れてこなかったんだ」

 

思わず呟いた独り言に目ざとく、というよりも零度の視線を持って対応したのはやはり小猫。

 

「へぇ、木場先輩の方が良かったですか?」

 

「そりゃそうだろうさ……生憎だけど、俺は女性二人に挟まれて余裕なほど広い心持ってなくてね。周囲の視線も合わせてノックアウト寸前だ。せめて片方が男子なら違っただろうに」

 

「いまさらぶつくさ言わないでください」

 

「言わせる状況作ってんのはお前だろうが」

 

片栗粉の入った袋でボスっと叩くも、憮然としたまま此方を睨みつけている彼女から目を逸らす。隣でやり取りを聞きながら「あらあら」とか言ってる彼女のことは意図的に無視。正直、こういったペースの掴みづらい人には絡まない方がいいのだ。

 

「お二人は仲が良いのね」

 

「「断固否定します」」

 

ハモった。ジロリと睨めつければ、ギラリと切り返される。何がそうも気に入らないのか知らないが、この小猫という人物は俺を嫌っている。いや、前回の逃走時に「次会ったら覚えておいてください」とか言われた様な覚えはあるが、わざわざ片栗粉を持ってきてまで敵意を見せつけなくてもいいだろうに。

 

溜息と一緒に色々と溶けてしまえばいい。

 

ぼんやりとそんなことを思うも、無駄な思考であると切り捨て幾つかのプランを立てていく。

 

考えるべきことは幾つもあるのだ。現在進行形で連れられていくオカルト研究部について。そのメンバーについて。いざとなった場合の行動について。そうだ。考えなければならないことが多い。その中でも一番考えなくてはいけないことはコイツだ。

 

チラリと横目に見れば白い頭。真っ白で、陽の光の当たり方によっては輝くような銀色に見えなくもない。逆に近くで見れば透き通るような白なのだろう。白い髪に白い肌。僅かに覗けた首筋も白く、人形のように華奢だ。そう、本当に細身なのだ彼女は。

 

少なくともあんなにも簡単に拘束が解かれることはアリエナイし、そもそも今まで誰も見えなかった俺のスタンドを『見ていた』時点で信じられない。その日はガタガタ震えて眠れなかったし、ソレを気付いた姉さん達のベットに放り込まれたり……いろんな意味で死にたくなったぜ、畜生。

 

そうこうしている内に旧校舎へと足を踏み入れることになる。思ったよりもしっかりとした作りなのか、周囲を見渡す程度ではボロくなった部分は見つけられない。ただ薄ぼんやりとした雰囲気がどうも……といった感じか。新校舎が立ったせいだろうか。廊下側は日当たりが微妙に悪いらしく、放課後ともなれば歩くのに困るほどではないにせよ決して楽とは言えない。

 

そんな風に考える譲治の内心など知らぬとばかりに、スイスイと進んでいく二人に譲二が訝しげな視線を向ける。

 

「どうかいたしましたか?」

 

「空条さん?」

 

歩みを止めてしまった常時に小首を傾げながら問いかける両者。やや離れた距離。薄ぼんやりとしたこの場では、表情の機微は見づらいというのにまるで此方の表情を『分かっている』かのような反応だった。

 

「……お前ら、夜目が効くんだな。俺はこうも暗いと進みづらくてさ」

 

「あら?……そうですわね。まぁ、私たちは慣れてますから」

 

声色からでもわかる。姫島朱乃は笑っている。まるで不思議など何処にもないかのように。

 

おぞましい、とは言わないが常識がズレている感覚。何がと断言出来無いのが歯がゆく思えるが、仕方なく着いていくことにする。ぐにゃりと影を歪ませながら彼は一歩一歩を確かめるようにゆっくりと歩んでいく。まるで先生に怒られる直前の小学生のような足取りの遅さに姫島はふふっと僅かに笑い声をこぼした。

 

「ごめんなさいね、歩きづらいのでした手を繋ぎましょうか?」

 

ようやく隣までたどり着いた常時に笑顔を浮かべたまま手を差し伸べた姫島に対して、NOと否定の言葉だけ返してそのまま彼女らに無言で着いていく。ゆっくりと、ゆっくりと。そうしてたどり着いたのは一室。オカルト研究部というのはおそらくここなのだろう。薄ぼんやりと内部から光がこぼれている。

 

数度のノックの後、まず姫島が中に入った。そうして「少し待っていてくださいね」とだけ言い残し扉を閉める。残されたのは俺と塔城の二人。

 

「空条さん」

 

「なんだ塔城さん」

 

「空条さんの家族ってどんな人ですか」

 

話しかけられたかと思えば、紡がれた言葉は実に意外なものだった。だが……家族とは。実に表現に困る議題だと思う。

 

「微妙に答えづらいな」

 

「そうですか」

 

「どうして急に?」

 

「いえ、深い理由があるわけではありません。ただ……」

 

「ただ?」

 

「きっと愛されているのだろうな、と思いまして」

 

紡がれた言葉が以外なものならば、彼女の答えもやはり意外なものだった。「ふふ」と小さく笑い声が零れた。何しろ家族の説明は難しいが、その答えに対しての解答は何時だって自信を持って言えるのだから。

 

「あぁ、俺は愛されている自信があるよ。それこそ、姉さん達には頭を何度下げてもどうしようもないくらいに」

 

「姉さん、ですか」

 

「あぁ、俺の姉さん達はマジで良い人だからな。誰にだって自慢できる。……いや、シスコンじゃねぇからな!」

 

「そんな力強く反論しなくても良いと思いますよ。でも、羨ましいです。私の姉はあまり褒められた人ではありませんでしたから」

 

「それはどういう」と聞き返そうとしたところで、目の前の扉が開かれた。そこには笑顔の姫島がおり一度だけ譲治と小猫はお互いに目を合わせる。話はおしまいですね、と目で語って室内へと入っていく。

 

「さ、空条さんもどうぞ」

 

「んじゃ、失礼しますね」

 

中へと案内された譲二は思わず溜息を吐いた。

 

「失礼ね。人の顔を見て溜息を吐くだなんて」

 

「いえいえ、部長が呼んでいるとは言ってたのでいるのはわかっていましたけれど……全員集合ともなれば実に豪勢なメンバーだなぁと思いまして。学院のお姉様が揃い、王子様が居て、期待の新人まで。まったく平凡な俺が浮きますねココ」

 

と肩をすくめ、やれやれと首を振ってみせる。当然のように薄目で周囲を確認しようとするがロウソクの炎だけで照らされた室内は非常に暗く、どうも遮光カーテンまで引いていあるようだ。ぼんやりと照らされた鎧やら紋章やらが実にイイ味を出していて、確かにこれはオカルト研究部らしいといえばらしい。

 

そしてこの部室(お城)部長(王様)たるリアス・グレモリーはソファに深々と座したまま此方を見据えていた。

 

「ようこそ、オカルト研究部へ。歓迎するわ空条譲二くん?」

 

「どうもこんにちわ。学園のお姉様にお呼ばれするなんて光栄の極みです。座っても?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

対面するようにソファに座り込み、じっと彼女へと視線を向ける。

 

薄ぼんやりとしか照らさない室内の中でさえも存在感のある紅が印象に残る人物だ。唇を彩る真っ赤なルージュの赤よりも、すべてを燃やし尽くす炎の紅。白を見たあとだとより印象が強くなる。鮮烈に瞳を焦がすような美貌も相まって、これは確かに一目置かれるのも無理はないと思えた。

 

「でご要件はなんでしょう?一応俺にも用事があるので、早々に帰宅したいのですけど」

 

「あら?私は用事がなければ帰っても良いと言っておいたと思ったのだけれど」

 

「えぇ、そうなのですけど。小猫が説得してくれましてね、ほら例の片栗粉で」

 

「ふふふっ。なるほどね、片栗粉が決め手だったのね」

 

クスクスと上品に笑いつつも時々見える目が緩むことはなく、一挙手一投足を見逃すまいとピリピリとした雰囲気をまとっていた。総合評価としては、司令塔なのかどうかは知らないが、そこそこ人望もあるようではあるがまだ余裕を持っていないようだし何とかなりそうか。

 

目の前にはリアス・グレモリー。その傍らに控えるのが姫島朱乃。さほど彼女らのそばのソファに座り込み睨みつけてくるのが塔城小猫。そして奥から人数分の紅茶を持ってきたのが木場裕斗。なるほど、勢揃いか。さらに言えば扉に背を向ける位置での座席指定は逃げることを少しでも遅らせる策なのかもしれない。

 

「僕が淹れた紅茶で悪いね。本当なら副部長が淹れた方が美味しいのだけど、呼びに行ってもらってたからさ」

 

「いえいえ、わざわざすいません。木場先輩、ですよね」

 

「うん。僕の名前は木場裕斗。二年だから一つ上になるのかな?よろしくね」

 

にこり、と微笑めば何故かキラリと擬音がもれなく付いてくるような笑みだった。というかこの暗がりのなかで歯が光る錯覚を見た気がしたんだが、どれだけイケメンなんだこの人は。思わず此方の笑顔が引き攣りそうになるが、意地で固めて素直に「よろしくお願いします」とだけ返す。

 

「あら、そういえば自己紹介まだでしたね。私、三年の姫島朱乃といいます。ここの副部長をやらせてもらってます」

 

「私はリアス・グレモリー。朱乃と同じ三年でこの部の部長をやらせてもらってるわ」

 

「そうですね、本当に今更ですが挨拶は大事です。俺の名前は空条譲治。まぁ、ご存知でしょうが一年の若輩です」

 

そういって軽く頭を下げる。視線は相手から外さないように注意はするが、スタンドの顕現にロスを生まないようにゆっくりと『魂』を高ぶらせていく。魂とは言ったが、なんと言えばいいのか……実際にソレがあるかどうかではなくスタンドを使う時というのは意識して何かを昂ぶらせていく必要がある。

 

皮膚の内側。骨の内側。内蔵の内側。血管の内側。そんな物ではなく、もっと根本的で芯の芯にあるナニカを震わせる必要があるのだ。意識すれば動いてくれる。まるで当たり前のように手足の延長、もしくは手足が増えたかのように問題なく。だが、全力というのはそれだけではいけない。もっと、もっと――

 

「譲治くん?」

 

「なんでしょう?」

 

内側へと集中しすぎて、グレモリーに訝しげな視線を受けてしまった。失敗ではあるが、それでも十分に集中できている。所謂『覚悟』完了だ。こうなれば何があろうと問題なく動ける自信がある。瞬きする一瞬の内に瞳にスタンドの目を重ねる。両目がぼんやりと光って見える、なんて失敗をしないように表面にではなく重ねるように。

 

それでも違和感を感じたのか小猫の視線が鋭くなるが、やましいことはないと視線をスッパリと切り捨てる。

 

「まぁ、単刀直入に言うわ。譲二くん、貴方一体何者?」

 

「それはまたザックリと切り込んできましたね。何者、と問われると答えるのが難しいですね。それこそ駒王学園一年、空条譲治としか言いようがありませんね。家族構成とかも話すべきですか」

 

「わかっているでしょう。そういうことが聞きたいんじゃないの」

 

「それでは何を?」

 

しらばっくれる。相手の意識を逆なでするためではなく、どこかに油断がないかと探るために。

 

「昨日、ウチの小猫と商店街で会っているわね」

 

「そうでしたっけ?」

 

「話によればその生徒は『徒歩』で『多くの荷物を持ち』、『帰ろう』としていたらしいわね。駅を使うなら少なくともそちら方面のを使うでしょう?なら答えは簡単よ。その周辺に住んでるウチの学生を調べればいいのよ。まぁ、普通ならそれだけじゃ候補が数が多すぎたりするんでしょうけどね、運良くと言えばいいのかしら。ウチにはまだ『男子』って少ないのよ」

 

まるで獅子が獲物を前にするかのような素晴らしい笑顔で此方を見つめながらすらすらと語っていく。理路整然とは言い難いし、言い逃れというよりも確証はない推論だが逃げ切れる気がしない。というか、こんな推論を押しているわけではないだろうが、どうしてそんなに小猫さんは睨むんですかね?スタンドが見えた事といい、スタンド使いとか言うなよマジで。

 

「それでその学生が俺だと?」

 

「あら違うのかしら?」

 

「ここで違いますと言っても信じてもらえなさそうですけどね」

 

「えぇ、そうね。正直信じられないわ」

 

駆け引きする気あるのか、この人。無駄に素直な発言に少し頭痛がしたが、どうもこの人はアレだ。頭のいい馬鹿なのだろう。もしくは反応しやすい言葉で此方の出方を伺っているのか。まぁ、後者として考えていくのが建設的だろうが、直感が違うのだと断言している。さて、どうしたものか。

 

「ちなみにそれがもしも俺だとして、何か問題がありますか?何しろ先輩の話だと俺と小猫さんが出会ったとしても、どうやら何か問題があったわけではなくそれだけでしょう?」

 

「えぇ、本来ならね。ただその学生はどうやら『此方側』の住人だったらしいのよ……持っているんでしょう、神器(セイクリッド・ギア)

 

またその名前か。

 

神器(セイクリッド・ギア)

 

神が人に与えた異能を扱うための道具のことらしい。能力はそれこそ様々であるとは聞いたことがあるが詳細は不明。確かに俺のスタンドは神器に見えるのだろうが、一緒にされても困る。神器がどんなものかは知らないが、俺のスタンドはそれこそ生まれた時から傍らにあった(stand by me)のだから。

 

……あの場所にいたアイツを神と呼ぶのはあまり違和感はないのだが、きっと表情も分からない白い影のまま雰囲気だけで笑って否定する気がする。『俺は俺さ。間違っても神様なんて呼ばれるような高尚な存在と一緒にされたくないぜ』とか言ってそうだ。下手したら神様より凄そうだしな、アイツ。

 

「NOですね。持ってませんよ」

 

ならば否定の言葉だけが真実だろう。

 

「……そう、あくまでそう言い張るのね」

 

「というよりもです。俺はグレモリー先輩が何を言っているかもわかりませんし、何を知っているのかもわかりません。根本的に何かズレてるんですよね、会話が、意味が、常識が。もうこっちとしてもおおよそ察しているんですけど、きっと貴方達は人間じゃないんでしょう?なら求めないでもらいたいもんですよ、人間に対してそっち側の常識ってやつを。人間だってお互いの基準がわかってるわけじゃないのに、そっちの常識まで知っててくれなんてご都合が許されるわけないだろうに」

 

「言ってくれるわね。でも貴方は人間だけの世界を知ってるわけじゃないようだし、逆に言わせてもらうけど普通知ってるべきじゃないのかしら。部屋から外にでなければ世界は閉じられているかもしれない。でも一歩でも外にでれば別の常識に触れる機会があったでしょう」

 

「YESですね。まぁ、貴方達みたいなのに接触する機会があったのは間違いないし、こっちの話が通じないってのもおおよその理解の範疇ですよ。だが、人間として生きている相手にそれを求めんなって話なんですよコレは。日本で生きてるのにロシア語が必要ですか?英語なら使う場合もあるでしょうが、ロシア語なんてそうそう使うことはないでしょう。必要ではない限り知らなくても問題ない。なら俺のこのスタンスにだって問題はないってことになりませんか」

 

「それでも貴方は日常という常識の範疇で黒い影を使ったんでしょう。それはこちら側に踏み込んだということと見なされても仕方ないとは思わなかったの?もしも思わなかったというのなら、あまりにも浅慮としか言い様がないわね」

 

「ハッ、それこそ笑い話ですよ。どうして俺が遠慮する必要があるんですか。さっきから言ってますけどね。ズレてんですよ、会話が、意味が、常識までもが。そちら側の言い分は『能力は此方側のもの。だから使うということは此方側と見なされても仕方がない』ってことでしょう?俺からすれば、その理屈をこねる位置自体が境界線の彼方です。遠すぎんですよ、平和な日常からだとその理屈は」

 

「えぇ、そうかもしれないわね。じゃあ平和云々は置いておいて、貴方に対して言わせてもらうわ。人間には法律がある、人間には警察がいる、人間には学校があるでしょう?その中で貴方の黒い影を扱う機会があるのかしら」

 

「あったからこうしてここにいるんでしょう」

 

「……そうね。そうだったわね」

 

マイナスをマイナスとして認めるのではなく、あえて開き直ってみる。そうすると案外相手は出鼻をくじかれる形になるので流れを引き戻すのに使いやすい。このテクニックとも言えないものはよく姉さんが素で使ってくるから、自然と覚えてしまった。

 

「それで結局は貴方達は俺にどうして欲しいんですか。神器をもっているかどうかの一点だけでもグダグダになりそうな感じなんで、シンプルに無駄なく聞かせてもらいますけど構いませんね。別に神器のことが本題だっていうなら、俺は帰らせてもらいますけど」

 

「えぇ、そうね。単純明快なのは私も嫌いじゃないけど……ただ直球すぎじゃないかしら。もう少し会話を楽しもうとは思わない?」

 

まるで玩具を取り上げられた子供のような不満げな表情である。というか、最初に単刀直入に切り出してきたのは其方だということを忘れてないだろうか。……最悪な想像ではあるが、まさかこの人こういった駆け引きとか楽しいと思うタイプなんだろうか。無駄に考えること多くなるから俺は嫌いだ。

 

直球で終わらせる。そう判断するのに時間はいらなかった。

 

「無駄ですよ。会話が、ではなくその行為自体が無駄です。何しろお互いに歩み寄る気がまるでない。そっちは俺を警戒するばかりで懐に入れるつもりはない。こっちは警戒するばかりで……以下同様にです。だったらそれ以外の会話が必要ですか?無駄でしかない。無駄な事は嫌いなんですよ、理由なんて無駄だからで十分でしょう?」

 

「……徹底してるのね」

 

「シンプルが好きなだけです。だから最近まで徹底してそういった話題から逃げてきた訳ですし。まぁ、ここ数年それも無理かな、とは思ってましたよ。こうして学校で呼び出されるくらいに身近にいたのに気付かなかったんですから」

 

表があれば裏があるとはよく言ったものだ。俺が居たい場所は表な訳だが、その場所がある以上こいつ等のような存在は付かず離れずでいるのだ。逃げるのは無理だ。隠れるのも限界がある。だからといって媚びるのは危険だ。あぁ、面倒くさい。もっとシンプルにならないのか。

 

「気づかれても困るのだけどね。そうなれば最悪少し誤魔化さないといけなくなるから」

 

グダグダと内心で愚痴っていると少しばかり『耳障り』なフレーズが聞こえた気がして、思わず外に出ないようにしている昂ぶりが溢れそうになる。

 

慎重に、慎重に言葉を選びつつも、一言一言へ必要以上の重みが掛からないように気をつけて話し出す。震えないように、溢れないように気をつけて。

 

「……誤魔化す?事情を話して通じるとは思えませんけどね」

 

「いいえ、違うわ。事情を話してソレが広まるのは私たちにとっても良くないことなのよ。だから少しばかり『認識』を変えるの。例えば悪魔を見たという事実を、悪魔のような相手を見た、という風に認識をずらすといった風にね」

 

「認識ですか。なるほど根本的に『記憶』を弄る訳ではないと」

 

「記憶を弄るなんてことをすれば一歩違えると大変なことになるじゃない」

 

どろりとした感情を見せつけないようにしつつも一番大切なことをさり気なく問えば、あっけらかんと否定の言葉を言い放つグレモリー。

 

「そもそも記憶というのは生きてきた歴史よ?それをパズルのようにバラバラにしたりはしないわ。それは生命に対する侮辱でしかないもの」

 

「……そうか。そうだよな、俺もそう思う。最高に良い答えだ、実に俺好みで……好きになりそうなくらい好ましく思う」

 

破顔、というのが正しいのではないかというくらいに緩んだ表情をしている。

 

自覚はあるし、スタンドの最善を尽くそうと震わせていた魂が落ち着きを取り戻していくのもわかる。だが、『記憶』を『生きてきた歴史』でありその改竄を『侮辱』と言ってくれた。それだけで警戒が緩んでしまう――あぁ、俺にとっては十分だったのだ。

 

今までどうして突っかかってきたのかとか思い出せないほどに嬉しくて仕方ない。今ならRe:makeのことまで話してしまいそうだが、流石にそこまで不抜けてしまうつもりはなかった。ただまぁ、暴力に頼ろうとはもう思わなくなってしまった時点で俺の負けなのかもしれない。

 

「な!?何を急に!」

 

「あらあら」

 

「これは……驚いたね」

 

「幸せそうです」

 

各員がそれぞれの反応をするなかで、俺は『平和的に勝利する』ための秘策を取り出そうとカバンを手元に寄せる。カバンを開き中身をごそごそと漁りだした俺に怪訝な表情を浮かべているが、カバンから取り出したものをみるやポカンとした表情へと変わる。百面相のような変化にクスリと小さく笑い声をこぼしつつ、テーブルの上へと置く。

 

「これは、トランプよね?」

 

「えぇ見ての通り」

 

「これを今取り出した訳は?まさか今から私たちとトランプで遊ぼうってわけじゃないでしょ」

 

小首を傾げた子供のように問いかけるグレモリー。あぁ、もう。さっきの宣言もあって愛嬌があるように思えて仕方がない。正直移り気とか言われても仕方ないくらいに単純(チョロイ)な自分を皮肉ってやりたいが目的は『平和的な勝利』だ。気持ちを切り替えよう。

 

「さて、リアス・グレモリー部長殿。俺は自分の事を貴方に喋るつもりは一切合切ありません。何故なら貴方達を信用していないからです。まぁ、それはここまでの会話でも分かってもらえてるとは思います」

 

「そうね……そんなにキッパリ言われるとは思わなかったけど、分かっていたわ。でもだからといって『はい、そうですか』という訳にはいかないのよ。貴方が貴方のルールで動く様に、私たちにだってルールはあるのだから」

 

「えぇ、だから『勝負』しませんか」

 

トランプの中身を取り出しソレをテーブルの端から恥まで裏側のまま撫でるようにして広げながら、こっそり小細工を仕込んでおくことも忘れない。

 

広げ終わったトランプの一番端を指で弾くと、全てのトランプが波を描きながら表側へと裏返っていく。トランプマジックではよくある技だが、やっておくのとやっておかないのでは相手の心象がかなり違ってくるのだ。

 

所謂引き込みだ。トランプマジックをするといってる奴が、シャッフルを失敗して床に落としてしまえば興醒めにも程がある。だがそのシャッフルが普段なら見ないようなテクニックを含めていると、不思議とあぁ上手いもんだなという風に引き込まれてしまうものだ。

 

「まぁ、見てもらえばわかりますが何の変哲もないトランプです。ふふ、こういうと何故か仕込みがしてある様に聞こえますし確かめてみてください」

 

表側になったトランプの表面を撫でるようにしてまとめていけば、まるで先ほどの巻き戻しのように一纏めになったトランプの山が出来上がる。ただ違うのは表側が上になっていることと多少の仕込みがされているという点だろう。

 

差し出されたトランプを傍らに控えている姫島と確認しながらグレモリーはこちらに問いかけた。

 

「まぁ、確かに普通のトランプっぽいけどこれでどうするっていうのよ?」

 

「いや、先程も言いましたけど『勝負』しようかと思ったんですよ。どうもこの部室には意外と小道具が多いみたいですし。例えばそこの棚にあるチェスであったり、オセロであったりと対人の遊具は少なくないでしょう」

 

「えぇそうね。私は詰チェスとか好きなのよ。頭を使ってプランを組んでいったり、相手の思考を読んでやるゲームは楽しいわね。はい、返すわ」

 

「どうもっと。まぁ、ゲームが好きな人でしたら是非ともゲームで勝負したくなりまして。まぁ、趣味と実益を兼ねてやりませんかって話です。俺が勝てば今日はこのまま帰す。グレモリー部長が勝てば俺は昨日のことを包み隠さずに話すってな具合で」

 

「……それって私たちにメリットあるのかしら。別に私はここで貴方が話してくれれば問題ないのだけど」

 

「一つだけ教えましょうか。俺の能力はスタンドと自称していますが、相手が初見であれば負けるつもりはありません。少なくとも塔城さんはわかるでしょう?一度は拘束した訳ですし」

 

そういうと悔しそうに睨みつけてきたが、まぁ事実なので認めてもらうしかない。

 

「相手の本拠地で、しかもこの人数を相手にして貴方は無事でいられると思っているのかしら。それこそ舐めているとしか思えないわね」

 

「侮辱したわけじゃないですよ。ただ、お互いに傷を負わない提案ってヤツです。どうでしょう?」

 

ニヤリ、と不敵に笑いながら内心では八割は受けるんだと踏んでいる。何しろ状況が状況なのだ。

 

まず第一に俺を自分たちの本拠地に呼んだということ。どう考えても不確定要素の危険性を考えるのならば被害の少ない場所を選ぶべきだろう。この場所がそうなのだとしても、軽々しく本拠地に呼ぶというのは問題があるし、旧校舎とはいえど学園内での荒事は避けるべきだろう。

 

ならばな何故ここなのかというと、最も被害を受けて問題なく更に問題を収束し易いのがここなのだろう。自分たちが集結する場所である『オカルト研究部』という位置であれば、何が合っても問題なく収束できるという自信があるのだ。そのために頭数も揃えていると考えると随分と俺は警戒されている。

 

やはり能力が不明瞭であったことが大きく、お互いに無傷であったということで攻撃の種類がわからなかったもあるのだと思う。打撲であれ擦傷であれ、相手の能力を知るだけの術があればよかったのだろう。だが、お互いに無傷だった。故に『正体不明』なのだ、俺のスタンドは。だからこそハッタリであれ何であれ、効力というのは不気味な程に効くはずだ。

 

『たぶん』や『もしかしたら』こそが今の俺の武器。

 

空想上の化物は空想の中では自由であり最強だ。しかし現実ではそんな存在はいない。何しろ空想上でしか生きていけないのがその化物なのだから。だが、俺のスタンドは、Re:makeは塔城小猫に対して変幻自在であり、驚異であるという情報だけを見せている。正体が不明ならば、それこそが今の俺の武器になる。

 

「早く決めてください。さもないと『貴方の想像(最悪のヴィジョン)』が化物になって食い散らかしに来ますよ」

 

見えないというのはそういうことだ。

 

「……OK、受けるわその勝負」

 

ギラリと紅蓮に輝く眼光が譲治を突き刺す。痛みを覚えそうなほどに鋭いソレを受けて譲二は尚笑みを絶やさずに静かに「GOOD」と返した。部員が反対することがないあたり、彼女が信頼されている証明であり自分が四面楚歌であることが殊更浮き彫りになるがそんなものはこのあとの勝負は関係がない。

 

「それで何の勝負になるのかしら?トランプでの勝負というと思いつくのは少ないのだけど」

 

「えぇソレなんですが、シンプルが好きだと俺は言いましたよね。なのでおそらくトランプの勝負としては最もメジャーである『ポーカー』で勝負としましょう。知ってますよね?」

 

「勿論よ。それでルールの詳細は?一発勝負でもいいけれど」

 

強気、というよりも勝利を疑わないその姿勢にゾクゾクと背筋が震える。やはり、好ましい。途中まではどうでもいいとかそんなことしか思わなかったが、この女性は強く気高く誇り高い。それこそ女神のような『幸運』を持っている。そんな予感がしてならない。

 

「既に話しながらルールは決めてありますよ。まぁ、紙にでも纏めながら話しましょうか。後でルールが違った、なんてことにならないように」

 

受け取ったトランプをシャッフルし終えテーブルの上に置いてから、幾つかのルールを言い合い取り決めた内容をバックから取り出したノートに纏めていく。そうしてお互いに納得のいく内容になったところで再びトランプをシャッフルしながら宣言する。

 

「勝つか負けるかが賭け事。別に魂を賭けろとは言いませんが、ギャンブルってのは泣いた人間の負けらしいので、泣き落しってのは通じないと思ってください。ここでは涙は武器にならない」

 

「涙を武器にするまでもないわ。好き放題言っているけど勝てると思わないことね。幸運の女神というのは何時だって勝利するべくものに微笑むのだから」

 

互いに不敵に嗤いながら机上の戦争が始まる。

 

「さぁ、ギャンブルを始めましょう」




まえがきでも言いましたが、何故か俺はここを3パターン書きました。
1.リアスが記憶を侮辱するパターン
√テメェは俺を怒らせた
2.オカルト研究部から逃げ出すパターン
√逃げるんだよぉおおおおお!
3.ギャンブルで決着を
√さぁ、賭けるか降りるか

って感じですね。
喧嘩してしまうと後々大変そうなだったので、2か3のどちらかの投稿となりました。でもっていろいろと考えたんですが、Re:makeの自由度の紹介をするなら、ギャンブルかなって思ったんですよ。

……いや、ただ単に俺がダービーが好きって理由もあるんですけどね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。