…さて。
中学の入学式が終わり、今は教室で小休憩の時間なのだが、
「負けたぜよー! もう1回!」
「いいじゃろう!」
クラスメイトのほぼ全員がカードを見せ合ったりデュエルしたりで、親睦会のように賑わっている。もう一度言おう。ここは中学。普通の中学なら、学校でカード遊びなんて許されない。だが、ここの校長が校則を書き換えた事が原因だ。生徒手帳を開くと確認できる。
【生徒は遊戯王のデッキを一つ持って通学する】
…やれやれ。面倒な学校に入っちまった。
遊戯王王王
第1話
俺の名は
俺は生徒手帳を閉じ、小説を開く。読書だ。デュエルなんてやらねぇ。
しかし、読書しながらも周りの視線は感じる。何か文句あるか? 親睦会は強制参加じゃないし、デュエルしろなんて校則は無い。デュエルなんて…
「ねぇねぇ! うちとデュエルしようぜよ!」
思ってる矢先。クラスメイトの女子が俺の肩を叩いてきた。しかも、わざわざ屈んで笑顔を向けてくる。
しかし俺は目を向けず、無言で読書を続ける。
「ありゃ、無視? も〜、仲良くしようぜよ〜」
それでも無視。
だが、そこへ…
「おい! こんな可愛いタカラちゃんを無視すんな!」
また一人、声を荒げるクラスメイトが来て、俺の小説を取り上げる。
「ヒロタ! 勝手に盗るのはダメぜよ!」
「すまねぇ!」
ヒロタはあっさり返す。俺は、その小説を再び開くが…。
「無視すんな言っとるじゃろ!」
今度は後ろ襟を掴まれ、顔を上げられる。丸坊主のヒロタは怒りをあらわにして睨み、オレンジ色のロングヘアのタカラは腕を組んで考えていた。
「ん〜…そんなに本読みたいなら、こうしよう! うちとデュエルして、うちが負けたら読書中は話しかけないぜよ!」
待て。デュエルする事が前提かよ。
…まぁ、納得いかないが、それで黙ってくれるなら、妥協しよう。
俺は、小説を閉じて、タカラとやらに目を合わせる。
「分かった。やろう」
「うっし! デュエルぜよ〜!」
タカラ……変な奴だ。こんな冷たい俺とのデュエルでも喜ぶなんて。
「逃げんなよ」
ヒロタが襟を離す。
逃げるな? その言葉、そっくり返す。よく見とけよ。
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「じゃ、ここでデュエルぜよ!」
タカラが俺の後ろの席に着き、デッキをシャッフルする。俺も、椅子を向かい合わせて座り、デッキを鞄から出してシャッフルした。
「ルールは、ワンパンチデュエルでいい?」
「ああ」
ワンパンチデュエル。
直接攻撃を1度でも当てたら勝つ、近所で流行りのデュエル。それ以外は公式のルールで行うから勿論、ライフがゼロになったり、デッキがゼロになったり、エクゾディアが揃った場合でも勝敗は着く。まぁ、そんな面倒な事をする奴はほとんど居ないが。
「じゃんけんポン! …先攻を貰うぜよ!」
じゃんけんの結果、タカラが先攻を選ぶ。互いにデッキをシャッフルして、その上から5枚を手札に加え、始まった。
いや、
「うちのターン! まずは…」
「俺の勝ちだ」
「へ?」
俺は手札の5枚をタカラに見せる。
「えぇっ!!?」
「何やと!?」
タカラと、隣で見ていたヒロタも驚愕し、連鎖する様にクラスの何人も驚愕した。
それは、、、
封印されし者の右腕。
封印されし者の左腕。
封印されし者の右足。
封印されし者の左足。
封印されしエクゾディア。
この5枚が手札に揃った瞬間、俺の勝ちが決まる。
「約束通り、話しかけるな」
俺は、その5枚やデッキを片付けながら言った。
「約束…あ、そうだった。でも…でも!」
不満があるらしい。一応聞くか。
「悔しいぜよ! 何にも出来ない! あんなの…、スゴすぎるぜよ! あんな負け方、初めてぜよ! ねぇ、どうやったら勝てるんぜよ?」
「…」
何だこいつ。悔しんだり驚いたり悩んだり……面倒くせぇ。こんな奴に一々対応してられるか。
そう分析した俺は無言で椅子を戻し、読書を再開した。
「…うん。約束だよね」
ようやく諦めたか---
と思ったが、後ろ襟を引っ張られ、睨まれる。またお前か。
「あんなの認めん! あんなので勝ったつもりか! 初手エクゾなんて有り得ねぇ! どうせ、イカサマしたんじゃろ!」
「ヒロタ、いいんぜよ」
「止めんなや、タカラちゃん! こんなイカサマ野郎を認めてたまるか!」
自分勝手な見解を言われている中、俺は目で見渡してみる。こっちを見るクラスメイトの誰もがヒロタに反論しない。敗北を認めたタカラでさえも。
…どうして、こうなった。俺はイカサマなんてしてない。だが、真実を口に出したら、更に騒がしくなる。ならば…仕方ない。
「分かった。もう一度やろう。エクゾディアが揃っても勝ちにならない事にしてな」
「おうよ! 実力を見せてみろ!」
「ああ。タカラ、それでいいか?」
「…うん!」
再び、俺たちは机越しに向かい合い、イカサマ防止として相手のデッキをそれぞれシャッフルする。
「じゃんけんポン! …先攻を貰うぜよ!」
じゃんけんの結果、タカラが先攻を選ぶ。互いに5枚をデッキの上から手札に加え、始まった。今回は、エクゾディアが揃っても勝ちにならない。故に、この5枚は単なる弱小カードだ。
「うちのターン! まずは…
「俺のターン、ドロー。魔法カード、手札抹殺。俺はこの5枚を捨てる」
俺は手に持つ5枚をタカラに見せた。
封印されし者の右腕。
封印されし者の左腕。
封印されし者の右足。
封印されし者の左足。
封印されしエクゾディア。
「えぇっ!!?」
「何やと!?」
タカラと、隣で見ていたヒロタも驚愕し、連鎖する様にクラスの何人も驚愕した。
「お前! またイカサマ……いや、今回はする意味が無い! どうなってんじゃ?」
「黙れ。タカラ、続けるぞ」
「う、うん!」
俺たちは互いに手札を捨てて、その数だけドロー。
さて、新たな手札で展開していくか。
「魔法カード、カップ・オブ・エース。コイントスをして、表なら俺が、裏ならタカラが2枚ドローする。さぁ、コイントスだ」
俺は、デッキケースに忍ばせたコインを取り出す……それを、ヒロタが奪った。
「待て、イカサマ野郎! コイントスは儂がやる!」
まだ疑ってるか。いいだろう。じきに気付く。
「行くぞ! おりゃあー!」
ヒロタの親指に弾かれたコインが宙を舞い、手の甲に乗る。その結果は…
「表じゃー!」
「表ぜよー!」
「よって、俺が2枚ドロー。さらに、もう1枚のカップ・オブ・エースを使う」
「またかっ!? ええぃ、儂がやる! おりゃあー!」
結果は…
「表じゃーー!」
「表ぜよーー!」
「2枚ドロー。さらに、3枚目のカップ・オブ・エースを使う」
「…待て。今度は、表が出たらタカラちゃんがドローするのは、どうじゃ」
「いいだろう」
「よし! 行くぞ! おりゃあー!」
結果は…
「裏じゃーーー!」
「裏ぜよーーー!」
「2枚ドロー」
結果、手札が8枚になった。
「な、何だこりゃ。どんなイカサマを」
「おい」
まだアホな事を言うヒロタに、俺は視線を向ける。
「薄々気付いてるだろ。いい加減認めろ」
「うっ⋯、そ、それは⋯」
ヒロタの奴、俺から目を逸らして言い淀んでいる。
⋯まぁ、それが正しい。お前のそれは、恐怖だ。
それを今、言葉にしてやる。
「俺は、デュエルでは運が異常に良いんだ」
ヒロタだけじゃない。見渡す限りのクラスメイトが、この俺を見て固まっている。
…それでいい。
⋯もう誰も、俺に関わるな⋯⋯⋯⋯
「すげぇーーー!」
は?
「やっぱりそうだと思ったぜよ! すっごい運が良いんだね! 有り得ないぜよ、ホントに!」
ふんふん、と。鼻息荒いタカラが、真っ直ぐに俺を見て言ってきた。
「タカラちゃん。何でそんな嬉しそうなんじゃ?」
「そりゃ勿論! ヒロタ! 初手エクゾとか、カップオブエース3連続とか! もう、初めて見るぜよ! こういうのを神引きって言うんだね!」
ちょ、耳がキンキンする。
「おい、タカラ、落ち着け」
「無理! 落ち着いてられないぜよ! こんな相手にどうやったら勝てるのか! 考えるだけでワクワクするぜよ!」
ワクワク…?
何だこいつ。初めて見る? それはこちらも同じだ。どんな奴も俺を恐れてきたのに、本気で勝ちに来ている?
…疑問が、口から零れる。
「俺に勝つ気でいるのか」
「うん! 勝ってみせるもん!」
「⋯よく言えたもんだ。俺の実力はこんな程度じゃないぜ?」
「望むところ! かかって来いぜよ!」
互いに手札を構え直す。
いいぜ。
実力差で、叩き潰してやる。
「魔法カード、ハーピィの羽帚。伏せカードを全て破壊する」
「させないぜよ! 破壊される前に発動! 永続罠、
「「「「おおお!」」」」
ヒロタを含む観衆が騒ぐ。確かに、
…だが。それ以上に厄介なカードを、こちらが出せば済む事。
「魔法カード、トライワイトゾーン。封印されし者の右腕、左腕、右脚の3体を墓地から特殊召喚」
「3体も!?」
「さらに、それら3体をリリースして、召喚神エクゾディア3体を特殊召喚」
「「おおお!」」
周囲が驚く。タカラは今ひとつ分かってない様子だ。
安心しろ。幕引きだ。
「バトル。召喚神で
「ごーせーんー!? そんなのが3体も! ま、待って! 手札から、虹クリボーの効果! 攻撃を止めるぜよ!」
「無駄だ。召喚神は効果を受けない」
「そんなぁぁぁ!」
「まずは、1体目。攻撃力2400の
「ぎゃあああ!」
「続いて、2体目も攻撃。2600のダメージ」
「あひぃぃん!」
「3体目も攻撃」
「むわぁぁあ! で、でも、残りライフ200ぜよ! かろうじて残ったぜよ!」
「いいや、終わりだ。速攻魔法、禁じられた聖槍。
「負けたぜよーーーー!」
デュエル終了。
その直後、周囲から歓声があがった。
さっきまで、俺を見てビビっていた奴らが、笑顔で寄ってくる。
⋯どういう事だ。ワンパンチデュエルで、ライフをゼロにしたんだ。叩き潰した。何故だ?
「すげぇな! イカサマ野郎!」
「うっぐ…」
思考が追いつかない隙に、ヒロタが俺の背中を思いっきり叩いてきた。
「痛ぇな、おい」
「すまん! ガハハハ! 久しぶりに、ライフがゼロになる所を見たもんでな! ガハハハ!」
デカく笑いやがって。こっちは笑えないんだが。
と、溜息をついた時、タカラが笑顔を向けてきた。
「カッコ良かったぜよ!」
…何だこいつ。さっき悔しがってたが。立ち直りが早いな。
「カ、カッコ良かったぁ!? おいっ! 今度は儂とデュエルじゃ! 今すぐ!」
何故かヒロタが怒る。しかし、忘れたのか?
「約束しただろ」
「…お、おう。そうじゃったな。じゃあ、断ってもいいぞ! 儂は約束を守る男じゃ!」
どうやら、ヒロタが話を聞く姿勢になってる。これはチャンスだ。ようやく、一人になれる。
…しかし。何故だろう。
「いいぜ、デュエルしようか」
「お? マジか?」
ヒロタが驚いている。それもそうだ。他人を遠ざけていた奴が、自分から関わろうとするんだ。
「ああ。ぶちのめしてやる」
散々俺に大口叩いてきた野郎を、この手でぶちのめす、それだけだ。
…楽しむ為、なんかでは無い。
もう俺は楽しまないと決めたから。
「ふはははっ! 全力で行くぞ! イカサマ野郎っ、じゃなかったな。ええっと⋯名前は⋯」
さっきのホームルームで自己紹介しただろう。
まぁ、良い。改めて教えてやる。
「俺の名は、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次回予告
「さてと! 次回予告するぜよ! 次回は…、え? たくさんの女子が、キミオにデュエルを申し込んでるぜよ! デュエルと聞いたら黙っちゃいないぜよ! うちも混ぜてー! って言ってる場合じゃないぜよ。何だか、学校のあちこちでキミオの噂が出回ってるぜよ。デュエルに必ず勝てるとか、得意料理がオムライスとか……え? キミオは何も言ってない? じゃあ、誰が噂を流してるんぜよーー!?
次回。笑顔が可愛い。デュエル・スタンバイぜよ!」