「キミオくーん!」「待てー!」「ヒャッハー!」
シロキとのデュエルから1週間が経つ頃。俺こと遊戯王キミオは、十人ほどの女子たちに追われて廊下を走っていた。
その原因は俺も知っている。シロキがこんな事を女子たちに言ったから。「キミオは強いけど、もしもデュエルで勝てた子は、僕とデュエルしよう。僕の家で二人きりでね」
その結果、お前を慕う女子がこうなるなんて分かりきってるだろ。清々しい顔で腹立たしい事をしやがって---
「⋯やべっ」
と、考えながら曲がり角を曲がったその時、誰かがしゃがんでいた。俺は咄嗟に飛び越えて衝突を避けた、だが、下手な着地をして顔から滑り込む。
くそっ、鼻が、痛ぇ。
「だ、大丈夫!?」
そのしゃがんでいた人物が駆け寄る。クラスメイトのタカラだった。見ると、廊下にカードが何枚か広がっている。拾っていたのか。
「大丈夫だ」
「鼻血!」
タカラが俺を指さす。全然、大丈夫ではなかった。
遊戯王王王
第3話
俺とデュエルしませんか?
白を基調とした部屋の真ん中辺りで椅子に座り、俺は一息つく。
「良かったね、保健室の目の前で」
タカラと同意見だ。すぐ近くが保健室だったし、俺が逃げ込んですぐに女子たちが保健室に来たが、白衣を着た先生が「ここには女子しか居ない」と偽ってくれて、女子たちは散り散りに走っていった。…他の偽り方は無かったのか? いや、贅沢を言えないか。
「さて。少年は鼻をケガしたのかな?」
先生が、ティッシュで鼻血を抑える俺を見てくる。ぱっと見は、長いポニーテールの髪型で細身の若い女性…と言うか同い年か? 若すぎる。
「先生! キミオは、走って転んで、鼻をぶつけたんです」
「そりゃ痛いね~。ヒトミ、よろしく」
と言いながら、先生は奥のベッドのカーテンを覗く。そこから、三つ編みツインテールの女子が顔だけ出して俺を見てきた。ここの制服を着てるから中学生と分かるが、中学生に何をよろしくなんだ?
「……ふむ、ふむ」
三つ編みツインテールが先生に小声で耳打ちをして、終わるとカーテンの奥に引っ込んだ。で、先生は語り出す。
「少年、しばらく下を向いてるだろ? それで鼻血が喉に来てないなら、しばらく座って鼻をつまんでりゃ治るさ〜」
「治る! 良かったね、キミオ!」
タカラが喜ぶ。俺は、そんな安易に信じれねぇが…
「腑に落ちないね少年。大丈夫さ〜。ヒトミの愛読書は医学の本なんだ〜」
「ちょ、やめてって」
「あっはっは〜」
カーテン越しに話す二人。片や、白衣を着ているが診察しない奴。片や、中学の制服を着ているが診察できる奴。二人とも、何なんだ?
「さて。そろそろ種明かしだね〜」
先生が白衣を脱ぐ。その中に着ていたのは、この中学の体操着だった。
「あたしは、フフリ。2年1組。白衣を着てただけさ〜」
「そうなんですね! うちは、タカラ! 1年3組です! はじめまして、フフリ先輩!」
「フフリ先輩…⋯⋯いいね、もう一回言って?」
「フフリ先輩!」
「くぅ、堪んないね〜。もう一」
「フフリ」
「な〜に?」
三つ編み女子がカーテン越しにフフリ先輩に告げる。
「次は体育でしょ?」
「おっと、間に合うかな〜」
と言いつつもフフリ先輩はのんびりと保健室を出ていく。
「うちも行こうかな。キミオ、先生には言っとくぜよ」
「すまない」
タカラは手を振って小走りで出ていった。
「ヒトミ。先生に言っとくね〜」
「ありがとう」
フフリ先輩が廊下から顔を出して言う。……そして、俺の方を見て、
「少年。ヒトミは男子が苦手なんだ。変な事しちゃダメだぞ〜」
「フフリ!」
「あっはっは! またね〜」
ひらひらと手を振り、今度こそ出ていった。
…静寂。
そよ風が一つ通る。そよ風の音が聞こえるほど、静かだ。
俺は、ぼんやりと外を眺める。外では、木の葉がそよ風に揺れ、さらさらと小さく踊っている。
目を閉じる。そして、一呼吸。こんなに小さい音は、いつぶりに聞いたのだろう。最近は慌ただしくて、走ってばかりだった。その結果すっ転んで痛い思いをしたが……こうして穏やかな音に気付けたから良しとしよう。
…ん。カーテンの閉まったヒトミ先輩のいるベッドから、カードを並べる音も聞こえる。そよ風と同じく心地良い音だ。
--ひゅう
と、風が強めに吹いた時だった。ヒトミ先輩のベッドからカードが何枚か落ちた。その内の1枚が俺の方まで滑ってきた。
「拾います」
俺は、その滑ってきたカードを拾い、カーテンに手を入れて手渡す。
「あっ…、ありがとう…ございます」
受け取ると、すぐベッドに戻る。その時、カーテンの隙間から見えた。ヒトミ先輩が、二つのデッキをベッドに並べて一人でデュエルしていた。
俺は、ほろりと口が滑るように言った。
「良かったら、俺とデュエルしませんか?」
「えっ!?」
「カーテンはそのまま閉めて、離れてデュエルです。どうでしょう」
「………………いいと思います」
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それから、俺は部屋の真ん中の机にデッキを置く。右手で、デッキを複数に分けては重ねてを繰り返す。左手は鼻をつまんでるからな。
「こっちは準備出来ました」
「私も、出来ました」
「では……ところで、先攻後攻はどうしましょう」
「……ふふっ。あ、ごめんなさい。えっと…困りましたね。じゃんけんは出来ませんし…コイントスも…ですし」
そう、カーテン越しだと、じゃんけんの手が見えないし、コイントスも表裏を偽って言えてしまう。
ならば…
「ヒトミ先輩は、先攻後攻どちらが動きやすいですか?」
「先攻です」
「では先攻をどうぞ」
「い、いいんですか?」
「はい」
「では…お言葉に甘えて、先攻を頂きます」
「あと。ルールは?」
「ワンパンチデュエルで、お願いします」
「分かりました。では、始めましょう」
デュエルが始まった。
俺は、デッキの上から5枚を引いて手札にする……が、やはり、忌々しいほどの強運は健在。今回も、初手エクゾディア。
しかし。それをデッキの下に戻して5枚ドローさせてもらう。ルール違反だが、丁度カーテンで見えない。このまま続行だ。
「私のターンです。スクラップ・シャークを召喚。そして、フィールド魔法のスクラップ・ファクトリーを発動。この時シャークの効果が発動して、自身を破壊してスクラップ・サーチャーをデッキから墓地に落とします。さらに、スクラップのモンスターが効果破壊されたので、ファクトリーの効果を発動。スクラップ・ゴーレムをデッキから特殊召喚……あの、このまま続けていいでしょうか」
「どうしました?」
「何だか…1人で勝手に進めてるような…」
「大丈夫です。ちゃんと聞いていますし、何かあれば言います」
「そうですね…すみません。続けますね。私は、ゴーレムの効果で墓地のシャークを特殊召喚。さらに、スクラップ・オルトロスを自身の効果で手札から特殊召喚し、さらに効果を発動、シャークを破壊します。スクラップが破壊された事で、サーチャーを墓地から特殊召喚。そして今破壊されたシャークの効果で、サーチャー2体目をデッキから墓地に落とします。サーチャーを素材に、リンクリボーを
「大丈夫です。流れるようにプレイしていて、短く感じます」
「…ありがとう…ございます」
「では、俺のターン、ドロー。モンスターをセット。カードを5枚セット。ターン終了」
「は、早い…。わ、私のターン、ド、ドロー。スクラッ…キマ………」
「落ち着いて下さい」
「す、すみません。噛んじゃいました」
俺が早すぎて、焦らせてしまったか。
「ヒトミ先輩のペースで、ゆっくりでいいです」
「は、はい。ゆっくり…ゆっくり…」
呼吸を整える。
…そして、再開した。
「行きます。スクラップ・キマイラを召喚。その効果により墓地のオルトロスを特殊召喚。そして、ツインドラゴンの効果で、私のオルトロスを破壊し、キミオくんの伏せた左右両端のカード2枚を手札に戻します」
「いいでしょう」
「では、オルトロスが破壊された事でオルトロスの効果を発動。墓地のシャークを手札に加えます。さらに、ファクトリーの効果も発動して、デッキからスクラップ・ゴーレムを特殊召喚。さらに、墓地のサーチャー2体も自身の効果で特殊召喚。ただし、リンクリボーを破壊してしまいます」
「今、いいですか」
「は、はい!」
「リンクリボーが破壊されたタイミングで、俺は伏せカードの手札断札を発動します。妨害しますか?」
「…いいえ」
「では、互いに2枚捨てて2枚ドローです。丁度、2枚ありますよね?」
「はい。スゴいです。見てないのに…」
「ちゃんと聞いていますので」
「…ありがとうございます。では続けます。聞いていて下さい。私は、サーチャー2体で、ミセス・レディエントを
「戻りました」
「では、破壊されたミセス・レディエントの効果でオルトロスを手札に加えます。そして、オルトロス自身の効果で手札から特殊召喚して、自身を破壊。破壊された事で墓地のキマイラを手札に加えます。オルトロスが破壊された事でサーチャー2体は特殊召喚できます。その2体を素材に、もう一体のミセス・レディエントを
「セットモンスターは、メタモルポットです」
「えっ!?」
「効果を発動。互いは手札を全て捨てて5枚ドロー。そして俺は、手札から捨てられた絶対王バック・ジャックの効果を発動。デッキの上から3枚を見て順番を変えます。さぁ、どうぞ」
「…まさかメタモルポットとは。でも、これでフィールドは何も無いでしょう。ゴーレムで直接攻撃!」
「この瞬間、墓地から光の護封霊剣を除外して発動。このターン直接攻撃を封じます」
「そ、そんな……では、伏せカードを3枚セットして、ターンエンドです」
「エンドする時、バック・ジャックを墓地から除外して、2つ目の効果を発動します。デッキの上が通常罠ならセットできます。デッキの上は、通常罠のブービートラップEです。セットします。……そして、手札を1枚捨ててブービートラップEを発動」
「セットして、すぐ!?」
「そうです。バック・ジャックの効果により伏せたターンに発動を可能にします。俺は、ブービートラップEの効果で、墓地から永続罠、
「…はい。戻されます」
「では、俺のターン」
「はい。キミオくんの実力、見せて下さい」
…何だか、ヒトミ先輩の声に少しだけ活気が出てる気がする。
いいぞ、この調子だ。
「行きます。ドロー。手札を1枚捨てて、速攻魔法、ツインツイスターを発動。ファクトリーと、デッキ側のセットカードを破壊します」
「させません! スターライト・ロードを発動! 破壊を無効にして、スターダスト・ドラゴンを特殊召喚!」
「ならば、
「それも、させません! 速攻魔法、コズミック・サイクロン!
「…やりますね」
「はい。全力で行きますよ!」
「望む所です。俺は、トレジャーパンダーを召喚。その効果で、墓地の魔法または罠を除外して、封印されし者の左腕を特殊召喚。この効果をあと3回発動して、右腕、右脚、左脚を特殊召喚します」
「エクゾディアパーツをフィールドに?」
「はい。理由は後ほど。カードを2枚伏せ、ターン終了です」
「私のターン、ドロー!」
「ドローフェイズ、これを発動します。罠カード、スウィッチヒーロー」
「スウィッチ⋯ヒーロー?」
「これは、お互いのモンスターの数が同じであれば、コントロールを全て入れ替えます」
「えぇ!?」
「互いに5体ずつ。しかし、数が変われば不発になります。何かありますか?」
「……ありません」
「では、カードを…今そっちに持っていきますね」
俺は立ち上がり、カードを渡しに行く。カーテン越しでも、ルールに則るのは変わらない。
そうしてカーテンの前に立った俺は、隙間に手を入れて差し出す……前に、カーテンが勝手に開いた。
「キミオくん…あの…」
違った。ヒトミ先輩が自分から開けた。面と向かいあって、しかし時々視線を下に横に泳がせて。
男子が苦手な、ヒトミ先輩が。
「どうぞ」
「はい。どうぞ」
「…ふふっ」
ヒトミ先輩は、ぎこちないながらも、確かに笑っていた。
「キミオくん。謝ることがあります」
⋯急に、何だ?
「⋯何でしょう」
「さっきまで、顔を合わせようとしないで、ごめんなさい。人との関わりを嫌う、と噂に聞いていたんですけど、そんな事無かったです。キミオくんは優しくて良い人です」
「⋯」
「⋯あ。そ、それだけです。デュエルを続けましょう!」
そうして、再びカーテンの方へ行く。しかし、カーテンは開いたまま。
優しくて、良い人⋯⋯か。
「では、行きます! 封印されし者の手足4枚で、
直接攻撃か。ならば…
「この瞬間、俺は--」
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「はぁ」
あれから時が経ち、今は家の近くを下校中。既に鼻血が止まってる俺は、保健室での出来事を思い耽る。
あの時、スクラップ・ワームの直接攻撃を封じる手段はあったが……しかし、突然吹き抜けた風で俺のカードがバラバラに落ちてしまった。すぐにヒトミ先輩がカーテンから出て、一緒にカードを拾ってくれた。
⋯そして、ヒトミ先輩は柔らかい笑顔で、こう言ったっけ。
「テーブル越しに、もう一度デュエルしませんか?」と。
「⋯まぁ、助けられた恩は返せただろう」
優しくて、良い人? 残念だが、それは演技だ。
ヒトミ先輩に楽しんでもらう。それが、俺がデュエルを誘った真意だ。他人との関わりを拒む俺は、受けた恩を返さずに延々と時間を過ごす事は無い。返せる時に返す。それで、終わりだ。
そう。そうやって、今まで俺は関わりを斬ってきた。
なのに。
何故、デュエルを誘う時、ほろりと滑るように言えれたのだろう。
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次回予告
「キミオは、すっかり治ったらしい。良かった良かった。…そんなある日、とある情報が広まる。声優デビューしちゃった生徒が、この学校にいる!? しかも、記念として握手会が学校で開催される!? そんな握手会の順番待ちにいるのは…キミオ!? 何してんのーーー!?
次回。アホ。デュエル・スタンバイぜよ!」