「はぁ、はぁ、はぁ」
荒れる息遣い。学ランを着た少年は森を駆ける。
「ジョウ! 来たよ!」
少年の後ろにいたセーラー服を着た少女の合図で、ジョウと呼ばれた少年は止まる。ジョウは弓を構えて矢をつがえた。
しばらく耳を澄ますと、前の茂みから、黒い霧を纏う狼が牙をむき出して歩いてきた。
「まだ3匹。囲まれてる。私も戦うわ!」
「ダメだ。ユウカは逃げろ」
「またそんな事を!」
「本当に、勝手な事で、ごめん。だけど、ユウカだけは、俺が守りたいんだ!」
「っ…」
少年の決意ある背中に、少女は押し黙る。
その時、狼が飛びかかる……が、狼の眉間を矢が貫き、狼は霧散する。同時に少年は走り出す。
「うおおおおおっ!」
遊戯王王王
第4話
アホ
……というシーンで動画は終わった。
「これが、貫きのジョウ! かっこいいじゃろ!」
教室の自席で小説を読む俺に寄りかかって、アニメ動画を再生し終わったスマホを見せながら、筋肉隆々のヒロタが聞いてくる。
俺は、ため息をしながら答えた。
「別に」
「なんじゃと!? 主人公の男っぷりが分からんのか!?」
「分からん。興味ない」
「…ええい! ならば、これは興味が出るじゃろ! 主人公の声の主が誰か、分かるか?」
「興味ない」
「なん…じゃと」
「だが、あいつなら詳しい」
そう言って俺は廊下を歩く赤毛メガネの女子を指差す。シロキのクラスメイトだ。
「そうか! ありがとな!」
ヒロタは空を切って走っていった。
…やれやれ。まさか、あいつが声優デビューするなんて。何か面倒な事が起こる前兆だろうか。
---
「起立、礼!」
日直のヒロタが挨拶して、あとは部活なり帰宅なりの時間になった。俺たち1年生はまだ部活に入ってないから、自主的な見学をしない限り帰宅するかデュエルするか、なのだが……
驚くことに、俺が教室を出ると、その廊下に生徒達が大勢並んでいた。1年1組から始まり、ここ1年3組近くの階段まで伸びている。
「くそっ! もうこんなに!」
こいつも驚いているが、俺とは違う。ヒロタが悔しがっている。
「キミオ! 急ぐぞ!」
「は?」
突然、俺の首根っこを掴み、ヒロタが引きずっていく。
「待て。どこ行くんだ」
「決まっておろう! 並ぶんじゃ! シロキの握手会に!」
「握手会?」
「握手だけじゃねぇ! ジョウの声でデュエルしてくれるんじゃ!」
「…」
ふむ。大体分かった。『貫きのジョウ』というアニメで主役の声優をしたシロキの人気が高まりすぎて握手会が催された、と言った所か。それで、この俺も参列者と勘違いした筋肉バカに連れていかれてる、と。
情報整理をしている間に最後尾の階段まで到着した所で、俺は感嘆と呟く。
「握手会か。知らなかった」
「知らんとなっ!? そんなもん、どっかのブログでも見りゃ話題になっておろう」
全く見ていない。当然か。ずっと小説を読んでいるし、家では色々と家事をしてるし。
「…まぁ丁度いい」
近いうちにシロキに再挑戦したいと思ってた所だ。
「ほほぅ、珍しい」
「何がだ」
「キミオがのぅ、そんなにデュエルに積極的とはのぅ。初めて会った時は、駄々こねて嫌がってたろ」
「駄々は、こねてねぇよ」
…それ以外はヒロタの言う通り。少し前の俺なら、逃げてばかりだった。しかし、逃げても俺がケガするだけで何も進展しないなら、もう逃げても無駄だ。シロキに挑み、そして勝つしかない。
と、考えていた、その時。
「遊戯王キミオ!」
怒気の篭った声で呼ばれる。見ると、赤毛のメガネの女子が俺を呼んでいた。朝にも見かけた、シロキのクラスメイト。
「お前は並ぶな! 帰れ!」
「…理由を聞こう」
「気に食わないのよ! あんたがシロキ様とデュエルするなんて、認めないんだから!」
「…」
気に食わない、それだけとは。理不尽極まりない。
「ちょい待て、ホノリちゃん。それは少し酷くねぇか?」
「あんたは関係無い! 黙ってて!」
「分かった!」
言われてすぐに棒のように固まるヒロタ。相変わらず女に従順だ。
…まぁ、ヒロタは置いといて。俺は、こんな理不尽な奴にも、逃げるつもりは無い。
「ホノリ」
「はぁ? 気安く名前で呼ばないで!」
「じゃあ何て呼べばいいんだ」
「ホノリ様と呼びなさい!」
こいつ、面倒くせぇ。まぁ、名前をなるべく言わないで進めよう。
「俺が気に入らないなら、デュエルで打ち負かしてみろ。そしたら帰ってやる」
「はっ! 上等よ! コテンパンにしてやるわ!」
「だが、もし俺が勝ったら?」
「私が帰る!」
…俺にメリットを感じないが、まぁいい、さっさと始めるか。
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やがて、ヒロタが机を2つ持ってきて、デュエルの準備は整う。幸い、握手会の順番は進みが遅いので遠慮なく廊下でデュエルできる。
「やっほー! やってるね!」
クラスメイトのタカラが、俺の手札を覗いてきた。
「あれ? 初手エクゾじゃない時もあるんだね!」
「それ以上、喋るな」
「あっ、ごめん」
ったく。何を言い出すか分からないな。
「よし、始めるぞ。俺は伏せカード4枚をセット。ターン終了」
「あらあら、随分と弱気ね。速攻で決めるわよ! ドロー! 通常魔法、ナイトショットを発動。右から2番目、その伏せカードを破壊するわ」
「…ほぅ」
射抜かれたのは、
「さらに! 速攻魔法、コズミックサイクロンを発動! 1000ライフを払って、左から2番目、そのカードを除外するわ!」
「ああっ! 除外されちゃったぜよ!」
今度は、光の護封霊剣が除外される。墓地で活躍するカードを除外するとは、またしても手痛い事をしてくれる。
…しかし、この違和感は何だ。
「それじゃ、いくわよ! 手札から、マジシャンズ・ロッドを召喚! 効果で、永続魔法、黒の魔導陣を手札に加える。そして、黒の魔導陣を発動! デッキの上から3枚見て、ブラックマジシャンを手札に加えるわ! さらに、スケール8の竜穴の魔術師と、スケール1のアストログラフマジシャンを、
この流れ…まずいな。
「これでレベル2から7を同時に召喚できる! 行くわよ、
除外されたのは、波紋のバリア-ウェーブフォース-。絶妙なタイミングだ。
「やばいぜよ! やばいぜよ!」
「タカラ、うるさい」
手の内がバレるだろ、と思いつつ、ホノリを見た時だった。
違和感は、これだった。
「何よ」
ホノリは、平然としていた。絶妙な除去を連続させたのに、一度も驚いていない。まるで、それが当然の結果であるかの様に。
…一つ、試してみるか。
「続けるわ。私は、2体のマジシャンを素材に、
除外されたのは、ブービートラップE。呆気なく消滅。
「だが、攻撃は通さない。手札から速攻のかかしを捨てる。バトルフェイズは終了だ」
「命拾いしたわね。いつまで凌げるかしら。ターン終了」
「キミオ、やばいね」
やばい。ホノリの場には3体のモンスター、2枚の
「俺のターン、ドロー」
引く。
そのカードを一瞥し、ホノリを見る。
「そんなにいいカードを引いたの?」
「まぁな。一発逆転してやるよ」
「やってごらんなさい」
そして、俺はタカラにも言う。
「タカラ。しばらく黙ってろよ」
「え? うん」
タカラに念を押して、引いたそのカードを、裏向きで、
「ここに伏せる」
魔法・罠ゾーンの真ん中にセットした。
「…アホなの?」
「至って真面目だが」
「アホでしょ! それは……あっ」
ホノリは、失言だと気付いたようだ。
「そう。魔法・罠ゾーンに、モンスターカードを伏せるなんて、アホだよな」
俺は、伏せたそれを公開してホノリに見せる。それは、ラーの翼神竜
「よく分かったな」
「これは…その…」
ホノリは言葉に迷ってる様だ。
間違いない。ホノリは、何らかの手段で俺の手札を随時確認できていた。だから、絶妙な除去をしながらも大して驚かずに淡々と進めていた訳だ。故に、そんなホノリが驚くようなアホを演じさせてもらった。
…今にして思えば、エクゾディアが一枚も初手に来なかったのも納得いく。ホノリがカットする時にエクゾディアを下の方に寄せたんだろう。
「どうしたの? 考え中?」
タカラは全く気付いていないが、説明するのが面倒だし放っておこう。しかし、デュエルが止まってるのは俺も見過ごせない。
「まぁ、どうでもいい。続けるぞ」
「…え?」
どうでもいい事だ。別に、ルール違反してる訳じゃないからな。
「俺は、そっちの場の3体をリリースして、そっちにラーを召喚する」
俺はカードを置く。しかし、ホノリは一向に動かない。
「おい、どうした」
「何で続けるわけ? こんな卑怯な私と」
「卑怯? どこがだ。ちゃんとデュエルしてるだろ」
「ちゃんと…してないわ。これ以上デュエルしたってダメよ」
ホノリが、項垂れる。
「私は、常に勝ち続けないといけない。この透視メガネを作った父さんをお偉いさんに認めさせる為。父さんに褒めてもらう為。勝って勝って勝ちまくってきた。でも、もうダメ。父さんに、合わせる顔が…」
と。最後の方は、ホノリらしくない弱々しい声になる。
事情の一端は分かった。しかし、家族の問題に口を挟む権利は無いと分かった上で、俺は言う。
「アホか」
「アホじゃないわ!」
「いいや、アホだ」
「何よ! 私だって頑張って--」
「うるっせぇ! アホだっ!」
声を荒らげる。ホノリは怯んだ。
「言いたい事を言わずに意地張るとか、アホだ! お前も! お前の父さんもだ! 死んだら二度と話せないぞ!」
…。
…しばらく、互いに沈黙したまま見合う。
ああ、しまった。言葉をオブラートに包まず出してしまった。見ろ、ホノリが何も言えないでいる。そりゃあ、こんな極論を言われたらな。
「ふん」
すると、ホノリは小さく笑う。そして、メガネを外してポケットに入れた。
「そんなの、私は御免よ! 私は常に……常に強くなる! こんな物を使わなくても!」
「なら見せてみろ」
「ええ! 私のターン! ドロー! カードを1枚伏せて、ターン終了!」
「この時、ラーは俺の場に戻る。そして、俺のターン、ドロー。魔法カード、カップ・オブ・エースを発動。コイントス。表。俺は2枚ドローする。カップ・オブ・エース発動。コイントス。表。2枚ドロー。カップ・オブ・エース発動。コイントス。表。2枚ドロー」
手札は4枚になった。
「くっ…、流石は神に愛されたデュエリスト」
「さらに、手札を1枚捨てて速攻魔法、ツインツイスターを発動。黒の魔導陣と、伏せカードを破壊する」
「その瞬間に発動するわ! 威嚇する咆哮! このターン攻撃出来ない!」
「だったら、盤面を固めるまでだ。トレジャーパンダーを召喚。効果を発動。墓地の魔法カードを3枚除外して、封印されし者の右脚、左腕、左脚を特殊召喚」
「そんなザコを並べて、どうするの?」
「こうするのさ。俺は、左腕を素材にして墓地に送り、
「リンクモンスター…、持っているとはね」
「最近貰ったんだ。さて、スカルデッドの効果を発動。4枚ドローして3枚をデッキに戻す。…よし、俺は、右腕をリリースして、召喚神エクゾディアを特殊召喚」
「出たー! やったれキミオ!」
「今は攻撃できない」
「あ、そうだったぜよ!」
「このターンは終えるが、この時、召喚神の効果で墓地から右腕を手札に戻す。召喚神の攻撃力は3000。ターン終了だ」
「くっ、効果を受けない3000打点の召喚神…、攻撃も効果も対象にならないラー…、それとスカルデッドも。ガチガチに固めたわね。行くわよ! 私のターン、ドロー! マジシャンズ・ロッドを召喚! 効果で、黒の魔導陣を手札に加え、発動! デッキの上3枚を見て、永遠の魂を手札に加える! 残りは好きな順番で戻す!」
「今更、遅い」
「いいえ、本命はこっちよ。魔法カード、真実の名を発動! 私のデッキの上の名前を言い当てる! それは、死者蘇生! 言い当てた事で、死者蘇生を手札に加え、さらにデッキからオベリスクの巨神兵を特殊召喚! そして、死者蘇生を発動! ブラックマジシャンを特殊召喚! 黒の魔導陣の効果で、スカルデッドを除外する! バトルよ! オベリスクで、召喚神を攻撃!」
打点で越えてきたか。これは流石に無理か。
「1000ダメージを受ける。だが、召喚神が戦闘破壊された時、手札の右腕を見せて1枚ドローする」
「まだまだ! メインフェイズ2! オベリスクの効果を発動! オベリスクとマジシャンズ・ロッドをリリースして、相手の全てのモンスターを破壊! これでラーは破壊できる!」
くっ、最後の砦が破られた。
「1枚伏せて、ターン終了!」
「俺のターン、ドロー。右腕を召喚」
「そこよ! 右腕が出た時、永続罠、永遠の魂を発動! 墓地からブラックマジシャンを守備表示で特殊召喚! 黒の魔導陣の効果で、右腕を除外!」
「禁じられた聖槍で、守る」
「なっ…、やるじゃないの!」
「そっちこそ」
ブラマジを守備表示で出す辺り、俺の次の一手が分かってんだろ。
透視メガネなんか無くても、お前は充分に実力があるのさ。
「行くぜ、右腕をリリース。召喚神を特殊召喚。ブラマジを攻撃」
「守備表示だからダメージは受けない!」
「召喚神の効果で墓地から右腕を手札に戻し、ターン終了だ」
あと一歩。しかし…
「ドロー! 手札から、アストログラフマジシャンを
…防ぐ手段は無い。
「俺の負けだ」
-----
デュエル終了。
「やった! 勝った! 私勝ったー!」
余程嬉しいのだろう、ここが廊下であり人目が多いのを忘れて、飛び跳ねて喜びのまま叫んでいる。
「やったぜよ! いえーい!」
「ありがとー! いえーい!」
何故かタカラも飛び跳ねて喜ぶ。余計にうるさいが…今だけは見過ごそう。
そして…
「おい。落ちたぞ」
「はっ! …あ、ありがと」
メガネがポケットからこぼれ落ちた事に気付かないほど、嬉しかった様だ。
-----
…で。あれから俺は、約束通り、帰った。
しかし…
「次の方ー」
シロキの握手会に、あと少しで順番が来る位置に、俺はいた。
「ななっ!? 遊戯王キミオ! あんた帰ったんでしょ?」
ホノリが驚いている。
「ああ。一度帰って、また来た」
「う…嘘でしょ、早すぎるわ」
「嘘じゃねぇよ。俺の家は、学校から歩いて5分だ」
「ふぁっ!?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次回予告
「ホノリが勝ったぜよ! いやぁ、ハラハラドキドキのデュエルを見せてくれた所で…、さぁ、やって参りました! 今度はキミオとシロキがデュエルぜよ! シロキはアニメキャラの声でデュエルしてて、楽しそう! 対するキミオは、あれ? キミオも楽しそう。段々テンションが上がって…、二人で大笑いした!? キミオらしくない。どうしちゃったんぜよ?
次回。あの日までは。デュエル・スタンバイぜよ!」