それから。
気付けば、空は夕焼け色だった。一日の終わりを告げる色が、今日は案外、暖かい色をしていた。
一日が終わる。この楽しい時間は、今日は終わり。
…また、明日も、こんなに暖かいと良いな。
「タカラ」
「ん?」
「ありがとう」
「うん! 」
遊戯王王王
第7話
もう一度
「またねー!」
「おう」
それぞれ帰路に立つ。この公園から、俺は東に、タカラは南に。随分と遠くに来ちまったが、まぁ、気長に歩いて行こうか。
「……さてと」
俺は歩く。目的地は自宅ではない。
もう迷いは無い。もう迷わせない。俺のせいで、散々振り回してしまった、あいつの元へ。進むほど暗くなる東の方へ。
「…」
やがて、到着。洋風な門に囲まれた、白塗りのレンガの壁の一軒家。その表札に書いてある『
…昔は、近付くのが怖かったっけ。
「よし」
生唾を飲んで息を整えた俺は、門に付いてるインターホンを鳴らす。
しばらくすると…返事が来た。
「はい」
声で分かった。
「俺だ、キミオだ」
「…」
「こんな時間に、ごめん。少しだけ話がしたい」
「………………………いいよ。玄関まで来て」
そして、門が開く。俺は庭を通り、家の扉の前に来る。その時、扉を開けて出たのは、家の住人である、牙城シロキ。ランニング用の薄い服装でタオルを首に巻いている。筋トレか何かをしていた様だ。
「ごめんな、忙しいのに」
「いいよ。で、話って?」
「ああ。謝りたくて来たんだ。今日、デュエルを中断して、本当に悪かった。今日だけじゃない。父ちゃんが死んだ日から、沢山励ましてくれたのに、無視して距離を置いて、悪かった」
俺は、まっすぐ前を向いて、言った。
シロキは、後ろを向く。どんな顔をしてるか分からないが、困らせているのは確実に分かる。
「今まで散々困らせて、ごめん。俺はもう、楽しいデュエルを中断しない。最後までやりきる。悲しい思い出になるから、なんていうマイナス思考には絶対ならない」
「そうか。そっかそっか」
シロキが、俺の方を向く。その表情は…
「気にしないで。僕は大丈夫。今日のデュエルは、また今度続きをやろう」
…何故か笑顔だった。微塵も怒っていない、綺麗な笑顔だ。
「どうしてだ。怒ってもいいくらい、俺は酷い事をしたのに」
「怒ってないよ。キミオが距離を置いてた理由は分かってる。悲しくなるのは無理もない。分かってる。分かってるよ」
「…ありがとう」
こんな俺を許してくれて、本当に。
「礼なんて要らないよ。僕らは友達でしょ。何があっても、ずっと友達だ。ずーーっとね」
…何だ、この胸騒ぎ。俺は今、嬉しい事を言われている筈なのに。
「あ、もう暗くなる。今日はこれくらいにしよっか。今日は楽しかった。あんなに笑ってデュエルが出来るのは、キミオ以外に誰もいない。やっぱり、キミオは一番の友達だ。何があってもね。何って? それは勿論…………………死に別れても」
--ガチャン
扉が閉じる。
静かになる。
俺は、ぽつんと立ちすくむ。
さっきまで暖かな夕焼けだったのに、もう夜になっていた。
「キミオ! おはよー!」
「っ! …タカラ」
振り向くと、タカラが俺を呼んでいた。何を驚いてるんだ俺は。あれから時は経ち、今は朝。校門前。挨拶するのが普通だ。
「むむ、元気ないね。目の下が黒いし。寝不足?」
「あ、あぁ」
昨日のシロキの事で頭がいっぱいで、布団に入っても全然眠れなかった。
「もう朝か」
俺は、大きくあくびをする。
「こりゃダメだ。今日はデュエルしないで、ゆっくりするぜよ」
「そうだな。しかし、タカラにしては珍しい事を言うな」
「何をっ! まるで、うちがデュエルばっかりしてるみたいじゃん! その通りぜよ!」
「…」
眠くて、ツッコミきれない。
で。学校に到着。昇降口で靴を履き替えていると…
「キミオ。見て見て」
タカラが俺の袖を引く。視線の先を見ると、掲示板に張り紙があった。
「何だ? シロキ様カップ?」
内容は、こうだった。
シロキ様カップ。近日中に開催される、校内のデュエル大会。形式は、ランダムに組み合わせが変わるトーナメント戦。勝ち残った生徒8名は、シロキと一泊二日で遊べる権利を得る(寝泊まりはシロキ宅か自分宅かも選べる)。
「デュエル大会だって! でも、シロキと遊びたいかって聞かれると…うーん、他の子に譲るべき、かな。ウチはパス! ねぇ、キミオはどうするぜよ?」
「俺は、出てみたい」
デュエルは楽しみだし、何よりも、シロキとは話したい事が山ほどある。声優とか筋トレとかで忙しいシロキと話すには、絶好の機会だ。
「勝てるといいね!」
「ああ」
それから、日が経ち。
授業が終わり、下校時刻になった所で、ついにその時が来た。場所は、体育館。100人を超える生徒が集まっていた。ざわついていたが、すぐに止む。体育館の照明が消え、ステージにスポットライトが照らされる。そこにいたのは……
「皆さん、お待たせしました!」
シロキが、マイクを通して声を響かせる。周りの女子がキャーキャー騒いだ。
「僕のために集まってくれて、ありがとう! 本音を言えば、皆さん全員とデュエルしたり、お話したり、遊んだりしたい。でも、僕には、声優として活躍する夢がある。その為の自分磨きをしていて、皆と遊ぶ時間が作れない。こんな未熟な僕を、許してくれ! 」
そんなシロキを、
「いいよー!」「許しまーす!」「ヒャッハー!」
大勢の女子が歓声にして慰める。
「ありがとう皆! 大好きだ!」
「「「「キャーーー!」」」」
まさに絶叫。大勢の甲高い声が体育館に響く。
「それじゃあ、また会おう! 皆の健闘を祈ってる!」
そんな締めくくりで、シロキは退場する。あの時の寒気を全く感じさせない、爽やかな笑顔だった。
…遠くにいる様に感じる。
だが、頑張れば会える。
やってやるぞ。もう一度、シロキと昔のように、笑い合うデュエルを実現してみせる。
それから、赤毛メガネのホノリ(メガネ無し)から簡単に説明された所で、ついに大会が始まる。
その足で俺は2年2組まで向かった。俺の持つ携帯端末に送信された、対戦相手の名前とクラスに従ったまでだが……未だに呆れ顔が拭えない。
「キミオ君、こんにちは」
教室から出てきたのは、ヒトミ先輩。かつて俺が鼻を怪我して以来の再会。
「こんにちは。あの時は、ありがとうございました」
「いえいえ! こちらこそ、ありがとうございました! 楽しかったです!」
そう。この人には恩を返すべく、デュエルを楽しんでもらえるよう、俺は優しく対応した。あの時は、演技でそんな対応だったと思っていたが、今にして思えば、俺自身も無意識のうちに楽しんでいたのだろう。
…当の本人には、俺がそんな葛藤をしていたとは知らないだろうな。
「またデュエルしたいです…が、今日はちょっと違う用件でして」
「あたしの事かい?」
廊下の奥から、その声が聞こえた。
2年2組の教室前にいる俺と、対面。この人も、かつて俺が鼻を怪我して以来の再会。
フフリ先輩。
俺の、対戦相手だ。
「いやぁ〜、トイレで大きい奴とデュエルしててさ〜」
「フフリ」
「はい、ごめんなさ〜い」
かつてと同じく、のほほんとした雰囲気だ。しかし、その雰囲気を保ちつつ、眼光は鋭くなる。
「少年は、準備出来たかい?」
「はい」
「じゃあ、あたしの机でやろっか」
そうして俺たちは、フフリ先輩の机をはさんで向かい合い、互いのデッキをカット&シャッフル。ヒトミ先輩が審判をしてくれるらしい。
ついに、大会が始まる。
ルールは、油断すれば一瞬で終わる、ワンパンチデュエル。それに加えて、カードの効果で勝つ事が出来ない。つまり、エクゾディアが手札に揃っても無意味。シロキが考案した追加ルール。まるで、俺を試している様だが…、しかし、その程度で俺は止まらない。待ってろ、シロキ。
「少年」
ふと、フフリ先輩が聞いてくる。
「この大会に出た理由、聞いてもいいかい?」
「はい。俺はシロキとデュエルがしたい。時間を忘れる位に、思いっきり」
「…そっか〜。叶うといいね〜」
「ありがとうございます。フフリ先輩は?」
「あたし? 秘密」
「…え?」
「死亡フラグって知ってるかい? 『この戦いが終わったら結婚するぜ』とかを先に言ってるキャラは大抵負けるのさ。だから、言わない」
「なるほど。俺は負けるという事ですか」
「そうだね〜。残念だったね〜。はっはっは〜」
嵌められた。だが…
「そんな迷信、覆してみせますよ!」
「やってごらん〜」
「「デュエル!」」
「あたしの先攻〜。
フフリ先輩のデッキはHEROか。この状況でマスクチェンジを使って、あれを出されたら、厄介だ。
「俺のターン、ドロー。俺は、トレジャーパンダーを召喚。バトルです、シャドーミストに攻撃」
「おっと、発動するね〜。マスクチェンジ〜。シャドーミストを墓地に送って、
ダークロウ、やはり出たか。俺の墓地に送られるカードを除外する、厄介な奴。
しかも、オネスティネオスを手札に持ってくるとは。硬い守り、そして鋭く攻めても来る。
「ならば、禁じられた聖杯を発動。ダークロウの効果をこのターン無効にします」
「ほほぅ。で?」
「まだ行きます。バトルを終了して、俺は、魔法カード、カップ・オブ・エースを発動。コイントスをします。…結果は表。俺は2枚ドローします。さらに、トレジャーパンダーの効果を発動。墓地から魔法カード2枚を除外して、封印されし者の右腕と左腕をデッキから特殊召喚。俺は、手札を1枚伏せて、ターン終了」
「ん? ちびちび並べただけ? しかも攻撃表示だし。何か誘ってるかい? まぁ、乗ってやろうじゃん〜。あたしのターン、ドロー。魔法カード、マスクチャージを発動〜。墓地からシャドーミストとマスクチェンジを手札に戻す〜。んで、手札断札を発動〜。お互い手札を2枚捨てて2枚ドロー。でも、ダークロウの効果で、少年の捨てるカードは除外されるし、さらに手札を1枚除外するよ〜」
「くっ」
出た。墓地アドも手札アドも潰す、厄介な効果。
「さらにさらに、あたしが今捨てたシャドーミストの効果〜。デッキから
フフリ先輩が、俺の伏せカードを指さす。
…ここだな。
「この時を待ってました」
「なぬ?」
「互いのモンスターの数が同じになる時を」
「まさかっ!?」
フフリ先輩より先に、審判をしていたヒトミ先輩が勘づいた。そう、あの時ヒトミ先輩にも使ったカードだ。
「罠カード、スウィッチヒーロー!」
「…それ知ってる。互いのモンスターが同じ数なら、コントロールを全て入れ替えるんでしょ。ヒトミから聞いた」
「数が変われば不発です。妨害しますか?」
「…する! 速攻魔法、マスクチェンジ! ダークロウを墓地に送って、
「ですが、数は同じ! 入れ替えます!」
「くそ、やられた〜」
という訳で、一気に大逆転。俺の場に、暗鬼を筆頭にHEROが並ぶ。欲を言えばダークロウが欲しかったが、撤退されてしまった。
対するフフリ先輩の場には、攻撃力の低いモンスターが並ぶ。損得勘定では充分か。
「凄いです! キミオ君!」
「ヒトミ〜。あたしの応援してよ〜」
「後でね!」
「ガビーン! …いいよ、一人で頑張っちゃうもん。あたしは、右腕と左腕を素材に、
なるほど、HERO以外にも対抗札を持っていたか。
…しかし、俺は止まらない。
「俺のターン、ドロー! ダブルバイト・ドラゴンをリリースして、多次元怪獣ラディアンを特殊召喚!」
「ぎゃーー! 怪獣されたーー!」
「上手いですね。効果ではなく召喚ルール」
「さらに、ものマネ幻想師を召喚。ラディアンと同じ攻撃力になります。カードを1枚伏せて、ターン終了です」
「あたしのターン、ドロー!
「くっ…」
俺の場が一掃された。しかし…
「とどめだ! アシッドで直接攻撃!」
「さっき破壊された、光の護封霊剣を墓地から除外! このターン直接攻撃を封じます!」
「…やるねぇ。それじゃあ、ヴァイオンの第2の効果を発動〜。墓地のソリッドマンを除外して、デッキから融合を手札に〜。んで、発動〜。ヴァイオンとアシッドを墓地に送って、もう1回現れろ! アブソルートZERO!あたしはこれでターン終了〜」
アブソルートZERO。場を離れると俺のモンスターを一掃する奴。
「俺のターン、ドロー」
…だが、場を離れさせずに対処すればいい。
「金華猫を召喚。効果で、墓地からものマネ幻想師を特殊召喚。アブソルートと同じ、攻撃力2500になります」
「まさか、相討ち?」
「いいえ、こうします。魔法カード、
「…あ。察し」
「効果を発動。アブソルートを装備します。勿論、アブソルートは効果を使えません」
「待った」
「何でしょう」
まだ、何か対策が?
「サレンダー」
…ん?
「聞こえなかった? あたしの負け。アブソルートを取られる前に、潔く自決するわ〜」
「あ、はい……という事は、大会は俺の勝ち…」
「大会とか、どうでもいいよ〜。もう一回やろ〜。次は勝つもんね〜」
「…はぁ」
フフリ先輩が荒々しくデッキをシャッフルしだす。明らかにヤケクソになってる。俺は、どう対応すればいいやら。
「キミオ君」
ヒトミ先輩が、俺に微笑んでくる。
「この子に、もう少し付き合ってもらっていいですか? こうなると納得するまで収まらなくて」
「俺は構わないですが」
「ありがとうございます。大会の結果は、私から報告しておきますね。…そうそう」
ヒトミ先輩が俺の耳元で呟く。
「フフリが大会に出た理由、実は、シロキ君と一緒にアニメのアフレコがしたいってだけです。そこまで大会に執着してないので、心配しなくていいですよ」
「何話してんの〜。少年〜、早く〜」
なるほど。だから、こんなに切り替えが速いのか。
「ちょっと待ってて。全くもう、子どもなんだから」
「子どもじゃね〜ぞ! 見ろ、この服! 中学生だぞ!」
「そうじゃない! 落ち着きが足りないの!」
「え〜? こてんぱんに負けて、落ち着いてられるかっての〜!」
「そうだけど…ああ、もう」
「………ふっ」
俺は、そのやり取りに、ふと笑う。懐かしいな。昔、俺は負けたら駄々をこねて母ちゃんと父ちゃんに泣きながらリベンジしたっけな。父ちゃんは笑って付き合って、母ちゃんは俺のしつこさに呆れて……………懐かしいな…
「少年! 早くデュエルすんぞ〜」
「…はいはい」
懐かしんでる暇は、無さそうだ。
さてと。
このデュエルを、もっともっと楽しむとしよう。
今は、それだけでいい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次回予告
「1回戦を無事に勝ち上がったキミオ! さぁ、次の対戦相手は……ヒロタ! ヒロタは豪快に攻めていく。…けど、何ぜよ? キミオとタカラちゃんが付き合ってる? ちょ、何を言うんぜよ!? 付き合ってないし……キミオとは仲良くしたいけど好きとかそういうのじゃ…ないと思うし……あーもう! 終わり終わり!
次回! なぁ、タカラ! デュエル・スタンバイぜよーーー!」