フフリ先輩とのデュエルを終えて、翌朝。俺は、いつものように学校へ歩いていた。その後ろから、聞き慣れた声を耳にした。
「おはよ! キミオ!」
「おはよう」
タカラ。最近、4日連続で登校中に遭遇しているな。
俺の家は歩いて5分で学校に着くんだが。
「なぁ、タカラ」
「なぁに?」
「いや…、最近よく朝から会うよな」
「そう? 最近っていうか、入学した頃から、ちょこちょこ見るぜよ?」
「そんな前から? まさか、ストーカー…」
「そんなじゃないぜよ! キミオが、ずっと本読んで歩いてたからぜよ! 約束したじゃん、デュエルに勝ったら読書中は話しかけないって」
「…そうだったな。しかし、そう言われれば、最近俺は本を読まないで歩いてる」
「何でなの?」
「何だろうな。本を読む気分になれない、かと言って何か考えてる訳でもない」
「ん〜、分かった! 転ばないように注意してるんぜよ!」
「違うかな」
「じゃあ、うち分かんないや」
「諦め、早いな」
…っと、忘れる前に言おう。
「しかし、タカラ。何か用があったんじゃないのか? 一緒のペースで歩いてるし」
「用なんて、特に無いぜよ。何にも考えてないぜよ」
何だそりゃ。読書中に話しかけない約束があったから今まで言えなかった事を言う、のだと思っていたが。
「多分、犬の散歩みたいな感じぜよ」
「…犬?」
「お話しないけど、一緒に歩きたいな〜って!」
「その例えだと、どっちが犬だ?」
「キミオ!」
「即答かよ…」
「だって、犬みたいに笑顔が可愛いから!」
「…」
やめろ。そんな目で俺を見るな。可愛いなんて言われると頭がかゆくなる。
それに……笑顔が可愛いから犬、という方程式なら、タカラにも当てはまるが…、
まぁ、校舎に着いたし、この話は終わりだ。
遊戯王王王
第8話
なぁ、タカラ
教室に着くと、携帯端末が振動する。見ると、メールが来ていた。運営係のホノリから、大会についてのメール。
次の対戦相手は…
「キミオーーーーーーーー!」
ヒロタが入ってきてすぐに俺の元へ来た。
「デュエルじゃー! 今すぐ!」
…いきなり何だろう。いつもより怒り気味だ。
「怒らせる事をしたなら謝るぞ」
「違う! これは、儂が勝手に怒ってるだけじゃ! キミオは関係ない! いや、関係ある!」
「どっちだよ」
「まぁ、ええわ! とにかく、デュエルじゃ!」
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かくして。朝からいきなりデュエルが始まった。俺の机をはさんで、向かい合う。
「行くぞ! 先攻は儂じゃ! フィールド魔法、
この展開…あれが来るか。
「さぁ拝ませてやる!
「ハハハハ!」
タカラも便乗して高笑いする。
「お前ら、うるせぇよ、至近距離で」
「すまんすまん。儂はカードを2枚伏せる。ターンエンドじゃ。ハッハッハ」
「俺のターン、ドロー」
さっさと黙らせるか。しかし、どうする。あれは魔法と罠の効果を受けないし、バトル中はモンスター効果を封じる。攻撃力4500の大型モンスター。
…それだけのデカブツなら、対処出来る。
「魔法カード、予想GUYを発動し、デッキから、封印されし者の右腕を特殊召喚。そして、ものマネ幻想師を通常召喚。こいつの効果で、攻撃力を
「ぬぅ! そんな手段が!」
「さらに、魔法カード、ヒュグロの魔導書。ものマネ幻想師の攻撃力をこのターンだけ1000アップ」
「何ぃ!?」
「さぁ、バトルだ。ものマネ幻想師で
「くぅ! やられたわい!」
「戦闘破壊した瞬間、ヒュグロの効果で、俺はデッキからトーラの魔導書を手札に加える。…これでがら空きだ。右腕で直接攻撃」
「待てぇぇぇっ! 永続罠、
「攻撃中止。3枚伏せて、右腕を素材に
「ふぅぅぅ……」
…ん? ヒロタの奴が、拳を握って震えている。
「ぅおおおおおおおおおお! 儂のターン! ドロォーーーッ! よっっしゃ来たぁーーーーー!」
「来たぁーーーーー!」
耳がビリビリ痛い。気合い、入りすぎだろ。
「うるせぇ! タカラも!」
「これが叫ばずにいられるかぁ! 行くぞぉ! 墓地の
力強く机に叩きつけた、そのカードは---
「魔法カード、パワーボンド! トークン、
攻撃力9000のデカブツ…。
冷や汗を感じる。これは、まずいぞ。
「これで幕引きじゃ! 攻撃力9000の
「分かっている。罠カード、威嚇する彷徨を発動」
「なるほどのぅ! バトルフェイズそのものを行えないなら、仕方ない! じゃが、いつまで続くかのぅ! 儂は1枚伏せて、ターン終了じゃが、パワーボンドの効果で4500のダメージを受ける! さぁ、来い!」
…何とか耐えた。
しかし、攻撃力9000のデカブツを、どうやって突破しようか。
「行くぞ、俺のターン、ドロー!」
来たか。これに賭ける。
「魔法カード、カップ・オブ・エース。コイントスをして表なら俺が、裏ならお前が2枚ドローする。さぁ、コイントスだ」
俺は、デッキケースに忍ばせたコインを取り出す……それを、ヒロタが奪った。
「儂がやる!」
…あの時も、そうだったな。今はもうインチキ野郎とか言ってないが。
「行くぞ! おりゃあー!」
ヒロタの親指に弾かれたコインが宙を舞い、手の甲に乗る。その結果は…
「表じゃー!」
「表ぜよー!」
「よって、俺は2枚ドローする。そして、もう1枚のカップ・オブ・エースを発動」
「またかっ!? いいじゃろう! 儂がやる! おりゃあー!」
結果は…
「表じゃーー!」
「表ぜよーー!」
「2枚ドロー。そして、3枚目のカップ・オブ・エースを発動」
「…待て。今度は、表が出たら儂がドローするのは、どうじゃ」
「いいだろう」
「よし! 行くぞ! おりゃあー!」
結果は…
「裏じゃーーー!」
「裏ぜよーーー!」
「約束通り、俺が2枚ドローする」
…ようやく、逆転の準備が整ったな。
「やっぱりか! 本当に運が良いのぅ!」
「良すぎるのも気分が悪いがな」
「ハハハ! そうやって自虐できるようになるとは、丸くなったのぅ。少し前と大違いじゃな!」
確かに。俺は当初、この理不尽な運の良さで、周りから嫌われるよう立ち振る舞ってきた。
「ああ。そういえば、ここ最近は初手エクゾが来ない。俺の気分に一致しているし、これも不思議だな」
「そうじゃな! しかし、何のインチキも無いし、あれはあれで、誇っていい勝利じゃぞ!」
「ふっ、お前がそう言ってくれるとはな。素直に感謝する。まぁ、今は特殊勝利が出来ないルールだが、な」
「……何じゃ? そのルール」
「大会のルールだろ」
「ああ、大会のぅ。知っとるぞ。 それが、このデュエルと何が関係しとるんじゃ? 別に、初手エクゾでも勝ちを譲るつもりじゃったぞ?」
「…は?」
一瞬、静かになった。
「一応聞くが、その大会、俺とお前が今やってるぞ?」
「なっ!? んっじゃとーーー!!」
ヒロタは急いで携帯端末を見る。
「メール来とったぁー! 知らんかったぁーーー!」
知らなかったらしい。
ならば、腑に落ちない事がある。
「デュエルを挑んできたのは、何故だ」
「んなもん、アレじゃ! お前とタカラちゃんが付き合ってるからじゃ! 毎朝毎朝、熱々でよ! 見せつけよって! さしずめ、婚約者じゃろう!」
…。
またしても、沈黙した。いや、沈黙したのは俺の頭だ。
こいつは、何を言っているんだ? 俺の記憶では、タカラとそんな関係を約束した事は一切ない。
ならば、ヒロタの勝手な妄想なのだろうが、何故そこに至ったのか理解に苦しむ。
「つ、つつつ」
と。俺が理解に時間をかけていると、タカラが口を開いた。
「つつ、付き合ってないぜよ! てか、婚約なんて誰が言ったんぜよ! うちら、まだそんな年じゃないぜよ!」
「否! 聞こえたぞ! 笑顔が可愛いってのぉ! 二人で幸せそうに笑い合ってよぉ! そりゃもう婚約するのも時間の問題じゃ! 羨ましいんじゃ! 儂には、そんな相手が居ないんじゃ。…儂だって…熱々に…幸せになりてぇーーーー! うおおおおおおおおおお!」
大泣きしやがった。超喧しい。
理解が追いつかない。どうやって、この場を収めればいいんだ。
「ヒロタ!!!」
「おおっ!?」
タカラの一喝が、ヒロタを黙らせた。
「デュエル楽しくないの?」
「楽しい…じゃと?」
「幸せって何かを、うち考えた。うちは楽しい事してると幸せな気持ちになる! うちは皆とのデュエルが好き! 皆と一緒に楽しむ時間は、本当にキラキラ輝いてて、ついつい笑っちゃうんぜよ! ヒロタは、どう? 楽しい?」
「わ、儂は………楽しいぞ!」
「良かった! えへへ」
タカラは、今朝俺に見せたような笑顔をヒロタに見せる。
「タカラちゃん…、うぅ、すまん!」
ヒロタが涙と鼻水を袖で拭う。泣き止んだらしい。
それから、タカラに触発されたのか、クラスの皆が、俺も楽しい、私も楽しい、と笑ってヒロタに言っていく。
ヒロタは、泣き止んだばかりなのに、また目が潤む。
「うおおぉ! ありがとう皆ぁぁぁ! 儂は幸せ者じゃぁぁ!」
「ったく、今度は嬉し泣きか」
「すまぬぅぅキミオ! 止まらんのじゃぁぁぁ!」
止まらない…か。
「謝らないでいい。泣きたきゃ思いっきり泣け」
「ぐぅ…ぐず…ありがどうぅぅぅ! 優しいのぅぅぅ!」
わんわんと泣き叫ぶ。耳がキンキンするが、まぁ、仕方ない。
泣きたい時に泣いた方が、スッキリするからな。
なぁ、タカラ。
見ると、タカラも、俺に歯を見せて笑ってみせた。
「ふんぬぅ!」
突然、ヒロタが気合いを込めた。
「すまんなキミオ! 今は泣いとる場合じゃねぇ! デュエルを続けるぞぉ!」
「いいだろう」
俺たちは、手札を構える。デュエル再開だ。
「俺は、バトルに移る。ものマネ幻想師で、
「何っ!? 自滅する気か!」
「いいや、打つ手はある! 魔法カード発動!
「九十九スラッシュ!?」
「俺とヒロタのライフの差、4500を、ものマネ幻想師の攻撃力に加える! 行け、ものマネ幻想師! ミラクル・ミラージュ!」
「あ、相打ちじゃとぉぉぉ!? 9000まで登り詰めて!?」
これで、ヒロタのモンスターは居ない。
「とどめだ! リンクリボーで---」
「させぬ!! 罠カード発動!
まさか、この土壇場で…
---ならば、俺だって!
「行くぞ! リンクリボーで、
「んなっ!?」
「攻撃力が低いモンスターのコントローラーは、500ライフを払って500アップできる。それをお互いがライフを払わなくなるまで繰り返す。俺は、500払う事を9回繰り返し、リンクリボーの攻撃力を4800にする!」
「ならば儂もライフを……んなっ! そういう事か!」
「そうだ!
「ぬおおおおお! し、しかし! もうバトル出来るモンスターは居ない! 次のターンで--」
「まだだ! 速攻魔法、ライバル・アライバル! バトルフェイズ中に手札のモンスターを召喚する! 現れろ、封印されしエクゾディア!」
「何ぃーーー!?」
「とどめだ! エクゾディアで直接攻撃! 顔面アタック!」
「ぬわーーーー!」
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俺の勝ちで、デュエルは幕を閉じた。
「おのれぇぇぇ!」
しかし、ヒロタはすぐに立ち直る。血気迫る表情で、俺を睨み、
「ん!」
右手を、差し出してきた。
「次の大会、頑張れよ!」
「いいのか? 今のを大会のデュエルにして」
「おう! 男なら、うだうだ言わん!」
「…ふっ。相変わらずだな」
互いに握手した。
「よぅし、キミオ! もう一回デュエルじゃ!」
「ああ!」
その時。
---キンコンカンコン
朝礼を知らせるチャイムが、鳴り響く。
「もうこんな時間か! キミオ! デュエルは、また後でな!」
ヒロタは急いで席に向かう。クラスメイトも、散り散りに席に着く。
やれやれ。すっかり時間を忘れてデュエルしていたか。
「っと」
鞄を落とし、生徒手帳がこぼれる。そして、校則が記載されたページを少し覗かせた。
【生徒は遊戯王のデッキを一つ持って通学する】
思い返す。
入学初日は、アホくせぇとしか思ってなかったが……今にして思えば、案外悪くない。こんなにも、友達に囲まれた楽しい日々になったのだから。
「キミオ」
肩をつつかれる。
タカラだ。
目が合う。晴れやかな笑顔で、俺を見てきた。
「今日のキミオ、ノリノリだったね! 攻撃名を言うなんてさ!」
「っ! そ、そこに注目するな!」
「ニシシ〜。照れてる所も可愛いなぁ、もう」
「ああクソ! こうなりゃ、タカラ、後でデュエルだ! 存分に攻撃名を言ってやるよ!」
「うん! 楽しみにしとくぜよ!」
そう言って、俺たちは、笑って離れていった。
振り向くと…
「ちょい! 今の! 完全に婚約者じゃろ! なぁ!」
泣きそうな顔で、ヒロタが迫ってきた。
…やれやれ。
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次回予告
「さぁさぁ! 順調に勝ち上がるキミオの、次の相手は……、何と、シロキ!? あっ、言っちゃったぜよ! ネタバレぜよー! まぁでも、次は最終回だし、いっか! という訳で最終回! 果たして、ドロドロした友情は、どうなる!? キミオは、シロキとの失われた関係性を取り戻す事が出来るのか!
次回。シロキ、ありがとう! デュエル・スタンバイぜよ!」