Fate/stay night ~ほんとはただ寝たいだけ~ 作:真暇 日間
少女Aの学校が、なにやら気色悪い空気を醸し出していた。
なんと言うか、中にいる人間を魂も肉体も溶かして吸収し、力を増すための結界が張られているような感覚だ(【直感EX-】発動中)。
とりあえず勘に従って、何かありそうな所に千の顔を持つ英雄で作った『魔術を破壊できそうな剣(実際できるかどうかは不明)』を一瞬突き立ててすぐさま消すということを繰り返したら、だいぶ空気がよくなった。
空気がよくなったところでさっさと寝よう。この少女Aに寝ていいって言われてるし。
……そう言えば、俺はこの少女Aの名前を聞いてない。呼ぶ時はご主人様で通してるから問題ないけど。
でも、この少女Aには結構な問題があるんじゃないかなーとか思ってみたり。主に社会的に。
まあいいか。俺には不都合は無いし。空気もよくなったから寝るのには困らないし。前にも言った気がするけど。
そんなわけで、おやすみ。
side 遠坂 凛
ふっ、と、ドリーマーに送られていく魔力が止まった。どうやら睡眠に入ったらしい。
ドリーマーの能力は、実質的に単独行動のスキルを持っていることに等しい。その上、周囲の存在を寝かしつけようとする能力のせいか、今の私も眠気を堪えるのが難しい。
なにしろ周囲のクラスメイト達は大抵寝てしまっているし、先生もかなり眠そうで発音がかなり聞き取りづらい。そしてその聞き取りづらい発音も、起きている私達を寝かし付けようと波になって押し寄せてくる。
けれど私は遠坂凛。どんな時でも余裕を持って優雅たれ。その遠坂の家訓はしっかりと守っていかないと………。
……そう言えば、ドリーマーの真名を聞いてないわね。昼になったら聞きましょう。
そう考えながら、私はいつもより数段重い瞼を無理矢理開いて、いつもよりずっと眠気を誘う授業を聞いていた。
……それにしても、眠い………。
学校にいるほとんどの存在が眠っているせいで、昼休みにも廊下に出ている生徒や教師が少ない。
そのお陰で廊下にある結界の魔法陣(何故か壊れかけ)を発見して、マーキングする事を人目を憚ることなくできる。
「……よし、これで五つ目……と」
昼休みの間に壊した数は五つ。このあたりで食事にしとかないと、午後が辛くなるのは目に見えている。
そこで私は屋上に向かい、その途中でまたいくつも隠蔽を破られた壊れかけの魔法陣を見付けた。
……マーキングはしといたから、壊すのは放課後に誰もいなくなってからにしましょう。マーキングだけならともかく、万が一壊してるところを見付かると不味いしね。
そして屋上に繋がるドアを開けると、目の前にそれまでの魔法陣とは一線を画すほどに禍々しい壊れかけた魔法陣があった。
………まったくもう。ここも後で来なくちゃいけないのね。
私はそう思いながら屋上にある給水塔に登り、その上でお弁当を開く。
お金がもったいないから自作のそれは、一応他人に見られる事があっても恥ずかしくない程度に豪華(に見える)。それでいて(一応)栄養にも気を使っている。
……毎日作るのは少し手間だけど、これも節約して宝石を買うためには仕方無い。
ぱくぱくとお弁当を食べ、それから少し空を見上げる。
……よし。それじゃあ午後の授業も………。
ふっ、と意識が落ちかける。お腹が膨らんだせいか、我慢していた眠気が一気に襲いかかってきているらしい。
我慢しようとしてもついに抗いきれず、私は屋上の給水塔の上でだらしなく倒れて眠りに落ちていった。
目が覚めると、空はもう真っ暗になっていた。それに、あれだけ寝たのにまだ眠い。これがドリーマーのクラススキルの一つ、催眠誘導の効力らしい。
その効果範囲は少なくともこの学校全体を被い尽くす程度はあるようで、しかも一般人でも魔術師でも効力は全く変わらないとは……驚きだ。
……っと、そうだ。魔法陣!
起き上がって屋上の魔法陣を見てみると、それはいまだに壊れかけのまま鎮座していた。
「ドリーマー」
『……この念話は現在使われておりま…………発信音の後に自分の黒歴史を振り返り、その思いを胸にフェンスの裂け目を目指してください………ぴー……』
なんで留守番電話みたいな受け答えが来るのかは知らないけど、とりあえずそんなことをしている暇は無いのでさっさと起こす。令呪ではなく、魔力を一気に送り込んで起こしてやった。
これやられると結構クるのよね。何か全身の神経を内側から優しく擽られているような感覚が……ね?
「……何すんだよ。びっくりしすぎてご主人様の家に起きっぱなしだったベッドを爆破しちゃったじゃないか」
「はぁ!?」
「嘘だよ?」
へにゃっと笑うその額をひっぱたいて、それからドリーマーを魔法陣の近くにつれてくる。
「どう思う?」
「気持ち悪いからさっさと消してほしいと思う」
「そういうことじゃなくて!これはサーヴァントの仕業だと思うかってこと!」
「ああ、そういうこと。そうだと思うよ。よくわからないけど」
……まあ、こいつの直感はEX-だし、信用してもいいだろう。
とりあえず私はこの魔法陣を消そうと宝石を取り出して、
「おいおい、消しちまうのかよ? もったいねえ」
その声に振り向く。
するとそこには、赤い槍を持った男が立っていた。