11月7日(月・大安)。
11時35分。
鎌倉海浜公園に巨大不明生物(政府による呼称:ゴジラ)、再上陸。
東京を目指し、平均時速4.8kmで北北東に進行。
同、16時30分。
東部方面総監を指揮官とした
同、16時45分。
“タバ作戦”、失敗。
ゴジラは一時的に北北西に転進するも、その後進路を修正。
都心部へ向けて、なおも進行中……
*
一方、そのころ。
都内某所に女子中学生2人の姿が見られた。
ポプ子――短い身体に
ピピ美――長い身体に凍てつく凶刃のごとき切れ味を秘めた、どこにでもいる中学2年生。
ポプ子がピピ美に、ピョンと跳ねながら提案する。
「おままごとしましょ♡」
「そーしましょ♡」
「シンゴジ襲来タイムテーブルに合わせてなりきり実況ツイート♡」
「COOL COOL COOL」
「“一般人がこの時点でそんな情報知ってるわけねーだろ”ってクソリプ♡」
「
その時、突如として地を揺るがす振動と重低音。
それを聞いたポプ子の眼球周辺に、ビキィ! と血管が浮き出た。
「あ゛ァ゛ン!?」
窓を叩き開けると、その向こうには、暗くなりはじめた空をバックに、一歩一歩こちらに迫ってくる巨大不明生物――
ゴジラの姿。
我が物顔で街を踏みつぶすゴジラを見て、ポプ子の怒りが爆発した。
「ッダロガケカスゥ――!
ッスケガダラァーア!!」
「すごい闘志」
ポプ子は、こんなこともあろうかと常備している釘バットを2本取り出した。
片方をピピ美に投げ渡す。これでおそろいだ。
「行くぞッ! 夢がアタスを呼んでいるッ!」
「魂のシャウトさレツゴーパッション!!」
バシュウ!
窓から舞空術で飛び出したポプ子とピピ美は、一直線にゴジラに向かっていく。
*
2人が飛び去ったあとには、女の人と、ツイッターで物申すマンが取り残されていた。
ツイッターで物申すマンが、ツイッターで物申しはじめる。
『ツイッターで物申すマン@twitter_de_mono
今、ゴジラに命がけで戦いを挑む人たちを見かけました。こんなときに実況ツイートで盛り上がるのはどうかと思います。不謹慎では?』
女の人は、スマホをいじるツイッターで物申すマンを不審げに見る。
「ね……ねえ、ツイッターで物申してないでさ。
あなた行かないの?」
ツイッターで物申すマンは腕組みして彼方の空を見やった。
「飛べねえんだよ。オレは……」
「ど……どうも……」
*
ゴジラ、依然進路を変えず東京駅方面に向けて進行中。
その背後には、ゴジラに踏み潰された街の瓦礫が赤い線のようにどこまでも伸びている。
ポプ子とピピ美はゴジラ上空にたどり着いた。
2人空中に並んで、ゴジラの威容を見下ろす。
「やるぞ! ピピ美ちゃん!」
「おうさ! ポプ子ちゃん!」
呼吸を合わせ、2人は上空に螺旋を描きながら飛翔した。
手にしたおそろいの釘バットから光線が放たれる。
「チャクラエクステンション!」
「しゅーとおー」
爆発!
さらに息もつかせず畳みかける。
「天空に散らばるあまたの精霊たちよ……我が声に耳を傾けたまえ……
ラナリオーン!」
「
「プリキュアの! 美しき魂が!」
「邪悪な心を、打ち砕く!」
「「プリキュアマーブルスクリュー!!」」
「もうひといきじゃ。パワーをメテオに」
「いいですとも!」
ギョーン!
ギョーン!
ギョーン!
ギョーン!
空から大量の隕石が降り注ぎ、ゴジラを直撃した。
凄まじい威力の黒魔法である。さしものゴジラも、爆炎に飲まれて完全に沈黙した。
ピピ美が掲げた手のひらに、ポプ子がジャンプしてハイタッチする。
「「ヒャッホー!」」
だが、そのときだった。
ピピ美が何かを察知して、煙に包まれたゴジラを睨む。
「危ないッ!」
「えっ」
突如、煙の中から閃光がほとばしり、東京都心もろともにポプ子とピピ美を焼き払った!
燃え上がる街を見下ろしながら、煙切り裂き、黒い巨大な影が悠然と歩み出てくる。
――ゴジラ。
ダメージを受けた様子は、ない。
*
ゴジラの口から放たれた熱線による爆発で、ポプ子とピピ美はビルの壁に叩きつけられた。
苦痛をこらえながら、迫り来るゴジラを悔しげに睨む。
「バ……バカな! 効いてない!?」
しかし、いち早く立ち直ったピピ美が、ふたたび舞空術で浮かび上がる。
「フッ……もう手段を選んでられねぇな」
その凛とした姿に勇気づけられ、ポプ子もまた立ち上がる。
「そうか……“アレ”だね!」
「そうさ……“アレ”だ!」
「時間をかせいで!」
「まかせろ相棒!」
2人は素早く飛び上がり、別々の方向に別れた。
ピピ美はゴジラの頭上に肉迫すると、両手の指で三角形を作り、その中にゴジラの頭をロックオンする。
「新気功砲! はっ!!!!」
ピピ美の手から放たれたエネルギーが、ゴジラに叩きつけられた。
ピピ美の命を削って放つ必殺技である。
ゴジラもこれには一瞬怯んだ。
「はっ!! はっ!!!」
ピピ美は、さらに連続して技を放ち、ゴジラをその場に釘付けにする。
一方、ポプ子は手近なビルの上に降り立っていた。
両手を高々と振り上げ、呪文を唱え始める。
――
偉大な汝の名において
我ここに 闇に誓わん
我等が前に立ち塞がりし
対戦相手にダメージを与えたたびごとに
その対戦相手は手札をすべて捨てる
その対戦相手に手札が残っていない場合
この効果は無視する
「
ゴジラ自身が大爆発を起こした。
これこそが
これをしかけられて防ぐことのできた生物は、かつて史上に存在しない。
ゴジラ周辺はもうもうと立ち込める黒煙に包まれ、生命の気配さえ感じさせない。
「やったー!」
ポプ子が飛び上がり、ゴキゲンに指を鳴らして勝利を喜ぶ。
しかしピピ美は、なにか不吉な予感を覚えて、じっと黒煙を見つめていた。
そして、突然吠えるように警告を叫んだ。
「いいや! まだだ!」
次の瞬間。
黒煙の内側から、無数の青い熱線が、無差別に周囲にまき散らされた!
とたんに爆発が起こり、ポプ子とピピ美を巻き込んで、都心部を跡形もなく破壊していく!
ゴジラ。
その背びれが青く発光し、大量の熱線を放っているのだ。
その姿は弾幕をはる巨大要塞。いや、それ以上。
ポプ子の
しかしそれが、かえってゴジラの狂乱を招いたようだった。
莫大なエネルギーを容赦なくあたりに叩きつけるさまは、破壊の神そのものだ。
ポプ子とピピ美はなすすべもなく吹き飛ばされ、ガレキの山と化した街の中に倒れていた。
ポプ子がうめきながら、頭だけを持ち上げる。
その視界に映るのは、暴れ狂うゴジラの、巨体。
「まさか……アレが通じないなんて……!」
「クッ……!」
ピピ美が意識を取り戻し、なんとか膝立ちになる。
ゴジラは熱線で街を焼き続けている。このままでは東京全体が……いや、この地球そのものが破壊されてしまうだろう。
ゴジラは、強い。
あまりにも強すぎる。
倒す方法は――ない。
にもかかわらず、ピピ美の口に笑みが浮かんだ。
「フッ……」
震える膝を手で支えながら立ち上がり、倒れたポプ子の前に、彼女をかばうように立ちはだかる。
「ピ……ピピ美ちゃん……!」
「やっぱどう考えてもこれしか……
地球が……ポプ子ちゃんが助かる道は思い浮かばなかった……」
ピピ美が肩越しに振り返る。
その目には、穏やかな、しかし固い決意の色が浮かんでいた。
「バイバイ、ポプ子……」
「ピ……ピピ美ちゃん!?」
ピシュン!!
ピピ美の姿がかき消えた。
瞬間移動だ。
――まさか!
ピピ美の意図を察して、ポプ子の顔面が蒼白になった。
*
ピシュン!
ピピ美が、暴れ狂うゴジラの鼻先に瞬間移動で現れる。
そしてゴジラに手を触れ、反対の手で額に触れ、念じる。
ピシュン!
ピピ美の姿が再び消えた。
ゴジラの巨体とともに。
*
――月面、飯田橋2丁目。
ここに一軒の月面コロニービルがあった。
とある出版社の本社ビルである。
社長は、社長イスにどっしりと腰を落ち着け、のんびり安心しきっていた。
「さすがに月に移転すればヤツらも手が出せないだろう」
そのとき。
ピシュン!
ピピ美とゴジラが本社コロニービルの目の前に出現した。
ピピ美が鼻先を指でかく。
「わりい竹書房さま。
ここしかなかったんだ」
そして――
*
月が、爆発四散した!
はじめ、ポプ子は真っ白になって、頭上の閃光を見つめていた。
やがて――やがて心が事態を受け止めはじめ、次に、涙がこぼれはじめた。
「ピピ美ちゃん……?」
虚空に向かって呼びかける。
こたえは、ない。
「ピピ美ちゃ――ん!!」
ポプ子の悲痛な叫びが響く。
だが、戦いはまだ終わっていなかった。
涙に濡れた視界の中心に、ポプ子は恐るべき姿を見た。
さっきまで月があった場所……そこに、太陽光を浴びて白く輝く影がある。
――まさか……まさか、あれは!?
「ゴジラ!! 生きていたのか!!」
(つづく)
■次回予告■
私、星降そそぐ!
次世代アイドルとして再結集した私たち“ドロップスターズ”!
みんなと一緒なら怖いものなしだよー!
でも敵対プロダクションの傭兵アイドルに襲われて、いきなり大ピンチ!
そのとき絶体絶命の私をかばってくれたのは……
えっ!? まさか、キミは!?
次回、
来週も、恋にオーバードロップ!